2人の夢の軌道   作:梨善

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〜前回のあらすじ〜
グループ名が決まり、ライブまであと1日。
和哉は海で1人思いにふけるのだった。


#13 海で思うこと

ライブの前日、俺は学校帰りに果南ちゃんちのダイビングショップに来ていた。

理由はシンプル。潜りたい!それだけ。

ここ数週間、Aqoursの練習の付き合いで全くダイビングに来れていなかった。ぶっちゃけ、禁断症状がでていた。・・・嘘です。禁断症状とかでてません。

とにかく、明日はライブ当日だが、前日に練習して怪我しました、なんて笑えない。だから千歌たち3人には休むように言っておいた。

千歌のやつは暴走して走ったりしそうだけど、家が隣の梨子に見張っておくように言っておいたから問題ないとは思う。

 

そんなこんなでダイビングショップ松浦に到着した。

 

「やっ、久しぶり。最近来なかったから心配したよ」

 

店の前でいつものダイビングスーツを着てボンベの点検をやっている果南ちゃんがいた。

 

「まあ、最近忙しくて」

「あれのこと?千歌たちがライブするって」

「聞いてた?」

「そりゃね、あんなに騒いでたら嫌でも聞こえてくるよ」

 

あはは、と苦笑いをして有耶無耶にする。

 

「とりあえず着替えてくるよ。船は出せる?」

「今日はダメかなー。この後、予約があってさ」

「そっか。じゃあ、ゴムボート借りるよ」

「ん。じゃあ、それだけ出しとく」

 

俺は更衣室でダイビングスーツに着替え、スキューバと足ヒレをも持って外に出る。

海岸には空気の入ってないゴムボートが出されていた。

慣れた手つきでゴムボートを膨らませていく。

膨らませている途中、この辺ではあまり見たことのない人たちがダイビングショップに入ってくるのを見かけた。

多分、あの人たちが予約した人たちなんだろう。

 

「よし、完成」

 

膨らんだゴムボートを海にだし、乗り込む。

オールを漕ぎ、少し沖の方まで行き、そこでボートを止める。

ボートの上にはシュノーケルと足ヒレ、ペットボトルに入った水と食べ物とタオル。それにロープのついた重り。必要最低限のものしか持ってきていない。

 

「よっ、と・・・」

 

ボートにロープを括り付け、重りを海に投げ込む。

ロープに命綱、シュノーケルと足ヒレを自分につけ、海に飛び込む。

重りを置いたのはボートが流されないようにするため。

命綱は何かあった時、流されても大丈夫なように。深くに潜った時もロープをつたって浮上できるように、となかなか便利なのだ。

 

まだ少し冷たいがいつもの落ち着く海の中。

今日は日が出ていて、海の中が透き通って良く見える。

 

息が持たなくなり、海面に顔を出して深呼吸。

落ち着いたらまた潜る。これの繰り返し。

疲れてきたらボートに戻って水を飲みながら、持って来ているものを食べる。

 

俺はボートの上で横になり、青空を見上げる。

 

「やっぱりこれだなぁ・・・」

 

うーん、と伸びをして久しぶりのダイビングの余韻に浸る。

空を見てふと思う。明日のライブは上手くいくのだろう?人は見に来てくれるのだろう?失敗してスクールアイドルをやめるなんて言い出さないだろう?

 

「って、なんで俺が不安になってるんだよ・・・」

 

不安なのは前に出て踊る千歌、曜、梨子の3人なのに。

ぱん!と頬を叩き、ネガティブな思考を振り払う。

 

「さて、潜ろ」

 

再開してどれくらい時間が過ぎたか分からないが、日は傾き始めていた。

そろそろ引き上げよう、そう思い、ボートに上がり、重りを上げ、海岸に向かってオールを漕ぐ。

 

「ちょっと長すぎるかな。慣れてきて長い時間潜りたくなるのもわかるけど、事故の元だよ?」

 

海岸につくと果南ちゃんが待っていた。

 

「あー、いやね。考え事しててさ」

「カズが?珍しいね」

「俺をなんだと思ってるの?」

「まあまあ、それはいいでしょ」

 

俺をからかって楽しんだ果南ちゃんは黙ってゴムボートの空気を抜き始めた。

 

「俺がやっとくからいいよ」

「いいの。カズは着替えてくる。日が落ちるとまだ寒いから風邪ひくよ」

「はぁ、分かったよ」

 

渋々果南ちゃんの言う通りに更衣室で着替える。

着替え終わりさっきの海岸に戻る。

ゴムボートは片付けてあり、浜辺で果南ちゃんは座っていた。

 

「明日は雨だね」

 

ポツリ、と果南ちゃんは呟く。

 

「分かるの?」

「まあね。雨が降る前の日はいつもこんな感じの風なんだ」

「そっか」

 

少し無言の時間が続く。

辺りに聞こえるのは風の吹く音と波の音だけ。

 

「明日、見に来てくれる?」

「どうだろう。店番あるから」

「だよね。見に来てくれると千歌も喜ぶよ」

「うん」

 

また、無言が訪れる。

 

「前みたいに果南ちゃんもやらない?ダイヤちゃんや鞠莉ちゃんも巻き込んで」

「それはやらない。もう、スクールアイドルはやらない」

「なんで?」

「私たちはもう、3年生だよ。そんな時間はないの。それにやってもまた誰かが傷つく。それは私かもしれない。カズかもしれない。もしかしたら千歌かもしれない。だから・・・」

「そっか・・・」

 

果南ちゃんはあの時のことを引きずっている。

いつもならリベンジだ!とか次は上手くいく!とか周りを元気づけるタイプなのに。

スクールアイドルのことに関しては臆病だ。

 

・・・あの時のことを俺は詳しく知らない。

知りたくても教えてもらえない。

このモヤモヤはここ数年ずっと心にまとわりついている。

 

「今日は帰りなよ」

 

俺が苦い顔で地面を見つめていると、果南ちゃんは立ち上がり、いつもの笑顔でそう言う。

 

「うん。そうする」

「また、潜りに来なよ」

「分かってるよ。果南ちゃんも明日来てよ?」

「だから、店番があるの。まあ、気が向いたら行こうかな」

 

遠くを見つめながらそう言う。

 

「じゃあ、またね」

 

別れの挨拶をして、定期船に乗る。

船の上でスマホにメールが入る。相手は果南ちゃんだ。

 

『無理しない、させない』

 

なんだかんだ言いながら、俺たちのことを心配していたようだ。

 

「全く。素直じゃないよね・・・」

 

船の甲板に出て風を切りながら、呟いた。




果南の思いを少しだけ受け取った和哉。
残すは本番のみ。
彼女たちに幸あれ。

「きっと上手くいく。練習だってしっかりやったんだ」

千歌さん、気合い入ってますね。頑張って下さいね。

「うん!私たちの輝きの第1歩だもん!絶対成功させるから!次回をお楽しみにね!」
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