便利屋ですが、何か?   作:ーカオスー

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第3話

 

 対飛竜用重装魔導兵器。

 通称ブレイド。

 

 学園長に闘技場に連れてこられたクロヤは、強大な二足歩行兵器と対峙していた。

 精密機械を搭載した縦長の頭部に、一つの赤い瞳。背中には剣と銃を抱えている。

 足元のマフラーから煙を吹き上げ、腕や関節をグルグルと回転させる。人間の準備運動を連想させるように。

 その姿は見上げる程で、10mを超えていた。

 

 学園長、秘書のロザリア、生徒のリーシャは野球の球場のように配置された座席に座り、戦いを観戦する。

 

 場内にピーピーとアナウンスが入った。男性の研究員が書類を見ながら試験を進行していく。

 

『これより試験内容を説明します。ルールは至ってシンプルで、ブレイドを破壊……することなく、頭部裏側にある非常用停止スイッチを押せば、試験は合格です』

「無傷のまま倒せってことか?」

『多少の傷は大丈夫ですが、損傷率が10%を超えた場合失格となります』

 

 殺意を持つ相手を殺さずに倒すのは難しい。

 相手が人なら脳天に魔導銃の引き金を引くか、胴体と首を分断すれば呆気なく死ぬ。相手が大人数なら超火力で一掃すればいい。

 だが、生かすとなると気を遣わなければならなくなる。

 撃つ場所も切る場所も。相手を一掃する技などもってのほかだ。

 

 それは機械にも同じこと。

 

(破壊するだけならいくつか方法はあったが、制限されるとなると様子見だな)

 

『それでは戦闘の開始を合図します』

 

 ブレイドがピーッと電子音を立てて、クロヤを標的と認識する。

 身長や体重、内包する魔力を、推測、分析する。

 

【脅威レベル2 破壊可能】

 

 ブレイドが数秒思考し、導いた答えは勝利への確信。

 

『3』

 

 クロヤは目を閉じて、深く神経を尖らせる。自身の半径2m以外の情報を全て遮断し、5感全てを2mの内に集中させた。

 頭の中に、数字をカウントするアナウンスは届かない。

 

『2』

 

 ブレイドは銃を取り出してクロヤに照準を合わせて、引き金に指をそえる。

 生気のない赤い瞳がピタリと狙いを定める。

 

『1』

 

 ルーシャが静かに息を呑む。緊張からか、一筋の汗が頬を伝わった。

 滴る汗が落ちていく。その時間は刹那過ぎないが、数十秒もの時間を感じた。

 ポツリ、と汗が地面に落ちる。

 

『0』

 

 0の合図とブレイドが引き金を引くのはほぼ同時だった。1秒間に数十発の鉛の雨が降り注ぎ、轟くような銃声が幾度にも重なって広がる。

 

 銃弾のひとつがクロヤの意識の円に入ると、クロヤは目にも留まらぬ早さで抜刀し、弾丸を真っ二つにする。

 パラパラと薬莢が落ち、壁には幾つも小さなクレーターができる。マガジンの弾薬を全て使い切った頃には煙で周囲の視界が遮られていた。

 弾倉一つでゴブリン数百匹狩ることができ、家も容易く破壊できる破壊力がある。

 しかし、煙の中から出てきた人間に対してはそれでも無力だった。

 

 火力不足だと感じたブレイドは銃を投げ捨てる。剣を引き抜き、クロヤに肉薄した。

 剣の刃はサメの歯のようにギザギザしていて、チェーンソーのように回転する。

 対飛竜用に設計された剣は、鉄よりも頑丈な強度を持つ飛竜の鱗を切り裂くように設計されている。

 無論、人肉程度ならすぐさま原型はなくなる。

 

 クロヤは目を見開き、ブレイドの正面からの一太刀を刀で弾く。

 正面で打ち合うのではなく、側面から払い除けるように打ち込む。そうすれば馬力の差は関係ない。

 

 大きく仰け反ったブレイドに回し蹴りを打ち込む。が、その屈強な機械の塊には無力だった。

 

