ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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オーク樽熟成蜂蜜酒

 

 一回目のホグズミード休暇がやってきた。五人は玄関ホールに集まって、どこを周るのか談義をしていた。

 

「いい加減ちゃんと三本の箒で飲みましょうよ、なんかいっつも誰か居なかったり、余計な奴が居たりするじゃないですか」

「そうね、前回はあの女が居たものね」

「その前はトンクスとオスカーがどっか行ってたの」

 

 三本の箒でオスカーは落ち着いて飲んだことが無かった。前回はリータ・スキータが現れて杖を取り出すはめになっていたからだ。クラーナの言う通り、普通のホグワーツ生が楽しんでいるような楽しみ方をオスカーはしてみたかった。

 

「いいんじゃないか、俺も落ち着いてなんか飲んでみたいし」

「ただ、先にダービッシュ・アンド・バンクスかどこかで買い物しない? 次の休暇はクリスマスの直前だしね」

 

 確かにクリスマス休暇までは休暇は無かったし、オスカーはチャーリーの発言を聞いて、ジェマが言っていた事を思いだしたのだった。

 校長室での出来事が余りに印象深すぎて、今の今までオスカーは忘れていたのだ。そして、今年のクリスマスプレゼントはちゃんと考えろと言っていたことは、どう考えても、ジェマと一番接点があるのはエストだったので、エストに対するプレゼントを考えろということなのだろうとオスカーは考えた。

 

「うん、じゃあ買い物してから三本の箒に行きましょ。あの辺の店でテキトーに買い物してから順次集合ね」

「エストも買い物はしたいしそれでいいかな」

「じゃあとっとと行きましょう。どうせオスカーがフィルチに捕まるに決まってますよ」

「もうあれは毎回やりすぎて新鮮味が無くなってるよね」

「そろそろ濡れ衣を晴らしたいんだけどな」

 

 フィルチがホグズミードへの外出の度にオスカーをみっちりと取調べをするのはもう恒例行事となっていた。毎年、フィルチのオスカーに対する疑念は積もりに積もっていっていたのだ。

 

 

「いいか、もし今年度お前が棚を燃やしただとか、ピーブズをけしかけてシャンデリアを落としただとか、廊下や階段を爆破しただとか、立ち入り禁止の場所に入ったみたいな噂を聞いたら、校長先生やスネイプ先生が何と言おうと事務所で逆さづりにして、退学処分にしてやるからな」

「校則は破ったことがないはずなんだけど」

 

 フィルチはオスカーの許可証を穴が開くほど睨みつけ、なんとか偽物だと証明しようとした後、オスカーの顔に鼻を近づけて、まるで罪の匂いを嗅いでいるかの様に鼻をならした。

 オスカーは正直、後ろがつまっていたのでさっさと進みたかった。後ろでは今年初めてホグズミードに行くであろう三年生達がオスカーの事を指さして何か喋っている様だった。

 他の人の四倍は時間を使って、やっとオスカーはホグズミード行きを認められた。これなら秘密の通路を使った方がリスクはあるものの楽なのではないかとオスカーは考えてしまった。

 

「フィルチにも下級生にも大人気じゃないのオスカー先輩」

「どういう意味だよ」

「どういう意味も何も、決闘トーナメントで目立ったからじゃないですか?」

「ビルとオスカーは一番目立つ場所だったの」

「最初のあれは目立ってたし、あの後オスカーが相手してたのハッフルパフの主席とレイブンクローの監督生だったからね」

 

 ちょっとオスカーは困惑していた。ホグワーツに入ってから悪い意味で目立つことはあったが、そうではない目立ち方は余りしたことがなかったからだ。劇は鎧をつけていたからほとんど顔は出なかったし、週刊魔女の写真も基本的には後ろ姿しか映っていなかった。

 

「じゃあ俺はやたら損な相手と当たってたってことか?」

「まあでも、エストやクラーナの相手をするよりましなんじゃないかな?」

「それは間違いないわ、私的には二人がぶつかってぶっ飛ぶのが一番寮のためになると思ってたんだけど」

 

 その二人が消えれば、レイブンクローとハッフルパフが得をするのは間違いなかった。しかし、今の発言は二人のトンクスポイントを大幅にダウンさせた様だった。

 

