ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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決闘トーナメント

 魔法生物飼育学は魔法薬学以外ではほとんどないグリフィンドールとスリザリンの合同での授業だった。今日の授業はニーズルと言う、ほとんど猫の様な魔法生物についてだった。

 

「ニーズルは怪しい人物とか、嫌な人物を見分けることができるんだよ」

「へえ、じゃあトンクスとかスネイプには当然噛みついてくれるんでしょうね、魔法生物飼育学がハッフルパフと一緒じゃなくて残念です」

「あんまりトンクスと一緒に危ない動物の授業は受けたくないの」

 

 相変わらず勝手に解説し始めるチャーリーの声を横耳に挟みながら、オスカーはケトルバーン先生の助手をしてるハグリッドの助手という、下請けの下請けみたいな仕事をしていた。

 

「良し、良し、オスカー、そこに木を下ろしちょくれ」

 

 ハグリッドの言葉に従って、魔法で浮かせた木をオスカーは下ろした。これでやっとニーズルの繁殖用の小屋ができるらしかった。

 ハグリッドはニーズルを四頭ほど、出来上がった小屋の中に放った。オスカーにはやっぱり猫と何が違うのかよく分からなかった。

 

「ありがとうな、オスカー。一匹ニーズルを持っていくか?」

「いや、多分飼えないしいいよ」

 

 オスカーは生き物を自分が飼えるとは思えなかったし、自分に猫の様なこの動物が似合いそうには無いのは確かだと思っていた。そもそもさっきケトルバーン先生がニーズルを飼うには魔法省で許可が必要だと言っていたのも覚えていた。

 

「そうか? ニーズルは頭がええから、お前さんが道に迷った時は頼りになるぞ? それにお前さんなら、動物に嫌われることもねえだろう」

 

 何故かハグリッドはオスカーにニーズルを与えたい様だった。オスカーはそんなに自分が道に迷いそうに見えるのかと考え始めてしまいそうだった。

 

「いやほんとに大丈夫だって」

「そうか…… まあお前さんなら、道に迷ってもどうにかなるだろうな」

 

 ハグリッドは何故かオスカーの方ではなくて、未だに何故かトンクスと魔法生物飼学は受けたくないと言う話を続けている三人の方を見ていた。三人は話に夢中でオスカーとハグリッドの方を見ていなかったし、他の生徒達は向こう側でケトルバーン先生がなぜかニフラーと大格闘しているのを実況している様だった。

 

「あー、オスカーは…… あれだ、ほれ、誰と組むんだ?」

「組む?」

 

 ハグリッドが何故か聞きにくそうにオスカーに聞いてくるのに加えて、組むと言う良く分からない単語が出たため、オスカーは困惑しざるを得なかった。ハグリッドはまだオスカーの方を見ずに三人の方を見ながら喋っていた。

 

「お前さんは組む相手が沢山おるだろうが…… できればレアと組んでやってくれんか? あの子はちょいと元気になったが、両親がおったころは比べものにならんくらい元気だったし、ちょいと自信をつけてやればいいと思っとる」

「レアと? だからハグリッド、組むってなんなんだ?」

 

 レアがもっと元気だった? 確かに時々、感情を爆発させそうになるレアを見ると、もともとの性格はもっと明るかったり、活発だったりしたのかもしれないと思うところはあったが、やっぱり組むというハグリッドの言葉がオスカーには分からなかった。

 オスカーがもう一度質問したことで、ハグリッドはハッとした顔になった。

 

「おお、ちょいと早い話だったかもしれん。今のは聞かなかったことに…… いや、やっぱり今の話は覚えといてくれ、すぐわかるだろうから」

「すぐわかる?」

 

 ハグリッドはそう言うなり、ケトルバーン先生の所へニーズルの小屋が完成したことを言いに行ってしまった。授業の時間はそろそろ終わりだったし、ハグリッドがケトルバーン先生とニフラーの戦いを仲裁しているのを見ると、もう授業は終わりそうだった。

 

「オスカー、ハグリッドの手伝いは終わったんですか?」

「終わったみたいだな、ケトルバーン先生を救出したら授業も終わりだと思う」

 

