Fate/apocrypha La Divina Commedia 作:K-15
これはサーヴァントの物語ではない――
これはマスターの物語ではない――
そう……これは――
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フランスの首都であるパリ。既に日は沈み、月光と星々が夜空を照らす。
築五十年にもなる学生寮、一度はリフォームされて綺麗にはなっているがどこからか隙間風が入って来る。
十七歳になる少女、レティシア。水色のネグリジェに袖を通す彼女は腰まで伸びるブロンドに櫛を通し終えると床に片膝を付いて両手を握り合わせた。
静かに、ゆっくりと、彼女は唇を動かす。
「主よ……お導き下さい……」
『私には誰かを導くなどと言う事はできませんでした。それでも今はアナタの体が必要なのです。わかってくれますね?』
「はい。アナタ様の役に立てるのなら本望。どうぞ使って下さい。私の――」
隙間風が更に強くなる。空気の流れが甲高い音を鳴らし、そして部屋の扉を内側からこじ開けた。
「な、なに!? 只の風?」
『いいえ、違います。これは……悪魔』
「悪魔……」
空気に溶け込んだように透明な、それでいて禍々しい魔力を放出する相手。それは人間の心の奥底にまで忍び込み植え付ける。決して消えない恐怖を――
「うきゃキャキャキャッ! とても綺麗だ。純粋な願い……その願いを叶えてやる」
『その声を聞いてはなりません! レティシア、逃げなさい!』
「純粋で曇りのない願い……取り込ませろ……」
地底から響くように重く冷たい声。悪魔は耳元で囁くようにレティシアを誘惑し、その手を彼女に伸ばした。
普通の女学生ならこの瞬間に引き込まれていただろう。けれども彼女は普通ではなかった。心の中から聞こえる声に従い立ち上がると一目散に走る。
前のめりになりながらも部屋の扉を開けて全力で駆けた。
「あの声は何なのです!? 本当に悪魔が存在するのですか?」
『アナタの体を依り代にして私が召喚されようとしているのです。有り得ない話ではありません。それよりも……』
「あヒャヒャヒャヒャッ! 叶えさせろ……」
『決して後ろを振り返ってはなりませんよ。とにかく今は逃げるしかありません』
自室を出たレティシアは学生寮の廊下を駆け抜ける。その後ろからは現れた悪魔は壁や床をすり抜けて追い掛けて来ていた。悪魔の声には耳を傾けず、必死に逃げるしかない。
けれども悪魔はどこまでも追い掛けてその手をレティシアに伸ばす。
「まだ付いて来るのですか? 主よ、アナタの力で……」
『無理です。召喚が完全ではありません。私の力はまだ使えません』
「そんな!?」
階段を下り、学生寮の出入り口の扉へぶつかるようにしてドアノブを握る。開けると同時にまた走り出すが満足に前も見ていない状況で誰かにぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
「あぁ、心配するな。お嬢ちゃん」
「うきゃキャキャキャッ!」
悪魔の囁き声はまだ聞こえて来る。息を呑み、額に汗を滲ませる彼女は目の前の男に叫ぶ。
「ここは危険です! アナタも早く逃げて下さい!」
「言っただろ? 心配するなってな」
「何を言っているのです! すぐにでも悪魔が――」
レティシアは振り返ってしまった。彼女のサファイアの瞳に写るのは伸ばされた悪魔の右手。その指先がうら若き少女の肌に触れようかとしたその時、銃のスライドを引くガチャリと言う音が聞こえた。
「Bang」
甲高い銃声が響く。空の薬莢がアスファルトに落ち、銃口からはゆらゆらと白い煙が上がる。
次に聞こえて来るのは悪魔の囁き声ではなく叫び声。
