ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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市民薄明

「みんな最初は上手くできないだろう。だから最初はモデルとして何人かで前でやって貰おうと考えている。もちろん行き過ぎたり、議論が熱くなりすぎたりすれば私が指摘する。誰かやってみたい人はいるかな?」

 

 お昼が終わって授業が始まり、やっと太陽が傾き始めようとしていた大広間は静まり返っていた。これまでの闇の魔術に対する防衛術ならみんな手を挙げたのではないだろうかとオスカーは考えた。

 つまり、グリンデローやレッドキャップの相手をしたり、同級生がかけてくる呪文の反対呪文を唱えるよりも、まね妖怪の相手をするよりも今回の内容をみんながやりたくないと考えているのだ。

 

「OKだ。多分そうだろうと思っていた。じゃあ五人ずつ指名しようと思う。こういう時は申し訳ないが監督生には優先的に参加してもらう。あと数名は私が指名しよう。五人のチーム二つに分けてやって貰おう。向こう側にテーブルと机を用意するから、そこに指名した人たちは座ってくれ。それ以外のメンバーは少し退屈かもしれないが、少し外から座って見ておいてくれ」

 

 案の定、監督生が指名された。オスカーはいつものメンバーが仲間なら問題ないが、敵に回ればどうなるのかは決闘トーナメントで良く知っていた。よく知られると言うことは、弱点をよく知られていると言うことだったし、考え方が予想しやすいと言うことでもあった。

 

「トンクスをボコボコにします」

「最近別に何もクラーナに仕掛けて無いじゃないの」

「私のトランクをつまびらかにしました」

「難しい言葉使われても分からないわ。オスカーも喜んでたからハッピーじゃない」

「別に喜んでないぞ」

 

 そもそもよく考えれば議論はするが別に物理的にボコボコにする授業では無いはずだった。ちょっとその立場に立って議論しろと言っているだけなのだ。

 

「相手を倒すのが議論の目的じゃないでしょ。議論をやって、どっちの立場も理解しろってお話でしょ?」

「でも意味あるのかな? 僕たちが死喰い人やゴブリンの考え方を理解なんてできないじゃないか。そもそも生物として違えば考え方が変わるのは当たり前だよ。アクロマンチュラは人間が暗闇を怖がる意味は分からないし、バジリスクは人間のネズミが嫌いな理由は分からない」

「ゴブリンは違うかもしれないけど、人間相手なら通用するんじゃないの? それに私たちも宝石が好きな事くらいはゴブリンと一緒だと思うわ」

「ゴブリンの宝石や装飾品に対する考え方は魔法族と随分違うと思いますけどね、あいつらは作った存在に所有権があると思ってますから」

 

 オスカー達がペチャクチャと喋っている間に、クレスウェルは椅子と机を準備して指名する生徒を選んだらしかった。

 

「左側の机に、ミスター・キャプラン、ミスター・ドロホフ、ミス・ヘイウッド、ミス・ムーディ、ミスター・ウィンガー、移動してくれ」

「良かったわねクラーナ、オスカーと一緒に……」

「トンクスはクラーナと同じチームに成りたかったって言ってる。いま翻訳した」

「なんですか? オスカーは翻訳言語にニンファドーラ語も増やしたんですか?」

 

 クレスウェルがもう片方のチームを読み上げている中、オスカーはクラーナと左側の机の方へ移動した。向こう側のチームはオスカーとクラーナを除いた三人に、レイブンクローの監督生が二人と全員監督生のチームだった。オスカーはクレスウェルが果たしてチームバランスを考えて配分したのだろうかと思った。

 

「じゃあ、席についたらとりあえずお互いに挨拶しておいてくれ。その間に私は今回のテーマを示す準備をする」

 

 机は五角形の配置だった。オスカーは座ったチームメイトをそれぞれ見た。オスカーの左にはいつも見ている顔のクラーナがいて、もう片方の隣にはトンクスのルームメイトのペニー・ヘイウッドが座っていた。

 

「自己紹介しましょうよ。私はクラーナ・ムーディです。見ての通りグリフィンドールですけど」

「私はペニー・ヘイウッド。ハッフルパフだけど、このメンバーでちゃんと喋ったことが無いのはオスカー君くらいだと思うわ」

 

 誰にでも喋りかける女の子だとトンクスからオスカーは聞いていた。恐らく男子からも結構人気があるのではないだろうかとオスカーは思った。初対面から名前で呼んでくるし、誰とでも楽しく喋りそうだからだ。

 

「僕はディエゴ・キャプラン。ペニーと同じでハッフルパフ。オスカーとクラーナには自己紹介したいとずっと思ってたんだ。決闘トーナメントには出られたんだけど、途中でウィリアム・ウィーズリーのペアに負けてしまったし…… そうだ。クラーナ、今付き合っている人とかいるのか?」

「はあ? いきなりなんですか? 今はそういうのは募集してないです」

「そうなのか、君みたいな人と一緒になれる人が羨ましいよ。オスカー、僕と一緒に決闘の練習をしないか? 君はセンスがずば抜けてるし、お互いに男子なら手加減しなくていいからいい練習になると思うんだけど。僕が教えられるばっかりになるかもしれないけど」

「いや、今年はふくろう試験だし、ちょっと他に時間取りたいこともあるからな」

「そうか…… でも気が向いたら話かけてくれ」

 

 何と言うか、手当たり次第に男も女も口説いていそうなのにそんなに嫌われてはいないのではないかとオスカーは思った。ペニーもディエゴもハッフルパフらしい感じがあるとオスカーは思うのだ。

 

「タルボットも自己紹介」

「タルボット・ウィンガー。レイブンクロー生」

 

 茶色の髪に色黒の肌、それに無駄に寡黙で必要以上に喋ろうとしないところはレイブンクロー生っぽいとタルボットにもオスカーはそう思った。ペニーは今促したところを見るとこのタルボットとも面識がちゃんとあるらしく、オスカーはやっぱりこのメンバーの中で一番交友関係が小さいのは自分なのだろうと思わずにいられなかった。

 

「オスカーもとっとと自己紹介してくださいよ」

「オスカー・ドロホフ、スリザリン生。まあ友達はあんまりいないけど仲良くしてくれ」

 

 オスカーが自己紹介すると一瞬タルボットがオスカーの方を向いた。オスカーの予想通りならタルボットはエストやレアの様な身の上の人間のはずだった。オスカーはちょっとそういうところは気を付けないといけないと思ったが、二年生のころのクラーナならまだしも、最近のクラーナならタルボットを煽る様な言動はしないだろうと思った。

 多分、二年生のころならレアと初めて会った時の様に臆病者とかそういう煽りをしてもおかしく無かったし、今そういう言動をするとすればどちらかと言えばレアだった。

 

「じゃあそろそろテーマを決めようと思う。テーマ、つまり議題は狼人間をどう扱うかだ。議論者が置かれている立場を説明する。左のチームは体制側、つまり魔法省やそれに与する人達で、右側は反体制側、例のあの人や死喰い人達やそれに組する人たちだ。時代は私が学生の時代、つまり1972年から1979年くらいだから、だいたい今から十年、十五年前だと思ってくれていい」

 

 狼人間とクレスウェルが言った瞬間にペニーの顔がこわばったとオスカーは思った。さっきまでニコニコしていたのにだ。それに大広間はやっぱりざわざわしていた。議論を見ているだけの生徒たちはお互いにペチャクチャと喋っているようでそれが止まらなかった。

 

「みんな少し静かにしてくれ。ルールを説明する。最初に体制側がどういう行動をするかを言う。次にその意見に反体制側が質問してから反体制側の行動を言う。これを互いに二回繰り返す。最終的にどちらの側に狼人間たちが付くのかをこの議論を聞いているみんなが判断する。そして、狼人間達がどちらについたかでどういうメリットとデメリットがあるのかをみんなに判断してもらう。じゃあ始めてくれ」

 

 いきなり初めてくれと言われても、オスカー達はそんなにすぐに喋ることはできなかった。それに意見をまとめるには喋るだけでなくて、それを紙か何かにまとめるべきだとオスカーは思った。向こう側からはエストとトンクスが何か言っている声が聞こえていた。

 

「始めましょうよ。とりあえず最終的には私たちが勝てばいいじゃないですか。その勝ちって言うのを考えた方がいいと思うんですよ」

「どうなれば勝ちかってことだよな? それなら、狼人間をこっちにつければ勝ちなんじゃないのか?」

「それは違う。僕たち魔法省側と魔法省についている側の人間にとってのメリットが多いのが勝ちだ」

 

 てっきり喋らないのかと思っていたが、タルボットが早口でオスカーに反論した。オスカーは大分素が出ている時のレアを思わず思い出した。

 