 クラーナだけが隣まで来ていた。チャーリーとエストはどこから抜け出したのか、小屋にいたはずのニーズルの一匹を杖で捕まえていた。またチャーリーのうんちくが始まっているのが口の動きだけでオスカーには分かった。

 

「オスカーもこの後、決闘クラブに行きますよね?」

「行こうと思ってるけど…… ただ、夕方にちょっと話があるからってダンブルドア先生に呼ばれてるから、あんまり長くなると途中で帰らないとダメかもな」

 

 この授業の後には決闘クラブの説明が行われる予定だった。オスカーもエストに言われて行くつもりだったが、その後にはダンブルドア先生との予定が入っていた。クラーナはオスカーの話を聞いて、少しだけ眉を潜めた。

 

「ダンブルドア先生がですか? オスカー一人だけを?」

「ああ、多分そうだと思うけど……」

 

 オスカーは少し迷った。夏休みに送った手紙の内容はダンブルドア先生とキングズリーしか知らないはずだったし、他の誰にも話してはいなかった。それにオスカーは誰かに心配されるのは嫌だったので、何をダンブルドア先生に聞いたのかを喋るつもりは余りなかった。

 しかし、クラーナはオスカーの周りの同年代の中で唯一、オスカー自身の過去に何があったのかを知っているはずだったし、オスカーが何かどうしようも無くなった時に聞く相手として、クラーナが一番頼りになると思っているのは確かだった。

 

「ふーん、何か予想はついているんですか? ダンブルドア先生との話の」

「話の予想……?」

 

 オスカーは全くダンブルドア先生がどんな話をするのかの予想はついていなかった。はっきり言って、自分の頭で思いだそうとする以外の解決策が浮かばなかったのでダンブルドア先生に相談したのだ。

 

「全然分からないな」

「なんですかそれ? 何か怪しいですね、ダンブルドア先生ですから意味の無いことはしないと思いますけど。もうファッジを爆破したからって退学になるとは思えないですし……」

 

 オスカーがほとんど何も言っていないのに真剣に考え始めるクラーナを見て、オスカーはダンブルドア先生に何を相談したのかをクラーナに言うのをやめた。まだどうにもならないわけでは無かったし、問題に真正面から向き合うだろうクラーナに言えば、助けてくれると思っていたが、オスカーは目の前のクラーナをそんなに心配させたくは無かったのだった。

 あごに手をやって、真剣に考えているクラーナをオスカーが見ていると、ケトルバーン先生とハグリッドが生徒達を呼び集める声が聞こえた。

 

「まあとりあえず、決闘クラブに行きましょう。トンクスを今度こそ合法的にボコボコにしてやりますよ」

「エピスキーの準備はしとく」

 

 もし決闘クラブが今年は毎週の様に行われるのなら、オスカーは自分はマダム・ポンフリーの手伝いができるくらい治癒呪文が上手くなってしまうだろうと考えながら、生徒達が集まる方へ向かった。

 

 

 

 決闘クラブは以前、トンクス先生とスネイプ先生が開いた時と同様に大広間で行われる予定だった。オスカー達は連れ立って大広間へと入ったが、先に入っていた生徒達と同様に昼食の時とは違う大広間の様子に目を見張った。

 一体何をどうやって短時間で用意したのかは分からなかったが、大広間には岩肌が露出した山の一斜面、木々が生い茂る森、ホグズミードに似た街並み、図書館…… といった場所が再現されている様だったのだ。

 

「すごいねこれ、変身術?」

「うーん…… 多分変身術だけど、大広間に呪文をかけてるわけじゃなくて、検出不可能拡大呪文を使った何かを持ってきて大広間に置いてるのかな?」

 

 理屈はオスカーには分からなかったが、この色んな場所の再現が何を目的にしているのかは推測できた。

 

「決闘場じゃなくて、色んな場所での決闘をさせるのか?」

「そうみたいですね。まあ魔法使いが何も無いただっぴろい場所に立って、二人でお辞儀して戦うなんて普通はあり得ないですから」

「へえ、場所が違うと色んな戦い方がありそうね。オスカー、邪魔だからって燃やしちゃダメよ」

 

