ドロホフ邸では連日ホグワーツの一年生用の教科書を持って、ビルやエストを追い回すパーシーと言うのが風物詩になっていた。
「パース、多分そんなに予習しなくても大丈夫なの」
「でもエストは入学前に呪文学の呪文を全部マスターしたんでしょ?」
「そうだけど、他のみんなはそんな事無かったし、別にホグワーツに入ってからでも十分勉強には追いつけるはずだよ?」
オスカーとチャーリーがちょうど二人が話してる場所に着いた時も、いつもの様に二人が練習している所の様だった。教科書や羽ペン、羊皮紙が散らかっている机の横でかごに入れられた、スキャバーズという指の一本欠けたネズミがチーズをかじっていた。
「ねえ? オスカーもチャーリーも夏休みにこんなに教科書を開いたりしてなかったよね?」
「まあパースはちょっとやりすぎだよね、この調子だと一年生の授業でやることが無くなっちゃうんじゃ無いかな」
「俺は誰もいなくて暇だったから割と呪文は練習してたかな、そんなにはやって無かったけど」
ホグワーツに入る前のオスカーは家にキングズリーが来るとき以外はペンスしか喋り相手がいなかったため、ホグワーツの教科書や家にあった本を使って呪文を勉強していたのは確かだった。
と言っても、パーシーの様に呪文どころか全部の授業を聞いて羊皮紙に書き留めたりはしていなかった。それに練習していたオスカーよりも、エストやクラーナの方がよほど呪文を知っていたと一年生の頃を思いだした。
「ほらパース、教科書をしまって遊んだ方がいいの、このままだとホグワーツに入っても教科書と羽ペンしか友達がいなくなっちゃうの」
「じゃあ、寮はどうやって決めるの? パパもママも誰も教えてくれないんだ。テッドさんやアンドロメダさんもはぐらかすし…… ビルは湖の巨大イカが決めるとか言ってたし……」
ホグワーツの組み分けを一年生に言わないのはホグワーツでのちょっとした冗談だった。オスカーも伝統に則って少しパーシーをからかいたくなった。
「ホグワーツには地下に迷路があってね、そこに一人一人順番に森番のハグリッドの案内で入るの」
エストが神妙な顔で喋り始めた。オスカーもそれに続いた。
「中には色んな魔法生物とか、蛇、獅子、鷲、穴熊とか野心、勇気、英知、誠実みたいな各寮の要素に関する謎解きがあるんだ」
最後にチャーリーがしごく真面目な声で締めた。
「みんな死んじゃったりはしないから心配しなくても大丈夫だよ、出口には各寮の寮監と寮生が待ってて、新入生を歓迎するからね」
オスカーはアドリブで三人が繋げたにしては随分と真実味がありそうだと思った。パーシーは三人の話を聞いてつばをごくっと飲み込んだ様だった。
「出れなかったらどうなるの?」
「さあ? 出れなかった人にエスト達はあったことが無いから分からないの」
すげなく言うエストを見てパーシーはさらに顔をこわばらせた。オスカーも段々面白くなってきたので続けた。
「確かに出てこれなかった人にホグワーツではあったことはないな」
「僕もないなあ、どうなるんだろうね? 組み分けで死んだ人はいないってハグリッドは言ってたから、死んじゃうわけじゃないと思うけどね」
パーシーが基本呪文集を食い込むくらいの強さで握りしめていた。オスカーはちょっとやりすぎたかと思い始めた。
「みんな何をやってるのかな? ちょっとこっちに混ぜてくれないか? あっちは女性陣が強すぎて居づらいんだ」
後ろからウィーズリーおじさんが話しかけてきた。オスカーとチャーリーは目配せした。多分、ウィーズリーおじさんも向こうの部屋のウィーズリーおばさん、トンクス先生が率いる女性陣に絡まれるのが嫌で来たに違いなかったからだ。オスカーとチャーリーもそれが理由でこっちの部屋に逃げてきたのだった。
「パパ、パースに組み分けを説明してたんだ」
「パースは組み分けが心配みたいなの、アーサー叔父さん」
