ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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長いです。本当に


車内販売

「卵はこれで大丈夫かな?」

「トランクの中は燃えでもしないかぎり大丈夫だろうし、見た目は俺のトランクだからバレないだろ」

「そうだよね。ただ、どこか場所が必要だよね? 卵の面倒を見る場所が」

「考えとかないとな、寮の俺の部屋に置いとく訳にはいかないし」

 

 オスカーはチャーリーと自室で話して安心していた。チャーリーが部屋に来ても、全く以って自分がどうもしないからだ。みんなにも秘密のままの卵の話をするのは、一年生の時のルーンスプールの話をしている時と同じようで、純粋にオスカーは楽しかった。

 

「ハグリッドの小屋に置いとく訳にもいかないよね。そうしたらすぐにみんなやダンブルドア先生にバレるだろうから」

「まあなんか考えよう。思い付いたらエストがクィディッチの練習に行っている間に寮の俺の部屋からトランクごと動かそう」

「じゃあそれまでに図書館で卵について調べたり、ハグリッドにそれとなく聞いたりしておくよ。多分、ちょっと話をするだけで全部教えてくれるだろうから。あ、あと、もしほんとにドラゴンが生まれたら、流石にハグリッドとケトルバーン先生に言おう。ハグリッドは喜ぶだろうし」

「ホグワーツでも動くドラゴンを隠すのは難しいだろうからな」

 

 どこまでみんなに見つからずに二人でドラゴンの卵を育てることができるのか、オスカーはそれが問題だと思った。ちょっとくらい男だけで女には言わずに遊んでもいいだろうと思っていたのだ。だいたいこの家にいる間にも女子勢はみんなでまとまってロンドンへ遊びに行っていたのだ。それが許されるなら男だけで遊んでも許されるだろう。もちろん、オスカーからすれば家から女性陣がいなくなるのはありがたくてこの上無かったが。

 

「ところでチャーリー、チャーリーってスクリムジョール先生の授業でアモルテンシアを嗅いだことあったか?」

「アモルテンシア? トンクスが盛られたやつだよね?」

「いや、エストがなんかチャーリーだったらアモルテンシアの匂いが箒の香りとか、ドラゴンの糞の匂いだろうとか言ってたから」

「ああ、なんかオスカーが逃げたとかみんな言ってた日の話だよね?」

 

 チャーリーがニヤニヤ笑った。オスカーは少し直接的に聞きすぎたかと思った。しかしオスカーは他の人が一体どんな香りをアモルテンシアから感じるのかを知りたかった。流石に女の子にどんな匂いを嗅いだのか教えてくれとは聞けなかったので、あとはチャーリーくらいしか聞ける相手がいなかった。

 

「まあそうだな。寝るって言ったのにみんなぞろぞろついて来るから……」

「そうなんだ。多分アモルテンシアはスクリムジョール先生の授業で嗅いだけど、新品のマホガニーの香り…… 要は新品の箒の香りだよね。高級クィディッチ用具店で嗅げるような匂いがしたと思うけどね。ほら、監督生のお祝いで買ってもらったニンバスの匂いだよ」

「他になんかしなかったのか?」

「ママの糖蜜パイとか? あとは…… 魔法生物飼育学で土を弄ってる時にするような、草とか土の香りが混ざったみたいな匂いだったと思うよ。ちょっと去年の話だからあんまり自信ないけどね」

 

 オスカーはかなり落胆した。チャーリーがもしかしたら恥ずかしがって情報を省いたり、嘘を付いたりしているのでなければ、チャーリーが言った内容は誰か特定の人と結びつく訳ではなかったからだ。ただ、ニンバスを買って貰ったことを喜んでいたチャーリーの事を考えれば至極真っ当な結果ではあった。オスカーはもうチャーリーに二十回以上ニンバスの自慢をされていたからだ。

 

「オスカーはアモルテンシアを嗅いだんだっけ?」

「まあ…… そうだけど……」

 

 だが、それはそれで良い情報なのかもしれないとオスカーは思った。単純にチャーリーは好きなモノの匂いをアモルテンシアに見出しているのだ。自分自身もそうなのではないのかという事だ。チャーリーがクィディッチや動物、ウィーズリーおばさんお手製の糖蜜パイが好きな様に、オスカーは自分自身もそういう風にみんなの事を思っているのではないかと考えた。

 

「ペンスが作ったオムライスとかお菓子とか?」

「えっと……」

 

 オスカーは何を言えばいいのか詰まった。どれを言っても簡単にチャーリーに見透かされる気がしたのだ。

 

「リンゴみたいな感じだな。多分、家の裏の森にリンゴの木が結構生えてるから」

「カモミールってりんごみたいな匂いがするよね?」

「え? たしかにまあ…… 似てるような……」

 

 どうしてチャーリーがそんな事を言い出したのか、オスカーはその時点で分からなかった。

 

「オスカー、チャーリー、そろそろ行くってキングズリーが言ってますよ」

「先輩方は準備できてます?」

 

 クラーナとレアが呼びに来てオスカーはチャーリーが何を言いたいのかやっと分かった。

 

「いや、あれは似てるじゃなくてほんとにリンゴの香りだった。ほんとに」

「はあ? 何言ってるんですか? アップルパイでも食べすぎましたか?」

「リンゴの香り? 確かにこのお家の周りに結構リンゴの木が生えてますよね?」

「オスカーがそんなに言うならそうなんだろうけど……」

 

 少しムキになってしまったかとオスカーは思った。しかし違うモノは違うとオスカーからすれば言わざるを得なかった。

 

「とにかくもう行きますよ。とりあえず暖炉飛行してから魔法省の車に乗る予定なんですから」

「分かった。今から広間に行けばいいんだろ」

「ちょっとトランク取ってくるよ」

 

 チャーリーは慌てて泊まっていた部屋に戻った。クラーナがオスカーのトランクまで持ちそうな勢いだったので、オスカーは自分でトランクを持った。何かの拍子にトランクが開けば、クラーナやレアはこのトランクが使ったことのあるトランクだと気付いたに違いなかったからだ。

 

「話が変わりますが、オスカー先輩とチャーリー先輩はなんか時々家からいなくなってませんでしたか? 今日は部屋にいましたけど……」

「そうですよ。外に行ってたんですか?」

「外? 確かに時々出てたけど、敷地の中だぞ。あとは…… ああ、地下室にいたかもな。結構涼しいから」

 

 オスカーは閉心術の技能をフル活用してなんでも無さそうに喋った。もう地下室は使わないのだから喋っても構わなかったし、疑われたままホグワーツに行くのは良くなかった。

 

「地下室? 地下室があるんですか?」

「え? オスカーとチャーリー先輩しか知らない?」

「ペンスも知ってるけど…… もしかしたらキングズリーも知らないかもな。うちに魔法省が踏み込んだ時もバレてなかったから。玄関から吸魂鬼がいなくなった後にペンスから教えて貰ったから」

 

 卵があるから黙っていたとは言えなかったので、オスカーは自分ではさも言うのを忘れていたと見える様に喋っているつもりだった。二人の反応を見るに多分まだ成功しているとオスカーは思っていた。

 

「なんで教えてくれないんですか。それにチャーリーと夏休みにどこに行ってたのかも教えてくれないじゃないですか」

「何かボクも仲間外れにされたみたいで……」

「秘密基地みたいだったから言うと部屋の特別な感じが無くなる…… みたいな?」

 

 割と本当に二人はオスカーが黙っていたことにショックを受けているようで、オスカーは普通に良心が痛んだ。しかし、どうもエスト、クラーナ、トンクス、レアは四人ともオスカーとどこかに行ったことを他の人に喋っていない様だったので、オスカーはそれと部屋を黙っていたことと何が違うのか良く分からなかった。

 

「今から行きましょうよ。魔法族の旧家の隠し部屋って気になります。絶対凄いお宝とか、禁制品のマジックアイテムとか置いてあるでしょう」

「ボクも見てみたいです。絶版の本とかそういうのがあるんじゃないかって」

「いや、もう行くって言ってただろ」

「いいから行きましょうよ。トンクスやエストも絶対話したら来ますよ」

「フレッドやジョージもそう言うの好きそうだから話したら絶対来る。話さなくてもこの家を隅から隅まで探検してたから……」

 

 両サイドで行くと言い続ける二人を連れて広間に戻った結果。オスカーは結局すでに暖炉飛行で隠れ穴まで行った人たちを除いて、地下室に案内することになった。

 さらに暖炉飛行した先では先に行った組に文句を言われ、特にその中でもフレッド・ジョージには延々とキングズ・クロス駅で列車に乗るまでオスカーは文句を言われ続けた。

 

 

 

「オスカー、僕たちはチャーリーとオスカーが何をやってるか知ってるんだぜ」

「そして四人衆にバレずに僕たちにもありかを探られずにイースターの飾りつけをしようとしていることを尊敬している」

「でも、俺たちも地下室が見たかった」

「それに四人衆それぞれに黙って別々にデートしてたことも尊敬してるんだぜ」

 

 もう少しでオスカーはシレンシオとオブリビエイトを使うところだったが、流石にマグルでごった返すキングズ・クロス駅でそんなことをする訳にはいかなかった。

 

「あと一年経てばホグワーツに行けるし、二人が大好きな秘密の通路や隠し部屋もいくらでもあるからなんとか我慢してくれ」

「ところがオスカーの兄貴やチャーリーの兄貴にとっての一年は十六分の一みたいなものだけど」

「僕たちにとっては十分の一だ」

「時はガリオンなり。今すぐにホグワーツに行きたい」

 

 オスカーはこれは面倒なことになりそうだと思った。恐らく二人はホグワーツに行きたいとごねまくるに違いなかった。

 