 ちょっと自分が何かをするとこれだと、オスカーは思った。少なくとも決闘相手が見つからないからと言って、悪霊の火を振りまく様になれば、それこそ死喰い人以上に闇の魔法使いになってしまうはずだった。

 

「トンクスの発想の方がヤバイだろ。チャーリー並みになってきたぞ」

「それはいくら何でも言いすぎだわ。謝るなら今の内よ」

「トンクスが色んな意味で危険なのは一年生の頃から分かってることですね」

 

 広間の入り口で生徒達が押し合い圧し合いをしながらガヤガヤと騒いでいると、スクリームジョール先生が少し高くなっている岩肌の部分に現れた。隣には今回もスネイプ先生が立っていたし、今回はなんと他の各寮の寮監たちもその後ろにいる様だった。

 チャーリーとエストもオスカーの傍まで寄ってきた。生徒達の視線は先生の方を向いていたが、下級生達はつま先立ちをしても見えない状況だった。

 

「今回のこの企画を始めるに当たって、説明を始める。最初にダンブルドア校長からこの企画を決闘トーナメントと呼ぶと連絡があった。そのため以後はそう呼称する。次にこの決闘トーナメントの意義だが、防衛術の実践を目的として、その実践力の向上を行う。実際の演習と優秀な例の見学を同時に行うことでそれを可能にする」

 

 事務的な口調だったが、生徒達のざわざわは少しボリュームが小さくなり、その説明を興味津々で聞いているのが音だけでも分かる。

 

「では便宜的にはその実践を競技と呼ぶが、その競技は多種のフィールドにおける二対二の決闘とし、先にチーム二人の杖が使用不能になった場合及び、失神した方が敗北とする」

 

 エストの言った通りに二人ペアでの決闘の様だった。フィールドといい、人数と言い、どうも生徒達の考えていた決闘とは違っていたようで、ざわざわはどんどん大きくなっているようだった。

 

「ね、言った通りでしょ? オスカー」

 

 エストがオスカーの隣でささやいた。そしてオスカーはさっきのハグリッドが言っていたのが恐らくこれだろうと考えた。確かにこのトーナメントで活躍できればもっとレアにも自信がつくかもしれなかった。

 

「そして、年齢制限は今回設けない。もちろん上級生の方が有利ではある。しかし実際の状況では術者同士の技量が異なることが当たり前であるし、自分の力量以上の相手の方が練習になるだろう」

 

 つまり、一年生ごと、四年生ごとの様な区分は無いようだった。オスカーは七年生や六年生と戦うのは相当難しいと考えた。上級生なら無言呪文さえ容易に使ってくるはずだったからだ。

 

「流石にビルと決闘するのは厳しいことになりそうですね……」

「やっぱりビルって決闘が強いわけ? ハッフルパフにも聞こえてくるくらいだし」

「グリフィンドールの上級生だと抜けてますよ、主席は多分確定だと思いますし」

 

 オスカーもビルの決闘の腕の噂は聞いたことがあった。いつもやたらと顔が映えるのに加えて、決闘の腕まであるので女の子の黄色い声が絶えないという噂がスリザリンにすら聞こえてきていた。

 

「さらに今回の決闘トーナメントの優勝者の所属寮には一人につき、百五十点の得点が与えられる。準優勝では七十点、三位には五十点だ」

 

 単純に二人いれば三百点の得点が入ると言う事なのだろうか? これではもはやクィディッチの試合があっても、その寮に学期末の寮杯は確定してしまうと簡単に予想できた。生徒達のざわざわがさらに大きくなった。

 

「そして重要な条件を付け加える。登録単位である一チームであるが、同じ寮同士でのエントリーは禁止する。必ず違う寮同士の生徒でのチーム構成を求める。学年の違いは禁止しないが、必ずこの違う寮というルールは順守すること。この競技は闇の魔術に対する防衛術の講義の一部である以上、その最も重要な要素である協力性を重視するため、このルールを設定する」

 

 生徒達のざわざわはもはやざわざわでは無かった。オスカーの周りの生徒達が明らかに困惑している顔のようだった。ホグワーツでは基本的に寮同士は競い合う関係にあるのだから、その困惑は当然のモノではあった。

 オスカーは隣のエストの顔が止まっているのが見えた。どうも今回も、オスカーはエストと一緒に決闘と言った荒事には挑戦できそうになかった。

 

