2人の夢の軌道   作:梨善

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〜前回のあらすじ〜
スクールアイドル部設立の申請に生徒会室へ向かった和哉たち。
しかし、生徒会長のダイヤに拒否されてしまい、途方にくれるのだった。


#5 後輩がいました

「はあ、前途多難すぎるよ」

 

放課後。

俺は千歌と曜とバス停の前の防波堤に座っている。

今日は天気も良いし、なにより風が気持ちいい。

海の上ではウミネコも元気に鳴いていて、それがまた俺の心を落ち着かせてくれる。

 

「そりゃμ'sのニワカだから、怒られるだろうさ」

「だって!あれUに見えたんだもん!はあ、部活立ち上げれないよ· · ·」

 

肩をガックリと落としてしょげている千歌。アホ毛も元気がなさそうだ。

 

「じゃあ、千歌ちゃん。やめる?」

 

曜が少し意地悪っぽく千歌に言うと千歌は息を荒らげて即答する。

 

「やめない!」

「だよね!」

 

2人はいつものやり取りをしている。

俺は近くに寄ってきたウミネコに持っていたえびせんをあげて、餌付けを楽しんでいた。

 

「あ!花丸ちゃんだ!おーい!」

 

千歌の声に驚いてウミネコは飛び去っていった。

 

あぁ・・・。

 

「うはぁー。やっぱりかわいい」

 

振り返ると背が低く、茶色の髪をセミロングにした女子生徒がいた。

なんというか、絵に書いた美少女だ。

 

「あ!ルビィちゃんもいる!おーい!」

 

千歌はにこにこ笑いながら手をぶんぶん振る。

確かに木の後ろに誰かいる。

 

ん?ルビィ?もしかして· · ·。

 

千歌はカバンから飴を取り出して木の方へ寄っていく。

 

「ほらー。こっちだよー。怖くない怖くなーい」

 

木の後ろからひょこっ、と顔を出したのは赤い髪をツインテールにした女子生徒。

飴につられ、ゆっくりと千歌に近づいていく。

手を伸ばし、飴を取ろうとするが掴む寸前で千歌は飴を取られないように引っ込める。

それを何度も繰り返し、少女をおびき出す。

というか、高校生に飴で釣る作戦が成功するなんて· · ·。

 

「とりゃー!」

「あ!」

 

千歌は飴を天高く放り投げる。

少女は切なそうな声を出して、飴を追って空を見上げる。

 

「捕まえた!」

「うゅっ!?」

 

千歌に捕まった少女はバタバタ暴れ、千歌の腕の中から逃げようとするが、抜け出せない。

かぽっ、と少女の口に投げた飴が綺麗に入る。

飴を舐め始めると抵抗が無くなっていき、千歌に抱きつかれたまま、美味しそうにしている。

 

「千歌、離してやりなよ」

「ちぇー」

 

千歌は飴を舐めている少女を離す。

少女は俺を見るとぎょっ、と目を見開く。

 

「和哉くん!?」

「やっ。久しぶりだね、ルビィ」

 

彼女は黒澤ルビィ。

内浦の良家である黒澤家の次女で、生徒会長黒澤ダイヤの妹だ。

ダイヤちゃんとは違い、小動物のような子で赤い髪をツインテールにしている。

 

「2人は知り合いなの?」

 

曜が後ろから尋ねる。

 

「まあね。ルビィのお姉さんの友達の繋がりで。結構前からの知り合いだよ」

 

説明すると、ルビィもこくこく、と頷く。

 

「ルビィちゃんに男の人の知り合いがいるなんて知らなかったずら」

「ずら?」

「あ、いいえ。なんでもないです· · ·」

 

俺が『ずら』と言う語尾に反応すると少女はしゅん、とする。

恐らく、ルビィの友達だろう。

語尾にずらってつくのは方言が強いのかな?

