ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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悪戯仕掛け人

 二度目の決闘トーナメントの日になったが、オスカー達はすでに出場を決めていたので他の生徒達が決闘し合っているのを見ているだけだった。

 出場を希望していた生徒達のほとんどが決闘を終え、スクリムジョール先生が決めていた時間になった。

 

「ではこれまでで、予選を終了とする。三勝以上したモノはエントリーする二人分の名前を羊皮紙に記入し、次の決闘トーナメントの時間までに大広間に設置する箱に入れること」

 

 やはり大広間はざわついていて、他の寮と組んで何かをやるという事自体がホグワーツではやりにくいことだと示しているようだった。

 

「次にどのような条件で競技を行うのか説明する。今回三勝したのはエントリーした百七十七人の内、二十八人だ。その為十四ペアが最大で本選にエントリーできる」

 

 運営している教師の側では具体的な数字が分かっているようだった。オスカーは何百人も生徒がいるうちで自分の周りの全員がエントリーできているのは結構な確率だと感じていた。

 

「その為、トーナメントの決勝まではおおよそ三試合から四試合してもらうことになるだろう。また今回のシード枠には体力的な問題を考慮して、下級生を優先的に取り上げることとする」

 

 オスカーはそれを聞いて自分達には有利に働くのではないかと考えた。決闘トーナメントに出場している学生の中にはあまり四年生や三年生で本選まで残っている学生がいなかったからだ。

 

「私たちもそうですけど、レアと組むオスカーはほぼ確実にシード枠なんじゃないですか?」

「多分そうだと思う。本選に残ったのは六年生が一番多そうだしな」

 

 意外なことに最上級生の七年生には余り本選出場者がいない様だった。単純に考えれば一番技量が高いのは七年生のはずなのだが。

 

「七年生があんまりいないのはイモリ試験にかぶるかもしれないからかな?」

「それに就職関連とかもあるからじゃない?」

「じゃあ割と私たちには色々有利に働きそうなわけね」

 

 つまり七年生には他にも重要な用事がある人が多い為、このトーナメントに出てくる人間が少ないということだった。

 

「次に本選の詳細なルールについて説明する。すでに君たちを取り囲んでいるように、本選では多種のフィールドで戦ってもらう」

 

 ホグワーツ生たちは自分達の周りに広がっている市街地や荒野、森、ホグワーツらしき城の中、図書館の中といった風景を見回した。

 

「二対二でやってもらうことは最初に伝えた。それに加えて、この競技ではフィールドにあるモノを変身術で変化させることも自由とするし、エントリーする二人以外の人及び人に準する生物の協力を得る以外は何を持ち込んでも自由とする」

 

 また生徒達にざわざわが広がっていき、オスカーの隣ではクラーナがそれ見たことかとばかりにちょっと胸を張っているようだった。

 

「じゃあ箒とか魔法薬とかそう言うのでもいいってことだよね?」

「そういうことでしょう。まあ事前に朝食に魔法薬を忍ばせるとかはダメでしょうけど」

「オスカーは朝食に注意した方がいいわね」

「なんで場外で戦わないといけないんだよ」

「人に順ずるってことはヒッポグリフとかなら持ち込んでもOKなのかな?」

 

 オスカーはちょっと決闘トーナメントが怖くなってきた。突然決闘場に暴れ柳やルーンスプールが現れて決闘どころではなくなる可能性を思い浮かべたからだ。

 

「いくらエストでもヒッポグリフを引き寄せ呪文で呼び寄せるとかはできないでしょう」

「そんな大きなモノを呼び寄せられるなら、ホグワーツの天井を呼び寄せた方が早いの」

「大広間の天井をぶっ壊すのは止めてくれよ」

「またオスカーがフィルチに追っかけられる理由が増えるわね」

「水中人とかケンタウルスはダメでも、ドラゴンやアクロマンチュラなら大丈夫ってことか……」

 

 オスカーはチャーリーのブツブツを聞かないことにした。流石にいくらチャーリーやハグリッドが怪物や魔法生物が好きでも、決闘場に持ち込むためにドラゴンやキメラを手に入れてくるとは考えたくなかったからだ。

 

