2人の夢の軌道   作:梨善

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〜前回のあらすじ〜
鞠莉に出された条件は困難なものだった。
和哉たちは条件をこなすために案を出し合うのだった。


#11 今できることって?

帰りのバスの中。

バスの後ろの方に4人で座る。

 

「どーしよー・・・」

 

千歌が窓ガラスにもたれながら呟く。

 

「でも、鞠莉さんの言うことも分かる。そのくらいできなきゃこの先もダメってことでしょ?」

 

鞠莉ちゃんが言ったことと梨子の言うことは最もだ。

それくらいやってのけないとこの先が思いやられる。

 

「やっと曲ができたばかりだよ。ダンスもまだまだだし」

 

しかし、目の前の課題は簡単にできることではない。

少し諦め気味に千歌は呟く。

 

「じゃあ、諦める?」

「諦めない!」

 

曜の隣に座る梨子が少し不機嫌気味に曜に聞く。

 

「なんでそんな言い方するの?」

「こう言ってあげた方が千歌ちゃん燃えるから」

「そっか。梨子はこのやり取り見たことなかったっけ」

 

1つ前の席で千歌の隣に座っている俺は梨子の方を振り返る。

 

「うん。いつもなの?」

「割とね。良くも悪くも単純だよ」

『次は伊豆三津シーパラダイス。次は伊豆三津シーパラダイスです』

 

車内放送が流れ、乗っていた浦女の生徒が停車ボタンを押す。

 

「そうだ!」

 

千歌が立ち上がると、バスはブレーキを踏み、車内が揺れる。

 

「うわっ」

 

そのまま千歌はバランスを崩し、倒れそうになる。

 

「少しは落ち着きなよ」

 

千歌の体を支え、そのまま座らせる。

 

「えへへ。ごめんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから俺たちは千歌の家、十千万で作戦会議を行うことにした。

 

「ちょっと待ってて!美渡ねぇに言って人、呼んで貰うように頼んでくる!」

 

千歌の部屋で待つこと数分後。不貞腐れた千歌が帰ってきた。

表情から察するに上手くいかなかったようだ。

そのおでこには『バカチカ』と油性マジックで書いてあり、それが割とツボで笑っていると腹に千歌の回し蹴りを貰い、うずくまっている。

 

「おかしい。完璧な作戦のはずだったのに」

「どこが?穴だらけだよ」

 

うずくまりながら、千歌の言葉を否定する。

 

「ん!」

 

千歌が睨み、また回し蹴りを食らうと思った俺は体がビクン、と跳ねる。

 

「お姉さんの言うこともわかるけどねー」

 

曜は衣装を縫いながら他人事のように言う。

 

「えー!よーちゃんお姉ちゃん派?あれ、梨子ちゃんは?」

「お手洗いに行くと言ってたけど・・・」

 

曜が答えると千歌は襖から廊下を覗く。

 

「あれ?なにやってんの?」

 

千歌の後ろ姿しか見えないが、梨子が何かやっているようだ。

でも、梨子は千歌みたいに意味の無い行動をやるような奴じゃない。

 

「もう1発、いっとく?」

「ご遠慮しておきます・・・」

 

エスパーなんですか?

怖いからやめて。

 

「それよりも、人を集める方法でしょ?」

 

曜は作業を進めながら、今日集まった本題について話を投げる。

 

「そうだよねぇ・・・。何か考えないと・・・」

「校内放送で呼びかけたら?頼めばできると思うよ」

 

曜の提案は確かにいい。

しかし今は・・・。

 

「校内放送ねぇ。ダイヤちゃんが許可すると思う?」

「思わないなぁ・・・」

 

俺の言葉に曜はため息をつく。

 

「後は沼津かな。向こうには高校いっぱいあるから、スクールアイドルに興味のある高校生もいっぱいいると思うし」

 

千歌にしてはいい提案だ。

それにしても梨子が帰ってこない。

そればかりか、苦しそうな声もする。

 

「なぁ、さっきから梨子が苦しそうな声、出してるんだけど」

 

俺が言った瞬間梨子の悲鳴が響き渡る。

 

