Fate/apocrypha La Divina Commedia   作:K-15

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 お知らせです。
 第九話ですが、感想にてご指摘されましたように設定に矛盾がありましたので修正させていただきました。故に投稿当初とストーリーが変わっております。
 申し訳ありません。
 あと更新が遅れた事も続けて謝罪します。


第十話 バンパイアハンター・ダンテ

 オルレアンの乙女と呼ばれた英霊ジャンヌ・ダルクは掲げる旗の先端をダーニックへ突き付ける。彼女の瞳に睨まれるダーニックは思わず額に汗が滲む。

 

「馬鹿な!? このタイミングで召喚するなどと!?」

 

「その事を貴方に説明する必要はありません。それよりも重要なのはレティシアを手に掛けようとした事。聖杯大戦のルールを逸脱した行為。到底見逃せる物ではありません」

 

「くッ!? 殺すか?」

 

「いいえ、ですが貴方が聖杯を手にする事はもうありません。令呪を剥奪します」

 

「フフッ……ッアハハハ! 令呪を剥奪? そんな事はさせんよ。聞こえているだろ使い魔! 貴様の宝具を発動させる!」

 

 ルーラーであるジャンヌ・ダルクを前にしてダーニックは叫ぶ。その姿勢はどこか狂気じみている。そして彼の言葉を聞いたランサーの目の色が変わった。ダンテとセイバーを前にしながら、ランサーは視線だけで相手を殺す勢いでマスターであるダーニックに振り返る。

 

「貴様、今何と言った! 宝具を使うだと?」

 

「もはやなりふり構っている余裕などない! 私は何としても大聖杯をこの手にし、ユグドミレニアを勝利に導かねばならん! 使い魔の心情など知った事か! 第一の令呪を持って命ずる!」

 

「貴様ァァァッ!」

 

 ランサーは激しい怒りの形相に変わると槍を片手に自らのマスターの元へと飛んだ。鋭い目線はもはやダンテもセイバーも、ジャンヌ・ダルクも写っていない。彼は自分の手でマスターを殺してでも宝具を発動させるのを止めるべく、ダーニックに詰め寄る。

 が、時は既に遅かった。

 それはジャンヌが止める暇もなく、劇的に訪れる。

 

「待ちなさい!」

 

「英霊ヴラド・ツェペシュ! 宝具レジェンド・オブ・ドラキュリアを発動せよ!」

 

「ダァァァニックゥゥゥッ!」

 

 切っ先は腹部を捕え皮と肉を突き破る。白い制服は血に染まり、勢いのままに体は壁に叩き付けられ砕けた壁が砂埃を上げた。

 ランサーの一撃で瀕死の重症を負うダーニックだが、血反吐を流しながらも口元は笑っている。

 

「フハハハハッ! 大聖杯は……誰にも渡さん。令呪は残り二画……」

 

「ぐぅッ!? 発動するのか、宝具が!? ダーニック、余はあの宝具は使わん! あのような無様な醜態を晒すくらいならこの場で自害してくれる!」

 

 ダーニックの令呪は発動しており、ランサーの宝具も本人の意思を無視して発動せんとする。苦しみながらも槍を抜くランサーが次に狙うのは自らの首だ。切っ先を天に向け、首に突き立てる。

 

「第二の令呪……大聖杯を手に入れるまでお前は生き続けろ!」

 

 ダーニックが叫ぶと右手の令呪が眩く光り発動した。ランサーが握る槍の切っ先は寸前の所で自らの首を斬り落とせない。どれだけランサーが力を込めても槍は一ミリたりとも動く事はなかった。

 

「ぐぅぅぅッ!? もはや死ぬ事すら……がァァッ! 違う、違う! 余は吸血鬼などではない。ワラキアの王でありヴラド二世の……」

 

「最後の令呪だ! 吸血鬼ドラキュラ!」

 

「ガァァァッ!」

 

