ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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伸び耳

 今学期入って二回目の暴走特急、エストレヤ特急がオスカーを曳き回してからしばらくがたった。

 その間にオスカーは何とかエストの計画に合致するような場所を探していたが、せいぜいハニーデュークスに繋がる秘密通路か、使用回数の少ない空き教室に魔法をかけて見えなくするのが最適解としか考えられなかった。

 

「なんか、すごい一杯ふくろうが飛んでない?」

「またクラーナが週刊魔女で巻頭を飾ったのかもな」

「もしそれが本当なら、クラーナは闇祓いを諦めて別の道を探した方が人生上手くいくかもしれないの。少なくともムーディさんの家は今より大きくなるかも」

 

 パクパクとスクランブルエッグを食べているエストの横で、オスカーは一生懸命、エストからぶん投げられた、商品の在庫と材料、それの置き場所にどれくらいの場所が必要なのかの計算をしていた。オスカーは今すぐダイアゴン横丁で店を開いてもやっていけそうな気がしていた。

 

「なんかみんなに来てるみたいだよ?」

「みんなにってふくろうが?」

「そう」

 

 オスカーはやっと羊皮紙から目を離して机の上を見た。さっきまでじっとこっちを見ていた血みどろ男爵がいたせいで、オスカーとエストの机には誰もいなかったので、ふくろうが二羽だけとまっていた。

 

「ホグワーツ、スリザリン寮、オスカー・ドロホフ様…… 魔法省?」

「魔法省から全員に送ってるみたい?」

 

 エストとオスカーは教員のテーブルを見た。ダンブルドア先生は今日はおらず、魔法省から来ているはずの二人の教員はクレスウェルの方だった。

 クレスウェルは特に面白そうでもなく、日刊預言者新聞を読みながら朝食のプレーンをほおばっていた。

 

「何これ? 成績?」

「え?」

 

 オスカーも封筒の中を開いた。何か格式張った字で長々と説明が書かれていたが、オスカーは読み飛ばして表のらしきモノに目を通した。

 一年生、二年生、三年生、四年生と書かれていて、その下にアルファベットと数字が書かれている。

 

 

 ホグワーツ魔法魔術学校 五年生 オスカー・ドロホフ殿

 貴殿のこれまでの成績につきまして、普通レベル魔法試験を基準として評価した場合の数値を以下に示します。

 

普通魔法レベル成績(推定)

 

合格

優・O(大いによろしい)

良・E(期待以上)

可・A(まあまあ)

 

不合格

不可・P(よくない)

落第・D (どん底)

トロール並・T

 

             推定成績(順位)

             一学年   二学年   三学年   四学年

 

 天文学         O(五)  O(四)  O(三)  O(四)

 呪文学         O(三)  O(二)  O(二)  O(二)

 闇の魔術に対する防衛術 O(二)  O(一)  O(二)  O(二)

 薬草学         O(四)  O(四)  O(三)  O(三)

 魔法史         O(三)  O(三)  O(三)  O(三)

 魔法薬学        O(三)  O(三)  O(三)  O(三)

 変身術         O(三)  O(二)  O(二)  O(二)

 基礎科目合計      O(三)  O(二)  O(二)  O(二)

 

 魔法生物飼育学                 O(三)  O(三)

 占い学                     E(十一) O(五) 

 マグル学                    O(四)  O(三)

 数占い                     O(五)  O(三)

 追加科目合計                  O(四)  O(三)

 

 合計          O(三)  O(二)  O(二)  O(二)  

 

★ 短評

 非常に素晴らしい成績です。ふくろう試験、イモリ試験ともにこの成績を維持可能ならば、あらゆる職業試験の受験資格が与えられます。

 魔法省(総合)、闇祓い、癒者、その他職業について、現状の成績で受験可能と考えられる職業を二枚目に列挙します。進路選択の参考、励みとして下さい。

 ホグワーツ主席クラスの学生について、イギリス魔法省が選抜する特別優秀学生、特別留学制度、その他成績優秀者に向けた多種の制度を利用できる可能性があります。詳細については三枚目に記述します。参考として下さい。

 日刊預言者新聞、変身現代を初めとした、魔法界の各種書籍が主催する若年者リーディングプログラムに該当する可能性があります。魔法省のまとめた各種募集要項を四枚目に記述します。参考として下さい。

 

「なんだこれ? これまでの成績ってことか?」

「そうみたい…… 魔法省が成績を出すのって、ふくろう試験の委員会がまとめたものだけだと思ってたんだけど……」

 

 オスカーはエストの成績をチラッと見た。ほとんど一しか無く、まれに二があるだけで、総合の成績はずっと一のままだった。

 大広間のざわめきはいつもの数倍だった。そこかしこでお互いに成績を見せ合っていた。明文化されていない成績もあったはずなので、ホグワーツ学生にとっての衝撃は大きかった。

 

「あんまり、オスカーと私だと変わらないの」

「そうか? 少なくとも、エストのところに三とか四はあんまりないだろ」

「そう? でも占い学は途中でやめたからTって書いてあるの。まあでも、短評のところは全部一緒だね」

 

 確かに、エストの占い学にはTと書かれていた。逆転時計をやめたあと、正々堂々トレローニー先生に喧嘩を売りに行ったせいに違い無かった。そのあと、壁に開いた穴をダンブルドア先生自ら直すまで、しばらく占い学の教室では涼しい中で授業ができてオスカーは嬉しかったが、よくよく考えると、オスカーの一年目の占い学のEはそのせいかもしれなかった。

 

「オスカー、見せてください」

「とっととよこしなさいよ」

 

 オスカーが職業について書かれた紙を見ようとすると、いきなりクラーナに紙を封筒ごとひったくられた。ついでにトンクスがエストの分の封筒もかっぱらっていった。

 

「やっぱり、基礎科目と全部合計での一と二はここ二人じゃないですか」

「実技なんてずっとあんたら三人で一、二、三じゃないの」

「トンクスは薬草学ずっと二じゃないですか」

「うわ、チャーリーって魔法生物飼育学だけはエストに勝ってるじゃない」

 

 なんとチャーリーの成績表も途中で奪いとってきたらしかった。クラーナとトンクスは五人の成績表を見比べては、あーとかうーとか言っていた。

 