「そして、エントリーに関してさらに告知する。トーナメント制であってもこれだけの量の人数では時間がかかりすぎる。よって今回と二週間後の二回目の時間を使って、エントリー者をしぼる。具体的にはエントリー希望者は一対一で決闘してもらい、先に三勝したものがエントリー可能だ。敗北回数は数えない。ただし、今回と次回の二回の間に三勝しなければならないし、決闘相手はこちらの魔法で決定する」

 

 もやは生徒達は口々に話合っていた。生徒達がしている顔は様々で、不安そうな下級生、もう杖を取り出しているグリフィンドール生、真剣にスクリームジョール先生の方を見ている集団、何か耳元でささやきあっているスリザリン生など、皆、この短時間で色んなことを考えているようだった。

 

「へえ面白そうじゃないですか、とりあえず三勝しないとエントリーすらできないってことなんですね」

「そうだね、とりあえず勝たないとペアを決めることもできなさそうだね」

 

 グリフィンドールの二人は割と乗り気なようだった。今回はスリザリン生の集団性はあまり役に立たなさそうで、勝気なグリフィンドール生の方が向いてそうであった。

 

「それではエントリー希望者は大広間にある白い線より前にでることだ、前にでた時点で出場するとみなす。また、ペアの決定については今回の結果を受けて、一か月後の三回目の最初までに取り決めること」

 

 スクリームジョール先生が杖を振ると、さっきまであった色んなフィールドが消えて、いつもの大広間と、いくつも、オスカーの腰くらいまではありそうな高さの決闘用のステージが現れた。スクリームジョール先生の言った、白い線も大広間の真ん中あたりに現れた。

 生徒達はざわざわしながらも何人かが白い線に向かって進み始めた。当たり前ではあったが、五年生以上の生徒が多いようだった。

 

「私たちも行きましょうよ、一年生でやったエストを倒すための修行がようやく生きてくるわね」

「まあ四年生相手なら勝てるんじゃないですかね?」

「七年生や六年生相手だと難しいと思うんだけどなあ」

 

 他のみんなが喋りながら白い線に向かっているのに、エストはだんまりを決め込んで歩いていた。オスカーはこれが怒っているときの様子だとわかっていた。少なくともこの状態のエストと決闘するのだけは避けたいと感じざるを得なかった。

 やがて、エントリー希望者の生徒達はだいたい線を越えたようだった。スリザリン生のテーブル全体の人の数より少ないくらいだったので、二百人くらいではないかとオスカーは見積もった。

 これ以上、白い線を越える生徒がいないのを見て、スクリームジョール先生がまた解説を始めた。

 

「それではエントリー希望者を締め切る。名前を呼ばれた者は各決闘ステージへ向かうこと、それぞれのステージでは先生方がそれぞれ一人ついていただく。またエントリー希望者で途中で棄権するものはその都度、そこにおられるフィルチさんの名簿に杖を向けに来るように。ではエントリー希望者でないものも、以後は線を越えて良い」

 

 ステージは全部で十個ほどあるようだったので、生徒達全員が決闘するのは二十回ほど行わなければならない様だった。午後全ての時間を使うとは言え、二回で時間が足りるのか怪しいとオスカーは思った。それにオスカーは夕方にはダンブルドア先生との約束があった。

 

「では、一回目の選考を開始する……」

 

 ステージを担当する先生の名前と、決闘する生徒の名前が呼ばれていた。ほとんどのステージが呼ばれ終わって、最後のステージ、マクゴナガル先生のいるステージだけが残った。大広間の真ん中で一番目立つステージだった。それに、オスカー達からはまだ誰も呼ばれていなかった。

 

「マクゴナガル先生が担当されるステージは…… ウィリアム・ウィーズリー、オスカー・ドロホフの二人だ」

 

 グリフィンドールとスリザリンの集団から声があがった様だった。オスカーはどうもついていないと感じた。エストの機嫌は悪いし、チャーリーの兄でホグワーツでも決闘の腕で知られるビルが相手とは完全にババを引いたと思ったからだ。それにビルは自分と違って人気者だったので、比べられるのも嫌だったのだ。

