ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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監督生

 オスカーは自宅のベッドで本を広げていた。いつもの夏休みならとっくに起きて広間で家に来ている誰かと喋っている時間だったが、今年の夏休みは少し違った。

 一人の時間が必要だとオスカーは思っていた。去年の様に差し迫って何かをしなければならないと思っているわけではないのにそう思っていたのだ。

 ベッドの上に広がっている本はオスカーがペンスに言って買ってきてもらった本で、魔法界にあるいろんな職業について書かれている。闇祓いや癒者と言った魔法界の子供が憧れるような職業から、ドラゴンの糞を掃除する仕事やレタス喰い虫の繁殖家まで、オスカーの知らない仕事がまだまだたくさん魔法界にはあるらしかった。他にも『君はトロールをガードマンとして訓練する能力を持っているか?』、『魔法事故・惨事部でバーンと行こう』等、何冊か魔法界の職業に関する本がオスカーのベッドには転がっていた。

 

 この部屋はドロホフ邸で唯一残されたオスカーの城だったが、誰かが来た場合簡単に陥落する城だった。最近はせめてもの抵抗としてこうやって部屋で本を読む時間をオスカーは作っていたが、それは大抵むなしい抵抗に終わることが多かった。

 本を三分の一も読まない間にドアがノックされた。ドラゴンの糞職人の歴史についてギリシャにそのルーツがあるところまで読んだオスカーはノックに声で答えた。

 

「起きてるけど」

「入っていい?」

「まだ寝巻のローブなんだけどな……」

 

 オスカーはてっきりパーシーかレアだと思っていたので驚いた。パーシーは暇があればオスカーの授業中のメモや勉強に役立ちそうな何かを最近借りにくるようになっていたし、レアは朝食や昼食の前にオスカーの所へ頻繁に顔を出していて、オスカーはだいたいそこで捕まえられ広間に出頭していた。

 

「あれ? オスカーはまだふくろう来てないの?」

「ふくろう? なんかすごい羽だらけだし、なんでふくろう持ったままなんだ?」

「あ…… 忘れてたわ。ふくろうさんごめんなさい」

 

 髪の毛や服にふくろうの毛を沢山つけたトンクスが手にもっていたふくろうを離すと、ふくろうは怒った様にホーホーと鳴いて部屋の窓から外に出ていった。それと入れ替わりに一羽のふくろうがオスカーの方へやって来た。足には封筒が括り付けられていて、外せばオスカーの良く知る紋章が蝋に記されている。ホグワーツの紋章だ。

 

「来学期の教科書とかか……」

「今年はそれだけじゃないでしょ」

「それだけじゃない?」

 

 封筒にはいつもの羊皮紙だけではなく何か小さなモノが入っている様だった。羊皮紙は全部で三枚入っていた。一枚目は九月一日に学校が始まるという内容、二枚目は新しい教科書についてで、基本呪文集五学年用、防衛術の理論、実践的防衛術と闇の魔術に対するその使用法、新数霊術理論と四冊必要だった。

 

「この新しい闇の魔術に対する防衛術の教科書、三年の時にクラーナにあげたやつだな……」

「そんなのどうでもいいからさっさと次の羊皮紙読みなさいよ」

 

 トンクスに急かされてオスカーは次の羊皮紙を読んだ。単刀直入に一行目にこう書かれている。『オスカー・ドロホフを監督生に任命する』その次には他の生徒の模範として行動しろだとか、ホグワーツの校則をきちんと理解しろ、同じ寮の人間からは減点できることや、専用のバスルームが使えることが書かれている。最後にはその世代を監督する立場として、学校の期待を理解して成長して欲しい的な事が難しい言葉で書かれていた。署名はマクゴナガル先生とダンブルドア先生それにスネイプ先生のモノで、恐らく文章はマクゴナガル先生が書いたのだろうとオスカーは思った。

 

「封筒をひっくり返しなさいよ」

「分かった」

 

 封筒をひっくり返せば小さい何かの正体が分かった。緑と銀色のバッジがベッドに転がった。オスカーはビルの胸にこれと対照的な色のバッジがつけられていたのをもう二年も見ていた。目立つのは真ん中のPの文字だ。

 

「やっぱり、ダンブルドア先生はあんたを監督生にしたわけね」

「そうみたいだな。それでトンクスはなんで俺のとこに来たんだ?」

「いや、分からないの? 私も同じなのよ」

 

 トンクスはポケットからくしゃくしゃになった羊皮紙と黄色と黒のバッジを出した。羊皮紙にはオスカーのものとほとんど同じ文章が書かれていた。

 

「大穴って言うのかアップセットって言うのか……」

「私だってそう思うわ。それで、なんでダンブルドア先生はこんなことしたのかしら?」

 

 オスカーはトンクスの反応がおかしく笑いそうになってしまった。どうもかなりトンクスは混乱している様だったからだ。普通の人なら監督生になれれば喜ぶはずなのに、トンクスは自分でもなれた理由が分からないらしかった。

 

「なんでってトンクスなら監督生にふさわしいと思ったんじゃないか? ダンブルドア先生が」

「いや、だって、あんただっておかしいと思ってるじゃないの。私去年だけで二十三回も罰則をくらってるのよ?」

 

 どうもトンクスの体が髪から靴下まで羽だらけなのも、ふくろうを思わず握りしめてここまでやって来たのも監督生に任命されて混乱しているためらしかった。

 

「それでもトンクスが監督生の方が良いってダンブルドア先生は思ったんだろ?」

「だからなんでそうしたのかってことなのよ。だって私よりペニーなんかの方が友達も多いし、スプラウト先生に好かれてるし…… 成績は私の方がちょっといいかもしれないけど…… 罰則だってまあハッフルパフの同級生全員合わせて私とどっこいどっこいだわ」

