ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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お辞儀をするのだ


必要の部屋

 次の日からオスカーはエストと行動することを辞めた。

 朝食の時間もエストと違う時間にすることにしたし、いろんな授業でエストの隣に座ることもしなくなった。

 あえて違うドアや階段、廊下を使って移動をした。

 それでも、秘密の通路や動く階段の動きを熟知しているエストの追跡を振り切るのは容易ではなかった。

 前回の騒動がばれるのを恐れているのかグリフィンドールの生徒達が襲ってこなくなったのはオスカーにとっては不幸中の幸いだった。

 

 しかし、そう長くエストから逃げることは難しかった。何せエストとオスカーは同じ寮で寝泊まりしているし、一年生の授業は皆同じ授業だからだ。

 

「オスカー! なんで逃げるの!?」

 

 ついにオスカーはエストにつかまってしまった。

 恐らくゴーストか肖像画がオスカーの場所を教えたのだろう。

 

「プルウェット、俺と一緒に行動するのは辞めろ。どうあっても俺は人殺しの息子なのは間違いない」

「なんで? そんなことホグワーツ特急であった時から分かってたことでしょ?」

 

 エストは泣いていた。

 オスカーは自分のことがさらに情けなくなった。父親は彼女の身内を皆殺しにし、その息子は泣かしているのだ。

 

「もともとドロホフの家の奴がプルウェットの娘と一緒にいるのがおかしかったんだ」

 

 そう言ってオスカーはエストの手を払った。

 

「エストはそんなに弱くないよ、オスカーと一緒にいて襲われても前みたいにけがなんかしないよ?」

 

 エストが何か言っていてもオスカーは聞くのを辞めた。

 オスカーには自分自身がエストを傷つけている原因のように思えてたまらなく憎くなった。

 

「オスカー!!」

 

 エストの声が聞えなくなるまでオスカーは歩き続けた。

 

 

 

 

 それからエストはオスカーに関わってこなくなった。

 その代わり毎日図書館から大量の本を借りてきて夜遅くまで読んでいるようだった。

 一週間、二週間と過ぎていくうちにエストの眼の隈はひどくなっているようだったがオスカーにはなにもできなかった。

 

 しかし、オスカーはエストばかりに気を使ってはいられなくなった。

 少しの間止んでいたグリフィンドールの生徒の襲撃が再開されるようになったからだ。

 グリフィンドールの生徒の数は増えていて、オスカーは段々逃げきるのが難しくなってきた。

 

「ステューピファイ!! 麻痺せよ!!」

 

 しかも、前よりも唱えてくる呪いが過激になってきた。今もグリフィンドール生八人ほどに追われて空き教室に逃げ込んだのだった。

 

「おや、ドロホフ。なにやらピンチみたいですね?」

「ムーディか」

 

 空き教室には待ってましたみたいな顔をしたクラーナが座っていた。

 

「今なら由緒正しき闇祓いの家の娘。クラーナ・ムーディが助勢してあげましょう」

「結構だ」

 

 そう言ってオスカーは教室から出ようとしたがクラーナに止められた。

 

「呪文を相手に撃てないあなたがどうやって八人から逃げ切るんですか? 闇の魔法使いの考えはわかりませんね」

「放っておけ」

 

 オスカーはクラーナが何を考えているのかわからなかったがろくなことにならない気がしたのだ。

 

「別にタダでしてあげようってわけじゃないですよ? 助ける代わりにあなたにはしてもらうことがありますから」

 

 クラーナはそれだけ言うと教室の外へ出ていった。

 

「ルーモス・マキシマ!! コンフリンゴ!! 爆破せよ!!」

 

 目くらましに呪文を使った後、クラーナはなんの容赦もなく校舎を破壊した。

 轟音とともに廊下が天井から破壊され、空が見えている。

 

「ほら、何してるんですか? 逃げますよ、フィルチが二、三秒でやってくるでしょう」

「やっぱりお前マッド(頭おかしい)だろ?」

 

 オスカーはこの女は敵に回したくないと思った。

 

「はあ? せっかく助けてあげたのになんていいようなんですか? これだから死喰い人の息子は」

 