「グギャアアアァァァッ! 貴様は……貴様はァァァッ!」
「そう言えば願いを叶えてくれるんだろ? 俺の願いも聞いてくれよ」
「忘れもせん! 忘れる筈もない! 逆賊スパーダ!」
「オイオイ、俺はそんな事聞いてねぇぜ? 俺が聞きたいのは――」
彼が言い終える前に悪魔は牙を剥く。肉を引き裂き魂を喰らう牙、悪魔は人間を殺すべく誘惑するのではなく絶対なる恐怖を向けて来た。
けれども彼はそんな事で動揺などしない。
右手に握るのは巨大な銀色の銃。そして左手で腰のホルスターから抜くのは巨大な黒い銃。ピアノの鍵盤のような色、エボニー・アンド・アイボリーを握る彼は銃口を突き付けるとトリガーを引いた。
「そうか、だったら自分でやるしかないな。ぶっ飛びな!」
激しいマズルフラッシュと銃声が連続して響き渡る。マシンガンのように発射される弾丸は悪魔の体を貫き穴だらけにしていく。
呆然とするレティシアはその光景に目を見開く事しかできない。
「ぐギャアアアぁぁぁッ!?」
「お前が俺の願いを叶えてくれたら楽に終わるんだけどな」
「逆賊スパーダ! 今までに葬られた同胞達の仇!」
「それとな、俺はオヤジじゃない。俺はその息子、ダンテだ。覚えときな」
「ガァァァッ!」
再び彼に、ダンテに牙を向ける悪魔。危機的状況を前にしてもダンテはヘラヘラと笑っている。両手に握る銃をホルスターに戻すと背中に背負う大剣に手を伸ばした。
一メートルを軽く超える巨大な銀色の剣。鍔に当たる部分には骸骨の彫刻がなされている。その大剣をダンテは片手で軽々と持ち、向かって来る悪魔に目掛けて勢い良く袈裟斬り。
鋭い切っ先が悪魔の体を斬り落とそうとした瞬間、悪魔は煙となって消えた。
「あハハハはははァァァァッ! 忘れん、決して忘れはせんぞ! 我ら同胞の恨み、必ず晴らさせて貰う! アキャキャキャキャッ!」
「チッ、逃げやがった。折角パリにまで来たのに収穫ゼロかよ」
ダンテは大剣を再び背負うとこの場を後にしようとする。その時になってレティシアはようやく落ち着いて状況を理解できた。
目の前に立つ男、ダンテ。
身長は一九〇センチはあり、全身を真っ赤な服で包んでおり更に赤いロングコートまで着ている。それだけでも特徴的なのに頭髪は銀色とこのような男は見た事がない。
レティシアは背を向ける彼に向かって声を掛けた。
「あの、待って下さい! ダンテさん、アナタは一体……」
「只のしがない便利屋だよ。それよりも子どもはもう寝る時間だぜ? さっさと部屋に戻りな」
「便利屋……ですか? でしたら一つ、仕事を引き受けてはくれませんか?」
「あん?」
第一話 少女の旅立ち
雲ひとつない青空からは朝日がさんさんと降り注ぐ。街の一角にある喫茶店の席に二人は居た。少女レティシアと便利屋ダンテ。
レティシアは白いワイシャツとネクタイ、紺色のジャケットとスカートを身に纏い、ダンテは昨夜と変わらず真っ赤な服とコートを着ている。
そんなダンテの背格好に他の客は興味の目線を向けるが彼はそんな事は一切気にしていない。そんな彼の前でレティシアはフランスパンを手で摘み、ダンテは小麦粉で練られた四角い生地を食べている。その隣には銀色の大剣を収めたギターケース。
「ピザとはちょっと違うがなかなか美味いな」
「ですからタルトフランベです。フランスでは伝統的な郷土料理なんですよ」
「わかったわかった。タルトフランベね」
「本当にわかっているのですか? それよりも昨日のお話、引き受けては貰えませんか?」
「あぁ、アレな? ダメだ」
「どうしてです!」
依頼を拒否するダンテにレティシアは前のめりになりながらも彼に訴え掛ける。だがダンテは素知らぬ顔で料理を口に運ぶ。
「気が乗らん。それに俺の仕事は週休六日だ。依頼したいならまた来週店に来な」