「あと一年は我慢しないと行けないぞ。だいたい……」

「分かってるよ。オスカー、僕たちもそんなにバカじゃない」

「だいたいいくらオスカーを味方につけてもお袋とエストに通用する訳ないだろ?」

オスカーは拍子抜けした。てっきりオスカーからウィーズリーおばさんか誰かに何か言って欲しいと二人が言うと思っていたのだ。しかし今度は二人は悪戯が成功したとばかりにニヤッと笑った。

 

「その代わり、例の地図を僕たちがホグワーツに入ったら貸して欲しい」

「エストが褒めてた地図。ホグワーツの全部が載っている地図!!」

「なんで知ってるんだ」

「俺たちが部屋で実験してると時々エストがくるんだけど」

「その時に教えて貰った。でも、エストがあんなに道具を褒めることって、めったにないから記憶に残ってたんだ。内容はぼかしてたけど」

 

 確かにチャーリーとロンの部屋でオスカーが寝ているとフレッドとジョージの部屋から爆発音が聞こえることはオスカーも知っていたし、時々、置きっぱなしにしてある誰かの杖を使っていたり、古い魔法薬の教科書なんかを二人が顔をそろえて読んでいたりするのをオスカーは見たことがあった。それにオスカーの家に来てからも二人が寝ている部屋から音がしていたのをオスカーはおろか家にいた人間はみんな知っていた。

 

「俺はいいけどな。見つけたのは俺とトンクスだし、トンクスにもいいか聞いといてくれ」

「やった!! 流石オスカーの兄貴だ。貧乏人とは懐の深さが違う!!」

「ほら、これちょっとエストに手伝って貰ったやつ。自分の耳がちょっと伸びるんだけど、エストに材料を貰って、伸びてる耳は見えなくして貰った」

「お荷物をお持ちいたします。オスカーお坊ちゃま。ビルやチャーリーと同じ、監督生専用のコンパートメントでございますね? この様な些事は我らウィーズリー・ウィザード・ウィーズにお任せを」

 

 そう言うなりリアルな耳を八つほどオスカーの手に二人は押し付けて、オスカーのローブやトランクを持って特急へ駆け出してしまった。二人は忍びの地図を貸して貰えるとオスカーから言質を取り、交渉に成功したと思ったのかかなりの笑顔だった。

「オスカー、監督生は先に特急に乗って出発前に生徒と先生以外が乗っているか確認しないといけないんじゃないかな?」

「キングズリー、確かにそうでした」

 二人がホグワーツ特急に消えていく姿をぼーっと見ていたオスカーに、人を安心させるような声がオスカーの後ろから届いた。確かにオスカーは監督生だったし、ホグワーツ特急でもさっそく仕事があるはずだった。

 

「保護者らしいことは何もできていないが、五年生で何か迷うことがあったら遠慮なく手紙を送ってくれればいい。私は魔法省の事しか知らないが何かしらの助けにはなるだろう」

「はい。もし何かあったら連絡します」

 

 オスカーがそう言うとキングズリーはオスカーのローブに留めてある監督生のバッジをじまじまと見た。

 

「正直に言えば、最初に会った時やホグワーツに入る時に君が監督生になるとはダンブルドアも含めてみんな思っていなかっただろう。そのバッジは君がみんなの見方をひっくり返したという事だ。これからもそうし続けるなら私は何もしなくても大丈夫だ」

「それは……」

 

 キングズリーの言う通り、オスカーが最初にキングズリーに連れられてキングズ・クロス駅に来て、このホームから汽車に乗り、人がいないコンパートメントでエストとモリーの会話を盗み聞きしている間、オスカーは自分が監督生になるなんてことを考えもしなかった。

 

「ではまたクリスマスに」

「はい。行ってきます」

 

 オスカーは考えた。九と四分の三番線から初めてホグワーツに行った日、キングズリーと何を喋ったのかだ。少なくともオスカーは行ってきますなどと言った記憶は無かった。自分は全く別のことで頭が一杯だったに違いなかったのだ。

 オスカーはそのあと他の監督生たちと汽車の見回りをして、ウィーズリー家やトンクスの家族やマッドアイとも少し挨拶をしてから汽車に乗った。

 少なくともフレッドとジョージはオスカーのトランクをきちんと監督生のコンパートメントに入れておいてくれたし、二人の姿は汽車のどこにも無かったので、オスカーに最初に頼もうとしていたホグワーツに行きたいという願いは諦めてくれたらしかった。

 

「ちょっと豪華ですね監督生のコンパートメント」

「俺たちだけでここ占有していいのか?」

「むしろ僕らが固まりすぎてるから監督生と主席に割り当てられたコンパートメント余ってるみたいだよ」

「これちょっとずるいかも、だってなんかふかふかだし」

「なんかむずむずするわね。お金持ちのオスカーはしないんだろうけど」

 

 レアがおらずにこの五人で集まって喋るというのは随分久しぶりな気がオスカーはした。それにコンパートメントの席順をオスカーはちゃんと考え、一番通路側に自分をそして隣にチャーリーを配置したのだ。

 

「トンクスは監督生のバッジにむずむずしてるんだろ」

「そうに決まってるでしょ。主席がビルだから良かったけど、女子の方のなんか真面目腐った私達主席と監督生は~っていうのはサブいぼがでそうだったわ」

「トンクス、バッジよりそのピンいつ手に入れたんですか? 外にみんなで遊びに行った時も、ダイアゴン横丁でも買ってなかったでしょう?」

「買ってたのよ」

「でも、クラーナかエ…… 私のどっちかが外に行った時もダイアゴン横丁でもトンクスと一緒に居たでしょ? 買ってるの見なかったけど?」

「いや、だから買ってたのよ」

 

 オスカーは思った。墓穴を掘りたくないのなら絶対に身に着けるモノをプレゼントするべきではないという事なのだ。

 

「それ色が変わるんですよね? ピンクの時はなんか黄色でしたし、黄色の時は黒だったでしょう? それに夏休みの間つけ始めてから毎日着けても動いてるってことは、ちゃんとした魔法使いが魔法をかけてますよね」

「私は監督生の手紙の時に初めてトンクスが持ってるの見たと思うけど……」

「それよりエストが自分のことエストって呼ばなくなってることの方が重要じゃない?」

「夏休みの間そうだったでしょう」

「うそよ、エストエスト言ってたわ」

「確かに言わなくなったよね」

 

 何かオスカーは二年や三年の頃に戻った気がして嬉しかった。二年の時は失われた髪飾りの話をして、三年の時はたしか劇や守護霊の呪文の話をしていたのだ。

 

「授業の時はもとからそうだったの」

「だから何の心境の変化があったのよ。オスカー」

「なんで俺に聞くんだよ」

「エスト自動翻訳機じゃないの。オスカー・ドロホフは二つの種類の言葉を喋ることができる。英語とエストレヤ語。これで国際魔法協力部に就職間違いなしよ。魔法生物規制管理部かもしれないわ」

 

 一年生に知り合った頃にこんな話はできなかったはずだった。少なくとも学内でハグリッドと法律違反の生物を飼っていたメンバーが全員監督生になるのだから、オスカーは監督生の基準をもう一度ダンブルドア先生は考え直した方がいいのではないかと思った。

 

「全然上手いこと言えてないの。ていうか絶対トンクスのピンは誰かからのプレゼントに決まってるの。それもトンクスの髪色が変わるって知ってて、トンクスが貰って自分で着けようと思う相手でしょ?」

「だから買ったって言ってるじゃない」

「どこで買ったか絶対言えないでしょ?」

「ダイアゴン横丁の一杯ならんでるどこかよ」

「ほらね? それに渡したのは絶対テッドさんかオスカーでしょ」

 

 エストがこれで決まりとばかりにトンクスとオスカーの方を見た。オスカーは案の定何をやっても隠せていないと思った。このままだと卵の件もどれくらい持つか怪しかった。

 

「プレゼントの犯人探しをしても仕方ないですよ」

「クラーナが最初に言ったんじゃないかな」

「そうだな」

「ちょっとなんですか、くだらない事で犯人捜しをしてる二人をですね……」

「何よ。ならクラーナはなんで教科書二冊も持ってるのよ」

「はあ? なんですかそれ?」

「実践的防衛術の本、二冊持ってるじゃない。アクシオ クラーナの実践的防衛術の本」

 

 トンクスが呼び寄せ呪文を使うとクラーナのバッグから二冊本が出てきた。一冊は読み古された本でもう一冊は真新しい本だ。

 

「ほら二冊あるじゃない。オスカー不運だったわね、クラーナのローブの下に着てるようなのが本にひっついて出てきてもおかしくなかったのに」

「トンクスみたいにぐちゃぐちゃに入れてる訳ないでしょう!! だいたいバッグに服は入れてないです!! トンクスのトランクの中身をアクシオした日にはトランクごと飛んできますよ。トンクスのトランクの中身はスリザリンのリーが作った大鍋にこびりついて全然離れない魔法薬の出来損ないみたいなもんです」

「なんで二冊あるの?」

「この本二年くらいからクラーナはずっと読んでるよね」

 

 二年の時のプレゼントまで言われるようでは、オスカーは二度と誰にもプレゼントできないのではないのかと思い始めた。百味ビーンズだとか消えものでないとダメな気がしてくるのだ。

 

「別にいいじゃないですか!! 古くなったから新しいの買っただけですよ!!」

「クラーナは人からもらったものは絶対離さないの。セーターとか」

「ちょっとおかしいでしょう!! なんでくだらない口喧嘩をとめようとした私がそんなに言われないといけないんですか!!」

「いつも突っかかってくるのはクラーナじゃない」

「確かにそれはそうだよね」

「まあそれはそうかもな、トンクスの相手してるのはだいたいクラーナだし」

「なんですか!! 突っかかるって!!」

 

 ホグワーツに行く前でみんな元気が有り余っているらしかった。流石に全員の相手をするとクラーナも疲れるようだったが、みんな夏休み会えなかった同級生や学校の仲間に会えるはずだったし、ホグワーツでの五年生の生活にちょっとは期待しているらしかった。

