ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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みぞの鏡とかマネ妖怪とかこの辺の設定は本当にうまいと思う


みぞの鏡

 これまでの日常が戻ってきた。

 違う場所があるとすれば、オスカーがエストをプルウェットと呼ばなくなったことだろうか?

 他にはグリフィンドール生の襲撃が止まったこともあるだろう。

 グリフィンドール生が襲ってきた際にエストがコンフリンゴとボンバーダを乱射し、廊下が大惨事になった後は襲撃がピタッと止んでしまった。

 フィルチは続発する校舎への破壊行為に血眼になっている。

 遂にはダンブルドア校長が夕飯の席で校舎内での爆破行為は辞めるように告知まで行ってしまった。

 その際に明らかにオスカーとエストのいるスリザリンのテーブルを見て言ったのだから、恐らく犯人だとばれているとオスカーは思った。

 

「ねえ? オスカーはクリスマスはどうするの?」

 

談話室で寝転がりながらエストが聞いてくる。

 

「家に戻っても誰もいないし、監視の闇祓いに迷惑かけるだけだからホグワーツにいるけど」

 

 そう、ドロホフの家に戻っても誰もいないし、監視のためにわざわざ魔法省から闇祓いがこないといけないのだ。

 

「じゃあ、ハグリッドの小屋にクリスマスはいかない? チャーリーは隠れ穴に帰っちゃうみたいだけど、クラーナは戻らないらしいから」

 

 数年ぶりに闇祓いと屋敷しもべ妖精以外の連中と一緒にクリスマスを過ごせるかもしれないとオスカーは思い、気持ちが少し明るくなった。

 

 

 クリスマス休暇がやってきた。恐らく数年ぶりにオスカーは同世代の気の張らないでいい仲間とクリスマスを過ごすことができた。

 スリザリンの寮にはエストとオスカー以外ほとんど人がおらず、いつも気にしている他人の視点からも解放された。

 クリスマス・イブの夜。オスカーはエストと談話室に放置されていたゴブストーンセットで遅くまで遊んだ後、悩みもなく眠りについた。

 朝起きると、やっぱりここ数年は期待なんてしてなかったプレゼントが置かれていた。

 中身は屋敷しもべ妖精からのオスカーお坊ちゃま様へと書かれた包みに入った羽ペン。

 オスカー・ドロホフ様へと達筆な字で書かれた包みの中身は万眼鏡だった。後ろにあった署名からして、見張りの闇祓いかららしい。

 あとはエストから届いた大量の百味ビーンズ。自分もエストに百味ビーンズを送っていたから完全に同じ発想をしてしまったとオスカーはショックを受けた。

 あとはO.Dと書かれた、銀色に緑色の蛇が刺繍されたセーターが入っている。包みにはオスカー・ドロホフ様へとしか書いていない。

 いったい誰からのものなのか?

 オスカーは頭をひねりながら談話室へと降りていく。

 

 すでに談話室ではエストが寝転がりながら百味ビーンズをかじっている。

 

「オスカー、メリークリスマス、百味ビーンズありがとうね」

「ああメリークリスマス、お前もな」

 

 オスカーが持っている緑色のセーターを見てエストはハッとなる。

 

「オスカーにも届いたんだね? それは多分モリーおばさんからだよ」

 

 モリーおばさん? 確かよくエストやチャーリーの話題に出てくる人物……、プルウェット家からウィーズリー家に嫁いだチャーリーの母親のはずだ。

 つまり、父親のアントニン・ドロホフが殺したプルウェット兄弟の姉妹にあたる人物のはずだった。

 

「俺にクリスマスプレゼント?」

 

 オスカーは自分にこのセーターを着る資格があるとは思えなかった。

 一体どんな気分で兄弟の仇の息子に服を編めるというのだろう。

 

「モリーおばさんは優しいからね、ほらオスカー」

 

 エストはオスカーからセーターをひったくって無理やり着せてしまった。

 セーターは何か不思議な温かさがあるとオスカーは思った。

 

「これでおそろいだね」

 