「以上、細かいルールは大広間に設置する箱の隣に置いておくため各自で確認すること。次回は試合順の発表と一回目の本選を行う。それではこれから五回の競技の中で、競技に参加する者も観戦する者も授業では得られないモノを掴み取って貰う事を願う」

 

 決闘トーナメントの説明が終わって、ホグワーツ生たちはそれぞれみんな散り散りに帰り始めた。まだ外出禁止の時間までは時間があったため、生徒達はそれぞれ遊ぶ予定を立てて、ゴブストーンをしたり、宿題をするために図書館に行く予定を立てているようだった。

 

「じゃあ私とエストはちょっと別行動しますね」

「オスカー、多分時間ギリギリまで寮に帰らないと思うの」

「何よほんとにそんな本気で戦略を練る気なの? どうせ何試合もするんだから一緒なんじゃないの?」

 

 どうも二人は初日から練習をする気が満々のようだった。オスカーとしては、なんだかんだオスカーを通して喋ることが多かったり、クリスマスに喧嘩したりしていた二人が仲良くなるのは嬉しかったが、逆にその二人に決闘トーナメントについては聞けないというのは結構厳しいモノを感じていた。

 

「秘密はちゃんと秘密にするから意味があるの」

「そうですよ、秘密とか戦い方を知っている人間が相手にいたら逆手に取られるでしょう? よく知っている人や味方が敵に回る程恐ろしいことは無いですよ」

 

 確かに、相手に勝つためにはできるだけ相手の情報を集めて、勝ち筋を掴み、計画してそれを実現するだけの実力が無くてはいけない。オスカーはそれを十分に理解していた。

 

「ふーん。じゃあ二人にとってオスカーは強敵ってわけね」

「僕らにとっても強敵だけどね、まあ脱落するまでは一緒にやらなくてもいいんじゃないかな」

「その方が試合の時は面白いかもな」

「まあなんでもいいですけどトンクスはボコボコにします」

「トンクスと当たったらだけどね? じゃあね」

 

 そう言って行ってしまった二人を見て、トンクスはやれやれと額に手をあてて大げさにジェスチャーした。それを見たチャーリーが苦笑していた。

 

「僕はオスカーがクラーナと組むのかなって思ってたんだけど違うんだね」

「なんか三人が良く分からないこと言ってる間にレアに頼まれたしな」

「ここに来てダークホースの台頭って感じね」

 

 トンクスは相変わらずなんでもからかうのに忙しいようだった。しかし、オスカーはアホなことを言ったり、階段から落ちたりと言ったドジだったり、家事の呪文や整理整頓が絶対的にできないトンクスだったが、魔法に関してハッフルパフでは恐らく一番できる魔女だという事を知っていた。性格からして監督生に選ばれるかは甚だ疑問だったが。

 

「トンクスとチャーリーも二人で練習するのか?」

「クラーナをはめる罠を考えるわよ、オスカーがエサになってくれれば一発でしょうけどね」

「一応するんじゃないかな? ただ僕ら二人共今年もクィディッチがあるし、エスト達みたいにそんなに予定を合わせれないと思うんだよね」

 

 この二人にも決闘の事を相談できないとなると、いよいよオスカーはホグワーツで相談できる相手がほとんどいなくなってしまうのだった。スリザリン寮の同級生と喋るようにはなったし、決闘の事なら寮の得点が関係するのでスリザリン寮の雰囲気からして協力はしてくれるはずではあったのだが。

 

「まあ、オスカーは取りあえずレアをホッグズ・ヘッドに連れてってお持ち帰りはしちゃダメよ? あとクラーナには蜂蜜酒も禁止ね」

「なんかトンクスに言わせるとオスカーは毎回女の子にお酒飲ませる奴になってるよね」

「だからボク、ホッグズ・ヘッドではバタービールしか飲んでないです…… 三本の箒でもバタービールしか飲んでないですし」

 

 トンクスはレアがオスカーの後ろにいるのを分かって言った様だった。今日はレイブンクローの女の子たちはレアにはついてきていなかった。

 

「オスカーは女の子の綺麗なところも汚い所も受け止めるように精神を鍛えるべきね」

「そうなってもトンクスは受け止められそうにないな」

「またハッフルパフは減点みたいだね、じゃあ僕らも行ってくるよ」

 

