ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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組み分け帽子

 新入生らしい二人を連れたパーシーを見て、オスカーはコンパートメントのドアを開けた。パーシーは不安そうな、女の子は疑問を持っていなそうな顔をしていて、もう一人の男の子は腕を組んでこっちを見ていた。

 

「どうしたんだパーシー?」

「みんながホグワーツで色んな寮の人が仲良くしてるはずないって言うから……」

 

 それを聞いてオスカー達はお互いの顔を見合わせた。トンクスが自己紹介しろとばかりにオスカーをあごで示した。

 

「取りあえず、みんな入ればいいんじゃないかな?」

 

 チャーリーに促されて、新入生たちはコンパートメントに入ってきた。

 

「オスカー・ドロホフ、スリザリンの四年生」

「エストレヤ・プルウェット、スリザリンの四年生だよ、今年も選ばれたらシーカーなの、パースの従妹でもあるけど」

「チャーリー・ウィーズリー、グリフィンドールの四年生、僕も今年も選ばれればシーカーでパースの二番目の兄」

「クラーナ・ムーディ、グリフィンドールの四年生です」

「ニンファドーラ・トンクス、ハッフルパフの四年生で私も選ばれればチェイサーね、あと苗字で呼んでね」

 

 パーシーがほらとばかりの顔で隣の二人を見ていて、女の子はちょっと驚いている様子で、男の子はなぜかチャーリーとエストの方を見ていた。

 

「自分はオリバー・ウッドと言います。クィディッチのチームにはどうやって選ばれるんですか?」

 

 オスカーはなるほどと得心した。このウッドという男の子は恐らくクィディッチの話になると人の話を聞かなくなるタイプだった。

 

「そうだね、各寮で選抜の試験をやってそれぞれのポジションを決める感じかな、ただ一年生は箒を持っちゃいけないことになってるし、もう百年くらい一年生はクィディッチのチームメイトには選ばれてないはずだよ」

 

 チャーリーの言葉を聞いてウッドの顔が目に見えて悲嘆に暮れていた。オスカーはさっきの自分の予想は的中している様だと確信した。

 

「私はジェマ・ファーレイです。スリザリンとグリフィンドールは仲が悪いと聞いたんですが…… 親や大人たちの冗談だったんですか?」

「冗談じゃないわ、そこのエストとクラーナなんて杖がなくても取っ組み合いをするくらい仲が悪いもの、杖があるときなんてホグワーツが火の海よ」

 

 トンクスがそう言った瞬間に無言呪文が二発、トンクスに命中して言葉が発せられなくなった。どうやら黙らせ呪文の様だった。

 

「仲が悪いのはホントだけど、個人個人で仲がいい人もいるの」

「ええ、このうんうん言っているニンファドーラの親もスリザリンとハッフルパフの出身ですから」

 

 ジェマは眉を寄せて難しい顔で三人を見ていた。オスカーももし新入生でこんな状況を見れば自分も困惑するのは間違いないと考えていた。

 

「まあパースにはパパが言ってたけど、どの寮に入っても大丈夫だよ、ここには大体の寮のメンバーがいるし何かあったら言ってくれればいいよ、今年クィディッチのチームに入れてくれとかは無理だけどね」

 

 フォローしたはずのチャーリーの言葉を聞いて、ますますウッドの顔が悲惨なことになっていた。

 

「ほら、仲良くしてるってほんとだっただろ?」

「ウィーズリーが自信なさげに言うからじゃないの」

「確かに」

 

 どうもやっぱりパーシーはこういう立ち位置らしかった。

 

「ねえ、二人ともパースはちゃんと二人とお喋りしてたの?」

「いえ、ウィーズリーは喋ってるより基本呪文集を開いている時間の方が長かったし、ウッドはクィディッチの技の話でうるさかったです」

 

 ボロクソだった。オスカーは結構この女の子の性格がきつそうだと考え始めていた。

 

「もう…… せっかく新入生とお喋りできるチャンスなのに…… 組み分けされちゃったら他の寮の人と喋るチャンスはあんまりないんだよ?」

「それはそうだけど…… じゃあエストやオスカーはどうやってクラーナやトンクスと知り合ったの? チャーリーは分かるけど……」

 