「オスカー、あんたほんと実技以外でも三位に入ってるのどうなってるわけ?」

「わりとトンクスに負けてる教科があってショックなんだが」

「そうですよ。なんでトンクスのくせに古代ルーン文字ができるんですか? というか、マグル学で一回エストに勝ってるじゃないですか」

 

 オスカーは結構久しぶりにみんな仲良くワイワイしていると思った。チャーリーがどこに行ったのかと思い、辺りを見回すと、チャーリーは大広間から箒を持った一団と出て行った。恐らくクィディッチの練習だった。

 

「うるさいわね。私に負けてる奴がおかしいのよ。魔法薬学も三って…… ラブラブ魔法薬学恐るべしね」

「先輩方はどんな感じなんですか?」

 

 女子ばっかり集まり始めて、オスカーはクィディッチを自分もした方がいいのではないかと思い始めた。少なくともここからいなくなる理由にはなるからだ。

 

「えい」

「エストナイスじゃない…… 何よこれ。エストの成績表並みにおかしいんだけど」

「なんか二年目から不正でもしたのかって感じになってますね」

「凄いな。でもそもそも実技以外は元からこうだったのか」

 

 レアの成績表は一年目は実技以外に全部一がついていて、二年目からはほとんど全部が一か二がついていた。

 

「けど、なんで今更こんなことしたんだろうね? ふくろう試験では順位なんてでないし、ホグワーツの学期末試験でも、順位を出している教科なんてあんまりないの」

「励みになるとかですか?」

「そりゃああんたたちは励みになるわよ。私つよーいって感じになってうれしーってことでしょ?」

「トンクス先輩のもそんなに変わらなくないですか?」

 

 オスカーはあたりを見回した。オスカーの周りはそんなに暗い雰囲気では無かったが、大広間全体では幸せと不幸せが半々といったところだった。エストのなぜ魔法省がこんなことを行ったのかというのは当然の疑問ではあった。

 

「アンブリッジ先生が言ってた到達度別クラス? とか言うのと同じなのかもな」

「ふーん。意欲をあげるため…… それだけなのかな……」

「別にそれ以外にホグワーツの学生なんてエサで釣って操っても大してできることはないですよ」

「そう? オスカーとかエストあたりを一ダースくらい用意できれば、グリンゴッツのチャーリーの金庫からガリオン金貨を奪うくらい簡単じゃない?」

「なんでチャーリー先輩の金庫? どうせならエスト先輩の金庫みたいな、旧家のドラゴンが守ってる金庫くらいでも大丈夫なんじゃ……」

 

 そんな状況にはならない事をオスカーは祈りたかった。巨大な怪物と戦うなど、キメラが最後であって欲しいと思っていたし、そもそも、あからさまにルールや法律を破る状況に追い込まれたくなかったのだ。

 

「あ、そうでした。レア、今日お願いしますね。ウィンガーの件です」

「動物もどきのお話をするんだよね? 私も聞きたいけど…… あー、でも午後だとクィディッチの練習なの」

「いちおうボクとクラーナ先輩で行くと言っています。それでいいんですよね?」

「いいんじゃないかしら? まあ取りあえず話してくればいいじゃない?」

「そうですね。なので午後はお願いします」

 

 その後、トンクスとオスカー以外の三人が動物もどきについての話をし始めている横で、トンクスがオスカーに耳打ちした。

 

「じゃあ、私たちも午後までに準備するわよ。今日は忍びの地図は開かないようにして、万眼鏡をよろしく頼むわ」

「あんまりやりたくないんだが。普通に一緒にいればいいだろ」

「こういうのはコソコソやってるスリルが大事なのよ。それにエストの道具を試せるチャンスじゃない」

「二人は内緒の話ですか?」

「そうよ。医務室で三人に何があったのか事情聴取してたわ」

 

 クラーナの顔があからさまに固まった。エストの方は相変わらずスクランブルエッグをお腹にいれていた。オスカーはエストが毎朝食べているスクランブルエッグが体のどこに消えて行くのかが不思議だった。

 

「何か三人って、オスカー先輩、エスト先輩、クラーナ先輩で何かあったとか?」

「オスカーとクラーナは医務室では離れて過ごさないといけなくなったって聞いたわ」

「あそこには先生方しかいなかったはずですけど」

「他にも何人かベッドで寝てたに決まってるじゃない」

「オスカー、そろそろ数占いの時間だよね?」

「そうだけど」

 

 口をナプキンで拭いたエストは立ち上がって伸びをした。オスカーを箒に括り付けてホグワーツ中を曳き回した後からずいぶん機嫌が良くなっていることをオスカーは実感していた。ただもう寒くなっているので、毎晩どう? と言ってくるのは、穏やかな飛行であってもオスカーには辛いイベントとなっていた。

 

「何? なんかエストは余裕じゃないの」

「そう? あれ? そういえば色々使ってってトンクスに頼んどいたのってどんな感じ?」

「それなら結構いい感じよ。最近のお気に入りはパーマになる薬と床を池にするロープ、あとあの持ち運べる暖炉とかいうのいいわね。魔法生物飼育学の時に寒くなくて良かったわ」

「セストラル用の飼い葉が燃えたってハグリッドがちょっと前に言ってたけど……」

「ちょっとまって下さい。最近いろいろ先生方が処理してるのってまさか二人が原因なんですか?」

 

 クラーナがエストとトンクスの顔を交互に見た。オスカーはできるだけそれを見ないふりした。なぜなら、トンクスに連れられてアイテムを試したり、トンクスにそもそもアイテムを渡しているのがオスカー自身だったからだ。

 

「クラーナにも頼んでいいの?」

「嫌ですよ。私はそんな問題児じゃないですから」

「フィルチの部屋の前を沼にしたのは面白かったわよ。部屋から出た瞬間に沈んでいったわ。ミセス・ノリスはフィルチの頭を飛び石にしてジャンプで飛び越えてたけど」

「わざわざマクゴナガル先生が出てきて三十分くらいかからないと消せなかったからな。というか、こんなことできるのは…… って言ってたからもうばれてる気もする」

「証拠は無いの。やったのはトンクスだし」

「やっぱり監督生のバッジは返した方がいいんじゃないですかね」

「ホグワーツが実験場になってる……」

 

 トンクスがやったのならまあそうかですんでしまうので、後ろにオスカー達がいるかどうかは分からなくなっている。とは言うものの、あんまり高度な魔法が悪戯に使われれば後ろで誰かがいることくらい賢い先生方なら気づくのは時間の問題だとオスカーは考えていた。