「ヒィイイイイイイイイイイイ!!」

 

バタン!と大きな音と共に千歌のペット、犬のしいたけの悲鳴も聞こえた。

 

・・・マジで何やってんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の放課後、沼津駅北口。

ちょうど帰り時ででいろんな人が行ったり来たりしている。

俺たちはここで迫るライブの告知のチラシを配ることにした。

 

「人は少ないけど、やっぱり都会ねぇ」

 

梨子がポツリと呟く。

 

「そろそろ部活が終わった人たちが来る頃だよね」

「よーし、気合入れて頑張ろー!」

 

千歌が勢いよく走っていく。

それを見送り、俺は梨子の隣に行く。

 

「結構人見知りでしょ?大丈夫?」

 

梨子は恥ずかしがり屋でよく人見知りをしていた。

今日は見ず知らずの人に自分から話しかけなければならない。

俺はその点が不安だ。

 

「う、うん。頑張る・・・」

 

ぎこちない表情でそういった梨子。

本当に大丈夫なのだろうか。

すると早速千歌がチラシを女子高生に渡そうとする。

 

「あの!よろしくお願いします!」

 

元気よく切り出したが、スルーされてしまう。

 

「あれ?」

「意外と難しいのね」

 

千歌の結果を見て梨子は更に表情を固くする。

 

「こういうのは気持ちとタイミングだよ!見てて」

 

自信満々にヨーソローしていく曜。

さっそく、2人組の女子高生に狙いを定める。

 

「ライブのお知らせでーす!」

 

バッ!と2人組の前に飛び出て、チラシを見せる。

 

「よろしくお願いしまーす!」

「ライブ?」

「はい!」

「あなたが歌うの?」

「はい!来てください!」

 

ビシッ、と敬礼をする曜。

2人組の女子高生はチラシを受け取り、内容を見ていく。

 

「土曜かー。行ってみる?」

「いいよ」

 

2人組はそういいながら去っていった。

その後ろを曜はよろしくお願いします!と一礼して見送る。

 

・・・流石だ。

 

「すごい・・・」

「よーし!私も!」

 

再びやる気マックスの千歌が突っ込んでいく。

 

空回りしなきゃいいけど・・・。

 

千歌がターゲットにしたのは気の弱そうな黒縁メガネの女子高生。

何を考えたのか千歌はその子に壁ドンをする。

 

「ライブやります。是非」

 

キメ顔で壁ドンやって告知もやっているが、女の子は完全に怯えている。

なぜか隣で梨子が生唾を飲み込む。

 

「え?えっ、えっ、あっ・・・」

「是非」

 

顔をずいっ、と寄せ更に押し込む。

 

「やめろ」

 

見ていられなくなった俺は千歌の頭にチョップを当て止める。

女の子は千歌のチラシをひったぐり、そそくさと逃げていく。

 

「ど、どうも!」

「勝った」

「勝負してどうするの?」

「真面目にやらないと」

「チラシ持って行ってくれたから問題ないでしょ?」

 

俺と梨子の注意を笑って誤魔化す千歌。

あんなのじゃチラシは受け取って貰えても来てくれるかは怪しい。

 

「それまでの行為が問題なんだ」

「次、梨子ちゃんの番だよ」

「私?」

「また無視か」

「当たり前でしょ?4人しかいないんだよ」

 

梨子はロータリーの方を見つめ、不安な表情をしている。

梨子の見た先には曜がチラシをテンポよく配っている。

 

「それは分かってるけど・・・。こういうの苦手なのに・・・」

「無理はしなくていいよ。何なら俺が」

「カズくんは自分のノルマがあるでしょ!後、前から言おうと思ってたけど、私と梨子ちゃんで扱い違いすぎない!?」

「気のせい!」

「だったら早く行きなさい!」

 

千歌に背中を押され、渋々チラシを配る。

 

本当に梨子、大丈夫なのかな?

 

「あの!ライブやります!来てね」

 

威勢のいい声でチラシを見せつける梨子。

だが。

 

「何やってるの?」

 

チラシを見せつけている相手は映画のポスター。

 

本当に何やってるの?千歌に毒された?

