ダイビングを経験し、大切なものを掴んだ梨子。
そして彼女は1つの答えを見つけた。
「えぇ!?嘘!?」
「ホントに!?」
次の日の放課後。
私は高海さんと渡辺さんに昨日の夜決めたことを伝えた。
「ええ」
伝えたことは2人が始めるスクールアイドル。
その作曲をやることだ。
昨日のお礼もあるのだが、どちらかと言うとピアノのリハビリになればいい、と思ったからだ。
「ありがとう・・・。ありがぶへっ!」
感極まった高海さんは泣き出しそうな声で私に勢いよく抱きつこうとしてきた。
だが、私はそれを避ける。
「待って。勘違いしてない?」
「え?」
倒れかけた高海さんは近くにいたクラスメイトに抱きついていた。
「私は曲作りを手伝うって言ったのよ。スクールアイドルにはならない」
「えぇー!」
「そんな時間はないの」
「そっか・・・」
私の言葉に納得した高海さんはしょぼん、とする。
「仕方ないよ。無理には言えない」
渡辺さんも納得してくれたようだ。
ふと、後ろの席の和哉くんをチラリ、と見る。
彼は今の光景を微笑ましそうに眺めている。
・・・昨日松浦さんに言われたように彼は私に対してよそよそしい。
2人になった時は下の名前で呼ぶのだが、誰かが近くいると決まって『桜内さん』と呼ぶ。
なんだかそれがもどかしいと私は感じていた。
だったら、言うならここよね。
私は和哉くんの目の前に立つ。
彼はきょとん、とした顔をして私を見ている。
私はクスッ、と笑うとみんなの方を振り向くと、みんな和哉くんと同じようにきょとん、としていた。
「今まで話してなかったけど、私と和哉くん、幼馴染みなの」
私が言うと教室中がシーン、と無音になる。
高海さんと渡辺さんは驚きのあまり目を丸くしていた。
和哉くんの反応が気になり、振り向くとぎょっ、とした顔で固まっていた。
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」」
真っ先に声を出したのは高海さんと渡辺さん。
2人は物凄い勢いで和哉くんを囲む。
「どういうこと!?」
「そうだよ!説明して!」
2人の圧に圧倒されてしまう和哉くん。
そんな姿を今まで見たことなかったからか、とても面白い。
「い、いや。なんというか・・・。桜内さんが言ってることは」
「梨子」
「へ?」
「梨子って呼んで。いつもみたいに」
「「いつも!?」」
「り、梨子の言ったことは本当だよ。こっちに引越してくる前の友達だったから・・・」
照れて恥ずかしがりながらそう言う和哉くんはとても新鮮で思わず顔がにやけてしまう。
「よ、よーちゃん・・・。ヒソヒソ」
「うんうん。そうだね、千歌ちゃん」
高海さんと渡辺さんは2人で何やら怪しい相談事をしている。
「よしっ!」
何か決まったようだ。
高海さんは立ち上がり声を大にして言う。
「カズくんの処理はおいおいとして」
「待って。処理って何?」
「曲作りを手伝ってくれてありがとう!」
和哉くんのことは無視らしい。
少し不憫に思いながら私は高海さんに当然できているであろうモノを要求する。
「えぇ。じゃあ、詞を頂戴」
「し?」
高海さんは頭に?マークを浮かべると、し、し、し、と言いながら廊下を覗いたり、ベランダに出てみたり、自分のカバンを開けてみたり。
一通り探し終えたのだろう。
私の元に帰ってくる。
「しって何〜?」
しかもなぜかミュージカル調だ。
「多分〜歌の歌詞のことだと思う〜」
渡辺さんもそれに乗っかる。
「「歌詞?」」
「はぁ・・・」
2人の反応から察するに、歌詞はできていないようだ。
後ろで同じようにため息をつく和哉くんの声が聞こえた。
「え?ここって・・・旅館でしょ?」
学校を出て3人に連れてこられたのは立派な旅館。
名前を『十千万』
「そうだよ」
「ここなら時間気にせず考えられるから。バス停近いし、帰りも楽だしね」
いや、聞きたいのはそういう事じゃなくて・・・。
「ここ、千歌んちなんだよ」
「そうなんだ」
和哉くんの説明に少し驚く。
すると。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
何やら短く呼吸をする音が聞こえる。
私は恐る恐る、声のする方を向く。
・・・・・・居た・・・・・・。
犬だ。
しかも大きい。
犬は私を見据えたまま、綺麗なお座りをしている。
「あら?そちらは千歌ちゃんの言ってた子?」
「うん!志満ねぇちゃんだよ!」
ふと耳に入ってきた声に、少し驚き、3人の方を見ると、大人の女性が増えていた。
紹介にもあったように、高海さんのお姉さんのようだ。
「桜内梨子です」
笑顔でお辞儀をし、再び犬を見る。
犬は先ほどと同じように、お座りをしたままだ。
目をそらしてはいけない。
そらした瞬間に私は・・・、死ぬ!!