 

「あと見えない壁はかなりの傑作だったわ。スネイプの研究室の前に仕掛けて、スネイプがどうにもできなくて、マクゴナガル先生とフリットウィック先生を連れて帰って来る前に元に戻しといたら、何もないようですが…… セブルス? 大丈夫ですか? 疲れていませんか? 髪型も少しいつもと違うようですが? とか言われてたもの」

「スネイプでもどうにもできないやつがあるんですか?」

「スネイプ先生は闇の魔術と魔法薬学以外はそんなに詳しくないから不思議じゃないかも」

「髪型って例のパーマ事件……」

 

 ホグワーツが実験場ではあったが、その実験対象は何人かが良く選択されるのは事実だった。こういう時に日ごろの行いが…… つまり、あんまりえこひいきや恨みを買うことをはしてはいけないのだろうとオスカーは実感するのだ。

 

「どうせ本格的に一杯つくるようになったらトンクスも目立たなくなるの。だから大丈夫」

「あんまり大丈夫じゃない気が……」

「大丈夫ではないでしょうね。ええ」

「いいじゃない。絶対その方が面白いじゃない。魔法の使い方も色の使い方と一緒で同じばかりじゃつまらないわ」

「忍びの地図とめくらまし呪文と七変化で、トンクスがよっぽどヘマをしないとバレないとは思うけどな」

 

 オスカーが説明するとレアとクラーナに少し渋い目でオスカーは見られた。オスカーはあんまりトンクスとエストのバックアップをし続けるのも限界があるのかもしれないと考えた。先生方に捕まるより、身内に怒られる方が早そうなのだ。

 

「じゃあ、あとで動物もどきの話がどうなったか聞かせてね?」

「分かりました」

「がり勉ペアは勉強熱心ね」

「トンクス先輩も良くクラーナ先輩と図書館にいるけど……」

「あとでトンクスには次の試作品をローガンにつけて送っとく」

 

 次の授業まで少し時間がある三人の視線を背中に受けてエストと一緒に歩きながら、オスカーは今はトンクスとエストはうまくいっているのに、レアとクラーナからの感触が余り良くないと考えた。オスカーには四人の相性が状況によって変わってしまい、どう調整すればいいのかが魔法薬学のレシピより分からないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? ムーディ、僕を呼び出した理由はなんなんだ?」

「ああ、そうですね、とりあえず来てくれてありがとうございます。ウィンガー」

「割とクリアに聞こえるわね。テーブルに置いても聞こえるようにしたのは私の手柄じゃない?」

「いや、それよりこの盗み聞きしながら、万眼鏡で向こうから見えないようにのぞき見するの、すごい悪いことをしてるみたいで嫌なんだが」

「え~、面白いじゃない。マグルのスパイが出てくるゼロゼロなんとかって映画みたいで面白いわ」

 

 中庭の茂みに囲まれたテーブルでクラーナ、レアとタルボットが話をしている。オスカーはトンクスに連れられて、エストの道具を試すいいチャンスじゃないとか言われ、茂みの中から万眼鏡で覗けるようにして、さらに伸び耳にラジオについている音のでるモノを取り付けたトンクスの作品を机の上に置いて、もはや完全に三人を遠隔から監視していた。

 

 オスカーは最近、友人に連れられて悪いことばかりしている気がしていた。チャーリーと一緒に卵を隠しているし、エストと一緒に箒でホグワーツ中を暴走してフィルチの本を強奪したうえ、今度はトンクスのこれだった。レアはレアでホグズミードに抜け出せないかと誘ってくる、クラーナは安心かと思っていたが、ちょっと前に忍びの地図とカメラを貸してほしいと言われて貸したのがオスカーは気になっていた。

 

「ウィンガー、あなたのご両親は動物もどきですよね?」

「そうだ。君の姉が動物もどきだったり、君の家族すべてが闇祓いなのと同じだ。いや、動物もどきだったが本当は正しい」

 

 タルボットの顔にオスカーはちょっと警戒の色が浮かんでいると思ったが、トンクスが万眼鏡をオスカーから取り上げる際に、いちいちツンツンしたピンク色の髪がオスカーの顔にぶつかるのが気になってそれどころでは無かった。

 

「クラーナってほんとあれよね、ちょっと可愛くお願いすれば一発なのよ。タルボット君、私に動物もどきのなり方を手取り足取り教えてくれませんか? って上目遣いでやれば時間が短縮できるじゃない」

「絶対やらないの分かって言ってるだろ」

「はあ? オスカー…… もうちょっとだけ手を握っててもいいですか? って、頭が軽そうなやりとりしていたのは誰なのよ? うえー、自分でやってておかしくなりそうだわ」

「なるならわざわざ変身してやるなよ」

 

 わざわざご丁寧に変身して三年生のクラーナを再現するのを、オスカーは本当にやめて欲しかった。確かに、今のオスカーならそんな風に頼まれれば大体のお願いは聞いてしまうだろう。そもそも、普通のお願いでもほとんど聞いてしまうに違い無かった。

 クラーナの姿のトンクスはなぜか用意周到に持ってきたポットでお茶をいれていた。完全に三人の話を肴にお茶を飲む気らしかった。オスカーは魔法がかかった熱さを保つポットをいつトンクスがひっくり返したり、落とすのか気が気では無かった。

 

「だったって言うのがちょっと気になりますけど、単刀直入に言えば、私はあなたが動物もどきの習得方法を知っていると思っていて、私はそれを習得したいと思っています。なので教えて欲しいという事です。特に魔法薬の詳細なレシピなんかが分からないと思っています」

「どうして僕がそれを知っていると思っている? 確かに両親は動物もどきだったが、僕は動物もどきでは無い。マクゴナガル先生に教わった方がいいだろう」

「なんか冷たいわね。もっとタルボットはクラーナには優しいのかと思ってたわ」

「そもそもなんでそう思うんだ?」

「あいつは闇祓いになりたいらしいわよ。ペニーがそう言ってたし、それにあいつはあれよ…… レアとかエストみたいな感じの生い立ちらしいわ。ペニーにも話してないらしいから詳しいことは分からないけど」

 

 家族が動物もどきかつ今はいない、それになりたいものも一緒。確かにオスカーとクラーナよりよっぽど共有できそうな話題は多いかもしれなかった。

 

