キノの旅 ~the Crossover World~   作:三九式機龍

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緋弾のアリア編
武装探偵の国『一日目』


一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)とその運転手は、とても広大な面積を持つ国の大通りを走っていた。

運転手は精悍な顔つきをしており、どこか無表情でどこか中性的だった。

どうやら旅人らしく、体はかなり引き締まっている。太腿の位置にリボルバー型のパースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)のカノンを吊っていた。(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)

モトラドの荷台にはたくさんのキャリアが装備されており、運転手のものだと思われる茶色のロングコートが一緒に結び付けられていた。

運転手とモトラドは交差点に差し掛かり、信号が停止を示していたのでブレーキを掛ける。

それなりに技術が発展しているらしく、周りにはたくさんの車やトラックが黒い煙をもうもうと立ち昇らせていた。

入国してしばらくは、トラクターが公道を走っていてもおかしくはない農業地帯だったのだが、中心部になるにつれてたくさんの超高層ビルが目立ってきている。

そのビル群のなかに、運転手はあるものを見つけた。

 

「うわぁ……。あの赤色の尖ったタワーみたいな建物はなんだろうね?エルメス」

 

運転手はモトラドに喋り掛けた。

このモトラドは名をエルメスと言うらしい。

エルメスは意外そうに、

 

「キノでもわかんないことがあるんだ?」

 

と少し、驚いたそぶりを見せた。

キノと呼ばれた運転手は、

 

「それはそうだよ。知っていることは知っているし、知らないことは知らない」

「キノならそう言うとおもった」

 

と返事を返した。

一つ、間を置いたのちに、

 

「あれはおそらく、電波塔だよ。作られてから五十年は経ってるように見えるね」

「ふうん。電波塔ってことはまだ電波をだしてるのかな」

「いや、見た感じ、もう使われていないね。役目は横の倍以上高い、銀色のタワーに移ったんだと思う」

「へぇ」

 

キノは信号が青に変わったのを確認し、また走り出した。

破裂するような大きなエンジン音を出すエルメスに気が障ったのか、周りの車はわずかに距離を置かれてしまった。

次の信号で停止した時にキノは思い出したように、

 

「ねぇ。エルメス」

「なに?キノ」

 

キノは素直な疑問を口にした。

 

「なんでそんな詳しく知ってるの?」

「それはモトラドのみぞ知る」

 

 

 

 

 

 

 

キノとエルメスは距離が何百メートルかはある、大きな橋を渡ろうとしていた。

天気は少し曇ってきており、今にも一雨降りそうな雰囲気だった。

ちょうど橋の端辺りにさしかかった時、キノは入国審査の話題を持ち出した。

 

「そういえばさっきの、入国審査官の人達……」

「うん」

「……色々と凄かったね……」

「だね」

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り……

 

「ああん!?入国審査だぁ!?」

 

キノとエルメスは入国審査を頼もうとしたのだが、開口一番にその審査官は大声を上げた。

ごく丁寧に声をかけたつもりだったので、何故、癇癪を起こしたのかわからなかった。

役所の入り口で暇そうにソファにもたれ掛った、大柄な長刀を背負った女性の入国審査官がいたので声を掛けたらこの有様だった。

キノは一応、

 

「すいません。何か気に障りましたか?」

 

と問いかけた。

すると審査官はイラついたまま、

 

「ウチは夜勤で疲れとるんじゃ!ホレやのにクッソアホ臭い、入国審査ぁ!?ウチのことなんやと思っとるんやぁ!」

「あちゃー。このお姉さん、かなり酔ってるね。どうする?キノ」

「大丈夫。何とかする」

 

審査官は酒の臭いを漂わせながら、子供のように続ける。

 

「どうも申し訳ありませぇ~んww!本日の審査は終了致しましたぁ~ww!一昨日来やがりな!」

 

審査官は言い終わると同時に胸元から葉巻とライターを取り出すと、そのまま火をつけて一人、ふかし始めてしまった。

並の人間であれば当の昔に憤慨し、別ルートを探しているだろうが、キノはあくまでも冷静だった。

 