「わん!」
「ヒィいいいいいい!!?」
いきなり吠えたことに驚き、私は一目散に玄関へと入っていった。
・・・プリンと叫んだ高海さんの声は気のせいだろう・・・。
「酷すぎるよ!志満ねぇが東京で買ってきてくれた限定プリンなのに!そう思わない!」
現在、高海さんの部屋。
高海さんはもう1人のお姉さんに大事にしていたプリンを食べられてしまい、伊勢エビのぬいぐるみを抱きしめたまま御機嫌斜めだ。
プリンと叫んでいたのは本当だったのね・・・。
と、まあ、正直それはどうでもいい。
今日ここに来たのは別の目的があるからだ。
「それより、作詞を・・・」
タン!とすぐ後ろで襖が勢いよく開く。
「いつまでも取ってとく方が悪いんですー」
もう1人のお姉さん、美渡さんだ。
「うるさい!」
高海さんは持っていたぬいぐるみを投げる。
しかし、それは私の顔面にクリーンヒットする。
「甘いわ!そりゃっ!」
美渡さんも何か投げたようだが、それも私の首にスポリ、とハマる。
「・・・・・・」
「やばっ・・・」
私は無言で立ち上がる。
「失礼します」
ピシャっ、と襖を閉める。
「さあ、始めるわよ」
「よーちゃん、もしかしてスマホ変えた!?」
「うん!進級祝い!」
「いいなぁー」
この人たちは・・・。
私は畳をドン!と踏みつける。
そして、顔をずいっ、と近づける。
「はーじーめーるーわーよ」
「「・・・はい」」
顔についていたぬいぐるみはころり、とその場に転がった。
さて、和哉くんは?
やけに静かね。
そう思った私は部屋を見回すと、彼は部屋の隅に座ったまま船を漕いでいた。
私は彼をさすり、起こす。
ようやく作業の始まりだ。
「うーん・・・」
高海さんはペンを握ったまま唸り続ける。
何か思いつくと紙に書き、それを消しを繰り返し、かれこれ数十分は経つが、進歩は0だ。
「やっぱり恋の歌は無理なんじゃない?」
高海さんが詰まっている原因はこれにある。
恋の歌。
アイドルと言えば恋の歌。
それを高海さんはやろうとしていた。
「やだ!μ'sのスノハレみたいなのを作るの!」
二言目にはこれだ。
高海さんにとってμ'sはとても大きな存在のようだ。
「そうは言っても、恋愛経験はないんでしょう?」
「なんで決めつけるの」
「あるの?」
やや煽るように言ってみる。
「えっと・・・」
高海さんは視線をチラチラどこかへ運びながら言い淀む。
「・・・ないけど」
「やっぱり。それじゃ無理よ」
「ま、千歌だしね」
「なにを!」
和哉くんの余計な一言で話がまた脱線してしまう。
「もう!余計な事言わないの!詞が進まないわ!」
なんとか宥めたが、また高海さんは別のことに興味を持つ。
「でも、ていうことは。μ'sの誰かがこの曲を作ってた時、恋愛してたってこと?あ、ちょっと調べてみる」
高海さんはノートパソコンを開き、キーワード検索を始める。
「μ'sが当時恋愛してたって噂は聞いたことないけど」
「ちょっと!なんでそんな話になるのよ!作詞でしょ」
「でも気になるし!」
「もう・・・」
なかなか進まない作業に私はため息をつく。
「千歌ちゃん、スクールアイドルに恋してるからねー」
「はあ、仕方ないかな」
「本当に」
「「「ん?」」」
ここでパソコンで検索に夢中になっている高海さん以外の3人は気づいた。
きっと、これだ。
「何?」
「今の話聞いてなかった?」
「スクールアイドルにドキドキする気持ちとか、大好きって感覚とか」
「千歌ならそれが書けるんじゃないの?」
「あ・・・」
高海さんの表情は明るくなり、笑顔が生まれる。
「うん!書ける!それならいくらでも書けるよ!えっと・・・!まず、輝いているところでしょ。それから!」
高海さんはペンを再び持ち、単語を呟きながら文字を綴っていく。
「やっぱり千歌ちゃんだね」
「そりゃね。やること決まったら後は一直線。いい意味で単純だよ」
「それは和哉くんもね」
「なんだと!?」
和哉くんと渡辺さんが冗談を言いながら高海さんを見守る。
私は何も話さず、高海さんを見ていた。
文字を楽しそうに紡ぐ高海さん
まるでその姿はピアノを弾くことが大好きだった幼い私みたいだった。
その姿が、眩しい・・・。
「はいっ!」
「もう、できたの?」
「いくら何でも早くない?」
高海さんは紙を差し出している。
私はそれを受け取る。
その後ろから和哉くんもその内容を覗いていた。
「参考だよ。私、その曲みたいなの作りたいんだ」
「『ユメノトビラ』?」
「μ'sの曲だ」
和哉くんが呟く。
「私ね。それを聞いてね、スクールアイドルやりたいって。μ'sみたいになりたいって本気で思ったの!」
「μ'sみたいに?」
「うん!頑張って、努力して、力を合わせて、奇跡を起こしていく。私でもできるんじゃないかって。今の私から変われるんじゃないっかって。そう思ったの!」
「本当に好きなのね」
その言葉は私の中から自然と溢れてきたものだった。
「うん!大好きだよ!」
そして1時間もしないうちに大まかな歌詞とタイトルが決まった。
2人の曲。
2人だけの曲。
それは。
遂に詞が完成し、動き始めたスクールアイドル活動。
千歌の姿に梨子は自分を重ね、その心を締め付けていた。
「もう、あの頃とは違うから・・・」
分かりませんよ。
「え?」
梨子さんはもっとおバカになってもいいんです。
「何?私、煽られてる?」
あ、いえ。
そういう意味では。
ちょっ、待って!帰らないで!
梨子さん!?
・・・・・・・・・・・・。
えー、次回もお楽しみに!!