「あなたは動物もどきの習得方法を知らないってことでいいんですか?」

「そういうことだ。ムーディ、話したいのはこれで終わりなのか? なら僕は勉強に戻らせてもらう。まだ僕の魔法薬学の成績はEらしい、だからふくろう試験用に準備の時間が必要だ。君たちみたいに違う事をやっている余裕が僕には無い」

「そうですか、ならこの話だけ聞いてください。私たちがホグワーツに入った年から、ふくろう小屋とかでやけに賢い鷲がいるって噂になってました」

「なんかレア静かよね。最近はブレーキが壊れた箒みたいに喋ったりするのに」

「レアは特に動物もどきになりたいとかそういうのじゃないからだろ。それにブレーキが壊れたって言うより、元の速度に戻っただけじゃないか?」

 

 トンクスがどうでもいいことを言ったせいで、クラーナの話のトーンが変わったのをオスカーは十分に認識できていなかった。

 

「何が言いたい?」

「タルボット・ウィンガーは動物もどきだってことを私は知っていますし、だから私はあなたに頼んでるんです」

「へ? ちょっと何なのよ。すごい展開じゃない。夏休みにやってたドラマならここで来週に続きまーす。ってなって、オスカーの家だと見れなくて気になってしょうがなくなるやつじゃない」

「タルボットはスキータみたいなもぐりの動物もどきってことなのか」

 

 オスカーとトンクスは同時に万眼鏡を持って、お互いに片目ずつ目にあてた。タルボットの顔はさらに警戒している様子で、レアの方はあごに手を当てて何か考えている顔、クラーナの方は一気に畳みかけるような強気の顔だった。もちろん、クラーナの眉がいつもキリッとしてるせいでそう見えるだけかもしれなかった。

 

「僕が動物もどき? 君は魔法省の登録名簿を……」

「ええ見てますよ。登録名簿の最新の名前は姉さんのまま動いてません。だからあなたはもぐりの動物もどきってことです。ホグワーツに入ってたった五年で二人ももぐりの動物もどきを見つけるなんて思ってなかったですけど」

「僕がもぐりの動物もどきだったとして、証拠でもあるのか?」

 

 クラーナはごそごそと自分のカバンから何か取り出しているようだった。ただの羊皮紙とオスカーが貸した二眼のカメラ、それに何枚かの写真だった。

 

「オスカーのカメラじゃないの?」

「そうだな。そうか、忍びの地図でタルボットの名前を見つけて、変身しているところを撮ったってことなのか…… なんか、最近、俺がモノを貸したりなんか一緒にすると悪いことしか起きない気がするな」

「やっぱあの地図凄いわね。というかタルボットの名前が高速移動してるのってなんか想像するとシュールね」

「これでどうですか? あなたは動物もどきですよね?」

「レイブンクロー寮の周りをときどき飛んでる鳥って……」

 

 写真を見ながらタルボットはできるだけ表情を動かさないように努めているとオスカーは考えた。そしてオスカーはあんまりいい感じの交渉には見えなかった。てっきりもっと友好的に話が進むのかと思っていたのだ。

 

「それで? これが捏造したものでは無く、本当に僕を撮った写真だったとして、どうしたいんだ?」

「捏造って…… そんなことできる学生なんていないでしょう?」

「プルウェットなら大概のことができてもおかしくないだろう。君がレアと一緒に動いているという事は後ろにプルウェットやドロホフがいると想像するくらい、君たちと一緒の学年なら誰でもできる」

「あちゃ~、なんかもう敵意バリバリとげとげしてるって感じじゃないの。やっぱりクラーナってあんまり交渉とかそういうのは得意じゃないわよね」

「人を頼るのはあんまり得意じゃないかもな」

 

 クラーナがお前は動物もどきだとタルボットに言ったことは悪手だったかもしれない。オスカーもそう思った。ただ、オスカー達の周りで誰かに甘えるとかそういう事が上手い人間がいるかと言われても、オスカーには思いつかなかった。まだウィーズリーの下の兄弟たちの方が上手いだろうからだ。

 

「捏造なんてしてないですけど、取り合えずそれはどうでもいいです。私がお願いしたいのは変わらなくて、動物もどきの習得を手伝って欲しいって事です」

「それで、それは僕に何のメリットがあるんだ? 僕にはデメリットしかない。仮に僕が本当に動物もどきだったとして、僕が君に動物もどきの習得方法を教えるのと、この場で君たちに忘却術をかけるのと、僕には後者の方がメリットを感じる」

「そんな、メリットとか言われても……」

「ほら、脅すみたいになってるからうまくいかないのよ。初めから私と付きっ切りでべったり動物もどきを教えてくださいって、いつものローブじゃなくて気合の入った服で可愛くお願いすれば良かったのよ」

「ほんとにうまくいくのかそれ? そっちの方がクラーナからすれば難易度高いだろ」

「タルボット先輩、タルボット先輩は何が嫌ですか?」

 

 これまでずっと二人の会話だったのに、やっとレアが入ってきた。しかし、こういう状況でレアがでてくるのは大丈夫だろうかとオスカーは思った。頭に血が上っていない状態かつ遠慮が無い場合、レアは頭の回転は速いし、その上、容赦なく正論をぶつけてくるタイプだった。

 

「嫌? 僕は僕にメリットが無いと言っているんだ」

「メリットって何ですか? ガリオン金貨? それともモノ? 人? 逆にタルボット先輩が何か教えて欲しい術があるとか? パッと答えられる?」

「だから、今、僕が何か欲しい……」

「メリットが答えられないなら、デメリットならすぐに出てくるということ? つまり、クラーナ先輩に教えられない理由が? 教えたらタルボット先輩のデメリットになるという理由が?」

「技量や知識のない人間がやろうとすれば事故が起きる可能性が……」

「クラーナ先輩で技量や知識が無いとなるなら、ボクより一つ上の学年だと一人か二人しか該当しなくなる。それにそれが誰かくらいさっきご自分で言ったみたいにタルボット先輩は分かっているはずだ。そしてその誰かに変身術の技量で勝てるなんて、ホグワーツにいる五年生以上の人間が言うわけない。その誰かとクラーナ先輩との関係も。だからタルボット先輩のデメリットは別の場所にある」

 