「ではどこの窓口に、行けばいいんでしょう?」

「あっこの綴んとこにでも行ってこいや!」

 

審査官は向かいの窓口に、だるそうに座っている女性の審査官を顎で指した。

 

「どうも」

「どうもね~」

「ケッ!ったく」

 

キノとエルメスは言われた通りに綴と呼ばれた審査官の窓口へと向かった。

こちらに向かってくるキノとエルメスに気付いた綴は無骨に嫌そうな顔を見せた。

 

「まーた蘭豹のやつ、こっちに回しやがったなぁ……。アタシだって夜勤だってのに……」

 

キノは特に気にしているようなことはなかった。

先ほどと同じようにキノは、

 

「どうも。向かいの方にこちらに行けと言われたんですが……」

「あぁ、わかってるわかってる。そこ。座りな」

 

キノは言われたように、エルメスを隣にスタンドで立たせ、指された椅子に座った。

 

「キノ、この人はちゃんと仕事してくれたね。さっきの男みたいな女の人と違って」

 

バンッ

 

「エルメス」

「ごめん、ごめん」

 

綴には耳に入っていないのかだるそうに席を立ち、奥に乱雑に置かれている書類の中から一枚の紙を手にし、また元の位置へと腰かけた。

そして濁った目で綴は質問を始めた。

 

「おたくら名前は?」

「ボクはキノと言います。こちらは相棒のエルメス」

「どうもね」

「喋るモトラドね……。中々、めんどくさいイレギュラーなモン引き連れてんじゃないか」

「よく言われるよ」

「褒められてないからね?エルメス」

「ふん……。まぁ良い。んで?滞在日数と目的は?」

「滞在日数は三日間、目的は観光と旅の消耗品の買い出しです」

「はいはい。了解っと」

 

綴はひとしきり書類に記入した後にペンを置く。

 

「はい、終わったよ。さあ帰った帰った」

 

かなり適当にあしらわれているが、キノは今までに行った国でも稀にこのような場合があったので不思議には思わなかった。

それよりも、キノはどの国の入国審査時にも問われる質問が一つ足りないことに気付き、怪訝に思った。

一応、確認のために、

 

「すいません。パースエイダーの検査とかはないんですか?」

「パースエイダー……?あぁ銃器のことね」

 

綴は何でもないようなといった振る舞いで返事を返す。

『この質問が来たからにゃヤラなくちゃな』と彼女は呟いたが、エルメスにしか聞こえてはいなかった。

 

「キノ、頑張ってね」

「なにを?」

 

キノはエルメスの言葉の意味がわからなかった。

そんなキノを尻目に綴は説明を開始した。

 

「この国はそれなりに犯罪が多くてね。結構、治安が悪いんだ。ある程度の自衛ができてもらわないと、こちらとしても対処のしようがないんだよ。……かなり引き締まった身体に無駄のない筋肉、そして俊敏そうな動作にスキのない構え……。その年の割には腕は経ちそうだが……。見てみないとわからんわな。てなわけで……」

 

彼女の口がニヤリと形を変える。

 

「お手並み拝見!」

 

そう叫ぶと同時に綴は受付の机を蹴り飛ばし、腰の黒いポーチから中型の軍用ナイフを取り出した。

キノは机が蹴り飛ばされた時点で、状態を察し、後ろに跳ていた。

勢いに任せキノに覆い被さるようにナイフを突き立てたが、寸でのところで横に回避される。

キノは態勢を立て直し、右腕で太腿のカノンを抜いたが、既に起き上がっていた綴に蹴り飛ばされてしまった。

その行動で全てを察したキノは、相手と同じように腰の緑のポーチから素早く、サバイバルナイフを取り出す。

 

「いまので、約5秒だね」

 

エルメスが状況に見合わない、どこか気の抜ける実況を呟いた。

そしてカノンが地面に触れ、重い金属音が響いた瞬間、両者は同時に動き始める。

 

最初に仕掛けたのは綴だった。

 

態勢を低く保ちつつ、敏捷にナイフを切り上げる。

キノは少しナイフを傾け、綴の一撃をいなした。

綴は切り上げた流れのまま素早くターンし、回し蹴りをキノの側頭部へと叩き込む。

 

「ぅオラァッ!」

 

バシッ!

