クリスマス休暇が終わって、生徒達が学校に戻ってきた。
オスカー、エスト、クラーナ、チャーリーの四人は相変わらずルーンスプールの面倒を見るため、授業の空き時間には森のはずれのハグリッドの小屋まで向かっているのだ。
「どうして、オスカーのセーターをクラーナが着てるの?」
「クリスマスプレゼントにオスカーから貰いました。貴方やチャーリーとお揃いとは知りませんでしたけど」
「そういうことじゃないの! というかこれだとオスカーだけ仲間外れみたいになっちゃうの」
エストはプンプンして怒っていて、クラーナとオスカーを交互に見ている。
「オスカーからこれを貰わなかったら私が仲間外れになっていたわけですか、なるほど」
「あああ、もうそうじゃなくて…… って!? なんでクラーナがオスカーを名前で呼んでるの?」
「クリスマスプレゼントです」
「意味わかんないの!」
どうも、モリー・ウィーズリーからもらったセーターをクラーナに渡したのは良くなかったらしい。
いつもクラーナを困惑させているエストが今回はクラーナの手玉に取られている。
というかクラーナのクリスマスプレゼントはクラーナの名前をオスカーが呼ぶことだった気がするとオスカーは思った。
「エストが困らされているのは珍しいね」
「確かに、大抵こっちが困惑するからな」
「まあ来年はママにクラーナの分も送ってもらうように頼んどくよ」
「そうしてもらった方がよさそうかもな」
男子二人が話している間も女子二人は姦しい。この二人が騒がしいのは珍しいと男子二人は思う。
「けどいつの間にクラーナと仲良くなったんだ? オスカー?」
「ダンブルドア校長にクリスマスプレゼントを貰ったんだよ、俺とクラーナは」
「なにそれ! というかオスカーもクラーナのことクラーナって呼んでる! エストのことはずっとプルウェットって言ってたのに!!」
「まあクリスマスプレゼントだし」
「ええ、クリスマスプレゼントなので」
「絶対おかしいの」
こんなにハグリッドの小屋への道中が騒がしいのも初めてだった。オスカーはあのクラーナにあげてしまったセーターのあったかさがなぜか今も感じられる気がした。
「じゃあ僕のこともチャーリーでよろしく、オスカー」
「ああ、クリスマスプレゼントだ。チャーリー」
「もうクリスマスプレゼントってなんなの! 絶対ずるいもん」
相変わらずエストがギャーギャー騒ぎながらもハグリッドの小屋についた。
チャーリーが小屋のドアをノックする。
「ハグリッド。僕らだよ」
「おお、はいってええぞ」
ハグリッドの小屋に入ると相変わらずファングがこちらに向かってくる。なぜかファングはオスカーによくなついていた。
「オスカーみたいな闇の魔法使いの卵が犬に好かれるとは面白いですね」
「何に好かれれば面白くないんだよ、それ」
「やっぱり蛇でしょう。そこにいるルーンスプールとかバジリスクとかその辺ですよ」
「その辺に好かれたら『やっぱり闇の魔法使いでしたね、私の眼に狂いはありませんでした』って言ってくるだろお前」
「当たり前でしょう」
クラーナは相変わらずオスカーを煽ってくる。名前で呼ぶようになってもそれは変わらないようだ。
「なんだ。クラーナはオスカーと仲良くなったんか」
「そうなのハグリッド、なんかいきなり仲良くなって怪しいの」
「まあ僕もちょっと怪しいとは思うね」
何か二人には疑われているようだが、オスカーはあの部屋の鏡の話を他の人にするつもりはなかったし、どうもクラーナも同じ考えの様だった。
「クリスマスプレゼントです」
「クリスマスプレゼントだ」
二人が鉄壁のクリスマスプレゼントでプロテゴを張ると、エストは頬を膨らました。
「ほら! ハグリッドもおかしいと思うでしょ?」
「わっはっは、あんなもんだろう。もともと相性も良さそうだったしな」
「それはそうかもしれないけど、絶対怪しいの」
「すまんが、エスト、ちょっとアン・カド・イグをなだめてくれるか?」
「うん」
ファングがなぜかオスカーになついたように、ルーンスプール。ハグリッドとエストはアン・カド・イグと呼んでいる蛇は四人の中では一番エストになついていた。