 ただ、オスカーはこれまでの四年間のように過ごせるか自信が無かった。そもそも、ホグワーツでの四年間はだいたいこの五人かプラスしてレアと過ごしている時間だったので、もしみんなと過ごす時間の質が変わってくるのなら、それはこれまでとはホグワーツの生活が変わってしまうことを意味していたからだ。

 

「ね、ね、今年はやっぱり忙しいかな?」

「話変わりすぎじゃないの? クラーナがプレゼント貧乏性って話だったじゃない」

「貧乏ではないですよ。貧乏だったら二冊目の本なんて買わないじゃないですか。まあふくろう試験があるから、宿題や勉強で忙しいって聞きますね」

「ちょっとクィディッチをやりながらできるか不安ではあるよね」

「まあなんとかなるんじゃないか。実技はだいたいどうにかなるから、筆記とか宿題の分量くらいだろうし」

 

 みんなエストが忙しいかを聞いた理由に期待しているのではないかとオスカーは考えた。去年は決闘トーナメントでみんなバラバラに行動していたし、一年目から三年目までのようにみんなで何かをすることが少なかったとオスカーは思っていた。

 クリスマスではトンクスがそんな感じで怒っていたし、漏れ鍋でチャーリーが言った事が頭に残ってトンクスとエストが意見をぶつけ合いそうでオスカーは少し心配だったが、今、少し顔を見回せば、エストの言葉に一番期待しているのはトンクスに見えた。

 エストは杖を振って自分のポーチを呼び寄せ、なぜか監督生のコンパートメントにはある小さな机の上にごちゃごちゃと何か小物を広げた。

 

「フレッドとジョージがね、最近部屋で色々爆発させてるんだけど」

「うるさいよねあれ。パースが夏休みの間毎日イライラしてたよ」

「そんな隠れ穴の人々の生態は知らないわよ。なんかもうパースは女の子みたいよね、ちょっと神経質で。てかオスカーの家でも聞こえた爆破音はあの二人だったわけ?」

「なんですかこれ? ゾンコの商品ですか? トンクスが良く持ってるヘンテコなマジックアイテムっぽいですね」

「これフレッドとジョージに貰ったやつと一緒か」

 

 オスカーもローブのポケットからかなりリアルに見える人間の耳を取り出した。テーブルの上には他にも妙に小さい鍵や足の生えた糞爆弾のようなものがごちゃごちゃと並べられている。

 

「そう。オスカーが持ってるのは『伸び耳』なんだって、これ耳につけるとびよーんって伸びていって遠くの音でも聞けるようになるの」

「面白いじゃない。クラーナが私の悪口言っててもすぐに飛んでいけるわ」

「私は四六時中トンクスの悪口をこれでもかっていうくらい言ってますから、こんなのいらないですよ。こっちの足の生えた糞爆弾はなんなんです?」

「そっちは『おとり爆弾』なんだって、ちょっと離れた場所まで歩いていってそこで爆発するの」

「へえ。これ動物の気を逸らすのに使えそうだよね」

「この鍵は?」

「これはエス…… 私がちょっとフレッドとジョージにマグルのピッキングって言う、鍵を開けちゃう方法を教えて貰って作ったの。ねえ誰かの鍵付きのトランクある?」

「アクシオ クラーナのトランク」

 

 エストが言った瞬間にトンクスがクラーナのトランクを呼び寄せた。

 

「いやなんで自分のトランクを呼び寄せないんですか」

「クラーナの秘密をあけるわけよ。オスカーとチャーリーは興味あるんじゃない?」

「談話室で時々全開になってるから僕はいいかな」

「クラーナ、これアロホモラ避けはかかってるの?」

「一応かかってますよ。あれですからねオスカー、談話室では本入れとして使ってるだけで、他の中身は寮の部屋にしまってますから」

「いや、そんな説明しなくても大丈夫だけどな」

「開けてもいい?」

「いいですけど……」

 

 鍵をエストが鍵穴に入れると鍵は液体の様に溶けて、その穴を埋め、さらにそこから鍵を回すための取っ手が生えてきた。エストが鍵を回せばクラーナのトランクが開いた。

 クラーナのトランクには教科書や大鍋、服などが綺麗に整頓されて入っていた。オスカーは本の中に週刊魔女があることを見付けたが黙っておくことにした。

 

「ね? なんか鍵っていろんな種類があるらしいんだけど、アロホモラじゃなくて鍵の形を変えて開けてやればアロホモラ避けがかかってても簡単に開くの」

「いいわねこれ、先生の部屋でも入り放題じゃない。スネイプの頭がどうしてあんなに脂ぎっているのか真相が判明するわ」

「そんな真相いらないですよ。明らかに洗ってないだけでしょう。それよりこんなの色々作ってどうするんですか? トンクスが悪戯できないようにゾンコの売り上げを下げるとかそう言うことですか?」

 

 クラーナの言う通り、エストはこんなアイテムを色々作ってどうしようと言うのだろうか? それこそゾンコの売り上げを圧迫するか、トンクスがフィルチやマダム・ピンスをおちょくる材料が増えるだけなのだ。

 

「やっぱりお金を儲けるとか?」

「そんなに儲かるのか?」

「うーんと、お金もそうだけど。こっちから動かないとダメかなって、去年の学期末にいろいろあったでしょ?」

 

 エストが皆を顔を見回してから最後にオスカーの方を向いた。そのせいでみんなの視線が集まってしまってオスカーは思わず視線を上にずらした。

 

「動くってどういう意味だ? こういうのを作って動く?」

「そうですよ。こんなの作ってゾンコ二号店を立てても、トンクスとレイブンクローのチューリップくらいにしか影響ないでしょう」

「いざって時に学生が動けるかどうかが重要だと思うんだけど。だって、このメンバーとレアはいつでも動けると思うけど他の人はそうじゃないでしょ?」

「だから動くってどういう意味なのよ。だいたい何に対して動くわけ?」

「フレッドとジョージが入学した時に喜ぶくらいだよね。こういうの売っても」

 

 オスカーはエストが頬を膨らますか少し黙るかと思った。理解されない時や怒っている時はそういう態度をとるからだ。しかしちょっと笑って話し始めたのでオスカーは驚いた。

 

「先生とか? いろいろ? なんかあった時に色んな人に色んな事を伝えられたり、動かせることが重要かなって」

「先生って誰ですか?」

「一番はダンブルドア先生」

「ダンブルドア先生なんて誰も動かせないじゃない。魔法大臣が言ったってダンブルドア先生はやりたくないならやらないわ」

「ほんとに? 多分ダンブルドア先生は生徒の大半がやりたいとかやりたくないって言ったら聞いてくれるでしょ。数人が言ってもどうにもならないけど」

 

 こういう時はフレッドとジョージやトンクスの悪戯が成功したときと同じような笑い方をエストはするとオスカーは思った。

 

「そもそもうちの学校はまとまって何かするって寮単位だし、クィディッチか寮対抗杯の時しかそういう動きはしないと思うよ。寮のボスって言うかリーダーは先生だし」

「そうだよね? でも寮のみんながやりたくないって言ったら寮の先生でも聞かないといけないし、ダンブルドア先生は生徒のお話を聞いてくれる先生なの。それは生徒の話を聞かないといけないってことなの。それがすごい一杯の生徒の総意ならもっと聞かないといけないの。もし、みんながやりたくないって言ったら止められないの校長先生でも」

「けどそんなの無理だろ? 生徒一人一人ならなんとかなっても、寮同士で一緒に行動なんてみんなしないし、それにダンブルドア先生はみんなが嫌がることなんかさせないだろ」

「ほんとに? 去年の決闘トーナメントでは他の寮の応援もしてたでしょ? 利害が一致するならスリザリンとグリフィンドールでも同じように動けるでしょ? ダンブルドア先生は確かにほとんどそんな事しないと思うけど、でも、そういう風になることが重要じゃない? 嫌な先生が嫌なことをしても生徒はそれをできなくできますって、先生が思っていれば、先生は簡単にそういうことできないでしょ」

 

 どうしていきなりエストがこんなことを言い出すのかがオスカーには分からなかった。エストは基本的につながりの薄い集団に興味が無いとオスカーは思っていたからだ。

 エスト自身が強力で頭がいい魔女であり、誰かに力で縛られないのに加えて、典型的なスリザリン生と同じく、自分の身内から距離が離れるほど興味が失せるタイプなのだ。かなり明確にエストは身内と外との線を決めているはずだった。家族、ホグワーツで一番近いメンバー、クィディッチのメンバー、寮の仲間、近い誰かに何かあればどこから出てくるか分からないくらいのエネルギーで動くが、そうでないのなら目にすら入って無いかもしれなかった。

 だからホグワーツ全体などと言い出すのはオスカーからすれば違和感だった。

 

「エスト、あなた分かってますか? 結構大変なこと言ってますよ。先生に反抗する組織を全部の寮で作ろうって言ってるんですよ?」

「別にそんなの作らないの」

「いいわねそれ。監督生が先生への悪戯を指揮する訳よ」

「それやるのはトンクスだけだろ」

「フィルチが多分死んじゃうよね、働きすぎで」

 

 オスカーにはエストがどれくらい本気なのか分からなかった。ただ、本気でやり始めるなら手が付けられなくなる可能性があったし、もしかしたら暴走する可能性もあった。ホグワーツの先生全員に、リータ・スキータにやったようなことをやられたらもうどうしようも無かった。

 

「じゃあ何をするって言うんです? 私達でゾンコとかダービッシュ・アンド・バングスの代わりになる店を立てるんですか? ふくろう試験の年なのに? というかそもそも生徒の意見をまとめるのと、マジックアイテムを作るのは関係無いですよね?」