「タルボット、それは狼人間を切り捨てるのも正解だって言ってるんだろ?」

「キャプラン、君の言う通りだ。狼人間の取捨は関係が無い。勝利条件は闇の陣営より、僕たち魔法省側のメリットが大きいことだ」

 

 なるほどとオスカーは思った。確かにあくまで魔法省としてのメリット、デメリットを考えるのならあくまで狼人間を助けようが助けまいが関係が無いのだ。オスカーはそれよりずっと喋らないペニーが気になった。オスカーの記憶ではどこにいてもペチャクチャと喋っている性格だったはずなのだ。

 

「じゃあ先に狼人間がどっちにつくかのメリットデメリットを考えておいて、こっちにつかせた方がいいのか、相手につかせた方がいいのかを考えた方がいいってことか?」

「ドロホフ、君の言う通りだ。つかせることでメリットがあるならそう行動すればいいし、そうでないなら反対の行動をすればいい」

「私は味方につけた方がいいと思いますよ。信用はできなくても味方は増やした方がいいってことです」

「味方につけるなら、味方につける労力を味方になった時の価値が上回らないとダメってことだろう? そう考えると少し微妙かもしれないな。狼人間を闇祓いやダンブルドア先生のいわゆる騎士団に入れるなんて考えられないじゃないか」

 

 狼人間が闇祓いや騎士団のメンバーとして、キングズリーやマッドアイと一緒に働いている図をオスカーは想像してみたが、マッドアイがグレイバックをミンチにしている図しか思い浮かばなかった。

 

「申し訳ないが時間制限を言い忘れていた。三十分で最初の意見を組み立ててくれ」

 

 クレスウェルの声が響いた。オスカーは全体のかじ取りをしないと前に進まないと考えた。議論ばかりしていて、立案ができなければどうしようも無いのだ。

 

「とりあえず最初に味方にするか、排除するか、それとも何もしないのか決めよう」

「ならこれまでどうだったかを知らないといけないんじゃないですか? クレスウェル先生!!」

 

 クラーナが大声でクレスウェルを呼び出した。クレスウェルは何枚かの羊皮紙を持ってオスカー達の方へとやってきた。

 

「魔法省がこの時に狼人間に対してどう対応していたかを教えてください」

「この羊皮紙を読めばいい。少し前の狼人間の扱いに関してまとめられている」

 

 テーブルに置かれた羊皮紙には狼人間の現状と書かれている。狼人間の定義や確認できている人口、就労状況、主な事件や、これまでの法律改正に関する経緯が書かれている。

 

「グレートブリテン全体で三百から五百って相当な数ですよ。ホグワーツの一学年より多いんじゃないですか?」

「排除すればこれが全部敵ってことだよな。これはデメリットだろ。ただ、このままにしといたら狼人間がどっちつくのかって分からないな」

「闇の陣営につくに決まってるわ。だって狼人間は人を襲いたいし、魔法省はそれを禁じているから」

 

 ペニーがやっと喋ったが、オスカーはそれはどうなのだろうと思った。恐らく闇の陣営の方が狼人間にとって魔法省より危険なのではないかと思うのだ。

 

「狼人間は純血主義と相性が悪いんじゃないか? 多分、普通の魔法使いより血が汚されるのは嫌うと思う」

「僕もそう思う。狼人間たちを完全な仲間には死喰い人たちは絶対しないんじゃないか」

 

 オスカーとディエゴがそう言うとペニーは目を見開いて少しショックを受けたような顔をした。オスカーはペニーが狼人間と確執でもあるのかと思った。どちらかと言えば、スリザリンやグリフィンドール生よりもハッフルパフ生の方が、魔法界の考え方に染まっていないと思っていたからだ。トンクスなら狼人間も人間じゃない? と言ってもおかしくないとオスカーは思っていた。

 

「それで結局どうしますか? 割と時間無いですよ。味方にします? 敵にします? それとも放っておきますか?」

「僕は排除すればいいと思う。戦争中だと味方にする労力も大きい、それに放っておいても敵に回るのなら最初から敵とみなした方がいい」

「私も基本的に狼人間は信用できないと魔法省は言ったほうがいいと思うわ」

 

 どうせ最初から敵視されているので、初めから敵だと考えた方がいいとタルボットとペニーは言っていた。オスカーはクラーナとディエゴの方を見た。

 

「私もそのまま放っておくのはどうかと思いますよ。さっきは味方にした方がいいって言いましたけど、今回はやっぱり敵って言った方が戦争に注力できそうです。ただ、魔法省が狼人間を見捨てるって宣言したら狼人間より人間じゃない生き物も見捨てるってことですけど」

「僕は線引きをはっきりさせた方がいいと思うから、今回は敵とした方がいいんじゃないかと思う。魔法族が狩りつくした巨人と同じで、狼人間ともいまさら和解なんてできないだろうし、ぐだぐだと言い訳するより真っすぐに敵対した方がましだと思う」

 

 五分の四でみんなが狼人間を敵視するとオスカーは思っていなかった。てっきりクラーナかディエゴのどちらかは味方にした方がいいと言うかと思っていたのだ。しかし、オスカーの世代は狼人間が恐怖を持って受け止められた世代だったし、魔法省が満足にヴォルデモートに対して対策を講じれなかったと知っている世代だった。彼らにとっては家族が大事で、ヴォルデモートに勝つことが一番大事なはずだった。

 

「それでオスカーはどうなんですか?」

「俺は狼人間を味方にした方がいいと思う。今だから言えることだけど、戦争はヴォルデモートが死んだら終わる」

 

 オスカーがそう言うと全員の顔が強張った。ただ、二年生の時と去年度にあったことを考えるとオスカーは彼の名前を言うのをためらう事はできなかった。

 

「狼人間を味方にしても敵にしても大して変らないなら、終わった後に味方の方がいいだろ? ヴォルデモートが消えた後もグレイバックに子供が噛まれるか怖いなんて嫌だろうから、最初から味方にしとけばいい」

「ドロホフ、君の言うことは当時の人間には判断できない」

「ウィンガー…… いや、タルボットって呼ぶけど、別に当時の人たちにも終わった後の事を考えることくらいできるだろ。単に魔法省側が勝つって賭けてればいいんだ」

 

 するとみんなが静かになった。オスカーはちょっと気まずくなったので自分から喋ることにした。

 

「ただ、今回の情報とか、魔法省とか魔法省側の人の感情とか考えるなら、みんなの言う敵だと判断するか、事実みたいにあんまり明言しないってことになると思う」

「じゃあ班としての結論は敵対するってことですか? なんか釈然としないですけど」

「まあそうだけど、それとただ敵対するだけだとダメだろ。敵になるなら敵同士がバラバラになるように仕向けるべきだろ。狼人間には純血主義のヴォルデモートが勝ったらお前らは根絶やしにされるとか噂を流すべきだし、死喰い人には狼人間と組んでる見下げた奴らだって言えばいい」

「オスカー君のそういうところ凄くスリザリンっぽい」

 

 ペニーにそうボソッと言われて、オスカーは割と傷ついた。何かチャーリーみたいな容赦が無くて物騒な事を言っていると言われているようだったからだ。

 

「じゃあ、私たちの意見は狼人間は信用できないとか警戒するべきだって宣言して、その上で狼人間には例の…… ヴぉ、ヴォルデモートが狼人間を根絶やしに絶対するって噂を流して、死喰い人達には純血主義とか言ってるくせに狼人間と同じごはんを食べてるバカな奴らって見方をするってことですか?」

「もっと踏み込んでもいいんじゃないか。例えば杖を取り上げるとか」

「満月の夜は地下牢に閉じ込めるとかそう言うのが必要だと思うわ」

 

 オスカーはそれは結構難しい選択だと思っていた。ディエゴもそう考えたのかオスカーの方をチラッと見てきた。

 

「僕はそこまで踏み込むべきじゃないと思う。敵対はしても戦う必要は無い。戦争中なんだから戦う敵は一つにするべきで、最小限の力で狼人間には黙って貰えればいいと思う」

「俺もそう思う。杖を取り上げたり、牢に繋げばこっちにも同じような事を相手がしてくる。俺たちがしたいのは狼人間と戦うことじゃなくて、魔法省側は敵だと思っているって狼人間に思わせるってことだ。それに味方にするための工作とかの労力を減らすのがあくまでも目的だし」

 

 ひどい事をすれば相手もやってくる。オスカーはそれを知っていたし、現に死喰い人達相手なら闇祓いたちは死の呪文すら使っていたのだ。敵でも味方でもどんな陣営でもやられた相手には同じようにやり返すのだ。

 

「なら直接的行動は控えて狼人間達をビビらせるってことですか? つまり逆らったら杖を取り上げたり、アズカバン送りにするけど直接的には何もしないと。それって今と何か違いますか?」

