ライブ前日に果南の元に尋ねた和哉。
見に来るように誘ったものの冷たくあしらわれてしまった。
そして運命の日がやってきた。
いよいよライブ当日。
しかし、天気はあいにくの雨。なんというか、ツイてない。
俺は体育館のステージの控え室で着替えている3人を、控え室の扉の前で待っていた。
「カズくん、いいよー」
中から千歌の声が聞こえてきた。
一応入るよ、と声をかけ、扉を開ける。
「じゃーん!どー?」
千歌はその場でくるくる回り、衣装を見せる。
千歌はみかん色。曜が水色。梨子が桜色と言うように、イメージカラーに合わせた色の衣装を着ている。
「凄い。本当に曜の描いた絵の通りだ」
本当によくできている。
まるでプロが作ったみたいだ。
えへへ、と照れくさそうに自分の頭を撫でる曜。
「確かに凄いけど、やっぱり慣れないわ。本当にこんなに短くて大丈夫なの?」
梨子はスカートの裾や、丸見えの肩を見ながら不安を言う。
「大丈夫だって!μ'sの最初の衣装だって、これだよ!」
千歌はスマホを取り出し、μ'sがまだ3人だった頃のファーストライブの衣装を見せる。
今、千歌たちが着ている衣装はこの頃のμ'sを意識している。
それを見た梨子はため息をつく。
「はぁ、やっぱりやめておけば良かったかも。スクールアイドル」
「大丈夫!ステージ出ちゃえば忘れるよ!」
「まあ、曜は水泳で慣れてるしね。梨子だって、ピアノのコンクールで慣れてるんじゃ?」
「え?その・・・」
梨子は暗い表情で俯く。
あれ?何かまずいこと言った?
「そろそろだね。えっと、どうするんだっけ?」
時計を見た千歌が硬い表情をする。
「確か、こうやって手を重ねて」
曜が言うと2人も手を出し、3人の手が重なる。
これもμ'sがライブ前にやっていた事だ。
「・・・手を繋ごっか」
「え?」
μ's大好き千歌がμ'sの真似ではなく、自分たちだけの掛け声をやろうとしていた。
その姿に思わず俺はニヤける。
やるじゃん、千歌。
「こうやって互いに手を繋いで」
3人は輪になるように手を繋ぐ。
「ね、こうやって。あったかくて好き」
「ホントだ」
3人は目を瞑り、静かに集中し始める。
外の雨の音、雷が遠くでなる音が控え室に響く。
「雨、だね」
千歌が呟く。
「みんな来てくれるかな?」
「もし、来てくれなかったら・・・」
曜の言葉に梨子は不安を隠せないでいた。
「じゃあ、ここでやめて終わりにする?」
千歌が梨子に言う。
いつもは自分が言われてるからだろう、この言葉はいい発破になるということが。
すると、3人とも笑い出す。
うん。大丈夫そうだ。あとは見守るだけ。
「さあ、行こう!今、全力で輝こう!」
「うん!」
千歌の言葉で更に気合が入る。
そして、3人は俺の方を見る。
「和哉くんも」
梨子は千歌と繋いでいた手を離し、その手を俺に向ける。
「え、なんで?」
「なんでって、ねえ?」
うんうん、と千歌と曜は頷く。
「確かにカズくんはステージに立たないけど、カズくんだってAqoursだよ!」
「そうそう。それに和哉くんがいないと気合いはいらないよ!」
千歌と曜が笑いながら言う。
「はぁ。全く敵わないなぁ」
俺は梨子の手を取り、もう片方の手で千歌の手を握る。
「準備はいい?行くよ!Aqours!」
「サンシャイン!!」
控え室を出て、体育館を見渡す。
しかし、集まった人はうちの生徒10人ほど。
そこには千歌のクラスメイト、鞠莉ちゃん、ルビィと花丸ちゃん。それに、変装した善子がいた。
「やっぱり、ダメか・・・」
全く無名のスクールアイドル、Aqours。
当然といえば当然だ。
だけど、今回はそこで終わらせてはいけなかった。鞠莉ちゃんから出された条件をクリアしないとAqoursここで解散。
つまり、この状況はそういうことだ。
そして、ステージの幕が開く。
ステージ上には手を繋いで、目を瞑った3人が立っていた。
小さな拍手が微かに響き、千歌はゆっくり目を開く。
「え?」
きっと千歌はもっと多くの人がいて、そんな中でキラキラ輝いて踊りたかった。けど、現実は残酷だ。
梨子と曜も体育館を見渡し、暗い表情で落ち込む。
すると、千歌は一歩踏み出した。
その表情はやると決めた時の本気の顔だ。
「私たちは!スクールアイドル!せーの!」
そんな千歌につられ、2人も腹をくくったようだ。
「Aqoursです!」
「私達はその輝きと」
「諦めない気持ちと」
梨子と曜も一歩前にでて、語る。
「信じる気持ちに憧れ、スクールアイドルを始めました。目標はスクールアイドルμ'sです!聴いてください!」
千歌の声で体育館に曲が流れ始めた。
ここからはお前たちがやってきたことを全力で見せるんだ。
応援してるから。
心の中で3人を応援する。
曲は順調に進み、ミスもない。
人は少ないが、3人の歌声がしっかりと響く。
サビに入ろうとした瞬間、音が、光が、歌声が、
消えた。
いきなりの落雷。そのせいで停電したのだ。
暗いステージに残された3人。曜と梨子は千歌を見て、不安気に立ち尽くす。
千歌も同じだ。今の状況で言葉をなくしていた。
「くそ・・・」
考えろ、考えろ。
今、俺にできることは・・・。
思考を巡らせ、はっ、と気づく。
復旧用のバッテリー!それなら絶対あるはずだ!
