便利屋ですが、何か?   作:ーカオスー

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第1話

 

 ギラギラと光る太陽が石畳を反射し、それに加え商店と客のやり取りで熱気が増していた。

 ここロマンツベルクでは、適当に石を投げれば冒険者に当たる程多く活動している。元々は小さなギルドから徐々に発展し、巨大な国へと成長した。

 道を歩けば種族の博覧会だ。エルフ、ドワーフ……と一つずつ箇条書きにすれば一ページは埋まりほどに。

 他国の様々な思想、宗教、価値観、文化が複雑に入り組んでいる。その為、旅のガイドにはこの1つ国を回れば100の国を回った気分になると謳い文句がよく掲載されているものだ。

 

 

 クロヤは人の流れの中立ち止まり、頭を掻きむしりながらアイザックに託された手紙の宛名を見る。そこにはこう書かれていた。

 

 

『クマのパンツ』

 

 

 この宛名を頼りに本人を探し出すのは無茶振りがすぎる。ひょっとするとこの宛名には何か隠された意味があるのだろうか? とクロヤは勘ぐってみる。

 

 クマやパンツがあるキーワードになっていたり、或いは特定の人物を指す隠語になっていたりするのだろうか。

 だとしたら間抜けすぎる。

 

「ま、適当に探すか。別に急ぎじゃないだろう。ちょっと聞き込みしてダメならキッパリ諦めよ」

 

 大至急にこの手紙を届けたいのなら、こんなまどろっこしいことはしないだろう。ロマンツベルクのどこかに受け渡し人がいるのなら、気長に待てばいい。

 アイザックは古い友人だと言っていたので、歳は30後半ぐらいだろう。

 

 クロヤは柄の悪そうな男の肩にわざとぶつかり、そのまま通り過ぎる。

 男は「ちっ」と舌打ちすると、振り向きざまに怒号を放つ。

 

「おいテメェ! ぶつかっておいて詫びの一つの言えないのか!?」

 

 数は2人。チンピラか冒険者かは分からないが、早速怒り心頭だ。

『クマのパンツ』というキーワードが仮に人に言いたくない。或いは街特有の秘密や隠し事だった場合、普通に聞いただけではしらばっくれる可能性がある。

 それに、こういう酒で溺れていそうな連中は意外に情報を持っているものだ。

 酒を飲む時に話題になるのは、噂話が多いからである。

 

「いや、その、考え事をしてい……」

 

 クロヤはオドオドした様子で、気弱な少年を『演じた』。

 男達は指を鳴らし、クロヤの胸ぐらを掴むと路地裏へと消えていく。

 

「……」

 

 1人の少女がその光景を見つめ、正義感が宿ったように拳を強く握りしめた。

 

 

 

 

「オラァ!」

 

 クロヤは薄暗い路地裏に入ると突き飛ばされた。長い間溜まっていた水溜りに尻餅をつかされ、服が濡れる。

 人気がなく、薄暗い場所では多少悲鳴を上げたくらいでは誰も気づかないだろう。

 いるのはゴミを漁りに来た猫くらいだ。

 

 実に都合がいい。

 

 クロヤはゆっくりと立ち上がり、服に付いたホコリを払う。

 男の1人が殴りかかると、最小限の動きで躱し、伸びきった肘を下から手のひらで押し上げる。

 怒りに任せただけのストレートなど、武術に多少に心得があれば簡単に対応できる。

 腕がへの字に折れ曲がり、骨が外れた。

 

 うめき声を上げている仲間見て一瞬判断が遅れるが、すぐさま懐のナイフに手を伸ばす。

 

「遅いな」

 

 それよりも数段早く、クロヤはコートの内側のホルスターから魔導銃を引き抜き、男の頭にピタリとくっつけていた。

 銀色の銃口から伝わるヒンヤリとした感触に心臓が凍り付くような恐怖を感じた。

 

「一つ、聞きたいことがある。この距離で引き金を引いたら俺は血を浴びるし、お前も硝煙が線香がわりになるのは嫌だろう? お互いハッピーに終わるために協力してくれ」

 

 まるで機械のように、小さな声で耳で呟く。男はうなずくことしかでなかった。

 

「クマのパンツ」

「……は?」

 

 男は大きく瞳を見開く。この少年はこの状況下で何を言っているのだろうか。

 聞き間違えなければクマのパンツと言ったはず。だがどう考えても有り得ない。

 

