Fate/apocrypha La Divina Commedia   作:K-15

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第九話 我が名はジャンヌ・ダルク

 笑みを浮かべて歩を進めるシロウ・コトミネ。アーチャーとランサーの前に立つ。しかし、彼が口を開けるよりも早くアサシンが事を告げる。

 

「全く検討が付かぬ事もあるまい。今は同盟を結んでいるがそんな者は束の間の契約。黒の陣営を亡き者にすれば、残った者同士で出し抜き合いをするだけ。この戦いが終わった後の事を考えていなかったとでも?」

 

「確かにそうだな。だが、汝の事しか考えぬと言う点では貴様も同類の筈だ」

 

「そうかもな。しかし状況は劇的に変化している。貴様らのマスターはもうこの世に居ない」

 

「惰弱なマスターなどに未練はない。アサシン、私を見くびるなよ? 魔力供給が絶たれようとも、貴様を倒す事など容易にできる!」

 

「試してみるか?」

 

 煽るアサシンに殺気を漲らせるアーチャーは弓を手に取る。一触即発の事態にも関わらず、マスターのシロウ・コトミネは以前として冷静だ。

 

「アサシン、彼女とこの場で戦うのは時期尚早です。今の僕達では本気を出したアーチャーとランサーには勝てません」

 

「チッ……わかっている。ちょっとした戯れよ」

 

「アーチャーもランサーも、私の元を離れるにしても話くらいは聞いて頂けませんか?」

 

 静かに頷き弓を戻すアーチャー。ランサーも同様に攻撃の姿勢は取っていない。

 

「私は大聖杯を必ず手に入れます。ですが御二方の願いも叶えます」

 

「……どう言う事だ?」

 

「それを説明する為にもアナタの願いを聞かせては頂けませんか? アタランテ……」

 

 ギリシャ神話に登場する女神アルテミスの加護を授かって生まれた純潔の狩人。それがアタランテ。

 

「私の願いはこの世の全ての子供らが愛される世界だ」

 

「なるほど……聖杯はアナタの願いを叶えてくれるでしょう。そしてその願いは私が思う願いと沿うものだ。ランサー、アナタが聖杯に思う願いとは何ですか?」

 

「俺が聖杯戦争で戦うのは俺を召喚したマスターの為だ。そのマスターが居なくなったのであれば、シロウ・コトミネ……俺は貴様を殺す。それがマスターへ送る最後の手向けだ」

 

「そうですか……」

 

 大槍を構えるランサーとそれでも尚、冷静な態度を崩さないシロウ・コトミネ。彼には隠された事実がある。

 

「ならばランサー、私と再契約をしてはみませんか?」

 

「再契約だと?」

 

「悪い条件ではないと思いますよ。アナタは私の為に戦う。それは前マスターの意向にも反していない筈です。それに私はアナタのマスターとは決定的に違う事があります」

 

「何だ、それは?」

 

「フフフッ、お教えしましょう――」

 

///

 

 赤いオープンカーが止まる先は巨大な城門がそびえ立つ。だが黒の陣営の防御は薄く人の気配も感じられない為、ダンテは観光地に来た気分だ。

 

「着いたぜ。敵の拠点だ」

 

「黒のサーヴァントも残り二体だ。ライダーとランサー……どんな相手かは知らねぇが戦闘力を考えるとランサーの方が厄介だ」

 

「ライダーなら知ってる。確か名前はアストルフォって言ってたな」

 

「アストルフォ? 能力は? 武器は何を使っていた?」

 

「俺に聞くより自分で確かめた方が早いぜ。アイツだ」

 

 城門前に仁王立ちする一体のサーヴァント。ローズピンクの髪の毛を三つ編みにした小柄な体格、右手に握るのは巨大な馬上槍。

 

「やっほ~、久しぶりだねダンテ。そっちは赤のセイバー?」

 

「あぁ、それよりも良いのか? 黒の陣営のアサシンとキャスターは俺達がぶっ倒した。そっちのサーヴァントは残り少ないんじゃないか?」

 

「アハハ、そうなんだよね。残ってるのはボクとランサーだけ。つまりボクが二番目に偉いって訳!」

 

 危機的状況でもアストルフォは以前出会った時のまま明るく気さくだ。車のシートから降りるダンテとセイバー。彼女は握る白銀の大剣の切っ先を相手に向け口角を上げる。

 

「へぇ、二番目か……つまりぶっ倒されても文句は言えねぇよな?」

 