 オスカー達はまた顔を見合わせた。オスカーはみんなと初めて会った時のことを思い出し、少し笑ってしまった。

 

「なんでオスカーは笑ってるんですか」

「クラーナは直接エストとオスカーのコンパートメントに来たの、気合が入ってたの」

「気合が入ってたって何やったんだい?」

 

 クラーナの見事な名乗りをオスカーは未だに憶えていた。あの名乗りのせいでエストに出会ったショックが少し収まった事もだ。エストがクラーナがいつかやった様に杖を高く上げた。

 

「私の名前はクラーナ……」

「ストップ!! ストップ!! なんでエストはそんなにノリノリなんですか!!」

「結構似てたな」

 

 トンクスがよっぽど喋りたいのか必死で黙らせ呪文の逆呪いを自分の喉にかけているようだった。新入生の三人はぽかんとした顔で五人のやり取りを眺めている。

 

「でもなんでクラーナはオスカーがいるって知ってたの?」

「アラスターおじさんが話してたんですよ、私と同い年の子供がいるって。流石にエストと一緒にいるとは思わなかったですけど」

「そこでエストに先を越されたわけね、これは大きなアドバンテージだわ」

 

 またクラーナから無言の黙らせ呪文が飛んだが、トンクスは盾の呪文で弾き飛ばした。オスカーはドアの方に盾の呪文を張って、三人に当たらないようにした。

 

「トンクスは僕とエストじゃなくて、オスカーとクラーナが先に知り合ってたよね」

「ああ階段から転げ落ちてた」

「ええ、ニンファドーラは私たちをつけて間抜けにも階段から転げ落ちてましたし、そもそもなんか組み分けの時からおかしな奴がいるって噂になってましたよ」

「何よそれ、私よりエストも含めた三人の方が噂になってたわよ、クリスマスで略奪愛だーーって」

 

 そう、トンクスは会った時から階段から転げ落ちたり、仕掛け階段に引っかかったりとだいたい何かやらかしていたのだった。オスカーは何やら懐かしい記憶が蘇ってくるようだった。

 

「トンクスが目立ってたのもホントだし、クラーナがオスカーのセーター着てたのも、オスカーがエストと喧嘩してたのも凄い話題になってたよ」

「グリフィンドールではそんな話聞かなかったですよ」

「そりゃクラーナの目の前ではしないでしょ、だいたいグリフィンドールなのに緑に銀のセーターを着れる精神が凄いわよ」

「それはエストも思ったの、でもあんまり堂々してるから慣れちゃったの」

 

 どうも一年生の話をするのはクラーナの状況不利の様だった。三人の方は何が何だか分かっていない顔で上級生を見ていた。

 

「俺たちはこんな感じだけど、各寮の関係はこんな感じじゃないのは本当だろうな」

「そうです、クィディッチの試合前なんかはアホがあちこちで呪いをかけ合ったりしますしね」

「ふっ…… だからこそ、対立しあう寮の二人の関係が際立って見えるの……」

 

 今度は呪文ではなく、クラーナがトンクスに百味ビーンズの袋を直接投げつけた。食べていたエストが抗議の視線を二人に送った。そしてオスカーとクラーナの顔を見て、ジェマは何かを思い出した様だった。

 

「あっ!! もしかして、オスカー先輩とクラーナ先輩って週間魔女に載ってた二人じゃ?」

「確かに母さんが読んでたのに載ってた気が……」

 

 オスカーはいい加減週間魔女にはうんざりだった。エストの判断は大概間違いなかったがこればかりは大きな間違いだと、オスカーでさえ思わずにいられなかった。

 

 

「五分程度でホグワーツに到着いたします。荷物につきましては別途学校に届きますので、車内へ残してください」

 

 車内のアナウンスが流れる同時にオスカーは列車のスピードが落ちていくのを感じた。窓から外を見るとホグズミードの村々が曇り空の下に見えた。

 

「着くみたいだから新入生のみんなは同じ寮になったらよろしくな」

「そうですね、どうせウィーズリーはグリフィンドールでしょうけど」

「オスカーとクラーナはホグワーツでは一番有名な……」

 

 今度はクラーナがカエルチョコをトンクスの顔面にぶつけた。カエルの足が取れて、ピンク色の髪の毛に引っかかり、そこでピクピクと動いていた。

 