 

「面白いカードですね」

「ビルとオスカーが医務室送りになって出場できなくなれば、ハッフルパフの勝率が上がるわ。オスカー、ビルと相打ちが一番よ」

「ママに言ったら学校に苦情のふくろうを送ってきそうだね」

「応援してるの」

 

 オスカーが人込みから前に出る途中で、スリザリン生の何人かから肩を叩かれた。中にはイケメンをぶっ飛ばせみたいなことを言う生徒もいた。最後にクィディッチチームのキャプテンがオスカーの背中を思いっきり叩いたので、オスカーは人込みから出たとたんに倒れそうになった。

 ビルはすでにステージの前にいて、涼しげな顔をしていた。決闘前だと言うのに、特に緊張しているようには見えなかった。

 

「お互いついてないな、クラーナが嘘を言うとは思えないから、オスカーの決闘の腕は相当なんだろう?」

「生徒と決闘したのはエストくらいだから、自分がどれくらいなのかは分からないんだけど」

「エストの相手をできる相手を相手するなんて、ついてないと思うだろ?」

 

 ビルはオスカーにそう言ってウィンクしてから、決闘を始める定位置についた。オスカーも同様に動いた。マクゴナガル先生が杖を振って、保護用の青い泡がステージを包んだ。他のステージも同じ青い泡に包まれ始めていた。

 

「それでは監督の先生の合図で始めること、監督の先生が終了を告げれば速やかにやめること、先生の指示を無視した場合。即座に失格とみなす」

 

 さっきオスカーがビルに言ったことは本当だった。オスカーは去年は時々、チャーリーやレアの練習は手伝ったが、ちゃんとした決闘をしたことは一年生のエストが最後だったし、それ以外では髪飾りとキャビネット棚の一件があるだけだったので、生徒と決闘したことはほとんど無かったのだ。

 マクゴナガル先生が相変わらず厳格な顔でビルとオスカーを見た。スネイプ先生と違って、マクゴナガル先生がこういう場所でえこひいきをするとオスカーには考えられなかった。もちろんクィディッチなら別かもしれないが。

 

「ウィーズリー、ドロホフ、準備はいいですか? 今回は実際の決闘をイメージしているので、お辞儀はありません。合図をしたら始めるように」

 

 オスカーは杖を上げて、ビルに向かって半身になった。ビルの力量が分からない以上、これまで戦った最強の相手をイメージしなければならなかった。

 

「では、始め!!」

 

 ノータイムでビルが無言で杖を振り、赤い光線が発せられた。オスカーは体をずらしてそれを躱した。杖の方向から光線の位置を見て、呪文を使わずに躱せるものは躱せ、一年生にクラーナと練習した内容は、ヴォルデモートやマルフォイとの戦いでそのままオスカーの体に染みついていた。

 無言呪文であっても、杖を振った瞬間は隙が生まれる。その瞬間を逃さずに、自分のリズムで相手を崩さないといけない、オスカーは自然とその動きができることを実感できていた。負けてもリスクの無い戦いは久しぶりで、オスカーは何か体が軽い気がした。

 

 オスカーが杖を振るとビルの足元がスポンジ状にふわふわになり、ビルの態勢が崩れた。直接攻撃呪文を発するのではなく、周りの状況を変化させる、これはヴォルデモートがオスカー達に何度もしかけてきた技だった。相手の心が読めない以上、相手が呪文を防げない状況をつくりださないといけないのだ。オスカーはそれのメリットを理解していた。

 ビルに対して距離を保ちながら、武装解除呪文をオスカーは連発したが、盾の呪文でビルに全て弾かれ、ビルは態勢を立て直した。

 

「凄いな、グリフィンドールの決闘クラブに今度入らないか? おっと…… マクゴナガル先生、失礼」

 

 決闘クラブは許可されているモノは無かったはずなので、ビルの言うものは隠れてやっているモノのはずだった。マクゴナガル先生の冷たい眼がビルに向かっていた。

 ビルが杖を振ると同時にオスカーも杖を振っていた。ビルの杖からはひもが、オスカーの杖からは緑色の炎がそれぞれ出ていた。呪文がぶつかり、ひもが黒く燃え始めたが、またビルが杖を振るとそれは矢に変わった。