「ボク戦うのはそんなに好きじゃないんだよねぇ」

 

「だったら死ねッ!」

 

 飛び出すセイバーは両手に握る白銀の大剣を振り下ろす。が、寸前の所に馬上槍に止められる。鋼と鋼がギリギリとぶつかり合い甲高い音を鳴らす。

 

「うわっとぉ!? 流石にこれは不味いかも?」

 

「どうした? テメェの力はこんなもんか!」

 

「生憎とこんなもんでね。こう言う時は!」

 

 アストルフォはセイバーを押し返すと巨大な馬上槍を前方に構える。すると槍全体が黄金に輝き始めた。

 白銀の大剣で防御の構えるを取り攻撃に備えるセイバー。

 

「宝具か!? 面白れぇ……来い!」

 

 眩い光は時間と共に大きくなり、どんな強力な攻撃が放たれるのか。光は更に強くなり思わず目を塞がなければ前が見えない程に。

 

「コイツは!?」

 

 身構えるセイバー。けれども見た目の派手さとは裏腹に魔力の流動は全く変わっていない。

 

「逃げるっちゃ!」

 

 結局、何も起こらないまま強力な光が収まるとアストルフォは背を向けて全力で走り出した。見掛け倒し、否、目眩ましでしかない行動にコケにされたと感じるセイバーは、額に青筋を立てその背中を追い掛ける。

 

「待ちやがれ! 背を向けて逃げるなどと、それでも英霊か!」

 

「それでも英霊だよぉ~!」

 

「だったら俺と戦え!」

 

「や~だよ!」

 

 追いかけっこを始める二人は城内へと入って行く。ダンテはその二人を止めるでもなく、助けた少年を後部座席に置いたまま歩を進めた。

 

「あっちはデンジャラスガールに任せるか。俺はお嬢ちゃんを返して貰う」

 

 リベリオンを背負い真っ直ぐ通路を進んで行く。行く先はわかっている。アストルフォの物でもセイバーの物でもない魔力の流れ。黒のランサーしか考えられない。

 床一面に敷かれた真っ赤な絨毯。壁にはロウソクに火の付いた灯具が幾つか掛けられており進む先を照らしてくれる。

 壁や天井、扉の一つまで装飾された城内はきらびやかと言う他ない。しかしダンテはそんな物に一切興味はないし目移りすらしなかった。求める物は唯一つ、そしてそれはこの先にある。

 そびえ立つように巨大な観音開きの扉の前に立つダンテ。

 

「英雄様はここか……」

 

 ドアノブを握ろうともせず足で豪快に蹴飛ばす。開けた先は空間が広がっている。ロウソクの火で明かりが灯され、天井には巨大なシャンデリア。歩を進めるダンテの前に居るのは三人。

 白い制服を纏う長髪の青年、その隣には全身黒ずくめで右手には槍を持つ金髪の男。そして足元には横たわるレティシアの姿が。

 

「王子様なんて柄じゃないが助けに来たぜお嬢ちゃん。お前がランサーとマスターだな?」

 

 ダンテの問いに答えるはマスターである白い制服を纏う男。彼は横たわる彼女を抱き起こし両腕で抱えながら、ゆっくり、ゆっくりとダンテの元へ進んで行く。

 

「如何にも。私こそがユグドミレニア一族の当主であり、黒の陣営を束ねるマスターでもあるダーニック・プレストーン・ユグドミレニアだ。ダンテ、君の事はこちらでも観させて貰った。只の人間とは思えぬ卓越した身体能力。サーヴァントと戦えるだけの戦闘力」

 

「褒めてくれるのは嬉しいけどよ、俺が欲しいのはそんなんじゃねぇ。わかってるだろ?」

 

「今と言う状況では君の存在は脅威になるかもしれん。故にここで死んで貰う」

 

「へぇ、やれるもんならやってみな」

 

 リベリオンを手に取るダンテ。そして対峙するは黒のランサー。彼も右手に槍を持ち前に出ると正面に立つダンテと視線が交わる。口元に蓄える髪の毛と同じ色をした髭、深い彫りとシワ、開く口から聞こえる声は低く、気品と迫力が伝わって来た。

 

「たかが人間が余の許可なくこの地に足を踏み入れるなど万死に値する」

 

「オイオイ、良く見たらジジイじゃねぇか。手に持ってるのは杖か?」

 

「蛮族と口は聞かぬ。死ね……」

 