「他のみんなに聞いたのか?」

「聞いてないからここに来てるんでしょ。クラーナが大騒ぎするに決まってるし、パパやママがなんて言うか分からないじゃない。絶対おかしいわよ。どうするのよこれ、監督生が二十回も罰則受けたらどうなるのよ。やっぱり剥奪? それとも自分で自分に罰則を与えるのかしら?」

 

 監督生が罰則を受けることに疑問をトンクスが持った時点で監督生に任命した意味は

十分あるのではないかとオスカーは思った。それにやっぱりトンクスは広間の喧騒から逃げてきたらしかった。今頃広間はどうなっているのか、ビルが主席にエストやチャーリーが監督生になっているのならウィーズリーおばさんは大喜びだろうとオスカーは考えた。

 

「ちょっと前に…… 観覧車で言ってただろ」

「何を言ってたのよ。オスカーが馬鹿だってこと?」

 

 オスカーは観覧車の事を言うのがはばかられたが、トンクスが類を見ないくらい混乱しているせいで変な気分にならずに喋れていると思った。目の前で誰かが混乱していると見ている方は冷静になってくるようだった。

 

「俺が校長室で寝てる時にみんながどうだったかって話だよ」

「したけどそれが何なのよ」

「その時にダンブルドア先生が周りの事を見れてるなって思ったんじゃないのか?」

「周りの事を?」

「他のみんながどうだったかって俺に言ってただろ? なんて言うかみんなの余裕が無い時に他の人のことを見れてたってことだろ」

「それが何なのよ」

「監督生っぽいだろ?」

 

 そう言うとトンクスは目を見開いた。それに黄色と黒のバッジを強く握った様にオスカーからは見えた。

 

「それはなんか違うわ」

「違うって何が?」

「あの時は私はどんな状況か分かってなくて…… 三人や特にレアなんかはヤバイって分かってたから必死だったのよ」

 

 今度は別の事でトンクスが悩んでいる様にオスカーには見えた。そう言えばオスカーはチャンスだと思った。結局自分の家に戻ってからは渡すタイミングが無く、トンクスに待ち合わせに遅れた埋め合わせを渡せていなかったのだ。

 

「とりあえずダンブルドア先生からは俺が言ってみたみたいに見えたかもしれないってことだろ? それとこれ前ちょっと遅れたのと、俺に合わせてロンドンを歩いてくれたから」

「何これ? ヘアピン? 別にそんなのいいのに」

「じゃあ監督生祝いにしといてくれ」

 

 トンクスがヘアピンを髪に着けようとした瞬間ドアがいきなり開けられた。オスカーがこれまで見たトンクスの動きのどれより早く、監督生のバッジとヘアピンをポケットにトンクスは入れた。

 

「オスカー、オスカーもバッジは届いた? あれ? トンクス?」

「ちょっとノックくらいしたらどうなのよ。私でもノックして入ったわよ」

「バッジは届いたけどな」

 

 最初は笑顔で入ってきたエストはトンクスを見て少し眉を吊り上げた。エストの手にはオスカーのバッジと全く同じデザインのバッジが握られていた。オスカーもベッドに置かれていた自分のバッジを手に取った。

 

「これでお揃いでしょ? クラーナとチャーリーもお揃いだし、ビルは主席のバッジを貰ってたの。HBって書いてあるやつ。フレッドとジョージは石頭の略だって言ってたけど」

 

 エストがオスカーとトンクスの間に座って来たので、オスカーは思わず自分の枕の方へ少し動いた。ベッドは三人分の重さでさっきより沈みこんだ。

 

「エストのバッジのPはパーフェクトのPってわけね」

「何がパーフェクトなの?」

「じゃあトンクスのは何のPなんだ?」

「トンクス?」

 

 トンクスはオスカーの方を見て言うなという顔をしていたが、どうせ一日も持たないのだからオスカーはとっとと言ってしまえばいいと思っていた。

 

「え? どういうこと? トンクスもバッジ貰ったの? なんで言わないの?」

「貰ったわよ。一番私が何で貰ったのか分からないわ」

 

 バッジを取り出す時にトンクスはさっきのヘアピンを落とした。エストがそれを拾うとヘアピンは黄色から緑色に変わった。

 

「ふーん。このヘアピン魔法がかかってるんだね。髪の毛の色に合う色になるのかな? トンクスこんなのもってたの?」

「持ってたのよ!! ほら、バッジを見なさいよ、どうみても本物でしょ?」

 

 トンクスはエストの手から乱暴にヘアピンを奪いとって、バッジを代わりにエストに渡した。

 

「ほんとだ…… じゃあハッフルパフの監督生の一人はトンクスなんだね。でもなんでトンクス先生やテッドさんに言わなかったの? オスカーの部屋でこそこそしてたの?」

「なんで貰えたのか分からなかったからよ」

「確かに…… 何でトンクスが貰えたのかだよね……」

 

 エストはしばらく考えている様だった。その後、解けたとばかりにオスカーとトンクスの方を交互に見た。

 

「ダンブルドア先生があの時校長室にいた人達をコントロールできない場所に置きたくないんじゃないかな?」

 

 エストを除いた二人はいきなり物騒な感じの発想になったので少し驚いて目を見合わせた。それまで座って喋っていたエストはオスカーのベッドに寝転がって自分の考えを喋り始めた。

 

「ダンブルドア先生は凄い賢い人でしょ? それに髪飾りも石もそうだけど、同じようなのがもっと一杯あってもおかしくないでしょ? だからダンブルドア先生はエスト達に校長室で何があったのか喋っちゃダメって言ったんだと思うし」

 

 完全にリラックスしてエストは喋っている様にオスカーには見えた。かなり重大な事をエストが喋っているはずなのに、オスカーが考えていたのは今日果たしてこのベッドで自分が寝ることが出来るかどうかという事だった。ペンスに言ってシーツや掛布団を替えて貰わないと色々気になって寝れないのではないかとオスカーは思っていた。

 