「やっぱりあれだよね、学生に危険なマジックアイテムを提供して、先生と対立関係にすることでマジックアイテムの売り上げが上がるとかそういう……」

「そんな死の商人みたいな考え方するのはチャーリーだけじゃない?」

「色んな生徒に情報を渡せるのが重要だと思うの。ほら、忍びの地図にオスカーがちょっと書いたらみんな集まってきて、写真を撮れたでしょ? あんな感じなのを生徒みんなが持ってたら先生もうかつにいろんなことをできないでしょ?」

「まあ変な噂を流そうと思えばすぐできるだろうな」

 

 

 オスカーは日刊預言者新聞や週刊魔女を思い出した。エストが考えているのはまさに三年生の時のリータ・スキータのような影響力をホグワーツ内で持ちたいと言ってるのと同じではないだろうか。

 

「でしょ? でもそれにはその情報が有益だって思ってもらわないとダメでしょ? ホグワーツの掲示板で時々色んな部活の募集とかしてたり、新聞のマネみたいなことしてる人もいるけど、ほとんどみんな見ないよね?」

「まあほとんど私たちに関係無いですからね。決闘クラブとかトーナメントの時はみんな見てましたけど」

「そうでしょ? だからね、みんなが欲しいようなものを売ってくれる紙とかなら読むんじゃないかなって。ここにあるモノとか、あとは……」

 

 

 エストは机の上に広げてあった、おとり爆弾や魔法の鍵を手に取ったあと、トンクスとオスカーの方をチラッと見た。

「禁止されてるような魔法薬で六年生以上じゃないと作れないやつとかなの。ポリジュース薬、惚れ薬、生ける屍の水薬とか」

「目的は商品を売るんじゃなくて、その紙? に価値を持たせることなのか?」

「そう!! そういうことなの。商品は面白いの作って売れれば楽しいけど、目的はその紙をみんなが見てくれることで、その紙をみんなが見てくれればいいの。そうしたらみんなに色んな事を教えられるでしょ?」

 

 オスカーはこれは劇をやる以上に大変な事の気がした。そして明らかにエストはやる気だった。やると決めたらやる人間だとオスカーはエストの事を理解していた。そして言い出すという事は多分もう行動に出ているはずなのだ。

 

 

「エスト分かってますか? 何ですかね、あれですよね、反体制新聞みたいなのを作ろうって言ってるんですよね? しかも最初はそれと分からずに商品のチラシだと思わせて配るって言ってるんでしょう? だいぶ性質が悪いやつですよ」

「いいじゃない。反体制新聞。惚れ薬は販売禁止にした方がいいと思うけど。けどどうやって売るのよ? ゾンコの商品みたいに郵便局から実家からの手紙に偽装してホグワーツに送るとか?」

「ゾンコはそんな風に売ってるんだね。まあ別に生徒にちょっと情報を送れる紙ってだけなら先生も禁止しないし、大丈夫だと思うけどなあ」

 

 

 クラーナは結構難しい顔をしていた。あまり乗り気では無いのが誰が見ても分かっただろう。それにオスカーもさっきキングズリーに言われたことを思い出していた。そしてこのコンパートメントは監督生専用のコンパートメントなのだ。エストが言っていることは監督生に求められる資質とかそういうモノと全く正反対の言動に聞こえるのだ。

 

「郵便局とかに私書箱って言うのが作れるの。人の代わりに郵便を受けとれる場所。これをゴドリックの谷、ロンドン、ホグズミードに作っといたの。ここに郵便で注文を受けるようにすればいいと思ってて、で注文を受けたらふくろうで商品を届けるの。私書箱からね? それに注文の書き方も普通じゃ分からない様にすればいいの。記号みたいなので商品の数とその人の名前で注文させる。ほらちょっと作ってみたの」

「やっぱりもう作ってたのか」

 

 エストが羊皮紙を取り出すとオスカーはやっぱりリータ・スキータを思い出した。羊皮紙にはエストが描いたらしき全体的に丸いタッチで柔らかい色彩の商品イラストがあり、その下に商品の説明が書いてあった。『魔法の鍵、一本で一ガリオン四シックル、これであなたの気になる人の秘密がのぞけます』『伸び耳、十本で五シックル、これであなたはホグワーツの噂を聞き逃すことはありません』他にも色んな商品の名前が書いてあった。

 

「めちゃくちゃ本気じゃないですか。なんか色までついてますし絵も動いてますし、というか夏休みの間に作ってたんですか?」

「合間を見て作ってたの。でね、この商品の欄に数を書いて、名前のところに名前を書いてくれる?」

「アクシオ クラーナの羽ペン」

「いや、なんで自分の羽ペンを使わないんですか」

「トランクが開いてるんだもの」

「トンクスのせいで開いてるんでしょう」

 

 羊皮紙にトンクスはけっこう滅茶苦茶な品数とクラーナの名前を書いた。すると羊皮紙のお代金と書かれた場所に合計の注文額が二百五十ガリオン、四シックル、五クヌートと出てきて、一番下の『お名前と品数がお決まりになりましたら、ここに浮き出た文字を手紙に書いて代金と一緒にホグズミード、ロンドン、ゴドリックの谷、いずれかのWWW私書箱までお送りください』と書かれた場所に古代ルーン文字かつ意味をなさない文字列がでてきた。

 

「なんだこれ? 暗号か? WWWってなんだ?」

「何の商品を頼んだのか分からない様にしてるってことかな?」

「そうなの。運んでる途中でバレない様に暗号にしてあるの。商品と注文した人の名前をね? WWWはフレッドとジョージが二人のアイデアが入ってたら名前として入れて欲しいって言ってたの」

「なんかますます徹底してるじゃないですか。そんなにゾンコをつぶしたいんですか?」

「いいわねこれ。ていうかエストは絵も描けるのね。なんでオスカー言わなかったのよ」

 

 ちょっと本気が過ぎるのではないだろうかとオスカーは思った。いくらエストが作ったにしても、今回の羊皮紙は相当考えて時間をかけて作っている様に見えるからだ。

 不思議なのはどうしていきなりエストがこんなことを始めたかだ。オスカーはエストがマジックアイテムの類を好きだと知っていたし、そういうモノを作るのが好きだとは知っていた。しかし、どう見ても力の入れ方が大きすぎるとオスカーは思うのだ。

 

「エストのノートは読めなくても絵は読めるからな。三年の時も泉の絵を書いてただろ」

「絵を読むってなんかおかしくない? オスカー?」

「一応エストに言っときますけど。私達、一応監督生ですよ? こんなの作って…… まあバレないとは思いますけど。それにこの伸び耳ですか? こういう数で勝負するような商品とかがもし売れたらつくる時間がいくらあっても足りませんよ」

「そうなったら段々一点もので高いのに絞っていけばいいの。魔法薬とか検知不能拡大呪文をかけた何かとか。安いのは最初にどんなの売ってるか宣伝になればいいかなって」

 

 確かに大量のモノを作るなんてことになればオスカー達の数がいても時間が足りなくなるに違いなかった。しかし、売るのが目的ではなく、紙が信用されるのが目的なら徐々に高いモノに移行しても問題がないのかもしれなかった。

 

「私は別にこれやってもいいと思うわ。まあ真面目なクラーナ監督生はやりたがらないかもしれないけどね」

「別に私もそんなに反対だとは言ってませんよ。ただ力の入れ方は間違えないようにしないといけないってことです。ふくろう試験もありますし、監督生の仕事もあるじゃないですか」

「僕もクィディッチと試験の合間くらいにやるならいいと思うよ」

「みんなそんなに反対しないんだね。エ…… 私結構みんな反対かと思ってたの。オスカーは?」

「ほんとに不味いことにならないくらいならやってもいいと思う」

 

 そうは言ったが、オスカーはエストがどうして先生も動かせるような影響力が必要だと思ったのかが気になっていた。

 

「良かった。でね、もしやるんだったら生徒に紙をちょっと広める人と、あと商品の材料を買ってきたり、ホグワーツに持ち込む人、それに商品を置いといたり、作ったりする場所がいると思うの。エスト達だけじゃできないし、談話室でやってたらすぐ誰がやってるのかバレちゃうでしょ?」

「材料はジェイでいいんじゃないかな?」

「ジェイですか…… まあ、ほっといてもホグワーツから抜け出してますからいいんじゃないですか。秘密を守れるかは怪しいとこですけど」

「紙を広めるのはテキトーに女子に頼めばいいんじゃないかしら。ほら、ちょっと女子に受けそうなアイテムとかと入れとけばいいのよ。ニキビが消える魔法薬とか。髪の毛を簡単にいじれるアイテムとか、それに割と男子より女子の方が寮が違っても固まって話してたりするもの。ペニーとかにこんなん拾ったわって言って渡しときましょうか?」

 

 結構みんな乗り気と言うか、エストはこれを求めていたのではないかとオスカーは思った。エストは作ったり、考えたり、計画を実行に移すのは一人で完璧に近くできるかもしれなかったが、協力を取り付けると言う意味で顔が広いかと言われると話は別だった。

 

「あとは場所だろ? 必要の部屋とかそういうのだろ。ただあそこは偶然入られるかもしれないから、どっか秘密の通路とかがいいかもしれないな、叫びの館とかどうだ?」

「やっぱりエス…… 私、一人で考えるより、みんなに聞いた方が早かったの。うん。場所とかそういうのもちょっとずつやっていけばいいかなって。クィディッチの試合の決勝戦くらいにちゃんと色々できるようになればって思うんだけど」

 

 監督生の話をオスカーの部屋でしていた時もオスカーは思っていたが、エストは前よりもリラックスして喋っているようにみえるのだ。周りのメンバーがいつものメンバーだからそうなのか、もしそうなら今の自分と感じている事とは逆なのではないかとオスカーは感じていた。

 