 空いた手を前方に掲げる。ランサーの禍々しき魔力が開放され、突如として地面から巨大な杭が無数に突き出した。杭はダンテに向かって走る。

 

「狂ったパーティーの始まりだ!」

 

 ホルスターからエボニー・アンド・アイボリーを取り出すと向かって来る杭に照準を合わせてトリガーを引く。

 マズルフラッシュと共に大口径の弾丸がマシンガンのように発射され、向かって来る杭を瞬く間に破壊する。けれどもランサーの攻撃はこの程度では終わらない。

 

「確かに……貴様は普通の人間とは違うようだ。だが余と対等に渡り合えるだけの力などない!」

 

「そいつはどうかな?」

 

 ダンテのすぐ足元からも無数に杭が突き出した。けれどもダンテの反応も早い。ジャンプすると杭が体に刺さるよりも早く上に飛びトリガーを引く。

 弾丸が杭を砕くが次は破壊しただけでは終わらなかった。折れた杭から、破壊された杭の破片から新しい杭が生える。視界を覆い尽くす程の杭がダンテに迫り、同じだけの弾丸を撃ち込む。

 

「ハッハァ! やるなジジイ!」

 

 だが全てを破壊はできない。背後からも迫る鋭い杭。ダンテはちらりと背後を見ると両脇でこれを挟み、ランサー目掛けて空中を飛んで行く。両腕をクロスさせトリガーを引きながら、回転して進むダンテ。

 だがランサーは向かって来る弾丸を槍で振り払う。その一振りで全ての弾丸が明後日の方向へと飛ぶ。しかしダンテの動きは止まらない。

 ランサーの頭上まで行くとリベリオンを振り下ろす。

 

「なんだ、使えるじゃねぇか。その杖、歩く為のじゃないかったのか?」

 

「どこまでも余を愚弄するか?」

 

「テメェをぶっ倒すまでだ」

 

「不愉快な……ならば少し本気を出してやろう」

 

 リベリオンの刃を受け止めるランサーの槍。彼はダンテを押し返すと自らの槍を振るう。

 地面に着地するダンテも素早く体勢を整えリベリオンで斬る。袈裟斬り、斬り上げ、逆袈裟斬り。だが刃はランサーに届かない。大剣と槍の刃がぶつかり合い激しい火花と轟音を上げる。

 

「ジジイはベッドに寝てろってんだ」

 

「寝るのは貴様だ。墓の中でな」

 

 あらゆる方向から何本もの杭が迫り来る。一旦下がるとリベリオンで斬り払い、エボニーで撃ち込む。しかしそれは隙となる。一気に詰め寄るランサーが鋭い突きを繰り出しながらも何とか防ぐ。それでも背後から無数の杭が迫る中で、ダンテはリベリオンに魔力を流し込む。

 

「そう焦るなよジジィ。パーティーは始まったばかりだ」

 

 投げ付けられるリベリオンは高速回転しランサーへ飛ぶ。槍の刃と幾度もぶつかり合い火花を上げるが、この位ではランサーを討ち取る事はできない。

 

「舐めるなよ人間! 貴様との遊びに興じている暇などない!」

 

 リベリオンを弾き返す。明後日の方向へ飛んでは行くが、軌道を変えると主の元へと帰って行く。

 その頃にはもう、ダンテは背後の杭を全て撃ち落としており、帰って来たリベリオンを右手で掴んだ。

 

「そう言うなって。それよりこんな社交ダンス、いつまで続ける気だ? もっと激しく行こうぜ」

 

///

 

背後から追い掛けて来るセイバーから逃げるアストルフォ。戦おうとしないアストルフォに苛立つのはセイバーだけではなかった。マスターであるセレニケだ。

 

(何をやってんのよアンタは! どこまで私を苛つかせれば気が済むのよ!)

