便利屋ですが、何か?   作:ーカオスー

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第6話

 

 午後の模擬試合。

 直径30m石畳で作られたリング状では2人の生徒が対峙しており、残った生徒達はリング外で戦闘を見守っていた。

 クロヤは仕事服であるいつもの黒ずくめの格好で参加していた。他の生徒も制服ではなく、各々が武器防具を装備していた。

 

 模擬試合。

 生徒同士による戦いの練習だ。基本的には魔法、体術、武器、殺すこと以外はなんでもありで競い合う。

 学園内は博士の科学力と医務班による魔法があり、四肢の欠損でも完治できる状況にある。

 より実践的に。学園長の強い方針を叶えるためのサポートは万全だ。

 

 リングにいる狼人のウーフ・クロロは、鬼人であるシズク・ヨウに短剣で襲いかかる。シズクは、トゲトゲしい棍棒を盾に受け止めて押し返した。

 

 ウーフは白い体毛に犬耳。ギラつく蒼い瞳は鋭く高圧的で、片目には獣傷が付いていた。

 自身の特徴である素早さを失わぬ用、身軽な革な鎧を身につけている。使用する武器はクローナイフと短剣。

 

 シズクはピンク色の色鮮やかな和服を着ていて、真っ白な肌と相対的な黒いショートヘアだ。瞳は好戦的な紅眼で、頭には2本の小さな角が生えている。下駄と浴衣という動きにくそうな身なりでも、本人は全く気にしてない様子だ。

 

 「はぁ!」

 

 シズクは体躯よりも大きい棍棒を地面に叩きつける。細い腕からは想像も出来ないような衝撃波を生み出した。割れた石がショットガンのように石礫がウーフに降り注ぐ。

 ウーフは自慢の脚力で、舞台の端にある4つある1柱に飛び乗り、連続して跳躍繰り返す。余りの速さにウーフはその姿を幾人にも思わせた。

 

 「ハッ! この俺様の姿が見えるか鬼人! これでもまだまだトップギアじゃねぇぞ!」

 「流石は犬の人でありんす……」

 「犬じゃねぇ! 狼だ!」

 

 ウーフは跳躍を辞めて急旋回して、クローでシズクに襲いかかる。クローが深々と背中に突き刺さり、美しい和服に赤い染みができる。

 シズクが振り返って掴みかかろうとするが、すぐさまウーフは跳躍し、再び背後に回る。

 幾度となく繰り返される攻撃に、次第にシズクは苛立ちを覚えた。

 

 「なかなかやるな。あの狼人も、鬼人も」

 「そうっすね。でも、シズクちゃんには分が悪いかな。ウーフの動きに全く付いてこれていない」

 「そんなことはあの鬼人も理解しているはずだ。弱点は克服する為にある」

 

 シズクは振袖の中から4枚の札を取り出し、柱に向かって投げつける。

 リング上が紫色に光だし、空中を飛び交うウーフが地面に叩き付けられた。

 

 「範囲内の重力を倍増させる『呪い』でありんす。今は5倍程度で、わちきには余り変わったような気がしないでござりんすが、さて、狼の人」

 「――クソが! この程度」

 

 ウーフが逃げようとするが、シズクが素早く動いて足を掴む。装備を身につけており自身よりも背の高いウーフを片手で振り回している。その重量は呪いの影響で数百kgにも及んでいた。

 ウーフを引きずりながら柱へ走り、何度もウーフを柱に叩きつけると、ぐしゃりと骨が曲がっていく。その中でウーフは短剣を取り出して、自身の足を切り飛ばした。

 

 ウーフは口に短剣を咥えてシズクを睨み付ける。足が1本なくなっても闘志は消えていない。

 

 「そこまで!」とクレアによる静止が入った。

 

 「ウーフ。敗北を認めますね?」

 「……あ、ああ」

 

 敗北を認めたウーフは耳をしおらせる。クレアの審判に意を唱えることは許されない。

 これ以上続けても負けだと判断されたのだろう。

 

