多くのトラブルにあったが、無事ライブを成功させ、体育館を満員にできたAqours。
ライブが終わってもやることは盛り沢山。
4人は何をするのだろう。
大成功で終わったライブ。
梨子たち3人は着替えや、水泳部のシャワー室で汗を流している。
俺はと言うと、お客さんの整理やダイヤちゃん、ルビィ、花丸ちゃんにお礼を言って回ったり、機材の片付けがあるからなかなか大変だ。
一区切りつき体育館を見回していると、目の前で怪しい人影がこそこそ帰ろうとしている。
水色のワンピースの様な服にサングラス、特徴的なシニヨン。善子だ。
俺はそっ、と後ろに周り、肩に手を置くと同時に名前を呼ぶ。
「善子」
「うにゃあああああああ!!」
ばっ!、と飛び退き、臨戦態勢のポーズなのか、よく分からないポージングだ。
「って、先輩?」
「や。久しぶり。学校来れたじゃん」
「た、たまたまよ。つい、その辺を通りかかったついでで・・・。そ、そう!醜悪な人間どもが寄ってたかって何をするのかしらー?みたいな」
「ヨハネが出てるよ」
「はっ!?今のは忘れなさい!」
今の善子は自分がヨハネであろうとすることをやめようとしている。今みたいに『ヨハネ』を間違いと認める様なことは今までやっていなかったのに。
「どうしてヨハネをやらないの?」
「高校生にもなってこんなことやってるなんて恥ずかしいじゃない」
「そんなことないよ」
「あるの!最初の自己紹介で堕天して周りにドン引かれて。好きなものも認めてもらえない世の中なの!」
それは善子の本音だった。
好きなものを好きと言えない今の社会。それが今目の前にいる女の子を苦しめている。
「今日、ライブを見てどう思った?」
「え?」
「千歌たちのライブだよ。どうだった?」
「・・・凄かった。とても、輝いてた」
「だよね。あいつらも好きだからスクールアイドルを始めたんだ。周りには無理だ。できないって言われて、自分たちでも無理だって。でも、好きだから。大好きだから。今日、成功したんだよ」
「本当・・・?」
「本当だよ。それに、μ'sだって歌んだよ。『それぞれが好きなことで頑張れるなら新しい場所がゴールだね』って。善子も好きなものでゴールを見つけてみない?」
善子は俯きながらボソリ、と呟く。
「少しだけ、ほんの少しだけ頑張ってみる」
それだけ言うと、走って行ってしまった。
後は善子次第だ、と見送り、お客さんもだいぶ帰って静かになった体育館を出ようとした時、後ろから誰かが抱きついてくる。
「和哉!見た?凄かったわ!」
抱きついてきたのは鞠莉ちゃんだった。
「だね。俺も予想外だったよ。こんなに集まるなんて」
「そうね。もしダメだったら5人集めてまた来てね。って言おうと思ったけど、その必要も無いわね」
「あ、一応保険は残してたんだ」
「流石に可哀想でしょ?それにあの3人を見てるとあの頃の私たちとかぶって見えるもの」
鞠莉ちゃんはポツリと俺にかろうじて聞こえるほど小さな声で呟く。
「俺もそう思ってた。あの時みたいだなって」
「そうね。それにしても、グループ名がAqoursだなんて。やっぱり、運命なのかしら?」
「え?鞠莉ちゃんじゃないの?」
「何のこと?」
てっきりスクールアイドル部を復活させるために手助けしてくれている鞠莉ちゃんが砂浜に文字を書いたとばかり思っていた。
その事を鞠莉ちゃんに話す。
「確かに私じゃないわよ。果南がやるとも思えないし。まさか、ダイヤ?」
「えー?ダイヤちゃんだって反対派だよ?」
そうよねー、と腕を組む鞠莉ちゃん。
「ま、どちらにしろAqoursが再結成して私は嬉しいの。なるべく早く果南とダイヤを説得させて戻ってくるから!」
ニカッ、と笑う鞠莉ちゃん。
「うん。俺も手伝うよ」
「何を手伝うの?」
後ろから声が聞こえ、振り返るとそこには着替え終わり制服姿の千歌、曜、梨子がいた。
「あ、着替え終わったんだ」
「あら、今日はお疲れ様。素晴らしいライブでしたヨ!」
鞠莉ちゃんは口調をエセ外国人風の変な話し方になる。
分ける必要あるのかな?