「トンクスとクラーナは特別騒がしいだけなの、何かあったら言ってくれれば大丈夫」

「うん、ほんとにヤバそうなら言ってくれればいいよ」

「そうよ、この廊下を爆破して、フィルチの職員室を荒らして、下級生をホグズミードの酒場に連れ込むオスカーに任せとけばいいわ」

 

 オスカーはさっきトンクスにぶちまけられた百味ビーンズを魔法で集めて、トンクスの口に突っ込んだ。トンクスの顔色と髪の色が色んな色に変わった。

 騒いでいる間に列車は駅についてしまった様だった。

 

「一年生はハグリッドが誘導するから、手荷物だけは持ってハグリッドのところに行った方がいい」

「そうだね、ほら外にいるあの大きな人がハグリッドだよ」

 

 時間と天候の関係で薄暗くなっているホームに、大きなカンテラで照らされたハグリッドの巨体が見て取れた。

 一年生たちは自分たちのコンパートメントに一度戻って荷物の確認をするようだった。オスカー達はそのまま人でごった返している列車からなんとか出て、セストラルのひく馬車に乗り込んだ。

 

「毎年、この話をしている気がするけど、闇の魔術に対する防衛術の先生は誰なんだろうね」

「まあ完全にあの職業は呪われてるよな、ほんと今年は誰なんだろう」

 

 闇の魔術に対する防衛術、この科目の先生は本当に毎年変わっていた。偶然でないのなら、

呪われているのかそれともあえてダンブルドア先生が交代させているのかのどちらかだとオスカーは考えていた。

 

「クラーナの叔父さんの言い方だと、決闘を教えられる人なんだよね?」

「まあ、あの後大体の予想はできたんですけど、ちょっと大物すぎるんですよね」

「決闘を教えられて大物? なんか強そうな人がくるのね」

 

 クラーナも確信の無さそうな言い方だった。

 

「ただ前も言いましたけど、スネイプはあの職を狙ってるらしいですし、クィレル先生も志望してるって聞きましたよ」

「クィレル先生ってマグル学のだよな?」

「ええ、トンクスのお母さんが私がやらなかったらクィレル先生がなってたかもって言ってました」

 

 クィレル先生が闇の魔術に対する防衛術の先生? オスカーはクィレル先生には失礼だとは思っていたが、あの先生は怪物や闇の魔法使いに相対したら気を失ってしまいそうだと考えていた。

 

「あの先生って見るからにレイブンクローって感じの先生よね、寮監のフリットウィック先生はなんかちっちゃいのに肝が据わって見えるのに」

「フリットウィック先生は組み分けされるときにグリフィンドールとレイブンクローでどっちにするの? って組み分け帽子と悩んだって言ってたの、それがもしかしたら関係してるのかな」

「へえ、勇敢で賢いから学生時代は決闘チャンピオンだったのかな?」

 

 オスカーはフリットウィック先生が決闘している姿は、さっきのクィレル先生が戦っている姿と同じくらい想像できなかったが、呪文学で色々な呪文をまるで苦も無く使っている姿を考えると、とても敵に回したいとは思えなかった。

 

「もうホグワーツだな」

「闇の魔術に対する防衛術の先生を見に行きますか」

 

 セストラルの馬車から降りて、五人は石の橋を渡ってホグワーツ城の中へと入った。人の流れに身を任せながら、相変わらず荘厳な雰囲気の大広間が見えてきた。

 何百本というろうそくが宙に浮かび、天井には外の天気がそのまま映し出されている。広間は各寮ごとのテーブルがあり、すでに大方の学生は席についている様だった。

 一番奥にはダンブルドア先生を中心にして先生方が並び、その前に三本足の椅子が置かれていた。

 

「やっぱり、ルーファス・スクリームジョールですよ…… 次の闇祓い局の局長間違い無しって言われている人物です」

 

 クラーナがオスカーの耳元でささやいた。ダンブルドア先生の隣にライオンのたてがみの様な髪型をした、強そうな人物が座っていた。その髪型も、黄褐色の髪色も、力のありそうな目も、全てがその人物がどんな人生を歩んできたのかを語っている様だった。