「じゃあうちの寮ではニンファドーラ対策術を寮生に周知しておきます」

「杖でどこを先に狙うとか、どんな術を使うかとかグリフィンドールとスリザリンで共有するの」

 

 共通の敵がいればスリザリンとグリフィンドールでも団結できるのだろうか? こんなことで団結されても、グリフィンドールやスリザリン本人は困るのではないかとオスカーは思った。

 

「ペアを組む時と言い、敵にする相手を間違えてるわよ。目標を間違えると大変なことになるってスクリムジョール先生が言っていたわ」

「僕もトンクス対策術を習った方がいいかなあ」

「ふくろうの必須科目だろ」

 

 五人は騒ぎながらホグズミードへの道を行き、店屋が立ち並ぶ通りについた。今回は本当に珍しく、イロモノな場所に行く予定が無かったので、みんなバラバラに店に入って行った。

 オスカーはその中でチャーリーがさっき言っていたダービッシュ・アンド・バングスという魔法の道具を売っている店に入った。エストが好きなモノや、クラーナから前回もらった秘密発見器のことを考えると、本以外で二人に渡すものは魔法の道具が一番考えやすいと思ったのだ。

 万眼鏡やかくれん防止器と言った定番の商品や、メラメラ眼鏡のような何に使うのか良く分からない商品も沢山置いてあった。しかし、どうもオスカーはクリスマスに渡すモノとしていいモノがあると思えなかった。

 

「なんかいいモノあったの?」

 

 オスカーが商品棚の前で悩んでいると、後ろにトンクスが来ていた。オスカーはこういう事を一番聞きやすそうなのは、からかわれることを除けばトンクスだと考えていた。

 

「ないからちょっと考えてるんだ。なんかジェマから今年のプレゼントはちゃんと考えろとか言われたし」

「あの二人はあんたから貰えたらそれだけで喜ぶんじゃない?」

 

 何も言っていないのに、誰に対するプレゼントを選んでいたのかはバレバレであったようだった。

 

「そんなこと言われてもな…… じゃあトンクスは何が欲しいんだ?」

「はあ? あんたほんとアホになってるんじゃないの? 二人の話をしてるのに私の話してどうなるのよ。稼ぐポイント間違ってるわ」

 

 トンクスはそばに置いてあったメラメラ眼鏡をかけ、バカにするように手をひらひらと振って、その上、鼻でオスカーを笑う。

 

「そのメラメラ眼鏡でいいのか?」

「私は週刊魔女のバックナンバーをプレゼントするわ」

「それはやめてくれ」

「じゃあアホなことはやめるべきね」

 

 オスカーはもうあれ以上週刊魔女を見るのはごめんだった。ペンスは五冊も週刊魔女を持っていたのだ。それにフレッド・ジョージが思いだしたように引き延ばした写真をドロホフ邸のタペストリーにはるので、いい加減うんざりだったのだ。

 

「そうだ…… なんかプレゼントの事を言ってただろ、夏休みにお菓子の話をしてた時に」

「手作りがどうのこうのって話? ほんとあんた良く分からない話は覚えてるわよね」

「その話だ。確かに手作りの方がそれっぽいかもな」

「男から手編みのセーターとか手作りのお菓子って、流石になんか違うでしょ」

 

 自分で作ったセーターやお菓子を取りあえず目の前のトンクスに渡す絵面をオスカーは想像したが、はっきり言ってあまりいい風景になると思えなかった。

 

「やっぱりなんか違うな、それで? トンクスだったら何が欲しいんだ?」

「あんたなんだかんだ言って諦めがほんとに悪いわよ。そうね…… 誰かがバカなことする前に分かるモノとかが欲しいわね。バカなことをするって分かったら忍びの地図を見て、エストかクラーナに追いかけさせるわ」

 

 オスカーはトンクスの言っていることを理解しようとして、馬鹿馬鹿しいメラメラ眼鏡をかけた顔をじっと見つめたが、馬鹿馬鹿しいということしか分からなかった。

 

「分かった。ちょっとクリスマスまで考えてみる。今日はもう三本の箒に行こうと思うけど、どうする?」

「エストとチャーリーがクィディッチの用具を見てたからそっち寄ってから行くわ。多分、クラーナのアホが早々に買い物終わらしてるはずだから捕まえといて」

「ああ合流して席とっとけばいいんだろ」

「ファイア・ウィスキー飲ましてお持ち帰りしちゃダメよ」

 