チャーリーとエストがそう言うと、パーシーは耳が少し赤くなった。組み分けにビビっていると自分の父親に思われたくない様だった。
「心配ってわけじゃないよ……」
「パース、パパはどの寮に入っても大丈夫だと言ってるだろう? エストやオスカー君はスリザリンだけど、チャーリーとも仲良くやってるじゃないか? とにかくホグワーツに行くのを楽しみにした方が良い」
ウィーズリーおじさんがそう言うのを聞いてもパーシーは浮かない顔だった。オスカーは自分は組み分けの事は大して考えていなかったと思い返していた。どうせスリザリンなんだろうと思っていたし、ホグワーツ特急に乗ってからは考える余裕もなかったからだ。
「それにホグワーツの各寮にはどれも素晴らしい特徴があるんだ、ほら先輩のみんなに聞いてみたらどうだ?」
ウィーズリーおじさんの言葉を聞いて、パーシーがオスカー達三人の方を向いた。
「グリフィンドールにどんな人が選ばれるかはパースは知ってるだろ?」
パーシーはチャーリーの方を向いて答えた。
「勇敢で決断力がある人が選ばれるんでしょ?」
「そうなの、でも自分勝手で人の話を聞かないってことでもあるの」
長所と短所は表裏一体ということなのだろうか? オスカーはグリフィンドールの人物を何人か思い浮かべた、ウィーズリー家のみんな、クラーナ、マクゴナガル先生、ダンブルドア先生…… パーシーの言葉に当てはまりそうな人間は何人もいた。ただ、エストの言葉に一番思い当たりそうなのは占い学の塔にいるカドガン卿だった。
「でもグリフィンドールは闇の魔法使いが少ないし……」
「実は一番闇の魔法使いが少ないのはハッフルパフなの、グリフィンドールじゃないんだよ? ニックと太った修道士が言ってたから多分ほんとなの」
パーシーは結構ショックだった様だった。確かにオスカーもグリフィンドールは闇の魔法使いとは一番縁が遠そうな気がしていたので意外だった。グリフィンドールから闇の魔法使いが出たことがあるのだろうか? すぐに頭にはそんな魔法使いは出てこなかった。
「トンクスを考えれば確かに一番闇の魔術と縁が遠そうだな」
「ハッフルパフの特徴も分かるよね? パース?」
「誠実で勤勉……」
考え込む顔をパーシーはしていた。オスカーも結構この話は考えさせられると思っていた。寮ごとの特性の話をするのはトンクス先生の話を含めて夏休みで二回目だったし、結構思い当たることがあると思ったからだった。
「まあトンクスは少なくとも成績はいいし、本当にたちの悪いことはしないよね」
「トンクスも調子に乗らなければいい人なの、スプラウト先生も優しくていい人だし」
「逆言えば外れたことはできないってことでもあるな、あと競争とかそういうのは興味があんまり無いみたいだ」
つまりいざと言う時に行動できなかったり、大事な時に自分を優先できないと言う事でもあるのだろうとオスカーは思った。
今度は扉からレアが部屋に入ってきた。レアの顔はどこか疲れて見えた。
「ちょうどいいことにレアが来たの」
「え? 何ですか? ボクはちょっとあっちの部屋の空気についていけなくて……」
レアも向こうの部屋のテンションについていけない様だった。今や何故か隣の部屋からはセレスティナ・ワーベックの大鍋は灼熱の恋に溢れが聞こえていた。オスカーには全く隣の部屋の様子が想像できなかった。
「レイブンクローの特徴は知恵と創造性?」
「レア、どうなんだ?」
「レイブンクローの特徴ですか? そうですね、それで大体あってると思います。ただそれは頭でっかちで変わり者って言うことでもあるって監督生が言ってました」
知恵に貪欲で、創造的、変わり者? つまり個性的…… オスカーはグリフィンドールと同じ様にレイブンクローの人間に当てはまりそうな人を考えてみた。レア、フリットウィック先生、占い学のトレローニー先生、マグル学のクィレル先生…… しかしいくら考えても一番該当しそうなのは目の前のエストだった。