「ムーディが言うように、それだと放っておくのと変らない」

「放っておくのと、相手が何かしたらこうすると宣言しておくのは全然違うだろ。言い方は悪いけど、例えば魔法使いは逆らったらアズカバン送りだけど、狼人間は死の呪文か吸魂鬼のキスを行うって言えばどうだ? 実際に杖を取り上げなくても、お前らは敵だと思っていて、こっちはすぐにでも動けるって宣言するだけで随分違うだろ」

「物理的じゃなくて精神的に縛るってことか」

「今はそうなってないの?」

 

 ペニーがそういったのでオスカーは資料を読んだ。しかしそういう内容は読んだ感じ見つからなかった。

 

「今はそうなってないみたいですね。狼人間は魔法省の魔法生物規制管理部が処刑とかそう言うのは無さそうです。アズカバン送りなんでしょうね。これがキメラとかドラゴンならハンターや警察部隊が呪文でやっつけるんでしょうけど」

「確かに法律で相対的に狼人間に対する刑罰をひどくすると言うのは良い考えだと思う。直接的な締め付けだと反抗される可能性がある。だから段階的に規制を強めていけばいいと言うことか」

「まあじゃあそれでいいんじゃないか。オスカー、だいたい君の意見が入っているから君が発表してくれないか?」

 

 ディエゴがそういったせいでオスカーの方へ視線が集まった。オスカーは特にタルボットとペニーが納得しているのかどうか怪しいと思っていた。

 

「僕もそれで構わない。相手が狼人間を味方に引き入れるという行動をするならそれ以上の手を打てばいい」

「私もそれでいいと思う」

「オスカーがとっとと説明してください。どうせ相手はエストが出てくるでしょうから、エストの相手はオスカーがするに限ります」

「分かった」

 

 オスカーは引き受けた後、自分が何を喋れば良いのか考えた。喋る内容は、自分たち魔法省側が狼人間を敵視すると言う事。それにどう敵視するか、狼人間が何かした際の刑罰を重くすると言う事だった。オスカーが考えている間にクラーナが手を挙げてクレスウェルを呼び出していた。

 

「終わったのかな? 誰が発表する?」

「自分が言います」

「じゃあみんな机だけ向こう側のグループと向かい合うように変えてくれ。ミスター・ドロホフは拡声呪文は使えるかな?」

「はい」

「じゃあ私は向こうのチームとみんなに言ってくるよ」

 

 議論に参加するチームはみんなで机を動かして、お互いに向き合うようにした。向こう側には良く知った顔が三つあったが、エストとトンクスはまだお互いに何か喋っているようで、チャーリーは眠くなったのか半分ふねをこいでいた。

 

「オスカー、これって二チームとも狼人間を味方にしないってなったらどうなるんでしょうか?」

「その時はそれで終了なんじゃないか? それかどっちかが狼人間を味方にしますって言うまで続けるとかかな」

「まあそうでしょうね。取りあえず喋っといてください」

「喋ればいいんだろ」

 

 お互いのチームが向き合うと少し大広間は静かになった。クレスウェルが演台から話す。

 

「じゃあ、左側、体制側のチームから話してくれ。君たちがどう狼人間に対応するかをだ。そして、それが終わったら右側、反体制側のチームから誰かが質問をする。その質問にもう片方のチームは答える。この答えるのも誰がやってもいい。じゃあ初めてくれ」

 

 立ち上がって喋ろうとすると、やっぱり大広間のみんなの視線が集まっているのがオスカーには分かった。決闘トーナメントの時も視線が集まっていたはずだったが、もっと遠かったし、それに一人で出ているわけでもなく、決闘と言う集中する要素もあったので、オスカーはこんな状態は組み分け帽子以来ではないかと思った。

 

「じゃあ、俺たち…… 私たちのチームの対応を発表します」

「一応発表者は名前と寮を言ってくれ」

「スリザリンのオスカー・ドロホフです。まず、私たちのチームは狼人間と戦争中は敵対した方が良いと判断しました。この理由は、私たちは狼人間を信用していないこと。狼人間も私たちを同様に信用していないこと。次に狼人間を取り込む為の労力を割きたくない事です」

 

 ここでオスカーは一息いれて周りを見た。エストとトンクスは真っすぐこっちを見ていた。広間の他の人達も自分の方を見ている様だったし、クレスウェルは眉一つ動かさずに話を聞いている様だった。

 

「私たちは狼人間を取り込む為の労力は無駄だと考えました。その労力は戦争に集中させるべきだと考えました。なぜなら狼人間は我々を信用しておらず、相手側、反体制側は暴力というエサを簡単に与えることが出来ますが、我々にはできません。我々が狼人間を味方につける労力と反体制側の同様の労力には大きな差ができます。これは狼人間が敵に回ったとしても、それを上回るものであると判断しました」

 

 考えている間にさっき議論で話さなかった内容や、話してはいても、論理的な内容にまとめることが出来なかった内容もオスカーの脳みそに浮かんで来た。オスカーはもう少し面倒になったので全部喋ればいいと考えた。

 

「そのため、我々は狼人間と敵対する道を選びます。その具体的な行動を説明します。我々は直接的に杖を取り上げたり、アズカバンに狼人間を問答無用で収監と言った手は取りません。ただし、最初に狼人間に対する刑罰等を厳罰化します。具体的には死喰い人同様に、狼人間の鎮圧時に許されざる呪文を許可すること。次に捕獲時にはアズカバンへの収監では無く、吸魂鬼のキスを実行することです」

 

 大広間のざわめきがさらに大きくなった。オスカーは自分で言っていて、ちょっと気持ち悪くなりそうだった。オスカーは向こう側の三人をあまり見たくなかったので、視線をみんなの顔より少し上に合わせた。

 

「これによって、狼人間側が我々体制側に反抗するメリットを少なくします。さらに狼人間には反体制側が純血主義である以上、狼人間を受け入れる余地は一切ないと情報を流します。加えて反体制側には純血主義が狼人間を味方につけるのは明らかに矛盾していると指摘します。我々が考案した狼人間への対応策は以上です」

「いい発表だった。みんな拍手を」

 

 まばらに拍手が起こった。オスカーが座ると隣に座っている面々が声をかけてくれた。それにクレスウェルの声も響く。

 

「オスカー、お疲れ様です」

「いい感じだったな」

「発表ありがとう」

「では反体制側のチームは質問内容を考えてくれ。五分後に質問の時間を設ける」

 

 相手チームでは立ち上がって、エストとトンクスが何か喋っていてそこに時々レイブンクローの監督生二人が割って入っているように見えた。チャーリーは何か別の事を考えているのか、さっきと違って眠くは無さそうだったが議論に入る気は無さそうだった。

 

「何ですか、向こうの三人が心配ですか?」

「まああんまりストッパーはいないよな」

「トンクスもエストもそんなに子供じゃないですよ。最近ちょっとピリピリしてますけど、ダイアゴン横丁で会った時のレアに比べればだいぶましじゃないですか?」

「そのころはクラーナの方がピリピリしてただろ」

「何ですかそれ。オスカーだってただの置物みたいに喋らなかったでしょう」

「二人とも仲がいいのは羨ましいけど、僕らの方も質問の内容を考えた方がいいと思うね」

 

 ディエゴに言われてオスカーはクラーナとの話をやめた。と言っても、質問の対応を考えようにも時間は少なかったし、何を喋れば良いのかもオスカーには考え付かなかった。

 

「質問って言っても、あれですよね、私たちがさっきオスカーに言ってもらった内容の詳細を聞くくらいでしょう」

「死喰い人達がどう動いたらどういった行動にでるのか、それが決まっているかを聞いてくると僕は思う」

「タルボット、それは死喰い人が狼人間を味方に付けたら私たちがどうするのかを聞いてくるってこと?」

「そうだ。それを先に決めておいてもいいかもしれない」

 

 相手が次に動いたらどう動くのかを教えると言うことだろうか? オスカーにはそれを相手に喋るメリットが考え付かなかった。

 

「嘘をついてもいいなら喋ってもいいと思うけど、ダメなら言う意味がないんじゃないか? だって、自分たちが次にどうするかを教えることになるだろ?」

「あー、確かにクレスウェル先生は嘘はダメとは言ってなかったな。僕たちのさっきの発言を相手の行動を引き出すための嘘だってことにしてもいいのか」

「それは流石にわけ分からなくなるでしょう。授業中に終わらないですよ」

 

 オスカー達がブラフで相手に情報を与えていいのかどうなのか、それで揉めている間に相手の持ち時間は過ぎていた。

 

「時間だ。さっきから少し耳に入っては来たが、基本的に嘘はダメだ。確かに現実世界では相手をひっかけるための行動も起こすが、今回はそう言った事はしない。では質問の時間だ。質問したい人が立ち上がって質問してくれ」

 

 クレスウェル先生がそう言うと、向こうのチームではまだ何か話しているようで、中々誰も立って質問しようとはしていなかった。やっとしばらくしてからエストが立ち上がった。