 今度はメラメラ眼鏡を外してウィンクして出て行ったトンクスをオスカーは見送った。オスカーはなんだかんだ言って、自分の事を聞かれるのが実はトンクスは苦手ではないのかと最近になって思い初めていた。

 ダービッシュ・アンド・バングスを出て、ホグワーツの制服でにぎわうホグズミードのメインストリートを歩きつつ、オスカーは三本の箒に向かった。トンクスの言う通りなら、早々に買い物を終わらしたクラーナがどこかにいるはずだった。

 人でにぎわう三本の箒に入って、ダークグレーの髪の毛を探してみたがオスカーは中々発見できなかった。カウンターの向こうで、他の人に飲み物を出していたマダム・ロスメルタがオスカーの方を見て、さっきのトンクスのようにウィンクしてきた気がした。その後、しばらく目を凝らして、やっと大きな鉢植えに植わっている植物の影にその髪の毛が見えた気がした。

 

「その木の後ろだと全然見えなかったんだが」

「オスカー一人ですか? ああ、これはわざとです」

「一人だけど…… わざと?」

「なんか入った時に、先に店内に座ってた三年生の集団にさっきのオスカーみたいに指をさされて、週刊魔女がどうのこうのみたいなのが聞こえてきたんですよ。だから見えない位置に動いたんです」

 

 いい加減本当にオスカーは週刊魔女の編集部を燃やしたい気分だった。こんどリータに会ったのなら、インセンディオくらいなら許容範囲なのではないかとオスカーは考えた。

 

「先に取りあえず飲み物買ってくる。残りの三人がどれくらいかかるか分からないしな、クラーナはどうする?」

「私はバタービールをお願いします」

 

 さっきのクラーナの話からして、二人で買いに行くのがためらわれたので、オスカーはマダム・ロスメルタに一人で注文しに行った。

 

「あら? ラックレス卿さん、今日は一人なの?」

「後から来ると思います。バタービールを一つと…… なんか俺が飲めるもので、おすすめはありますか?」

 

 マダム・ロスメルタやホグズミードの商店を開いている人たちには去年、劇のポスターを貼って貰ったせいでオスカー達の顔が割れていた。特に三本の箒ではハグリッドが何度も行って、大声で劇の話やみんなの話をしたせいか、マダム・ロスメルタもハグリッドと同じくらいにはオスカー達のことを知ってるようだった。

 

「そうね、蜂蜜酒をちょっと飲んでみたらどうかしら?」

「じゃあそれとバタービールを一本お願いします」

 

 オスカーは自分がどれくらいお酒が飲めるのかは分からなかったが、取りあえずプロに頼んで、クラーナに渡さなければ大丈夫ではないかと考えた。

 バタービールと蜂蜜酒を持って、テーブルに戻ると 鉢植えの向こう側にあるちょうど見えないテーブルにオスカーがよく知っている巨体が座ったのが見えた。

 

「ハグリッド?」

「先生方みたいですね」

 

 ちょうど二人の姿は鉢植えの植物で向こう側からは見えない様だった。声を聴くに、ハグリッドとマクゴナガル先生、フリットウィック先生だとオスカーには分かった。

 

「アイスさくらんぼシロップソーダ、唐傘飾りつき」

「ギリーウォーターのシングルで」

「ホット蜂蜜酒五ジョッキ分」

 

 マダム・ロスメルタが先生陣の注文を受け取って、飲み物を取りに行くのが木の間から見えた。その間にも三人が話をしているようだった。

 

「しかし、彼がホグワーツにやってくるとは思わなかった」

「スクリムジョール先生のことですかい?」

「そうですよ、ハグリッド。私も魔法省にいた事があるので分かりますが、闇祓い局は魔法省でも肝入りの部署ですし、先生はその中でも指折りのオーラーです」

 

 どうもスクリムジョール先生の話が始まった様だった。クラーナはオスカーが見て分かるほど、木の向こう側に聞き耳を立てている。自分の方を見ているオスカーに気づき、クラーナは声が喋っても漏れないくらいオスカーに近づいた。

 