 

「えっと、俺は北野和哉です。共学化テスト生なんだ。学年は2年だけど、この学校では1年生だから。よろしくね」

「あ、はい!おら· · ·じゃなくて、私は国木田花丸です。よろしくお願いします」

「花丸ちゃんね。よろしく」

 

挨拶をすると、服の袖がくい、と軽く引っ張られる。

ルビィが引っ張っていたようだ。

 

「マルちゃんはね、中学校からのお友達なんだ」

 

嬉しそうに笑うルビィ。

 

そっか、人見知りで臆病なルビィにも大切な友達ができたんだ。

 

そう思うと自然にルビィの頭を撫でていた。

 

「曜ちゃん· · ·。ひそひそ· · ·」

「だね· · ·。うんうん· · ·」

 

千歌と曜が何やらこそこそ話しているが、今は気にしないでおこう。

それに、バスもたった今来た。

全員バスに乗り、座席に座ると千歌は1年生2人に話しかける。

 

「ねぇ、2人とも。スクールアイドルやってみない?」

「スクールアイドル?」

 

花丸ちゃんはなんで?とでも言いたげな顔で聞き返す。

 

「そう!2人ともかわいいから人気出るよ!」

「い、いえ!おら· · ·マルには図書委員の仕事があるし」

「そっかぁ、ルビィちゃんはどう?」

 

千歌に貰った飴を手に握ったまま、少し驚くと俯いて暗い顔をする。

 

「ルビィは· · ·」

「ルビィちゃん、ダイヤさんの妹ずら」

「ダイヤさん?生徒会長の!?」

 

驚く千歌。

確かにダイヤちゃんとルビィはあまり似てないし。髪の色だって何故か全然違う。

 

「何故か嫌いだしね、スクールアイドル」

 

ここで俺が突っ込むのは良くないよな。うん。

というか、あれを見て嫌いって思う?普通。

 

「ん?ということはルビィちゃんのお姉さんと知り合いってことは、カズくん、ダイヤさんと知り合いだったの?確かに朝、2人知ってる風な話し方してたし・・・」

 

千歌が何か思い出したかのように俺に尋ねる。

 

「うん。果南ちゃんと遊んでるとこに俺も呼ばれてね。ダイヤちゃんともう1人いたんだけど、その人は留学して· · ·」

「そうなんだ。寂しいね」

 

曜が少し気まづそうに話に乗る。

 

· · ·留学から帰ってきて、うちの理事長やってますとは流石に言えない。

 

「えー!なんかずるい!私も誘ってくれればよかったのに!」

「あー。なんというか、ダイヤちゃんは千歌みたいな騒がしいタイプ苦手だし、果南ちゃん気を使ったんじゃない?」

「どーゆー意味!?」

「そのままだよ」

 

千歌とぎゃーぎゃーいつものような口喧嘩を曜は笑って、1年生の2人は戸惑ったように見ていた。

 

「あ、花丸ちゃんたちはどこで降りるの?」

 

いきなり千歌は花丸ちゃんに話しかける。

花丸ちゃんは今の今まで俺と口喧嘩をしていたのにいきなり話をふられ、驚いている。

 

「えっと、沼津までノートを届けに行くところで」

「そっか、沼津までね。じゃあ、俺と曜は最後まで一緒だよ。ってノート?」

 

入学早々風邪でも引いて学校に行けてない子がいるのだろう。

なんというか、ツイてない。

 

「実は入学式の日のホームルームで自己紹介があって、そこで津島善子ちゃんっていう子が、堕天使とか、ヨハネとか、難しいこと言ってて」

「あれかな。中二病ってやつ?」

 

曜が花丸ちゃんに聞くが苦笑いでよく分からない、と返された。

 

というか、中二病で堕天使でヨハネで津島善子って、完全にあいつじゃないか。

 

「それ以来、学校に来なくなっちゃったずら」

 

不登校なのかよ!あの自称堕天使!

 

千歌と曜も苦笑いだ。

 

「って!もう家の近くだ!また明日ね、みんな!」

 

千歌はバスから降りるとしばらく外で手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バスに揺られること30分ほど、ようやく沼津に着いた。

曜の家は俺の家と反対方向で、ここでお別れだ。

曜が元気よく走っていくと俺は1年生2人に話しかける。

 

「ねえ、俺もついて行っていいかな?」

「いいかもしれないですけど、善子ちゃん驚くんじゃ」

「大丈夫。あいつとは中学同じでよく絡まれてたから」

「なるほど。知り合いがいるって分かれば善子ちゃんも学校に来てくれるかもしれませんね」

 

俺は2人の後ろを付いていきながら何を善子に話そうか考える。

 

「和哉くん」

 

前を歩いていたルビィが振り向き、俺に声をかける。

 

