2人の夢の軌道   作:梨善

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〜前回のあらすじ〜
ライブ前日に果南の元に尋ねた和哉。
見に来るように誘ったものの冷たくあしらわれてしまった。
そして運命の日がやってきた。


#14 第1歩

いよいよライブ当日。

しかし、天気はあいにくの雨。なんというか、ツイてない。

俺は体育館のステージの控え室で着替えている3人を、控え室の扉の前で待っていた。

 

「カズくん、いいよー」

 

中から千歌の声が聞こえてきた。

一応入るよ、と声をかけ、扉を開ける。

 

「じゃーん!どー?」

 

千歌はその場でくるくる回り、衣装を見せる。

千歌はみかん色。曜が水色。梨子が桜色と言うように、イメージカラーに合わせた色の衣装を着ている。

 

「凄い。本当に曜の描いた絵の通りだ」

 

本当によくできている。

まるでプロが作ったみたいだ。

えへへ、と照れくさそうに自分の頭を撫でる曜。

 

「確かに凄いけど、やっぱり慣れないわ。本当にこんなに短くて大丈夫なの?」

 

梨子はスカートの裾や、丸見えの肩を見ながら不安を言う。

 

「大丈夫だって!μ'sの最初の衣装だって、これだよ!」

 

千歌はスマホを取り出し、μ'sがまだ3人だった頃のファーストライブの衣装を見せる。

今、千歌たちが着ている衣装はこの頃のμ'sを意識している。

それを見た梨子はため息をつく。

 

「はぁ、やっぱりやめておけば良かったかも。スクールアイドル」

「大丈夫!ステージ出ちゃえば忘れるよ!」

「まあ、曜は水泳で慣れてるしね。梨子だって、ピアノのコンクールで慣れてるんじゃ?」

「え?その・・・」

 

梨子は暗い表情で俯く。

 

あれ?何かまずいこと言った?

 

「そろそろだね。えっと、どうするんだっけ?」

 

時計を見た千歌が硬い表情をする。

 

「確か、こうやって手を重ねて」

 

曜が言うと2人も手を出し、3人の手が重なる。

これもμ'sがライブ前にやっていた事だ。

 

「・・・手を繋ごっか」

「え?」

 

μ's大好き千歌がμ'sの真似ではなく、自分たちだけの掛け声をやろうとしていた。

その姿に思わず俺はニヤける。

 

やるじゃん、千歌。

 

「こうやって互いに手を繋いで」

 

3人は輪になるように手を繋ぐ。

 

「ね、こうやって。あったかくて好き」

「ホントだ」

 

3人は目を瞑り、静かに集中し始める。

外の雨の音、雷が遠くでなる音が控え室に響く。

 

「雨、だね」

 

千歌が呟く。

 

「みんな来てくれるかな?」

「もし、来てくれなかったら・・・」

 

曜の言葉に梨子は不安を隠せないでいた。

 

「じゃあ、ここでやめて終わりにする?」

 

千歌が梨子に言う。

いつもは自分が言われてるからだろう、この言葉はいい発破になるということが。

すると、3人とも笑い出す。

うん。大丈夫そうだ。あとは見守るだけ。

 

「さあ、行こう!今、全力で輝こう!」

「うん!」

 

千歌の言葉で更に気合が入る。

そして、3人は俺の方を見る。

 

「和哉くんも」

 

梨子は千歌と繋いでいた手を離し、その手を俺に向ける。

 

「え、なんで?」

「なんでって、ねえ?」

 

うんうん、と千歌と曜は頷く。

 

「確かにカズくんはステージに立たないけど、カズくんだってAqoursだよ!」

「そうそう。それに和哉くんがいないと気合いはいらないよ!」

 

千歌と曜が笑いながら言う。

 

「はぁ。全く敵わないなぁ」

 

俺は梨子の手を取り、もう片方の手で千歌の手を握る。

 

「準備はいい?行くよ!Aqours!」

「サンシャイン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

控え室を出て、体育館を見渡す。

しかし、集まった人はうちの生徒10人ほど。

そこには千歌のクラスメイト、鞠莉ちゃん、ルビィと花丸ちゃん。それに、変装した善子がいた。

 

「やっぱり、ダメか・・・」

 

全く無名のスクールアイドル、Aqours。

当然といえば当然だ。

だけど、今回はそこで終わらせてはいけなかった。鞠莉ちゃんから出された条件をクリアしないとAqoursここで解散。

つまり、この状況はそういうことだ。

 

そして、ステージの幕が開く。

ステージ上には手を繋いで、目を瞑った3人が立っていた。

小さな拍手が微かに響き、千歌はゆっくり目を開く。

 

「え?」

 

きっと千歌はもっと多くの人がいて、そんな中でキラキラ輝いて踊りたかった。けど、現実は残酷だ。

梨子と曜も体育館を見渡し、暗い表情で落ち込む。

すると、千歌は一歩踏み出した。

その表情はやると決めた時の本気の顔だ。

 

「私たちは!スクールアイドル!せーの!」

 

そんな千歌につられ、2人も腹をくくったようだ。

 

「Aqoursです!」

「私達はその輝きと」

「諦めない気持ちと」

 

梨子と曜も一歩前にでて、語る。

 

「信じる気持ちに憧れ、スクールアイドルを始めました。目標はスクールアイドルμ'sです!聴いてください!」

 