 

またしてもキノは右腕を側頭部で構え、綴の蹴りの衝撃を吸収する。

しかし、抑えきれなかった衝撃は痛みへと変わり、キノを襲った。

 

「ッ……」

 

衝撃を見るに、綴はかなりの力で力を込めたようだ。

だが、そのおかげで綴には大きなスキができてしまっている。

これは致命的だった。

そしてやはり、キノはその一瞬のスキを見逃さない。

 

キノはナイフを左腕に移し、拳を強く握り右ストレートを打ち込む。

放たれた拳は真っ直ぐ軌道を変えず、綴の胸元へと向かう。

しかしながら、最初から綴は回し蹴りの後は、防御態勢に入ろうと計算していたのだろう。

態勢を立て直した綴は両腕を胸の前で重ね、十字を作る。こうすることで一番、威力を分散できる。

綴は衝撃に備え、目をつむった。

やがて刹那の時間が流れる。

 

 

…………

 

 

『攻撃が……来ない?』

 

 

その結果に行き着いた時、綴は瞬時に状況を理解した。

また、目を開け後ろを振り向こうとした、一閃……

首筋に冷やりとする、金属の物体が押し付けられた。

 

「どういうことです?」

 

キノは後ろから静かに問う。

目の前で攻撃を繰り出した相手が、いつの間にか背後に回っている……。

そう。キノの握り拳はフェイク。つまるところ、フェイントであった。

そして今、綴の首筋にあてられているのは、十中八九の可能性でナイフ。

それは、完全な敗北を意味していた。

だがしかし、なにも綴がフェイントを予測していなかったということではない。

 

予想ができなかった。

 

綴には、キノの拳はフェイントとは考えられないほどに力を込めているように見えた。

そのため綴の脳内では、キノの一撃は本気のストレートだと誤認してしまったのだ。

それはある種の達人芸にも見えるフェイントであった。

 

「あー……。クッソ……」

 

綴は腹立たしげに空を仰ぎ舌打ちをすると、ナイフを手から放した。

手から落ちたナイフは、敷いてあった絨毯の上にポフッっと力なく刺さった。

首筋にあてられたナイフなど気にも留めず、そのまま両手を軽く上げると、

 

「合格だよ……。降参だ」

 

キノはこれ以上、綴に戦闘する意思はないと判断し、ナイフを元のポーチへとしまった。

綴はキノがナイフをポーチにしまったことを見計らうと、勢いよくどっかりと床へ座りこんでしまった。

 

「参った……。最悪だ……」

「もちろん、説明していただけるんですよね?」

「アンタも人が悪いねぇ。ホントはわかってるんだろ?」

「大体は」

 

綴は仕方なくといった風体で話を続ける。

 

「そう。これは試験。アンタがどこまでヤレる人間か、量らせてもらった」

「やっぱりね。それで結果は?」

「やっぱりって……。エルメス、気付いてたね?」

「どうでしょう」

「結果はから言うと見事、合格だ。ここまで本気の演技をできる奴は、年下じゃあ初めて見た気がする。ウチの生徒どもに見習わせたいよ……」

「じゃあ僕からもう一つ。入国審査はの時はいつも不意打ちを?」

 

キノは率直に意見を述べた。

 

「いや、毎回こんなことしてたら、入国希望者がいなくなっちまうよ。今回だけだ」

「"マタマタ英訳"とはこのことだね」

「…………"はた迷惑"?」

「そうそれ」

「ハハッ……。まぁ、そう言わんといてくれや。久々に血が滾ってな。よいしょっと……」

 

綴は起き上がると同時に、長い伸びをした。

 