「最後はスリザリンだけど、目の前に二人いるし分かり易いんじゃないかな」
チャーリーの言葉を聞いてパーシーはオスカーとエストの方を見たがますます分からなくなった様だった。ウィーズリーおじさんはオスカー達の話を優しい顔で見ていた。
「スリザリン…… 野心的で狡猾?」
困った顔で二人の方をパーシーは見た。その横ではレアがスキャバーズの檻をカタカタ揺らしていた。スキャバーズがレアの方を見て、全く動かないので心配している様だった。
「確かにオスカーは狡猾かもね、結構色んな校則を破ってると思うのに一度も捕まってないからね」
「ほとんど冤罪ばっかりだと思うけどな、フィルチは全部俺がやったと思ってるみたいだけど」
ダンブルドア先生に言われたことを今度はオスカーは思いだしていた。確かスリザリンが誇りだと思う素質について言っていたはずだった。
「ダンブルドア先生はスリザリンが生徒に欲しいと思った要素は…… 機智に富む才智とえーと、断固たる決意、ちょっと規則を無視する事…… 最後は周りを守る心って言ってたと思う」
「つまり、臨機応変に対応できること、自分で決めたことは絶対やること、ルールをちょっと守らないこと、周りの人を大切にするってことなの?」
「確かに誰かさんと誰かさんには合ってるかもね」
「ボクもダンブルドア先生が言ってたのは凄く合ってるなって思いました」
チャーリーとレアがオスカーとエストの方を見て笑った。
「でも、それは他の寮と同じ様に弱点になっちゃうの、グリフィンドールと同じ様に人の話を聞かなかったり、周りの人が大事過ぎて他の人が嫌いになっちゃったりするの」
そう、エストやトンクス先生が言った様にやっぱりいい点は弱点にもなってしまうのだった。いい点が大きければ大きいほど弱点も大きくなってしまうとオスカーは思った。
「でも…… 僕にはどれも無いかもしれない、勇気とか知恵とか……」
パーシーはオスカー達の話を聞いて、ちょっと自信を無くしている様だった。しかしオスカーはそんなに心配することなのかと考えた。オスカーもそのどれかがあると組み分けの時に思っていなかったからだ。
「私は組み分けはその時に勇気や知恵があるから選ばれるのではないと思っているよ」
ウィーズリーおじさんがみんなを見回しながら言った。
「勇気がないから勇気が欲しいんじゃないかな? 知恵や誠実さが欲しいから賢くなろうと、誠実であろうとするんじゃないかな? 欲しいと思って努力すればいつか手に入るだろう? 勇敢であろうと勇敢なことをすれば勇敢に見えるし、実際に勇敢だ」
オスカーにはウィーズリーおじさんが言っていることが非常に重要な事の様に思えた。初めから身についているのではなくて、そうあろうとするからそうなるのだとウィーズリーおじさんは言っているのだった。
「だから私はパースやフレッド・ジョージ、ロンやジニーがどの寮に入っても気にはしない。自分に一番合った寮で、一番必要なモノが手に入るだろうからね、ホグワーツはそういう場所だ」
では自分には何が無くて、何が欲しくて、スリザリンに入ったのだろう? オスカーは考えてみた。あの時組み分け帽子に何を言ったのか、記憶をたどって見ると、勇気と守るべきモノと言っていたはずだった。
「だから、今はホグワーツに行けるのを楽しみにしておけばいい。私もホグワーツの七年間は最高だったし、モリーに会ったのもホグワーツなんだからね」
勇気? 守るべきモノ? どれも無いとオスカーは思った。そもそもどうして自分はその二つが欲しかったのか、スリザリンの特性の通りに自分の周りのモノを守りたかったのだろうか? ウィーズリーおじさんから重要な事を聞いたはずなのに、オスカーの頭の中はずっと堂々巡りの考えが廻っていた。