 「大丈夫!?」

 

 ルーシャがスタスタと走ってシズクとウーフの元へ走っていく。

 

 「ルーシャちゃん。服が破けてしまったでありんす」

 「服は私が後で縫ってあげるよ! それよりも先に傷が……」

 

 ルーシャの背中から真っ白な翼が生える。祈りを捧げる構えをして魔法を発動させた。

 その姿はさながら聖書に載る天使。

 

 「ヒール」

 

 ルーシャが癒しの魔法を発動させると、シズクとウーフの傷がみるみるうちに塞がっていく。

 ウーフに至っては切り飛ばした足すらも元通りになっていた。

 神の如く奇跡に、クロヤはその様子を目を丸くして見ていた。

 「ありがとうござんりんした」とシズクは深々とルーシャに頭を下げる。

 ウーフは無言でリングを後にした。

 

 「ルーシャ! お前天使族だったのか!?」

 「うん。祈りを捧げる時と……戦う時にあんな風に羽が出現しちゃうの。別に隠していた訳じゃないけど」

 

 天使族は超希少な種族だ。世界中探してもその数は100以下だと言われている。

 彼らは回復魔術と光属性の魔術を得意としており、ルーシャのように心が清らかな者ばかりだ。

 魔力量は人間の10倍はあるとされ、数万程度は珍しくない。

 

 

 「主さんがルーシャちゃんと戦う相手でありんすか? 死なないようにしておくんなし」

 

 

 シズクがクロヤに対して忠告を促す。

 

(俺が死ぬ……?)

 

 クロヤはルーシャを見つめる。

 いつものようにどこかオドオドしているだけだ。制服とは違い、宝石の付いた銀色の鎧に、腰にはレイピアを装備している。

 正直戦う姿がイメージできないレベルだ。虫も殺せなさそうなルーシャが自身に戦いを挑んだ理由がクロヤは理解できない。

 

 「次はクロヤとルーシャですね。お互いに距離をとって武器を構えて下さい」

 

 クレアがパチンと指を鳴らすと壊れたリングが元通りになる。自己修復機能がある魔法を発動させたのだ。

 クロヤはクレア先生の指示通りにルーシャと距離を取ろうとするが、不意に手を掴まれる。

 

 「ねぇクロヤ。ブレイドを倒したクロヤなら大丈夫だと思うけど、私から依頼だよ」

 「どうした?」

 「私の全てを受け止めて欲しい。もしクロヤが私に勝てたら……今度は私がなんでも聞いてあげる」

 

 ルーシャは手を離し闘技場の反対側に立つ。

 

 

 「では初め!」

 

 

 クレアが合図すると、ルーシャはレイピアに手を伸ばした。鞘から刀身を引き抜くと、異常な威圧と殺気をクロヤを襲う。

 

(これは……! 暗殺者や武術の達人と向き合ったことはあるが、全く比べものにならねぇ!)

 

 クロヤは刀を強く握りしめ、ルーシャの動きの一挙手一投足を見逃さないように目を張る。

 ルーシャの真っ白な翼が黒く染まり、鎧がカチカチと震える。

 綺麗な水に墨汁を垂らすように、感情が濁っていく。

 

 「アハハハハッ!」

 

 甲高い笑い声と共にルーシャは――堕ちる。

 先程の天使が放つふわりとした情愛が180度切り替わったかのようだ。

 

『堕天』

 

 天使族は武器を握ると殺戮と戦闘を好む兵器になる。

 それは心が優しい者ほど狂人になってしまい、無償で癒しを行う聖人が、無意味な殺戮を起こす悪魔へと変貌する。

 

 「ワタシを受け止めてクロヤ!」

 

