ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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既知と英知と

「スネイプ先生? オスカー先輩? あれ? 開いてる??」

 

 地下牢にあるスネイプの研究室。レア・マッキノンはオスカーを探しにやってきていた。オスカーはレアにスネイプの部屋で用事を済ましてから練習に行くと言っていたからだ。

 しかし、研究室のドアは開けっ放しであり、中には人気が全く無く、冷たい地下の空気と薬の匂いが立ち込めていた。

 鰓昆布やユニコーンのたてがみと言った、魔法薬に必要な高価な材料が貯蔵されているため、この場所には普段は鍵がかけられている事をレアは知っていた。

 

「あの? 誰かいますか?」

 

 レアが中に入って見たのはちらちらと踊る銀色の灯りだった。部屋の中央に置かれた机、その上にのっている石の水盆から、銀色の光が漏れ出していて、暗い研究室の中を何度も瞬くように照らしている。

 引きつけられるようにレアはその憂いの篩に近づいた。

 

「オスカー先輩? スネイプ先生?」

 

 憂いの篩の上では銀白色のモヤが何度も渦巻いて、吸い込まれ、色んな人の姿を時々形作っては消えた。

 

「これは……? オスカー先輩?」

 

 そして、一番多く現れるのは、レアが見たことのある半分くらいの年齢だと思える、オスカーの姿だった。

 レアは憂いの篩の前に立って、上からのぞき込んだ。レアの記憶が確かなのであれば、レアはその部屋を見たことがあるし、入ったことがあるはずだった。

 暖炉に大きなテーブル、椅子、タペストリー、床から何から何までピカピカに磨き上げられているその部屋はどう見てもドロホフ邸の広間だった。

 少し、躊躇したものの、レアはその銀色が形作るモノを手で触れた。

 その瞬間、レアの体は憂いの篩の中に吸い込まれて、これまで見ていたはずの研究室の風景が消え、冷たい暗闇の中を独楽の様に回りながら落ちていった。

 

「母さんは今日は家にいるの?」

「いるけれど…… どうしたのオスカー?」

 

 気づけばレアはさっき上から見ていたドロホフ邸の広間に立っていた。そして、自分の後ろから二人の声が聞こえるのだ。

 

「オスカー先輩?」

「よく考えたら、写真って二人で撮ったら、相手しか撮れないから……」

「まあ…… 二人で写りたいっていうんでしょう。ふふ……」

 

 レアの知っているオスカーの声よりも高い声だったし、身長もレアよりも低かったが、母親らしき女性と同じ、ちょっと赤みがかった黒髪の少年はどう見てもオスカーだった。

 今よりも難しい顔が少なく、眼も柔らかい印象だった。

 

「じゃあ、撮りたい時にペンスを呼べばいいわ。そうしたら、ペンスか私が写真を撮ってあげれるから」

「ほんとに?」

「本当よ。でも、絶対に森の中じゃないとダメよ」

「分かった。ペンス!! カメラはどこ?」

 

 バチッという音と共にペンスがカメラを持って現れる。オスカーがいつかレアに渡したのと同じカメラを持っている。ペンスはオスカーから見て、レアを挟んで向こう側に現れた。

 

「オスカーお坊ちゃま、ここに用意してあります。それに外に行かれるならばちゃんと外套をお召しになってください」

 

 オスカーはレアに真っすぐ向かってきて、そのままレアの体を通り抜けた。

 

「うわっ!! え? これって…… 幻? もしかして、記憶? あの写真を撮った時の?」

「分かった!! じゃあ、行ってくる」

 

 ペンスから外套とカメラを受け取るなり、オスカーは走り出して大広間から出て行ってしまった。

 レアは辺りを見回して、なんとなく直観的にオスカーについて行かなければならない気がした。普通に考えればこれはオスカーの記憶であると考えるのが当然だったし、それにレアにはこの記憶の世界から出る方法が分からなかったからだ。

 小さい子供の歩幅なので、レアでも走ればオスカーの姿を捉えることができた。ドロホフ邸の廊下を通り過ぎて、玄関まで行き、オスカーは森へと続く小道へと走って行った。

 

「なんで…… オスカー先輩の記憶が……」

 

 森の中に入ってもオスカーの足取りは速度を全く緩めなかった。トンボが何匹か飛んでいる森の中をオスカーは全く迷いの無い足取りで進んでいくのだ。

 そして、森の切れ目、森と森の間の小道の様な場所までオスカーは出た様だった。そこには白いひらべったい石の上で女の子が座っていた。

 

「写真の子だ……」

「●●!!」

「うわっ!! びっくりさせないでよ。あーあ、どこまで読んだのか分からなくなっちゃったじゃないか」

 

 女の子はオスカーの声にびっくりして本を取り落とした様だった。地面に落ちた本からカバーが外れて、中の本が出てきている。カバーには中世イギリスの歴史と書かれていて、中の本はレアも良く知っている魔法史の教科書だった。

 