 ランサーの体が变化していく。骨格から変わり、鋭く伸びる八重歯に大きく開く眼は赤く染まる。背中の皮膚が裂け、体内から黒い翼が生えた。腐食したように白くなる全身の肌。その姿はまさに吸血鬼ドラキュラと呼ぶに相応しい。

 それでも、体が変化しようとランサーの自我はある。三画目の令呪を使おうとするダーニックを見るドラキュラは、彼が口を開けるよりも早く首に牙を突き立てた。

 

「グゥゥゥ!」

 

「それで良い……我が血を体内に取り込め……そして……我が存在をその魂に刻み付けろ!」

 

 最後の令呪が光り輝く。ダーニックの血を吸い取るドラキュラは両手で頭を抱えるとその場で悶え苦しみだす。

 

「がぁぁぁゔゥゥゥッ!? どうなっている? 余が消える!? 流れ込んで来る!?」

 

「アッハハハハッ! 令呪など奪われる前に使えば良いだけの事。そして我が肉体ももはや必要失くなった!」

 

「ダーニック! 止めろ! 宝具を使うだけでは飽き足らず、余の尊厳さえも踏みにじるか!」

 

「私は大聖杯さえ手に入れられればそれで良い! 言った筈だ、貴様のような使い魔の心情などどうでも良いとな!」

 

 ダーニックが発動させた最後の令呪により、ランサーと彼の精神とが融合しつつあった。自我を保たんと抵抗するランサーだが、その身は魔力により召喚された存在。

 どう足掻こうとも令呪の命令に逆らう事はできない。

 苦しみ、暴れまわるランサーをジャンヌは見ている事しかできなかった。

 

「あれがランサーの宝具……レジェンド・オブ・ドラキュリア……」

 

「少し見ない間に服のセンスが変わったみたいだな」

 

「ダンテ……」

 

 振り返った先には赤いロングコートを身に纏うダンテと赤のセイバーの姿。

 

「それよりもアイツは何だ? 普通じゃねぇのは確かみたいだが」

 

「ランサーの体はマスターであるダーニック・プレストーン・ユグドミレニアの精神に乗っ取られようとしています。もはや私の力でも助ける事はできません」

 

「そうか。だったら……」

 

 ダンテはアイボリーを構えると躊躇なくトリガーを引いた。爆音と共に一発の銃弾が発射され、一直線に突き進むと苦しむランサーの額を撃ち抜く。穴の開いた頭部からはドス黒い血が流れ出すが、彼の体が倒れる様子はない。

 

「ダメだな。やり合うしかない」

 

「ダンテ、貴方は逃げて下さい。レティシアが依頼したのはあくまで私が召喚されるまでのガードの仕事。貴方はこの聖杯大戦の関係者でもありません。ここからは私一人で――」

 

「そう言うなよ。折角のパーティーを一人で楽しむ気か?」

 

「冗談を言っている場合ではありません! 今のランサーは非常に危険です。貴方はそれがわかっていません」

 

「わかってるさ。だから俺がやる。お嬢ちゃんは城の中に居る奴らを非難させとけ。手加減できるかわからねぇからな。それと外の車を傷付けさせるな。借金が増えちまう」

 

「本気なのですか!? あのランサーの姿、戦闘能力も飛躍的に上昇しています。普通のサーヴァントでも一対一で勝てるかどうか……」

 

「向こうがパワーアップしたならこっちだってパワーアップするまでだ」

 

「パワーアップ?」

 

「そら、さっさと行きな。車は頼んだぜ」

 

 言われてジャンヌはこの場をダンテに任せ振り返ると傍に居るセイバーにも呼び掛けた。

 

「でしたら赤のセイバー。貴方もここから一度引いて下さい」

 

「アホ抜かせ。誰が引くだって?」

 

「ランサーの宝具、レジェンド・オブ・ドラキュリアは戦闘能力を向上させるだけではありません。今の彼は吸血鬼その物。彼の牙に噛まれた人間も同様に吸血鬼になってしまう。だから私は城内の人を避難させます」