「じゃあ何なのよ。私を監督生にしたのはダンブルドア先生が私を監視するためだって言うの?」

「それだけとは言わないけど、でもトンクスもおかしいと思ってるんでしょ? それにトンクスだけじゃなくて、エストでしょ? オスカーでしょ? チャーリーでしょ? クラーナでしょ? それにトンクスもってなればそう思わない? 多分レアも来年そうなると思うけど」

「それは確かにそうだけど……」

 

 ゴロゴロとベッドを転がっているエストにオスカーは気が気で無かったが、何か言ってとばかりにこっちを見てくるトンクスの方も放っていくわけにもいかなかった。

 

「ダンブルドア先生もただそれだけの理由で監督生にしないだろ。できるって思って無ければバッジをあげないと思うけどな」

「でもちょっとずるいよね。トンクスは多分ホグワーツに来てから百回くらい校則を破って罰則を受けてると思うけど、ハッフルパフには真面目に校則を守ってる人もいるわけだし、トンクスの成績は他の人よりいいかもしれないけどやっぱりちょっとずるいって思うかも」

「そんなの分かってるわよ」

 

 ちょっと不味い雰囲気な気がオスカーはしたが、勝手にオスカーの枕を抱き枕にしてボフボフやっているエストの方がオスカーには問題だった。オスカーは今日は空いている別の部屋で寝て、その間にペンスにベッドを新品同様にして貰わないと寝れない気がした。

 

「それに期待してるとかそう言うことを言われると裏切れなくなっちゃうよね?」

「どういう意味よ」

「ほら、闇の魔法使いとか死喰い人とかは裏切ったら大変なことになるから裏切れなくしてるけど、逆に貴方は期待してますよとか、こういう風な立場につけてあげますよって言うと裏切れなくなるでしょ? 監督生にするって期待してるってだけじゃなくて、そういう意味もあるんじゃないかなって思うけど?」

「いい人ほどそうなりそうだな」

 

 今度は枕を抱いてゴロゴロとベッドを転がっているエストにオスカーはもう諦めたが、今の話は重大な事の様な気もした。隠れ穴でのパーシーの話もそうだったが、期待や信頼は重りや枷にもなりかねないという事だった。それもいい人間で誠実で実直な人間ほどそれが重くなりそうだという事なのだ。多分、ヴォルデモートなら気にすらしないだろう。

「でもトンクスも監督生おめでとうなの。これでみんな一緒でしょ? 専用のお風呂も入れるもん」

「そうね。監督生がフィルチの部屋をブボチューバーの膿みだらけにしたり、図書館のマダム・ピンズの引き出しにマンドレイクを入れたらどういう罰則になるかは興味あるわ。バッジを没収されるのかしら?」

「監督生にしたダンブルドア先生とスプラウト先生のせいになりそうだからやめとけよ」

 

 チャーリーは二人について喧嘩しそうみたいな事を言っていたが、オスカーはそうでもないのではと思った。こうしてみればエストもトンクスも仲が悪いようには見えなかった。

 

「オスカーはご飯食べに行かないの? もうお昼だってペンスさんが言ってたけど」

「行くよ。着替えてからな、二人とも先に行っててくれ」

「分かったの。それと夜はごちそうにしましょうってモリーおばさんが言ってたけど、ペンスさんが厨房を明け渡してはくれ無さそうだからオスカーとちょっと相談したいかもって言ってたよ」

「屋敷しもべにとってはオスカーお坊ちゃまから厨房を任せられてるって言うのは、自分の命より重い使命なんだから当たり前ね」

 

 やっと二人が出ていった後で、オスカーはやっぱりベッドで寝れない気がした。窓とドアを全開にして空気を換えたが、焼け石に水としか思えなかったし、オスカーの聖域は柑橘類の香りで一杯だった。根本的にベッドに座らさないように椅子をもう二脚くらい増やさないと対策にならないとオスカーは考えながら広間に行く準備をした。

 

 

 

 

 

 

 

「オスカー、監督生ですよ。監督生」

「分かってるよ」

「分かってますか? 監督生って一学年に八人しかいないんですよ?」

「それも知ってるよ」

「ほんとに知ってますか? ここに八人中五人いるんですよ?」

「分かってるよ。クラーナ、何か飲んだのか?」

「全然私は大丈夫ですよ。とにかくオスカー分かってますか?」

 

 どうやって作ったのか広間には主席・監督生おめでとうと書かれた横断幕がはってあって、オスカー達はその下で豪華な夕飯を食べていた。その夕飯の後にオスカーはそのまま誰かが大人用のお酒を飲ましたらしいクラーナにつかまっていた。

 

「ほらアップルパイ食べたらどうですか大きくなれないですよオスカー」

「いやなんか逆だろ」

「逆って何ですか? ここに五人も監督生がいるんですよ凄くないですか?」

「凄いと思うよ」

「チャーリーのお父さんやお母さんも、トンクスのお父さんやお母さんも凄い喜んでたじゃないですか、結構凄いことなんですよ」

「そうだな」

 確かに一番喜んでいたのは学生本人より家族かもしれなかった。オスカー達自身よりも周りの方が喜んでいたし、それを見て学生やチャーリーの下の兄弟も嬉しくなってくるという感じだとオスカーは思っていた。

 

「だから凄くて良いことなんですよ、分かってますかオスカー?」

「マッドアイはなんて言ってたんだ?」

「アラスターおじさんですか? めでたい。それはめでたいって言ってました」

「喜んでたんなら良かったんじゃないか?」

「そうですね。アラスターおじさんからしたら最大限の喜び方ですよ。姉さんが試験に受かった時もそんな感じでした」

 

 クラーナはエストやチャーリーやトンクスの様に褒められてみんなに喜んで欲しいのだろうかとオスカーは思ったが、オスカーがクラーナを褒めてもなんだかそれは違う気がした。

 

「姉さんが監督生になった時はあんまり覚えてないですけど、主席になった時は姉さん、なって当然みたいな感じでいたんですよ。考えられますか? ビルみたいに喜んだら良かったのに」