「魔法史なんてあんまり面白く無いだろ」

「オスカーは何も歴史の面白さが分かってないね。ああ、私もホグワーツに行ったらこのホッグズ・ヘッドってとこに行ってみたいな。小鬼の反乱の拠点になったらしいじゃないか」

「ホッグズ・ヘッドは汚いバーだから行かない方がいいって母さんが言ってたけどな」

 

 まだレアにはオスカーと女の子の関係が分かっていなかったし、何故かオスカーが女の子を呼ぶ声が聞き取れなかった。しかし、それでも二人がお互いに会う事を楽しみにしていたことぐらいは感じることができた。

 

「ふーん。そうなのか、この小鬼ってホグワーツにいるのかい?」

「小鬼はホグワーツにはいないんじゃないか。グリンゴッツには一杯いたけど」

「グリンゴッツって魔法界の銀行だったよね? 私もいけるのかな?」

「いけるんじゃないのか? そうじゃないとマグルのお金をガリオンとかシックルに替えれないだろうし」

 

 何となく、レアにも分かってきた。この銀髪の女の子は恐らくマグル生まれだということがだ。

 

「とりあえず、こっちの森の中に入れよ。そうしないと僕が母さんやペンスに怒られるだろ」

「オスカーのお母さんや、そのペンスって人にも会ってみたいけどね」

 

 二人はドロホフ邸の敷地の中にある方の森へと歩いていった。何度か入ったことがあるようで、ほとんど同じ景色の森だというのに二人は迷いなく歩いていた。

 少し歩くと、どうやって作ったのか木でできたベンチの様なものがあり、二人はそこに座った様だった。

 

「ねえ。他の教科書も貸してもらえないのかい? 私からは何も貸せないけど…… もう、こっちの学校の教科書はだいたい読んでしまったし、それに魔法界の教科書の方が読んでて面白いんだ」

「別にいいけど。そんなに面白いか? 読んでも杖が無いと使えない魔法ばっかりだし、魔法薬も大鍋が無いと何も作れないだろ」

 

 そう言いながらも、レアの目からはオスカーが嬉しそうに見えた。女の子にお願いされているのが嬉しいのだろうか?

 

「やった。私は魔法界の事を全然知らないし、それに私の家には本なんて教科書くらいしかないからね。学校の図書館にもそんなに一杯本があるわけじゃないから」

「マグルの家なんて入ったこと無いけど。マグルは本を読まないのか?」

「マグルが読まないわけじゃなくて、お母さんとお父さんが読まないだけだけどね。二人は私に本を読むんじゃなくて、もっと他の子と遊びなさいって言うから…… そうだ。オスカー、私の家に来ないかい?」

「え? ●●の家?」

 

 女の子にそう言われた時のオスカーの表情は何とも微妙な顔だった。レアにはさっき母親に言われた事と、女の子に誘われていることの二つがオスカーの中で戦っているであろうと予測できた。それにレア自身も、家の外に出てみたいという気持ちや、誰かと話したい、遊びたいという気持ちは良く理解できたからだ。

 

「ダメなのかい? 私はオスカーに本を貸してもらったり、お菓子を貰ったり、カバンを直してくれたりで色々やって貰ってるけど、こっちからは何もできていないから……」

「うーん……」

 

 オスカーは本当に困っている様だったが、どうも女の子が不安気な顔をするとそれに弱い様だった。これは何となく今のオスカーと同じだとレアは思った。

 

「一日だけなら…… 母さんやペンスにばれないでできるかも」

「本当にいいのかい? じゃあ、今度会う時に一緒に行こう。母さんに言っておくよ」

 

 パアっと明るくなった女の子の顔を見て、オスカーの顔も明るくなった。そして今が言いだすチャンスだとばかりに、オスカーは手元のカメラを出した。

 

「これ、前に言ってた魔法界のカメラなんだけど……」

「写真が動くやつかい?」

「そうなんだ。それで、写真を撮ろうと思うんだけど…… さっき言ってた外に行く話は秘密にしてくれよ。ペンス!!」

 

 バチっという音と共にペンスとオスカーの母親が現れる。女の子はびっくりした顔で二人を見ている。それと同時にさっきまではっきり見えていた景色が銀色のモヤに埋もれだした。

 レアは辺りを見回したが、どんどん銀色に覆われていく。

 しばらくすると、また景色が開け始める。今度現れた景色はドロホフ邸では無く、さっきオスカーと女の子が喋っていた白い石の所らしかった。

 白い石の上で、今度はオスカーの方がそわそわしながら待っているようだ。

 

「違う記憶? これ、いったいいつまで続くん……」

「ミス・マッキノン。余り、人の記憶を覗くのはいい趣味とは言えない」

「す、スネイプ先生!?」

 

 レアが気づくと後ろにスネイプが立っていた。どうも記憶では無く、本人の様にレアには見えた。オスカーの年齢を考えれば、もしここにスネイプが立っていたとしてももっと若いはずだったからだ。

 