 

「あんなのが何体にも増えるのかよ?」

 

「彼は何としても止めなくてはなりませんが、吸血鬼が増えれば私達でも手に負えないかもしれません。ですから最優先で中の人間を遠ざけます。貴方とそのマスターの目論見も検討が付いています。騒ぎに乗じて聖杯を奪う考えなのでしょう」

 

「ケッ、何でもお見通しか」

 

「ですが今はその考えを捨てて下さい。貴方はマスターと合流し共に中の人間を」

 

「……わかったよ」

 

 頷くジャンヌと共にセイバーは背を向け走り出す。敵を前にして逃げ出すなど騎士として恥ずべき行為だが、サーヴァントとしてルーラーの指示に従わなくてはならない。

 無視する事もできたが、彼女の言うように吸血鬼が増えれば聖杯戦争と無関係な人間まで巻き込まれてしまう。

 それだけは何としても避けねばならない。騎士の誇りもそうだが、いずれは王にならんとするセイバーはそちらを選んだ。

 

「でもよルーラー? アイツ一人に任せて大丈夫なんだろうな? 言ってたがランサーの強さはさっきまでとは比較にならねぇぞ。それにダンテはサーヴァントじゃない」

 

「私はレティシアを通して彼の事を見てきました」

 

「あん?」

 

「もしもあのおとぎ話が本当なのだとしたら……魔剣士スパーダが本当に居たのだとしたら……彼は……」

 

 そして残るのは吸血鬼と化したランサーとダンテのみ。背負うリベリオンを手に取るダンテは、あれだけ忠告されたにも関わらず危機感どころか緊張感すら感じさせない。

 

「俺の本業はバンパイアじゃなくてデビルハンターなんだがな。まぁそんなのはどうでも良い。楽しいパーティーの続きといこうぜ」

 

 

 

 

 第十話 バンパイアハンター・ダンテ

 

 

 

 リベリオンを構えてダンテは走る。そして以前として動きの止まったままのランサーにも変化が。撃ち抜かれた額から血が止まり、内部の弾丸が吐き出される。傷口は瞬く間に回復し、復活した吸血鬼ドラキュラが動き出す。

 

「やったぞ! これで我が精神はサーヴァントと共に生き続ける! 人間、ダンテと言ったな? 雑魚は消え失せろ!」

 

「そうかい!」

 

 振り下ろされるリベリオンの刃。ランサーも握る槍を振るい火花が飛ぶ。更に剣を振るうダンテは立て続けに攻める。

 袈裟斬り、斬り上げてまた袈裟斬り。ランサーも向けられる攻撃を槍で防ごうとするが、その動きはどこかぎこちない。

 精神が融合したランサーであるヴラド・ツェペシュとダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが葛藤している為、肉体が命令の伝達に追い付かない。

 けれどもそんなのは一時の物。バンパイアとしての本能が、血を求め、食料である人間を殺さんと牙を剥く。

 

「カァァァッ!」

 

「派手に行こうぜ!」

 

 エボニー・アンド・アイボリーを取り出し至近距離から弾丸の雨を浴びせる。目を覆いたくなるマズルフラッシュと共に無数の弾丸がランサーに肉体を貫く。

 しかしどれだけ撃ち込まれてもダメージを受けている様子はない。

 更にダンテはリベリオンで袈裟斬りし、胴体に巨大な傷を入れる。

 

「なるほど。パワーアップは伊達じゃねぇってか」

 

「ガァァァッ!」

 

 開いた手で握り拳を作り力任せに殴り付ける。人間を超えた、吸血鬼のサーヴァントが繰り出す攻撃はそれだけでも強力だ。空気が唸り、強靭な骨と筋肉により放たれる拳をダンテはリベリオンの腹で何とか受けるが、あまりの衝撃に体は後方に流されてしまう。