 

「スリザリンのエストレヤ・プルウェットです。二つ質問があります。先ほどの立案では、狼人間を味方につける労力のお話がありました。それは具体的に何を示していますか? また、狼人間や死喰い人に情報を流すと言っていました。それは狼人間を味方につける際の行動と何か違いがありますか?」

 

 オスカーのチームは顔を見合わせた。確かに味方につける労力が具体的に何を指しているのかについての話は一度もしていなかったからだ。

 

「要は狼人間のコミュニティとかに入って、魔法省とかダンブルドア先生の側につくって話をして回るってことだよな?」

「そうなるだろう。もう片方は日刊預言者新聞や魔法省の広報で発表すればいいと考えていた」

「じゃあそれでいきますよ。私喋ってもいいですか?」

「お願いするよ」

「私もそれでいいと思う」

 

 今度はクラーナが立ち上がって喋った。

 

「先ほどの質問に返答します。グリフィンドールのクラーナ・ムーディです。一つ目の質問ですが、私たちは狼人間のコミュニティ等に潜入して、味方になる様に言って回る。何らかのこれまで与えて来なかったメリットを提示する等の認識でした。二つ目では、日刊預言者新聞や魔法省の広報等を手段として考えていました」

「ありがとうございます」

 

 エストがありがとうと言った後は、やっぱり向こうのチームもこちらのチームも静まり返っていた。質問の時間はそんなには長くクレスウェル先生は取っていないと思ったので、オスカーはこのまま終わるのではないかと思っていた。

 

「ハッフルパフのニンファドーラ・トンクスです。一つ質問があるわ。魔法省が狼人間に対してそう言った態度をとるってことは、他の生き物に対しても同じような事をするってことよ…… ですよね? つまり、ゴブリンや巨人や屋敷しもべに対しても?」

 

 今度の質問にはざわめきが大広間から上がった。クラーナがさっき少し言っていたのと同じような内容だったし、トンクスらしい質問だとオスカーは思った。

 

「魔法省が当時どうしてたかは分からないけど、その認識で合ってるよな?」

「それ以上に、魔法省は他人所有物である屋敷しもべに危害を加えることでもない限り、屋敷しもべの生死や行動なんて考えないだろう」

「しもべ妖精は人間の思い通りっていう事か? 生かすのも殺すのも?」

「実際、屋敷しもべが人間に逆らうとどうなのかって考えたことはないな」

 

 オスカーは何か釈然としない気分になった。オスカーの中では屋敷しもべの方が狼人間の何十倍も人間に近い存在だったからだ。見ず知らずの狼人間がいたとして、ペンスとどちらを助けるか、オスカーには選択の余地は無いように思えた。

 

「私はトンクスの言っている通りだと思いますけど。狼人間に適用するなら、他の生き物もそうなんでしょう。だいたい死喰い人もそんな扱いですし、同じ人間でさえそういう扱いなんですから」

「そうだと返答しても特にこちらに不利益は無いと思う」

「私は狼人間の方がゴブリンより危険だと思う。フリットウィック先生はゴブリンの血が入っているらしいけど凄く優しい……」

 

 同じ人間、死喰い人と狼人間、それにフリットウィック先生ならオスカーは一番フリットウィック先生が人間だと言うだろう。ならペンスとフリットウィック先生ならどうなのか、もしかしたらペンスの方が人間だとオスカーは思っているかもしれなかった。

 

「とりあえず、トンクスに返すのはそうだでいいか?」

 

 オスカーが聞くとみんなとりあえず首で肯定したのでオスカーは質問に返すことにした。

 

「スリザリンのオスカー・ドロホフです。先ほどの質問に回答します。質問の通り、我々は必要に応じて同様の対応を他の生き物に行います」

「わかった…… わかりました。ありがとうございます」

「じゃあ質問はここまでにしよう。一応私の授業の後にはアンブリッジ先生の授業も入っているから、このままだとみんながディナーを食べている横で君たちは闇の魔術に対する防衛術を受けることになってしまう」

 

 クレスウェルがそう言って質問が打ち切られた。オスカーはやっぱりさっきのトンクスの質問が頭の中で引っかかっていると思っていた。

 

「じゃあ二十分後に反体制側のチームは自分たちの対応をまとめて発表してくれ。ほかのみんなも自分がもし反体制側の人間なら狼人間をどうするか考えて欲しい」

 

 今度はオスカー達が待つ番だった。やっぱりオスカーは向こうのチームが気になってそっちを見ていた。エストとトンクスが相変わらず二人だけ立ち上がって喋っていた。かなり真面目な表情をしているのがオスカーにも見える。

 

「だからそんなに心配なんですか? さっきから毎回あっち見てるじゃないですか」

「え? まあ…… なんか夏休みにチャーリーがエストとトンクスが喧嘩してもおかしく無いとか言ってたしな」

「チャーリーの言うことなんて、クィディッチと魔法生物以外では信用できないですよ。ほら、私たちも向こう側がどうでるか考えた方がいいじゃないですか」

「そうだな。まあやっぱり俺が向こう側なら魔法省の戦力を削りたいだろうから、やっぱり狼人間を使うかな」

 

 オスカーがボソッとそう言うと全員の視線がオスカーに集まった。オスカーは軽く言ったつもりだったが、果たして他の人がオスカーの考えていた重さで受け取ったのかは怪しかった。

 

「ドロホフ、使うというのは具体的にどういう意味なんだ?」

「戦争中のグレイバックみたいな感じだろうな。魔法族の親が一番嫌なのは自分の子供が噛まれることだろ? それは脅しにも使えるし、何より死喰い人は自分で手を汚さなくてもいい。最悪、俺がさっき言った狼人間との共闘なんて純血主義はしないって言うのも、服従の呪文で狼人間を従えてたって言えばいいことだ。そうすれば自分の手は汚れず、噛まれた魔法族やその親や仲間が一番恨むのは狼人間だ」

 

 服従の呪文、それは恐らく魔法族が発明した呪文の中で最悪の呪文だった。オスカーはそれがどれだけ悪意と身勝手に満ちた呪文なのか自分の体で知っていたし、使ったこともあった。相変わらずみんなの視線はオスカーに集まっていた。オスカーはみんなはそういう発想ができないのだろうかと思った。

 

「オスカー君は……」

「君は随分詳しいんだなドロホフ。僕は狼人間に服従の呪文を使うなんて発想はできなかった」

「ウィンガー、言い方を考えてください。あなたが聞いたんですよ」

「そんなに熱くならない方がいい。何より僕たちは今は全員魔法省だろ? 仲間ってわけだ」

 

 ちょっと話し過ぎたのかもしれないとオスカーは思った。ペニーの顔は少し青くなっていたし、タルボットは明らかにオスカーの方を睨んでいた。オスカーはそういう顔や視線を感じたのはもしかすると二年生のレア以来かもしれないと考えた。

 

「ドロホフの言っていることは正しい。相手は手段を選ぶ必要は無い。あいつらは狼人間を使って僕たちに脅しを仕掛けたり、物理的な脅威を与えてくるはずだ」

「まあ、狼人間全員が敵に回るわけじゃないだろうと思う。僕らが例のあの人が怖いのと同じくらい、狼人間も例のあの人が怖いだろ?」

「私もそう思う。例のあの人が怖くない人なんてダンブルドア先生くらいだと思うから」

 

 狼人間にとってもヴォルデモートは脅威だった。そこにもしかすればつけ込むチャンスがあるのかもしれなかった。

 

「もっと私たちは狼人間にヴぉ…… ヴォルデモートが脅威だって思わせるような事をした方がいいって事ですか?」

「手段を選ばないならいくらでもやりようはあるんだろうな」

「ドロ……」

「オスカーが言わなくてもいいですよ。簡単な話でしょう。私たちが死喰い人に服従の呪文を使って狼人間を襲わせればいいんです。それか死喰い人のふりをして狼人間を襲えばいいってことでしょう? 違いますか?」

「まあそんな感じだな」

 

 人間の考えることは他の誰かも考えている。ヴォルデモートならそんな事を考えるのは朝飯前だろうとオスカーは思った。ヴォルデモートはバカでは無く、むしろ魔法大臣よりも賢く、ダンブルドア先生と同じくらい賢いのだ。自分の魔法力の高さ故の傲慢さやプライドに足をすくわれることはあるかもしれなかったが、狼人間を利用することに彼は良心の呵責など一ミリも感じないだろうとオスカーは知っていた。

 

「そこまでいくとどっちが死喰い人か分からないな」

「私も流石にそこまではしたくないわ。どっちが狼人間で死喰い人なのか分からなくなるから」

「けど一番効率的だ。狼人間にも死喰い人にも一番損害を与えることができる」

 