「ごめん、オスカー、遅れちゃったけど、家に連れてきてもいいって」

「ああ、でも、この格好で大丈夫なのか? マグルってちょっとおかしな格好をしてるだろ?」

「私たちからみれば君たちの方が変な格好をしてると思うけどね。でも、オスカーはまだ子供だし、変な格好をしてても大丈夫だよ。ほら、行こうよ」

「分かったよ」

 

 レアはスネイプが続けて言葉を発さないことに気が付いた。スネイプはオスカーと女の子を目で追っているようで、それに続いて辺りを見回している様だった。

 二人が完全に見えなくなったあと、声が聞こえた。

 

「おい、見たか? カルカロフ、スネイプ。なんとまあ、ドロホフの息子がなあ……」

「私は…… 帰らせて貰う。少し、急用を思い出した」

「なんだ? ダンブルドア相手のスパイか? ご苦労な事だ」

「ロジエール!!」

 

 レアは思わず大声をあげた。そこに立っているのはどう見ても、レアの知っている死喰い人の一人、ロジエールだったからだ。酷薄そうな笑みを浮かべて、二人が消えていった小道の方を見ている。三人の死喰い人はそれぞれ死喰い人が持つマスクを持っていたが、つけてはおらず顔が見えていた。

 そして、もう一人のスネイプは今となりに立っているスネイプよりもさらに若いようだったが、そのまま姿くらましで消えてしまった。

 

「ご主人様に報告した方がいいのだろうか?」

「そうだな、カルカロフ。お前の勝手でいいんじゃないか? 俺はあんまり興味が無いな」

 

 カルカロフと呼ばれた男はまさにいいモノを見つけたという顔でロジエールと同じ様に二人が消えていった小道の方を見ている。レアは本能的に嫌悪感をこの男たちから感じた。

 そして、さっきレアに喋りかけてきた方の本物のスネイプは何も言わずに二人の死喰い人を見ている様だった。

 

「じゃあ報告しておく」

「ああ、俺はドロホフと喋りに行く。プルウェットを潰す算段が必要だからなあ」

 

 死喰い人が姿くらましで消えると同時に、レアはオスカーと女の子を追いかけて走り出した。嫌な予感がレアの頭の中でどんどん大きくなっていっていた。

 

「ミス・マッキノン!! 戻りたまえ!!」

 

 レアはスネイプの言葉に従う気はこれっぽちも無かった。さっきの会話からみればスネイプが元死喰い人なのは明らかであったし、それよりも二人の行方が不安だったからだ。

 小道を走れば小さな村に出た。石造りの家が何軒か建っているモノのホグズミードよりも小さい村だった。その中でも、外れの方にあるひと際小さい家に二人が入ってくのが見えた。

 

「お母さんはまだ帰ってないみたいだし、私の部屋に行こう」

「なんか変なモノが一杯あるな。マグルの家って。それになんか家も小さいし」

「オスカーの家は大きいのかい? 確かにペンスさん? にお坊ちゃまって言われてたね」

「ペンスさんってなんなんだ? それに屋敷しもべなんてお坊ちゃまってみんな言うんじゃないのか?」

「私はお嬢様なんて、ペンスさんから生まれて初めて言われたけどね」

 

 二人は微笑ましい会話をしていると言うのに、レアの心臓は早鐘を打っていた。明らかに魔法力がある前提で会話をしているマグルの女の子、レアはその女の子をホグワーツのどこでも見たことが無かった。見たことがあるのは、相当な事があっても自分を失わないであろうオスカーが今にも消えそうに見えた時、そのオスカーが見ていた写真の中だけだった。

 

「ちょっと下からお菓子を取ってくるから待っててよ」

「分かったよ」

 

 オスカーは女の子の部屋の中を見回していた。レアからしても余りに女の子の部屋としては殺風景な部屋に見えた。余り物を買い与える余裕が無いのか、女の子の部屋には手作りであろう本棚の中にマグルの教科書らしきモノが数冊あった。

 それにベッドの方にはオスカーから借りたであろう魔法界の教科書が枕元の一番取りやすい位置に置かれていた。

 ただ、オスカーの目線はそのどこにも向いておらず、窓際に置いてあるガラス瓶に入ったツツジの花に向けられていた。

 

「はい、オスカーが持ってくるようなお菓子じゃなくて、その辺のスーパーで売ってるお菓子だけどね」

「ペンスが作るだけだしそんな凄いモノじゃないけどな」

「自分の家であんなの作るの凄いけどね。うちなんてお母さんはあんまり料理しないし、ご飯もスーパーで買ってくることが多いから」

 

 慌てて視点を戻して見ないふりをしたオスカーとお菓子を持ってきた女の子、レアはそのお菓子に見覚えがあった。ドロホフ邸で夏休みに何度かペンスが出してくれたお菓子だったからだ。

 

「●●!! 帰ってるの? あれ? もしかしてお友達が来てる?」

「うん!! オスカーが来てるよ!! オスカー、ちょっとお母さんに会ってみないかい?」

「僕が?」

「そうだよ」

 