 さらにまたいつもの五人の内の二人が行ってしまったので、レアとオスカーは二人になってしまった。

 

「その…… 練習とかするんでしょうか? レイブンクローの監督生と主席はボクに色々と決闘に役立つ呪文とかをリストにして渡してはくれたんですけど。自分達も出るからあんまり手伝えないかもって言ってて」

「練習はしようと思ってたけど…… レアは何か覚えたいとかそういうことはあるのか?」

 

 オスカーはそんなに自分がレアに教えられることがあるとは思っていなかったので、レアに聞くことにした。しかし、レアがした顔はちょっと決意のこもったような顔だったのでオスカーは意外だった。

 レアはあたりを見回して、誰も聞いていないことを確認してから、少し息を吸ってオスカーに話した。

 

「えっと…… 多分危険だし、あんまり先生にも教えて貰えないと思うんですけど…… オスカー先輩はあの時…… クラーナ先輩と閉心術の練習をしてましたよね? ボクもあれをマスターしてみたいんです」

「閉心術……」

 

 オスカーにはレアが相当勇気を出してオスカーに切り出しただろう事が分かった。叫びの屋敷でのオスカーとクラーナのやり取りをレアは見ていたし、ホッグズ・ヘッドの一件や日刊預言者新聞の内容から、レアが記憶や心の内を見られるのに抵抗が無いと思えなかったからだ。

 

「もちろん、優秀な七年生とかでも開心術を使えるような相手がいると思えないので、完全にボクのわがままなんですけど……」

「俺は大丈夫だけど…… と言うか、そもそも開心術自体を呪文しか知らないからな……」

 

 そもそもオスカーはクラーナに閉心術を使えるようになったと言われはしていたが、問題を解決するためにすこしかじっただけであり、ちゃんとした教育を受けたわけでは無かった。

 

「い、一応図書館から本は借りてきました」

 

 レアは少しビクビクしながらカバンの中から開心術や閉心術に関係ありそうな本を数冊取り出していた。申し訳なさそうではあるものの、レアは最初から閉心術の練習をやると決意してきているようだった。

 

「それに…… オスカー先輩が開心術を使えるようになれるんだったら決闘トーナメントでは凄い武器になると思うんです」

「そりゃそうだけどな…… 取りあえず場所を移すか?」

 

 レアとオスカーの二人は大広間の外の廊下で立って喋っていたので、結構な人数の学生たちが通りがかるたびに二人の方を見ていたのだ。

 

「えっ? はっはい」

 

 あわててカバンに本を入れるレアを見ながら、オスカーはどこで練習をするべきなのか考えていた。必要の部屋にはなんとなくもうエストとクラーナがいそうな気がしていたし、閉心術の練習をすると言って空き教室を貸してくれる先生にもオスカーは心当たりがなかったのだ。

 

 忍びの地図を見ながらオスカーはホグワーツの五階に向かっていた。ざっと地図を見た感じでは飛行訓練をする場所にトンクスとチャーリーの名前はあったが、エストとクラーナの名前は空き教室にも校庭にも見つからなかったため、どうもオスカーの予想は当たっているようだった。

 五階の大鏡の後ろ側、ここにホグズミードに繋がる秘密の通路の一つがあることをオスカーは忍びの地図で前々から知っていた。それに、一度エストと一緒に探検した時に、この通路が空き教室並みとは言わないが人が十人近く入れることも知っていたのだ。

 

「インセンディオ」

 

 鏡の裏側には誰が設置したのか燭台があったため、オスカーは呪文で火をつけた。照らし出された秘密の通路は二人が何か呪文の練習をするには十分すぎる程の広さだった。

 

「去年のトランクがあれば練習する場所に困らなかったんだけどな」

「劇の練習に使ってたトランクですか?」

「それだな、あれなら一組ずつ練習する部屋があるからな」

「確かにあれは便利でした」

 

 レアと会話しながらオスカーは自分のカバンから色んなモノを取り出した。取りあえずクッションや闇の魔術に対する防衛術の本を取り出した。一応練習をしようとは思っていたが、何の練習をするか決めていなかったのだ。

 