「その方が楽しいかもな」

「そうですよね。絶対そうですよ」

 

 多分二年生までのクラーナならお酒を飲んだとしてもこんな話をしなかったのではないかとオスカーは思った。ある意味で安心して喋っているのかもしれなかった。オスカーの部屋のエストと一緒で、随分リラックスしている様にオスカーには見えた。

 

「オスカー、オスカーは…… 前にも聞いた気がしますけど危ないお仕事はどう思いますか?」

「え? 誰かはやらないといけないんじゃないか?」

「そうじゃなくてですね。自分でやるのはどうですか? 家族がしてるのはどう思いますか?」

「自分で? 自分でやる分には…… やりたいならやるだろうけど。それがやりたいことなら」

 

 まだ広間には何人か残っているはずだったがオスカーとクラーナの方には近づいてこなかった。クラーナがこういう状態なのを分かっていて誰かはオスカーをここに配置したに違い無かった。

 

「そうじゃなくて…… その…… あの、あんまり私たちは実感が湧きにくいですけど。チャーリーのお父さんとか、トンクスのお父さんはそうだと思うんですけど。危ない仕事をしたら不味いかもって思ったり……」

「家族がいるってことか?」

「あ…… そういうことです」

 

 オスカーにはもうだいぶクラーナの酔いは醒めているように見えた。しかしなぜクラーナがこんなことを考えているのだろうと思ったのだ。さっきクラーナ自身が言った様に、オスカーもクラーナもチャーリーやトンクスの様に危険な仕事をしたからと言ってやめろというような家族はほとんどいない様なモノなのだ。

 

「だから、その、レアとかエストはまだあっちですよね?」

 

 広間を見渡してクラーナはレアの位置を確認した。レアはジニーとフレッド・ジョージの前でビルとバタービールの飲み比べをしていた。もちろんバタービールはビルの肥大化呪文で数倍のグラスになっていた。エストの方はキングズリーやウィーズリーおじさんと何か話込んでいるように見えた。

 

「置いていかれるのはみんな嫌だと思いますけど。置いていったらどうなるんだろうって考えませんか。もっとずっと後のことかもしれないですけど」

「クラーナが誰か置いていくのか?」

「私もそうかもしれないですけど。誰でもそうですね」

 

 クラーナは誰を置いていってしまうと考えているのか。そもそもどうしてクラーナがそんな考えを今しているのか、オスカーはこの夏休みで聞いた事を合わせると考え付きそうで考え付かなかった。クラーナ、エスト、レア、トンクス、チャーリー、それにウィーズリーおじさんやパーシーやビルの話、みんなところどころ同じ様な話をしている気がしていた。

 

「よし、こんな辛気臭い話やめましょうよ。オスカー、なんか甘いモノ食べましょうよ。大きくなれないですよ」

「甘いモノ? 前のパフェ食べたいのか?」

「は?」

 

 オスカーがパフェと言った瞬間に二人分パフェが出てきた。スプーンはちゃんと二つあった。

 

「なんでオスカーの家でこれが出てくるんですか?」

「前の週刊魔女の時からペンスが読んでるからだろ」

「それでもオスカーが頼まないとペンスは作らないでしょう!!」

 

 確かにそれは図星だったが、割とペンスは流行に敏感なところがあった。お菓子を頼んでも見様見真似で雑誌に出ているお菓子を作ってしまうのだ。

「まあ同じくらい美味しいぞ」

「美味しいですけど…… なんかこれは……」

「またオスカー先輩はパフェですか?」

 

 さっきまでビルと飲み比べをしていたはずのレアがオスカーの隣にいた。それも巨大なグラスを持ってだ。ビルは向こうの方で机に突っ伏していた。

 

「レア、またってどういうことですか?」

「え? だってこれ週刊魔女に載ってたパフェですよね? 前もオスカー先輩が食べてましたし、なんか脈略もなくボクにも食べるかって言ってきました」

 

 オスカーは何となく不味い流れな気がした。クラーナは明らかにオスカーの方を睨んでいてさっきまでのリラックスして喋っている感じでは無かったからだ。

 

「いつ食べたんですか? レアは?」

「ここで食べました」

「だからいつ食べたんですかって」

「クラーナ先輩もしかしてお酒飲みましたか?」

「レアみたいに飲んでないですよ」

「クラーナ先輩はちょっとずるい。お酒飲んだってことにすればなんでも言えるしできるから」

 

 ちょっとではなく明らかに不味いとオスカーは思った。レアの切れ味が段々上がっているとオスカーは思っていた。距離感が近くなったとか、物怖じや遠慮が無くなった結果、最近は段々と抜身の刀の様になっているとオスカーは思いつつあった。

 

「なんですかそれ、どういう意味ですか。だいたいレアはトンクス並みに最近おかしいですよ。前は、ボクは…… でも…… みたいな感じだったじゃないですか。どこに行っちゃったんですか殊勝な後輩のレア・マッキノンは」

「パフェ美味しいですねオスカー先輩」

「ちょっと聞いてますか? そういうところですよ。何がオスカー先輩なんですか? 最近オスカーって呼び捨てにしているのに、人前だと先輩付けなんですか?」

「なんでクラーナ先輩はパフェの事を気にしたんですか? クラーナ先輩は週刊魔女が大嫌いだから絶対パフェの記事が載ってても分からないと思うけど……」

 

 オスカーは理解した。こういう状態のクラーナとレアの組み合わせは何時ものクラーナとトンクスの組み合わせと同じくらい良くないという事を。

 

「関係ないですよ。私が読まなくてもグリフィンドールの他の女子生徒が喋ってれば分かりますよ」

「クラーナ先輩はそんなにグリフィンドールの女子の同級生と仲が良いんですか? あまりホグズミードとか大広間で一緒にいるのを見ないですけど」

「ルームメイトとかは喋るし、一緒に授業に行ったりしますよ!! だいたいレアみたいにぞろぞろ引き連れて動くのがおかしいんですよ。なんで教室の入り口のところにたむろするんですか? 邪魔で仕方ないですよ」