「クマのパンツ、と聞いて何か心当たりや連想するものはあるか?」

 

 聞き間違えじゃねぇ! と男は心の中で叫ぶ。

 クロヤは男がたじろぐ様子をみると魔導銃を下ろした。

 はぁと深くため息をついて、もう1人の肘を折った男へ近づき、グキッという音ともに元の状態に戻す。

 

「ぶつかって悪かったな。今日のことはこれで勘弁してくれ」

 

 クロヤは懐から乱雑にお金を取り出して、肘を折った男のポケットに突っ込む。

 

(馬鹿馬鹿しい。アイザックの野郎めんどくさい真似しやがって……)

 

 クマのパンツなどと人に聞いて回るなど、変質者もいい所だ。

 次の一手がダメなら手紙差出人を探すのは諦めよう、と密かに心にきめた。

 

「弱いものイジメはダメッー! ってあれ?」

 

 路地裏から少女突如走ってきたと思えばいきなり叫んだ。

 長い金髪の髪に蒼い瞳。幼さの残る顔立ちとは裏腹に、男なら目を向けてしまうであろう豊満な胸。

 白い制服を身に纏い、胸元のエンブレムには黄色をベースに虎が刺繍されている。守備力の低いスカートとニーソックスのコンボで、白い太ももが眩しい。

 

 きっと少女はクロヤがリンチされている姿を想像していたのだろうが、逆に怒鳴り散らしていた男2人が転がっていたのだ。反応に困るのも無理もない。

 その勇気は褒めるべき行動なのだろうが、クロヤは愚かだと内心思う。もし少女の想像通りぼこぼこにされていた場合、次の標的は必然的に少女になる。辱めを受ける可能性も高い。

 

 身の丈に合わない勇気の行動を人は蛮勇と呼ぶ。

 

 だがクロヤは愚かであるとは思っていても、そういう無鉄砲な行動をするやつは嫌いではない。寧ろ気に入った。

 

「丁度いい」

 

 クロヤは足音は立てないように静かに少女の元へ近づく。ただ真っ直ぐに瞳を射抜くように見つめ、無言のままで。

 

 少女は不思議とその黒い瞳から目を逸らすことが出来ずにいた。全てを見透かしているようで、この瞳からは絶対に逃げることはできないような気がする。

 怪しく妖美な、まるで押すなと書かれたボタンが目の前にあるように、ジッと眺めてしまう。

 きっと、自分たちの平和な日々とは違う。どこか暗くて厳しい場所を過ごしたのだろうか。

 

 いつの間にか息のあたりそうな距離まで詰められ、クロヤは少女に合わせて顔を近づけた。

 

「ひとつ聞きたいことがある」

 

 声を聞くと、金縛りが解けて時間が再び流れ出したようにハッとする。

 不意に、クロヤとの距離の近さに恥ずかしさを覚え、数歩下がってしまった。

 

「は、はぃぃ! な、なんでしょうかぁぁ!?」

 

 ものすごい動揺を示し、顔を真っ赤にする。

 クロヤは少女のそんな様子を見てハハッと笑った。

 

「そんなにビビるなよ。別にとって食おうってつもりは無いぞ。んーそうだな、お前が知ってる中で1番物知りなやつって誰だ?」

「物知りな人? それだったら学園長様とか……」

「学園長ってお前の付けてる制服のそれか?」

「うん! ロマンツベルク学園っていうんだけど、とっても楽しい場所だよ!」

 

 

 学校の長なら知識の量に期待できる。クマのパンツという意味不明な宛名についてなにか知っている可能性は……限りなく0近いがチンピラをぼこぼこにして聞き出すよりはマシだろう。

 宛もなく人や情報を探す時は、その対象を探すのではなく、対象のことを知っていそうな人を探す方が早い。これはクロヤの経験則だ。

 

「できればそこに案内してくれないか、大したお礼はできないが」

 

 クロヤは再びお金を取り出すが、少女はブンブンと手を振り、受け取れないよ!と遮った。

 

 少女とクロヤが路地裏が消えていく中、銃を付けられた男が1人叫んだ。

 

「クマのパンツってなんだよ!」

 

 

 その問いかけに答えにものは誰もいない。

 ただ、自分の頭の中のように声が反響していくだけだった。

 

 

 

 

 

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