 

「練習よ、練習」

「練習してる暇なんてないの。さあ!」

「ちょっ、千歌ちゃん!?」

 

千歌は梨子の背中を押し、前に突き飛ばす。

 

「ちょっ、まっ、ちょ、ちょっと!」

「うぉっ・・・」

「すいません!」

 

梨子は危うく前を歩いていた人とぶつかりそうになる。

 

「何してんの・・・」

 

ジロっ、と千歌を睨む。

 

「テヘペロ☆」

 

・・・この野郎。

 

しかし、梨子がぶつかりそうになった相手は控えめに言って怪しい。

 

何か変なポーズしてるし。サングラスにマスクだし。お団子だし。ん?お団子?

もしかして善子なのか?

割と背格好も似てるし、髪型も一致してる。それにあいつは家が沼津だ。うん。完全に善子だ。

というかあいつ不登校なのに変装して出歩くとか何考えてるんだろう。

 

梨子は恐る恐るチラシを差し出す。

 

「あ、あの・・・。よろしくお願いします!」

 

差し出されたチラシを善子は変な唸り声を上げながら見つめる。

そして、ふと俺と目が合い、不自然に肩を跳ねさせると、梨子のチラシをひったくり、逃げていった。

 

「あいつもあいつで何してるんだよ・・・」

 

頭を抱える俺とは反対に初めてチラシを受け取ってもらえた梨子は嬉しそうだった。

 

・・・梨子が笑ってるし、いっか!

 

俺もチラシ配りを始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしくお願いしまーす」

 

それぞれ別れてチラシを配っているとルビィと花丸ちゃんと出会った。

 

「あ、和哉くん」

「ルビィと花丸ちゃん。久しぶり」

 

花丸ちゃんはペコリ、と頭を下げる。

花丸ちゃんは背中に緑の風呂敷を背負っていた。

 

「2人はどうしたの?」

「うん!本を買いに来たんだんだ」

 

ルビィの本という言葉にはっ、と気がつく。

 

「あっ!クロキュスの発売日!!」

「そうだよ!」

 

しまった。盲点だった。後で買いに行かないと・・・。

 

「あっ!花丸ちゃん!」

 

千歌がこちらに気づいたようだ。

走ってこちらに向かってくる千歌。

千歌に気づき、ルビィは花丸ちゃんの後ろに隠れる。

 

「はい!」

 

千歌は花丸ちゃんにライブのチラシを渡す。受け取った花丸ちゃんはチラシを読んでいく。

 

「ライブ?」

「花丸ちゃんも来てね」

「ライブ、やるんですか!?」

 

ライブという言葉に反応したルビィはぴょこっ、と顔を出す。

 

「え?」

「はっ!うゅ・・・」

 

だが、すぐに引っ込んでしまった。

 

ルビィの人見知りもなかなか治らないなぁ。

 

千歌はしゃがみ込んだルビィに近づき、目線を合わせ、チラシを見せる。

 

「絶対満員にしたいんだ。だから来てね、ルビィちゃん」

 

千歌の優しい声を聞き、ルビィは千歌の顔を見て、チラシを受け取る。

 

「じゃあ、私、まだ配らないといけないから!」

 

走って2人の元を離れていく千歌にルビィは声をかける。

 

「ああああ、あの!」

「へ?」

 

千歌は立ち止まりルビィ達へ振り向く。

 

「グループ名はなんて言うんですか!?」

 

あ。

 

「グループ名?」

 

完全に忘れていた。

持っていたチラシを見て千歌は気づいたようだ。

自分たちのスクールアイドルグループに名前が無いことに。




一番大事なグループ名がなかった浦の星女学院スクールアイドル。
ライブ以前の問題が今になって再びやってきた。

「アイドルにとってグループ名は大事だよ!」

ルビィさんは彼女たちにふさわしい名前とか思いつきますか?

「え!?・・・ぅゅ・・・。それは先輩方が決めることだから・・・。ルビィなんかが口出ししちゃダメだもん・・・」

その通りですね。
彼女たちの運命というもので名前は決まるかも知れません。

「どういうこと?」

答えは次回です!
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