 

「ああ、俺も一回会ったことがあるから間違いないと思う。確かに大物なのかもな」

「ちょっと何二人はこそこそ喋ってるのよ。寮ごとのテーブルに別れないといけないからって、いちいちお別れの挨拶をしなくてもいいでしょ」

 

 オスカーは年を経るたびにトンクスがうるさくなっている気がした。これはルーンスプールが大きくなるスピードと同じくらいのスピードであり、悩ましい事実だった。

 

「ニンファドーラはうるさいですよ、じゃあまた授業で会いましょう」

「じゃあね、多分パースはグリフィンドールだと思うけど、みんなの寮に行ったらよろしくね」

「わかったの」

「ああ」

 

 グリフィンドールの二人がテーブルへと消えていった。

 

「今年もオスカーが何をしでかすのか楽しみにしとくわ」

「俺は黙らせ呪文をできるだけ使わない様に祈っとく。数が多くなると全身金縛り呪文の方が効率が良いって気づくかもしれないからな」

「喋らない生き物に変えちゃうの」

 

 トンクスはオスカーの顔に変身して、怖いとでも言うように自分の肩を抱いて震えているふりをした。オスカーはそろそろ七変化をもとに戻す呪文を覚えたかった。

 トンクスと別れてスリザリンのテーブルに向かうと、同級生やスリザリンクィディッチチームのメンバーがオスカーとエストに挨拶をした。二人は最早指定席になりつつある血みどろ男爵の隣に座った。

 

「男爵、今年もよろしくね」

「ああ、ご機嫌麗しく。そろそろ姫は少年に縄をかけた方がいいかもしれない」

「縄?」

 

 エストが男爵の発言を聞いて首をかしげた。オスカーはトンクスと同じようなことを男爵が言い出す気がしていた。オスカーはこの男爵が割と余計なことを言う性質だと言うことに去年気付いたからだ。それに男爵はオスカーの味方に付いたり、相談に乗ってくれたりはするが基本的にエストの味方であって、オスカーとエストを天秤にかけた場合、エストに味方するのは確実だった。

 

「少年、余り他の寮の女の子ばかりと仲良くするのは良くないぞ、スリザリンにそういう男子がいるとゴーストの間でも噂になっている」

「なんなんだそれ、俺じゃないし俺だとしても絶対トンクスあたりが流してるだろ」

「そうなの、別にオスカーはインカーセラスで縛らなくてもどっかに行ったりしないもん」

 

 これは驚愕の事実だった。ただでさえオスカーはその出自でグリフィンドール生に追い回されたり、えん罪でフィルチとミセス・ノリスにマークされたりしているのに、これ以上謎の噂が増えるのはごめんだった。それにやっとオスカーはスリザリンの同級生ともちゃんと喋れる様になってきたのだ。

 

「まあ慎むようにすることだ。ここぞという時と相手だけに心を向けるから尊く感じるのだぞ」

 

 血みどろ男爵はテッドと同じようなことを言っていたが、オスカーは流石に血みどろ男爵の様に十世紀に渡って後悔し続けることにはなりたくなかったので、一応心に留めておくことにした。

 血みどろ男爵の説教をオスカーが聞いている間に組み分けの準備が進んでいる様だった。

 新入生たちがマクゴナガル先生に連れられてやってきた。新入生は大広間の天井に驚いたり、教員や学生たちのテーブルを不安そうに見つめていたりした。

 

「あっ、パースがいるの」

「ウッドって男の子と一緒だな」

 

 マクゴナガル先生が三本足の椅子にボロボロの帽子を置いた。上級生と先生方の視線が組み分け帽子に集まった。

 注目と静寂の中、組み分け帽子のつぎはぎの一部分が開いて喋り始めた。

 

『今は昔、そのまた昔

 さかのぼること一千年

 学び舎が建つその場所で

 集った四人がこう言った

 

 望みは一つ一つだけ

 並ぶものなき学び舎を

 我らの思いを伝えよう

 我らの知識を伝えよう

 我らの全てを伝えよう

 

 そして起こった大事業

 偉大な魔法使いの卵をば

 偉大な魔女の卵をば

 次代の次代の時代まで

 育て伝えんその全て

 次代の次代のその先へ

 