「それって検知不可能拡大呪文ですか?」

「ああ、エストがポシェットにかけるときに俺のカバンにもかけてもらったんだ。魔法のトランクまでとは言わないけどカバン十個分くらいは入ると思う」

「やっぱり先輩たちは仲いいですよね……」

 

 ちょっと何か考える顔をしながら、レアは秘密の通路の地べたに座って開心術や閉心術関連の本を広げていた。

 

「ディフォディオ 掘れ」

 

 オスカーは秘密の通路の壁を呪文で少し掘って、土の塊や石を取り出した。もう一度杖を振って、その土や石をちょっとした椅子と机に変身させた。一番強いイメージの机と椅子だったのでドロホフ邸に置いているモノと同じ外見をしていた。

 

「取りあえず座って読むか?」

「は…… はい」

 

 よく考えなくてもオスカーはレアと余り学校で二人きりで喋ったりなにかをしたりすることはこれまで無かった。夏休みに漏れ鍋で喋ったのも珍しいくらいだったのだ。もともとオスカーの名前を聞いただけで怒っていたレアを考えればこれは大きな進歩だった。

 

「取りあえずレジリメンスを使えば練習はできそうだな」

「そうですね…… 開心術はマグルの言う読心術とは違う、心とは重層的なモノであり、記憶と感情によって幾重にも渡って細分化されているモノである。まるで本を読むように読むことなどできない。卓越した開心術士は自分の意図した感情や記憶を読みだすため、相手の心情を意図した場所へと誘導させる。最も簡単なのは恐怖やショックで傷ついた人間を誘導することである…… 何か読んでも良く分からないです」

 

 確かに開心術の魔法的な理論はいまいち良く分からなかった。そもそも本自体が読ませるように書かれていない様にオスカーにも感じられたのだ。それにもともと開心術の起こり自体が、開心術に天賦の才を持っている魔法使いを研究して発展してきたようにこの本では書かれていた。天賦の才のある魔法使いや魔女は、人間に高く共感するだけで練習をすることなく、ただ眼を見るだけでその人の心の動きを理解できると書かれているのだ。

 

「正直、かなり危険だと思うし、それに俺でいいのか?」

「いいって何がですか?」

 

 レアは何もわかっていないとばかりに首を傾けた。

 

「俺が開心術…… レジリメンスの呪文を唱えたら、レアの記憶とかを俺が見ることになるんだぞ?」

「それは…… その…… なんていうかオスカー先輩以外に多分頼める人はいないと思いますし、先輩たちの中でも…… 開心術が使えそうなエスト先輩とかクラーナ先輩は……」

 

 レアはオスカーの方を時々チラチラと見ていたが、視線が安定しないようだった。オスカーには何となくその二人に頼みにくい理由が分かった。三人を去年リータがターゲットにしたであろう理由が関係していると考えたのだ。

 

「見た内容は黙ってることを約束する。何なら破れぬ誓いでもするか?」

「や…… 破れぬ誓いですか!? そんなことは大丈夫です。そう、オスカー先輩はタフそうなので、お願いしようと思って……」

 

 オスカーは一年生の時にクラーナが破れぬ誓いがどうとか言っていたのを覚えていた。それは結構話題を逸らすには上手く働いてくれたようだった。

 

「ホントにやっていいのか? 正直、見られるのって凄く嫌だろうし、それにすぐ終わるかも分からないぞ。一か月とか二か月とかもっとかかるかもしれない。クラーナも時間がかかったって言ってたし」

 

 それにオスカーは余りレアが閉心術に向いているようには見えなかった。感情をコントロールするという事が性格的に向いていないような気がしていたのだ。

 

「う…… や、やります!! 色々…… 決闘トーナメントとか、この先に何を覚えたらいいのかとか考えて調べてたんですけど…… 閉心術の感情とか…… その、自分をコントロールするって言うのが一番ボクに必要だと思ったんです……」

 

 オスカーは開心術に天賦の才を持っているわけでも、練習したわけでもなかったからレアの瞳から何かを読み取れるはずは無かったが、それでも本気だという事くらいは声と表情から伝わってきた。

 