「その…… エストの話も面白そうですけど……」

「何もったいぶってるわけ? クラーナもなんかやりたいことあるの? もう一回豊かな幸運の泉をやっとく?」

「やりません。五年生になったらやりたかったことがあるんです」

「クラーナがそういうこと言い出すのは珍しいな」

「確かにだいたいエストかトンクスだよね」

 

 余計な茶々を周りが入れるせいで、クラーナは少し喋り辛そうだった。オスカーはみんなやりたいことがあると言うのは羨ましかったし、自分もみんなの様に何かをやりたいと言い出した方がいいのではないかと考えていた。

 

「それでなんなの?」

「だから、動物もどきですよ。五年生になったら挑戦しようと思ってたんです。だからみんなでちょっとやりませんか? こう、動物に変身できたらめくらまし呪文をかけなくても夜に校庭に行けますし、ハグリッドの所にも遊びに行けるでしょう?」

「やり方は分かってるの? 前にマクゴナガル先生に聞いたらもっと後ですって言われちゃったし、禁書の棚を前に漁った時も無かったし、フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店にも無かったの。何となくこんな感じかなってのは分かるけど」

 

 さっきエストに意見を述べまくっていたクラーナとは逆に、今度はエストがクラーナに色々ぶつける番だった。

 

「姉さんのノートに色々書いてありましたけど、正確には分からないです。マクゴナガル先生はあんまり教えたがらないでしょうから、選択肢は二つあると思ってます」

「選択肢が二つ? やり方を知ってる人が二人いるってことか?」

「そうです。一人はみんな知ってますよね、あのリータ……」

「ダメ。絶対ダメよ。あいつから何か教わるなんてありえないわ」

 

 リータ・スキータの名前を言い切る前にトンクスが結構大声で遮った。オスカーはトンクスの意思を曲げるのは相当難しいのではないかと思った。こういう時はハッフルパフらしい意思の強さが見えるとオスカーは知っていた。

 

「でも、ちょっとその、教えてって手紙を贈ったら教えてくれると思うの」

「ダメよ。それが間違った内容だったらどうするのよ。あんな奴の情報なんて絶対あてにならないわよ」

「ほんとに? リータ・スキータはそんなうかつな真似はしないと思うけど」

「じゃあどうするのよ。マクゴナガル先生に言って、ちゃんと魔法省に報告して動物もどきになるならいいけど、ホグワーツにいる間は秘密にしてるなら、絶対リータ・スキータに聞くべきじゃないわ。クラーナはそう言うことがしたいんでしょ? なら、絶対こっちの不利になるようなことをするべきじゃないのよ」

 

 オスカーはチャーリーが言っていたのはこういう事ではないかと思った。トンクスはこういう時に相当の事が無いと自分を曲げないのだ。そしてトンクスはトンクスが何かやる行動全部にそれを入れ込もうとする。エストの方もやっぱりちゃんとした理由が無いと自分を曲げないが、どちらかと言えば最後の目的を達成する方に力を傾けるはずだった。その為にはあまり手段を選ばないとオスカーは思っていた。

 

「とりあえず、教えてくれるかもしれないもう一人の方を聞けばいいんじゃないかな?」

「そんなにいるのか? 動物もどきのなり方を知ってる人が? 今世紀に何人もいないんだろ?」

「オスカーの言う通り、数は限られますよ。私たちの同級生でタルボット・ウィンガーって知ってますか?」

 

 タルボット・ウィンガー。オスカーは少し聞いたことがある気がした。多分レイブンクロー生だったがオスカーはそれ以上の印象は浮かばなかった。

 

「知ってるわ。一年生の時からオスカー以上の一匹オオカミじゃない」

「あのあんまり喋らない人だよね? レイブンクローの」

「凄い頭いい人だよね? 前に喋ったことあるよ? 変身術の話だったけど、理解の仕方が面白いの」

「そうです。ウィンガーの両親は動物もどきらしくて、多分知ってるんじゃないかって思うんですけど」

「じゃあ、そのウィンガーに聞けばいいんじゃないのか?」

 

 オスカーがそう言うとトンクスが意味ありげにオスカーとクラーナの方を見た。

 

「うーん…… なんて言うかちょっと難しい感じもあるけど、リータ・スキータよりは現実的ね。ただ、聞きに行くならクラーナ一人の方がいいと思うわ。ハッフルパフのペニーは知ってるわよね? ペニーかレアに頼んで聞いた方がいいわね、私もついていってもいいけど、多分、クラーナ一人が聞きに行った方がいいわよ」

「何ですかそれ? なんで私一人なんです?」

 

 今度はクラーナが目を白黒させてトンクスの方を見ていた。オスカーもトンクスがそう言うのは少し気になった。

 

「とにかくクラーナが行った方が良いって言ってるのよ。喋らない根暗系なんてオスカーでなれてるから、いくらでもクラーナは喋れるでしょ?」

「なんか酷い言われ様だな」

「事実を包み隠さず述べてるだけよ」

「まあトンクスの忠告は良く分からないですけど、レアにでも会わせて貰いますよ」

 

 何か他の人と一緒に行ってはダメな理由でもあるのかとオスカーは思ったが、あまり思いつかなかった。少なくともオスカーはウィンガーと面識がほとんど無かったので、好かれようも嫌われようもないはずだった。クラーナも同じはずなのだ。

 

「そろそろまた見回りの時間なんじゃないか?」

 

 オスカーは周りのコンパートメントから監督生たちがぞろぞろと出始めたのを見ながら言った。ビルがこっちに出てこいとばかりに手招きをしている。

 

「そうですね。まあとりあえずタルボットと一回話をしてからみんなに報告しますよ」

「私の方もいろいろ決まったら連絡するね? チャーリーとクラーナはジェイって人に話しといてくれる?」

「分かったよ。ジェイの方は僕らよりずっと乗り気かもしれないけどね」

「ほら、決まったんなら行きましょうよ。見回りしながら一年生にゾンコの商品を配るのもいいかもしれないわね……」

 

 みんなと喋りながらコンパートメントを出て、オスカーはホグワーツ特急の通路を歩いた。いつもならずっとコンパートメントに座ってホグワーツに着くのを待っていたので、このホグワーツ特急はオスカーには新鮮だった。

 結構色んな人が他のコンパートメントに遊びに行っていたりしていたし、コンパートメントの中ではみんな談笑していたり、緊張した面持ちの新入生同士がお互いに探り探り喋っていたりとみんなホグワーツに行く前の時間を楽しんでいるようだった。

 

「ね、オスカー。さっきトンクスが言ってたことだけど」

「トンクスが?」

「ほら、タルボット君? さん? のところはクラーナ一人の方がいいかもって言ってたでしょ?」

「言ってたな」

 

 どうやったのか杖の暴発でトランクを壊してしまった新入生のコンパートメントのところに行って、そのトランクを直して出てきたエストがオスカーを捕まえて言った。

 

「多分ね、最初の頃のレアみたいなことだと思うの。なんかダイアゴン横丁でレアをクラーナが怒らせてたでしょ?」

「最初会った時はそうだったな」

「珍しいけど、クラーナに悪戯する訳じゃなくて、トンクスは真面目に言ってたと思うの」

「ああいう時は真面目に言ってるだろうな」

 

 初めて会った時のレアを思い出し、オスカーは一人で納得した。つまり、タルボット・ウィンガーは目の前のエストや話に出てきたレアのような境遇の生徒だという事なのだ。

 

「リータ・スキータを使うってアイデアをトンクスは反対してたから、代わりのアイデアの方を考えないとダメだって思ったんじゃないかな? あんまりトンクスが何考えてるか分からないけど」

「そうかもな。時々変なくらい義理堅いからな」

「だよね? 魔法薬を作り終わった後の大鍋にフィリバスターの花火を投げ込んでみたり、女子のお手洗いの石鹸を全部カエル石鹸に変えたり、ピンズ先生が寝てる時にゾンコでの正しい買い方とか言う講義を先生の格好に変身してやってみたり、くだらないことばっかりやってるのに」

 

 エストが言うようなトンクスの気まぐれな悪戯心と時々みせる変な誠実さは一体どこで釣り合いが取れているのか、オスカーにも不思議だった。

 

「じゃあちょっとパース探してくるね? どうせまた教科書を暗記しようとしてるに決まってるの」

「分かった」

 

 さらに後ろの列車の方へエストは消えて行った。オスカーはそういえばジェマとパーシーはまた同じコンパートメントにいるのだろうかと思った。去年二人はウッドという男の子を連れてコンパートメントにやって来たのだ。

 オスカーはまだ見回りをしていない前の方の列車に向かった。オスカーは先頭で列車を曳く汽車を中から見たことが無かったので、この機会に見てみようと考えた。

 一番先頭の方の列車に行けば、クラーナとチャーリーがさっき話題に出ていたジェイと喋っていた。汽車の立てる音で三人の会話は近付かないと聞こえず、恐らくわざとここで喋っているのだろうとオスカーは思った。

 

「決闘チャンピオンもこの話に噛んでるんだろ? クィディッチのお姫様の発案なら噛んでない訳ないだろうし」

「意外ですね? オスカーはジェイと知り合いなんですか?」

「喋ったことはあるけどな」

「ジェイは割と危ないとこをオスカーに助けて貰ったんだよ」

 

 クラーナはちょっと意外だという顔で男子三人を見ていた。オスカーはあんまりこの話をしない方がいいと思った。三人の会話というヒントだけで夏休みに何をしていたのかを当てられかねなかったからだ。

 

「そういう訳だから、基本的に注文してくれれば優先的に融通するよ。腕が立つのに加えて、君らはトンクス以外先生の覚えがいいし、口も堅いから。脱狼薬とかシェリー酒みたいなほとんど専売みたいな商品は別だけどね」

「なんですか脱狼薬って、ホグワーツに狼人間でもいるんですか?」

「ホグワーツではあらゆる商品に需要があるのさ。魔法界で一番大きな街みたいなモノだし」

 