「どうする?」

「三人がいつくるか分かりませんし、それまで盗み聞きしますか?」

「じゃあ聞きながら飲んどくか」

「そうですね、乾杯です。オスカー」

「ああ、乾杯」

 

 木の向こう側ではマダム・ロスメルタが戻ってきたのがグラスを置く音で分かった。フリットウィック先生の特徴的なキーキー声が聞こえてくる。

 

「ホグワーツの新しい先生の話をしてらっしゃるの?」

「そうなるね、ロスメルタ。初めは魔法省がホグワーツへの影響を強めようとしているなんて言われていたが、どうもそうではないらしい」

「ファッジがダンブルドアがいるホグワーツに手出しできるわけがねえ」

「ハグリッド、ファッジ大臣ですよ。フィリウスの言う通り、スクリムジョール先生がいらっしゃったのは魔法省内で色々とごたごたしているのが理由の様です」

 

 これは夏休みにキングズリーとムーディが話していた事だとオスカーはピンと来た。目の前のクラーナも闇祓いの話とあってより真剣に聞いている様で、バタービールを飲む手が止まっていた。

 

「ごたごたとは何ですの?」

「それは大臣が魔法事故惨事部の出身であることと、闇祓い局が未だにダメージを引きずっていることでしょう」

「闇祓い局や魔法警察部隊は戦争の矢面に立っていたし、何よりバーティ・クラウチがいなくなったのが大きい」

「ファッジが大臣になったのも、その…… あ…… ミスター・クラウチがいなくなったのと、ダンブルドアが断ったからっちゅうことだってことですかい?」

「そう言うことだね、ハグリッド」

 

 バーティ・クラウチ、その名前をオスカーは最近良く聞く様だった。相変わらずクラーナのバタービールは減っていなかった。

 

「じゃあ、ファッジ大臣と魔法省の執行部や闇祓い局がいわゆるごたごたをしていて、その余波でスクリムジョール先生がホグワーツに来たんですのね」

「その通りだロスメルタ。少なくともホグワーツの教師陣はそう思っている。ミネルバならもう少し詳しい話を知っているはずだが」

「ええ、フィリウス。戦争が終わって、戦闘用の人員や部署、役職等を減らそうと言う動きがバグーノルド大臣の頃からあったようですが、前大臣にも例のあの人がいなくなった後の闇祓いに起こった事件二つが大きかったようで、心情的に動けず。ファッジ大臣に代わってやっと始まっても、自分の出身部署ではないですし、クラウチ氏のやり方で来た執行部の人員が早々従うことが無いと言う話のようですね」

「マクゴナガル先生。闇祓い局が弱っとるちゅうのは人が足りないのではないんですかい?」

 

 ハグリッドの質問はもっともだとオスカーも思った。弱っている闇祓い局の人員を減らすのは問題ではないのだろうか? そして、二つの事件と言うマクゴナガル先生の言葉を聞いた途端にクラーナはバタービールを半分一気に飲んだ。

 

「ハグリッド、君も知ってるだろう? 闇祓いには許されざる呪文の使用が戦争中は許可されていたことを」

「フィリウスの言う通り、魔法警察部隊と違って、戦闘以外に捜査や人員を従えることもする闇祓いには他にも戦争に期して色々なそう…… 悪い言い方ですが、権力が集まっていたのです。しかしそれは戦争中の話ですから元に戻さないといけません。そうですね、闇祓い自体の人数を減らすと言うよりは、闇祓いが影響を及ぼせる人間が減ると言う事でしょう」

「とにかくファッジ大臣と闇祓い局の仲が良くないということですのね」

 

 オスカーにはハグリッドとマダム・ロスメルタが話について行けていないと感じた。オスカーも正直なところ、マクゴナガル先生の言っていることが半分も理解できているのかは怪しかった。

 

「そうなるね、ロスメルタ。それに闇祓いの志望者が戦争が終わって激減してるのも、彼がホグワーツに来た理由にあるのだろう」

「それは…… まともな魔法使いの親なら、あの戦争の後に子供を闇祓いにさせようなんて早々言えないでしょう」

「ええ、もともと闇祓いは最高の者しか採らない最難関の職業ですが、それ以前に目指す人間がホグワーツでも減っているのです」

「だけど、クラーナはちげぇ。あの娘は俺がマッドアイ・ムーディの代わりにダイアゴン横丁について行った時からなるっていっちょった」

 