 見るとランサーが受けた傷は数秒と経たず回復していた。

 宝具レジェンド・オブ・ドラキュリアの能力が彼の身体能力を飛躍的に上昇させている。だが歴戦のデビルハンターであるダンテはこの程度では驚きもしない。

 

「ちょっとばかし頑丈になったみたいだな」

 

「舐めた口を! もはや私は誰にも止められん! 大聖杯を手にするまではな! 貴様を殺すなど虫を潰すに等しい!」

 

「やってみな」

 

「ガァァァッ!」

 

 大きく口を開き雄叫びを上げるランサーは床を抉る程のパワーで蹴るとダンテに迫る。握る槍で鋭い突きを繰り出すも、横に飛ぶダンテは回避すると同時にトリガーを引く。

 向けられる銃口にランサーは左腕で銃弾を受け止めると、無数の弾丸がポトポトと地面に落ちる。銃での攻撃は効果がないに等しい。けれどもダンテの口元はまだ笑っている。

 

「ほら、どうした? もっと来いよ?」

 

「グルぅぅぅ! 何度やっても同じだ。たかが人間が私に勝てる道理などない!」

 

 叫ぶランサー、そして背中の翼を大きく広げ羽ばたかせると、今度は上から攻める。

 

「死ねぇぇぇぇいッ!」

 

「そうこなくっちゃな! デヤァッ!」

 

 次は天井を蹴り落下して来るランサー。向けられる矛先にダンテは真正面から挑み、リベリオンで力の限り薙ぎ払う。

 鋼同士がぶつかり合い超音波のような音が響き渡る。揺れる空気、衝撃波。

 ランサーは回復した左手を伸ばすと鋭い爪で肉を引き裂かんとする。振り下ろされる爪は空気さえも斬り裂くが、エボニーを構えるダンテは正確に狙いを定めてトリガーを引く。

 銃弾は五発、指の関節部に撃ち込まれるも皮にはかすり傷も付かない。それでも軌道を反らすくらいはできた。

 引き裂かれる空間は衝撃波を生み、避けるダンテの背後にある壁を鉤爪状にえぐる。

 ちらりと振り返りその威力を目にするダンテは尚も挑発を止めない。

 

「どうした? バンパイアってのはこんなもんなのか?」

 

「何をしている吸血鬼ドラキュラ! さっさとあの男を殺せ!」

 

「グギャあああァァァッ!」

 

 雄叫びと共にランサーの姿は霧となって消えた。

 

「あん?」

 

「殺す!」

 

 再び現れた先はダンテの背後。その首筋に八重歯を突き立てるが、咥え込むのはリベリオンの刃だ。

 

「っと!? へへ、そうでないと張り合いがねぇ」

 

「たかが人間が、私の邪魔をするなッ!」

 

「ハァッ!」

 

 押し返すダンテ。ランサーは再び霧となって消え不意を突き殺さんとするが、攻撃するには必ず実体化する必要がある。その一瞬さえわかればダンテには充分だ。

 横からでも背中からでも真上からでも、ダンテに不意打ちは通用せずリベリオンで往なされる。

 

「どうなっている? コイツは――」

 

「デアァッ!」

 

 振り下ろされる刃がランサーの右腕を切断した。

 吹き出る血、ぼとりと落ちる腕。だが流れ落ちる血はまるで糸のように動くと落ちた腕を絡め取り切断面にまで運んで来る。切断面同士が密着し、傷は瞬く間に回復。しかし握っていた槍が手から離れてしまい唯一の武器が失くなってしまう。

 だが今の彼は吸血鬼。己の肉体だけで戦ってもサーヴァントを倒せるだけの充分な力がある。

 

「ガァァァッ! 誰にも私の野望を阻む事はできん! ましてや人間などにィィィ!」

 

「あぁ、そうだな。爪の手入れでもしてやろうか?」

 

「今度こそ死ねぇぇぇい!」

 