 どこまで非情に人間がなれるのかはオスカーには分からなかった。ただ、人間は外で人を殺したり拷問したりしていても、家では普通でいることが出来るのだ。オスカーはそれを知っていた。そして、もしかすれば死喰い人も闇祓いも同じような存在なのかもしれなかった。彼らは両方とも同じことができるかもしれなかった。

 

「それを魔法大臣は命令できるのか? 魔法大臣が命令しても、魔法法執行部の部長や闇祓い局の局長が命令できるのか分からないし、闇祓いがやりたいとも俺には思えないな」

「多分やりますよ。闇祓いはそういう仕事のはずです。ジョンやガヴェインさん…… 私が知ってる闇祓いですけど、その人たちは命令ならやると思います。叔父さんやキングズリーは怪しいですけど。でも、多分必要ならやりますよ。元々同族狩りなんて言われてた職業ですから、同族より狼人間を狩る方がよっぽど楽でしょう。やりたいとかやりたくないとかそういう職業じゃないですよ」

 

 オスカーはクラーナにそんな事を喋らせたいわけでは無かった。周りを見るとタルボットはクラーナの話を真剣に聞いているように見えたし、他の二人もさっきよりちゃんと話を聞いているように見えた。

 

「まあ相手の出方次第だろうな。それにまだ相手が狼人間を味方にするって決めたわけじゃないだろ?」

「普通に考えれば狼人間を使うはずだ」

「エストはそんなに普通じゃないですよ。私たちの学年ならみんな知ってるでしょう」

「ちょっとスリザリンのキャプテンには手は出せないかな。僕もそこまで命知らずじゃない」

「トンクスが自分より個性的だって思ってるのはエストちゃんだけだわ」

 

 トンクスもあんまり普通では無いとオスカーは思っていた。エストもトンクスも自分の中の自分と外から見た自分に大きな差があるのではないかとオスカーは考えていたからだ。

 

「じゃあそろそろ時間だ。反体制側のチームは発表してくれ。あと、もしどちらのチームも狼人間を味方にしないという選択なら、その時点で今回の議論は終わりにする。少し時間も押している」

 

 終了の合図と同時にオスカー達はまた向こう側を全員で見れるように机と椅子を並び直した。向こうは今度はトンクスが真ん中に座っていた。さっきはエストが真ん中に座っていたはずだったのにだ。

 

「じゃあ、ハッフルパフのニンファドーラ・トンクスが発表します。最初に私たち、例のあの人と死喰い人が狼人間をどうするかだけど、私たちは狼人間を敵とします。これには大きく二つの理由があります。一つ目は狼人間を味方にしなくてもコントロールできること、二つ目は私たちの目的を考えたからです」

 

 トンクスが死喰い人になる。オスカーにはそんな想像は全くできなかった。みんなそれぞれに色んな過去があるはずだったが、トンクスは性格からして全く死喰い人に向いているとオスカーには思えなかった。だから、淡々とトンクスが死喰い人側の事を述べていくのはオスカーにはとんでもない違和感があった。

 

「一つ目の理由を私が述べます。二つ目の方はエストレヤ・プルウェットの方から述べます。一つ目の理由では、二つの事象からそうだと考えることが出来ます。一つは体制側が狼人間を敵視していることです。これより、狼人間には我々反体制側を攻撃する理由がありません。もう一つは服従の呪文の存在です。我々は体制側と違ってこの呪文の使用に制限がありません。我々は体制側の人間に服従の呪文をかけて狼人間を攻撃することも、狼人間に服従の呪文をかけて攻撃することもできます。狼人間を仲間としなくても狼人間と体制側が争う状況を作り出すことが出来ます。つまり簡単に狼人間をコントロール可能です。エスト、あとお願い」

 

 トンクスの髪の毛が少し青みを帯びているのは偶然ではないとオスカーには分かった。そしてどうしてトンクスが自分で発表しようと考えたのか謎だった。多分、このアイデアはエストかチャーリーのモノだとオスカーは思ったからだ。

 

「スリザリンのエストレヤ・プルウェットが発表します。もう一つの理由、我々の目的を考えた場合です。これはヴォルデモート卿と死喰い人達の理念や考えに基づいて考えました」

 

 エストが恐れもせずにそう言うとこれまでで一番大きいざわめきが大広間に広がった。そしてこれまでで一番みんな集中して話を聞いているとオスカーは思った。もしかするとエストはわざとヴォルデモートの名前を出したかもしれなかった。

 

「彼ら…… 私たちの理念は簡単です。純血種の魔法族による魔法界の支配です。純血種の魔法族以外は人間ではありません。マグル、狼人間、ゴブリン、ヴィーラ、巨人、屋敷しもべ妖精と言った、特に魔法族と交わることのできる種族は恐るべき不安定要素だと考えることが出来ます。彼らと純血種の接点をできるだけ少なくすることが求められます。そして狼人間は純血種の魔法族を交わること無しに別の種族へと変えることが出来ます。これは恐るべき能力です。むしろマグル以上に狂暴で、魔法を使うことができ、恐るべき汚染能力を持つ種族だと言えます。我々の理念に従うならば、狼人間は絶滅させなければなりません。マグルは数からして絶滅は不可能に近いですが、狼人間の数はせいぜいグレートブリテン全体の推定最大数で二百頭です。巨人の先例を考えても絶滅は可能だと考えられます」

 

 ざわめきはもっと大きくなった。お人形のような白いエストの顔で絶滅とか汚染という単語が聞こえてくるとオスカーは少し怖くなってくる気さえした。

 

「そして絶滅を実行するまたとない状況だと我々は考えました。魔法省は狼人間を保護しないと宣言しました。むしろ魔法省と戦争をするよりも狼人間を絶滅させるべき時勢だと言うことです。魔法省としばらくの和平を望む事すら計画に入れるべきだと我々は考えています。元々我々の戦力は魔法省よりも優勢です。一人の闇祓いに五人の死喰い人を割り当てることが出来ます。和平によるしばらくの時間はさらに我々の戦力を強大にするでしょう。そして、我々の理念を成就させるためには、滅ぼすべきは魔法省では無く狼人間だと言うことです」

 

 もちろん、トンクスやエストが本気でそう言っているわけでは無いのは大広間の誰もが分かっていたはずだった。しかし、本当に淡々と事実を述べる様に言われると本当にそれが正しいのではないかと思ってしまいそうだった。

 

「以上の二つの理由より、我々は狼人間と敵対します。そしてこの決定は魔法省以上に魔法族の事を我々が考えている理由となるでしょう。我々は魔法族を魔法族以外から守ります。それにはどんな手段も厭いません。これは魔法省やそれに付随する勢力にはできない決定です。我々の狼人間への対応は以上です」

「みんな拍手を」

 

 パチパチパチパチとまばらな拍手が起こった。さっきのオスカーの発表よりも拍手は少なかった。クレスウェル先生は授業がこんな内容になると考えていたのか、オスカーには疑問だった。

 

「では両方が狼人間を敵視するという選択をしたわけだが、これについて何か質問や思うところはあるかな? 誰でもいい、何か意見があれば手を挙げて欲しい」

 

 先生がそう言っても大広間は静かなままだった。さっきまでのざわめきすらどこかに消えてしまっていた。すると何故かさっき発表したはずの反体制側のチームから手が挙がった。

 

「ミスター・ウィーズリー」

「えーっと、あんまり僕らの中でもまとめきれなかったんですけど、エスト…… エストレヤが発表した内容は、僕らの中では多分もし戦争にその死喰い人達が勝っていたら、狼人間を絶滅させるだろうと考えたからなんです。僕はこれは本当にそうなのかと思ったのと…… つまり僕たちは今も危険な生き物をむしろ保護したり使ったりしているわけです。ドラゴンとか吸魂鬼とか、だから彼らが本当にそういう行動にでるのかなと思ったのと、それと戦争中にそれをする意味があるのかと僕は思ってました。つまり、戦争に勝った後でもいいんじゃないかってことです」

「たしかに面白い質問だと私は思う。じゃあ二つ目の質問から考えてみよう。戦争中に狼人間を…… 魔法省の職員としては不適切な言葉だが、絶滅させる必要性はあるのか? 戦争終了後に行った方が効率的ではないのか? そういうことだ。誰か意見はあるかな?」

 

 むしろチャーリーはレイブンクロー向きではないのだろうかとオスカーは少し思った。魔法生物や怪物が好きなのに、チャーリーは怪物が人間とは違う生き物だと明確に理解している節があった。その上でチャーリーは魔法生物が好きなのだ。

 

「ミスター・ドロホフ」

「狼人間に味方する魔法使いが戦争中の方が少ないからではないでしょうか。つまり、戦争中はみんな余裕が無くて自分の事しか考えられない。でも、どっちが勝ったとしても戦争が終われば少し余裕ができる。そうなれば狼人間を助ける魔法族が出てくるんじゃないでしょうか」

