2人の夢の軌道   作:梨善

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〜前回のあらすじ〜
浦女で行うファーストライブはなんとしても満員にしなければならない。
千歌たちは沼津駅周辺でライブの告知を行い、人を集めるために頑張った。
しかし、千歌たちのグループには名前が無いことを今更気づいたのだった。


#12 運命か偶然か必然か

今日のノルマ分のチラシ配りを終え、いつもの海岸で練習を始めた、俺たち。

 

「まさか、決めてないなんて」

 

ストレッチをしながら梨子が呆れながら言う。

 

「梨子ちゃんだって、忘れてたくせに」

「言い出した千歌も考えてないから攻められないよ」

「とにかく、早く決めなきゃ」

 

曜の言う通りだ。

とにかく急いで名前を決めないと。グループとして成立しない。

「そーだよねー。どうせなら、学校の名前入ってる方がいいよね?」

「うーん。それは難しくない?」

「やる前からそーゆーこと言うのはだめ」

 

千歌は口を尖らせていう。

曜は千歌の意見に乗っかり、名前を口にする。

 

「浦の星スクールガールズとか?」

「まんまじゃない」

「じゃあ、梨子ちゃん決めてよ」

「え?」

 

話をふられた梨子は眉を八の字にして困っている。

 

「そうだね!東京の最先端の言葉とか」

 

曜も便乗して梨子を煽る。

そもそもこの内浦幼なじみズは東京に何を期待してるのだろう。

 

「え、えーと。じゃあ、3人海で知り合ったからスリーマーメイド、とか?」

「1、2、3、4」

 

なんとか案を絞り出して提案した梨子。

それに対して千歌と曜は無反応だ。

 

お前ら、話ふっておいてその反応は冷たすぎるだろ・・・。

・・・正直、あまりセンスは感じないけど。

 

「待って!今の無し!」

 

結局ストレッチ中には決まらずランニングを始める。

梨子はさっきのが効いて、少し落ち込んでいる。

 

フォローしておいた方がいいよね。

多分、今の距離感も変わるかもだし。

 

「その、悪くわないと思うよ」

「い、いわなくていいよ!」

 

だよね・・・。

 

前を走っている千歌と曜がグループ名の相談を始める。

 

「よーちゃんは何かない?」

「んー、制服少女隊!どう?」

 

敬礼までして自信満々に発表する曜。

 

「ないね」

「ない」

「そうね」

「えー!」

「じゃあ、カズくん何かない?」

 

千歌が俺にふる。

予想はしてたがいざ言うとなると何も浮かばない。

 

「うーん。sunsineとか?」

 

立ち止まって砂浜に文字を書きながらそう言うとさっそく意見がくる。

 

「良いかもしれないけど、なんだかなぁ」

「あ、綴り間違ってる」

「え!?」

「ほら、H抜けてるよ」

 

梨子と曜に指摘され、そそくさと書き直す。

正しくはsunshineのようだ。

それを千歌がケラケラ笑っているのがメチャクチャムカつく。

 

その後も意見を出し合ったが、結局グループ名は決まらず、砂浜に文字がどんどん書かれていくだけだ。

みかんとか千歌の食欲と願望でしかない。

海鮮と書いた梨子は木の枝を砂浜に立てる。

 

海鮮て何を考えてたんだ?

お腹減ったのかな?

 

「こういうのは言い出しっぺが決めるものよね」

「さんせーい!」

 

とうとう考えるのが嫌になったのか、梨子は千歌に話を投げた。

曜も同じみたいだ。

 

「うー。戻ってきたー」

「じゃあ、制服少女隊でいいっていうの?」

「スリーマーメイドよりはいいかな・・・」

「それは無しって言ったでしょ!」

「俺も制服少女隊はないかな・・・」

「嘘ー!?」

「だって・・・。ん?」

 

千歌が何かを見つけ、梨子の後ろを見つめる。

みんな千歌の見ている方を見るとそこには懐かしい文字が砂浜に書かれていた。

 

「・・・なんで?」

 