「ありがとうございます。でも!」
千歌はお礼を言った後、俺の前に出て、右腕に抱きつく。
「カズくんはチカたちのお手伝いさんなので!」
ムスッ、とした顔の千歌。
それを見て鞠莉ちゃんのアヒル口がニヤケ顔でかなり強調される。
・・・それにしても、千歌って以外と大きいんだなぁ。童顔なのに出るところはしっかり出てて・・・。あ、ごめんなさい。悪かったですって!そんなに睨まないで梨子!
梨子のプレッシャーを背中でダイレクトに受け止める。
そろそろ千歌を引きはがそう。俺がもたない。
「ほら、千歌離れて」
「んー」
腕をぐーっ、と引き、引き離そうとしたが全然離そうとしない。
てか、力強いな!
「ほら、ちかっち。誰も和哉をとるなんて言ってないよ」
「ちかっち?」
鞠莉ちゃんのいきなりのあだ名呼びで、千歌はきょとんとした顔をしている。
「そう!ちかっち。和哉とは昔からの知り合いだから、困った時に少し手伝ってもらおうかなって、話してただけよ」
千歌は俺の顔をのぞき込む。
「本当だよ。それに千歌たちの手伝いは続けるよ」
千歌は渋々離れる。
そんな千歌を見て、鞠莉ちゃんはくすっ、と笑う。
「とにかく、今日のライブはとてもexcitingでした!ここも満員にできたので、スクールアイドル部を承認します!」
鞠莉ちゃんの言葉に全員笑顔になる。
「やった・・・。やったよー!」
千歌は梨子と曜に飛びかかるように抱きつく。
「千歌ちゃん・・・。うん!」
「本当にやったわね!」
はしゃぐ3人を微笑ましく見ていると、鞠莉ちゃんが話しかけてくる。
「混ざらないの?」
「俺が混ざるとなんて言われるか分からないから。ここで見てるだけで十分だよ」
「和哉も相変わらずよね」
「人って簡単には変わらないよ」
とうとう始まった、千歌たちのスクールアイドルライフ。
これからメンバーが増えるのか減るのか、それにどこまでできるのか、ちっぽけな俺たちがどこへ飛び出せるのかも分からない。でも、何とかなる。そんな気がした。
「「「お疲れ様ー!」」」
いい感じに締めれたと思ったらまだ続いてる・・・。
少しいじけながらも今の状況を説明することにしよう。
学校を出た俺たちは松月でプチ打ち上げ会をやっていた。
以上。
説明終わり。
最初に飲み物を頼み、梨子たちは乾杯をする。俺は注文したケーキが届くまで入口付近で座っている黒柴犬のわたあめと遊んでいた。
しいたけもいいけど、わたあめはちっさくてちょっかい出したくなるんだよね。
「和哉くん、注文きたよ!」
曜に呼ばれ、返事をする。またね、とわたあめの頭を撫で、立ち上がり、千歌の隣に座る。
「いやー、今日のライブは緊張したよー」
千歌がしみじみと言う。
「そうなの?全然緊張してるようには見えなかったわ」
「緊張してるのを他の人に気づかれないようにしてたから。緊張って移っちゃうじゃん?」
「それは分かるかも。飛び込みの時とか前の選手がガチガチだとこっちまで固まっちゃうというか」
「あぁ、確かに」
曜も梨子も千歌の言葉に頷く。
2人とも大きな大会やコンクールに出てるし、人前に出る緊張とかに慣れているのかもしれない。実際、見てて緊張した素振りは全くなかった。
「えへへ。私なりに頑張ったんだよ?それに!部として認めてもらえたし!」
「本当にね。最初はダメかと思ったわ」
梨子が溜息をつきながらしみじみと言うと、曜もそれに続く。
「だねー。お客さん少なかったからこれで終わりなんだ、って考えちゃったよ」
「バカチカが時間、間違えなかったらあんな心配しなくて良かったのにね」
俺は隣に座っている千歌の頭をグリグリ回す。
「それは、悪かったけど・・・。でも!カズくんも何も言わなかったじゃん!」