結局、全員が夏休みの終わりまでドロホフ邸にいることを決めた後、珍しい人物がやってきた。その人物はみんなの身内の中でも、ミュリエルおばさんの次くらいにオスカーが苦手な人物だった。
「お前たちが喜びそうなモノがあるぞ」
その人物は片方の青い目をグルグル回しながら、そこにいたオスカー、エスト、クラーナ、レアを呼びつけた。エストがオスカーを無理やり引っ張って連れて行った。
オスカーはその青い目がじっと自分を見ている気がしていた。
「ほれ、お前たちの家族が大体写っとるだろう」
アラスター・ムーディがポケットから取り出したのは写真だった。それも古いボロボロの写真だった。
写真を見ただけで、身近な人や、身近な人の面影のある人物がいることが分かった。
「ダンブルドアとアバーフォース、アバーフォースの方は一度しか会ったことが無かったな、わしもいる」
こうやって二人並んでいるとよく似ていることが分かり、ますますオスカーは初めて会った時にアバーフォースがダンブルドア先生の弟だと分からなかったのが不思議だった。それにムーディはまだ鼻があって、クラーナと同じダークグレーの髪が白髪になっていなかった。
「こっちはポッターの二人と仲のいい三人だな」
ムーディが指し示したのは眼鏡をかけたクシャクシャの髪の毛の男の人、緑の眼をした魔女だった。その二人の横には誰かの面影を感じるハンサムな男の人、しょぼくれた眼をした小男、ボロボロの服を着た優しそうな男がいた。
「スタージス・ポドモア、エルファイアス・ドージ、こいつらはお前たちを教えていたから知っているだろう?」
オスカーが知っているよりも若い二人の先生が写真の中で笑っていた。もっともドージ先生の方はこの時でも随分な年齢だったが。
「フランクとアリス・ロングボトム、それにイライザだな」
丸い人懐っこい顔の魔女の横にクラーナによく似た魔女がいて、こちらに笑いかけていた。驚くほどクラーナにそっくりだった。日刊預言者新聞の記事が真実ならばこの後、彼らには悲惨な運命が待ち受けているはずだった。
「マーリン・マッキノン、ドーカス・メドウズ……」
レアにそっくりな魔女がやはりこちらに笑いかけている…… オスカーはやはりこの写真を自分が見るのはいけない気がした。自分にはこの人たちに見られる価値が無い気がしたからだ。
「キャラドック・ディアボーン、それにフェービアンとギデオンの兄弟だな」
最後の二人を見て、オスカーは心臓がひっくり返った気がした。エストとモリーおばさんの面影のある二人の人物がこちらに笑いかけていた。ホグワーツに入る前や、魔法省で何度も写真を見たはずなのに動悸が止まらなかった。よく考えればオスカーはエストのいる横で二人の写真を見たことは無かったからだった。
「アラスター、そこでみんなに何を見せているんです?」
後ろから聞くだけで分かる声が響いた。振り返るといつの間にかキングズリーがオスカー達の後ろにいたのだった。
「シャックルボルトか。局の調整は終わったのか?」
「ええ、ガヴェインと私が彼の穴を埋めます」
「ふん、体のいい避難と言うわけだ」
「吸魂鬼の件がファッジ以前の執行部締めあげに使われていますから……」
二人は何やら魔法省内部の話をし始めている様だった。クラーナはそれに耳を立てている様だったが、オスカーには話の半分も分からなかった。
「ファッジが何をやろうと執行部はボーンズ、局はスクリームジョールで決まりだろう。もともと惨事部出身のファッジが口を出せる話では無い」
「しかし、戦闘状態に無い今、人員が多すぎると言うのは事実ですから……」
オスカーもボーンズとスクリームジョールと言う名前には憶えがあった。確か二人共魔法省に連れて行かれた時に喋ったことがあったはずだったからだ。単眼鏡の魔女とライオンの様な魔法使いとうろ覚えではあるが思いだすことができた。
「ちょっと、闇祓いが揃ってるじゃないの」
「トンクス、お菓子を食べながら話すのはやめた方が良いと思うよ」