ハグリッドとチャーリーは悔しそうだったが、動物の考えることなので仕方がない。
そもそも名前自体もエストが童話から蛇の頭それぞれにつけて呼び始めたので、それが大きいのではないかとオスカーは思っていた。
右側からアンチオク。真ん中がカドマス。左側がイグノタスらしい。ルーンスプールは右側の頭が毒を持つので、童話の中で一番危険な人物を右側に当てたらしい。
「こいつは口から卵を産むらしいですよ」
「ほんとか?」
「ほんとだよオスカー。ルーンスプールは魔法生物の中で唯一口から卵を産む動物なんだ。これは凄く興味深いことなんだよ」
チャーリーが目を輝かしながら説明してくる。こうなるとチャーリーは止まらなくなる。
オスカーは隣のクラーナに目配せする。
「ハグリッド。なにか手伝うことはあるのか?」
「おお、じゃあ二人位でちょっと外の薪を取ってきてくれるか? アン・カド・イグは寒さによえぇんだ」
「じゃあオスカーと私で行ってきますよ」
「ほら! やっぱりオスカーとクラーナは怪しいの!」
チャーリーとエストの追撃を二人は薪でかわした。
チャーリーの魔法生物談義に関わると日が暮れてしまうことを二人は知っていたし、さらにそれをハグリッドの小屋でやるとハグリッドも加わって、出歩くのが禁止されている時間ギリギリまで拘束されそうになることも知っていた。
「あの二人の魔法生物バカもほどほどにしといて欲しいモノです」
「それには同意する」
すでに切られた薪を取りに小屋の裏手の森まで向かう。
まだホグワーツは雪の深い季節だったが、薪置き場の周辺は魔法がかかっているのか雪が常に溶けている状態だった。
「貴方の趣味の悪いセーターにエストがあんなに反応するとは思いませんでしたよ」
「俺もあんなにこだわるとは思ってなかった」
「というかだいたい貴方が人に貰ったプレゼントを他人に渡すのも悪いんですよ」
咎めるように目を細めてクラーナはオスカーを睨む。だがそもそもオスカーは流石に緑に蛇が刺繍されているセーターを、普通にグリフィンドール生のクラーナが着てくるとは思っていなかった。
「クラーナが一晩中鏡を見つめてるからだろ」
「それはそうかもしれないですけど……」
ムムム…… とクラーナは顔をしかめる。オスカーは前から思っていたのだが、クラーナは随分と表情に感情がでやすいと思った。
「まあ、いいです。じゃあなんか私からもクリスマスプレゼントをあげますよ」
「はあ? クラーナの名前がどうのこうのじゃなかったのか?」
「あれはあの時はそれしか思い浮かばなかったんです。そもそもあなたの事を私も名前で呼んでますからノーカンですよ」
クラーナは腕を組んでなんでもコイ、という表情で見てくる。
「じゃあ決闘の練習に付き合ってくれ」
「は? 決闘ですか?」
こんどはなんだそれ? という顔をする。本当に分かりやすいとオスカーは思う。
「前に俺はエストと決闘して負けただろ。さすがに女の子に負けたままだとアレだしな、でもエストに頼むわけにはいかないだろ」
今度は得心した!! という顔になるクラーナ。
「ふっふっふ。分かりました。任せておいてください。このアラスターおじさん仕込みの私にかかればあなたを立派な闇祓いにしてあげましょう」
「いや別に闇祓いになりたくて決闘の練習がしたいんじゃないんだが」
これはダメだとオスカーは思った。チャーリーは魔法生物。エストは複雑な魔法や魔法のかかった物品。そしてクラーナは闇祓いとかそういう類のモノ。三人ともそれらのスイッチが入ってしまうと止まらなくなるのだ。
「エストは一年生としては異常なレベルの杖使いですから中々対策には骨が折れそうですけど、私が教えるからには大丈夫ですよ」
「いや、教えるんじゃなくて、決闘の練習をしたいんだけど」
「油断大敵!! ですよオスカー。最初は決闘の立ち回りや呪文の有効範囲なんかを基礎として覚えないといけないんです」
油断大敵!! と言うときのクラーナはなぜかオスカーには芝居がかっているように見えた。
「確かにまあそんなのは授業でも習ってないし知らないけど」