 とりあえずクラーナについて逃げる。管理人のフィルチに捕まればグリフィンドール生に捕まるよるも厄介なことになるかもしれないからだ。

 いくつか階段の上り、廊下や通路を通りすぎた。

 

「うーんと、この辺のはずなんですけど」

「おい、どこに連れていこうって言うんだ? この辺には何にもないはずだろ?」

 

 そうここには大きな壁があるだけのはずで、それ以外になにもない場所のはずだった。

 エストと一緒に大まかではあるが城の構造はだいたい理解していたが何もない場所のはずだった。

 

「ええ、私もプルウェットに聞くまでは半信半疑でしたけどね」

 

 そうクラーナが言うと目の前の壁に巨大な扉が現れた。

 

「あったり、なかったり部屋、必要の部屋、色んな呼ばれ方をしていますが、少なくとも必要な時に現れる部屋って意味では共通しているそうですよ?」

 

 クラーナはオスカーを見てニヤリと笑った。

 

「少なくともホグワーツは貴方にこの部屋が必要だと思っているみたいですね」

 

 巨大な扉を開くと中はまるで闘技場? のような構成になっていた。

 少なくともオスカーはこんな場所を見たことはなかった。

 

「おや、これは立派な決闘場ですね、保護呪文までかけられているじゃないですか」

 

 何やら青い泡のようなものが闘技場のステージ部分にかかっている。

 

「プルウェット、貴方がご所望のドロホフを連れてきましたよ」

「クラーナ、ありがとうね」

 

 そしてそのステージの上にエストが立っていた。

 オスカーは困惑しながらもステージの上に足を運んだ。

 

 エストは杖をこちらに向けて一礼した。

 

「私、エストレヤ・プルウェットはオスカー・ドロホフに決闘を挑みます」

「私、クラーナ・ムーディが立会人を務めましょう」

 

 そう言ってエストはこちらを真っ直ぐに見つめた。

 

「それで? まさか正式な決闘を断るなんてことしませんよね? 臆病者のドロホフ君?」

 

 クラーナがオスカーを見てあざ笑う。

 オスカーはここで全部終わらせるべきだと思った。

 オスカーがエストに決闘で勝てば、エストもオスカーと一緒にいることを諦めるだろうと思ったのだ。

 

「分かった。俺、オスカー・ドロホフはエストレヤ・プルウェットからの決闘を受ける」

 

 オスカーはエストを真っすぐに見てお辞儀をした。

 

 

 クラーナがステージから下がって、決闘が始まった。

 エストの顔には深い隈が刻まれていて、この為に色んな準備をしていたのだろうことがわかった。

 しかし、オスカーはエストを気遣う余裕などない気がしていた。エストは恐らく同学年で最も魔法に優れた魔女だということは一年生ならば誰でも周知の事実だったからだ。

 

「グラディウスソーティア 剣よ出でよ」

 

 エストが唱えると五本の剣が空中に浮かぶ。

 

「エンゴージオ 肥大せよ」

 

 五本の剣がそれぞれエストの体と同じくらいの大きさになった。

 

「オパグノ!! 襲え!!」

 

 文字通り、巨大な剣がオスカー目掛けて飛んでくる。

 

「プルウェットは貴方を本気で殺す気で決闘を挑んでいますよ、ドロホフ」

 

 そんなことはクラーナに言われなくても体と目でオスカーは理解した。

 

「レデュシオ!! 縮め!!」

「ディセンド!! 降下せよ!!」

 

 剣を縮めて地に落とそうとしたが三本ほどしか通用しない。

 残りの二本がオスカーを串刺しにしようと迫ってくる。

 

「プロテゴ!! 護れ!!」

 

 剣を盾の呪文で吹き飛ばす。しかし、オスカーは決闘が始まってから全く攻勢にでることができない。

 

「グラディウスソーティア!! 剣よ出でよ!! ルーペスソーティア!! 岩よ出でよ!!」

「エンゴージオ!! 肥大せよ!!」

 

 エストは今度は浮遊する剣と岩を出現させ巨大化させた。

 

「ルーモス マキシマ!!」

 

 時間を作るため、オスカーは目くらましを行う。

「っ!!」

 

「ボンバーダ マキシマ!!」

 

 その間に今エストが出現させたものを爆破呪文で吹き飛ばし、距離を詰める。

 遠距離でエストに勝てるわけがないとオスカーは感じたのだ。

 

「ノラードイグリタス!! 割れよ!!」

 

 しかし、近づく前に地面がエストの呪文でぱっくりと割れてしまった。

 はっきり言ってエストは戦慄するほどの呪文使いだった。恐らく五年生くらいまでの上級生ではエストには勝ち目がないのではないだろうか?