 女の子に連れられて、オスカーが一階に降りる。そこにはかなり疲れた顔をしているモノの、女の子の母親だと分かる女の人がいた。

 

「いらっしゃい。●●はあんまり友達がいないのよ。ゆっくりしてね。名前はオスカー君?」

「はい…… オスカーと言います」

「なんでオスカーは結構強気なのになんかおろおろしているんだい?」

 

 そして、レアを追って家に入ってきたであろうスネイプは、マグルの家族とオスカーがぎこちない会話を交わしてるのを、いつもの感情を感じさせることのない鉄面皮では無く、明らかに少し恐怖の色を感じさせる目で見ていた。

 

「オスカー君はどこに住んでいるの?」

「えっと、森の向こう?」

「そんなのどうでもいいから、お母さん、ジュースだしていい?」

 

 三人の声が遠くなり、また霧のように銀色のモヤがあたりを覆い始める。レアにはもう、これが次の記憶に行く前触れであることが分かっていた。

 

「ミス・マッキノン。何度も言うが、人の記憶に入るのは許されることでは無い」

「スネイプ先生……」

 

 銀色のモヤの中でいつの間にかスネイプがレアの傍にいた。しかし、レアはもう、スネイプに何と言われようと最後まで見ないといけない気がした。

 また記憶が明確に形を取り始める。今度はドロホフ邸ではない、どこかの広い部屋であり、冷たい石畳の上に巨大なテーブルが置かれている。

 レアはその円卓のごとく座っている人間たちを見て、おぞけを感じたが、それ以上にその中央に座っている人物はそんなレベルの存在ではないことが見て取れた。

 

「そんな……」

「闇の帝王……」

 

 テーブルの真ん中王様のごとく座っている人物、それはどう見てもヴォルデモートだった。鼻が裂け、怪しく光る赤い瞳は縦に切れており、まるでその顔は蛇のようだった。テーブルの周りの人間がその人物を恐れているのは誰が見てもよく分かった。

 

「皆、よく集まってくれた。今日は他でもない、我らが親愛なるアントニンのその息子に来てもらった」

 

 その声を聞いて、聴衆がまるで嘲るように笑った。

 真ん中に座っている男の傍に、髪の色は違うがオスカーと顔のパーツがよく似た色白の男が茫然とした顔で座っていた。

 

「純血の素晴らしい息子だな? アントニン?」

 

 そして、蛇のような男の傍に恐怖で色塗られた幼いオスカーが立っていた。瞳からは涙が流れ、ただテーブルの上を見つめている。

 

「そしてこのオスカーには非常に仲の良い友人がいるのだ。マグル生まれの、可愛らしい女の子だ」

「そんな…… そんな……」

 

 男が杖を振ると、先ほどの銀髪の女の子が金切声を上げて机の上で暴れているのが見えるようになった。

 女の子からも周りが見えるようになったのか、オスカーの方を見て叫んだ。

 

「オスカー、助けて…… オスカー 怖い、怖い……」

 

 もう一度男が杖を振ると女の子はまるで言葉が失われたように喋れなくなった。レアの隣のスネイプは何も言うことも無く、ただテーブルの上で起こっている事を見つめていた。その眼にはレアよりもよほど恐怖の色が浮かんでいた。

 

「なあアントニン? お前は息子に雑種を作らせたいのか? このヴォルデモート卿の腹心であるお前の息子とそこの穢れた血とでだ……」

「我が君…… そのようなことは決して…… 我が君…… お許しを……」

 

 アントニンと呼ばれた男は必死にヴォルデモートに許しを請い、その隣に座っているオスカーによく似た髪色の女性はショックで何も言えないようだった。

 ヴォルデモートが高笑いをした。

 

「ならば簡単だ。血が腐る前に切り捨てねばならない、当然、オスカー自身にやってもらおうではないか?」

「やめろ!! やめろ!! やめろ!!」

 

 レアにはこれから何が起こるのか理解できた。クラーナとオスカーが叫びの屋敷で閉心術の練習をしていた時に何を見たであろうかも理解できた。そして、こんな事が許されることが理解できなかった。

 

 ヴォルデモートはそう言うとオスカーに向けて杖を振った。

 

「インペリオ 服従せよ」

 

 オスカーの表情が先ほどまでの恐怖に彩られた表情ではなく、何も考えていないような気の抜けた顔になった。

 

「アントニン、お前の杖を貸せ」

 

 ヴォルデモートはアントニンと呼ばれた男から杖を受け取ると、オスカーの手にその杖を添えた。

 

「オスカー、こうするのだ…… 私がアントニンに教えたのと同じ術だ…… 全てを焼く炎をコントロールするのだ……」

 

 ヴォルデモートがオスカーに渡した杖から、赤とも紫とも言える炎が鞭のように噴き出た。

 

「アントニン…… お前の息子は素晴らしいな? お前があれだけ苦労した術をいとも簡単にやってのけたぞ?」

 