 

「いやいや、これも作戦! 作戦だから!」

 

(ただ逃げ回ってるだけの何が作戦よ! もう良い、こうなったら令呪を使うしかないわね)

 

「えぇッ!? わかった、わかったからぁ!」

 

 立ち止まり振り返るアストルフォ。それに伴いセイバーも走るのを止めて立ち止まると剣を構える。

 

「ようやく戦う気になったか? 追いかけっこはもうお終いだ」

 

「まぁそんな所。本当はもうちょっと時間が欲しかったんだけど」

 

「やる気になったなら何でも良い。さぁ、武器を構えろ」

 

 言われて馬上槍を構えるアストルフォ。しかし本気を出して魔力を開放する所か闘志すら感じられない。そんな調子では流石のセイバーでも剣を振れないでいた。

 

「何なんだよお前は! 調子狂うな」

 

「マスターがやられた? ダンテじゃない……となるとセイバーのマスター?」

 

「へへ、作戦成功って所だな。気が付いてるんだろ? お前のマスターはもう居ない。つまり俺と戦うしかないって事だ」

 

 セイバーとは別行動を取る獅子劫が狙うのはマスターの暗殺だ。人間ではサーヴァントに勝てない。故にセイバーに前線で暴れて貰い注意を引いている間に相手のマスターを殺す。そして彼はその作戦を成功させた。

 薄暗い城内の一室、埃も漂うその部屋の中は血生臭く、一人の若い女がうつ伏せに倒れている。アストルフォのマスター、セレニケ・アイスコル・ユグドミレニアだ。

 白い制服は自らの血で赤く染まり、整った顔立ちからはもはや精気は感じられない。獅子劫はショットガンに弾を込めると用の失くなった部屋から立ち去りながらセイバーと会話を続ける。

 

(作戦通り上手く行った。ライダーのマスターを倒した。マスターを失ったサーヴァントは魔力が尽きるまでは現界するが、それまでに再契約するマスターを見つければ復帰できる)

 

(そんな事はさせねぇよ。ライダーはここで倒す)

 

(頼む。俺は残るランサーのマスターを狙う。マスターが居なくなったとは言え油断するなよ)

 

「言われるまでもねぇさ……」

 

 会話を終えると獅子劫は気配を消して城内の通路を進み、セイバーも剣を引くとアストルフォに呼び掛ける。

 

「どうするライダー? そうでなくとも形勢は不利だ。それともまた逃げるか?」

 

「う~ん、黒の陣営としてこのまま戦うってのも良いんだけど……折角現世に召喚されたんだし、ボクはもっと広い世界を見てみたいな!」

 

「何だそりゃ? 英霊として戦う道を捨てるのか?」

 

「ソレはソレ、コレはコレ。でもキミがそれでもボクと戦うって言うんだったら、こっちも持てる全てを使ってキミと戦う! それがシャルルマーニュ十二勇姿としてのボクの誇りだ!」

 

 馬上槍を構えるアストルフォ、今度こそ本気だ。ここでセイバーが剣を構えれば、相手は宣言通り持てる全ての力を駆使して彼女に戦いを挑む。騎士として決闘の相手には申し分ない。

 

「でも逃げるッ!」

 

「はぁ!? 待ちやがれ!」

 

「ごめ~ん! あとちょっとで良いから。新月の夜になれば真名を思い出すみたいだからさ。それまで待って」

 

「待つ訳ねぇだろ!」

 

 再び追いかけっこを始める二人は城の置くへ進む。遮る者も居らず、ロウソクの火が夜の通路を照らし静寂が広がる通路で影が動き足音だけがドタドタと響く。

 走るアストルフォは城内に複数ある扉を開けては進み開けては進み。セイバーも急いでその後を追い掛けるが、アストルフォは入り組んだ城内の構造を知っている。

 気が付けばその背中は見えなくなっていた。

 

「逃げ足だけは素早い奴だな。あれで英霊なのか? 兎に角、見つけ出して首を取ってやる」

 

 見失ったアストルフォを見付けようと進むセイバー。そうして数分も歩いていると最深部へ到着する。そして視界に映るのは開けっ放しにされた巨大な扉と戦闘の形跡。

 

「サーヴァントの魔力……ランサーか!」

 

 急いで扉を開け中に飛び込む。そこで目にした物はランサーと一対一で対等に渡り合うダンテの姿。

 振られる剣と槍の乱舞。ぶつかり合う度に飛び散る火花。

 ランサーは新たな侵入者の存在を感知すると槍を引き、一旦ダンテと距離を取った。

 

「赤のセイバーか? それにしてもライダーは何をしている?」

 

「アイツなら尻尾巻いて逃げたぜ。ライダーよりも前にまずはお前だ、ランサー」

 

「調子に乗るなよセイバー。そしてそこの蛮族もだ。貴様らを倒すくらいなら全力を出すまでもない」

 

 槍を握る金髪の男、黒のランサーは現れたセイバーに向かって槍を掲げると声高々に宣言する。

 それを聞くセイバーは口元をニヤリと動かし、ダンテの隣に立った。

 