「ちなみにいつ試験だって気付いた?」

「いろいろ、匂わせる点はあったんですが確信を持ったのは、あなたがボクのパースエイダーを蹴り飛ばしたときです」

「ほう。その心は?」

「あなたもパースエイダーを持っているのに抜かなかった。あの時、抜こうと思えば抜けたはずです。その時点であなたには、明確な殺意がないと判断しました」

「ケッ……。可愛くないねぇ。ったく」

 

綴はそう言うと自分のナイフと、部屋の隅に行ってしまっていたキノのカノンとを拾い上げた。

キノも立ちっぱなしでは悪いと、吹っ飛んで上下が逆になってしまった机を元の位置に戻した。

エルメスは静かにその光景を見守っていた。

 

 

 

 

 

 

一段落がつき、国の地図を渡してキノが席を立とうとした時、綴はあることを伝え忘れていたことに気が付いた。

 

「そうだ。注意ってわけじゃあないが念のため『武偵』ってのについて説明しとくよ」

「『武偵』……ですか」

「えー、なにそれなにそれ?」

 

キノはそんなに関心を持ったようではなかった。

しかし、エルメスはかなり食いついたようだ。

 

「この国では最近、どんどんバカな犯罪者ども湧いてきててね。留まることを知らないんだ。事件の内容もよりに凶悪化してきている。そこで政府は、『警察』に準ずる第二の治安維持組織を作った」

「それが『武偵』ってことだね?」

「ご明察。理解が早くて助かるよ」

 

綴はほんの少しだけ、嬉しそうに言った。

どんな戦争に強い国でも、内政が腐敗していれば国は亡ぶ。

キノはそんな国を嫌というほど見てきた。

 

「もちろん、その武偵と警察で違いはあるんだよね」

「そりゃそうさ。まったく同じ組織作ったって対立して更に状況が悪化するだけだろうな」

 

綴は少々考え、武偵と警察の違いを述べた。

 

「基本的には警察とそう大差はない。警察と同じように武器の所持も許可されるし、逮捕権も与えられている」

「ほうほう」

「一番の特徴としては、武偵は警察と違い民間の依頼でも引き受けるってところだな。大きな事件から日々のお困り事。バリエーションは人探しからテロリスト捕縛まで、ピンからキリまでだな。だが、個人での依頼が多く、いろいろな奴から恨みを買いやすいってのが難点だな」

「キノも結構、似たようなもんだね」

「それは師匠譲りだよ……」

 

今度はキノが質問をした。

 

「あなたもその武偵なんですよね?」

「だね。ただの入国審査官がキノと同じくらい戦えるなんてありえないよ」

 

キノは嫌味で言ったつもりはなかったが、エルメスの放った一言が綴を憤慨させてしまった。

 

「バッカ!お前、アタシが万全の状態だったらアンタなんて、三秒ももちゃしないよ!」

「どうだろうねぇ」

「よぉし、モトラド。廃車にされるか、分解されるか選びな」

「すいません。こいつの言動はすべて無視していただいて構いません」

「モトラド。お前もこの礼儀正しい主人を見習え」

 

エルメスに嫌味を返すと綴は大きく咳ばらいをした。

大方、綴はこれ以上キノ達と関わるのに飽きたのだろう。

早口で答えた。

 

「その通りだ。アタシは武偵兼ね審査官だ。さっきあんたに毒吐いた向かいの蘭豹も武偵。ま、アタシらは正規の審査官じゃないんだよね」

「というと?」

「依頼だよ。審査官からの」

「ああ」

 

キノは合点がいった。

 

「いつもは、武偵を育成する『武偵高』って場所で教師やってるんだ。そうだ。見学してみる気はないかい?」

 

綴の誘いにどうしようかと迷ったがキノは、

 

「迷惑じゃないでしょうか?」

「ああ、いいよいいよ。武偵高に客人が来るかもしれないって電話入れとくから」

 

と言い切られてしまった。

 

「さーて。これでほとんどの説明は出来たが……。他に何か?」

「いえ、大丈夫です」

「ありがとねー」

「そいじゃ、良い滞在を」

 