トンクスとチャーリーが手にやたらお菓子を持って、部屋に入って来た。相変わらず二人は暇があればペンスからお菓子を貰っているらしかった。
「ねえ? 闇祓いにはどうやったらなれるの?」
「トンクスが闇祓いですか? 足を引っ掛けて死喰い人にばれるのが関の山だと思いますけど……」
「でも、トンクスは七変化だし結構向いてそうかもしれないの」
みんなの視点が闇祓いの二人に集まった。この二人がみんなの注目になることは結構珍しいことであるはずだった。
「シャックルボルト、説明しろ」
ムーディがキングズリーを顎でしゃくった。どうもムーディの方もトンクスの扱いが苦手な様だった。オスカーは最初の頃のクラーナを見ているようで少し可笑しかった。
「もしかしたら知っている人もいるかもしれないが、闇祓いの試験を受けるにはかなりの成績が求められる」
オスカーはキングズリーと結構な付き合いになっていたが、闇祓いの話を聞くのは初めてだった。自分には最も縁遠い職業だと思っていたからだった。
「どの教科の成績が必要か知っているかな? ああもしすでに知っている人がいたら少し遠慮して置いて欲しい」
すでに口を開きかけていたクラーナにキングズリーがウィンクした。
「うーんと、闇の魔術に対する防衛術よね、やっぱり」
「それに変身術と呪文学かな、呪文を使えないと戦えなさそうだしね」
トンクスとチャーリーが言った三つの科目は最もだとオスカーも思った。闇祓いと聞いて真っ先に思い浮かべるのが闇の魔法使いとの戦いだからだ。
「あとは魔法薬学…… ですか?」
「そうなの、変身したり何かを聞き出すには魔法薬なの、それに魔法薬を作ったり、解毒を考えるなら薬草学もいると思うの」
「じゃあ、闇の魔術に対する防衛術、変身術、呪文学、魔法薬学、薬草学で五つなのか? どれも一年生からある科目ばかりだな……」
どれも一年生の頃からずっとある科目ばかりであるとオスカーは考えていた。つまりこれらの科目は基本であって、非常に重要な科目であるとオスカー達自身も考えていると言う事だった。
「完璧だ。闇祓いの試験を受ける為にはそれら五つの科目において、NEWT試験、七年生でやる試験だが、ここでE、期待以上の成績を取る必要がある」
偶然ではあったがオスカーは今でた五つの科目において、エストに次ぐ成績を持っていたので受けるだけなら可能ではないかと思った。
「それに、性格的な試験、戦闘時に感じるプレッシャーに対する耐性の試験や、変身・隠遁・追跡なんて試験、その場の対応力を試す試験なんかもある。もちろん戦闘の試験もだ」
クラーナは真剣にキングズリーの話を聞いている様だったし、トンクスも興味がありそうだった。逆にチャーリーとエスト、レアの方は二人よりも興味が無さそうに見えた。
「それに試験に合格してもそれから三年間は研修、どちらかと言うと修行みたいな期間をこなさないと一人前の闇祓いとしては認められない」
修行? 七年間のホグワーツの課程が終わってもまだ学ぶことが沢山あるのだろうか? それほどの修練を積んだ魔法使いが集まっても、ヴォルデモートとの戦争においては常に劣勢であったというのは恐るべきことだった。
「ホグワーツで他にやらないといけないことってあるの? 成績を上げる以外で」
相変わらずトンクスは物怖じせずに質問をしていた。こういう話ではうるさくなるとオスカーが思っていたクラーナの方は最初にキングズリーが出鼻をくじいたせいか少し静かだった。
「戦闘技能を上げるだけなら決闘クラブにでも出ればいいだろう」
これまで静かだったムーディがこちらを見て言った。
「アラスターおじさん、決闘クラブはトンクス先生が辞めてからは再開されていません」
「それなら心配は無い、今年の教師は確実に再開させるだろうからな」
