激動のライブが終わり、また新しい1週間が始まった。
部室を貰ったAqoursがそこで見たものは。
「これでよし!」
とうとう発進した浦の星女学院スクールアイドル部。グループ名はAqours。
先日のライブを成功させたAqoursは理事長の鞠莉ちゃんから許可がおり、体育館の部室の1つを貰うことになった。
その入り口に千歌が脚立に乗り、部の名前のプレートを付けているのだが・・・。
「それ、なんて読むの?」
千歌は部の文字を逆に書いて陪と書いている。おおざとではなく、こざとへんだ。
「また間違えた!」
また?ということは以前にも間違えていたのか・・・。
千歌は慌ててペンを取り、陪にバツ印をつけ、その隣に小さく部と書いた。
「それにしてもまさか本当に承認されるなんて!」
「部員足りないのにね」
梨子と曜がボヤく。
「理事長がいいって言うだから、いいんじゃないの?」
「いいって言うかー・・・。ノリノリだったけどね」
「まあ、鞠莉ちゃんだから」
「でも、どうして理事長は私たちの肩を持ってくれるのかしら?」
梨子がそこに疑問を持つ。
それは自分のため、とは今は言わないでおこう。
「スクールアイドルが好きなんじゃない?」
千歌が脚立から降りながら呑気にいう。
「それだけじゃないと思うけど」
う、梨子はやたら鋭いな。
「和哉くんは何か知らないの?」
「いーや、俺は何も」
梨子から質問されるが、感ずかれないように嘘をつく。
「とにかく、入ろうよ!」
千歌は鍵を1つ取り出し、見せる。それはこのスクールアイドル部の部室の鍵だ。
千歌が鍵を開け、中に入ると・・・。
「うぅ・・・」
「うわーっ」
千歌と曜が落胆の声をあげる。
それもそうだ。何年も使われていないと言われていた場所だ。ホコリまみれだし、何が入ってるのか分からないダンボールや袋ばかりだ。
「片付けて使えとは言ってたけど」
「これ全部ー?」
「文句言っても誰もやってくれないわよ」
千歌は文句を言っているが、梨子と曜は腕をまくりながら部室を見回す。
どうやら2人はやる気満々のようだ。
「これは2、3日は掃除かなー」
ため息混じりに俺は呟く。
「えー!練習は!?」
「少し片付けてから」
「うぅ・・・。ん?」
何かに千歌は気づく。
視線をホワイトボードに向けると、ちょこちょこと歩いていく。
「ん?なんか書いてある」
俺たちもそれに着いていき、ホワイトボードを見る。
「歌詞、かな?」
「どうしてここに?」
「分からない」
千歌たち3人はホワイトボードには掠れた文字で文が綴ってある。
「どんな未来かは誰もまだ知らない・・・」
「カズくん?」
このホワイトボードに書いてあるのは間違いなくあの歌。
ここにまだ残ってたのか・・・。
「カズくん!」
「うわっ!何?」
「さっきから呼んでも返事しないから!」
千歌がぷりぷりと怒る。
「あ、いや、いい言葉だなって」
とっさに誤魔化す。
「ふーん。それにしても・・・」
千歌は俺の後ろの机に積まれている本の山を見る。
「図書室のじゃないの?」
「まさか」
千歌の言葉を軽く否定する。
「でも、ほら。バーコード貼ってあるよ?」
千歌は本を1冊持ち、裏表紙を見せる。
「本当だ」
「じゃあ、10冊近くもここに置きっぱ?」
曜がまさかー、と軽くボヤく。
「でも、本当みたいよ。多分、生徒数が少ないからこういう学校の備品の管理も大雑把になってるのかも」
確かに梨子の言ってることは一理あるかもしれない。生徒数が少なければ、それに比例して利用数も減る。この学校は何年も前から統廃合の噂が出ているから仕方ないのかもしれない。
「とりあえず、本のホコリ落として返しに行こう」
俺が提案するとそうだね、とみんな頷く。
5分程で全ての本のホコリを落として、手分けして図書室に持っていくことにした。
図書室に着き、千歌が元気よく挨拶して入る。
「こんにちはー!」
「こら千歌、図書室は静かにしないと」
「えへへ、あ、花丸ちゃん!」
図書室のカウンターに花丸ちゃんが座っていた。どうやら今日が当番の日のようだ。
ふと、カウンターの近くに置かれている扇風機を見ると、そこにはルビィが隠れていた。いや、隠れきれてない・・・。
「それとー・・・。ルビィちゃん!」
千歌は後ろを指さす。
「ぴぎゃ!」
そんなに驚かなくてもいいでしょ・・・。
「よく分かったね」
曜がドヤ顔の千歌に感心している。
「えぇ?」
「逆になんで気づかなかった・・・」
観念したルビィは泣きそうな声で挨拶をする。
「うっはぁー!かわいい!」
本当に千歌はルビィのことが気に入ってるようだ。
確かにルビィがかわいいのには同意だ。
「これ部室にあったんだけど、図書室の物じゃないかな?」
カウンターに持ってきた本を置き、最後に置いた梨子が花丸ちゃんに話しかける。
花丸ちゃんは1冊持ち、中を見て確認する。
「あ、確かにそうかもしれないです。ありがとうございま、すぅ!?」
花丸ちゃんがお礼を言い終わる前に千歌は花丸ちゃんとルビィちゃんの手を掴む。
「スクールアイドル部へようこそ!」
「うわぁっ」
いきなりの事で花丸ちゃんが声を上げる。
全く、こいつは・・・。
「千歌ちゃん・・・」
梨子も呆れた目で千歌を見る。曜も驚きを隠せていない。
というか、なんだよ。ようこそって。まだ入るとは言ってないだろう。
「結成したし、部にもなったし!絶対、悪いようにはしませんよー」
手を掴まれた2人もキョトン、としながら話を聞いている。
「2人が歌ったら絶対キラキラする!間違いない!」
「あ、えっとー、でも・・・」
「おら・・・」
「おら?」
あ、花丸ちゃんのたまに出る一人称が出た。
それを千歌は復唱した。
「あぁ、いいえ。マル、そういうの苦手っていうか・・・」
「えぇ!る、ルビィも・・・」
確かにルビィは極度の人見知りだ。いくらスクールアイドルが好きとは言え、周りに見られるとルビィはどうなるか分からない。だが、花丸ちゃんだけがそんなルビィを悲しそうな目で見ていた。
なるほどね。花丸ちゃんはルビィの本心が分かってるのか。
「ほら、千歌。そこまでだよ」
「いてっ」
千歌の頭に軽くチョップを打ち、止めさせる。
「千歌ちゃん、強引に迫ったら可哀想だよ」
「そうよ。まだ入学したばかりの1年生なんだし」
曜と梨子も見ていられなくなったのか、千歌に注意する。
「そうだよね。あはは・・・。かわいいから、つい」
千歌は2人の手を離し、頭を書きながら笑う。
「千歌ちゃん、そろそろ練習」
「あ、そっか。じゃあね」
千歌が手を振るとルビィも答えるように小さく手を振る。
なんだかんだ言ってルビィは千歌には少し慣れているのかもしれない。
「とりあえず、もう少し掃除だよ」
「えぇー!」
「文句言わない!」
「踊りたいよー!」
子供のように駄々をこねる千歌の声が廊下に響き渡っていった。
部室で見つけた歌詞。
それは懐かしく、暖かく、そして悲しみの記憶。
「ここにまだ残ってて嬉しかったよ」
ご存知ではなかったんですね。
「まあね。あの頃はまだ中学生だったから」
確かにそうですね。
ではまた次回。