街の中を2人は歩く。クロヤは思い出したかのように名前を訪ねた。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名はクロヤ、通りすがりの便利屋だ」
「わたしはルーシャ・ジリアス。ロマンツベルク学園の一年生なのです」
ルーシャは小さくびしっと敬礼する。花がぱっと咲いたような笑顔はクロヤには眩しく思えた。
平和な場所で過ごした曇り無き瞳は本当に眩しい。
「ま、困ったことがあったら俺を頼ってくれ。借りは死んでも返す主義なんでな」
「はは。じゃあ道案内終わったら早速依頼しちゃおうかな?」
「お、じゃあ初めてのお客さんだな。楽しみに待ってるよ」
そこからここロマンツベルクについてや、学園での楽しい話をルーシャが一方的に話続け、クロヤはひたすら相槌をうっていた。
「そういえば、クロヤって結構見かけによらず強いんだね。さっき柄の悪い男達無傷でやっつけたでしょ?」
ルーシャの何気ない問いかけにクロヤは足を止める。
「俺が強いか……。それは違うぞルーシャ。俺は誰よりも負けた数が多いから、勝つことができるんだ」
「負けた数が多いから?」
「そうだ。俺はある師の元で修行したが、負けた数は数万を超えている。さっきの1の勝利なんてあってないようなもんだ」
少し熱をこもった様子で語るクロヤは、「忘れてくれ」と呟き、再び歩きだす。
それからは2人は無言のままだった。
「ここだよ!」
ルーシャが指さす先にはロマンツベルク学園が建っていた。
その大きさは学校というより城に近く、整備された道の脇には木々生い茂っており、校庭の真ん中には噴水が水を吹いていた。
門の前には腰のあたりの大きさの虎の像が2体並んでいて、番犬のように見張っている。動き出しそうなほど精巧に作られていて、それなりの値が貼りそうだ。
丁度通学の時間だった為か、学園内に入っていく生徒の数はとても多い。
(青春ってやつ謳歌してるんだろうな)
クロヤは少し試す意味で殺気を周囲に放ってみた。すると何人か気づいたようにこちらを一瞥する。
「……へぇ。学校に通ってる連中なんてぬるま湯に浸かってるもんだと思ってたんだが」
できれば戦ってみたい。と刀の鞘を思わず握りしめてしまう。
今まで培ってきた技術をぶつけたいという気持ちは、スポーツやゲームにも似た感覚だ。それに、アイザックの『依頼』もある。
「ん? いまなんかクロヤ言った?」
「ああ。すごくデカくてちょっと驚いたんだよ。それとひとつ疑問なんだが、勝手に入っていいのか?」
「んー大丈夫じゃないかな」
無責任そうにルーシャは言う。
何かあったらそん時はそん時でいいか、とクロヤは特に咎めはしなかった。
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学園長の豪華なソファに腰をかけ、大量の書類と向き合う小さな幼女は、頭を掻きむしりながら「ワーッ!」とうめき声をあげて突っ伏した。
幼女は、金髪のツインテールに黒いゴスロリの服をきている。双方に蒼眼の瞳を持っていて、どう見ても身の丈には合わない場所にいるようにおもえた。
が、何を隠そうこの幼女がこの学園長である、シルフェ・ナルビダだ。
「学園長、その書類を片付けるまで部屋から出しません」
冷徹な声で語りかけるのはシルフェの秘書である、ロザリア・メイデンだ。
眼鏡とスーツを着こなし、お団子結びのされた蒼髪を肩の当たりまで伸ばしている。
気品のある雰囲気ではあるが、ロザリアの鼻から不意に鼻血が流れ出た。
(おっと、いけません)
突っ伏している学園長を見て興奮したのである。忠誠心は鼻から出るものだ。
「むぅー嫌じゃ嫌じゃ。クソー、この書類という奴は龍より厄介じゃのう。燃やすのも破るのもダメだなんて強敵じゃ」
「これなら魔物の群れを相手にする方が遥かにマシじゃな」と、書類を1枚手に取り、ビラビラとさせる。