 スリザリンが伝えるは

 何をも阻まぬ野望であり

 それを成する狡猾なり

 

 レイブンクローが伝えるは

 何をもを知る知識であり

 それを成する英知なり

 

 ハッフルパフが伝えるは

 何をも拒まぬ誠実であり

 それを成する勤勉なり

 

 グリフィンドールが伝えるは

 何をも向かう勇気であり

 それを成する度胸なり

 

 四人が伝えるその全て

 しかし人には分からぬもの

 自分が何を成すべきか

 自分が何を求めるか

 自分に何が足らぬのか

 

 創始者四人の亡き後に

 誰が伝えんその全て

 誰が選ばんその全て

 

 ならば私が伝えよう

 君が求めるその全て

 君が持てるその全て

 

 恐れずかぶれば伝えよう

 君が行くべきその道を

 いざ始めよう組み分けを!!』

 

 組み分け帽子の歌が終わった瞬間に大広間中から拍手が巻き起こった。いつも一緒に拍手することの無いグリフィンドールとスリザリンも、教師陣も大広間のみんなが拍手をしていた。

 オスカーは毎年組み分け帽子の歌が変わっていくのを知っていたが、今年は中々力が入っていそうだと感じた。

 マクゴナガル先生がアルファベット順に新入生を呼び出す中、オスカーはさっきのチャーリーとエストの話を思い出していた。フリットウィック先生はレイブンクローとグリフィンドールで組み分け帽子が迷っていたと言っていたと言うのだ。

 オスカーは気になった。なら一年生の時にあれだけ組み分け帽子を待たしていたエストはどうだったのか? オスカー自身はグリフィンドールとスリザリンを薦められたが、エストはどうだったのか。オスカーはエストの事を知りたかったし、組み分けのことにも興味があった。

 

「エスト、なあ聞いてもいいか?」

「えっ? 何?」

 

 組み分けに魅入っていたエストがオスカーの方を向いた。オスカーはエストと一緒に過ごす様になって四年目に入ろうとしていたがエストの自身の事を去年のクリスマスの様に聞いてみたりしていなかったし、オスカー自身の事を喋ったりは余りしてなかった。

 むしろ、一番一緒にいるのに他の人の方がオスカーについては詳しいかもしれなかった。もちろん、朝何を食べるだとかそういうことはお互いに詳しかったかもしれなかったが。

 

「組み分けのこと聞いてもいいか?」

「え? 別にオスカーにだったらエストは隠し事はしてな…… うん、言っちゃいけないって言われたりしてなければ答えるよ?」

 

 何かちょっと間があった気がしたが、オスカーはエストがこう言うだろうことはわかっていた。

 

「一年生の時、なんでエストはあんなに組み分けに時間がかかったんだ?」

 

 エストはオスカーに聞かれて、嬉しそうに口角を上げた。

 

「組み分け帽子さんとね、お喋りしてたの」

「あんなに長く? 二十分くらい座ってたろ?」

 

 オスカーは少なくともこの三年間の組み分けで、エストよりも長い組み分けは見たことが無かった。そもそもオスカー自身の組み分けですら長い方であったはずだった。

 

「そうなの、喋ってる時はあっという間だったんだけど、他の人より凄い長い間喋ったみたいだったんだね。その後でオスカーが隣だったし、お腹も減ってたからあの時はあんまりおかしいと思ってなかったけど」

 

 組み分けは粛々と進められていたがエストはオスカーに話すのに夢中で全く眼中にない様だった。

 

「それでね、組み分け帽子さんはエストはレイブンクローに行ったら絶対偉大になれるって言ってたの、なんかその理由…… 魔法とか血縁とか性格とかそういうのがあり得ないくらい向いてるって言ってたの。この千年だと一番かもしれないよって」

 

 やっぱりオスカーがレイブンクローの特性について考えた時の直観は間違いではなかったようだった。それに灰色のレディと占い学の塔で喋った時の記憶もオスカーの中でレイブンクローとエストを関連づけるのに一役かっているかもしれなかった。

 