 

「デプリモ!! 沈め!!」

 

 火とひもへのビルの変身術と同時にオスカーは叫んだ。ビルの足元のステージが大きく崩れて、完全に形を保たなくなった。無言呪文は戦闘では有効だったが、発音した方が威力や発動率が上がるのは事実だった。

 ビルがまた態勢を崩している間に、オスカーはフリペンドで矢を泡の外へと弾き飛ばした。オスカーは確信した、これは勝てる勝負だと。

 オスカーは崩れて低い位置にいるビルに向かって、失神光線と武装解除呪文を撃ち続けた。呪文は高所から撃つべし、これもまた、一年生の時にクラーナに暗記させられそうなほど言われた事だった。上から撃った方が、相手の体を狙いやすく、逆は狙いにくいのだ。

 ビルは呪文を避けるか弾きながら崩れた場所から動こうとした、オスカーは相手に杖を振る間を与えなかった。崩れて斜めの部分にビルが差し掛かった時点で、オスカーは杖をステージの残骸に振って、斜めの部分を滑らかに変えた。

 決定的だった。呪文を撃ちこまれている最中に足を取られれば避けることは困難だった。紅い光線がビルの右手に当たって、杖がオスカーの方へ飛んできた。

 

「そこまでです。この決闘はドロホフの勝ちです」

 

 マクゴナガル先生がそう言うと、スリザリン生から歓声が上がった様だった。ビルが崩れたステージから上がって、オスカーに手を差し出した。オスカーも手を出して握手した。

 

「ほんとに凄いな。今のままでも、呪い破りの実技試験に受かるんじゃないかな、オスカーなら」

「いや、最初の呪文を避けたのが運が良かったんだ」

「そんなことないよ、なんなら今回のこのトーナメント、オスカーに賭けてもいいし…… そうだ、この後三勝できたら、オスカーにペアを組むように申し込みにいこうかな」

 

 オスカーはビルの杖を返して、二人でみんながいる位置に歩いて行った。ビルはいつもオスカーの周りにいる面子を一通り眺めた。

 

「いや、やっぱりさっきのは忘れてくれ。勝てない勝負はするわけには行かないな。僕はグリフィンドールだけど、ちょっと分が悪すぎるね、勇気がおきないよ」

 

 そう言って、ビルはまたオスカーにウィンクして、グリフィンドールの六年生らしき集団の所へ戻っていった。オスカーは戻る途中でスリザリン生に肩をさっきより強く叩かれた。良くグリフィンドールをぶちのめしただの、イケメンが負けて気分がいいだのと色々と言われた。

 

「やるじゃないの、なんかグリフィンドールの生徒が賭けをしてるらしいけど、オスカーに賭けようかしら」

「自分の寮に賭けろよ」

「そうなの」

「うーん、エストもいますしスリザリンの点数が上がりすぎるのは良くないですね」

「クラーナに稼いでもらわないと、ビルが出場できなくなったら大変だよこれ」

 

 ちょっとエストの機嫌が直っている様だったので、オスカーは割と一安心していた。それに、やはりマルフォイやヴォルデモートとの決闘は確かに自分の経験として、確かに感じることができたのも大きかった。相手が誰なのかによるが、オスカーの感覚ではエストやクラーナと組めば、マルフォイやビル一人相手なら確実に勝てるのではないかと考えていた。

 その後、オスカーとエストは先に三勝して勝ち越した。そもそもスクリムジョール先生が呼ばないと決闘できないので、先にエントリーを決めるのはかなりの運がいる様にオスカーは感じていたが、他のみんなも二勝していたし、意外なことにレアが出ているのも遠めから見えたのだった。

 

「やっぱり、ビルかクラーナと組むのが一番勝てる気がするの」

「まあそうだろうな、見た感じ下手な七年生よりよっぽど強い気がするし」

 

 先に終わってステージを見回していても、グリフィンドールの二人の杖使いは抜けて見えた。オスカーはビルに勝てはしたが、障害物等の変身術を使いやすい状況で戦えば、一対一ではかなり厳しいのではないかと、その後の決闘を見て考えていた。

 