 確かにエストも同じ蛇のデザインが入った、銀と緑色のセーターを着ていた。

 

 

 

 朝食を取りに行くと大広間はいつもと違う装いだった。

 クリスマスなのでクリスマスツリーやその他の飾りつけがされているのもそうなのだが、残っている生徒がほとんどいないのか、寮も教員も区別なく同じテーブルだった。

 

「あれ? クラーナがいないけどどうしたんだろうね?」

 

 確かにホグワーツに残っているはずのクラーナの姿が見えない。

 

「死喰い人でも探しにいったんじゃないのか?」

「まあ寝坊してるだけかもしれないね、クリスマスプレゼントが楽しみで寝れなかったとか」

 

 あの女の子がそんな玉だとはオスカーには思えなかった。

 とりあえず、教員四寮合同の騒がしい朝食は終わったが、少なくとも朝食の間、クラーナの姿は見えなかった。

 

「うーん、クラーナはグリフィンドールだから寮まで見に行けないもんね」

「スリザリンの生徒がグリフィンドール寮に入り込んだら大騒ぎだろうな」

 

 ハグリッドは先ほどの朝食でワインをひっかけていたので、今日は小屋にいっても駄目だろうと思い、二人はスリザリン寮に向かっていた。

 

「そういや昨日ハグリッドの小屋でも見なかったな」

 

 クリスマス休暇に入ってから毎日のようにエスト、オスカー、クラーナの三人はルーンスプールの世話をしにいっているのだが、なぜか昨日はクラーナの姿がなかったのだ。

 

「うーん? ゴブストーンにでもはまっちゃったのかなあ?」

 

 クラーナにはゴブストーンよりもあのバカでかい杖を振り回して魔法使いを吹き飛ばしている方が似合っているとオスカーは思った。

 

 

 

 スリザリン寮に帰る途中でオスカーはトイレに行きたくなり、先にエストに帰ってもらった。

 凍り付くような寒さの中、トイレを終えてスリザリン寮に戻る途中、特徴的な杖を持った女の子の後ろ姿が見えた。

 オスカーは疑問に思った。朝食も食べずにこんなところをウロウロしている? そもそもクラーナの所属するグリフィンドール寮はスリザリン寮とは反対の場所にあるはずだ。

 オスカーはちょっとした好奇心に囚われ、クラーナの後をつけることにした。

 

 クラーナはなにやらフラフラとしていた。何かおかしい。そもそもいつものクラーナならばオスカーの尾行くらいには気付きそうなものなのだ。

 すぐにでも後ろ向いてこちらに杖を向けて、「油断大敵!!」「なんだドロホフですか?」とか言ってきそうな気がオスカーにはしていた。

 明らかにクラーナ・ムーディの様子はおかしかった。

 

 しばらく尾行を続けるとクラーナは古い教室のような部屋に入っていった。

 壁のように椅子と机が積み上げられ、ごみ箱や黒板まで逆さにして置いてある。

 なんとなくすべてが上下反転して見えそうな教室だった。

 その教室のはしに部屋にはそぐわない、天まで届くような、金色の見事な鏡が置かれている。

 クラーナはその鏡の前に座り込み、なにやら必死で鏡に見入っている。

 オスカーがクラーナの真後ろまで来ても後ろのオスカーには気づかなかった。

 鏡には上の方に字が彫ってある。

 

『すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ』

 

 とりあえず、クラーナに声をかけてみることにした。

 

「ムーディ、朝食や小屋にも来ずになにやってるんだ?」

 

 クラーナはこれまで見たこともないような反応。オスカーの声にビクッと反応し、よろよろとこっちを向いた。

 いつも自身満々のクラーナの顔はどこかやつれており、目には隈が縁どられている。

 

「なんだ、ドロホフですか、驚かさないでください」

 

 いよいよおかしい。いつものクラーナのならば何かここでオスカーを煽るような言動をするはずなのだ。

 自分がびっくりしているところを見られるのは恥だと思うはずだ。

 それをごまかすような言動をとるはずだとオスカーは思った。

 