 両手の爪を駆使して原始的に引っ掻き回す。けれどもたったそれだけの攻撃で触れてもない壁や床を引き裂いていく。振り下ろされる爪の軌道上にある物は全て。

 そんな規格外の相手を前にダンテは一歩たりとも引かない。相手を見据えて剣を振るう。

 

「ハァッ! ハッハァ! もっと来いよ。それとももう終わりか?」

 

「キシャァァァッ!」

 

 爪と刃が交わり火花が散る。リベリオンでチャンバラを幾度も繰り広げ、迫る引っ掻き攻撃を何度でも防いで見せる。袈裟斬り、振り払うとまた袈裟斬り、逆袈裟斬り。

 飛び散る火花は激しさを増し、ダンテとランサーの攻撃は目に見えない程に早い。ぶつかり合う爪と刃。

 

「くびり殺してくれる!」

 

 業を煮やすランサーは首元へ左手を伸ばす。しかしダンテが見逃す筈はなく、鋭い切っ先が皮膚を突き破り骨を断つ。だが彼の動きは止まらない。リベリオンに左腕を貫かれながらも更に前へと伸ばし柄を握り締め、残る右手でコートの襟を掴むと吸血鬼の口元がニヤリと歪む。

 

「捕まえたぞ。もう逃さん!」

 

 力任せに掴み上げるとコートごとダンテの体を後ろの壁にぶん投げた。コートをなびかせながら飛んで行くダンテは数秒後には壁にぶつかり土煙の中に隠れてしまう。

 その土煙に向かってランサーは伸ばした爪の引っ掻き攻撃を無数に繰り出す。

 

「ガアアアァァァ! 粉微塵になるが良い!」

 

 ランサーの言葉通り、その周辺はガレキへ変わっていく。床が削れ壁が失くなり、砕けた小石が無数に飛び交い煙が視界を遮る。

 普通ならこれだけで肉が細切れになってしまう。だが攻撃はこれでは終わらない。

 ランサーは鋭い瞳を光らせるとその体を变化させた。化物である吸血鬼から、その体は規格外に大きい大蛇へと变化する。大きく開かれる口は通路ごと飲み込まんとする程に大きく、全身を動かし煙の中に飛び込むと肉の一片さえもこの世に残さんと全てを飲み込んだ。

 それでも残るのは巨大な体が飛び込んだ事による振動の余波とガレキの屑だけ。

 

「グゥゥゥ……大聖杯は誰にも渡さん。後はセイバーとルーラーか。フフフッ、だが吸血鬼となったランサーの能力を使えばトゥリファス中の人間を吸血鬼にする事もできる。混沌の中であの二人だどれだけできるか……そうすれば残る赤の陣営を攻め落とすなど容易な――」

 

 言葉が詰まる。声が出ない。

 大蛇は動きを止め、静寂とする空間の中でどんよりとした空気だけがゆっくり流れる。膨大なオドの流れが渦巻き一点に流れ込む。それは大蛇の腹の中。

 

「ぐ……ガガ……」

 

 渦巻く膨大なオドの流れは凝縮し、そして爆発した。まるで落雷が起きたように。

 寸前の所で霧となりオドの爆発から逃れるランサーは実体化して前を見据えた。そして目にする、自らの眼前にいる存在を。

 

「何だ? まだ生きているのか……」

 

「あぁ、ピンピンしてるぜ」

 

 吸血鬼の瞳に映るのは人間ではない。男の手には同様に鋭い爪が伸び、皮膚は真っ赤なコートと同化し爬虫類の鱗のよう。強靭な肉体は変わらず、銀色の髪の毛は逆立ち恐ろしい牙を向く。向けられる目線はもはや人間の物ではなく、鋭い眼光を受けただけで震えが止まらない。

 

「お前は……お前は!?」

 

「どうした? そんなに驚く事があったか?」

 

「人間ではないのか……」

 

「お互い様だろ?」

 