「それどころじゃなかったの」
「それはチカもだしー!」
むきーっ!と怒る千歌。元々童顔な千歌が怒ってもそこまで怖くない。むしろもっと弄りたくなる。
「ちょっと、お店では静かにしないと」
騒いでいる俺たちに梨子が注意する。
「だってさ、千歌」
「いや、カズくんでしょ!?なんで自分は関係ないって感じなの!」
「2人ともよ!」
梨子に怒られしゅんとする。
「それにしても、まずどうするの?部活にはなったけどやることって何?」
梨子がこれからの事について尋ねる。
「そっか。梨子ちゃん、スクールアイドルが何するかあんまり知らないんだったね」
「え、ええ。それで、何をするの?」
「曲を作ってPVを作ってサイトに上げるの。それで、みんなでキラキラしたい!」
千歌は嬉しそうに話し出す。
「それに、新メンバーとかいたら、もっとアイドルっぽくない?」
「新メンバーか・・・」
千歌の言葉に俺は腕を組む。
「心当たりあるの?」
キラキラした目で千歌は顔を近づけてくるが、千歌の顔を手で押し返す。
「逆だよ。元々生徒数が少ないでしょ?やりたいっていう人もそういないよ。実際梨子を誘うのにどれだけ時間かかったことか」
「なるほど。確かにそんな人は少ないよね」
曜は寂しそうな顔をしながら呟く。
「私ね!ルビィちゃんと花丸ちゃん誘いたいんだ!」
「俺の話聞いてた?」
「ほぇ?」
この野郎・・・。
「学校に人が少ないからスクールアイドルやりたいって人も少ないかもしれないから難しい、って話してたの」
曜が千歌に教える。
「えー!?なんでー!こんなにキラキラしてるのに!」
「みんなが千歌たちと同じわけじゃないから。仕方ないよ」
しーん、としてしまった机。
打ち上げのはずなのに空気はお通夜だ。
「ごめんなさい。私が変なこと言ったから」
自分の発言のせいだと思ったのか梨子が謝る。
「ううん。梨子ちゃんは悪くないよ。本当の事だから」
千歌がフォローするが、空気は良くならない。
「とにかく!ほら、ケーキ食べよう!辛気臭いんじゃ、美味しくないよ!貰い!」
できるだけ明るく振る舞い、千歌のみかんケーキのみかんを一房奪い、食べる。
「あー!チカのみかん!何するの!バカカズくん!」
「千歌が食べないからだよー」
「食べないんじゃなくて残してたの!」
千歌はかーえーしーてーよー、と俺の体を揺らす。そんな俺たちを曜と梨子は笑って見ていた。
良かった。なんとかくらい空気は無くなったようだ。
「チカのみかんー」
本当に泣き出しそうになる千歌。
流石に泣かれたらまずい、と思い、俺は自分のケーキをフォークで1口サイズに切り、それを千歌の口に入れる。
「はい。これでおあいこね」
すると千歌は今までのが嘘のように静かになり、しかも俯いている。
「千歌?千歌さーん?」
声をかけるが返事をしない。
それになぜか梨子の視線が鋭い。
「あーあ。しーらないっと」
曜は自分のケーキを黙々と食べる。
「え。何?俺、なんか間違えた?」
「自分で考えなよー」
曜さん、酷くないですか?
梨子も怖いよ?
「ご、ご馳走様でした・・・」
千歌がポツリ、と呟く。
「どういたしまして?」
訳も分からず、返事をする。
それからはみんな黙ってケーキを食べ続けた。
ただ、梨子の目が怖いのといつもとは違う千歌で味なんて全く分からなかった。
鈍いとは罪なもの。
主人公故の性なのか。
それは誰も分からない。
「本当よ。周りには美少女しかいないからって和哉くんたらデレデレして・・・」
梨子さんも大変ですね。
作曲にダンスにご自身の恋に。
「こっ!ここここここ恋!?なんのことかしら?」
今はそういうことにしておきましょう。
次回もお楽しみに。