「じゃあやるか、もし危ないこととかになったらすぐやめるし、先生やマダム・ポンフリーに連絡するからな」

「え……? わ、わかりました」

 

 オスカーは失神呪文の練習にでも使えるかと思って持ってきたクッションをレアの周りに魔法で配置した。

 

「これは?」

「レアが叫びの屋敷の事をどれだけ覚えてるか分からないけど、あの時、俺は普通に制御を失って倒れたからな。だから先に敷いてるんだ」

「なるほど…… あの…… 閉心術のコツってありますか?」

 

 オスカーはそれを聞かれるだろうと閉心術の話題が出た時から考えていたが、良い伝え方が全く思いついてはいなかった。

 

「正直、なんて言うか上手く伝えられる気がしないんだが…… 確かクラーナは己を己で満たせって言ってたし、本には感情を無にするか一つの感情で満たせって書いてあったな」

「感情で満たせ?」

 

 初めて閉心術を使って、クラーナのレジリメンスから戻ってきた時、オスカーが考えていたのは安心感と自分に対する怒りだった。それを理解しつつそれで満たされていたのだ。制御ができないほど強い感情で満たされていたのに同時にまるで頭の中が透き通っていると感じるほど明確に色んな事を考えることができたのだ。

 

「俺たちが怒ったり嬉しかったり悲しかったりするときがあるだろ?」

「それはありますけど……」

「そういう時って何も考えられない時と、そういう時だから頭が働いている感じの時がないか?」

「何にも考えられない時と働いている時……?」

 

 レアはいかにもオスカーの言ってることが分からないという感じで口を真一文字に結び、目を細めていた。

 

「うーん…… 嬉しい時とかなんかやりたい時の方が分かり易いかもしれない。そういう時って次のことやりたくて仕方なかったりしないか? 魔法でもゴブストーンでもクィディッチでも何でもいいけど、上手くいってる時にそういう風にならないか? そう言う時ってなんか感じてるけど考えてるって言うか……」

「それはわかると思います…… 確かに夢中でやってるけど考えてるかも」

 

 オスカーも自分で考え直してみた。そういう気分や頭の回転の時…… 自分がどう思っているのか理解しているときに考えることができるかどうかが閉心術では重要な気がしていたのだ。

 

「多分、俺は心を空にするっていうのはできそうに無かったし、正直、あんまりレアにも向いてると思えない。だったら自分がどういう感情とかどう思ってるかを理解できるかが重要だと思う」

「どう理解しているか……」

 

 果たして自分の理解が正しいのかオスカーには自信が無かったが、一応レアの前だったのでできるだけ自信があり気に言ったのだった。

 レアはやはり何かを考え続けているようだった。しかし、オスカーもこの閉心術という技術についてきちんと理解できていないと考えていたので、これ以上何か言えそうに無かった。

 

「不安なら止めとくか? 多分不安定な状態でやっても上手くいくモノじゃないだろうし」

「え? や、やります!!」

 

 レアは慌ててオスカーの方に杖を向けたが、オスカーには余り上手く行く気はしなかった。不安のある状態で、落ち着いていない心もちでやっても上手く行く気がしないのだ。

 

「ホントにやるのか?」

「やります。ボクに付き合わせてしまってますし、練習はやっぱり数をしないと感覚も分からないと思うので……」

 

 オスカーの方も少し不安だった。開心術という人の心に入り込むという事自体が未知の領域であり、それでいったい何がどうしてしまうのかが予想できなかったからだ。

 

「お願いします」

「分かった」

 

 燭台に光るインセンディオで灯した光だけが二人を照らしていた。オレンジ色の光をレアの金髪が反射していた。オスカーにはレアの眼の中に写っている自分の姿が見えていた。

 

「レジリメンス!! 開心!!」

 

 オスカーがそう叫んだ瞬間、いつか見たように世界が回り出して秘密の通路とレアが目の前から消えた。音が遠くに消えていく。何かが、何かが直接伝わってくる。何枚にも重なった鏡のような、水面の様な、そして近づけば消える霧のようなものが目の前に幾重にも見える。

 そして段々と明確になっていく、何かの映像と感触と匂いと雑多な感触が伝わってくる。誰かの感情が感性が伝わってくるのだ。

 