憂さ晴らしにひと暴れしたい。そんなことを考えていた。
コンコンと、ドアをノックする音が聞こえる。
「えーっと、一年生のルーシャです。学園長様に会いたいという方がいるのですが」
学園長は書類を投げ捨て机にバン!と手を置く。
客人が相手となれば書類の相手をしなくても秘書のロザリアも文句は言わないだろうと、嬉々とした様子だ。
「おお! 良いのじゃ良いのじゃ。入ってくるが良い」
扉から入ってきたクロヤは学園長室を見渡し、要件を述べる。
「お忙しい中すみません。わたしは便利屋を営むクロヤと申すものです。少々お尋ねしたいことがあるのですが」
クロヤはなるべく粗相のないよう、丁寧な物言いで訪ねた。
学園長は舐めるようにクロヤをまじまじと見つめ、「ほう」と呟いた。
「便利屋か……なかなか愉悦極まる生業じゃな。それに砕けた口調で話せ、ムズ痒くて仕方が無い。して、聞きたいこととは?」
「……分かった。じゃあ質問だが、クマのパンツと聞いて何か心当たりはあるか?」
ビクッ! と学園長の体が、第三者から見て容易に分かるほど震えた。
秘書であるロザリアは眼鏡を光らせる。
「確か……学園長様は以前、アイザック様にクマのパンツを履いているの見られて馬鹿にされたことが……」
「ば、ばかものー!それを客人の前で言う従者があるか!」
涙目を浮かべなから、学園長は電撃をビリビリさせながら拗ねた。
「アイザックを知っているのか?」
クロヤの問いかけに、学園長は「古い友人じゃ」と答えた。
久しぶりに聞いた名前で、目を閉じ、過去を掘り起こす。
「お主もあの馬鹿男を知っているようじゃか、どういう関係じゃ?」
「俺の師だ。幼い頃に拾ってもらった恩がある」
クロヤは手紙を取り出して、学園長へと手渡した。
「アイザックから引き受けたものだ。宛先がクマのパンツ、なんてふざけた宛名だったが、早く見つかってよかったよ」
学園長は手紙を受け取ると、封筒を破り、中身を数分ほど読む。
読み終えると高笑いを上げて、目に端にうっすらと涙を浮かべた。
「クロヤ、お主に伝言じゃ。ワシが読み上げるからしかと聞くが良い」
『よぉクロヤ! お前がこの手紙を読んでるってことは合法ロリに手紙をちゃんと送り届けたか、面倒くさくなって破り捨てる前に内容を確認したかの二択だろう。ま、お前は変に律儀なやつだから前者だろうが。
字を書くの面倒だから単刀直入に言うが、お前には俺の母校であるロマンツベルク学園に転入してもらう。
俺様のお陰でお前は確かに強くなったが、それじゃ完璧じゃないのはお前自身1番理解しているだろう。
恐らく、お前に足りないものをこの学園の奴らは持っている筈だ。それを盗め、お前の十八番だろ?
ま、これはお前への正式な依頼として受け取っていい。報酬には俺様のファミリーネームをやる。
今日からテメェの名はクロヤ・ロベルトだ。強くなれ、馬鹿息子』
「だそうじゃ」
クロヤは暫く押し黙った後、ハハと笑った。
出会った時間は短いが、ルーシャはクロヤが優しい顔で笑っているのが印象的だった。
(あんな風に笑うんだ)
ルーシャはクロヤがどこか冷めた、機械のような人間だという認識を短い時間の間で感じていた。
その為、少し不意を食らったようで、目を丸くしていた。
「ったく、あのクソ親父は勝手なことばかりしかしない、いつになったら俺様気取りが治るんだが」
「それは同意じゃな。ワシにもあやつに借りはあるし、お主1人を編入されるくらい訳はないが、ひとつ試験を受けてもらおう」
学園長は少し考える素振りを見せると、「ロザリア」と従者の名を呼んだ。
「闘技場にブレイドを用意させておけ」
「っ!? 学園長! しかし!」
「なーに、心配するでない。アイザックの弟子なら玩具ぐらいに遅れはとらぬはずじゃ」
学園長は小悪魔めいた笑みを浮かべ、「楽しませてくれ」とクロヤに言い放った。