どういう意味だろうか? すでにムーディはホグワーツにおける闇の魔術に対する防衛術の先生を知っているのだろうか? オスカーはキングズリーの方を見たが、こっちに首を振るだけだった。
「どういうことよ、今年の先生は確実に再開させるって」
「お前たちには戦う為の技能が足りていないと言う事だ。個人で戦う経験も複数人で戦う経験も含めてだ」
実践的な戦闘を教える先生がくるということなのだろうか? オスカーは余りパッとイメージがわかなかったが、確かにホグワーツではそうった授業がほとんど無いのは確かだった。
「でも…… 今は戦争中じゃないですよね? そんなに戦う為の技術が必要なんでしょうか……」
「マッキノン、むしろ今だから必要なのだ。戦争中ならばみな必死に戦う術を学ぶだろう。だがそれ以外の時はどうだ? 闇の魔法使いはその牙を闇の中で研いでいるというのに、ホグワーツでぬくぬくとお勉強か?」
ムーディがそう言うと有無を言わさぬ迫力があるとオスカーは思った。
「わしに言わせれば平和な時代こそ、大きな戦争の合間の時間に過ぎない。大陸での二度の戦争や前の戦争の合間に過ぎないということだ」
このオスカーの眼の前の人物は幾度もの魔法界における戦争を乗り越えて、闇の魔法使いと戦い続け、アズカバンの独房の半分を埋めたと言われる人物だった。
「グリンデルバルドや闇の帝王がお前たちより修練を積んで無かったと思うのか? ダンブルドアやテセウスと言った闇の魔法使いに立ち向かった魔法使いたちが日頃から修練を積んでいなかったと思うのか? 油断大敵!!!! 闇の帝王かどうかは分からんが、奴らはいつかは帰ってくる」
オスカーはやっとクラーナの口癖の正体が分かった。本物の方がやっぱり迫力があった。
「まあそんなに心配することは無い。そうならない為に私たち闇祓いがいるのだから、君たちはホグワーツでいつも通り勉強すればいいんだ。それにホグワーツにはダンブルドアがいる。へたをしなくても魔法省よりも安全な場所だ」
ムーディの雰囲気に押されていたオスカー達はキングズリーの深い声で少しだけ緊張が解けた様だった。
「じゃあ取りあえず今まで通りやれば良いってことね」
「トンクスはまずドジを直すところから始めた方がいいと思いますけどね」
「多分それは杖なしで守護霊の呪文を使うくらい難しいの」
「確かにね、アクロマンチュラにお手をさせるくらい難しいよね、そんな事が出来たら論文が書けちゃうよ」
「ちょっといくら何でも言いすぎじゃないの」
皆が口々に色んなことを言い始めて、ムーディがつくったちょっと重苦しい雰囲気や、あの写真のことはどこかに行ってしまった様だった。
それから、ムーディとキングズリーは何かを話込み始めて、レアやトンクス、チャーリーはまたペンスからお菓子を貰ってくると言って厨房の方へ言ってしまった。
「でも、誰か戦闘を教えることができる先生が来るんだね、多分闇の魔術に対する防衛術だと思うけど」
「まあ大体想像はできますけど、誰が来るのかですね、私はてっきりあの二人のどっちかが来るんだと思ってました」
クラーナはそう言って、話込むムーディとキングズリーの方を見た。
「マッドアイとキングズリーのどっちかってことなのか?」
「ええ、何かアラスターおじさんは忙しそうにしてましたし、ダンブルドア先生が闇祓い局と話してるって話も聞きました。アラスターおじさんならダンブルドア先生とも旧知の中ですし、キングズリーはオスカーの事でダンブルドア先生と繋がりがあるんでしょう?」
確かにキングズリーとダンブルドア先生がオスカーが入学する時に魔法省にかけ合ってくれたのは確かだった。そう言えば尋問の時に加えて、あの時もさっきでたボーンズという魔女とスクリームジョールと言う魔法使いに会ったのだった。
「まあそうだな」
「確かにキングズリーとクラーナのおじさんならいくらでも決闘や戦闘の事を教えてくれそうなの」