 オスカーの何の感情も見られない表情が炎に揺られて映し出されていた。テーブルの上では女の子が声にならない声で叫び続けている。

 

「さあオスカー、穢れた血を自分の手で焼きつくすのだ」

 

 

 オスカーが炎の吹き出す杖を持ってテーブルへと進んだ。

 ヴォルデモートがもう一度杖を振るとまた女の子の声が聞こえるようになった。

 レアにもスネイプにもその声が聞こえた。

 

「オスカー、やめて、やめて、やめて、お願い、オスカー、オスカー‼‼」

 

 女の子が恐怖の表情でオスカーに向けて泣き叫ぶ。オスカーはまったく動じずにテーブルへの距離を詰めた。女の子の声がどんどん大きくなる……

 女の子に炎があたる直前でオスカーの足が止まった。オスカーの顔はもう一度、さっきよりも大きな恐怖で色塗られた。オスカーは女の子の前で立ち尽くした。

 

「オスカー、お願い、お願い、助けて、怖いよ……」

「ほう、服従の呪文を撃ち破るとは…… アントニン、お前の息子は優秀なオーラーになれそうだな?」

 

 しかし、オスカーはまるで石になったように体を動かすことができない様だった。女の子の前で炎の鞭を持ち、彫像のように固まっていた。

 

「アントニン? 私は息子ができないときは父がその手を動かしてやるべきだと思うが?」

 

 そう言われると、アントニンと呼ばれた男がオスカーの後ろに立ち、オスカーによく似た手でオスカーの手を動かそうとした。

 オスカーは無茶苦茶な言葉を吐いて、手を動かして抵抗しようとしていた。

 しかし、自分の何回りもある大人に手を動かされ、ヴォルデモートの魔法で固められた体を動かすことはできず、炎の鞭は確実に女の子に近づいていた。

 

「やめろ!! やめろ!! こんな事許されるわけがない!!」

「オスカー、やめて、やめて、熱い、熱いよ……」

 

 炎の鞭が女の子の体を焼いてゆく。オスカーと女の子の声にならない叫びと悲鳴がレアとスネイプを打ちつくした。そしてきっと肉や髪や服や焼ける匂い。何とか生きようして、体がもがいている感覚が大きなテーブルを通して、二人にも伝わってくる。

 ヴォルデモートの高笑いだけが響く中、また、銀色のモヤが全てを遠くへと追いやり、許されるはずの無い記憶さえどこか遠くへと消えていった。

 

 

 しかし、また記憶が明確に世界を映し出す。今度見えてきたのはドロホフ邸のはずだった。さっきアントニンと呼ばれた男とオスカーと同じ髪色の女が口論している。

 その間で失神しているのか、寝ているのかオスカーがペンスに支えられて椅子に座っていた。

 

「家から出さない様にしろと言ったはずだ!! なんで出した!!」

「あの年頃の男の子を家に閉じ込めておけるわけがないでしょう!! それに!! なんてことを!! なんてことを!!」

「穢れた血が一人死んだだけだろう!!」

「ああ…… 許されない!! この子は二度と私たちも、あの男も、自分自身も絶対に許さなくなってしまう!!」

 

 泣きながらオスカーの母親はオスカーの頭を撫でた。父親の方も混乱している様だった。一体何を言えばいいのか分からない様に見えるのだ。

 

「あのお方はオスカー自身がやらねば絶対にお許しにならなかった!!」

「あんな男が許されるわけがないわ!! 絶対に許されない!! いつか報いを受けることになる!!」

「あのお方を誰が許さないと言うのだ!!」

「誰かではなくて、誰もが許さないと言っているの!! 特にこの子は絶対に許さなくなるでしょう!! きっと、何があっても許さないわ。あの男は自分が何をしたのか分かっていない!! それに…… あなたも分かっていないのでしょう!!」

 

 レアもスネイプも何も言わなかった。二人の怒号だけが広間に響いていた。そして、何度も続く口論の中で、やっとオスカーは起きようとしているように見えた。

 

「もう、こんな所にはいられないわ。今すぐにオスカーを連れて出て行く!!」

「ダメだ。今出て行けば、お前たちも我々に追われることになる。我々は勝利目前なのだ。今から違う陣営に行っても生き残れはしない」

「あんな男の下で生き残ってどうするって言うの!! オスカーがあんな男の下で働くと思うの!! そんなモノ!! それこそあいつは自分で自分の身を焼こうとしてる様なモノよ!!」

「オスカーお坊ちゃま。大丈夫でございます。ペンスは傍におります」

 

 ペンスの声が響くと同時に二人の視点もオスカーに注がれた。オスカーは起きた時から自分の震える手を見ていた。一瞬で顔色は真っ青になり、眼も焦点が定まっていない様だった。

 

「簡単な事だ。忘れればいい」

「何を…… あなた、まさか、そんな」

「オブリビエイト!! 忘れよ!!」

 

 母親が制止するのも聞かずに父親はオスカーに忘却呪文をかけた。オスカーの震えが止まり、顔はぼやっとした。

 母親の方はまるで恐ろしいモノを見る様な目でオスカーと父親を見た。

 