「店……どこなのですか?」
「アメリカのスラム街だよ。言っとくが高いからな」
「そんな!? それでは間に合わなくなる……」
落胆して俯くレティシア。彼女の表情を見て流石のダンテも少しマジメになった。それでも片手にはタルトフランベの生地を持ちながらだが。
「あのな嬢ちゃん。昨日悪魔に襲われたのは偶然だ。ルーマニアに何の用があるかは知らんが、ボディーガードを頼むなら俺じゃなくても良いだろ? そもそもそんなのが必要とも思えんが」
「それは……はい、はい。そうですね、わかりました」
「それとな、ルーマニアに行くよりもまず病院に行った方が良いと思うぞ。誰と話してる?」
「ダンテさん、アナタに全てをお話します。ですからお願いします。ルーマニアに着くまでの一週間で良いのでボディーガードの仕事を引き受けてはくれませんか?」
まだ幼さの残る少女からの真剣な眼差し。ダンテは最後の一枚を口に入れると今度こそ話を聞く体勢になった。
「じゃ、聞かせて貰おうか。何で俺に仕事を頼む?」
「先程もそうですが私には声が聞こえます。かつてのフランスの英雄、ジャンヌ・ダルクの声が」
「ふぅ……」
大きく息を吐くダンテはその席から立ち上がろうとする。
「待って下さい! せめて最後まで話を聞いて下さい!」
「で、その英雄様はお嬢ちゃんになんて言ってるんだ?」
「聖杯……万能の願望機と呼ばれる聖杯を求めて戦う儀式の事を聖杯戦争と呼びます。その聖杯戦争には七人のマスターと呼ばれる魔術師と、マスターに使えるサーヴァントと呼ばれる英霊が召喚されます。七人のマスターは最後の一人になるまで戦い、生き残った者だけが聖杯を手にする事ができる。その聖杯戦争が始まろうとしているのです」
「なるほどね。お嬢ちゃんはその魔術師って訳か」
「違います」
思わず肩透かしを食うダンテ。けれどもレティシアは構わず話を続ける。
「今の私は魔術師でも何でもありません。只の普通の人間です。ダンテさん、これから始まろうとしているのは聖杯戦争ではありません。聖杯大戦……十四人のマスターとサーヴァントが戦う今までに類のない聖杯戦争です」
「あぁ~……で、魔術師でもない嬢ちゃんが何でそんな戦争に参加するんだ? っとその前に」
立ち上がるダンテはギターケースを片手に店から出ようとする。レティシアも急いでその後に続くが、店の入り口を出ようとして店員に呼び止められる。
「ちょっとお兄さん! 会計まだだろ?」
「そうだったな。あ~、この娘が払う」
「ちょ、ちょっとダンテさん!? ご自分の分は?」
「依頼料から割り引いてやるから。頼むよ」
「本当でしょうね? わかりました……」
渋々カバンから財布を取り出すレティシアはレジの店員に二人分の料金をピッタリ支払う。レシートを受け取ると二人は店を出て街を横並びで歩き始める。
「食い終わったし歩きながら頼むぜ。取り敢えず、飛行機のチケットを買いに空港にでも向かうか」
「飛行機はダメです。私は目を付けられています。飛行機では逃げ場がありませんし、襲われれば大勢の犠牲者が出てしまいます」
「マジかよ、車で行くってか? ここからルーマニアまで何時間掛かるか知ってるか?」
「ですがそれしかありません。申し訳ないのですが……」
「ったく……で、車は?」
「はい?」
「だから車だよ。まさか……ハァァァ」
大きくため息を付くダンテ。二人が向かう先はルーマニアではなくまずはレンタカー会社だった。
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好調に動くエンジンからは甲高い音が響きマフラーから勢い良く排気ガスを放出する。コンバーチブルの赤い車を運転するダンテは気持ちの良い風を受けながら道路を一直線に走らせていた。