 今度はクラーナがバタービールを全部飲み干した。オスカーはクラーナが飲んでいたものがバタービールで良かったと思わざるを得なかった。

 

「クラーナ? あのアマータ役の女の子ですの? 週刊魔女に載っていた?」

「その娘ですよ。そうですね…… 彼女はイライザの妹ですから、目指すのが当然なのかもしれません」

「私がみた中でもイライザは杖使いがずば抜けていたが、あの娘もそれに負けないくらい上手い」

「アラゴグを見て、逃げねえ女の子なんてクラーナの姉さんくらいしかいねぇ」

 

 正直、オスカーは先生方の話を盗み聞きしたのを後悔していた。普通のホグワーツ生の様に楽しく飲めると思っていたからだ。空のグラスを時々口に運んで、何も入っていないことを思いだしたように下げることを繰り返しているクラーナをオスカーは見たく無かった。

 

「道理で見たことのある顔だったわけですわ」

「フィリウスの言う通りでこれまでかなりの数の生徒に変身術を教えてきましたが、イライザに匹敵するのは今教えているミス・プルウェットくらいでしょう」

「確かにその二人やその周りはずば抜けて優秀だ。二人はもちろん、ミス・トンクスもまあちょっとミスはするが素晴らしい術の冴えだし、決闘トーナメントではミスター・ドロホフは素晴らしかった。それにミスター・ウィーズリーは……」

「魔法生物とクィディッチに関しちゃ、チャーリーは俺が見た生徒の中でも違うモノを持っちょる」

 

 やっと話がクラーナの姉からずれたようだったが、クラーナの動作がさっきから全く変わってなかったため、オスカーはクラーナの空いたグラスを取り上げて、自分のほとんど飲んでない蜂蜜酒を押し付けた。オスカーの行動に驚いて目を開き、何か言おうとするクラーナに、片指で先生方を指し、もう片方を自分の口にやって静かにするようオスカーはジェスチャーした。

 

「あの劇の子たちはそんなに優秀だったんですの?」

「まあずば抜けているでしょう。戦争の影響を物心ついた状態で色濃く受けている世代だから当然かもしれないですが」

「それよりも驚くべきは違う寮なのに仲がいい事だと私は思うね」

「ちげぇねえ。生まれや色んなことがあるはずなのに一緒にいれるのはまったくすげぇ」

 

 やっと、木の向こう側からテーブルにグラスを置く音が聞こえた。オスカーが押し付けた蜂蜜酒をクラーナは今度はチビチビと飲んでいた。

 

「ではそろそろ戻りますか、生徒達が帰る前に戻らないとまたフィルチが門のところで渋滞をつくるでしょう」

「違いない」

「ほい、ロスメルタまた来るぞ」

「皆さままたいらっしゃい」

 

 ハグリッド達三人は帰った様だった。マダム・ロスメルタがグラスを戻す音や、他のホグワーツ生が騒ぐ音が三本の箒に聞こえていた。オスカーはクラーナに何と言っていいのか分からなかったので、早く三人に来て欲しかった。クラーナは本当にゆっくりと蜂蜜酒を大事そうに飲んでいて、まだ四分の一も減っていなかった。

 

「ビルが呪い破りを目指すって夏休み言ってましたよね?」

「ビル……? ああグリンゴッツに行った時か?」

「そうです。その時言ってたでしょう。ウィーズリーおばさん…… チャーリーやビルのお母さんは危険な仕事や職業に反対するだろうって」

「言ってたな、魔法省を受けて欲しいだろうって」

 

 ほとんど視線を蜂蜜酒からずらさないまま、クラーナはオスカーと喋っていた。オスカーからは蜂蜜酒のグラスに映っているクラーナがゆらゆらして見えた。

 

「私はウィーズリーおばさんがそう言うのが分かると思います。さっきもマダム・ロスメルタが言ってましたけど、まともな親なら危険な仕事を選ばせないだろうってそう言う事がです」

「誰だって危険な事を身内にやって貰いたくないだろうけど、でも誰かがやらないといけないことだし……」

 

 オスカーにはクラーナが自分に何と言って欲しいのか分からなかった。できるのは取りあえず聞くことだけだった。それにモリー・ウィーズリーが恐らくそう考えるに至った理由はオスカーにも関わることだった。