 魔法薬の研究でもしている生徒がいるのだろうか? 普通に考えれば狼人間がホグワーツにいるとは考え辛かった。ノクターン横丁ならまだしも、ダンブルドア先生の目が光っている場所で狼人間が好き勝手出来るとは思えないのだ。

 

「とりあえずエストがやりたいことの材料はジェイに頼めばなんとかなりそうだよね? でも、エストがこれを始めたらジェイの売り上げが減るんじゃないかな?」

「チャーリー、僕は結構ホグワーツで屋敷しもべやゴーストの連中と喋るけど、それで分かったことは、ホグワーツでピーブズに言うことを聞かせることができる生身の人間は、校長先生とクィディッチのお姫様だけだってことさ。僕はフィルチや魔法省の間抜けな役人くらいならどうも思わないけど、ピーブズより命知らずじゃない」

「ピーブズに命があるかはかなり怪しいところでしょう」

 

 ダンブルドア先生とエストが同列なのかはオスカーにはかなり疑問だったが、ホグワーツに住んでいる生徒と先生以外の生き物やゴースト、城そのものにエストが好かれていることは疑い様がないとオスカーは思っていた。なにせ階段がいつもと逆回りをするくらいなのだ。

 

「そういう事だから材料の調達は僕に任せてくれよ。じゃあまたホグワーツで」

「分かった。またエストから連絡すると思う」

「僕も少しグリフィンドールのみんなと喋ってからコンパートメントに戻るよ」

「ジェイはもうちょっとまともに授業を受けた方がいいと思いますけどね。授業を受けている時間より、罰則を受けている時間の方が長いくらいですから」

「クラーナはもうちょっと目立たない場所でオスカーとごはんを食べた方がよかったんじゃないか?」

「は……」

 

 チャーリーとジェイはちょっと笑いながらクラーナの前でコンパートメントの扉を閉めた。クラーナは目を見開いて扉の向こうで笑っている二人を見た後にオスカーの方を見た。

 

「オスカーが話したんじゃないですよね?」

「話してないな。ジェイは自分で見たか、俺以外の誰かから聞いたんじゃないか」

「グリフィンドールの女子はうるさいのに…… これだと、寮に戻ったらずっと言われるじゃないですか」

 

 ブツブツ言いながら歩くクラーナと一緒にオスカーは歩いた。ダイアゴン横丁のテラスで食べたのだから見られる可能性は十分にあったと思うのだが、オスカーはこういう事に関してクラーナは詰めが甘いのではないかと思った。戦闘に関することならこんなミスはしないはずなのにとオスカーは考えていた。

 

「ところでオスカー。さっき言ってたことをエストとみんなでやるんなら、ちゃんとエストの事を見といて下さいよ。なんであんなにやる気なのか分からないですけど、結構…… その、暴走じゃないですけど、やる気がありすぎるかもしれないですよ」

「そんなにか?」

「そんなにですよ。それに今回は私達だけじゃなくて、他の人達に何かしようって感じじゃないですか。普通の学生ならいいですけど、エストが本当に本気でそういう事をやるって言うなら結構大事になりますよ? 探し物や劇でもその、あんなことになりましたよね? 手段を選んでもこれなんですよ?」

「手段を選んでもって……」

 

 オスカーはそこまで危機感を持ってはいなかったが、クラーナの方はかなりエストがやろうとしていることを危ういと思っている様だった。オスカーからすれば、髪飾りを探した時も劇の時もそれほどエストが危ういことをしているとは思わなかった。むしろ危ういことをしているのはエストよりも自分かもしれないとオスカーは考えた。

 

「とにかくエストはオスカーの言う事なら、他の人より多少は聞いてくれるじゃないですか。なにかあったらオスカーが言ってくださいよ。トンクスはやりたくないことはやらないですけど、危ないことは結構平気ですし、チャーリーもクィディッチやってるせいかそういう危機感がぶっ壊れてるところありますから。それにエストは本当に必要なら手段を選ばないでしょう? オスカーと一緒ですよ。スリザリンっぽいですけど、誰かが危ない状況でもないのにそんな事やらないでもいいじゃないですか」

「分かった、見とけばいいんだろ?」

「ほんとにちゃんとやって下さいよ? オスカーが逆に引き金になったら目も当てられないことになりますから。じゃあ、ビルにこれ以上監督生の仕事が無いか聞いてきます」

 

 ガタゴトと揺れる列車の通路でオスカーは今言われた内容を考えていた。クラーナはオスカー自身とエストが一緒だと言ったのだ。クラーナが二人を手段を選ばない人間だと思っているという事ではないのだろうか。オスカーは思い当たる節が無い訳では無かった。

 必要に駆られてとは言え、オスカーが二年目や三年目の最後にやったことは、世間一般から見れば手段を選んでいない様に見えるとオスカーは分かっていた。

 

「なんでそんなとこで突っ立ってるわけ?」

「コンパートメントに戻るとこだ」

「ならもう戻りましょうよ。ハッフルパフの友達に監督生のことバレてて、おちょくってくるやつとか私が監督生とかおかしいとか怒るやつとか笑うやつとかもう疲れたわ」

「妥当な感じの反応だろ」

 

 手段を選ばない。クラーナ以外もオスカーやエストの事をそう思っているのかオスカーは気になった。だいたいこれまでの経験、例えばキメラの事を考えればトンクスやチャーリーの方が手段を選ばないと思えるからだ。

 

「なあ、トンクスは…… えーっと」

「何? あ、車内販売のおばちゃんが向こうに見えるわね。おばちゃんが私達のコンパートメントに来るまでに戻りましょうよ」

「それはいいんだけど。スリザリン生って手段を選ばないと思うか?」

「あんたも選ばないじゃない。普通の奴は男女で入れ替わったりしないでしょ」

 

 オスカーはぐうの音も出ないと思った。今考えてみれば、割と正気でやれる作戦ではなかったのではないかと思ったのだ。

 

「確かにそうかもな」

「それにあんたはもっと性質が悪いでしょ? スリザリンとグリフィンドールで組み分け帽子が悩んでた理由が良く分かるじゃない。自分の事を考え無い上に手段を選ばないもの」

 

 自分の事を考えないと言うのがグリフィンドールの事で、手段を選ばないと言うのがスリザリンの事を指しているのだろう。オスカーはこういう時にやっぱりトンクスは妙に鋭い気がした。

 それと同時にオスカーはやっぱり何か分からない時に、問題を色んなモノに分けて色んな人に聞けばいいのではないかと思った。さっきクラーナはエストがどうしてやる気があるのか分からないと言っていたのだ、トンクスに聞けばそれも分かる気がオスカーはした。

 

「ならどういう時にスリザリンの人がそういう事するんだ?」

「そりゃあんたたちのつまらない野心ってやつじゃないの? ほら、蛇のようにジメジメして陰気で狡猾にって組み分け帽子も言ってるじゃない」

 

 トンクスはわざわざ手を合わせて腕と体をくねくねさせて迫真の蛇の物まねをした。髪の毛まで緑色にする力の入れようだった。オスカーは本気で喋らないトンクスから重要な情報を取り出すのは、エストが興奮している時の会話の意味をくみ取るのと同じくらい難しいと知っていた。

 

「それ以外に無いのか」

「あるわよ。あんたたちはいっつも同じ寮でつるんでるじゃない。それ以外に何かあるの? うえー、本当の蛇はあんなに固まらないのにスリザリンはいっつも固まっているわ」

 

 車内販売のおばあさんの横を歩きながら、トンクスは気持ち悪いとばかりに舌を出していた。オスカーは今のトンクスの方が髪は緑だし、蛇の様に舌を出しているしでよっぽどスリザリンっぽいと思った。

 

「それも確かにあるな。逆に他の寮が固まってないだけかもしれないけど」

「それだけじゃないでしょ? エストがあんなこと言い出したのもそれに決まってるわ。まあ面白そうだからいいけど。分かった? スリザリンは陰気で手段を選ばなくて、とにかく身内に甘いのよ」

「身内に甘い?」

「そうでしょ? あんたもエストも身内大好きでしょ? うちのママもそうだし、スネイプもそうじゃない」

 

 オスカーは身内に甘いとかそう言う意味では、トンクスもそうではないかと思った。そうでなければさっきのリータ・スキータの話題のような反応はしないはずなのだ。

 

「トンクスもそんな感じするけどな」

「はあ? 私はあんたたちみたいに手段を選ばない訳じゃないわよ。それに陰気でもないわ。ほらこんな緑色がダメなのよ。ヘアピンまで銀色になってるじゃない」

「寮の色はセットになってるからな」

「何がセットになってるんですか?」

 

 トンクスはいきなりコンパートメントから出てきたレアに、あからさまにゲエっと言う顔をした。オスカーはやっぱりレアとトンクスの関係性が変わり始めているのではないかと思っていた。

 

「監督生様のお通りなんだから、レア・マッキノンさんはレイブンクローのお友達を引き連れて遊んでて大丈夫よ」

「だから何がセットなんですか? 寮の色?」

「緑と銀色はセットって言ってるのよ。クラーナの髪色はグリフィンドールに合ってないって話よ」

「ちょっとそれはひどくないですか?」

「それだとレアはレイブンクローって言うより、ハッフルパフじゃないか?」

 

 そのままレアは二人について来たのでトンクスがさらにゲエっという顔をした。やっぱりトンクスは今のレアの事が苦手なのかもしれなかった。

 

「こんな凶暴なハッフルパフ生居る訳ないじゃない」

「どういう意味ですか? トンクス先輩? 誠実なハッフルパフ生は天文台の塔の色を全部ピンクに変えないと思いますけど。それにあの色はホグワーツには合ってなかったと思います」

「それはちょっと反省してるわ。でっかいアナグマとかにしとけば良かったと思ってるもの」

「いや、シニストラ先生滅茶苦茶怒ってたぞ。望遠鏡のレンズが全部ピンク色になって、どれがどの星か分からなくなったって」

 