俺はポツリ、と呟くが声が小さかったのか3人には聞こえていない。

 

「これ、なんて読むの?えーきゅーあわーず?」

「あきゅあ?」

 

千歌と梨子がその文字を読もうとするが、読み方が違う。

これは・・・。

 

「Aqours・・・」

「アクア?」

 

俺が言った言葉に曜が反応して復唱した。

 

「水ってこと?」

「なんで、カズくん読めたの?サンシャインは書けないのに」

 

一言多い千歌が聞いてくる。

1発叩いてやろうかと思ったが、ぐっ、と抑える。

 

「あー・・・。いや、何となく。そう読むのかなって」

「ふーん。水かー。なんか良くない?グループ名に」

 

どうやら、千歌は気に入ったようだが、梨子はしっくり来ていないらしい。

それもそうだ。誰が書いたのかも分からない怪しい文字だから。

 

「これを?誰が書いたのかも分からないのに?」

「だからいいんだよ!名前を決めようとしている時にこの名前に出会った。それって凄く大切なんじゃないかな?」

 

こういう事は何かと縁起がいいとかですぐ受け入れる感受性を持つ千歌らしい答え。

 

「そうかもね!」

「はぁ。このままじゃ決まりそうにもないしね」

 

曜も千歌の意見に賛成のようだ。

なんだかんだで梨子も他意はないようだ。

 

「カズくんは?」

 

3人とも俺の方を見て期待の眼差しを飛ばしてくる。

俺ははぁ、と一息付く。

 

「ん。意義なし。みんなが決めたんなら俺は全力で応援するよ」

 

俺の言葉に3人は笑顔で顔を見合わせる。

 

「よーし!じゃあ、決定ね。この出会いに感謝して今から私たちは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私たちは、浦の星女学院スクールアイドル、Aqoursです!』

 

土曜日の昼下がり、内浦の町にアナウンスが流れる。

 

スクールアイドル『Aqours』。

ついこの間決まった千歌たちのグループの名前だ。

 

そんなAqoursがわざわざ町内放送をやっているかと言うと、1つ目の理由が体育館を満員にして部として認めてもらう為に多くの人に来てもらうため。

2つ目はダイヤちゃんに放送室を貸してもらえなかったから。

 

主に2つ目の理由の方が大きいけど・・・。

 

とにかく、今はAqoursのことを多くの人に知ってもらう必要がある。だから、この町内放送は俺たちにとってとてもありがたい。

アナウンスは千歌、梨子、曜に任せ、3人はマイクの前に座り、原稿を読んでいる。

だが・・・。

 

『待って!でもまだ学校から正式な許可貰ってないんじゃ・・・』

 

梨子が今更のことに突っ込む。

 

『あぁっ!じゃあ、えっと浦の星非公認アイドルAqoursです!今度の土曜14時から浦の星女学院体育館でライブを』

『非公認ていうのはちょっと・・・』

 

千歌の言葉に曜が訂正する。

 

『じゃあ、なんて言えばいいのー!』

 

オンエア中ということを完全に忘れコントを始める3人。

家で聞いてるであろうダイヤちゃんが青筋を浮かべてるのが目に浮かぶ。

 

そんなこんなでなんとか内浦に告知し、平日は沼津でグループ名を書いた新しいチラシを配る。

みんなチラシ配りに慣れ、たくさんの人に受け取って貰えるようにもなった。

その中でも、曜は別格だった。

持ち前のリア充能力で沼津の高校生たちと『ヨーソロー!』の掛け声で集合写真を撮っていた。

 

「流石よーちゃん。人気者」

「あ、あはは・・・」

 

感心する千歌に対し、俺と梨子は苦笑いするしかなかった。

 

学校でもクラスメイトのヨシミちゃん、イツキちゃん、ムツちゃんの3人がライブ当日手助けをしてくれるらしい。

音響や証明は流石に俺1人だけではどうしようもなかったため、とても助かる。

 

放課後はトレーニングと曲の調整。

梨子が作った曲をみんなで聞き、意見を出し合う。

 

