転校を告げられ、落ち込む和哉。
彼の行動は?
気がつくと朝になっていた。
泣き疲れてそのまま寝てしまっていたようだ。
まだだるい体を動かし、のそのそと起き上がり、リビングに向かう。
「和哉、起きたのね。ご飯食べて学校に行く準備しておきなさい」
「· · ·父さんは?」
「もう行っちゃったわよ」
「そっか」
それを聞くと黙って椅子に座り、テーブルに並べられた朝食を食べ始める。
「修了式まではこっちにいるからそれまでにみんなにちゃんとお別れしておくのよ?学校にはもう伝えてあるから」
「うん· · ·」
修了式って今週末じゃないか、と心の中で悪態をつく。
「だから今日から荷造り始めておきなさいよ」
「分かった。ご馳走様」
朝食を食べ終わり、ランドセルを背負って家を出る。
初めて学校に行くのが憂鬱だった。
あと数回しかこの道を歩くことができないと思うと、足は自然と重くなって行った。
学校について朝礼が始まると真っ先に俺の転校の事を担任の先生がみんなに伝えた。
教室がザワつくが、先生の一喝ですぐ静かになる。
その後は出欠の確認、今日の日程、連絡事項があり、朝礼が終わった。
それと同時に俺の机の周りに、クラスメイトが大勢集まってくる。
みんながみんなバラバラに質問ばかりしてくる。
「ごめんね。俺も昨日言われたばかりで。引越し先は静岡で、修了式まではこの学校にいるから」
質問に答えるのにいっぱいいっぱいになっていたが、1時間目の開始のチャイムがなる。
「授業始めるよ。みんな戻りなさい」
先生が教室に入ってくるとみんな自分の席に戻って教科書を取り出す。
この学校で受ける授業もあと何回かしかないんだと思うと少し寂しくなった。
その日は何事もなくあっさりと過ぎて言った。
そして、放課後。
教室から少しづつ人が帰って少なくなると俺は席を立ち、1人のクラスメイトの机の前に行く。
「帰ろっか。梨子」
「· · ·うん」
梨子とは途中までだがほぼ毎日一緒に帰っている。だがそれも残り少ない。
「本当に引越しちゃうの?」
梨子は小さな声で聞いてくる。
「うん。父さんの仕事の都合で」
「すぐ帰ってくるよね?」
「· · ·分からない。帰ってくるかも知れないし、ずっと静岡になるのかも」
「そう、だよね」
そこで会話がプツリと途切れる。
そのまま話すことなく、同じ歩幅で歩いていき、分かれ道になる。
「じゃあね、梨子。また明日」
「うん」
今日はお別れの挨拶をして進み出す。
すると、梨子が呼び止める。
「ねえ、和哉くん」
「ん?」
立ち止まり、振り返ると梨子はランドセルを下ろし、付けていたキーホルダーを外す。
「これ、持ってて」
「これって梨子のお気に入りじゃないの?」
差し出したのは緑のナシのキーホルダー。
梨子のお気に入りでずっとランドセルに付けていたものだ。
「2つ持ってるから大丈夫。それを見て和哉くんが私のことを思い出してくれたら嬉しいなって」
梨子は照れくさそうにモジモジしながら、キーホルダーを差し出す。
「· · ·大事にするよ。ありがとう」
キーホルダーを受け取りポケットの中に入れる。
「そろそろ帰らないとね。あまり遅くなると怒られちゃうよ」
「そうだね。明日も一緒に帰ろう。俺も何か持ってきて梨子に渡すから!」
「うん!楽しみにしてるね!」
いつもの笑顔を見せてくれた梨子はそのまま走って行った。
その後ろ姿を見送り、俺も家へと歩き始める。
「渡せるものがあるか探さないと」
家まで何を渡せるか考えながら小走りで帰ることにした。
家に着くと今日も父さんは帰ってきていた。
そして、告げられる。
いつも悪いことは想定よりも早くやって来て、人の気持ちを考えようとはしない。
今だってそうだ。
『予定が早まり出発するのは明日』
俺は1人の少女を裏切った。
運命とは素晴らしくも残酷なもの。
何も言えずに引っ越してしまった和哉。
和哉のこれからの選択とは?