「よし。クラーナ、家にいる間にさっきみたいな闇祓いの話を聞きに行こう。今なら聞けないことも聞けるだろ」

「はあ? オスカー何を…… ちょ、ちょっとあんまり手を引っ張らないでくださいよ」

 

 これだけいつもより口が回るのなら、いつもクラーナが聞きたくても聞けない事を聞けるのではないかとオスカーは思った。キングズリーの所はちょうどエストがジニーと突っ伏しているビルのところへ介抱に行ったところで、テッド、キングズリー、マッドアイ、アーサーと男ばかり集まっていた。

 

「オスカー先輩は酔ったクラーナ先輩に甘すぎます」

「醒ましたら戻ってくる。ホッグズ・ヘッドみたいなことになったら俺がダメージを受けるからな」

「オスカー、いま聞き捨てならないことを言いましたよね? 聞いてるんですよ。オスカー」

 

 さっきよりよっぽど酔いは醒めて居そうなのに、こんなにクラーナとレアは言い合いをする仲だったのかとオスカーは首をかしげた。これまでならもっと何かお互いの距離感というのかそういうモノが二人の間にあったと思っていたのだ。

 

「ちょっとクラーナが大人の仕事について聞きたいことがあるらしいんだけど」

「ちょっとオスカー、いきなり振られても何がなんだか分からないですよ」

「アラスター、いいんですか? 姪御さんがお酒を注がれて男に連れまわされてますが」

「シャックルボルト、お前が後見人だろう」

「クラーナちゃんはしっかりしてるなあ。うちのドーラは僕には何も言ってくれないのに」

「いやあ、ビルはちょっと仕事を選ぶ話でちょっとモリーと揉めているからね」

 

 オスカーはクラーナよりこっちの男達の方が出来上がっているかもしれないと思った。マッドアイはてっきりスキットルからしか飲まないと思っていたのだが、オスカーの目の前で違う人が飲んで安全だと確認した酒をスキットルに注いで飲んでいた。なぜグラスから飲まないのかはオスカーには分からなかった。解毒作用でもスキットルにあるのだろうかとオスカーは予測せざるを得なかったのだ。他にも何本か酒瓶が空いていて、明らかに奥さんや強い女たちから逃れて男だけで飲んでいる様だった。

 

「みんなどうやって今の仕事を選んだんですか?」

「わしの時代のわしの家は闇祓いになるものと決まっとった」

「じゃあ、アラスター叔父さんはいいです」

「みんな聞いたかい? 伝説のオーラーが一撃だ」

 

 テッドが茶々を入れるとクラーナがそっちを睨んだ。オスカーはこういうところはやっぱりテッドからトンクスに受け継がれているのだろうと思わざるを得なかった。

 

「オスカー君、やっぱり男はモテて家族を養えるような職業じゃないとダメだよ。そこの二人みたいな闇祓いとか、魔法省の官僚とか。やっぱり大黒柱にならないと」

「そうですね。エドワードさん。オスカーには大黒柱になって貰えばいいと思います。どうですか? キングズリーやウィーズリーおじさんは?」

 

 クラーナにエドワードさんと呼ばれてテッドは結構ショックを受けている様だった。オスカーは勝手に大黒柱にされているのは置いておいて、テッドがどうしようもなくなったらこう呼べばいいと学習した。

 

「私かい? 若い頃は何を考えていたかな…… 三年生の時にマグル学を取って…… それから私の目は魔法界とその外側を見る様になって、結局魔法省に入ったね。モリーと駆け落ちしてしまったのもあるだろうが」

「アーサーの名前は魔法省の色んな場所で聞く。驚くような魔法界の重鎮でもアーサーの名前とアーサーが作った法律を知っている」

「キングズリーよしてくれ。それに、若い間はモリーと私だけだったから多少の無茶はできたんだ。それがちょっと年をとって息子が生まれるとそうはいかなくなる」

 

 多分こういう話がクラーナが聞きたかった話ではないだろうかとオスカーは思った。今度はテッドのようによそよそしい名前で呼ばれることなくアーサーとキングズリーは喋っていた。

 

「だから若い間に世の中の色んな事にぶつかってみるべきだと私は思うよ。まあ家族や大人は色々言うだろうが」

「そういうことだよ二人とも。駆け落ちとかね」

「ウィーズリーおじさんとエドワード・トンクスさんが言うと説得力がありますね。オスカー」

「同意を求められても困るんだが」

 

 そもそもオスカーは別に駆け落ちなどしなくても進路だろうが結婚だろうが反対する家族は特にいないはずだった。

 

「まあ今は闇祓いも必要とされている時代ではない。今では臆病な魔法大臣やマグルの大臣の警備員が関の山だ」

「我々が必要とされないという事が平和な時代だということでしょう。アラスター。二人とも闇祓いが昔何と言われていたかしっているかな?」

「昔ですか?」

 

 昔とはどれくらい昔の話なのかオスカーには考え付かなかった。そもそも闇祓いという職業がいつできたかすらオスカーは知らないのだ。

 

「昔は死の呪文や磔の呪文すら禁止されてはおらんかった。魔法族は勝手気ままに決闘して、勝手に死んでいた」

「闇祓いが必要とされたのは各国に魔法省ができて、国際魔法使い機密保持法ができた後の話だ。昔の魔法族からすれば考えられない職業だったわけだ。だからそう、大陸で戦争があったころは同族狩りなんて言われてたころもある」

「ふん。狩らねば何をやらかすか分からん馬鹿どもだ」

「同族狩りですか……」

 

 同族狩り、どこまでが同族でどこまでが同族では無いのだろうか? オスカーが気になったのはそこだったが、多分、ここにいる人達が考えている事とは違うのだろうとオスカーは思った。

 