「あ、クラーナが勝ったの」

「トンクスとチャーリーもいけそうだな、この回でみんなエントリーできるんじゃないか」

 

 クラーナはレイブンクローの五年生を何もさせずに下して、スネイプ先生が嫌な顔をしているステージからこちらに向かってきていた。その後ろではトンクスとチャーリーもほとんど勝てそうな感じだった。どうも、無言呪文のスキルは大きい様だった。

 

「勝ちましたよ、とっととエントリーを決めちゃいましょう」

「そうなの、クラーナ、エストと組まない?」

「えっ…… エストとですか?」

 

 エストはクラーナと組むことにしたようで、オスカーはちょっと手ごわすぎると考えた。はっきり言って、ほとんど勝てる気がしなかったのだ。グリフィンドールの賭けに参加できるのなら、オスカーは十ガリオンくらい二人のペアに賭けたい気分だった。

 

「だって、ビルかクラーナと組むのが一番勝てそうだもん」

「エストはそんなに優勝を狙ってるんですか?」

 

 オスカーにはどこかクラーナが困っているように見えた。チラチラとオスカーの方へ視線を送ってきていたからだ。

 

「優勝だと百五十点だよ? クィディッチで優勝しても、こっちで一位を取れないと意味が無くなっちゃうの」

「そ、それはそうかもしれませんけど……」

 

 ちょっとどもっているクラーナにエストが畳みかけていた。出会った最初の頃のエストのテンションについていけないクラーナの様だとオスカーは思った。

 

「ちょっと、私も勝ってきたわよ。あれ? エストはクラーナと組むの?」

「なんかそうみたいだけどな」

 

 トンクスも勝って帰ってきたようだった。一番奥のステージではチャーリーがちょうど勝っているのが見えた。全員これでエントリーできそうだった。エストとクラーナはまだ何か話していた。

 

「ビルはまだ終わってないみたいだし、それに上級生と組むかもしれないし……」

「それはそうですけど…… その…… 私は……」

「へえ? 戦略的な妥協ってことかしら? じゃあオスカー、私と組みましょうよ」

「ああだいじょ……」

「トンクスはダメです!!」

「トンクスはダメなの!!」

 

 オスカーとトンクスはいきなり二人が入ってきたので驚いた。こんなに息の合っている二人を見たことはほとんど無かったのだ。

 

「な、何なのよ。二人で組むんじゃなかったの」

「トンクスはダメなの!! また劇の時みたいな悪戯するに決まってるもん」

「そうですよ、どうせ私たちの顔に変身してまたなんかするじゃないですか!!」

 

 トンクスの信用はゼロどころかマイナスだった。確かにトンクスの性格を考えるとまた変身して何かをやらかすのは考えられることだった。オスカーもそれには同意しざるを得なかった。この夏休み、それでかなりのダメージを受けていたのを忘れてはいなかったのだ。

 

「しないわよ、ハッフルパフの点数が稼げるチャンスだし、だいたいそんなにオスカーがとられるのが嫌なら嫌って言えばいいじゃないの」

「そうじゃなくてトンクスが信用できないの」

「未だに週間魔女の件でふくろう便が届くんですよ、分かりますか? ウェールズの魔女なんていくら送ってくるなって書いても、毎回反吐がでそうな手紙を一週間に一回は送ってくるんですよ!! ふくろうを毎回変えて!! 前なんかふくろうじゃなくてフラミンゴが運んできましたよ!!」

 

 オスカーとエストもピンク色の鳥がグリフィンドールのテーブルに向かっているのを先週目撃したので、クラーナがウソを言っているわけではないと理解していた。

 

「私が一番信用できるってことを分かってないみたいね。だいたい私は二人みたいに杖も使わずに誰かさんの家でクリスマスに取っ組み合ったりしないわ」

「ベッドでスコージファイが必要な状況になったりしないの」

「コロポータスで扉閉めないと音が聞こえそうな状況になったりしません」

「何なのよ…… ハッフルパフのみんなの方が全く信用できないじゃないの……」

 

 三人が大騒ぎして話にならなそうだったので、オスカーはチャーリーが帰ってくるのを待って、ペアを組んだ方が問題が起きずに済む気がしていた。男友達の方が疲れない気がしたのだ。