 トンクスとオスカーは二人で顔を見合わせて微妙な顔をしているのをお互いに確認した。トンクスの髪色はちょっとショッキングピンクとは言えなくなっていた。その間にも伸び耳からは攻守交替とばかりにレアの声が聞こえていた。

 

「それで? タルボット先輩は何が嫌で教えたくない? 何がデメリットで教えたくないのかボク達に言ってもらえないなら、ボクらは何もしようがない」

「レイブンクローVSレイブンクローだけど…… 黄色い方が優勢ね」

「レアは怒らせたくないけど、普通の状態の方が怖いかもな」

「喋るコンフリンゴ…… うーん違うわね、金色のステューピファイ…… 背の高いボンバーダ…… なんか違うわ。歩くヌンドゥ……」

「ヌンドゥは歩くだろ。動物なんだし」

 

 レアがどうしたいのかも、タルボットがどうしたいのかもオスカーには分からなかった。普通、こういう交渉や駆け引きには落としどころのようなものがあるのだろうとオスカーは思っていたが、あの三人がそんなことを考えているかは疑問だった。

 

「デメリットもメリットも答えられないなら、ボクの推論を言うけど。タルボット先輩はクラーナ先輩に教えるのが嫌なのでは無くて、クラーナ先輩に教えると言うのは、クラーナ先輩の周りのみんなに教えるという事になるのが嫌なんだとボクは思ってる」

「どういう意味ですか?」

「クラーナ先輩に教えるってことは、トンクス先輩、エスト先輩、チャーリー先輩、ボク、それにオスカー先輩に教えるって言うのと同じことだから、それにタルボット先輩が動物もどきになる方法を知ってるってことは、タルボット先輩が動物もどきだと言っているのとほとんど同義のはずだ。タルボット先輩からすればこれがデメリットかつリスクなんだ。違いますか?」

「あ~、もう、レアがめちゃくちゃ怒ってるじゃないの。エストか私が一緒にいてた方が良かったわね。いや、エストだともっと怒ってるかもしれないから駄目ね。オスカー、あんたのせいだわ」

「俺? 俺のせいなのか?」

 

 怒っている? 怒っているのだろうか? オスカーはレアが怒っているところをよくよく考えると、二年生の最初、三年生のリータの時と劇の最後くらいしか見たことが無かった。だいたい怒っていたとしても、トンクスとオスカーはこれまで後ろから見てたので止めに来ましたなどと言って出ていけるはずも無かった。

 

「レア、落ち着いてくださいよ。だいたい……」

「ボクは落ち着いてますよ。クラーナ先輩。タルボット先輩、どうですか? デメリットはそれであってますか?」

「そうだ。君の言う通り、僕が懸念に思っているのはそれだ」

「分かりました。なら質問を変えます。誰に動物もどきだとばれるのがリスクだと思っているんだ?」

「ちょっとレア、本当に……」

「君の思っている通り、僕は死喰い人の子供や身内に自分が動物もどきだとばれる。もしくはその疑いがあるなんて知られるのは嫌だ。そんなことはリスクでしかない」

「ああ…… もう……」

 

 クラーナは頭を抱えていて、タルボットとレアはかなり怒っているようにオスカーからも見えた。そしてどうにもこの話が最初からうまくいきそうになかった理由もオスカーはやっと理解できた。

 

「俺が行った方が……」

「オスカーが出て行って何するわけ? 今から自分で消失呪文をかけてホグワーツから消えますとか、一週間に一回、タルボットに忘却呪文をかけてもらいますとか言うわけ?」

「いやそんなことは……」

「じゃあもう黙って見ておくしかないわよ」

 

 トンクスもトンクスで何に怒っているのか何なのか、髪の毛が赤みを帯びていた。ただ、オスカーにはこの状況をどうしようも無かったし、解決策も思い浮かばなかった。

 

「正直に言えば、ボクはもっとタルボット先輩が勇気や根性がある人間だと思ってた。昔に何かあっても、危険な職業になりたいって言ってる人だから」

「だからレア、ウィンガー、落ち着いてくださいよ。みんなが何になりたくても、昔何かあっても関係なくて、だってそんな大層な話じゃなくて、学生同士で魔法の勉強をしようって言ってるだけじゃないですか」

「ムーディ、僕にとっては大層な話だ。動物もどきは父さんや母さんが僕の身を守るために教えてくれた魔法だ。だから僕は安売りはしない。それに敵の子供にそれを教える? 論外に決まってる」

 

 オスカーは何とか自分に置き換えて理解しようとしてみた。自分だけが使っている魔法…… オスカーには一つしか思い浮かばなかった。それを他の誰かに言われても、教えることはできるだろうか? オスカーにはそれはかなり難しいことのように思えた。あまり付き合いのない人はもちろん、エストやクラーナにだって教えるのはハードルが高いと感じたのだ。だから、タルボットの反応も全く無理は無いと考えた。

 

「じゃあ、タルボット先輩は一年生のころのボクと大して変わらない。怖いからやらない。それでタルボット先輩は、死喰い人の息子ですら怖いのに、闇祓いになろうとしてる。教えたからって誰かを自分が傷つけるわけでもないのに、自分が襲われるのが怖いから教えるのが嫌だなんて、ただの腰抜けじゃないか。それでオーラーになる? ボクには何を言ってるのかさっぱり分からない。トロールがホグワーツで変身術を教えるって言ってるのと何が違うんだ?」

「ちょっとレア、言い過ぎですよ。嫌なものは嫌なんて普通なんですから……」

「腰抜けに腰抜けと言って何かダメですか? それともクラーナ先輩はそう思わない? だいたい、そんな簡単にクラーナ先輩は誰かに教えを乞おうなんて言い出さない人なのに、それでも覚えたいと思ってるのに、タルボット先輩は理解できてない。タルボット先輩はクラーナ先輩と一緒の学年だし、なりたいものも一緒なのにそのくらいも分からない?」

「やっばいわね。スイッチ入っちゃうとほんとに止まらないじゃない」

「なんか閉心術やるまえより悪化してる気がする……」

「閉心術? 何よそれ?」

 

 スイッチが入ると止まらない。文字通りレアはそんな感じだった。今年度にオスカー達が乗った暴走特急並みに止まらない。感情のコントロールを覚えたせいでむしろ一段と増幅して外に出せるのかもしれなかった。オスカーが少し怖いと思うのは、今は外に向いている感情をレアはいつも自分自身に向けているに違い無いというところだった。