綴は形だけだが、キノとエルメスを見送る。

キノがエルメスに乗り空を見上げると、太陽が既に中ごろを過ぎていた。

アクセルグリップが回されキノが走り出したのを確認すると、綴はすぐに役所内の自分の席へ着く。

 

「ああーーーー。疲れたーーーー」

 

とても審査官とは思えない格好で悪態をついていると、向かいの蘭豹が嬉しそうに近づいてきた。

 

「お疲れさーんっと」

「お前なぁ。アタシが肉体労働は向いてないって知ってるだろ?」

「そういうなや。おかげでウチはめっちゃオモロイもん見れたんやで?」

「なにをだよ」

「綴が下負けするとこや!こりゃあ、しばらくは話のネタに困らんで!」

「ああ、そうですか……」

 

蘭豹は満足げな表情で、元の席へと戻って行った。

この国は一日に二人以上の旅人が来たことはほとんどない。

よって綴と蘭豹は、また緊張感のないだらだらとした状態にもどった。

 

一分ほどの時が過ぎる。

 

綴はごく最近、耳にした音を聞いた。

 

「……この腹の立つモトラド音は……」

 

綴は恐る恐る、入口の方を窺う。

案の定、先ほど見送ったはずのキノがこちらへと歩いてきていた。

 

「もぉーーーー!!今度は何だ!!チクショウ!!さっきの報復か!?」

「いえ」

 

キノは自然な流れでこう続けた。

 

「この国の有名な食べ物はなんでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

時はまた元に戻る。

先ほどよりも空はかなり薄暗くなっており、夕立が来てもおかしな状態ではなかった。

 

「でも何より一番驚いたことは、キノの最後の質問だよ」

 

エルメスはのんびりとした口調で話す。

 

「仕方ないさ。ボクの生きがいは食べることだからね」

「何でそんな食い意地、はった性格になっちゃったんだろうねぇ」

「さあね」

 

キノは既に橋を渡りきり、またゴミゴミとした町の中心部へとやってきていた。

様々な広告や看板などが目まぐるしい速さで、通り過ぎていく光景がしばらく続く。

三つめほどの交差点を右に曲がると、丁度いい駐車スペースのあるベンチが目についたのでそこに向かう。

駐車場に着いたキノは、エンジンを切るとベンチの横へエルメスをスタンドで立たせ、腰を下ろした。

 

「それにしても『武偵』かぁ」

「どうしたの、キノ?そんな感慨深げにしちゃって」

「いや、武偵高って場所があるって、さっきの人が言ってたよね」

「それがどうしたのさ?」

「『高』が付いてるからにはきっと高校なんだろうね」

「だろうね」

「そこに通ってる子達は制服を着てるんだよね」

「だろうね。ていうかどうしちゃったのさ。暑さで脳でもやられたの?」

 

キノはエルメスも予想外なことを言った。

 

「……イイなぁって」

「何が?」

「…………スカート……」

「………………」

「………………」

「……流石にスカートで旅は出来ないよ」

「……残念だ……」

 

キノはベンチの周りを、一周するように眺める。

今見てもそうなのだがこの国の中心部に移動してきてから、キノはあることをずっと思っていた。

右を見れば人、人、人。左を見れば人、人、人。そして、前の車道を見れば車、車、車。

 

「それにしても人口密度が高い……」

 

そう、この国はとんでもなく人口密度が高いのだ。

ただでさえ気温が高く、空が曇ってジメジメしているのに、人口密度が高いという不快要素。

キノはワイシャツの一枚に下着とパンツしか着ていないのに、サウナにいるかの如く汗でグッショリだった。

 

「暑い……」

「例えるならどれくらい?」

「この熱気に押しつぶされるような暑さは例えられないな」

 

キノは自分のワイシャツの一番上のボタンを外し、襟のあたりを持ってバサバサと扇ぐ。

そんなキノをエルメスは茶化した。

 

「いっそ、下を全部脱いでワイシャツだけになったらいいと思うよ」

「出来ないよ。そんなおかしな格好」

「でもこの国の"アキハバラ"って呼ばれてる神域の一部の住民からは、かなり神聖な衣装として崇められてるそうだよ」

「それでも遠慮しておく。第一……」

「第一?」

 