「じゃあなんでスリザリンだったんだ?」

「そうなの、組み分け帽子さんも迷ってるみたいだったの、こんなに向いてる人に他の寮を紹介してもいいのかなって。でも、組み分け帽子さんはエストにエストが欲しいものを手に入れたいなら、それが何か知りたいならスリザリンに行くのが一番早いかもしれないって言ったの」

 

 オスカーは自分の組み分けを思い出した。組み分け帽子はオスカーに守るべきものを得れるならグリフィンドールよりも偉大になれると言ったのだ。エストにはレイブンクローに入ったなら偉大になれて、スリザリンなら欲しいものが手に入ると言った? オスカーにはその違いが分からなかった。

 

「そう!! そうなの。エストはエストの欲しいものって何って聞いたんだけど組み分け帽子さんは答えてくれなかったの。でも、とにかく自分で選べって言ってたの。どっちでも大丈夫だけど、どっちか選べって。エストは自分の欲しいモノって何か分からなかったし、それが早く手に入るんだったらそれが分かるんだったら、そっちの方が偉大になるよりいいと思ったからスリザリンにしたの」

 

 エストでも自分が欲しいものがわからないのだろうか? オスカーにはそれが意外だった。エストからはいつも、日常でも、授業でも、誰かと向き合っている時でも、とにかく行動する際に強いエネルギーの様なモノを感じると思っていて、それがいつ間にかオスカー自身にもちょっとずつ影響している気がしたからだ。

 

「エストはよく、特別って言うだろ? レイブンクローでなら偉大になれるんなら、そっちの方が特別なんじゃないのか?」

 

 オスカーがそう言うとエストは頬を膨らました。オスカーの言動が気にいらない様だった。二人きりの時にエストがこういう顔をするのは珍しいとオスカーは思った。誰かがスリザリンに選ばれた様で周りのテーブルから拍手があがったのでオスカーもならって拍手した。

 

「エストはスリザリンで良かったと思ってるの。オスカーとも一緒だったし。それに自分のやりたいことで特別にならないと、自分の欲しいものもわかんないと特別になる意味がないと思わない?」

 

 言い終わるとまたエストはニコッとオスカーに笑いかけた。オスカーはこういう時にやっぱりエストにうまく返すことができなかった。

 

「ああ…… そうかもしれない」

 

 オスカーが静かになるとエストが矢継ぎ早に話しかけてきた。

 

「それで、スリザリンとレイブンクローとどっちがいいのか組み分け帽子さんとお喋りしてたの、組み分け帽子さんは元はグリフィンドールの持ち物なんだって教えてくれたよ、あとダンブルドア先生の部屋で色んなことを聞きながら次の年の歌を考えるんだって」

 

 今度ダンブルドア先生の部屋で時間があれば、あの帽子に喋りかけてみようとオスカーは思った。

 

「あの…… ここ座っても大丈夫ですか?」

「え?」

「えっ?」

 

 二人が間抜けな声を上げると、ホグワーツ特急で会ったジェマが傍に来ていた。スリザリンに組み分けされた様だった。

 

「座って大丈夫だ。スリザリンへようこそ」

「そうなの。ジェマ。スリザリンへようこそ」

「ありがとうございます。お邪魔でした?」

 

 ジェマは首をかしげてオスカーとエストの方を見たが、オスカーはちょっとジェマが本気で言っているのか怪しいなと思った。

 

「大丈夫だよ? うーんと、なんか聞きたいことはある?」

「どっちかというと、お二人の事を聞きたいですけど、やっぱりスリザリンのことを教えてください」

「俺たち? 呼び方はオスカーとエストでいいぞ。レアは何回言っても先輩って言ってくるけど…… スリザリンの何を聞きたいんだ?」

 

 チャーリーが新しい魔法生物を見るような目でジェマはオスカーとエストを見ていると、オスカーは感じていた。

 

「えっと、よく聞く噂は本当ですか? 純血じゃないとつま弾きにされるとか、ひいおじいさんに魔法大臣がいないと虐められるとか、闇の魔法を全員がマスターしてるとかそういうやつです」

「そんなのはだいたいウソなの、エスト達の周りには純血が多いけど、半純血の人もスリザリンには結構いるはずだよ? それにスリザリンはあんまりいじめってないの。寮がでっかい家族みたいなものだから…… だからジェマに何かあったら、エストとかオスカーでもいいし、スリザリンの誰かに言えばなんとかしてくれるはずなの」