「津島さんて中学生の時はどんなだったの?」

「んー。変なやつだけど、根は真面目でよい子だったよ。堕天使は初めて会った時からずっと言ってたよ」

「そうなんですね。善子ちゃん、変わってないずら」

 

ポツリと呟く花丸ちゃん。どうやら花丸ちゃんも善子と知り合いのようだ。

 

「花丸ちゃんも善子と仲良かったの?」

「どうなんでしょう。幼稚園が一緒でよく遊んでたんですけど、今の善子ちゃんはおらのこと面倒って思ってるかも· · ·」

「花丸ちゃん· · ·」

 

寂しそうな表情をした花丸ちゃん。

ルビィもどうしよう、とあわあわしている。

 

「そんなことないよ。きっと花丸ちゃんとまた会えて喜んでる」

「そうだと、嬉しいです。あ、ここです」

 

花丸ちゃんに言われ、立ち止まると、少し背の高いマンションがある。

ここが善子の家らしい。

なんだかんだ中学の時はよく善子と一緒にいたが、家までは知らなかった。

 

マンションの階段を登り、1室の扉の横で止まると、花丸ちゃんがインターホンを押す。

 

『はい?』

 

すぐに返事が帰ってくる。

 

「善子ちゃんのクラスメイトの国木田です。善子ちゃん?」

『ズラ丸?』

 

声の主は善子だった。

実際半信半疑だったが、まじで不登校のようだ。

 

「うん。ノート持ってきたよ」

『そう。開けるから待ってなさい』

 

通話が切れ、扉の鍵が開く音がする。

 

「ズラ丸」

 

善子は扉からひょこっ、と顔とノートをだす。

 

「はい。じゃあ、これは今日の分ずら」

「うん。いつも悪いわね」

「そう思うなら学校に来ないとね」

 

俺は謝る善子に口を出す。

 

「へ!?せせせせせ、先輩!?どうして!?」

「これ見ればわかるよ」

 

善子に自分の生徒手帳を見せる。

 

「え、浦の星の共学化テスト生?先輩が?沼津の高校に行ったって聞いてたけど」

「うん。色々あってね。それで、なんで不登校なの?」

「· · ·先輩には関係ないわ」

 

理由を話すつもりは無いらしい。

まあ、理由は花丸ちゃんに聞いてるけど。

 

「自己紹介でヨハネをやったんでしょ?それで不登校?」

「ヨハネじゃないわ!私は善子!何なの!バカにしに来たの!?早く帰りなさいよ!」

 

バタン!と勢いよく扉を閉めてしまった善子。

彼女は思った以上に重症だったようだ。

 

「和哉くん、今の言い方は酷いんじゃ· · ·」

 

ルビィが小さく言う。

 

「うん。反省してる。それに、正直驚いてて· · ·。善子が自分で『ヨハネ』を否定するとは思ってなかったんだ」

「それはおらも少し思いました。善子ちゃん、小さい頃は自分を天使って言ってて。だから、再会した時は変わってなくて嬉しかったずら。でも· · ·」

 

続きを花丸ちゃんは言わなかった。

3人とも扉の前に立ち尽くしたままだ。

 

「仕方ないね。今は善子が早く学校に来れるようになるのを応援するだけしかできない。今日は帰ろうか。2人は内浦でしょ?バス無くなるよ?」

「あ、はい。じゃあ、今日は帰ります。行こ、ルビィちゃん」

「う、うん。またね、和哉くん」

 

2人を見送り、俺はスマホを取り出し、メールアプリを起動させる。

宛先は『津島善子』

内容は短く。

 

『無神経すぎた。ごめん。でも、俺も花丸ちゃんもルビィも学校で待ってるよ』

 

送信完了と表示されると、スマホをしまい、家に向かってゆっくり歩く。

千歌のスクールアイドルの件、善子の不登校の件。

この2つをどうしよう、と考えながら夕焼けの道を歩くのだった。




スクールアイドル部の設立は絶望的。
後輩の津島善子は不登校。
和哉の周りには問題が山積みで・・・。
これをどう切り抜ける?

「何とかするし、何とかやるしかないよ」

強気ですね。

「俺にできることなんて限られてるからそれをやらないと」

ほほぉ。
千歌さんも喜びますよ。

「うーん。まあ、喜んでくれるなら嬉しいかも」

今回もありがとうございます!
賢いかわいいエリーチカ様、☆9評価ありがとうございます!
次回もお楽しみに!
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