 ステージの外で見届けているクラーナも唖然としている。

 

「ドロホフ、降参したほうがいいんじゃないですか? いくらなんでもここまでプルウェットが強いと思ってませんでした。このままだとほんとにひき肉にされますよ!?」

「クラーナは黙ってて!! 私はオスカーと決闘しているの!!」

 

「グラディウスソーティア!! 剣よ出でよ!! スクートゥムソーティア!! 盾よ出でよ!!

「エンゴージオ!! 肥大せよ!!」

「オパグノ 襲え!! ロコモーター‼‼ 周回せよ!!」

 

 今度は剣と盾が現れ、剣はオスカーを細切れにしようと、盾はエストを守るように周回している。

 さらにエストまでの地面はぱっくりと開いており、歩いてはとても越えれそうにない。

 

 だが、オスカーはやはり突っ込んでいくことにした。

 

「プロテゴ マキシマ!!」

 

 剣の攻撃を強引に盾の呪文で突破する。

 

「コンフリンゴ!! 爆破せよ!!」

 

 しかし、エストが剣が盾の呪文に接触する瞬間に爆破呪文で剣ごと爆破しようとしてくる。

 前転で爆破を避け、強引にエストが作り出した割れ目まで到達する。

 

「レビコーパス!! 身体浮上!!」

 

 体を呪文で浮かせ、慣性で割れ目を突破する。

 

「ディセンド!! 降下せよ!!」

「ルーマス・ソレム!! 太陽の光よ!!」

 

 降下呪文で強引に盾を打ち崩し、エストが現れた瞬間に光で目つぶしをする。

 

「ペトリフィカストタルス!! 石になれ!!」

 

 しかし、光を打ち込んだのと同じ瞬間にエストが全身金縛り呪文をオスカーにぶち当てた。

 

「なんで最後攻撃するような呪いを打たなかったの?」

「ねえ? オスカー? なんで?」

 

 エストがこちらに歩いてくる。その顔はオスカーがこれまで見たことがないほど激高している。

 

「エストレヤ・プルウェット!! 決闘は終わりました! 杖を下げなさい!」

 

クラーナがエストを止めようとステージの上に上がろうとしている。

 

「クラーナ!! うるさい!! エクスパルソ!! 爆破せよ!!」

 

 エストは金縛りで動けないオスカーの傍の床を吹き飛ばした。

 

「保護呪文がかかっているって言っても、金縛りしたあと爆破したら死んじゃうんだよ?」

 

 エストは動けないオスカーの胸に杖を当てる。

 

「どれくらいエストが強いかわかった? オスカー? 今すぐにでもエストはオスカーをバラバラにできるんだよ?」

 

 杖をオスカーの胸に当て、オスカーの眼を真っすぐに見て、エストは泣いていた。

 

「なんで最後に攻撃呪文を撃たなかったの!? なんで一緒にいちゃダメって言ったのにエストを攻撃するのを戸惑うの? 最後に攻撃してれば勝てたかもしれないんだよ? ねえ? なんで? どうして?」

 

 オスカーは自分の行動が結局のところ、エストを傷つけるだけだったことを恥じた。彼女と関わって以来、オスカーは自分の行動を恥じてばかりだった。

 

「なんでそんなに優しいのに近づくななんて言うの?」

 

 クラーナがステージの二人にたどり着いた時、エストは杖を下げ、オスカーの胸に顔をうずめて泣いていた。

 

「ごめん。プルウェット」

「決闘に勝ったんだから、これからはエストだから」

 

 オスカーはエストをプルウェットと呼ぶのを止めた。

 

 

 

 

 


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