「私の様子がおかしいと思ってるみたいですね、ドロホフ。あなたもこの鏡を見れば分かりますよ」

 

 そう言ってクラーナは鏡の前からどいた。

 

 そこに写っているのは自分の姿だった。ただし、ある事件が起こる前の、例のあの人がハリー・ポッターに倒される前の、今よりももっと幼い自分の姿が映っている。

 それも一人ではない。オスカーと同じ髪色をした優しそうな女性と自分の同世代くらいの女の子が一緒に写っている。

 オスカーの眼は鏡に釘付けになった。おかしい、あり得ない。彼女達はもういなくなったはずだ。

 物理的にも、精神的にも、もう何も残っていないはずなのだ。

 あり得ない。あり得ない。オスカーは思わず手を鏡に伸ばした。

 鏡の冷たい感触が伝わってくる。鏡の中の二人は悲しそうな顔をした。

 

「この鏡はなんなんだ」

 

 鏡の中の幼い自分が自分と同じ言葉を言っているのが分かる。鏡の中の二人が一層悲しそうな顔をする。

 

「上に刻まれた文字を見れば分かりますよ、鏡文字になっているだけですから」

 

 もう一度、鏡の上にかかれた文字を見る。その間もオスカーは鏡の中の二人から目を離すことができなかった。

 

『すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ』

 

「私は貴方の顔ではなく、貴方の心の望みを写す」

 

 俺は年をとっても、エストとホグワーツで出会って、生活をしてもあの二人を忘れられないっていうのか?

 オスカーの心の中で自分に対する怒りが湧いてきた。

 

「ドロホフ、貴方が何を見たのかは知らないですけど、この鏡に魅入られるのはきっと必然なんだと思います」

 

 クラーナもまた、鏡から目を離すことができないようだった。恐らく彼女は昨日からずっとここにいるのではないだろうか? 目の隈と寒さに震える彼女の姿が目に止まる。

 クラーナの姿を見た後、自分の体に視線をずらすとさっきエストに着せられたセーターが見えた。

 不思議なあったかさを持つセーターは親の仇の息子に充てられたセーターだ。

 このセーターを編んだ人は、今、鏡を見ている自分よりももっと多くの困難を乗り越えてセーターを編んだ気がした。

 あったかさは怒りに変わりつつあった。この鏡はなんて嫌らしいものなのか、望みが純粋であればあるほどきっとこの鏡に魅入られてしまうに決まっている。

 クラーナも、普段あんなに精神的な強さを発揮している彼女さえこんな風に魅入られてしまうのだ。

 きっと彼女が見ている誰かも鏡の中で悲しい顔をしているんじゃないだろうか?

 オスカーはそう思い、さらに怒りが湧いてきた。

 

「クラーナ・ムーディ。お前はこの鏡の中に何を見ているんだ?」

 

 オスカーは鏡からクラーナの意識を離そうと考えた。

 

「何を?ですか?」

 

 クラーナはやつれた顔でこちらを見る。

 

「簡単ですよ、いつも偉大な闇祓いがどうとか言ってますけど、ここに見えているのは、私の後ろにいるのは五体満足で微笑んでいる私の家族ですよ」

 

 クラーナの顔は鏡の中の二人と同じくらい悲しそうな顔になった。

 

「父も母も姉も、おじいさんもおばあさんも、偉大なアラスターおじさんも、みんな生きていて、五体満足で頭もおかしくならずに笑っている姿ですよ」

 

 あのクラーナ・ムーディの瞳から涙が流れていた。いつもどんな時も強気の彼女の眼から。

 

「なのに、笑っているのに、みんな悲しそうなんです。私の望みのはずなのに……」

 

 なおさらオスカーの心は怒りに溢れた。こんな鏡は、人の心を弄ぶ鏡はここで壊すべきだ。そう思った。

 

「それはクラーナが強いからだろう。偉大な人間になることじゃなくて、家族を望む人間の方が強いに決まっている」

 

 そう言ってオスカーは杖を抜いた。

 

「ドロホフ……? 何を言って……⁉」

 