その隣の助手席でレティシアは不満げに財布を握り締めている。
「本当にこの車でないといけなかったのですか? もっと安い車は幾らでもありました」
「エコカーなんてクソ喰らえだ。エンジンから伝わる振動と風を感じてこそ車の価値がある。男にしかわからない美学ってもんだ」
「美学はわかりました。ですがその分の料金は本当に割り引いてくれるのでしょうね? そもそも依頼料は幾らなのですか?」
「まぁそんな話はどうでも良いじゃねえか。それよりもあの時の話の続きを聞かせてくれ。聖杯大戦のな」
「もぅ、わかりました。お父さんからの今月の仕送りが……」
ボソリと言った一言はダンテの耳にも届いていたが、彼は何も言わずにハンドルを握ったまま。
「これから始まる聖杯大戦に召喚されるサーヴァントは十四体ともう一人、ルーラーと呼ばれるサーヴァントが居ます。それが私の心の中に聞こえる声、ジャンヌ・ダルク。彼女の説明ではルーラーの役割は聖杯大戦を管理するサーヴァントだそうです」
「だったらさっさと召喚しちまえば良いじゃねぇか。そのジャンヌ・ダルクを」
「そのつもりだったのですが、先日の悪魔の襲撃のせいで失敗してしまいました。彼女が言うには、再び召喚の儀式を整えるのに一週間は必要だと」
「だったら一週間大人しく家で待ってろよ。急いでルーマニアまで行く意味があるのか?」
「既にサーヴァントは十四体召喚されています。聖杯大戦はいつ始まってもおかしくありません。彼女はルーラーとしての役割を真っ当する為にもせめて現地の状況を把握したいと。この大戦は二つの陣営に分かれています。赤の陣営と黒の陣営。その赤の陣営のマスターはルーラーを狙っています」
「管理するだけなんだろ?」
「その筈ですが……ですが彼女の話では召喚されているサーヴァントの一体がこちらに向かっていると。今の私は本当に普通の人間です。もしもサーヴァントと対峙してしまえば絶対に勝てません……」
「なるほどね。一週間の間、ルーマニアに向かいつつ召喚された英霊様からお嬢ちゃんを守れって訳か」
「悪魔と戦えるだけの力を持ったアナタです。サーヴァントに勝つことは無理でも私を守ることはできるのではと考えた次第です。ルーマニアにさえ到達すれば両陣営が構えています。私だけを狙ってサーヴァントを動かすのも難しくなります」
クラッチを踏み込みシフトレバーを操作するとダンテはアクセルペダルをベタ踏みする。エンジンからは轟音が響き加速する車体にダンテとレティシアの背中がシートにへばり付く。
「ちょっとダンテさん!? スピードを出し過ぎです! スピード違反ですよ!」
「そう言う事は早く言えよな。ルーマニアに着いたらあとは観光に洒落込もうぜ!」
「遊びではないのですよ? ダンテさん!? ダンテさん!」
吹き付ける風にブロンドをなびかせながらレシティアはシートベルトを握り締める。ダンテのノンストップの全力運転のお陰でルーマニアまで通常よりも早くに到着する予定だ。
けれどもその最中、待ち構える存在がいる。赤の陣営のサーヴァント。
黒のライダーの次回予告~!
え、ライダーって何って? またまた、みんな知ってるくせに。でも本当に知らない人も大丈夫! もう少ししたらまた解説が入るからね!
それよりもみんな元気してたぁ? 僕の名前はアス――っと、これもまだ言えないんだった。でも次回の話でちゃんと――
え、次の話では出ない?
え!? 登場は暫らくさきぃぃぃ!? グスン、それはないよマスター……
みんな、僕が登場するまではちゃんと見続けてよね!
それでは次回、アニメはちゃんと一週間ごとに放送してくれるけれどこれはいつ更新されるかわかりません、の巻!
……僕の登場はいつなのさ!