「よぉ、思ったより早かったじゃねぇか」

 

「うるせぇ、こっちはライダーに逃げられてむしゃくしゃしてるんだ。だから奴は俺が貰う」

 

「パーティーの招待状は持ってるのか」

 

「あるわけねぇだろ?」

 

「上等だ。今日は激しい夜になる」

 

 剣を構えるダンテとセイバー。ランサーはそれでも余裕の笑みを崩さない。

 

「フフッ、二対一であろうと余の優位は覆らない。貴様も、赤のセイバーも、我が領土に土足で踏み入る蛮族は余の手で葬り去る!」

 

 槍を構えるランサーと臨戦態勢に入るセイバーとライダー。その後ろで見守るダーニックはランサーの自信とは裏腹に焦っていた。

 

(不味いな。確かにこの地で戦うランサーの能力は強い。だが赤のセイバーとそのマスターに黒の陣営の状態は筒抜けだ。他のサーヴァントが乗り込んで来る可能性も高い。強いとは言え奴とて無敵ではない。令呪を使う手もあるが……まずはこの女を使うか)

 

 見つめるのは気を失ったレティシア。抱える彼女を冷たい床の上に置くと直ぐ様、魔術回路から魔力を流し魔法陣を展開させる。

 

「調べは付いている。この女はルーラークラスの依り代。理由はわからんが未だに召喚はされていないが、お陰でこちらに優位に使う事ができる」

 

 彼女の体構造が覗かれる。ルーラーの依り代とされた彼女の体、召喚の儀式も途中で終わったと言えど彼女の体は普通の人間と比べて代わりつつある。

 体内から湧き出る高濃度のオド。そして背中全体に広がる令呪の紋章。

 

「やはりな。ルーラーは聖杯戦争の裁定を司る存在。他のサーヴァントを従える為の令呪も複数宿している。以前と変わらんな。ならばこの令呪、私が頂く……」

 

 レティシアを寝かせる床の魔法陣が強く光り輝く。ダーニックは右手を背中に触れさせ、左手を首に掛ける。

 

「さぁ、裁定者! ルーラーよ! 貴様の令呪は大聖杯を手にする私の物だ!」

 

 更に強く光り輝く魔法陣。そして掴む左手は彼女の柔肌に食い込みくびり殺す勢い。そう、令呪を引き抜けば彼女の存在は必要なくなる。邪魔でしかない。故に躊躇なく殺す。殺すしか選択肢はない。

 ルーラーとして正式に召喚されればダーニックは間違いなくペナルティーを受ける。それが何なのかは想像が付かないが、いずれにせよ大聖杯が遠退く事に変わりない。

 

「アッハハハハッ! この女が持つ全ての令呪も! 大聖杯も! 他の誰にも渡しは――」

 

「そんな事はさせません」

 

 声が聞こえた。女の声だ。けれどもどこから聞こえたのか。セイバーの声ではない。ランサーでもライダーでもない。ならば誰なのか。

 ダーニックが令呪を奪い、殺そうとしている眼の前の少女。否、裁定者ルーラー。

 

「なッ!?」

 

「アナタに令呪を与えたりはしません。レティシアを殺させはしません。いいえ、もう指一本とて触れる事はありません」

 

「貴様は……」

 

 展開する魔法陣が崩壊する。触れる指が何もされていないのに引き剥がされ、そして体ごと吹き飛ばされる。巨大な柱にぶつかるダーニックは何とかこれ以上飛ばされずに済んだ。

 視線を向ける先にはまぶたを開けるのも辛い程に眩く輝く人の姿。

 

「召喚したのか!? あの女がルーラーを?」

 

「ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア……」

 

 収まる光、その場に立つのは少女レティシアと同じ姿をした別の何か。深い蒼の鎧を纏い、手には大きな旗を持つ。長いブロンドを三つ編みに束ねる彼女。

神々しくも凛々しいオルレアンの乙女。

 息を呑むダーニックに向かって彼女は言う。

 

 

 

 第9話 我が名はジャンヌ・ダルク

 

 

 




 時代はやっぱオープンワールドだよ、キミィ!
 画面の真ん中をポチポチするのは終わり! 野を駆け山を登り、まだ見ぬモンスターをぶっ倒しお姫様を助けるんだ!
 でもゲームばっかはダメだぞ。だからボクは今からFGOやりながら山を登ってくるね!
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