「これで終わりだ。何もかも忘れればいい。戦争が終わるまではここでじっとしていろ」

「臭いモノにふたをして終わりだって言うの? アントニン、オスカーも人間なのよ。いつまでもそんなことをしていられないわ」

「思いだせばまたかければいいだろう」

「オスカーが成人になっても同じ事をするって言うの? 魔法なんかでごまかすことはできないわ。この子はそんなに弱い魔法使いにはならないわ」

「いいから、戦争が終わるまではじっとしていろ!!」

 

 そう大声でどなり、父親は広間から出て行った。母親の方はそれをじっと睨みつけた後、まだぼやっとしている顔のオスカーを見て、瞳に涙を浮かべた。

 レアにはどうしてこの記憶がここにあるのか、大体の予想がつき始めた。どうして、オスカーが何度もスネイプの研究室に行っていたのかも、その理由が分かり始めた。

 また銀色のモヤが現れて、違う記憶へと移ろうとしている。まだ、オスカーの記憶は終わりでは無かった。

 

「母さん、一体どこに行くの? 父さんは家でじっとしてろって……」

「いいからついてきなさい。もうあの家にはいられないの。貴方がいていい場所じゃなくなってしまった」

「でも、父さんとペンスは…… それにここはどこ……」

 

 今度は母親がオスカーを連れて歩いている様だった。恐らく山の中の様だったが、周りには二人の他に誰もおらず、オスカーの方は母親の行動に戸惑っている様だった。

 

「動くな。アンリエットとオスカーか? 何か証明できるものはあるか?」

「あなたは誰? ここにキングズリーからきた手紙があるわ」

 

 闇の中から声がした。レアにはその声に聞き覚えを感じた。その声はレアの近くにいる誰かの声にそっくりだったからだ。

 

「イライザ、近くに行かないと分からないにちげえねえ」

「じゃあダング、あんたが見てこい。それにこういう時に名前を呼ぶんじゃない」

 

 二人組で現れたのは、身長こそ多少クラーナより上だったものの、ダークグレーの髪と黒い眼でクラーナそっくりの女性だった。隣のマンダンガスは以前レアが見た時と何も変わってはいなかった。

 

「うんにゃ…… 俺が行ってもちゃんと読めるか……」

「伏せろ!! エティ!!」

 

 オスカーと母親の後ろから声がした。明らかにオスカーの父親、アントニンの声だった。二人が伏せると同時に緑色の光線がイライザとマンダンガス、それにオスカーと母親がいた場所に向かって飛んでいった。

 

「おいおい、ドロホフ。これじゃあ釣りとして失敗だろう?」

「流石のアントニンでも、息子と妻は大事ってわけかい? まあでも、あの闇祓いの女を殺れればおつりがくるねえ」

 

 死喰い人がそれこそ一ダースはいるかという数で後ろから呪文を打ち込んでいた。その中には明らかにレアからしても見たことのある死喰い人が何人もおり、明らかに形勢は不利だった。

 

「おい、ロジエールのアホに、レストレンジのアバズレじゃないか、ダング、ラッキーだ。あいつらを捕まえれば私も魔法大臣一直線かもしれない」

「イライザ、俺は逃げたほうがいいとおもぅんだが……」

「レストレンジ、お前の御主人とはやれたのか? お前は自分の夫に興味が無くて、闇の帝王とか名乗ってるチンピラにゾッコンだって聞いたぞ? ほんとか? 苗字変えた方がいいんじゃないか?」

 

 何本も緑色の光線がイライザに向かって飛び、何本かがオスカー達に当たりそうになったので、オスカーの父親が杖で光線を曲げた。

 

「黙れ!! お前の汚らわしい唇であのお方になんと不敬な事を!!」

「ベラトリックス!! やめろ!!」

「おいおい、ほんとにゾッコンなのか? どうした? 惚れ薬でも使ってみたらどうだ?」

「こいつは…… よくも……」

 

 すると今度は死喰い人達に向かって、違う場所から赤い光線が撃ち込まれた。イライザ達からではなく、他の場所からだ。

 

「闇祓い局だ。直ちに投降しろ、次は失神光線では無い」

 

 レアもその声が誰なのか分かった。恐らくルーファス・スクリムジョールだ。闇祓い局もこの場所に来ているらしかった。

 

「どうなってるんだドロホフ? これじゃあどっちが罠にかかったのかわからねえぞ」

「分からん。とにかく、オスカーとエティを……」

 

 そう言っている間に完全にここは戦場になった。お互いに相手を殺す気で緑の光線が飛び交う。そんな中でオスカーと母親は光線の飛び交う中心にいたのだ。

 

「母さん。父さんはあっちだ。どうしたらいい?」

「オスカー、あなただけでもあの人たちか闇祓い達の方へ行きなさい」

「何で? 父さんは? ペンスは? 母さんは?」

「いいから行きなさい。貴方はここにいてはダメ、あなたが自分を許すには向こう側に……」

 