「でもあの言い方だとどうも違うみたいですね、ただあんまり現役バリバリの闇祓いが出てくるとは考え難いんですけど……」
いつもの業務を放り出して闇祓いが先生になりにくるとはオスカーも考え辛かった。
「闇祓いになるとホグワーツの先生になりやすくなるのかな?」
「むしろ魔法大臣じゃないですか? まあ魔法法執行部そのものに入った方が魔法大臣にはなりやすいかもしれないですけど」
オスカーには闇祓いも魔法法執行部も良くわからなかったが、どっちにしろ入るのは非常に難しそうだった。
「それにトンクスが闇祓いのこと聞いたのは意外だったの」
「それは俺も思ったな、クラーナがあんまり闇祓い、闇祓いって言ってたから頭の中に刻まれたのかもな」
「なんですかそれは、私も意外でしたけどね」
ハッフルパフの話をした時と同じ様に、トンクスが一番戦いとかそういうことに縁が遠そうだとオスカーは思っていたのだ。トンクスの生まれや育ちがみんなの中ではチャーリーと同じくらい平和なのも関係しているかもしれなかった。
「けどなんか試験だけならこのままいけば俺でも受けれそうな感じだったな」
「オスカーは闇祓いになりたいの?」
エストが意外そうにオスカーの方を向いた。オスカーはそんなに自分がなりたいものについて考えたことは無かった。だから闇祓いの事もそこまで考えて言ったわけではなかった。クラーナの方はエストと違って、どこか…… 期待している眼のような気がオスカーはした。
「まだ良く分からないな、ただある意味じゃ一番近い職業でもあるし、成績の事を考えたらなんか当てはまってると思ったんだ」
「オスカーは闇の魔術に対する防衛術では一番の成績ですし、向いてるかもしれませんね」
「ふーん……」
クラーナはまだこの話題をしたい様にオスカーには見えたが、エストの方はオスカーの話を聞いて何か考えている様だった。
「クラーナは普通に闇祓いを目指すんだろ?」
「ええ、ふくろう試験では少なくともあの五科目ではO優をとりたいと思ってます。魔法薬学以外はEでもNEWTレベルに進めるらしいですけど、スネイプとか言うシャンプーできない先生はO優じゃないと進ませてくれないらしいですから」
やっぱりこの話題だとクラーナが饒舌に喋っているとオスカーは感じた。
「エストは何かあるのか?」
「うーん…… じゃあオスカーは分かる? エストがなりたいもの」
エストは悩んだ顔をしながらオスカーに問いかけた。エストのなりたいもの…… またダンブルドア先生やヴォルデモートが連想された。オスカーは毎回エストの事やエストの将来の事を考える度にその二人が出てくるのが嫌だったが、今回はこれがヒントになる気がしていた。
「ホグワーツの先生か? 何年の時だったか覚えてないけど、ホグワーツ行きの馬車で言ってただろ? 確かあの時もクラーナがスネイプ先生のことボロクソに言ってた気が……」
「オスカー覚えてたの? 正解なの」
「なんだかんだオスカーは人の言ったこと良く覚えてますね……」
どうやら正解だったらしくオスカーはちょっと心の中で一息ついた。
「まあ四年生が終わったら、進路についての相談があるらしいですからそこで話せばいいんじゃないですかね」
「相談って誰にするんだ?」
「寮監ですよ、私だったらマクゴナガル先生、二人だったらスネイプ先生ですね」
スネイプ先生に進路の相談? オスカーは余り想像できなかった。スネイプ先生は確かに寮監だったが、オスカーはそれほどスネイプ先生の人となりを知っているわけでは無かったし、向こうもそう思っていると考えたからだ。
「じゃあその時聞けばいいかな…… スネイプ先生は先生の中だと若い方だし、どうやってなったのか聞いてみよう……」
エストがそうつぶやいてるのを聞きながら、オスカーはまた思いを巡らせていた。何になりたいのか? オスカーは自分のなりたいものすら、自分の事すら分からないとそう思った。