 

「まあそうでしょうけど……」

 

 とここまで言ってクラーナは顔を上げて、オスカーの方を向いた。オスカーはちょっとクラーナの顔が赤くなっている気がした。

 

「そうだ、オスカーは…… えっと、そうですね今度グリフィンドールの六年生の監督生がインターンに行くんですけど」

「インターン?」

「学生の間に少し働いてみて、どんな職業なのか知るみたいな機会があるんですよ。それで、グリフィンドールの寮生たちがその監督生が帰ってきたらなんかお祝いするらしいんですけど」

「へえそう言うのがあるのか」

 

 オスカーは初めて知った知識だった。学生の間に職場がどんなモノか知れるというのは結構面白そうだとオスカーは思った。

 

「それで…… その人が帰ってきたその日にサプライズでケーキやら横断幕みたいなのを作って驚かすってみんなが言ってるんですけど、そこに入れる動物の絵をグリフィンドールの獅子にするか、その人の守護霊にするかでもめてるんです」

「その人は守護霊の呪文を使えるんだな、決闘トーナメントで当たらないといいけど…… ああインターンってやつでいないのか?」

「そうです。その人はいないはずです。それで、オスカーはどう思いますか? というか自分の守護霊が入ったモノって嬉しいですか?」

 

 確かに守護霊は自分の寮の象徴以上に自分を象徴しているモノのはずだから、プレゼントにはこれ以上無いモノの様にオスカーは思った。

 

「その話だと横断幕とケーキに獅子と守護霊を分けて入れればいいと思うけど…… まあでも自分の守護霊を描かれたモノを貰ったら嬉しいんじゃないか? だって自分の事をそれだけ知られてるってわかるわけだろ?」

「そ、そうですね。その…… オスカーは嬉しいんですか?」

 

 自分の守護霊。トンボが入っているモノを貰って自分は嬉しいのか? 記憶の事をほとんど思いだせない自分がそれを貰って嬉しいのか? しかし、もし貰えるのならやはり言ったようにそれだけ思いが込められているということのはずなので、やっぱり嬉しいのではないかとオスカーは考えた。

 

「多分嬉しいと思うけどな。まあ俺に聞いても参考にならないと思うけど」

「なるほど…… 分かりました」

 

 クラーナはそれだけ言って、蜂蜜酒を半分くらいまで飲み干した。さっきまでのチビチビを考えると随分早いペースだった。

 

「遅くなったの」

「箒磨き粉の新しいやつが出てたんだよ。ごめんね」

「ちょっと待たせすぎたかもね、あれ? クラーナそれ蜂蜜酒じゃないの? 私まだ飲んだこと無いのよ、ちょっとくれない?」

 

 クラーナが蜂蜜酒をテーブルにちょうど置いたタイミングで三人が来たようだった。クラーナは少し据わった目でトンクスを見ていた。

 

「ダメです。これは私が貰ったんです。トンクスにはあげません」

「ええ、何よそれ。オスカー、ファイア・ウィスキー以外でお持ち帰りしようとしたんじゃないでしょうね」

「なんだそれ」

「なんかもうクラーナが出来上がってるの」

 

 クラーナがトンクスに酒を渡しても渡さなくても、飲み物は足らないようだったので、オスカーはチャーリーともう一度マダム・ロスメルタに注文しにいった。

 

「なあ、チャーリーの家に置いているあの時計ってどっかで売ってるモノなのか?」

「時計? 家とか学校とかいのちが危ないって書いてあるあれのこと?」

「その時計の事だな、チャーリーの家族九人分の針があるやつ」

「うーん…… 多分売ってるモノじゃないと思うんだけどね、ママは同じ時計は見たこと無いって言ってたし。エストに聞けば何かわかるかもしれないけど」

「そうなのか、あれも忍びの地図と似たようなもんなのかな」

 

 オスカーがさっきのトンクスの話を聞いて、真っ先に思いついたのがチャーリーの家に置いてある時計だった。あの時計ならば誰かが危ない事をした時に分かると思ったのだ。ただ、そういう道具はエストの方が詳しいだろう事は分かってはいたが、オスカーはほとんど家族のはずなのにあの時計に針が無いエストに聞くのがちょっとはばかられたのだ。