俺は体育館を飛び出し、物置倉庫に向かう。
バン!と倉庫の扉を荒々しく扉を開け、置いてあるバッテリーを持ち上げる。
「貴方?なぜここに?」
後ろから声が聞こえ、振り向く。
そこには傘をさし、台車を持ったダイヤちゃんがいた。
「ダイヤちゃん!?」
「全く、わたくしも貴方もとことん、似ているのね」
ダイヤちゃんはため息をつく。
「それって?」
「電気を復旧させるんでしょ?台車に詰んだらついてきなさい」
どうやらダイヤちゃんも復旧させるために、ここに来たようだ。
俺は指示に従い、バッテリーを台車に乗せ、先を行くダイヤちゃんを追いかける。
ダイヤちゃんを追って体育館のブレーカーの前まで台車を運ぶ。
「ここまでで結構よ。貴方はお行きなさい」
「で、でも」
「あの3人がほうっておけないのでしょ?」
「ありがとう!」
俺は一言、礼を言って、その場を去る。
渡り廊下と繋がる入口で体育館を見渡すと、真っ暗なステージにはアカペラで歌う3人。
しかし、この絶望的な状況で千歌は泣き出しそうになる。
ダイヤちゃん、急いでくれ・・・!
その瞬間、体育館の扉が勢いよく開き、光が差し込む。
「バカチカ!あんた開始時間、間違えたでしょ!」
この声は、美渡さん!?
俺は美渡さんの元に駆け寄る。
「美渡さん!これって・・・」
「おっ、和哉じゃん。ずぶ濡れだね」
「今はどうでもよくって!なんで・・・」
「千歌の奴が開始時間、間違えてたの。外を見てみ?みんな、来てくれたよ」
美渡さんに言われた通り、外を見るとそこには沢山の車と沼津の高校生が大勢いた。
この光景に俺は言葉をなくす。
そして、体育館に光が戻った。ダイヤちゃんがやってくれたんだ。
この体育館に入り切らない程の観客。
みんなこのAqoursを見に来てくれた。
「キラリ!」
千歌の声で曲が再開する。
わっ!、と歓声が上がる。
何度も練習したステップ。何度も歌った歌詞。
それが今、歌として完成したんだ。
曲が終わり、暫くの静寂。
ステージの3人は肩で息をしながら、やり遂げた顔をする。
また、歓声が湧き、うるさいくらいの拍手が鳴り響く。
曲は上手く行かなかった。完璧でもない。
でも、3人は輝いてた。このライブは成功だ。
「彼女たちは言いました」
「スクールアイドルはこれからも広がっていく。どこまでだっても行ける。繋がっていく、どんな夢だって叶えられると」
締めの挨拶を始めた時だ。
観客の波を突っ切って行くダイヤちゃん。
観客の先頭に立ち、ステージ上の3人を睨む。
「これは今までのスクールアイドルの努力と街の人たちの善意があっての成功よ。勘違いしないように」
ダイヤちゃんの言うことは全くその通りだ。
でも、今言う?
わざわざ威圧するように言わなくてもさ・・・。
自惚れるなって言いたいだけなんでしょ?素直じゃない。
「分かってます!」
千歌は全く怯むことなく言葉を返す。
「でも、でもただ見てるだけじゃ始まらないって!上手く言えないけど・・・。今しかない瞬間だから。だから!」
3人は手を取り、高らかに言う。
「「「輝きたい!」」」
その言葉に観客は拍手という形で応援した。
3人の言葉に満足した俺は外を見る。雨はいつの間にか止んでいた。
そして、ここを去る後ろ姿を見つけた。
長い髪をポニーテールしている女の人。
よく見た後ろ姿。果南ちゃんだ。
「来てたんだ・・・。全く、素直じゃないよなぁ・・・。みんな」
雲の切れ間から青空と、暖かい光が浦の星を照らしていた。
トラブルはあったものの成功に終わったファーストライブ。
ここから輝きがまた1つ生まれたのであった。
「一時はどうなるかと思ったけど、よくやったよ」
なんだかんだで果南さんも見に来てくれてましたもんね。ありがとうございます。
「そんなんじゃないよ。たまたま店番やらなくてよかっただけ」
そういうことにしておきます。
「本当なんだってば!」
果南さんはツンデレさんですからね。
次回もお楽しみに!
「ちょっと!!」