「見栄えが良い職業でも色んな言い方や見方がある。それに職業に就くことが人間の目的では無いだろう。闇祓いになって何をするのか、魔法大臣やホグワーツの校長ですらその職業に就くことではなく、その職業で何をするのかが大事だろう」

「じゃあキングズリーは何がしたくて闇祓いになったんですか?」

「私かい? 若い頃は私がやればもっといろいろ上手くやれると思っていた。色々な事が。今は正攻法で行うことを諦めてはいけないという事を考えているかな。色々な事を上手くやるには色んな手段がある。魔法省でなくてもだ。でも、誰かは正攻法でやらないといけないだろう? それがもしかしたら一番難しいとしても」

 

 オスカーは具体的ではないと思った。色々とキングズリーは言ったが、それは具体的に何なのだろうと思ったのだ。

 

「キングズリー、色々って何なんだ?」

「さっきの昔の闇祓いの話もそうだが、どうして同族同士で争っているんだろうかとかね。もちろん、考えていることは若いころとは随分変わってしまっただろうが」

「戦いの最中に小難しい事を考えれば死ぬ。小難しいことを考えることが出来るのは時代が平和ボケしているか、そう言った時代で無いのなら小難しい事を考えても死なないような腕か運を持っているやつだけだ」

「伝説のオーラーは何でも物騒でいけない」

「ちょっと私たちは君達より年を取りすぎかもしれない。ビルは…… あっちで酔いつぶれているのか……」

 

 ビルは完全に潰れていて大広間のテーブルに真っ赤になってうつぶせになっていた。隣でエストとジニーがペンスと話していて、多分寝室に運ぶ算段をしているのだろう。

 

「なんかあんまりあれですね……」

「男の話は役に立たないかな? ほら、あっちに女性陣がいるみたいだから話を聞いてみたらどうかな?」

「それがいい。あの二人はなんだかんだ言って、生まれや育ちが良いタイプだからクラーナちゃんがききたい話もきけるんじゃないか」

「オスカー、行きますよ」

「いや、俺は……」

「いいからほら行きますよ」

 

 アーサーとテッドが指した方にモリーとアンドロメダがレアを捕まえて何か喋っているのが見えた。クラーナは男性陣の話が役に立たなかったとばかりにオスカーを引っ張っていった。男性陣は二人がいなくなるとまた何かくだらない話や、家庭での男性の扱いについて盛り上がっている様だった。オスカーは果たしてマッドアイがああいう場所で何を喋るのかが謎だった。

 

「ほら、だからやっぱり男は家を捨ててでも自分を選んでくれる人じゃないとダメなのよ。ねえモリー」

「まあそうね。家族と喧嘩するのは良いことではないけれど、それくらいの覚悟がある相手の方がいいと思います」

「そういう事らしいです。オスカー先輩」

「オスカーは別に駆け落ちも何もないじゃないですか。だって、誰と一緒になってもオスカーの家でペンスにお世話されて暮らせばそれで終わりですよ。あとは忠誠の呪文を誰かにかければ娘の親だろうが魔法省だろうが誰も手だしできなくなります」

 

 やっぱりこっちの方がオスカーの方へ話題が飛び火してくる分やっかいだった。そもそもクラーナよりレアはある意味では身軽なので、駆け落ちも何もないはずだった。

 

「忠誠の呪文ですか? クラーナ先輩」

「あら、そんな難しい呪文知ってるのね」

「今はほとんど必要の無い呪文ですよ」

 

 忠誠の呪文、オスカーはそれをどこかで聞いたことがあった。さっきまでや他の二人と違って真面目な顔でクラーナの方を見るレアの顔を見てオスカーは思い出した。記憶の中で聞いたのだ。

 

「知ってます。その呪文であらゆる秘密を人間の中に閉じ込めれば、場所も人の存在も外側には全く分からなくなります。それもどんな呪文でも破れない。駆け落ちで使う意味は分からないですけど」

「どんな呪文でも破れない?」

「そうです。たとえどんな強力な魔法使いでも、ダンブルドア先生だって、もしこの家が忠誠の呪文で守られているのなら、門の前に鼻をくっつけたって分からないんです」

 

 そんな呪文があるにも関わらず、戦争中は沢山の死傷者が出たのだ。オスカーはその呪文も完全ではないのだろうと思った。それにレアに続いてモリーも余りいい顔はしていなかったので続けない方がいいだろうとオスカーは思った。

 

「俺も駆け落ちの用途では使わないだろうな」

「ホントですか? オスカー?」

「本当ですか? オスカー先輩?」

「何から逃げるんだよ」

 

 レアとクラーナはオスカーの方を見てから、目をお互いに合わせて、それから広間の入り口の方で騒いでいる何人かの方を見た。

 

「オスカー、私はオスカーが駆け落ちしても秘密の守り人にはなりませんよ」

「ボクも嫌です」

「いやだから使わないし、何から逃げてるんだ」

 

 ありそうもない想定でなぜか嫌がられてもオスカーにはどうしようも無かった。モリーとアンドロメダは笑っているし、オスカーはさっきの男の集団の方に戻りたかった。

 

「今年は二人はふくろうだけど、何か目標にしているのかしら?」

「チャーリーやエストには言いましたけど、ふくろうの成績でどんな職業になれるのか決まってしまうんですよ」

「変身術、呪文学、薬草学、魔法薬学、闇の魔術に対する防衛術でイモリの授業を受けられる成績を取ります」

「ドーラと同じね。闇祓いかしら? それとも癒者?」

 

 言われた瞬間にすらすら答えたクラーナに対してアンドロメダがそう言った。オスカーはてっきり闇祓いの話をまたするのかと思っていたのだが、どうも意外な方向に広がっていきそうだった。

 