 二人は今度はバタービールを四本もってテーブルに戻った。

 

「じゃあ一緒に練習しないってことなの?」

「そうです、私とエストはトンクスを粉みじんにするため、紳士協定を結びました」

「どの辺が紳士なんだ」

「オスカーは黙っててください。つまりですね、トーナメントから脱落するまではペア以外では手の内をばらさない様にしようって事です」

 

 蜂蜜酒のせいかクラーナは饒舌だった。相変わらずトンクスにとられないように蜂蜜酒のグラスを両手でしっかりと固定していた。

 

「そんなに決闘の手の内がばれたら不味いの?」

「クラーナは魔法薬とか、変身術とかそう言うのも重要になってくるって言ってたの」

「普通の攻撃呪文以外ってことか?」

「そうです。決闘場以外で決闘するのは失神呪文を馬鹿の一つ覚えみたいにバンバン打つだけにさせないって意図があるんだと思います」

 

 魔法薬がどのようにして決闘の役に立つのかは余りオスカーには想像できなかったが、変身術が決闘では恐ろしい効果を発揮するのは身を持って知っていた。特にエストが使うのなら一段と警戒しないといけなかった。

 

「魔法薬を持ち込むってことだよね? OKなのかな?」

「まだルールはちゃんと言われてないわよね。まあ小さくして隠せば持ち込めそうだけど…… けどエストもクラーナもいいのかしら、お互いに秘密にしたら色々逆効果だと思うけどね。ねえちょっとくらいくれてもいいじゃない。私のバタービールを飲んでもいいわよ」

「うるさいですよ。今度という今度はボコボコにしてやります。それにこれは私のです」

「今度からクラーナにはバタービールしか飲ませちゃダメなの」

「ホントは俺が飲んでるはずだったんだけどな」

 

 結局オスカーは蜂蜜酒をオーグリーの涙くらいしか飲めていなかった。それにクラーナやエストと一緒に練習をしないと言うことは、レアと一緒にトーナメントに出るにあたって、何を練習するのか自分で主体的に考えないといけないとオスカーは思った。

 

 一通り三本の箒で騒いで、クラーナがちょっと静かになったのを確認してオスカー達は学校へと戻った。結局トンクスは蜂蜜酒を飲むことはできなかったようだった。オスカーとエストは厨房へ向かうトンクスと別れて、地下牢にあるスリザリン寮へと向かった。

 少し早く寮へと戻ってきたため、湖を通して緑の光が差し込む談話室には人が少なかった。良く授業の事を聞きに来るジェマは談話室にはいない様だったので、二人は湖の見える窓際の椅子に座った。エストはいくらでもモノが入るようにしたポーチから、ハニーデュークスで買ったらしき百味ビーンズをボリボリと食べている。

 

「さっきチャーリーにも聞いたんだけど、隠れ穴にある時計があるだろ?」

「時計? モリーおばさんがやることを示す方? それともウィーズリー家のみんながどこにいるか分かる方?」

「後ろの方だな、あれって忍びの地図みたいなものなのか?」

 

 それを聞いてエストは百味ビーンズを食べる手を止めた。最後に十粒ほど一気に食べたのが舌に来たのもあるかもしれなかった。

 

「似てるかもしれないの。どっちもホムンクルスの術なのは間違いないと思うし」

「その術って具体的に何をしてるんだ?」

「うーん…… 説明するのは難しいんだけど…… 本を探す時ってタイトルとか人の名前で探すよね?」

「そうだな」

「貸し出してるかどうかのリストがあれば図書館にあるかはすぐわかるけど、実際にあるかは本棚の前まで行かないと分からないよね?」

「まあ図書館から盗んだんなら、マダム・ピンスに大イカのエサにされかねないけどな」

 

 実際に魔法が何をやっているのかを理解するのは非常に難しい話だった。変身術の授業でも、取りあえず術は成功してもその理論を理解している学生が沢山いるとはオスカーには思えなかったからだ。

 

「これだと本の名前が…… 難しい言い方をすると、依り代になってるの」

「依り代?」

「そう、その物体とかモノそのものじゃないけど、それの状態を示すモノのこと。本の名前がリストにあるかどうかがその状態を示してるの」

「本体がどうなってるのかを示してるモノってことか」

「うん。他の例だと…… スリザリン寮って言葉はうちの寮生全部の事で、緑の宝石はスリザリン寮の得点って状態を示している依り代なの」

 