「ここでステップするよりここでこう動いた方がお客さんに整体できていいと思うんだけど」

「じゃあ、私がここに動いてサビに入る?」

「間に合う?」

「いくら曜でもしんどいんじゃないの?」

「大丈夫!できるよ」

「千歌ちゃん、どう思う?」

 

振り付けの見直し中、サビ前の動きがまだ怪しく、調整中だ。

梨子が千歌の意見も聞こうと詞の細かい調整中の彼女の名前を呼ぶが、返事はない。

様子を見ると千歌は机に置いたノートパソコンの前でペンを持ったまま寝ていた。

ここしばらくの疲れが溜まっていたのかもしれない。

 

「今日はもうお終いね」

 

梨子が呟く。

 

「うん」

「だね。最近千歌頑張ってたからね。このまま寝させてあげよう」

 

俺は千歌を起こさないようにゆっくり抱き上げる。

 

「うわっ、軽っ」

「ふふん!女の子はみんな軽いのであります!」

 

曜がおどけて話す。

そうかもね、と適当に相槌を打ち、千歌を自分のベッドに寝せる。

 

「最近、千歌ちゃん頑張ってたもんね」

 

曜は千歌の寝顔を見ながら微笑む。

ちらっ、と彼女は時計を見ると声を上げて驚く。

 

「うわっ!!もうこんな時間!?バス、終わっちゃってる・・・」

「マジで?うわっ、どーしよっか」

 

バスで通学している俺と曜は作業に夢中で終バスの時間を逃してしまった。

ここから歩くとなると2時間はかかる。

 

「どうするの?」

 

梨子が不安そうに尋ねる。

 

「仕方ない。志満さんに頼むか」

 

俺は千歌の姉の志満さんにお願いしてみると快く了解してくれた。

だが、志満さんの運転する軽トラは2人乗りだ。

仕方なく曜は助手席。

俺は荷台に乗り込み、夜の内浦の海岸沿いを走っていく。

中で曜と志満さんが何かを話しているが風と揺れる音で全然聞こえない。

ボーッ、としながらスマホにイヤホンを繋ぎ、梨子の作った曲を聴く。

 

やっぱり、梨子が作る音は綺麗で好きだな。

 

赤信号で軽トラが止まり、頭を軽くぶつける。

その反動で空を見上げると今日は月明かりが眩しい。

しかし、月の周りには不穏な雲が空を覆っていた。

嫌な予感がするが、大丈夫だ。

きっと、みんななら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沼津に着き、曜の家に到着した。

入れ替わりで曜がお礼を言って降り、俺が助手席に座る。

俺の家に向かって発車してしばらく、志満さんが話しかけてくる。

 

「千歌ちゃんの事、お願いね」

「はい。言われなくても」

「あの子がのめり込んでるところ、あまり見たことないから」

 

面倒見がよく、いつも千歌のことを保護者のように見てきた志満さんだから、その言葉は俺の心にするり、と入って来た。

 

「・・・俺もです。だから志満さんたちは当日楽しみにしていてください」

「うん。和哉くんなら任せられるわ。それで、誰が本命なの?」

「なっ!?」

 

志満さんのいきなりの質問に驚く。

 

「だって、あんなに可愛い同級生3人といつも一緒にいて何も思わないわけないでしょ?で、誰誰?」

「え、えーと・・・」

「曜ちゃん?確かに曜ちゃんは明るくて可愛いからね」

「だ、だから・・・」

「それとも、転校してきた梨子ちゃん?和哉くん、あの子と幼なじみなのよね?羨ましいわ」

「話を・・・」

「それとも千歌ちゃん?やだ、嬉しいわ!和哉くん見たいな弟欲しかったのよ!いつでも千歌ちゃん貰っていっていいからね!」

「話を聞けー!」

 

俺がこんな調子でライブ本番は大丈夫なのだろうか・・・。

それは神のみぞ知ることだ。




グループ名が決まり、ライブまであと数日と近づいてきた。
和哉はただただ成功を祈るだけだ。
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