 

「クラーナ先輩、タルボット先輩に教わる必要は無いとボクは思う。あの人間性が下劣で下品なメガネをつけてるコガネムシだって、度胸はあった。でもこの先輩はそんな度胸も無い。動物もどきを使って校内を飛び回ってばれるリスクも考えることができずに、それより同級生に教える方が怖いなんて言ってる。もう一度言うけど、ボクは教わる理由なんて無いと思う。話をめちゃくちゃにして申し訳ないけど。ボクはもうここでしゃべりたく無い。何を言っても変わらないだろうから」

「ちょっとレア、いくらなんでも言いすぎじゃないですか。だから腰抜けとか度胸とか生きるとか死ぬとかそんな大層な話じゃないんですよ!!」

「そうだ。大層な話じゃない。マッキノンの言う通り、僕は腰抜けだ。そして生き残るのも腰抜けだ。度胸があって魔法省にわざわざ自分の変身形態を登録している魔法使いと魔女がどうなったかなんてみんな知っている。僕はそうはならない。話は終わりだ」

「ちょ、ちょっとウィンガーもレアもなんでそんな……」

 

 オスカーにはクラーナが可哀想になってきた。多分、二年生とか三年生のころなら困らされるのは自分で、困らしてくるのはクラーナの方だった。立場が変わって隣から見てもやっぱりオスカーは困っていた。そしてこういう人間関係で困ったときになんだかんだオスカーはトンクスに相談していたはずだった。

 

「あーあ、もう駄目ね。これからは金色の吠えメールってレアの事を呼ぶわ。ところで閉心術ってなんなのよ? スクリムジョール先生が去年ちょっと言ってた気がするけど」

「どうする? タルボットから教えて貰えないってなると結構厳しいな。閉心術は開心術の対抗の術で、開心術は人の心を読む術だ」

 

 レアとタルボットは席を立ってどこかへ消えてしまった。クラーナはひとりでテーブルの傍に立ちつくしていて、胸に光る監督生のバッジだけが悲しく光っているようにオスカーには見えた。

 

「どうするって…… あの糞メガネアバズレババアを利用するか、タルボットに対する攻略術を履修するかよ。というか人の心を読むって、それレアと練習してたってことよね?」

「タルボットを説き伏せた方がリスクは少ないだろうな。練習してたのはまあそうだ」

「練習って、オスカーが開心術を使えるってこと?」

「去年の学期末からはそうかもな」

 

 オスカーがそう言うとガチャンと言う音が鳴って、トンクスが自分で持ってきたポットを取り落とすのが見えた。

 

「熱っつ!! は、はあ? お、オスカーが心を読めるってこと!?」

「おい、大丈夫か!? エビスキー 癒えよ。レパロ 治れ」

「トンクス? オスカー?」

 

 思いっきり太ももにお茶をぶちまけて大声をあげたトンクスをオスカーが呪文で癒している間に、ガサガサという音がして茂みが揺れた。

 

「読めるって言っても、そんなに使ったことないし、周りの人で試したこともないからな」

「いや…… いやだって、じゃあさっきまでの会話でも私の心がわ、分かったとか?」

「髪色以上のことは読んでない。ピンクならご機嫌で、赤なら怒ってるか恥ずかしいかどっちかくらいってことしか分からない」

「そんなこと言っても何の証明にもならないわ…… いや、でもこれまでみんなのを読んでてこれならオスカーは心臓が毛だらけになってるし、スネイプとかスキータもびっくりの人間だわ」

「何してるんですか? 二人で茂みで隠れてデートですか?」

 

 明らかに機嫌が悪いと分かる声が二人の後ろから響いてきた。クラーナがまるで現行犯で犯人を見つけたとばかりに仁王立ちになっていた。

 

「デートはしてないわ」

「じゃあなんなんですか? ふたりはこんな二人っきりになれる場所で、ご丁寧にお茶まで用意して、椅子は二つあるのにそんなに近づいているんですか? 顔も近いし…… それにトンクスの頭はなんでそんな真っ赤なんですか? 顔まで赤いじゃないですか」

「あーもう!! なんでいっつもこうなるのよ。誤解よ、ご、か、い」

「ごかい? 何が誤解なんですか? トンクスはその気がない振りをして、みんなをからかうのはいったい何がしたいんですか?」

「だからその気なんてないわよ。今日だって私はクラーナが思うようなことはしてないわ。クラーナとオスカーが医務室でマダム・ポンフリーに大目玉くらうようなことはしてないって言ってるのよ」

 

 オスカーはまた頭が痛くなってきた。最近、誰と二人でいてもこの状態なのだ。マダム・ポンフリーに、マクゴナガル先生、エスト、それに加えてクラーナまで怒り始める始末だった。

 

「じゃあ何をやってたんですか? 二人っきりで見えない場所でお茶をしてる。それにトンクスはブランケットまで持ってきてるじゃないですか。二人でお喋りとかもっとその…… だからそういう事をしたくて一緒にいてたんじゃないんですか?」

「だから違うって言ってるじゃない。それにオスカーとお茶を飲んだり、お菓子食べたりするのもダメなわけ? エストとクラーナ以外はオスカーと二人になったらダメってことなら、オスカーと自分に永久粘着呪文でもかけときなさいよ。それかオスカーの顔にクラーナって入れ墨をいれとけばいいのよ」

「だったら何をやって…… なんですかこれ? 万眼鏡と……」

 

 トンクスはクラーナと喧嘩するのに忙しく、オスカーはそれを隣で頭痛に襲われながら見ていたせいで、伸び耳の改造版を隠すのを忘れていたのだ。

 

「ロバート、ここあいてるね」

「そうだね、キャリーン、ここなら二人でいて誰にも邪魔されない」

「パディフィットの店みたいに可愛くないけど、ここなら他の人はいない……」

 

 ハッフルパフのシーカー、スタンプとその彼女であろう声が伸び耳から聞こえてきた。クラーナは無言で万眼鏡をつけて、さっき自分が座っていた茂みの中に隠されたテラスのような場所を見ているようだった。

 