「あの…… 癒者になるにも闇祓いと同じ教科が必要になるんですか?」

「レア、ええ、そうですよ。その五つの科目は一年生からずっとあるでしょう? イギリスの魔法界で伝統的な職業に就くのなら、この五科目でE、期待以上か、O、大いによろしいの成績が必要よ。魔法省に入りたいならうちのビルみたいにもうちょっと合格する必要があるけれど」

「ドーラの話を聞くかぎりでは、オスカー君とクラーナちゃんは大丈夫だと思うわ。うちの家は成績だけはいいのよ。いとこや私もそうだったし、まあスプラウト先生から届く手紙の数とは関係なしにドーラも良くて、二人も同じくらいいいんでしょう?」

「まあそれはそうですね。オスカーも私もエストも取っている科目は一緒ですし、そうですよねオスカー?」

「そうだけど…… そういえばレアは何の教科とってるんだ?」

 

 母親二人の自慢が微妙に入った気がしたが、オスカーはレアが何の教科を取っているかあまり知らなかった。カバンに沢山の教科書は入っていたものの、レイブンクロー生はだいたい本をたくさん持っていたし、オスカーが一緒に行動する女の子はトンクス以外みんな本をカバンにこれでもかと言うくらい詰めていた。

 

「全部とってます。呪文学、変身術、闇の魔術に対する防衛術、薬草学、魔法薬学、魔法史、天文学、魔法生物飼育学、マグル学、古代ルーン文字、数占い、占い学で十二です」

「え…… じゃあ、レアは逆転時計を持ってるのか?」

「今は持っていません。フリットウィック先生に預けています」

「去年はビルみたいに全部の教科に出てたんですね」

「本当に十二ふくろう…… じゃないわね、十二イモリならどの職業でも受ける資格ができるわ」

「そう。ビルもそうだけど、仮に全部受かってもあくまで受ける資格なのよ」

 

 ふくろう試験やイモリ試験に受かってもその職業に就けるわけではないという事だった。たしか闇祓いも卒業したあとに長い試験があると聞いたので、オスカーは癒者も同じように試験があるのだろうと考えた。

 

「癒者も闇祓いと同じくらい難しいお仕事だわ」

「えっと…… 何が難しいんですか?」

「命に関わるお仕事は全部難しいわ。みんな自分の命に関わることに妥協はできないし、家族の命が関わるのなら、余裕なんて生まれないのよ。適当な仕事はできないし、要は患者の人やその家族も誰も癒者に容赦なんてしてくれないの」

「他の仕事は違うんですか?」

「そうね。まあハニーデュークスのお菓子の味が少し違っても許せるけど、足の代わりに手を生やされたらちょっと許せないでしょう?」

「それはまあ……」

 

 レアは癒者になりたいのだろうか? クラーナが家族が闇祓いだったから、闇祓いを目指しているようにレアも? そう考えた途中で、その理論だとオスカーは自分が死喰い人にならなくてはいけなくなると思って考えるのをやめた。

 

「レアは癒者になりたいんですか? 初めて聞きましたけど……」

「少し…… 少しだけ興味があります。まだ全然分からないけど…… 他にも色々興味あるし…… それに面白かったりカッコイイ仕事は難しかったり厳しい仕事だと思うから……」

「いいんじゃないしら。何となくでも目標があった方がいろいろやる気も出てくるじゃない。ちょっと危なっかしい目標だと親は困ってしまうけど」

「ええ。それに監督生と一緒で、責任のある仕事に就けば自分もそれに合わせて成長するものよ」

「それでドーラも落ち着いてくれればいいんだけど……」

 

 どちらかと言うと憧れなのか、オスカーはレアが癒者について言い出したのはそう見えた。それにやっぱりさっきの男達よりも、こっちの二人の方が言葉の節々に家族や子供についての思いや考えが出てくると思っていた。向こうはどちらかと言えば、自分自身で思っている事や社会から与えられている責務だとか誇りだとかそう言うのが出てきている気がしたのだ。オスカーはこれは単純に男と女の差なのだろうかと思った。

 

「ところでオスカー君はどうなの?」

「別に言わなくてもいいのよ。ちょっと気になるってだけなんだから」

「そうですよオスカー、ちょっと気になりますよ」

「ボクも気になります」

「何になりたいかってことですか?」

 

 そんな期待の目で見られてもオスカーは特になりたいと思っているものは無かった。そもそも何を期待して四人が聞いているのか分からなかった。

 

「そうよ。まあ男の人はやっぱり稼がないとダメね。それがダメならずっと家族と一緒にいられる仕事じゃないと」

「家族が安心できるお仕事の方がいいわ」

「危ないお仕事か安心できる仕事かどっちかってことですね……」

「ボクはやりたいことならなんでもいいと思います……」

「そんなこと言われても何も思いついて無いんだけど……」

 

 今ちょうど考えようかと思っているところだったオスカーは何になりたいか聞かれても答えることが出来なかった。だいたい目の前の四人はオスカーが答えなくても何になるのが良いのか一人一人勝手に考えている気がオスカーはしたのだ。

 

「これからは昔みたいに物騒じゃないから、夫婦で働いても大丈夫よ。危ない仕事と安心できる仕事でも大丈夫よ」

「でもやっぱり女の子に子供ができた後働かせるのはね……」

「そうですよ。今ならちょっと危険な仕事でも大丈夫ですよ。そういう仕事に家族とか夫婦で就いていると結構有名になりますし」

「平和ならどんな仕事でも大丈夫です。多分……」

「いや…… そんな後の事を言われても……」

 

 もう何を聞きたいのかオスカーには分からなかった。ただ、このあとずっと平和とはオスカーは思ってはいなかった。平和だから危険な仕事について、平和じゃないから安心できる仕事につくと言うのも、オスカーはそれで自分が納得できるかは難しいと思ったのだ。

 

「オスカーは何を聞かれてるの?」

「向こうに男ばっかり集まってるのになんでオスカーはこっちにいるわけ? フレッドとジョージは向こうに行けば余りのアイスクリームが貰えるって言って、ロンとチャーリーを連れて行っちゃったわよ」