 監督生のコンパートメントまで来て扉を開け、オスカーは違和感に気付いた。オスカーのトランクが動いているように見えたのだ。

 

「トンクス、一回もコンパートメントに戻ってないよな?」

「そりゃそうでしょ。レア程では無いけど、ハッフルパフ生もやっかいだったもの」

「トンクス先輩がそんな感じの時はだいたい何か言われたくないことがある。冗談でごまかすか、相手をしないようにするかどっちかだから」

 

 オスカーのトランクは劇で使ったものだったので、違う鍵を使えば違う中身が入っているはずだった。そしてどう見ても最後に使った鍵穴は閉まっていて、違う中身の鍵が開いていた。それはたしかオスカー達が劇の合間の休憩につかっていた部屋に入れる鍵穴だった。

 トンクスとレアに見えない様にオスカーは卵がまだトランクに入っていることを確認し、考えた。何が起こっているのか、最後にトランクに触れたのはフレッドとジョージなのだ。

 

「リベリオ 現れよ」

「何して……」

「足跡?? 二人分??」

 

 足跡が二人分コンパートメントの座席と床に現れた。トランクのある網棚から座席に降りて、そのままコンパートメントから出ていった様に見える。

 

「フレッドとジョージだ」

「はあ? どこに入ってたのよ?」

「これもしかして劇のトランクですか?」

「検知不可能拡大呪文を唱えるのがめんどくさかったからそのまま使ってたんだけど…… アロホモラ避けもかかってて、鍵は俺が持ってたのに……」

 

 オスカーはエストが出しっぱなしにしていたマジックアイテムを見た。さっそくエストがやろうとしていることの弊害が生まれたようだった。

 

「エストの鍵か」

「ちょっとこれ、あの二人が列車に乗ってるってことよね?」

「ウィーズリーのおじさん、おばさんの二人は心配してるんじゃ……」

 

 リベリオで現れた足跡をオスカーが辿っていくと、その足跡は列車の連結部分で消えていた。オスカー達は五人で全てのコンパートメントを見回りしたはずで、そのどこにもいなかったとなると答えはほぼ決まっていた。

 

「上よね?」

「あの二人はこういう事だとものすごく頭がいいから……」

 

 連結部分の外側には列車の上に登る手すりがあった。フレッドとジョージの手と足の痕跡が金色の光でそこに示されていた。

 

「ちょっと二人ともどこかに掴まっててくれ」

「掴むってどこよ」

「どこでもいい」

 

 レアがいきなり杖腕じゃない方の手を握ってきたので、オスカーはちょっと震えそうになった。トンクスは普通にオスカーの腕を握った。震えをごまかすようにオスカーは姿くらましして列車の上に三人で現れた。

 

「姿くらましって試験に受からないと使えないのよ。知ってた? 監督生のオスカー?」

「知ってるよ」

「ほんとに居た……」

 

 フレッドとジョージはなぜかホグワーツ特急の屋根の上で爆笑しながら寝ていたが、三人の姿を見ると笑いが消えた。オスカーはレアに手を離して欲しかった。

 

「見つけたぞ。フレッド、ジョージ」

「ホグワーツを一目見たいんだけど」

「そう、一目だけでいいから」

「あのねえ。いくら私でもそれはしなかったわよ。魔法界の子供はみんなホグワーツに行きたいんだから、フライングするのはずるよ」

「ウィーズリーおばさんが凄い心配するのが分からない? あの人は誰かいなくなるのが凄い嫌な人なのに……」

 

 レアがずんずん進んで二人の方へ行こうとするので、オスカーは連れて進まざるを得なかった。

 

「今すぐ二人に連絡しないと」

「オーケー、レア、今僕たちが降りたらホグワーツ特急を止めることになる」

「そうそう。一回ホグズミードまで行ければそれで……」

「ダメだ。二人はホグワーツに行けない歳だ。それは分かってるだろ? フレッド・ウィーズリー? ジョージ・ウィーズリー?」

 

 最近怒っているレアをオスカーは見ていなかったが、どうみても今は怒っていた。どうもウィーズリーおばさんの事を考えずに出てきた二人に怒っているらしかった。

 

「じゃあホグワーツにはいけない?」

「一回見るだけだから」

「だからダメ。フレッドやジョージが知ってるどの人も、ホグワーツに行きたくても、その年になるまでは行けなかったんだ。だからダメ。二人はここで降りないと……」

 

 オスカーはとにかくレアに手を離して欲しかった。プラスしてトンクスに掴んだ腕を離して欲しかった。そのトンクスがオスカーの横で言った。

 

「車内販売?」

「なんだってトンクス? 風の音で良く聞こえな……」

「オスカー、あれ車内販売のおばあさん……」

「はあ?」

「何か要りませんか? 蛙チョコレートは? 大鍋ケーキは? 百味ビーンズは?」

 

 フレッド、ジョージがレアにビビって竦んでいる向こう側から車内販売のカートがやってくる。いつものおばあさんだ。ミュリエルおばさんやマッドアイが子供の頃からおばあさんだったおばあさんがやってくる。

 

「誰も私の事を知らない。私から毎年二回、大鍋ケーキや蛙チョコレートを買うけれど、私の事は気にも止めない。私の名前を聞いてくれる人もいない」

「ジョージ、ホグワーツってやっぱりすごいな、車内販売のおばあさんでも屋上にやってくるんだぜ」

「フレッド、何かとにかくヤバイ気がする。レアも我らが母さんと同じくらい怖いけど、あのおばあさんは絶対ヤバイ。えっと、マドモアゼル? あなたの名前は?」

「忘れてしまった。ホグワーツ特急ができたときに、時の校長、オッタライン・ギャンボル校長が私にこの仕事をくれた。その仕事をしている間に、私は名前を忘れてしまった」

 

 オッタライン・ギャンボル校長がどれくらい前の校長なのかオスカーには分からなかった。オスカーはもう訳が分からなかった。フレッドとジョージは勝手にホグワーツ特急に乗るし、屋上にただならない雰囲気で車内販売のおばあさんはやってくるし、二人は手と腕を離してくれなかった。むしろおばあさんのせいでもっと強く握られて、オスカーはちょっと痛かった。

 

「いや、ギャンボルって多分百五十年くらい前の校長じゃないの。ありえないでしょ」

「百五十年の間に五百万個のかぼちゃパイと蛙チョコレートを作った。でも、誰もそれが何に変わるのか予想できなかった」

 

 おばあさんがカートからかぼちゃパイを一ダースくらいフレッドとジョージの方へ投げつけた。オスカーは反射的に盾の呪文を張った。ボンバーダを何度も唱えたような爆発が起こって、ホグワーツ特急の屋根はボコボコになった。

 

「フレッド、ジョージ!! こっちに来い!!」

「この列車は誰かが途中で降りるのを嫌う。旅の終わりまで席に座っていなければならない。たとえホグワーツに入学しない子供だとしても、途中で降りることは許されない」

「ちょっとレア!! あなたがホグワーツに行けないとか大声で言うから変なの来ちゃったじゃない!!」

「ええええ!? ボ、ボクのせいですか!? あれほんとに何なんですか?」

「いいから二人とも手を放してくれ。あれを止めるしかないだろ」

 

 やっと二人の手を振りほどいて、オスカーはおばあさんに対面した。理解が追い付かずに混乱していたが、必要なのはフレッドとジョージを安全なところにやって、おばあさんをどうにかすることだった。

 

「椅子に戻るから列車に戻って貰えないか? 百味ビーンズを……」

「降りようとした奴はいる。そいつらも私が席に縛り付けた。シリウス・ブラックとその悪戯仲間……」

「シリウス・ブラック!?」

「ママの従妹じゃない? そんなヤバイ死喰い人になるひとでもおばちゃんから逃げられなかったわけ?」

 

 おばあさんはこっちを見てニヤリと笑った。指が鋭い針の様に伸びて、カートの中身が宙に浮き始めた。

 

「一人として途中で降ろしたことはない。試みた人間は全員失敗した」

 

 おばあさんの姿がかき消えた。オスカーは背後に盾の呪文を張った。金属同士がぶつかるような音がした。おばあさんの十本の指がオスカーの呪文でとめられていた。出現させた紐でおばあさんを縛って、屋根を変身させてカートの車輪を固定したが、おばあさんは一瞬でひもを切り裂き、ホグワーツ特急の屋根を丸ごと爆破してカートを取り戻した。

 

「ちょっとこれほんとにヤバイじゃないの。何なのよこれ」

「失神呪文も効かないんじゃないですか? 人間ですかあれ?」

 

 穴が開いた天井から、ホグワーツ特急の内部が見える。コンパートメントでは新入生らしい四人が怯えた顔でオスカー達の方を見ていた。

 

「蛙チョコレートが何に変わるか、誰も知らない」

 

 カートから鋭い指で器用に蛙チョコレートを五つ掴んでおばあさんは投げた。蛙チョコレートは全てオスカーより一回り大きいくらいの蛙に変身した。

 

「いやヤバイでしょあれ。監督生の仕事ってこんなヤバイのと戦う仕事なわけ?」

「カートを封じないとダメだ。オスカー」

「フレッド、ジョージ、後ろに逃げろ。トンクス、レア、俺がカエルを潰すから、おばあさんのカートをどうにかしてくれ」

 

 オスカーは飛び出した。カエルの目はオスカーだけを追っていた。魔法生物飼育学でカエルの目は動くモノだけを追いかける、そうオスカーはチャーリーに個人講義されたので知っていた。ローブに手を突っ込んで中にあった百味ビーンズの袋を空中にばらまく、杖を振れば小さい鳥になってカエルの目の前を百味ビーンズは飛び始めた。

 

「今の間だ!!」

「分かったわよ!!」

「トンクス先輩!! 左からいきます!!」

 