 どうして魔法ができるのにもっと教えてくれないのか? こんなに魔法を使えるのにもっと褒めてくれないのか? 家に置いてあった呪文集を読んで、親の杖を勝手に借りて使ってみれば全部使えたのにどうしてもっともっとやらしてくれないのか? なんで家から出てはいけないのか? どうしてちゃんと説明してくれないのか? なぜ? どうして? なんで? 納得できないという感情が、フラストレーションがこんこんと湧き出る泉の様に溢れ出していた。

 

 金髪の髪の長い女の子がベッドの上に寝転がりながら退屈そうに天井を見上げている。女の子が手を少し動かすだけで、ミニチュアの箒のようなモノが部屋の中をクルクルと飛び回った。オスカーはそれを杖なしでやるのは非常に難しいことだと知っていた。

 

「レア、リリー達が来たわよ」

 

 少し遠くから女の人の声が聞こえた。声を聞いて、集中を失ったミニチュアの箒が一瞬落ちそうになったが、女の子が中指でそれを指しただけで空中に止まり、そのまま元々箒があったであろう台座の様なモノに正確に着地した。正直、オスカーは同じ事をやれと言われても出来る気がしなかった。

 ドアがノックされて、何人か人が入ってきた。どの人物も二十歳かその程度の年齢に見える。オスカーは全員を写真で見たことがあった、一人はくしゃくしゃの髪の毛の男、それに緑の眼をした女、この二人こそポッター夫妻のはずだった。次にしょぼくれた眼をしたどこかネズミの様な男、ボロボロの服を着た優男、それに…… オスカーは最後の人物を写真で見た時に既視感を感じたのが何故なのか分かった。

 写真では小さかったので分からなかったが、こうして目の前に等身大に見えると誰なのか分かる。シリウス・ブラック、ヴォルデモートの手下の中でもナンバーツーにいたと日刊預言者新聞に書かれていた人物だ。オスカーも新聞で何度も見たことがあったし、それになぜ誰かの面影を感じたのかも分かった。

 

「なんで騎士団は勇敢なはずなのにこんなにコソコソしてるの?」

「なるほど、マッキノンのお姫様はやっぱりキツイな」

「シリウス、あんまりからかわない方がいいよ、レアはもうこの年で全身金縛り呪文が使えるらしいからね」

 

 鼻につくほどハンサムなシリウス・ブラックが小さいレアをからかうのを隣のみすぼらしい男がいさめた。オスカーにはあまりこの人たちのパワーバランスというかヒエラルキーのようなものが良く分からなかった。

 

「そりゃ怖い。なあワームテール? お前が三年生の時より優秀なんじゃないか?」

「シリウス、マーリンの娘なんだから当然だろう……」

 

 ワームテールと呼ばれた男にオスカーは違和感があった。この男以外はみんなかなり幸せそうな顔をしているというのに、まるで何か後ろめたい事があるようにその視線は色んな場所を行ったり来たりしていたからだ。

 

「リーマス、レアにハリーを撫でて貰いたいんだけど」

「ああこの位置だと邪魔だねリリー」

「ハリー? ハリーを連れてきたの?」

 

 どうもみすぼらしい男はリーマスという名前らしかった。レアが前に名前を教えてくれたのはリーマスとピーターという人物だったので、ワームテールという明らかなあだ名で呼ばれている人物がピーターなのだろうとオスカーはあたりをつけた。

 

「レア、ホグワーツでは君とハリーは一年かぶるだろうからよろしく頼むよ」

「こんなキツイ七年生に面倒みられるのは私だったらごめんだね」

「パッドフット、うるさいわ」

 

 リリーがシリウスの事をパッドフットと呼んでいて、恐らくこの五人があだ名で呼び合うような仲だということがオスカーには分かったが、同時にパッドフットやワームテールという名前がどう考えてもどこかで聞いたことのある名前な気がしていた。

 オスカーにもゆりかごの中でこっちを見ている緑色の眼をして、もうくしゃくしゃの髪の毛をしている赤ん坊が見えた。まだ有名な額の傷は無いようだった。

 

「ハリーよろしくね? ボクはレア・マッキノンだよ?」

 