 笑顔を向けるルーシャの口は三日月に歪み。妖美な雰囲気を纏わせていた。

 ルーシャはレイピアを振るうと、黒い斬撃がクロヤに襲いかかる。

 回避しようと身体をよじるが、頬を掠めてしまった。斬撃は柱を切り裂き、壁に激突する。

 次にレイピアを構えて突撃する、クロヤはコート下に隠した短剣を投げて応戦するが、避ける素振りを見せない。短剣はルーシャの体に触れる前に魔法の障壁で弾かれてしまう。

 

 ルーシャとクロヤはレイピアと刀で打ち込み合う。火花を散らしながら数回打ち合った。

 

 「もっと頑張ってよ! もっとワタシを楽しませて!」

 

 甲高い笑い声を上げながら猛攻を仕掛けるルーシャに対してクロヤは一旦距離をとる。

 

 「さっきの魔法の障壁、今の攻防で感じた力強さ。魔力量は最低俺の10倍ってとこか!」

 「ワタシの魔力量は3万。人間であるクロヤにワタシの障壁を貫けるかな? さぁ! ワタシの体に思い出のキズをつけてよ!」

 「いいだろう――少し本気でいくぞ!」

 

 クロヤには才能がない。

 剣術も、魔術も、銃の扱い方も全て死地を潜り抜けた努力で身につけたものだ。

 だが、一つだけ得意な物がある。

 

 幻術だ。

 

 「ドッペルゲンガー〘鏡人〙」

 

 クロヤは2手に別れるよう分身を生み出す。本物と瓜二つの姿は誰にも見分けがつかない。上級魔法の幻術だ。

 ルーシャを囲むように立つと、互いに刺突を行う。魔力を刀の鋒に集中させ、ルーシャの魔法の障壁を破壊するつもりだ。

 しかし、障壁の固さは凄まじく、僅かにヒビを入れる程度に終わった。

 

 「だめだよぉクロヤ。無駄無駄」

 「無駄でもないさ。ルーシャの魔力が無限にあるならそうかもしれないが、技を受ける度に魔力を消費するだろ?」

 

 ならば――と、1人のクロヤが刀を滞納し、居合の構えをとった。

 

 「五月雨」

 

 抜刀したと同時に無数の斬撃がルーシャを襲う。残った1人は魔法を唱えるために魔力を貯めていた。

 

 「ライトニング!」

 

 ルーシャの頭上に青色の魔法陣が浮かび上がり、そこから雷か落ちる。

 しかし、固い障壁に対しては、雨の日の傘のように雷が飛び散るだけだった。

 煙が舞い上がる中、ルーシャは羽を身を守るように固めて、一気に広げる。

 黒い羽の刃が四方八方に飛び散った。その羽のー枚一枚が、クロヤの放つ中級魔法のライトニングより殺傷能力を秘めていた。

 刀で羽を弾くたびに手が痺れるような感覚が走る。魔力量の差は、格闘技における体重差に近い。クロヤとルーシャは10倍以上の差があるため、同じ初級魔法のファイヤーボールでも、ピストルとミサイル並の差が出る。

 

 だがクロヤにとってはたかが10倍だ。自分が有利な状態での戦いの方が少ない。

 

 人間はエルフよりも魔法が不得意だ。

 人間はドワーフよりも武器が作れない。

 人間は鬼人よりも力がない。

 人間は獣族よりも俊敏力がない。

 

 だけど人間には、他の種族を凌駕する、成長力がある。

 人は死地を潜りぬければより一層強くするのだ。

 

 「感謝するぜ、クソ親父。正直学園なんかにいる奴に期待はしていなかったが、俺はまた強くなれそうだ」

 

 アイザックに出された『依頼』をこなすためにも、強くなくてはいけない。

 

 「もう――ぐしゃぐしゃになっちゃえ」

 

 ルーシャが右腕を抱えると強大な魔力が集約されていく。ガレキや石が宙に浮くほどの力だ。

 ゴォォォと低い唸りで大気が震える。

 

 「デスハンド!」

 

 黒い魔力の塊から無数の手が伸びる。それらはクロヤに一斉に襲いかかった。

 

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