「硬いな……」

 

 ブレイドの肩から小さなバルカン銃が顔出す。小さいと言っても、ブレイドの巨躯とくらべた話で、人が振り回すには大きい。

 バルカン銃をクロヤに乱射しながら、剣で猛攻をかける。

 クロヤは避けるのが精一杯で、攻めあぐねていた。

 

 避け損ねた弾丸の1発がクロヤの肩を貫く。

 

「……あがっ!」

 

 赤黒い血が吹き出す。持っていた武器も痛みで放してしまった。

 回転する小さな鉛弾は、脆弱な肉を抉り、血管を絡めとる。

 ブレイドが払う剣がクロヤを襲った。痛みのせいか、一瞬判断が遅れてしまう。

 

「避け……」

 

 ルーシャは口を抑え、目を逸らす。

 ブレイドの回転する刃は容易くクロヤの体を引き裂き、上下を上と下にした。

 ぶちまけられた内蔵や血は、アイシャには耐えられない現実だった。

 

 人の死。

 

 クロヤとは知り合って間もない。だが、知らない人ではない。

 知人の死がこんな衝撃を受けるのか。

 

「そこそこ筋はあるが、アイザックの弟子にしてはイマイチじゃな」

「しかし、ブレイド相手によく持ったと褒めるべきでしょう。ロマンツベルクの生徒の30%は開始10秒で肉塊と化します」

 

 学園長は冷たく、ロザリアはただ無表情で語る。

 ルーシャはそのことに深く怒りを覚えた。

 

「そんな! 人が死んでるんですよ! それなのに……」

 

 学園長はルーシャの方を見て真剣な目で見つめた。

 

「あやつは自らこの試験に乗ったのじゃ、危険は100も承知でな。あやつもそれぐらいの覚悟はあったじゃろう。覚悟のある人間に同情や情けは寧ろ侮辱に値するぞ」

 

 多くの戦友を失った過去を持つ学園長の言葉は、肩にずしりとのしかかった。

 アイシャは黙り込み、闘技場に目を移す。

 

『ピーッ。対象の生命維持活動の停止を確認。これより帰還します』

 

 ブレイドは剣を収め、バルガン銃も姿を隠した。

 敵の死をしっかりと確認したブレイドは、背を向け歩み出す。

 

 

 

 

 

「――殺したと思ったら安心する。人も機械も同じだな」

 

 クロヤの手は非常用停止スイッチを押し込んでいた。

 

「――え?」

 

 ルーシャは驚いた様子で見つめる。それは冷静だった学園長もロザリアも同じだった。

 

 クロヤの死体が黒い霧となって消えていく。

 死んだのはクロヤの得意とする幻術。『影人』の上位互換に当たる上級魔法の『鏡人(ドッペルゲンガー)』だった。

 

「こいつが最初に銃を乱射した時、俺は鏡人を使い、自身の幻術の影に隠れた。後は適当なタイミングで死んだフリでもすれば、隙を見せるだろうってな」

 

 クロヤが指をパチンと鳴らすと、影から瓜二つの幻が出現する。

 

「機会に幻術が通じるとは思わんかったが」と一言付けると、自身の出した幻術を解いた。

 

「まさかその歳で『鏡人』を操れるとは驚きじゃな」

 

 自身の影だけを実体化させ戦わせる影人は、多少の訓練を積めば大体数は扱える。

 だが、実際に敵を殺したと錯覚までさせる鏡人はそうそう扱える者はいない。それに加え、あの演技力高さだ。騙されない者はいないだろう。

 

 事実、幾千の修羅場を超えた学園長ですら見誤ったのだ。

 

「今の戦いを見た時時点で確信したが、クロヤの実践経験値は同年代のワシの学園の生徒を遥かに凌駕しているのう」

「はい。彼がロマンツベルクに加れば、他の生徒に良い刺激になるでしょう」

 

 学園長は立ち上がり、声を高らかにして叫んだ。

 

「クロヤ・ロベルト! お主は本日をもってロマンツベルク学園への入学を許可する! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

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