 カエルが鳥に目を奪われている間にオスカーはおばあさんにターゲットを絞って攻撃した。失神呪文はおばあさんが長い指を振るだけで弾かれた。トンクスとレアがカエルを避けて両サイドからおばあさんのカートに目掛けて攻撃を仕掛けるのと、カエルが百味ビーンズの変身した鳥を全て食べるのは同時だった。

 オスカーが杖を振ると、百味ビーンズが爆発して、カエルは中身から爆発した。カエルのなんだか分からない場所の肉があたりに散らばって、そのあと全部チョコレートに変わった。

 

「グロすぎるんだけど。髪の毛についたらどうするのよ!!」

「チョコレートだから大丈夫です。トンクス先輩!! 行きます!!」

「分かってるわよ!!」

「「エクスパルソ!!」」

 

 トンクスとレアが呪文を唱えるタイミングでオスカーはおばあさんの目の前に姿現しして、アグアメンティと凍結呪文でおばあさんの指を凍らせた。

 二人の呪文はおばあさんのお菓子が満載のカートを吹き飛ばした。お菓子が焦げた甘い匂いがあたりに漂う。

 

「監督生の仕事はこれで務めた訳ね」

「なんでボクらは車内販売のおばあさんと……」

「まだだ」

 

 おばあさんの手から凍った指が全部落ちて、新しい指が生えてきた。さらに一番先頭の汽車までおばあさんは何十メートルも後ろにジャンプして、その汽車の天井から六台のカートが文字通り生えてきた。

 

「いやもうほんとにおかしいでしょ。何なのよあれ。というかクラーナとエストはどこ行ったのよ。こんな時しかあの二人は役に立たないのに」

「もうあれ人間じゃない……」

「いいか!! ホグワーツ特急は絶対に途中下車は許されない!!」

 

 おばあさんがそう言った瞬間にホグワーツ特急は急速にスピードを上げた。見たことがないような速度で周りの景色が過ぎていく。さらにおばあさんの姿が三人に増え、それぞれ二台のカートを両サイドに構えていた。

 

「何でオスカーは車内販売のおばあさんと戦ってるの?」

「おばあさんは三つ子だったんですか? というかどんな大暴れしてるんです? ビルもちょっとしたら他の監督生を連れてくるって言ってました」

「これあれだよね? ホグワーツ特急って、もしかして特急とおばあさんで一つの魔法生物なのかな……」

 

 バチッという音と一緒に三人が現れた。というかもうオスカーの方もなぜこんな戦いをしているのか分からなかった。

 

「なんかレアがフレッドとジョージを降ろすって言ったら襲い掛かって来た」

「やっぱりボクのせいですか?」

「そうよ。レアのせいに決まってるわ」

「なんか滅茶苦茶怒ってますね。おばあさん。話聞ける状態ですかね? なんでそもそもフレッドとジョージがいるんですか?」

「フレッドとジョージが降りなければ大丈夫なら、レアと二人を座席に戻した方がいいんじゃないかな。多分、生徒をホグワーツに運ぶための生き物なんだよ。あのおばあさんとこの特急は」

 

 さっきおばあさんが爆破した場所の天井が勝手に修復されていた。オスカーはチャーリーの意味の分からない自説すら信憑性がありそうだと思った。

 

「レアと二人を座席に戻すの。他になんかおばあさんは言ってた? 逃げようとした人をどうしたとか?」

「シリウス・ブラックを紐で座席に縛り付けたとか言ってたわよ。魔法省よりよっぽど優秀なんじゃないかしら」

「じゃあ三人を椅子に縛り付けるの」

「ボク、椅子に縛られるんですか……」

 

 ホグワーツ特急はどんどんスピードを増していた。段々とカーブのたびに変な音が車輪から聞こえていて、オスカーは不安になってきた。

 

「いいか!! ホグワーツ特急は絶対に送り届ける!! 一人の例外も無いんだよ!!」

「おばあさん話聞いてるの?」

「あれは絶対聞こえてないですよ」

「もうトンネル無いよね? ホグズミードが見えてるし、うーんと」

 

 エストは椅子を三つ出現させた。ついでに紐まで現れた。

 

「あのね。とりあえずそこに三人を縛り付ければいいかなって」

「ここで縛り付けられるんですか? ボクちょっとこれは嫌って言うか……」

 

 オスカーは無言でレアを椅子の一つにインカーセラスで縛り付けた。

 

「オスカー、あんた女の子を椅子に縛り付ける趣味があったのね」

「無い。トンクス、フレッドとジョージを縛り付けてく……」

「オスカー!! 盾の呪文なの!!」

「プロテゴ!!」

 

 ミサイルの様に飛んできた大鍋ケーキが二人の張った盾の呪文で防がれた。大鍋ケーキは二、三十個は飛んできて一気に爆発した。さらにケーキの中に入っていたらしきパイが各々爆発して、凄まじい規模の爆発になった。さっきと同じようにホグワーツ特急は爆破で穴だらけになったが壊れた瞬間から直り始めた。オスカーはエストと一緒に唱えなければ呪文を抜かれていたかもしれないと思った。

 

「絶対にこの特急は……」

「ほら、フレッドとジョージも縛り付けましたよ」

「これ、ホグズミードについたら外してくれますよね? オスカー先輩?」

「フレッド、あれホグワーツだ」

「ほんとだ。あれがグリフィンドールの塔かな?」

 

 恐らくオスカーやエストと同じように姿くらましでフレッドとジョージをクラーナが連れてきたらしかった。しかし、おばあさんはまだ怒りが静まらないようにみえた。

 

「怒らせすぎたんじゃないかな」

「ホグズミード駅に着くまでは誰も降ろさない。百五十年間、一度もそんなことは起こらなかった」

「うーん。これはお手上げかも。ホグワーツ特急ごと爆破してもいいなら解決できると思うけど」

 

 ホグワーツの城とホグズミードの街がもう見えていた。しかし、おばあさんの怒りはパンケーキクラスター爆弾を防がれたことで頂点に達したらしく、おばあさんは十人に増えて、オスカー達を列車の先頭と最後尾から挟み撃ちにしていた。

 そして百味ビーンズの袋を全員がカートから取り出して中身を空中に撒いた。百味ビーンズは色とりどりの炎となって、その炎はまるで悪霊の火のように蛇や悪魔やドラゴン、キメラと言ったおどろおどろしい姿となった。

 

「あれは本当に不味いやつですね。これあれですかね。歴代の校長がホグワーツ特急に対する攻撃の対策に魔法をかけたんじゃないですか」

「何か止める方法はないのか?」

「ちょっと!! ボクこんな列車の屋上で椅子に縛られて焼き殺されるのは嫌だ!!」

「うーん。あれだよね。元の仕事に戻さないとダメなの」

「そうだよね。なんか元の仕事の戻るきっかけがあれば……」

 

 元の仕事、つまり車内販売におばあさんが戻るきっかけが必要だった。しかし、炎が迫ってくる前にオスカーはそれを考え付くとは思えなかった。仮にここにいる全員を椅子に縛り付けなければならないのなら、それは現実的と言えなかったし、仮に自分でそうして炎に焼かれたのでは間抜けもいいところだった。

 

「百味ビーンズってああやって使うんだな」

「フレッド、あの百味ビーンズ注文できないのかな」

「二人とも何言ってるのよ。まあ確かに注文してあの鬼ババアが止まるならいいわよ。百味ビーンズ三袋下さいって言って止まるならね」

 

 トンクスがそう言うと百味ビーンズの炎が消えた。そしておばあさんの姿は一人だけになり、さらに一台だけになったカートを押してこちらにやってくる。それに駅が近づいたのか、ホグワーツ特急が速度を急速に落とすのがオスカーには感じられた。

 

「百味ビーンズ三袋ね? ほかに何か必要ですか? 杖型肝臓アメや蛙チョコレートもありますよ? 百味ビーンズ三袋だけなら二シックルです」

「百味ビーンズもう十袋なの」

「はい。全部で五シックル四クヌートね。」

「六シックルなの」

「はいこれお釣りね。ホグワーツでも元気にしててね」

「なんでエストは普通に注文してるんですか」

 

 お釣りをエストに渡すなり、車内販売のおばあさんはカートを押して消えてしまった。オスカーはそのまま地面…… ではなくホグワーツ特急の屋上に座り込んだ。トンクスも一緒だった。

 エストはボリボリ百味ビーンズを食べていて、クラーナとチャーリーは何か喋りこんでいた。

 

「ホグズミードにつきました。荷物はそのまま置いていただければ学校の寮までお届けします。学校指定のローブに着替えて、ご降車ください。お疲れ様です」

 

 運転手のアナウンスが流れて生徒達がホグズミードの駅へと流れ始めた。何人かは上での爆発音が気になったのか上の方を見ている。レアは椅子の上で体をねじっていた。杖も手が縛られて上手く触れないらしく、ワンドレスマジックで天井ごと爆破しかねない様子だった。

 

「この格好でみんなに見られるのは嫌だ」

「ほら、あんまり動くなって」

「オスカーの勲章に後輩の女の子を縛り付けたが追加ね。マーリン勲章勲一等みたいなもんよ」

 

 レアの紐を杖でほどきながら、オスカーは駅の方を見た。ウィーズリー夫妻がマクゴナガル先生と一緒にこっちに来るのが見える。おそらく車掌らしき人と合流し、屋根の上にのっているオスカー達の方を指さしている。

 

「ホグワーツは見られたから満足だよな、ジョージ」

「来年ホグワーツ特急に乗るときはおばあさんに名前を聞くよ」

「多分ママはフレッドとジョージを半年は家からださないよ」

 

 何故か満足気なフレッドとジョージを見ながら、オスカーはもう二度とホグワーツ特急から降りるなどと言わないと心に誓ったし、五年目はホグワーツに入る前から疲労困憊になっていると思わざるを得なかった。

 




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