 レアが手をゆりかごに伸ばすとハリーが小さい手でレアの指を掴んだ。まるで握手のまねごとのようだった。余りに手を離さないのでレアはさっき遊んでいたミニチュアの箒を片手をかざすだけで呼び寄せてハリーの目の前で飛ばした。

 するとハリーは目の前で飛ぶ箒に注意が移ったのか、レアの手を離した。

 

「大変だ。俺たちのハリーがレアに弄ばれてるぞ、プロングズ。俺も今度の誕生日には箒を送ろうかな?」

「シリウスはうるさいよ」

「なんだお姫様はご機嫌斜めか?」

 

 どうもこのシリウスという人物はトンクス並みに落ち着かない人間の様にオスカーには見えた。ただ、ここにいる人物の中でも一番リラックスして見えた。気を許した人間の中にいると感じているのがオスカーにも分かる程だった。

 

「シリウス、リリーと一緒に下でちょっと話をしてくるからレアの相手をしてあげてくれ」

「話ってパパとママとってこと? 何の話?」

「大人の魔法使いしかできない話だ、なあムーニー?」

「そうだね、まあちょっとしたふわふわした問題よりもだいぶ簡単な話ではあるね」

 

 話題から遠ざけられ、ちゃんと大人たちが話す気が無いと感じたのか、レアは頬を膨らまして怒っているようだった。その間にジェームズとリリーはハリーを連れて下に降りて行った。

 レアが少し手を振るとピーターが少し態勢を崩して本棚に倒れ込んだ。他の二人がそっちを見ている間に扉の方へとレアは走ったが、一瞬でシリウスがレアの服の後ろを掴んで引き戻した。

 

「正直、私たちよりよっぽど問題児になると思わないか? ムーニー?」

「いやあ、レアに杖を持たしてたらピーターは今頃聖マンゴ送りかもしれない」

 

 杖を振って本棚を元に戻しながらリーマスが答える。ピーターの方はレアに本棚にぶつけられたはずなのに怒るでもなく、その顔色はやはり不安に満ちているように見えた。

 

「じゃあこの使わなくなった教科書セットはいらないんだな?」

「え?」

 

 シリウスは自分のポシェットの様なモノから何冊か本を取り出しているようだった。それはオスカーも見たことのある本ばかりで、恐らく三年生くらいまでのホグワーツの教科書だった。

 

「これが欲しかったら静かにしておくことだな」

「新品じゃないんだ…… もしかしてブラック家って貧乏?」

「リーマス、ピーター、多分こいつは私たちを超える逸材だぞ。レアが入学したら、フィルチが聖マンゴ送りになるのを日刊預言者新聞を毎日見て確認しないといけない」

 

 シリウスがそう言うとずっと不安な顔をしていたピーターも含めて笑った。そしてその隙にレアはドアを手を振るだけで開け、さらに階段の下にあるドアまで手を回すような動作だけで開けた。正直、オスカーは魔法使いや魔女が幼いころに杖なしで魔法を行使できることを知ってはいたし、自分もやっていたが、ここまでのレベルで使いこなす子供がいるとは思っていなかった。

 それにハリーの年から考えればまだレアは七歳くらいのはずだったが、自分を相手にしない大人を出し抜こうとする意志といい、随分と成長の早い子供に見えた。

 下の方からジェームズやリリーに加えて、女の人と男の人の話が聞こえてくる。

 

「一応、キャビネット棚を設置はしたから最悪レアだけは逃がせるはずなのよ」

「それじゃ多分足りない。ダンブルドアは我々騎士団の中にスパイがいると考えている。忠誠の呪文を考えた方がいい」

「しかし、あの呪文は秘密の持ち主が今度は危なくなってしまう」

「でも、今の保護呪文もいつまで持つか分からないし、裏切り者がいたり、魔法省がもし陥落したりしたら意味がなくなるわ……」

 

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。聞きたくない。キャビネット棚には入りたくない。目の前で笑っていた人が裏切っていたなんて考えたくない。自分が外に出ていたせいで助からなかったなんて認めたくない。嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 下の会話が聞こえてきた途端。誰かの強い感情がオスカーに流れてきた。そして段々と目の前が薄くなってきて、遠くで記憶の中の会話がまるで周波数の合わないラジオの様に聞こえるのだ。