「ああ、言ってくれればなんとかするし、魔法とかテストとかもレイブンクローと違って、同じ寮生同士で争ったりは少ないからな。あと闇の魔法はヴォルデ…… 闇の帝王が元気だった頃はあったかもしれないけど、今はほとんどないはずだ」

 

 オスカーがヴォルデモートの名前を言いかけたので、ジェマの目が一瞬だけ見開かれた。

 

「でも、その…… 死喰い人が一杯いたって言うのは事実だし、他の寮と仲が悪いのは本当なんですよね?」

「それはそうなの、他の寮と溝があるのは事実だし、うちの寮はうちの寮最優先で他に容赦しないことも多いの。死喰い人とか闇の魔法使いも事実だけど…… でもジェマはスリザリン出身で一番偉大な魔法使いって知ってる?」

「一番偉大な魔法使い? 例のあの人ではないし…… 歴代の魔法大臣の誰かですか?」

 

 ジェマの答えを聞いてエストが悪戯っぽく笑った。オスカーはエストがスリザリンの紹介をする時にいつも誰を使うのかはよく知っていた。

 

「マーリンだよ? あの魔法使いで一番有名で偉大なマーリンはスリザリンの出身なの。寮の寝室に行ったら分かるけど、マーリンの冒険がタペストリーに書いてあるもん。それに闇の魔法使いはスリザリン以外からも出てるから、スリザリンの専売特許ってわけではないの」

「マーリンが……」

 

 これはジェマにとっては相当意外なことだった様だった。ジェマは目を白黒させてオスカーとエストを見ていた。

 

「まあそれに闇の魔法の噂とか、他の寮と仲が悪いって言うのはいいこともある。よっぽどのことが無い限り、スリザリン生を攻撃してくるやつはいないからな。スリザリンでハブられでもしない限りは」

 

 オスカーがちょっとだけエストの方を見ると、エストもオスカーと同じく一年生の頃を思い出しているのか笑っていた。

 

「あと、スネイプ先生は絶対スリザリンの学生に理不尽なことはしないって言うのは大きいかもしれないの」

「まあこれは魔法薬学の授業にならないと分かんないけどな」

「なるほど…… ありがとうございます」

 

 オスカー達が喋っている間に組み分けはどんどん進んでいる様だった。ホグワーツ特急で会ったウッドという少年はグリフィンドールに組み分けされていた。パーシーも普通にグリフィンドールに組み分けされて、クラーナに背中をバンバン叩かれて机に顔を突っ伏していた。相変わらずグリフィンドールのテーブルは騒がしかった。

 

「あっ、ダンブルドア先生のお話が始まるの」

「あの人がダンブルドア先生ですよね?」

「そうだな、今の魔法界じゃ一番偉大で強い魔法使いだろうな」

 

 ダンブルドア先生が立ち上がると、それまで騒がしかった大広間が静かになった。

 

「新入生の皆は入学おめでとう!! 古顔の皆にはお帰りじゃ。今年もホグワーツでの一年が始まる!! まさに喜ぶべきことじゃ」

 

 青い眼がスリザリンのテーブルからも見えた。オスカーは一瞬だけ、ダンブルドア先生と目が合った気がした。

 

「そして、新しい先生を紹介しよう。恐らく今年はこれまでのホグワーツのどの年よりも、実践的な闇の魔術に対する防衛術を受講することができるじゃろう」

 

  ダンブルドア先生が隣に座っているスクリームジョール先生に目線をやった。

 

「紹介しましょうぞ。魔法省は闇祓い局から一年だけ来てもらうことになった、ルーファス・スクリームジョール先生じゃ」

 

 ライオンの様な風貌の魔法使い。ルーファス・スクリームジョールが立ち上がった。オスカーはダンブルドア先生とスクリームジョール先生が並んでいるのを見て、ちょっとだけ意外だった。スクリームジョール先生はいかにも強そうな風貌なので、ダンブルドア先生が圧されて見えると思ったのだが、むしろスクリームジョール先生の方がダンブルドア先生の迫力に苦労してそうに見えたのだ。

 

「ルーファス・スクリームジョールだ。ここの卒業生で、長年闇祓い局に勤めている。今年一年、よろしくお願いする」

 