キノはほんの少しだけ微笑み、

 

「武器を身に着けられない」

「キノに羞恥心という言葉はないんだね」

 

エルメスは呆れ半分、感心半分で返した。

キノは否定も肯定もせずに続ける。

 

「万が一、襲われたときに武器がなかったら、羞恥心の前に死んじゃうからね」

「だったら裸にワイシャツを着てホルスターをつければいいよ」

「なんというか……。新手のいやらしさがあるね……」

「どうどう?」

「それだとワイシャツの丈のあまりがかさばって、カノンが出しにくくなっちゃう」

 

キノは至極、真面目に代案を考える。

そして、キノの中での最善策を思いつく。

 

「それくらいなら、裸にホルスターだけ着けた方がいいかもね」

「ゼッタイヤメテ。キノが刑務所に入る姿は見たくない」

 

 

 

 

 

 

やがて日も落ち、予想通りの大雨と夕立になってきたので、キノとエルメスは空いていそうなホテルを探すことにした。

キノはエルメスをしばらく走らせると、手近な高層ホテルを見つけ、すぐにチェックインをした。

ホテルマンにエルメスを部屋に入れてもいいかと聞いたが、

 

「ええ。どうぞ」

 

と笑顔で答えてもらったため、そのままエルメスを引きエレベーターに乗った。キノ達にあてられた部屋は最上階の35回であったため、しばらくの間待機した。

チーンと軽い到着を知らせる音が鳴り、キノとエルメスはエレベーターを後にした。

キノは長い通路を通り抜け、指定された部屋のカギを開け室内に入る。

 

「ふー。中々、今日は疲れたよ」

 

キノは白の綺麗なシーツのベッドに腰を下ろした。

 

「お疲れさん。今後の予定は?」

「取りあえず、明日は武偵高に行ってみるよ。退屈しのぎになるといいけど……」

「なんだか、あんまり乗り気じゃないね」

「まあ……。いろいろとね……」

 

キノはエルメスの荷台から、荷物をほどくと部屋の隅にまとめた。

そしてロングコートをスタンドに掛けると、出口へと向かった。

 

「キノ?どこ行くの」

「夕食がてら、審査官の人が言っていた"スシ屋"って場所にでも行ってくるよ。留守番よろしくね」

「りょーかーい」

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、満足げにキノが戻ってきた。

 

「キノ、『スシ』はどんな感じだった?」

「生の魚を、酢に着けた米を丸めた上に乗せた感じの食べ物だったよ」

「それで肝心のお味は?」

「中々美味しかったよ。特に"ショウユ"っていうタレに付けて食べるのが絶品だった。あれを買って遠くの方で売ればそれなりの値段になると思う」

「さようで」

 

その後にキノは、バスルームでシャワーを浴びた。

特にすることもないし寝るのにはちょうどいい時間だったので、キノは風呂を出た後にナイトウェアに着替えると、すぐにベッドへ入ってしまった。

横の電気スタンドを消すと辺りは一気に薄暗くなった。

キノは、まだカーテンから漏れている街中の光を見ると、

 

「すごいな。この国の人はみんな夜鷹なのかな」

「帰宅ラッシュかもね。自由なキノとは違ってみんな忙しいんだよ」

「そうかも。でも……」

 

キノは目を閉じ答える。

 

「『自由』であることは同時に、とても『不自由』でもある」

 

 

 

 

 

 




どうも。三九式機龍です。

冷やし中華始めました。の如く新作始めました。

ここまで見ていらっしゃる方はもうお読まれになったと思われますが、見ての通りこの作品はキノの旅と他様々な作品とのクロスオーバーです。

恐らく、一つの章につき三話ほどで一つの作品とクロスし、各話『一日目』『二日目』『三日目』という構成になります。

そしてあらすじでもありますが、一応、この作品のテーマは『出会い』です。

なのでクロスオーバーした作品のキャラとの掛け合いが多くなると思われます。

そのつもりでお願い致します。

ではでは。


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