 

「ほら、レア、今がチャンスよ」

「レイブンクローの点数を掴むチャンスでもあるわ」

「行っちゃいなさいよ」

「え、ええ……」

 

 いつの間にかオスカーの後ろに青色のネクタイを付けた集団がいた。レアといつかホッグズ・ヘッドに行く前に見た、レイブンクローの集団だった。集団に押し出されて、レアが前に出てきていた。

 

「オ、オスカー先輩……」

「どうしたんだ?」

「レアは三勝したんです」

「レイブンクローでは一番早く」

「一度も負けてないんです」

 

 レアが答える前に後ろの集団が答えている様だった。オスカーは割とレイブンクローのイメージが、もっと勉強最優先でギスギスしているイメージだったので、この集団は何か新鮮だった。

 

「凄いな、五年生とかでもまだ勝ててない人がほとんどなのに」

「ありがとうございます…… それで、その」

 

 レアが横目でまだ騒いでいる三人を見た。トンクスがハッフルパフを呪おうとしている話や、どうやってフラミンゴやサンダーバードを止めるのかという良く分からない話をしているようだった。

 

「先輩はまだ誰とも組んでないんですか?」

「なんかあの三人は大騒ぎしてるし、ビルはやっぱやめたって言って戻ったから、まだ組んでないな、チャーリーはケトルバーン先生となんか喋ってるみたいだし」

 

 レアはオスカーが三勝したことをもう知っているようだった。やっぱりレアは横目で三人を申し訳なさそうに見ていた。

 

「じゃあ…… その、ボクと組んでもらえませんか? 迷惑じゃなかったらですけど……」

 

 レアがそう言うと後ろのレイブンクローの集団がガッツポーズをしているようだった。オスカーは三人がうるさいのも、ハグリッドに頼まれたのもあったし、それに夏休みにトンクス先生に言われたことを憶えていた。先生が言っていた違う人云々は、組み分け帽子の言っていたことを考えればレイブンクローかハッフルパフの人間が当てはまっている気がしたのだ。

 

「大丈夫だ。俺もせっかく勝ったのに、一緒に出る人がいないとかなったら悲しいからな」

「ほんとに大丈夫ですか……?」

 

 またレアは三人の方を見た。三人は今度はどうやったら、アンデスコンドルを大広間に入れないで済むかという訳の分からない話をしているようだった。

 

「大丈夫だろ」

「じゃ、じゃあよろしくお願いします」

「ああ、よろしく」

 

 レアはそのまま、レイブンクローの集団に取り囲まれて帰っていった。オスカーは取りあえず意味の分からない事を言っている三人を止めることにした。

 

「だから、ヒッポグリフかセストラルを使えばいいの」

「そんなのチャーリーかハグリッドみたいな魔法生物バカしか仕付けられないでしょう」

「箒で捕まえればいいのよ」

「レアと組むことにしたから」

 

 オスカーがそう言うと三人全員の視線が集まった。

 

「ほらね、私で我慢しとけば良かったのよ。またレアポイントをオスカーが稼ぎまくるわよ」

「レアポイントってなんか別の意味になってない?」

「三勝する前に言っとくべきでした……」

 

 三者三様の反応の様にオスカーには思えた。エストは何も考えて無さそうな顔、トンクスはまたかという顔で、クラーナはちょっと後悔した顔だった。ちょうどチャーリーもケトルバーン先生との話が終わってやってきた。

 

「三勝してきたよ? なんか変な空気だね?」

「チャーリー、私と組みましょうよ。なんかクラーナとエストはレアに横からオスカーをかっさらわれたみたいだし」

「いいけど、じゃあ、エストとクラーナが組んでるの?」

「そうみたいだな」

 

 結局、エストとクラーナのペアが結成されてしまった様だったので、オスカーは七年生や六年生に勝てても、優勝は難しいのではないかと考えていた。

 

「ちょっと二人が色んな意味で強すぎて、逆に後悔してる気がするね」

「確かにな、声をかけにくいだろうし」

「オスカーあんたやっぱりアホなんじゃないの?」

 

 オスカーは他の人に言われるのと、トンクスにアホと言われるのでは色んな意味で効果が違う気がした。

 

 


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