「で? つまり、トンクスとオスカーは二人でここで温かいお茶を飲みながら、二人で愛を確かめ合って、私が話をまとめられないのを見て、それを肴に笑ってたんですか?」

「い、いろいろ違うわよ」

「何が違うんですか!! オスカー!! さっきから黙ってますけど、なんとか言ったらどうなんですか!! なんで私とウィンガーとレアの会話を盗み聞きして盗み見てたんですか!!」

「いや、俺はトンクスに誘われたっていうか連れられて……」

「誘われて!! 誘われたらオスカーはなんでもするんですか? 規則破りでも? 法律を破ることでも? それにどんな人が誘ってもホイホイついていくんですか? そんなのこんなことする理由になるんですか!?」

 

 オスカーはクラーナが言うこと言うことに関して心当たりがありすぎて、返答出来なった。エストやチャーリー、レアあたりとオスカーは法律やら学校の規則を粉々に粉砕するくらい破っていたし、周りのみんなに誘われれば大抵ついていってしまうのも確かだったのだ。

 

「ちょ、ちょっとほんとにクラーナを笑うためじゃないのよ」

「じゃあなんなんですか? どうせトンクスの事だから、エストから色々モノが出てきたし、私が他の寮生や男子と喋るのが珍しいから、使ってみるついでに盗み見ておいて、後から話のネタにしようとか思ってたんでしょう。それに二人っきりになれる理由にもなりますもんね。オスカーはなし崩しにホイホイついて来ただけでしょう」

「だから色々違うわよ。ほんとにちょっと心配だったのよ」

「私を?」

「クラーナとレアってあんまり容赦しないじゃない。タルボットも結局とげとげしてて喧嘩になってたし」

「トンクスとオスカーは私の保護者だとでも言うんですか? 怒りますよ」

「もう怒ってるじゃない」

 

 さすがに本気で殴り合いや呪文が飛び交うほどの喧嘩にはなりそうになく、オスカーは少しほっとしていたが、クラーナがかなりショックを受けていそうなのはオスカーにも分かっていた。

 

「勝手に私の事を盗み見てたんですから、二人も何か私に隠してる事を言ってくださいよ」

「なんでそんなことしないといけないのよ」

「フェアじゃないからですよ。私はそういうのが嫌いなんです」

「どの口が言うのよ……」

「そうですね、トンクス、結局その髪につけてるのは誰から貰ったんですか?」

 

 トンクスはちょっと考える顔をしたあと、観念したとばかりに首を下げた。

 

「それを答えれば私の分は終わりでいいのよね?」

「そうですね。私は優しいので許してあげます。まあ、今日のは前にトンクスがスネイプに仕掛けていた、提出物に見せかけた魔法薬を開けると髪の毛がパーマになる悪戯といい勝負ですからね」

「それ結局、トンクスが魔法薬の濃さを間違えてハッフルパフとレイブンクローが全員パーマになったやつだろ」

「今はオスカーは黙っててください」

「分かったわよ。言ってもクラーナがうるさくしないなら話すわよ」

「私はいつも静かです」

 

 それは嘘だとばかりにオスカーとトンクスは顔を見合わせた。クラーナはみんなでいると騒がしかったからだ。

 

「はいはい、オスカーから貰ったのよ」

「ほら、やっぱりそうじゃないですか!! 二人で私たちに黙ってたんじゃないですか!! やっぱり今日も二人でいたいから私の監視を口実にしたんでしょう!!」

「うるさくしないって言ったじゃないの…… こうなるから、オスカーから何か貰ったとか言えないのよ」

「そういうのを最初に言い始めたのがトンクスじゃないですか!!」

「それを私にもすることないじゃない」

 

 クラーナやエストの方がトンクスよりうるさくなっている。これはオスカーにとって恐るべき事実だった。なぜならトンクスが静かになっているわけではないからだ。

 

「オスカー!! オスカーも答えてください!!」

「何を?」

「まずオスカーは私にどれくらい隠し事がありますか?」

「それ答えたら終わりでいいのか?」

「いいわけないでしょう。私に言うと不味そうな隠し事は何個ありますか?」

 

 オスカーは考えた。クラーナに言うと不味そうな隠し事…… チャーリーの卵、多分言うとさっきまでと同じ反応をされる気がする夏休みの出来事がいくつか。内容までは言うと心配するので全部は言えていない昔のこと、それに最近の自分の変調。両手では収まらないかもしれなかった。

 

「どれくらいあるか分からない」

「え? そ、そんなにあるんですか!?」

「オスカー、あんたやっぱりクソ野郎かそれか毛だらけ心臓の持ち主なんじゃないの?」

 

 どうしてトンクスまで一緒になってオスカーを責めているのかオスカーには分からなかった。

 

「じゃあ…… 夏休みにトンクスとどこに行ったんですか? どうせヘアピンもそのとき買ったんでしょう?」

「ロンドンで映画館と観覧車に行った。ヘアピンはダイアゴン横丁で買ったからその時は買ってない」

「えいがかん? かんらんしゃ? 何するところなんですか?」

「映画館は……」

「どっちもマグルが行く場所よ。純血のお坊ちゃまを連れて行ってみたかっただけよ」

「トンクスが誘ったんですか?」

「いや…… トン……」

「そうよ。私が誘ったのよ。オスカーはもう静かにしときなさいよ」

 

 また喧嘩になりそうな気がして、オスカーはどれをどう答えればいいのか分からなかった。どれが二人の琴線に触れるのか理解できていなかったからだ。

 

「オスカーは別の要件でダイアゴン横丁に行って、ヘアピンを買ったんですか?」

「俺が……」

「オスカーが遅れて来たから、そのお詫びらしいわ。クラーナも次からはオスカーが遅れるように待ち合わせ場所までくる手段を限定すればいいのよ」

「トンクス、ごまかしてますよね? 私、やっぱり今日はムカついてます」

 

 トンクスとオスカーはまた二人で顔を見合わせて、そんなことは言わなくても分かると二人で思った。

 

「なんなんですか!! レアは勝手にぶちぎれてどっかに行くし!! ウィンガーは私がフォローしようとしてもメリットだ!! リスクだ!! その上、トンクスとオスカーは二人で私があたふたしてるのを見て笑いながら乳繰り合ってるじゃないですか!!」

「だからしてないわよ」

 

 なぜか反論していたトンクスでは無く、オスカーの方を見てクラーナは言った。

 