「なるほど、そうなると戦争中の方がやりやすいという事になるのかな? 他に理由は考えられるかな? ミス・プルウェット」

「チャーリー…… チャールズのもう一つの質問にも重なりますが、魔法族にとって最も重要な要素が血だからです。吸魂鬼を魔法省ですら未だに使う理由は、単純にアズカバンの吸魂鬼が恐ろしいという理由以外では、魔法族を無力化しながら血を残すことが出来るからです。たとえ幸福が吸い取られたとしても、キスによって抜け殻になったとしても、血を残すことが出来ます。これは死の呪文では実現できない事です。魔法族にとって最重要なのが血だと言うことは明確です。そう考えれば、狼人間を最優先で滅ぼす理由になります。効率よりも時間の方が優先されると言うことです」

 

 さっきからどうしてこんな残酷な話ばかりしないといけないのかオスカーには分からなかった。多分、大広間のほとんどの人間はこんな話はしたくないし、聞きたくないのではないだろうか。吸魂鬼のキスをされた魔法族を血の保存に使う。本当に魔法省がそんなことを考えて吸魂鬼を管理しているのだとすれば、もう倫理とかそういうネジが吹っ飛んでいるとしか思えなかった。

 

「なるほど、ミスター・ウィーズリーの質問二つに答えたわけだ。一つは狼人間を他の生物と違って絶滅させる理由。これは魔法族にとって血が一番重要だから。二つ目の戦争中でもやらなければならない理由。これも魔法族にとって血が一番重要だから、効率より早く滅ぼさないといけない。なるほど、吸魂鬼の使い方は面白い考察だと思う。スリザリンに二十点。さて、他に質問はないかな? ミス・トンクス」

「先生は本当はどんな議論をして欲しかったわけ…… ですか? 私はもっと、狼人間をどうやって味方にするかって話をするって思ってたから…… ほら、狼人間を味方にするには狼人間がどう考えるかとかを考えると思ってたのよ。だって、先生が最初に話をしてたのは、自分がその人たちになりきって考えるとか言ってたじゃない」

 

 トンクスの言う通り、オスカー達のチームもエスト達のチームも、魔法省や死喰い人達の気持ちには多少より添えても、狼人間達の気持ちにはより添えていなかった。ここでやっとクレスウェルは少し笑顔になった。

 

「面白い質問だし、まさに私が考えていた通りの事をミス・トンクスは言ってくれた。ハッフルパフに二十点。その通りで、私はてっきりみんなが狼人間をどうやって味方につけるかを議論するのだと思っていた。これはまさに私の考える力が足りなかったわけだ。ただ、君たちは誰を敵とするのか、そして自分たちの目的は何でそれを達成するにはどうすればよいのかは議論してくれたと思っている。しかし、確かに誰かを動かすときに、動かす側の気持ちや感性や考え方を理解して欲しかったのも確かだ。それは恐怖よりも人間を動かす時があるからだ」

 

 クレスウェルがそういい終わると、大広間のドアが開く重いギギっという音と、沢山の人間の足音が聞こえた。靴に鉄板でも入っているかの様な甲高い音が何人分も響いていた。ドローレス・アンブリッジが沢山の人間を引き連れて入ってくる。アンブリッジの直後に仮面をつけて顔立ちや髪型が分からない人間が二人、オスカーの見覚えのある恰好をしている。その後ろに十人くらい魔法省の役人の格好をした人間がいた。

 

「クレスウェル先生。わたくしそろそろお時間だと思って皆さんをつれてやって来たのですけど」

「アンブリッジ先生、申し訳ありません。すぐに授業は終わります。先に実技用の準備をなさってはどうかと」

「あらそうですわね。じゃあ皆さんよろしくお願いしますわ」

 

 クレスウェルとアンブリッジが話終わると、魔法省の役人らしき十人くらいが広間の奥の方にオスカー達の見覚えのある決闘用の膜をつくり始めた。十数人でやっているためなのか、青い膜では無くて、少し金色がかった膜が作られていて、さらに決闘トーナメントで見たように床が少し浮かびあがってステージの様になった。

 

「オスカー、闇祓いです。あの二人」

「そうだよな、あの恰好」

 

 クラーナの言う通りでオスカーが見覚えがあると言った服を着た二人は闇祓いに違い無かった。オスカーはキングズリーが同じような恰好をしているのを何度か見たことがあったのだ。

 

「じゃあ闇の魔術に対する防衛術の理論はこれで終わりだ。みんな最初いた席に戻ってアンブリッジ先生の指示を待ってくれ、お疲れ様だ」

 

 クレスウェル先生の号令に合わせてみんな元座っていた場所に戻り始めた。ディエゴとペニーはお疲れ様と挨拶があったがタルボットからは無く、それにペニーの顔はまだ少し青いかった。

 

「やっぱり向こうのチームの方が良かったですか?」

「え?」

「だって、オスカーは今日ずっと向こうのチーム方見てたでしょう? それに点数を貰ったのもエストとトンクスじゃないですか」

「別にそんなことないけどな。いつもと違うチームだと意見とか視点とか違うからな」

「オスカーもみんな以外の人に興味あるんですか?」

「なんだそれ、別に他の人に興味が無いからみんなといるわけじゃないぞ」

 

 いまいちオスカーにはクラーナが何を考えているのか理解できなかった。いつものトンクスと同じくらいオスカーには理解できなかった。

 

「ほら、さっき一緒だったペニーはトンクスとは別の意味で喋りやすいじゃないですか」

「喋りやすいから喋るわけじゃないだろ。最近は……」

 

 最近はクラーナだろうが、エストだろうがちょっと喋り辛いとはオスカーには言えなかった。

 

「何ですか、最近は?」

「ディエゴも喋りやすいだろ? クラーナはどうなんだ?」

「はあ? あいつは誰でも彼でも女の子にあんな感じらしいですよ。トンクスは相手にされなかったらしいですから、私の方が上ですね」

「そんなランキングがあるのか」

「そんなランキングは無いですけど、驚くことに男子だったらチャーリーは結構女子の会話に出てきますよ。シーカーでキャプテンで監督生ですから。まあ、同級生は魔法生物飼育学で本性を知ってますけど」

「クィディッチだとほんとに凄いからな。ホグワーツで一番上手いだろうし」

 

 オスカーはさっきの話で一回頭がシリアスな感じになったせいか、クラーナとも気軽に話ができている気がした。オスカーは他の女子とはどうなるのだろうと少し気になった。ジニーやトンクス先生は大丈夫だけれど、さっき喋っていたペニーや他の女の子だと自分は普通に喋れるのだろうかと考えたのだ。

 

「オスカーがそんなこと言っていいんですか? ほら、なんでもエストが一番でしょう?」

「クィディッチに関しては流石に違うんじゃないか? 多分、エストもそう思ってるだろうからな」

「へえ…… オスカーでもそう思うことがあるんですね」

「なんか最近クラーナもトンクスに似てきたな」

「やめてくださいよ」

 

 元の席に戻るともうエスト達は座っていた。またオスカーはチャーリーで防壁を作るのに失敗していた。一番右にチャーリーが座っていて、エスト、トンクスの順で座っていたからだ。オスカーは最近そんなことばかり授業の前に考えている自分が嫌になってきた。

 

「オスカーお坊ちゃまは仲良くできたわけ?」

「まあウィンガーとオスカーは微妙な感じでしたね」

「そうなの? ペニーとディエゴがいたからどうにかなると思ってたわ」

「なんかペニーは静かでしたね。いつもは食事の時とか授業の時も誰かと良く喋ってるはずだったと思いましたけど」

 

 確かにペニーは静かだった。いつもならトンクスの羊皮紙を取り上げたりするくらいにぎやかな性格をしているとオスカーも思っていたので意外だったのだ。

 

「なんか狼人間で嫌なことがあったのかもしれないな。今日の話もあんまり気持ちいい話じゃなかったからな。トンクス様子見といてくれないか?」

「何なの? あんたはまた女の子の事ばっかりなわけね。頭の中ピンク色なんじゃないの?」

「それはトンクスの色だろ。今日はなんか青みかがってたけどな」

「オスカーは良くトンクスのこと見てるんですね」

 

 もうオスカーにはお手上げだった。誰かの事を言えば違う話題が出てくるので、もしかすると黙っているのが一番いいのかもしれないのだ。

 

「なんかクラーナ機嫌悪いじゃないの。オスカーなんかやらかしたんじゃない?」

「別に機嫌は悪くないですよ」

「さあ!! こんにちは!!」

 

 クラス全員が座ると、アンブリッジの媚びたような声が響いた。何人かからこんにちはの声が返ったが、流石に大広間の全員が返したわけでは無かった。

 

「チッチッ」

 