 挨拶が終わると拍手が鳴り響いた。オスカーが教員のテーブルを見ると、一応全員が拍手をしていたが、スネイプ先生だけはどこかおざなりでスクリームジョール先生の方に視線を合わせていなかった。

 

「続いて面白い通知がある。おっとそれまでにいつもの通知をしておこう。校庭にある森は生徒は立ち入り禁止じゃ、それに授業の合間に廊下で魔法を使ったり、廊下や階段を爆破したり、ポルターガイストを誰かに焚きつけたり、飾り棚を真っ二つに焼き切ったりしてはいかん。これらの規則については管理人のフィルチさんの部屋に長いリストになって張ってある」

 

 エストがオスカーの方を見ていたし、ハッフルパフのテーブルから視線が来ている気がオスカーはしたが、意地でも視線をダンブルドア先生から外さないことにした。

 

「それにクィディッチチームに参加したいものは今から二週間後までにフーチ先生に連絡するように、さてようやく本題じゃの」

 

 じっとダンブルドア先生から視線を外さなかったオスカーには、ダンブルドア先生の青い眼が何かを期待するようにキラキラっと光るのを捉えた。

 

「ホグワーツでは時折決闘クラブが教師の許可付きで開始されておるわけじゃが…… 無論、無許可の決闘クラブがいくつかあることも知っておる」

 

 ダンブルドア先生が大広間を左右に見回すと何人かがビクッと震えた様だった。オスカーもそういう集まりがいくつかあることは知っていた。

 

「今年はわしの名前と、スクリームジョール先生の監督の下で大規模な決闘クラブを行いたいと思っておる。詳細なルールについては後日、スクリームジョール先生から発表があるが、クィディッチと同じく、優勝した学生の所属寮には大量の得点を与えることにした」

 

 大広間が突然ざわつき始めた。どの学生も大きなイベントが増えると言うことになって浮き足だっているようだった。すでに腕まくりをして自分の杖を取り出している者もいた。

 

「ホグワーツ全体での寮同士の交流を深めるため、学生の皆の魔法の研鑽の為にも是非こぞって参加して欲しい。では以上じゃ、皆、お待ちかねの夕食の時間じゃ、さあ、かっこめ!!」

 

 ダンブルドア先生の号令と同時に皿の上に七面鳥や糖蜜パイが現れ、ゴブレットにはなみなみと飲み物が注がれていた。

 

「ねえ、オスカーはでるの? 決闘クラブ?」

「まあみんながでるんならでるかな」

 

 七面鳥にかぶりついていたエストが半分何を言っているか分からない声で尋ねてきていて、オスカーもパンプキンパイを頬張りながら答えた。

 

「クラーナのおじさんが言ってたこと覚えてる?」

「言ってたこと?」

 

 ムーディが言っていたのは、闇の魔法使いに備えて勉強しろと言っていたのと…… オスカーはあまりにも油断大敵!! のインパクトが強すぎてあまり出てこなかった。

 

「レアに一人で戦う技術もだけど、複数人で戦う技術もいるって言ってたの。だからもしかしたら今年の決闘クラブではペアで決闘したりするのかな?」

「そういう決闘もあるのか……」

「もしそうだったら一緒にやろうね、いっつもこういう時にオスカーと一緒にできないもん」

 

 確かに、オスカーは何かと戦ったり、そういう勉強をする時にエストと一緒ではないことが多かった。一番魔法が得意で頼りになるはずなのにだ。もちろん、戦闘の知識や技術という点ではクラーナに軍配が上がるかもしれないが、オスカーには今のエストと決闘するのは、大人の魔法使いと相対するよりも厳しくなると容易に想像できた。

 

「ああそうだな、確かにそう言うことはしたことないしな」

「やった。ちゃんと覚えといてね」

「お二人は仲がいいんですね」

 

 今度は糖蜜パイを食べながら、ちょっと目を細めてジェマが二人の方を見ていた。

 

「それはそうかも」

「仲はいいかもな」

「いや、これは凄くいいって言うんです」

 

 オスカーはジェマの言う通りだと思った。いつも一緒にいるエストと仲がいいのは当然のはずだったからだ。

 

 


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