 オスカーにもだいたいエストが何を言いたいのかが分かってきた。やはり、こういった魔法に関して分からないことをエストに聞けるという環境は確実にオスカーの能力を上げていた。

 

「この本体を人にした時に、対応した依り代を創り出す術がホムンクルスの術だと思うの」

「その人の状態を示すモノを作るってことか?」

「そう。忍びの地図だと、まるで地図の上ではもう一人の人間が歩いてるみたいでしょ?」

 

 地図の上に人間を創り出しているのと同じだということだろうか? なぜこの術がホムンクルスの術と呼ばれているのかはオスカーには余り理解できなかった。

 

「どの程度の状態を読み取ったモノを依り代にするのかが難しいし、それに他の要素も入れないといけないの。だって、言うならホグワーツの地図はホグワーツそのモノじゃないし、あの時計の職場が示してるのはアーサーおじさんの職場だから魔法省のことだけど、あの時計の職場って所自体が魔法省そのモノじゃないでしょ?」

「じゃああの地図とか職場って場所も依り代だってことか?」

「まああそこにかかってるかどうかは分からないし、必要の部屋が忍びの地図に現れないことを考えると、多分ホグワーツそのモノ自体のホムンクルスを作ってるんじゃないと思うけど。でも部分的にはそうかもしれないの。だって階段が動いたら地図も動くでしょ?」

「確かに…… でも、ホグワーツとか魔法省ってなんか…… 地図には現れないんじゃなかったか?」

 

 オスカーはやっとエストの言ってることが分かってきた。どうも人間だけでなく、他のモノ、建物すら生きているモノに見立てて変化をさせているという事のようだった。

 

「位置発見不可能呪文のこと? 確かにあれは地図の中で発見できなくなるけど、その建物や場所の中とかでは認識できるし、それに魔法の対象をその位置じゃなくて、その位置の傍で消えたとかにして置くとか、そもそも人間が依り代になっているんなら、その中からの情報を受け取れるわけだから問題ないと思うの。だってあれはあくまで建物や場所を地図や人の眼から消す魔法で対象はそれだけなの」

「魔法をかける対象が違うってことか…… こういうのを聞いているとその…… 本体の状態の一部だけなら依り代を作るのは簡単なのか?」

「それはそうじゃないかな。例えば…… 人間で一番簡単なのは生きてるか死んでるかじゃないかな? だって魔法力でも心臓の鼓動でもいいけど、人のそれを魔法の対象にすればいいの」

 

 エストの話を聞いて、オスカーはだいたい何をやればできそうなのかは分かった気がした。それにクリスマスまでにダンブルドア先生と喋る機会があれば、たとえ図書館で分からなくてもどうにかなりそうではあった。

 

「ホムンクルスの術って結構色んなことに使えそうな感じだな」

「魔法を上手く使うコツの一つが対象を選ぶことだからそれはそうなの。変身術でも一部を変えるのと全体を変えるのでは全然難易度が違うでしょ? だから対応させる状態だけを選ぶホムンクルスの術は凄く難しい呪文のはずなの。だって普通にただ呪文をかけたら抜き出す状態とか情報が大きくなりすぎちゃうの。忍びの地図はホグワーツにいる人間っていう凄く大きな対象から必要な状態を選択して、最低限の魔法だけで動いてるから凄く…… なんていうか…… シンプルで賢い魔法の道具だと思うな」

 

 相変わらず、こういったことを喋らせると止まらなくなるのがエストだったが、オスカーはこうやってガラスの横で二人で話をするのが好きだった。

 

「面白いよね? スクリムジョール先生が第一法則が守られているってことはずっと闇の魔法使いが負けてきたってことだって言ってたでしょ?」

「言ってたな」

「もしかしたら誰かがホムンクルスの術を魔法界全体に魔法をかけたのかもしれないの。魔法界が悪くなったら分かるように」

 

 オスカーはそういう別々の場所やモノや色んな意味を結び付けて話してくれるエストの話を聞くのが好きだった。

 それは、そういう話を聞けるということがそもそも色んな事を示してくれている気がしたからだ。

 

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