 

「ほん…… に凄い…… 魔法の…… 方だな……」

「この年…… 凄…… ホ……ーツが……しみ」

 

 そしてオスカーが気づくと、秘密の通路に戻っていて、クッションに座り込んでハアハアと息を荒らげているレアの姿が見えた。オスカー自身の頭もまるでぶっ続けで何かを考え続けたり、何か強い感情にさらされ続けた後の様な疲労感が広がっていた。

 

「レア、大丈夫か?」

「オスカー…… 先輩……」

 

 オスカーは自分のカバンを持って、レアに近づいた。レアは汗だくで、顔は青く、少し動悸が激しかった。オスカーには今彼女がどういう状態なのかだいたい分かっていた。クラーナに介抱された時の様に、嫌な汗が流れて、まだ記憶の中のモノが現実だと感じられるのだろう。

 

「ほら、こっちを見てくれ」

「はい……」

 

 やっとクッションから顔を上げてオスカーの方を見たが、やっぱり顔は青かったし、記憶の中のような自信ありげな目の輝きは無かった。あるのはいつもよりもさらに弱気に見える目だった。

 オスカーはカバンからバタービールを取り出した。なんとなく今日の朝、レアの事を考えるとバタービールと繋がったので、談話室に置かれていたのを拝借してきたのだ。

 

「多分ぬるいけどコレを飲んだらいいんじゃないか」

「すいません……」

 

 レアはクッションに半分倒れ込むように座りながらバタービールをゆっくりと飲んだ。そんなにすぐには動悸や顔色は戻らなかったが、だんだんと良くなってきているとオスカーは思った。

 

「ボク…… やっぱり向いてないんでしょうか、閉心術」

「そんなことは無いだろ、俺もあんな感じだったしむしろもっと酷かった」

 

 オスカーはできるだけ、自分がクラーナにして貰った様にレアに対応したかった。自分の嫌な記憶を見るというのはとんでもないストレスのはずだったからだ。

 

「未だに信じられないんです。シリウスさんがずっと騎士団のスパイをしていて、パパやママやジェームズさんやリリーさんを売ったなんて。その後ピーターさんを殺したなんて」

「あの人が……」

 

 レアは震える唇でそう言った。やはり有名な死喰い人こと、シリウス・ブラックがマッキノン一家がレア以外全滅した事件での原因らしかった。

 それにオスカーには今さっきみたシリウス・ブラックが仲間を売ったとはとても思えなかった。どう見ても自分が信じ切っている仲間の中で安心しているようにしか見えなかったのだ。まだあのおどおどしていたピーターなる人物が裏切ったと言われた方が信じることができただろう。

 

「まあ続けることが大事だって自分で言ってただろ? それに小さいころにあんな魔法を器用に使えたんだからすぐ使える様になるだろ」

「や、やっぱり全部見えてたんですか?」

 

 レアは記憶の事で震えるのではなく、恥ずかしさで震えているようだった。

 

「あのまま入学してくれれば、マッキノンのお姫様がフィルチを病院送りにしてくれて、俺がマークされることも無かったな」

「オスカー先輩はそんなことばっかり言ってると、ほんとに死喰い人になっちゃいますからやめてください」

 

 レアは本気で言っているようだった。オスカーはちょっとあの有名な死喰い人と比べられるのは嫌だった。それにどっちかと言うとシリウス・ブラックの言動はトンクスに近いような気がしていたので、トンクスに似たことを言っていると言われているようで二重でショックだったのだ。

 

「まあとりあえずできるまで付き合う。できたら…… そうだな、あの杖なし魔法の練習でもするか? 今もレアはできるのか?」

「杖なし魔法ですか? 今はできないと思います……」

「じゃあそれが次の目標だな、先ずは閉心術からだ」

「分かりました…… 先ずは閉心術…… まだ最初……」

 

 ぶつぶつと言っているレアを見ながら、オスカーは結構長丁場になりそうだと感じていたし、それに人の心の中に入るというのが非常に危険だという事を理解しつつあった。

 ただ、知らない人を理解したり、仲が縮まるという意味ではこれ以上無い機会かもしれないと思い始めていた。

 

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