 目の前の男は人間ではない。闇の世界に生きる存在、悪魔だ――

 

「キシャァァァッ!」

 

「トロいぜ!」

 

 吸血鬼は右腕を振り上げるが、それよりも早く悪魔の刃が振るわれた。振り下ろされるリベリオンから衝撃波と共に赤黒い魔力を飛ばす。

 爪を振るう暇もなく、吸血鬼は体を胴体から真っ二つにされる。

 

「ぐがぁぁぁァァァッ!? コイツは……コイツは……」

 

「さぁ、こっからが本番だぜバンパイア。杭はないが、その心臓にたっぷりぶち込んでやる」

 

 軽快な口調はそのままに、悪魔は大剣を担ぎながら歩を進める。

 斬られた体を元に復元する吸血鬼だが、その心情はさっきまでとは全く違う。その事にダーニックは感づく。

 

「こいつ……震えているのか?」

 

 人を超越する存在である吸血鬼。食物連鎖のピラミッドの頂点に位置すると言っても良い。だが悪魔は違う。彼らはピラミッドの外側の住人。

 その事を吸血鬼は骨の髄まで、遺伝子の一片にまで刻まれている。故にヴラドの本能が叫ぶ。

 吸血鬼では彼に絶対に勝てない

 

「行くぜ、メインディッシュの時間だ!」

 

「逃げなくては……」

 

 翼を広げる吸血鬼は空を飛び悪魔から逃げようとするが、ダンテはエボニー・アンド・アイボリーを素早く構える。

 足が地面から離れ飛び立つも、銃口から放たれる激しいマズルフラッシュと弾丸が威力を増して翼の片方を撃ち抜く。今までは銃での攻撃などダメージにならなかったが、激しい銃撃は魔力を帯びており一発一発がランサーへ確実にダメージを与える。

 ズタボロになる翼は根本から折れ、体も床へ落ちていく。

 

「ぐぅッ!? せめて……せめてあそこまで!」

 

「オイオイ、さっきまでの勢いはどうした? そう言えば……虫を潰すに等しいとか言ってたな?」

 

「行かなくては……」

 

 もはや吸血鬼に戦意などない。生き残る為、目の前から逃げる為だけに必死になって足を動かす。

 だが瞬間移動したかのように悪魔は突然目の前に現れた。

 

「無視するなよ。流石の俺も悲しいぜ」

 

「邪魔をするなァァァッ!」

 

 八重歯をむき出しにして両手の爪で攻撃を試みるが、相手の肉を引き裂くよりも早くダンテの蹴りが吸血鬼を襲う。無数の蹴りが腹部に叩き込まれ肉と骨が悲鳴を上げる。

 数え切れない連撃を食らわせフィニッシュは顎を蹴り上げた。体が浮き上がり、背中が天井へ激突するとそのまま地面へと引っ張られる。

 

「グゥゥゥ!? 行かなくては……」

 

「どこに行くつもりだ? 悪いが追いかけっこはナシだ」

 

 這いつくばってでも前に進むランサー。そんな彼の背中に容赦なくリベリオンの切っ先を突き立てる。だが今度はダメージが通らない。

 霧となるランサーは攻撃を避けると振り返りもせず一目散にこの場から立ち去る。

 

「はぁ……結局こうなっちまうか」

 

 リベリオンを肩に担ぐダンテもランサーが向かう先に向かって走る。彼が向かう先は大聖杯が保管された場所。




 一人、また一人とサーヴァントが消えて行く。
 そんな中、大聖杯を元へ城内を彷徨う吸血鬼。
 血反吐を吐き、悲鳴を上げながらも向かった先に居たのは過去の見たあの男。
 ユグドミレニア城に響き渡る悲鳴、マスタぁぁぁ!
 次回、アストルフォ少年の事件簿! ユグドミレニア城伝説殺人事件・ファイルスリー!
 犯人は! この中に居るぅぅぅ!
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