 アンブリッジは舌を鳴らした。またあの甘ったるい声が響く。

 

「それではいけませんよ。みなさん、ほら、こんなふうに。『こんにちは、アンブリッジ先生』。ではもう一度いきますよ。はいこんにちは!! みなさん!!」

「こんにちは、アンブリッジ先生」

 

 全員では無かったものの、さっきよりはよほど大きな声が大広間に広がった。

 

「そう、そう、別に難しくないでしょう? それに闇の魔術に対する防衛術の実技では少しの油断が命取りになります。ですから、こうして挨拶でまずは気持ちを引き締めましょう」

 

 アンブリッジが話している間、後ろにいる闇祓いと職員たちは全く微動だにしなかった。後ろでガードマンの様に立っているのだ。

 

「では、闇の魔術に対する防衛術の実技の説明をします。まずは皆さん杖を出して下さい。基本的にこの授業では実技の細かなメモをする時以外、杖を手から離してはいけません。みなさんのこれまでの授業では、理論と実技の境目が曖昧で非効率な授業となっていました。しかし、実際の闇の魔術に対する防衛術を使う場所で、杖を手放すことなどありえません。ですから、わたくしの授業の間は杖を手放すことはしないように」

 

 そんな事を言っているくせに、アンブリッジは自分の杖を手に持っていなかった。オスカーはちょっとそれはどうなのだろうと思った。オスカーがそう思っているとアンブリッジはハンドバックから杖を取り出した。物凄く短い杖だった。オスカーはこんなに短い杖は見たことが無く、隣のクラーナの馬鹿長い杖とは対照的だと思った。

 杖を振るといつの間にか出てきていた黒板に文字が現れた。『本当に必要な防衛術』と書かれている。

 

「これまでは魔法省の出してきた指導要領に基づいて、ホグワーツで任命された教師が闇の魔術に対する防衛術を教えてきました。しかし、それは不十分であったと言わざるを得ません。これまでの闇の魔術に対する防衛術は戦争より前に決められた指導要領で行われていたのです。しかし、今、あなた方の親御様が求めているのはもっと高度な防衛術です。それこそ再度戦争が起こったとしても自分と家族を護れるような防衛術です。そして、もはや時代は戦後ではありません。魔法省は戦争の傷を癒し、抜本的な改革に取り組みます」

 

 それが本当に求められているかは微妙だとオスカーは思った。なぜなら、闇の魔法使いとはホグワーツの卒業生だからだ。闇の魔術に対する防衛術の授業が高度なほど、闇の魔法使いもより強くなるのだ。

 

「そこで本年度の授業は魔法省が完全にバックアップします。二人の闇祓い、十二人の魔法警察部隊が徹底的な実技の教育を、そしてわたくし魔法不適性使用取締局局長のドローレス・アンブリッジがこれまでの指導要領との整合、マネジメント、皆さんの心理的支援を担当します」

 

 ここまでやるのかと言う感じだとオスカーは思った。いくら闇の魔術に対する防衛術に一年しか続かない呪いがあるとしても、ここまで先生を増やすとはいったいどうなっているのかとオスカーは思ったのだ。なぜなら、去年までなら闇祓いを一人先生として連れてくるだけでも難しかったはずなのだ。

 

「さらにこの闇の魔術に対する防衛術では、到達度別のクラスを導入します。皆さんの到達度に合わせて、寮の区別なく到達度別のクラスを導入します。もちろん、ふくろう試験の実技もきっちりと学べますから安心なさい」

 

 ここでざわめきがやっと広がった。エストの言っていたことは大体正しかったのだ。オスカーの横でクラーナが手を挙げた。

 

「ミス・ムーディ?」

「質問をいいですか?」

「はい。大丈夫ですよ。皆さんも発言する場合はミス・ムーディのように挙手して発言してください」

「到達度別のクラスは闇の魔術に対する防衛術だけですか? 他の教科にも適用されますか? それと、学年の枠が外れることはありますか?」

「よろしい。今年度、到達度別のクラスを実施するのは闇の魔術に対する防衛術の実技だけです。また、学年ごとのクラスで行います。五年生の段階でNEWTレベルの実技の練習を最高評価の到達度別クラスで行う可能性はありますが、決して六年生、七年生と同じ授業を受けるわけではありません」

「わかりました。ありがとうございます」

「他に何か質問は? 無いようですね?」

 

 太っていてまるでガマガエルのようなのに、アンブリッジは意外と早く歩いていた。決闘用のスペースまで歩いてから生徒たちに向かって喋る。

 

「恐らく、皆さんはこれまでと違う授業形態に戸惑っていると思います。そこで、わたくしは皆さんに安心してもらおうと考えます。何より安心なのはきちんとした先生に教えてもらうことでしょう? ここに本職の闇祓いが二人います。両名ともNEWT試験で必要なすべての科目で最高の成績で合格し、実戦経験のある闇祓いです。ですが、自分の目で見ることが一番だとわたくしは考えています。二人ペアで本職の闇祓いと決闘をしてみたい人はいますか?」

「オス……」

「はい!!」

 

 エストがオスカーに話かける前に、オスカーの片手を勝手に持ってクラーナが手を挙げていた。

 

「おや、ミス・ムーディとミスター・ドロホフですか? 他に誰かやりたい人はいますか?」

 

 特に誰も手は挙がらなかった。クラーナが耳元で囁いた。

 

「いいですよね? オスカー?」

「ああ、まあいいけど……」

「なんか今日のクラーナ元気よね」

 

 オスカーがちょっとエストの方を向くと、少しむくれていた。やっぱりエストと一緒に荒事をする縁は無いのかもしれなかった。

 

「では、ミス・ムーディ、ミスター・ドロホフ、檀上に上がって下さい。それにこの決闘用の保護膜は魔法省の警察部隊がきちんと作っているので、皆さんの魔法程度では壊すことはできませんから安心なさい。大人の魔法使いが十人は集まって反対呪文を唱えなければ壊すことはできません。ですから、実技や決闘をしている間は膜の外は完全に安全です」

 

 二人で連れ立って決闘用のステージに上がったが、オスカーはクラーナとこういう事をするのも随分久しぶりだと思った。向こう側には仮面をつけた闇祓いが二人立っていた。

 

「あの仮面をつけていると誰か分からなくなるんです。家族でもその人だって分からないんですよ外見だけだと」

「喋ったらわかるのか?」

「ええ、まあ声は隠せないですし、その人だってわかったら魔法は解けちゃいますから」

 

 クラーナはかなりやる気の様だったが、オスカーはあまり決闘には乗り気では無かった。闇祓いはキングズリーが近くにいるせいもあってか、オスカーからすると味方だと思ってしまうのだ。

 

「オスカー、本気でやって下さいよ。相手をぶっ飛ばす気でやらないとヤバイですよ」

「分かった」

 

 外でアンブリッジがニタニタした笑いをオスカー達に向けていた。オスカーはリータ・スキータの笑いを思い出して、少し嫌な気分になった。もう向こう側では闇祓い二人が杖を構えていた。

 

「では準備はいいですか? ミス・ムーディ、ミスター・ドロホフ、これは実戦ではありませんから、杖を落としたり、失神すれば即終了です。いいですね?」

「はい」

「はい」

「では始めましょう」

 

 アンブリッジの声と同時に闇祓いから失神光線が無言で飛んでくる。オスカーは時間差で飛んできた二つの光線を盾の呪文で弾いた。弾くのに合わせてクラーナが失神光線を飛ばしたが、やはり向こうの闇祓いに弾かれた。

 闇祓い二人は息の合った攻撃と防御を繰り返していた。一人が失神光線をもう一人が盾の呪文を使い、交互に隙間なく攻撃と防御をしてくるのだ。

 

「オスカー、オスカーも攻撃してください。スイッチが切り替わるみたいな感じの戦い方です。どこかでリズムを崩さないと私たち勝てないです」

「分かった」

 

 今のままだとオスカーは防戦に集中して、クラーナは攻撃に集中していた。オスカーからすると防御呪文を使わないのは少し不安だった。二年生の時ならそうは思わなかったはずなのに、向こうから呪文が飛んでくる場所でクラーナに呪文が飛ばない様に防御呪文を使わないのが不安なのだ。

 

「次の攻撃を弾いたら動くから同時に攻撃してくれ」

「わかりました」

 

 オスカーは自分のローブを空中に投げて、変身術で無数の蜂に変身させた。蜂は闇祓いの二人に向かっていき、失神呪文が当たるたびに大きな煙幕を伴って爆発した。

 クラーナがそのまま煙幕で見えなくなった場所に突っ込んで行く。赤い失神光線が煙幕の中を飛び交う。オスカーは気合の入っていない失神光線を煙幕の向こう側に発射したが、どこにクラーナがいるかどうか分からない状況では中々攻撃は難しかった。

