「ここじゃ」
学園長はそう言うとガラガラと教室の引き戸を開ける。中には生徒が20人ほどいて授業を受けている最中だった。
生徒達は様々な異種族で構成されており、学園があるロマンツベルクならではの光景だった。
『エルフは魔法、ドワーフは鍛冶、……亜人は各々に得意な個性がある。学ぶとは真似ぶこと、他の種族が得意なことを真似び、それを自らの糧にせよ』
学園長であるシルフェ・ナルビダの教育方針だ。もちろん、種族差別等で喧嘩や争いも少なくはないが、学園長はそれすらも成長の糧になると教師達には指導している。
実際はその方がトラブルが多くて楽しいということを隠して。
「転校生が来たみたいだ」
「クンクン。人間なのに不思議な臭い」
「なんだよ劣等種族じゃねぇか」
生徒達が様々な反応を示す。
「クレア先生、こやつが昨日話した転入生じゃ」
「分かりました学園長。クロヤ・ロベルト、こちらで自己紹介を。皆も質問があったら彼に聞いてください」
クロヤは黒板の前に立ち、席に座る生徒達を見る。そこには小さく手を振るルーシャの姿があった。
「紹介に預かったクロヤ・ロベルトだ。俺には戦い方を教えてくれたクソ親父がいるんだが、そいつがここで強さを学べと言われたからここに来た。一応、便利屋という仕事をしている。ここにいる皆も何かあったら俺を頼ってくれ、もちろん報酬は取るが」
1人の女の子が手を上げる。赤い瞳に白金の長髪が特徴敵な生徒だ。
「……質問。便利屋とは一体なんの仕事をするでしょうか?」
その声は無機質で生気は感じられない。クロヤは少し考えてから答えを返した。
「今までは貴族や商人の護衛、暗部の中での暗殺業、魔物の退治、子守や人手の足りない飲食店手伝いなんかだな」
「……感謝。答えを記憶する」
「お前は人間なのか……?」
「……否定。私は博士が作ったロボット。人の心を勉強する為に学園に入った」
流石のクロヤもこれには驚く。
金髪蒼眼の男子生徒がクロヤに向けて焼きそばパンを投げる。
クロヤはそれを受け取ると、投げた生徒は「ナイスキャッチ」と言い放った。
「面白そうな仕事じゃん。朝購買で買ったパンあげるから特技でも見せてよ」
「了解。その依頼確かに引き受けた。……誰か銅貨をもっている奴はいないか?」
3人の生徒が手を上げる。それぞれが財布の中から取り出してクロヤにみせた。
「3人か……。合図と同時に一斉に上に向かって投げてくれ。学園長、合図を頼む」
「了解じゃ」
黒夜は皆に背を向ける。
深く深呼吸させて意識を集中させた。
その場にいた全員が転校生が来たというイベントで浮ついていたが、クロヤが放つ静かな威圧で息を呑む。
学園長が右手を上げて、パチンと指を鳴らした。それを合図に3人がコインを投げる。
クロヤは背中に隠した魔導銃を引き抜くと同時に振り返った。
動力限である魔力を長し込むと魔導銃は紫色に輝く。宙に舞うコインに狙いを定めると素早くトリガーを引いた。
バン!バン!バン!
パラパラと薬莢が落ちると同時に、教室内には拍手が広がった。
銃弾は全て銅貨を貫き壁に穴を開けていたのだ。
これもクソ親父――クロヤがアイザックに銃の使い方を習った時のやり方だ。
それはクロヤが12歳の頃。
「クロヤ。そういやお前に銃の使い方教えてなかったよな」
「ここ最近、武術訓練という名の一方的な虐待しか受けてないけど」
「そのおかげで強くなってるからいいだろ」
「しかも、確かめるためにチンピラに集団に喧嘩売って俺に押し付けて逃げたよね」
「それでだ! 俺様はお前に銃の扱い方をマスターして貰うために効率のいい方法を考えてやった!」
続け様に、自信ありげにアイザックが考えた修行方法。
それは。
「今日から飯の前に俺様がお金を上に投げる。それを銃で打ち落とせた分だけ食費だ」
一ヶ月もの間ほとんど水のみで過ごすことになったお陰で身につけた技術。
これでも、まだまだマシな方で、無茶苦茶なことばかりされてきた。
「ではクロヤ君、席に付いて下さい。あと、壁に穴を開けた罰として、放課後の掃除を1週間命じます」
クレア先生が眼鏡を上げながら無慈悲な宣告する。クロヤは思わず声を漏らした。
「は?」
「口答え――」
「クレア姉さん!クロヤっちの席は俺の隣でいいですか?」
「そうですね。まぁいいでしょう。あと私のことは姉さんではなく、先生と呼ぶように」
クロヤは先程パンを投げた生徒の隣に座る。
「あのクレア姉さんに口答えしたら罰が1カ月になっちゃうよ。ま、お互い数少ない人間同士仲良くしようぜ?」
「……ああ、よろしく」
「俺っちはロイ・シングル。てかどうよ? この学校の女の子ってレベル高いっしょ? しかもこのクラスは特に!」
クロヤは教室を見渡し、「確かにな」と返事をした。
「合法ロリ! ドS姉さん! 機械っ娘! 白黒天使! 猫耳! 犬耳! 兎耳! みんな可愛いっ子ばっかりで毎日眼福だよ。だからこそ、俺っちは皆を守るために、この光景を守るために強くならなきゃいけない。1人の男として、勇者の血を引くものとして」
「勇者の血を引く? シングルってまさか――」
「初代便利屋アビス・シングルの後継者とその血筋を引く俺っちが一緒になるなんてなー。まぁでも、この学園にいる人は皆凄い人ばっかりだよ。『勇者の血』だなんて、ここじゃ肩書きとして弱い、実力が全てだからね」
ロイはペンを器用に回しながら答えた。
クレア先生がパンと手を叩くと、教壇に視線が集まった。
「転入生の自己紹介も終えたので、これにて午前中の座学は終わります。午後からは擬戦試合を行いますので、各自、武器や防具の準備を」
クレア先生が教室を出ていくと、生徒達は昼食を取るために散らばっていく。
その中でクロヤの元に、オドオドした様子でルーシャがやってきた。
「クロヤ、さっきのやつすごかったよ……それで、お、お願いなんだけど」
「どうした?」
「つ、次の擬戦試合で私と闘って下さい!」