「でしょう? 大丈夫です。ムーディ家には闇祓いの戦闘に必要な教科書やノウハウが一杯ありますからね、それに最悪アラスターおじさんにふくろうを飛ばせば教えてくれるでしょう」
「いや、マッドアイ・ムーディとかドロホフって苗字だけでアズカバンに送られそうで嫌なんだが」
オスカーの脳裏にはマッドアイ・ムーディとクラーナが二人そろって、吸魂鬼を引き連れオスカーを追い回す地獄絵図が浮かんだ。
「まあとりあえず心配しなくても大丈夫ですよ、あとは場所と時間くらいですけど、場所は必要の部屋でいいですし、時間も大丈夫でしょう? ハグリッドの小屋にいる時に決めればいいですし」
「確かに、まあよろしく頼む」
「ふっ、破れぬ誓いでもしときますか?」
「断る。俺はまだ死にたくない」
一年生から破れぬ誓いをしないといけないとかどんな学校なのか、オスカーはホグワーツを疑わないといけないと思った。
「そろそろ薪を持って帰りますか、チャーリーも鎮まったでしょう」
「ああ、ロコモーター 薪を運べ!!」
オスカーは薪を魔法で小屋へと持って行った。
「あっ! やっと帰ってきたの、ほらやっぱり魔法で運んでるし、絶対一人でも大丈夫だったでしょ」
「いや、寒かったし」
「そうですね寒かったです」
「寒いの関係ないでしょ!! それ!」
エストはまだオスカーとクラーナを疑っているらしい。
「ハグリッド、どこに薪を置けばいい?」
「ああ、オスカーそこに置いといてくれ」
魔法で運んできた薪をドサッとルーンスプールがいる場所に近い暖炉の横に置く。
ルーンスプールの一番右の頭がジロっとオスカーをにらんだ。
「ほら、アンもオスカーとクラーナが怪しいって睨んでるの」
「いや、どっちかというとエストと仲良くしてるのが気に入らないんじゃないのか?」
「エストと? なんで?」
「エストに一番なついてるからな、取られるのが嫌なんだろう」
「なるほどね、アンは頭がいいんだね」
エストが近づくと、一番右の頭が頭を差し出し、それをエストが撫でる。
それを見たほかの頭も我先にと頭を差し出す。そして喧嘩を始めようとするが、エストの顔を見て静かになった。
「ルーンスプールを懐かせるのはかなり難しいんだけど、エストは凄いね」
「まあ確かにな、それにしてもほんとにあの頭同士は仲良くないんだな」
「うん、僕も本には書いてあるのは見たけど、ほんとに仲が悪くなるんだね」
あのルーンスプールはどうもエストが見なくなると喧嘩を始めるらしい。そしてエストが見ると怒られたくないのか喧嘩を止めるのだ。
「あいつらとバジリスクを掛け合わしたら、三倍目で殺せるようになるんですかね」
「お前の発想の方が俺よりよっぽど闇の魔法使いのそれじゃないのか」
「失礼な、私は闇祓いの卵として最悪の想像を常にしてるだけですよ」
「確かに、バジリスクは鶏の卵から生まれるけど、ルーンスプールの卵をヒキガエルの下で孵化させたらどうなるんだろう」
チャーリーがクラーナのあほな心配を本気で考え始める。
「あいつら仲悪いんだから、三頭ともバジリスクになったらお互いににらみ合って終わりだろ」
「二匹が相打ちになるんだから頭は一つのこるんじゃないですか?」
「それじゃ結局ただのバジリスクじゃないか」
その後もチャーリーが何か考察をし続けていたが、オスカーはそんなもの創り出したら、それこそアズカバン行は逃れられないと思った。
「それで結局こいつらはどうするんですかハグリッド? いつまでもここにはおけないでしょう?」
「それはそうなんだけんど、せめてあったかくなるまではここに置いといてやりてえんだ」
「確かに、アン・カド・イグは寒いの苦手だもんね」
「僕もそれがいいと思うよ、ハグリッド。冬の間にルーンスプールを保護してもらえる場所を探しておこうよ」
「おう、四人ともありがとうな」
ハグリッドは四人に感謝しているが、そもそも保護してもらうときにどうやって手に入れたと言い張るつもりなのか、オスカーには分からなかった。
※アンチオク、カドマス、イグノタス・ペベレル
死の秘宝を創り上げたと言われる魔法使い。
※破れぬ誓い
魔法使い同士の契約。破ると死ぬ。
原作中ではセブルス・スネイプとナルシッサ・マルフォイが使用。