 その瞬間だった。二人が話すのを見て、お互いの陣営が敵が喋っていると思ったのか、双方から死の呪文が飛んだ。母親がオスカーの上にかぶさるように抱き着いた。

 

「やめろ!! やめろ!! やめろ!!」

 

 オスカーの父親の声が響いたが、その時には全て遅かった様だった。明らかに緑色の光線を何度も撃ち込まれた体は、オスカーの体に辛うじて引っかかっているだけの様だった。

 きっと、オスカーには緑色の光線が彼女の体に当たった時に、グォオオオという見えない何かが舞い上がる様な音がしたに違い無かった。

 

「母さん? 母さん?」

「そんな…… そんな……」

 

 もはや、お互いの陣営は勝利する目的を見失っているように思えたが、お互いの死の光線の応酬は止まらなかった。緑色の光線があらゆる場所に撃ち込まれていた。

 そんな中で、オスカーの父親はなんとかオスカーの元へとたどり着いた様だった。オスカーと母親が動かなかったために、もう呪文を打ち込む先として認識していないのだろう。

 

「母さん? かあさ……」

「ペンス!! オスカーをつれて戻れ!!」

 

 父親がそう言うと、ペンスが現れて、オスカーだけを連れて姿くらましした。その瞬間にレアとスネイプも一瞬でドロホフ邸の広間へと移動した。あくまでオスカーの記憶なので、オスカーがいた場所しか再現されないのだ。

 

「ペンス!! 母さんが!! 母さんが!!」

「オスカーお坊ちゃま。落ち着いて下さい……」

「父さんもまだあの場所にいるんだ!!」

「オスカーお坊ちゃま。落ち着いて下さい……」

「母さんは僕を闇祓い局か、あの女の人と男の人に渡そうとして…… 頭が痛い……」

「オスカーお坊ちゃま? オスカーお坊ちゃま?」

 

 オスカーは途中まで言おうとして、そのまま床に崩れ落ちた、頭を抱えて、うずくまっている。その横でペンスがどうしたらいいのか分からずにうろたえているのだ。

 

「僕が、僕が外に出たから…… なんで…… 母さんも…… 嫌だ」

「オスカーお坊ちゃま。落ち着いて下さい。ペンスは傍におります」

「僕のせいだ。僕のせいだ。僕が外で遊んだから。僕が僕が父さんは母さんを助けようとしてたのに」

「オスカーお坊ちゃま。オスカーお坊ちゃまは悪くございません」

「僕が遊ばなきゃ、会わなければ、母さんは僕を連れて行こうとしなかったんだ」

 

 どう見ても、オスカーは父親がかけた忘却術を破っている様だった。レアもスネイプもさっきから一言も喋ってはいなかった。どういう言葉も言いようが無かったからだ。

 バチッという音と共に父親が姿現しした様だった。その顔はまるでさっきのオスカーそっくりだった。

 

「オスカー、こっちを見ろ」

「父さん、母さんが、僕のせいなんだ」

「こっちを見ろ!! オブリビエイト!! 忘れろ!! 忘れろ!!」

 

 父親の杖から何度も何度も忘却呪文が発せられて、オスカーに当たった。それをペンスが何も言わずに見ている。

 

「ペンス!! この家に誰もいれるんじゃない。俺も含めて誰もいれるんじゃない。ホグワーツに行くまで、オスカーの面倒を見ろ」

「ご主人様は…… どうなされるのですか?」

「いいか、俺がさっき言った事と今から言うことは誰に対しても言うことを禁じる。そして、今から俺が出て行った時からこの家とお前の主人はオスカーだ。それだけだ」

「ご主人様!! オスカーお坊ちゃまにはご主人様が……」

「もう、お前の主人は俺ではない」

 

 そう言って、父親は姿くらましで消えた。銀色のモヤがどんどん濃くなっていく。これまでとは違い、どんどん濃くなる銀色はいつしか暗闇となっていて、レアとスネイプの二人はいつの間にか研究室に戻っていた。

 

 

 再び戻ってきた研究室にあるのは静寂だった。相変わらず、憂いの篩から漏れ出る銀白色の光が研究室を照らしていた。しばらく、レアもスネイプも何も言わなかった。

 

「ミス・マッキノン…… 戻りたまえ」

 

 一度、スネイプがレアにそう言ってもレアは何も反応しなかった。

 

「ミス・マッキノン、聞こえているかね? 自分の寮に……」

「ボクの名前をその口で言うんじゃない!!」

 

 レアがそう叫んだ瞬間に研究室にあった何本かの標本が入った瓶がはじけ飛んだ。スネイプはどうやったのか、すでにいつもの感情を感じさせない鉄面皮が戻っていた。

 

「誰にそんな口を利いているのか分かっているのかね? ミス・マッキノン?」

「分かっている。お前なんかに言われなくても、ボクには分かっている。セブルス・スネイプ。お前が汚いデス・イーターで、お前は、お前は、お前は……」

 