「ボンバ…⁉」

 

 くそったれな鏡を粉々に爆破しようとした瞬間、オスカーの手に凄まじくしわの入った細長い手が置かれる。

 

「クラーナ、得難い友人を得たようじゃの」

 

 アルバス・ダンブルドア。ホグワーツの校長にして、恐らく今世紀最強の魔法使いがオスカーの呪文を止めていた。

 恐らく目くらまし呪文か何かで隠れていたのだろうが、今の今まで気づくことすらできなかったことにオスカーは戦慄した。

 

「オスカー、それくらいにしてくれんかの? この鏡は意地の悪い代物かもしれんが、色々と使い道があるのでのう」

 

 そう言われてもオスカーの怒りは止まらなかった。そもそも、ダンブルドアならばクラーナが鏡に魅入られる前に防ぐこともできたはずだとオスカーは思った。

 

「本当に得難い友人を得たようじゃの、クラーナ。彼がいればもうこんな鏡などに惑わされることはないじゃろう」

 

 ダンブルドアがすべてを見通すような目でオスカーを見た。

 オスカーは直感的に自分の心が見られているのではないかと思った。

 

「このみぞの鏡は今日、よそに移す。二人のクリスマスを台無しにして申し訳ない」

 

 少なくともダンブルドアは本当に申し訳ないと思っているようにオスカーには思えた。

 そして、ダンブルドアがみぞの鏡を一瞬だけ見た、その瞬間の表情がさっきのクラーナや鏡の中の二人と同じもののように思えたのだ。

 

「さあ、オスカー、クラーナ、そろそろ戻ってはどうかね? 今日はクリスマスじゃからな、楽しまないといけない」

 

 ダンブルドアは二人に退出を促した。

 オスカーは寒さと空腹で震えるクラーナに肩を貸して歩き出そうとした。

 しかし、オスカーに疑問が湧いてきた。

 

「ダンブルドア先生。質問を一ついいですか?」

「うむ、君には迷惑をかけたからのう。一つだけ許そう」

 

 ダンブルドアはこちらを見て微笑んだ。

 

「先生が見たものは僕たちと同じだったんでしょうか?」

 

 ダンブルドアはまた一瞬だけ悲しそうな顔をして微笑んだ。

 

「そうじゃの、今は君たちと同じものを見たかもしれん。じゃが君たちと同じ年のころにはみえなかったじゃろうな」

 

 オスカーにはその言葉の意味が少しだけ分かった気がした。

 

「じゃあの、メリークリスマスじゃ、オスカー、クラーナ」

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくオスカーはクラーナに肩を貸して歩いた。

 

「もう、このへんでいいですよ」

 

 グリフィンドールの寮が近づいてきたころ、クラーナは自分で歩こうとした。しかし、彼女は一晩中あの教室にいたせいか寒さで震えていた。

 オスカーはさっきエストに無理やり着せられたセーターを脱いで、クラーナに無理やり着せた。

 

「ちょっと!? なにするんですか!」

 

 オスカーはこのセーターの不思議なあったかさが今のクラーナには必要な気がしたのだ。

 

「一晩もくっそ寒いとこにいるのが悪いだろう」

「だからってこんな趣味の悪いセーターを着せる必要はないでしょう!?」

 

 そう言いながらもさっきより、クラーナの顔色は良くなっている気がした。

 

「クリスマスプレゼントだ。大事にしろよ」

「銀に緑とかもろにスリザリンじゃないですか、しかもOとかどう考えてもオスカーのOでしょう?」

 

 いつもの調子が戻ってきたのでオスカーはもう大丈夫だと思い、スリザリン寮に帰ることにした。

 

「ドロホフ。私からもクリスマスプレゼントをあげましょう」

 

 何か後ろから声が聞こえる。少なくともクラーナが何か持っていたとは思えないのだが。

 

「私のファーストネームで呼ぶことを許しますよ、さっきは勝手によんでたみたいですけどね。オスカー、メリークリスマス」

 

 そう言って、クラーナはグリフィンドール寮へ戻っていった。

 

 

 

 


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