新曲を作り終え、ある思いが生まれた梨子。
今の自分、過去の自分、そしてこれからの自分。
梨子の選択は?
家に帰っても私は着替えず、部屋の照明も付けないまま、ベッドの上でお気に入りのクッションを抱いたままうずくまっていた。
手に持っているスマホからμ'sの『ユメノトビラ』が流れている。
何年も前に和哉くんとの繋がりを探して聞いていたμ'sの歌。
そして思い返すのは高海さんの誘い。
正直、どうしたら良いのか分からない。
ふと目に入ったのは部屋に置かれたピアノ。
立ち上がり、椅子に腰掛け、ピアノにそっ、と触れる。
白い鍵盤に手を置くとあの時のトラウマが蘇る。
ステージには1人。
観客の視線を1人で受け止める。
その視線が怖くて、私はピアノを弾くことができなかった。
ほんの少し、勇気を出して鍵盤を弾くと、大好きな音が流れる。
できる・・・。
「ユメノトビラ~。ずっと探し続けた~。君と僕との、繋がりを探し~て~た~」
歌い出しの1フレーズをピアノを弾きながら歌う。
そこでふと視線を感じた。
窓の外を見るとそこにはお風呂上がりの高海さんがいた。
高海さんは笑って手を振ったが、私は恥ずかしくて固まる。
「高海さん!?」
「そこ、梨子ちゃんの部屋だったんだ!」
「そっか。引越してきたばかりで気が付かなかった」
1度行った同級生の家が隣ということにすら気づかないなんて・・・。
私はベランダに出る。
「ユメノトビラだよね!歌ってたよね!私、大好きなんだ!あれは、第2回ラブライブ予選で・・・」
高海さんは私が弾いていた曲が好きで、μ'sの薀蓄を語りたそうにしている。
「私ね!」
少し大きな声を出してしまい、高海さんも黙ってしまう。
「私、どうしたらいいんだろう。何をやっても楽しくなくて、変わらなくて・・・」
ポツリ、と心の声が溢れ出す。
ベランダの壁にもたれ、しゃがみ込む。
何をしても上手くいかない。きっかけを探しても変わらない。
なにより、ピアノが無くなった私が嫌で。
どうしたら・・・。
「やってみない?スクールアイドル」
それでも、やっぱり、高海さんはスクールアイドルに誘う。
「だめよ。このままピアノを諦めるわけには・・・」
「やってみて、笑顔になれたら変われたらまた弾けばいい」
「失礼だよ。本気でやろうとしている高海さんに、そんな気持ちで。そんなの、失礼だよ・・・」
私はうずくまり、ベランダの影に隠れる。
「梨子ちゃんの力になれるなら、私は嬉しい。みんなを笑顔にするのが、スクールアイドルだもん・・・。んくっ・・・」
高海さんは何か苦しそうな声をだす。
私は顔を覗かせ、高海さんを見る。
私は信じられない光景を目にする。
高海さんは窓枠から乗り出し、こちらへ手を伸ばしていた。
するとグラっ、と大勢を崩し、落ちそうになる高海さん。
「千歌ちゃん!」
思わず名前で呼んでしまった。
風が吹き、高海さんが頭につけていたタオルが飛んでいく。
「それって、とても素敵なことだよ」
何で高海さんは、千歌ちゃんは、まだ知り合って間もない私にここまでしてくれるんだろう。
差し出された右手。私は。
私はその右手に手を伸ばした。
だけど、届かない。
届きそうで届かない距離がそこにあった。
「流石に届かないね・・・」
「待って!だめー!」
諦めて手を引っ込めると、千歌ちゃんはさらに乗り出し、手を伸ばす。
私もその手を掴もうと必死に手を伸ばす。
そして。
そして、届いた。
お互いの手を掴むことはできなかったけど、指先が触れる程度でも、確かに触れた。
正解なのかは分からないけど、きっと、見つかるよね?和哉くん。
そっ、とここにはいない彼に心で問いかけ、微笑む。
これが私の輝きの、夢のスタート。
side out...
輝きを見つけ、新たな道を進み始めた梨子。
彼女の青春が今、始まった。
おや、今回はみなさん忙しいようで誰もいないですね。
私だけというのは久しぶりのような気がしますね。
ではまた次回、お会いしましょう。