 レアが喋るたびに起こっている爆発は収まりつつあった。それなのにも関わらず、彼女が喋るたびに、その言葉には明確な、洗練された、怒りがこもっている様だった。

 

「ふざけるな!! ふざけるな!! ふざけるな!! ふざけるなよ!! なんなんだ。お前は、お前は、ここでじっとオスカー先輩があれを思い出すまでじっと見てたって言うのか? 自分が見ないふりして、あんな事が起こったのにじっと見てたって言うのか!?」

「ミス・マッキノン、君は感情をコントロールできていない。一度落ち着きたまえ」

 

 鉄面皮のままのスネイプを見て、レアが手を振った。振った瞬間に研究室の燭台に火が灯された。怒りに紅潮したレアの顔と土気色のスネイプの顔が照らされる。

 

「セブルス・スネイプ。ボクがお前に聞いてるんだ。お前はあんなことを引き起こした原因の一人なのに、ここでアズカバンにも入らずに、悠々と暮らして、よりにもよって、オスカー先輩が記憶を取り戻すのを見てたって言うのかって聞いてるんだ」

「先生とつけたまえ」

「お前!! お前!! お前!! いったいどんな気分で見れるって言うんだ!! 自分が売り渡したも同然で、あんな事になったオスカー先輩を見ていた? ふざけんなよ!! 人間なんだ!! ふくろうや甲虫なんかじゃないんだ!! なんなんだ。思いだすのを見て笑ってたのか? 出荷される豚を見るのと同じ気分か? ふざけてんじゃない!!」

 

 レアはじっとしていられないのか、研究室を歩きながらスネイプに言葉をぶつけていた。スネイプの方はただただじっとして、時々レアに言葉を返していた。

 

「ミス・マッキノン、何度も言うが君は正常ではないようだ」

「あんなの見て、正常な奴の方がおかしいんだ!! 許さない。魔法省が許そうが、ダンブルドアが許そうが、お前は許されるべきじゃない!! 誰が許したって、今、ここで見たボクは許さないぞ!! クソっ、クソっ、クソっ、なんなんだよ!! オスカー先輩が何をしたって言うんだ!! あんなことがあった先輩になんで閉心術の練習なんか頼んじゃったんだ……」

 

 怒りで紅潮しながら、スネイプを罵倒し続けているレアだったが、その顔には涙が流れていた。スネイプの方はやはりまだ土気色の顔色のままだった。

 

「クソっ!! お前、お前と裏切り者のシリウス・ブラックと何が違うって言うんだ!!」

「っ!!」

 

 ただ。レアは気づいてはいなかったが、シリウス・ブラックの名前が出た瞬間だけは、スネイプの顔が醜くゆがんだ。

 

「何度も言うが、レア・マッキノン。君は感情をコントロールできていない。もはや一度、叫びの屋敷に戻った方がいいのではないかね?」

「ボクの名前を呼ぶなって言ったはずだ。それにお前が言う感情のコントロールが、自分の気持ちを押しつぶす事なら、そんな事はクソだ。閉心術の練習とワンドレス・マジックの練習をして分かった」

 

 レアが手を上に風を扇ぐように振ると、最初にレアが爆発させ、粉々になった瓶や標本類が舞い上がり、中身の水分こそ戻らなかったが、レパロを唱えたように元の姿に戻っていった。杖は彼女のポケットに入ったままだった。

 

「自分が怒りたい時に怒って、泣きたい時に泣いて、怒っちゃダメな時は怒らないで、自分のその時の感情を認めないとダメだったんだ。認めもしないで押さえつけたって何も上手くいくわけない。自分のせいじゃないって何かのせいにしたって上手くいくわけがない。お前みたいな裏切り者に分かるわけがないだろうけど」

「ミス・マッキノン、何度も言うが……」

「ボクの名前をその汚い口で言うなって言ったはずだ!! お前の汚い口で言われるたびに呪われているみたいだ。お前なんかに時間を使ったのが無駄だった。ボクはオスカー先輩の所に行く」

「ダメだ。今の君は正常ではない。フリットウィック先生と一緒に対応を考えなければならない。コロポータス 扉よ閉まれ!!」

 

 スネイプが呪文をかけて扉をしめた。グチャッという音と共にしまった扉は呪文の効果として、同時に鍵も閉まっているはずだった。

 

「お前みたいな人の事も考えずに自分の事ばかり考えて、生き残ってきたやつがろくな死に方をするわけがない。扉を閉めて、この薄汚い地下牢で腐っていくのがお似合いだ」

 

 レアはそう言うと同時に手を捻るように動かして、その後、押し出すように手を動かした。それだけで鍵が開く音と同時にゆっくりと扉が開き始めた。

 




お気に入り、評価、感想、誤字報告ありがとうございます。
ちょっと感想返しするとネタバレしそうなのでしばらく自重します。
ただ感想がくると小躍りするほどよろこんでいるので、できれば頂きたいです。

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