千歌の声で体育館に曲が流れ始めた。

ここからはお前たちがやってきたことを全力で見せるんだ。

応援してるから。

 

心の中で3人を応援する。

 

曲は順調に進み、ミスもない。

人は少ないが、3人の歌声がしっかりと響く。

サビに入ろうとした瞬間、音が、光が、歌声が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなりの落雷。そのせいで停電したのだ。

暗いステージに残された3人。曜と梨子は千歌を見て、不安気に立ち尽くす。

千歌も同じだ。今の状況で言葉をなくしていた。

 

「くそ・・・」

 

考えろ、考えろ。

今、俺にできることは・・・。

思考を巡らせ、はっ、と気づく。

 

復旧用のバッテリー!それなら絶対あるはずだ!

 

俺は体育館を飛び出し、物置倉庫に向かう。

バン!と倉庫の扉を荒々しく扉を開け、置いてあるバッテリーを持ち上げる。

 

「貴方?なぜここに?」

 

後ろから声が聞こえ、振り向く。

そこには傘をさし、台車を持ったダイヤちゃんがいた。

 

「ダイヤちゃん!?」

「全く、わたくしも貴方もとことん、似ているのね」

 

ダイヤちゃんはため息をつく。

 

「それって?」

「電気を復旧させるんでしょ?台車に詰んだらついてきなさい」

 

どうやらダイヤちゃんも復旧させるために、ここに来たようだ。

俺は指示に従い、バッテリーを台車に乗せ、先を行くダイヤちゃんを追いかける。

ダイヤちゃんを追って体育館のブレーカーの前まで台車を運ぶ。

 

「ここまでで結構よ。貴方はお行きなさい」

「で、でも」

「あの3人がほうっておけないのでしょ?」

「ありがとう!」

 

俺は一言、礼を言って、その場を去る。

渡り廊下と繋がる入口で体育館を見渡すと、真っ暗なステージにはアカペラで歌う3人。

しかし、この絶望的な状況で千歌は泣き出しそうになる。

 

ダイヤちゃん、急いでくれ・・・!

 

その瞬間、体育館の扉が勢いよく開き、光が差し込む。

 

「バカチカ!あんた開始時間、間違えたでしょ!」

 

この声は、美渡さん!?

 

俺は美渡さんの元に駆け寄る。

 

「美渡さん!これって・・・」

「おっ、和哉じゃん。ずぶ濡れだね」

「今はどうでもよくって!なんで・・・」

「千歌の奴が開始時間、間違えてたの。外を見てみ?みんな、来てくれたよ」

 

美渡さんに言われた通り、外を見るとそこには沢山の車と沼津の高校生が大勢いた。

この光景に俺は言葉をなくす。

そして、体育館に光が戻った。ダイヤちゃんがやってくれたんだ。

この体育館に入り切らない程の観客。

みんなこのAqoursを見に来てくれた。

 

「キラリ!」

 

千歌の声で曲が再開する。

わっ!、と歓声が上がる。

何度も練習したステップ。何度も歌った歌詞。

それが今、歌として完成したんだ。

 

曲が終わり、暫くの静寂。

ステージの3人は肩で息をしながら、やり遂げた顔をする。

また、歓声が湧き、うるさいくらいの拍手が鳴り響く。

曲は上手く行かなかった。完璧でもない。

でも、3人は輝いてた。このライブは成功だ。

 

「彼女たちは言いました」

「スクールアイドルはこれからも広がっていく。どこまでだっても行ける。繋がっていく、どんな夢だって叶えられると」

 

締めの挨拶を始めた時だ。

観客の波を突っ切って行くダイヤちゃん。

観客の先頭に立ち、ステージ上の3人を睨む。

 

「これは今までのスクールアイドルの努力と街の人たちの善意があっての成功よ。勘違いしないように」

 

ダイヤちゃんの言うことは全くその通りだ。

 

でも、今言う?

わざわざ威圧するように言わなくてもさ・・・。

自惚れるなって言いたいだけなんでしょ?素直じゃない。

 

「分かってます!」

 

千歌は全く怯むことなく言葉を返す。

 

「でも、でもただ見てるだけじゃ始まらないって!上手く言えないけど・・・。今しかない瞬間だから。だから!」

 

3人は手を取り、高らかに言う。

 

「「「輝きたい!」」」

 

その言葉に観客は拍手という形で応援した。

3人の言葉に満足した俺は外を見る。雨はいつの間にか止んでいた。

そして、ここを去る後ろ姿を見つけた。

長い髪をポニーテールしている女の人。

よく見た後ろ姿。果南ちゃんだ。

 

「来てたんだ・・・。全く、素直じゃないよなぁ・・・。みんな」

 

雲の切れ間から青空と、暖かい光が浦の星を照らしていた。




トラブルはあったものの成功に終わったファーストライブ。
ここから輝きがまた1つ生まれたのであった。

「一時はどうなるかと思ったけど、よくやったよ」

なんだかんだで果南さんも見に来てくれてましたもんね。ありがとうございます。

「そんなんじゃないよ。たまたま店番やらなくてよかっただけ」

そういうことにしておきます。

「本当なんだってば!」

果南さんはツンデレさんですからね。
次回もお楽しみに!

「ちょっと!!」
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