 決闘に集中できていない。オスカーはそう思った。去年までのオスカーなら、決闘の間、レアを信頼してそっち側の事を考えなかったはずだった。しかし、今のオスカーは顔の分からない闇祓い二人相手にクラーナが突っ込んで行くのが不安だったし、それに明確な敵では無い闇祓いに攻撃するのに気合が入らなかった。

 

「取りつかれるな!! 下がれ!!」

 

 どこかで聞いた声が響いた。煙幕の向こう側でクラーナが相手の懐に入り込んでいた。背の低さは決闘に置いて明らかに有利だった。小柄な方の闇祓いの光線をしゃがむだけで避けて、魔女らしからぬ蹴りを相手の胸に叩きこんだ。

 本来なら質量的にクラーナの蹴りなどいくらくらっても倒れなさそうな大人の男だと思える魔法使いが二メートルくらい吹っ飛んで石畳を転がっていった。

 

「プロテゴ マキシマ!!」

 

 蹴り飛ばした後のクラーナに打ち込まれた失神光線をオスカーは盾の呪文で弾き飛ばして彼女の近くまで走った。

 

「闇祓いって何か服の中に入れてるんですね。一発でノックアウトできると思ったんですけど」

「何したんだ?」

「蹴りと一緒にフリペンドが発動するようにしました」

「それであんなに吹っ飛んだのか。魔女が肉弾戦するなんてな」

 

 そうオスカーが言うとクラーナはフフッと得意げに笑った。

 

「多分、オスカーは姉さんの決闘の仕方を見ることがあったらびっくりしますよ。物理的に人間やめてましたから」

「何だそれ」

 

 軽口を叩きながらも、オスカーはノクターン横丁の時のようなスイッチが入らないと思った。あの時は明確に狼人間が敵だと認識できて、反射のスピードも魔法の切れも今とはくらべものにならなかった。オスカーには相手の闇祓いがどうしても敵だと認識し辛かった。

 相手の闇祓いはもう立ち上がって、二人で何か顔を見合わせた。小柄な方の闇祓いがオスカー達の方へ走ってくる。

 

「来ますよ。オスカー、ちょっと気合いれてください。何かやる気なさそうじゃないですか」

「やろうとしてるんだけど……」

 

 走り込んでくる闇祓いは盾の呪文で弾きながらとにかく突っ込んできている。オスカーはクラーナと二人で失神光線を放ったが、全く相手の勢いは落ちなかった。その後ろからもう一人が強烈な閃光を魔法で繰り出した。あのマスクは閃光も防ぐに違い無かった。オスカーとクラーナは一瞬視界が断絶する。オスカーは反射的に盾の呪文を唱えていた。

 

「オスカー!! 下がってくださ……」

 

 クラーナの声が響く中、オスカーの盾の呪文を観察して、相手の闇祓いは一テンポずらして二人の懐に入り込んだ。相手のマスクが二人の近くに落ちる。そして相手は盾の呪文で自分を護りながら、なんともう一人が唱えた呼び寄せ呪文でさっき突っ込んできたのと同じようなスピードで後ろへ飛んでいた。

 盾の呪文は間に合わない。先ほどの呪文とのタイムラグの間にマスクが落ちた。オスカーの前にはクラーナが立っていた。オレンジ色の爆風と音が二人を襲う。

 

「クラーナ!!」

 

 鼓膜がおかしくなっているのか何なのか、オスカーの耳はキーンと言う音が響いていて、しばらく何も聞こえなかった。何かが焼ける匂いがしていた。爆風を浴びたのと関係無しにオスカーの背中に嫌な汗が流れていて、心臓のギアが変わった様に鼓動が早鐘を打っていた。

 

「ちょっと足がいかれました。道具を闇祓いが使うのは卑怯じゃないですかね」

 

 ローブが焼けていて、足を抑えてしゃがみこんでいるクラーナの姿が見えた。やっとオスカーは向こうに見える二人が敵だと認識できた。一人はオスカーが夏休みに見た顔をしていた。

 

「盾の呪文で凌いでおいてくれ」

「え?」

 

 文字通り、オスカーは走りだした。相手は二人とも同じ場所にいる。二人から飛んでくる失神光線を最小限の盾の呪文でオスカーは弾いた。盾の呪文で全身を護る必要は無かった。光線が当たる時、当たる場所だけを弾けばタイムラグは最低限で済んだ。

 相手は明らかにオスカーの視線をとらえようとしていた。オスカーは自分からマスクをつけている方の闇祓いに視線を合わせた。さっき闇祓いが突っ込んできたのと同様にあっという間に相手との距離は詰まった。オスカーはわざとらしく杖を振った。オスカーのほんの少し前をマスクの闇祓いの失神光線がかすめた。

 

「やっぱり閉心術の練習をしといてよかった」

 

 杖の魔法でマスクの無い闇祓いの足を固定して、ワンドレスマジックでオスカーはマスクの闇祓いを少し吹き飛ばした。マスクのとれた闇祓いの真正面までオスカーは接近し、相手の失神光線を弾く。

 

「魔法使いが殴るのが流行りらしい」

 

 オスカーは思いっきり杖腕でない方でジョン・ドーリッシュのみぞおちを殴りつけた。殴りつけると同時に全力でフリペンドを思い描いてワンドレスマジックを放った。ドーリッシュの体が面白いように吹っ飛んでいって、保護呪文の泡の外側まで吹き飛んだ。

 完全に頭のスイッチが切り替わっているとオスカーは思った。体と頭がそれぞれ半々ずつオスカーを支配していた。完全に集中できている。それがオスカーには分かった。そして、今まさに自分はここにいると言うことが実感できていた。

 

「ジョン? オスカー、もしかしてもう一人の闇祓いも……」

 

 クラーナの声はオスカーにはあまり聞こえていなかった。オスカーにはもう一人の闇祓いにも勝てる自信があった。魔法力は相手が上だったが、反射や呪文のコントロールで若いオスカーの方が上だと、頭と体両方で分かっていた。そしてオスカーは文字通り目の前のマスクの男をぶちのめしたかったのだ。完全な集中に使っているその集中力の裏に明らかな怒りをオスカーは感じていた。

 

「オスカー、聞こえてますか? あの体格は……」

 

 クラーナの隣までオスカーは来て、闇祓いに魔法を打ち込み続けていた。相手の失神呪文を最低限の盾の呪文と動きでオスカーは弾いた。そして相手は何とかオスカーから開心術で動きを読み取ろうとして失敗していた。赤い閃光が何度も煌めいた。そしてその回数は明らかに闇祓いの方が多かった。オスカーが一度弾く間に相手は三度は失神光線を弾かなければならなかった。変身術をほとんど使えないこのフィールドでは、オスカーの反射神経は明らかに闇祓いに対して有利に働いてた。

 

「勝ちだ」

 

 勝てる、オスカーはそう確信した。相手は開心術を使うのをやめていたがもうオスカーは完全に相手の動きを上回った自信があった。オスカーは相手に完全に勝ちたかった。冷静では無いと分かっていたが、クラーナの横で完全に相手を上回って勝ちたかった。失神呪文では無く、衝撃呪文で相手のマスクを弾き飛ばしてオスカーは武装解除呪文を唱えようとした。よく知った顔が杖を向けた先にあった。ワンテンポ、呪文が放たれるのが遅くなった。

 クラーナがオスカーの腰を掴んで地面に引きずり落とした。赤い光線が同じ赤いローブに当たるのが見えて、ダークグレーの髪がオスカーの前で揺れた。

 キングズリーがオスカーの方に杖を構えているのが見えた。オスカーは杖を上げていいのか分からなかった。

 

「ガシャン!!」

 

 ガラスを割れる様な音が響いて、金色の保護膜が割れた。オスカーとキングズリーの間を銀色の光線が通り抜けた。髪の毛が逆立って、体中に鳥肌が立った。銀色の光線が当たった大広間の壁に一メートルくらいのクレーターができていた。

 光線が飛んで来た方を見ると、エストが杖を構えてもう一方の手を挙げていた。

 

「アンブリッジ先生、質問があります」

「ミス……」

「プルウェットです。生徒一人の呪文で破壊できる保護膜は安全じゃないと思います」

「そ、そうね……」

「今すぐやめさせて下さい。先生が安全だと言っていた保護膜は安全じゃないの」

「わかりました。四人ともすぐにやめるように、警察部隊は倒れている者の容態を見なさい」

 

 オスカーは見たことが無いくらい怒っているエストの方も、厳しい顔でこちらを見ているキングズリーの方も見る元気が無かった。さっきのクレスウェル先生の授業でも感じていたような、色んな感情がごちゃ混ぜになっていた。分かるのは意識が無いクラーナの体重と、太陽が沈みかかっている空を映す天井の青さくらいだった。

 




ほんとは前話とセットのつもりだった。
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