「ビルはもう寝てる!!」

 

 男女比率が七対一になってしまい、オスカーはオセロなら自分はとっくに女になっていると思ったし、ビルは寝ているのではなくて正確にはつぶれているが正しかったが、ジニーの発言を訂正する元気はオスカーには無かった。明らかに男性陣はこの机の傍を避けていた。この部屋にいないパーシーは早々に自分の部屋に戻ってエストの羊皮紙をオスカーとクラーナのメモを使って解読しているに違い無かった。

 

「オスカー君が何になりたいのって話よ」

「オスカーが? 別に働かなくてもこの屋敷に引きこもってペンスと暮らしても生きていけるんじゃないの?」

「オスカーは引きこもるの? 時々遊びにいったらいつでもあえる?」

「ジニー、残念ながら引きこもらないと思うけどな」

 

 このままでは体と口がどれだけあっても相手ができないとオスカーは思った。七人の相手などできるわけがないのだ。

 

「五年生だからそういう話をしてるの? でも別に今から動かなくてもとりあえず今受けてる教科をイモリでも受けられるようにすれば大丈夫だよね? ちょっと勉強してEかOの成績をとればいいの」

「そういうこと普通に言えるのはエストくらいじゃないの?」

「トンクスもいつも大して勉強して無いのにテストはできるだろ」

「あんなのできない奴がちょっとおかしいのよ」

「結構トンクスは図書館にいるじゃないですか。魔法史の時間は爆発スナップしてますけど」

「授業中に遊べるの?」

「ほんとは遊んじゃダメだけど、魔法史は先生が寝ちゃうから……」

 

 この状態では何もできないというか、オスカーは論点を何とかずらさないとどうにもならなかった。

 

「オスカー君は好きなモノとかあるのかしら?」

「仕事は好きなモノから見つけるのが長続きするコツなのよ」

「好きなモノですか?」

 

 エストとトンクスのおかげで論点や話題がずれたと思ったのに、大人二人に戻されてオスカーはもう疲労困憊だった。やはり酔っているクラーナに付き合うのは間違いだったと思わざるを得なかった。

 

「オスカー先輩の好きなモノってなんですか?」

「自分で分からなくても簡単にわかる方法があるよ? アモルテンシアを嗅げばその人が好きなモノの匂いになるはずなの。えーと、チャーリーだったら、多分ドラゴンのふんの匂いとか、新しい箒の匂いとかそういうの」

「確かにそうですね、でもアモルテンシアなんてそうそう嗅がないでしょう。それだけでも危ないですし」

「自分の好きな匂いがする薬があるんだ……」

 

 アモルテンシアと聞いてオスカーの視線はなぜか静かになっているトンクスの方を向いた。オスカーが見るとトンクスはわざとらしく視線をずらした。オスカーは観覧車でどんな香りを感じたのか思い出した。

 

「匂い……」

 

 そうつぶやいた後で、オスカーは順番に視線をずらした。ジニーとアンドロメダ、モリーを除いて。そもそもオスカーはアモルテンシアを二回嗅いだことがあると覚えていた。授業とジェマの起こした騒動で合わせて二回、匂いは五種類だった。オスカーは特別リンゴが好きなわけでも、オレンジやネーブルが好きなわけでも、ミントのアイスが好きなわけでも、お菓子は好きでも特定の甘い匂いが好きなわけでも、カモミールティーが好きなわけでもないのだ。

 

「今日は寝る」

「は? 何言ってるわけ?」

「だから今日は寝る。クラーナは何か飲んでるみたいだからトンクス頼む」

「オスカーいきなりどうしたの?」

 

 オスカーはエストを見て思った。今日ベッドに帰っても多分寝れないだろうという事が。今日自分の部屋で香った匂いをオスカーは間違いなくアモルテンシアから感じていた。

 

「ちょっと寝るよ。昨日あんまり寝てなかったから」

「オスカーは今日起きてくるのがそもそも遅かったじゃないですか、監督生の手紙がきたのに」

「なんでいきなりそんなこと言い出すんですか? オスカー先輩おかしくないですか?」

 

 近づかれると困るとオスカーは思った。オスカーの脳みそはいきなりギアが変わったと同時に急速回転していたが、同時に滅茶苦茶に混乱していた。とにかく近づかれるわけにはいなかった。

 

「ははーん、あれね。エストがごろごろしたベッドで一人で早く寝たいわけね。アモルテンシアの匂いで思い出したんでしょう?」

「違う」

 

 なぜこういう時だけ妙にトンクスのボケやトンチンカンな発言が的を突くのかオスカーには分からなかった。

 

「なんでエストがオスカーのベッドでごろごろしてるんですか?」

「朝行った時に手持ち無沙汰だったの。やること無かったし」

「やることが無かったら人のベッドでゴロゴロ?」

「ジニーもオスカーのベッドでゴロゴロしていい? やぬしだからオスカーのベッドは大きい?」

「大きくない。他の部屋のベッドと同じだから、他のベッドで満足してくれ。みんなおやすみなさい」

「あらおやすみなさい」

「おやすみなさい。オスカー」

 

 大人二人からの挨拶が聞こえ、オスカーは足早に広間から脱出しようとした。どうみても四人がついてきていた。何もわかっていないジニーはベッドでゴロゴロしようとついてきていた。何が何の匂いや香りかぐらいオスカーには分かっていた。

 オスカーは本気で逃げ出した。

 

「オスカー、ほんとに部屋に戻るの? もうちょっと喋っても……」

「ちょ、ちょっとほんとに何で走り出すんですか?」

「ほんとにどこ行くのよ? え、本気で走ってるじゃないのあいつ」

「ええ?? オスカー先輩?? 早っ!?」

「追いかけっこ?」

 

 頭が冷えて、草と木と土の匂いしかしない場所まで、オスカーは逃げ出した。

 やっぱり今日は一人の時間がオスカーには必要だった。

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