「オスカー、これ以上、なんか変な隠し事とかヤバイことをしてたら私だって怒りますからね」

「だからもうクラーナは怒ってるし、それにオスカーには甘いって自分で分かってるじゃない」

「うるさいですよ。とにかくそうですから。あー、もうムカついてきました。忍びの地図はありますから、ホッグズ・ヘッドか三本の箒に行きましょう」

「いかないわよ。お茶も飲んだし、大体タルボットとレアはどうするのよ?」

 

 トンクスが返すと少しクラーナは困った顔をした。オスカーは結局のところ、周りの人間にこういう顔をされると弱かった。

 

「なんとかしますよ。三つくらい考えが足りませんでした」

「三つ?」

「そうですよ。まず、ウィンガーからしたら大事な魔法なのに大層な話じゃないとか言っちゃいましたからね」

「それは別にいいじゃない。実際やることは魔法を学生の間で教え合うだけじゃない? クラーナの言ってることはおかしくなかったわよ」

「ほんとに全部聞いてたんですね…… まあでも、配慮が足りなかったってことです」

 

 クラーナは非難していますと言わんばかりに口を真一文字した上で目を細めて二人の方を見た。オスカーとトンクスはそれだけで何も言えなくなった。悪いのは二人だからだ。

 

「二つ目はレアですね。あそこまで怒ると思ってませんでした。まあレアが怒ってたことには私だってちょっとムッとしましたよ? ほんとですよオスカー?」

「俺に言われてもな」

「レアはもうタルボットが言い出す前から決めつけて怒ってたじゃない」

「というかレアはあれだろ? 自分が傷つけるのが怖くて魔法が使えなくて悩んでたのに、自分が傷つくのが怖いなんて許せないってところに怒って……」

「違うわよ」

「違いますよ」

 

 二人にまるで分っていないという顔で否定されてオスカーはちょっと傷ついた。何故ならオスカーはレアのことを他の四人よりは去年のこともあって理解できていると思っていたからだ。

 

「いや違うって……」

「あいつはタルボットがメリットとかデメリットとか言い出したところでもう怒ってたのよ」

「そうですよ。その後はそれを確かめるために質問してました。こいつはオスカーに教えたくないんだって確信して喋ってましたよ。最初にレアがムカついて喋りだしたのはそれが原因ですよ」

 

 二人は完全にそうだと確信しているようだった。オスカーは確かにそれもあるだろうと思っていたが、さっき自分で喋った理由もレアの中の感情を大きく占めているのではないかと思っていた。ただ、どうも女子二人から見るとそうは見えなかったらしかった。

 

「まあ最後は結局、ちょっと私たちはオスカーといすぎて感覚がマヒしてましたね。オスカーが悪いわけじゃないですよ? でもそう思うのも無理は無いってことです」

「あら? 一番会ったころにそういう事を言ってたのはクラーナじゃない?」

「だから言ってるんじゃないですか」

「私の叔父さん二人と叔母さんもそうだけど、クラーナは言ってこなかったわよね? やっぱりオスカーにだけ言ってたのはそういうことなんでしょ?」

「なんですか、そういうことって」

 

 クラーナの言うように外からみれば死喰い人の血族や家族とはつまりそう言うことだった。オスカーだって、ヴォルデモートの子供がいたとして仲良くできるかなど分からなかった。

 

「小さい男子と一緒じゃない。興味をひきたいから悪戯したりするのと一緒ってことよ」

「じゃあ、トンクスは全校生徒に興味があるんじゃないですか? いっつも悪戯ばっかりしてるんですから」

「特定の誰かになんかしてないわよ。ふふーん、やっぱりそういうことなのよね。私が一番最初にオスカーを見つけに行きましたって言ってたものね。結局エストの方が先だったけど」

「なんですか…… とにかく普通なら出会ったころのレアとかウィンガーの反応が普通で、エストがおかしいだけなんですよ」

「そうだろうな。俺もそう思う。あったころのレアを余計怒らしたのはクラーナだけどな」

「だから…… いまはそうじゃないでしょう? むしろレアの方があの時の私より怒ってますよ」

 

 どうすればいいのか、オスカーは考えないといけなかった。クラーナはまだ動物もどきになることをあきらめていないようだったし、レアとタルボットの関係を壊したままではいられないとオスカーは思っていたからだ。なぜならことが起こった理由は自分のせいなのだ。

 

「ほら、じゃあ三本の箒にいきましょう」

「だから行かないわよ」

「行きますよ。盗み聞きしてたんだからそれくらいしてください」

「だって、絶対クラーナは一人でダウンするじゃない。いくらちっちゃいって言ってもひみつの通路で運ぶのは大変なのよ。それにスネイプがレポートをほんとにアホみたいに出したのよ」

「何ですか小さいって、だいたいスネイプのレポートはトンクスのせいで機嫌が悪くなって学年中が巻き込まれてるんだから、自業自得じゃないですか。それにそんなに飲まないから大丈夫ですよ。オスカーもそう思いますよね?」

「絶対バタービール以外のを飲むだろ。つまりそういうことだ」

「なんですか? 私にはそんなに信用がありませんか?」

「ないわ」

「ない。それに運ぶのは毎回俺になるだろ」

 

 二人のクラーナに対するお酒に対する評価は、他の事項と比べようがないくらい低かった。ただ、二人の見解を聞いて、少し気弱になっている顔に結局二人は弱かった。

 

「わ、わかりましたよ…… 今日はもう一回寮に戻ってそれからお風呂にでも入って……」

「バタービール以外禁止な。あと俺もシニストラ先生の木星の衛星の軌道予想の宿題をまだやってないから、七時くらいまでには戻りたい。それにトンクスに流されて盗み見たり、盗み聞きしてごめん」

「え? じゃあ……」

「クラーナ、こいつあれよエストの練習が終わるまでに戻りたいから言ってるだけよ。だから七時以降も引き留めてやった方がいいわ。あと二人ともスネイプの宿題が終わってるなら見せてちょうだい。それに私も悪かったわよ。いつものノリでやっちゃったわ。あんなに深刻な話になると思ってなかったし、終わった後に笑いながらクラーナやオスカーと喋れると思ってたのよ」

 

 三人は段々とクリスマスが近づいて寒くなり始めているホグワーツから、寒くなると余計に飲みたくなるバタービールを求めて、やっと腰をあげた。




 今年も大変お世話になりました。
 来年もよろしくお願いします。

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