部室を手に入れたAqours。
次なるAqoursの活動について4人は動き始めた。
朝、Aqoursは淡島神社の階段で走り込みをしていた。
「さすがに無理よ!」
「だって、はぁはぁ、μ'sも、階段登って鍛えたって!」
荒い息をしながら梨子が言うと同じく千歌も息を荒らげて答える。
階段の途中、踊り場で3人は並んで座り込む。
「ほらー。まだ途中だよ。早くしないと学校遅刻するよ?」
俺はそんな3人の前で見下ろすように立っている。
「なんで、平気なの?」
梨子が俺に尋ねる。
「カズくんは脳みそまで筋肉で、できてるから・・・。疲れなんてないんだよ・・・」
「千歌、お前だけ2倍にしてやろうか?」
「えー!!」
バカチカのことは放って置くことにしよう。
「和哉くん、よくダイビングとかやるし。果南ちゃんに付き合って走ってるから・・・」
曜が代わりに答えてくれた。
「でも、こんなに長いなんて・・・」
高飛び込みや水泳で鍛えている曜でも流石にこの階段はしんどいようだ。
「こんなの毎日登ってたら体が持たないわ」
「千歌?」
階段の上の方から聞きなれた声が聞こえた。
「果南ちゃん!?」
「もしかして、上まで走っていったの?」
曜は驚いて質問をする。
「一応ね。日課だから」
「え!日課!?」
3人とも驚く。俺はまあ、何遍も付き合わされたから驚きはない。
「千歌こそ。どうしたの、急に」
「鍛えなくっちゃって」
苦笑いをしながら千歌は答える。
「ほら!スクールアイドルで!」
「あ、そっか。ふぅん。まあ、頑張りなよ。じゃあ、店開けなきゃいけないから」
素っ気ないようにそう言うと果南ちゃんはポニーテールをなびかせながら、下っていった。
「息一つ切らさないなんて」
「上には上がいるって事だね」
「ま、果南ちゃんだしね」
「はあ・・・」
千歌はため息を1つつく。何事だ、と思い、みんなで千歌を見る。
「私たちも、いくよぉ・・・」
弱々しく突き上げた右腕はすぐに下がっていった。
放課後の部室。
今日は部室にお客様がやって来た。そのお客さんはルビィと花丸ちゃん。
「あれ?2人ともどうしたの?」
扉の前で2人に要件を聞く。
「えっと、マルたち少しスクールアイドルに興味があって」
「本当!?」
俺は思わず2人の手を握り、部室へ入れる。
「さ、入って入って!」
「あ、花丸ちゃんにルビィちゃん」
「今日はどうしたの?」
2人に気づいた千歌と梨子。
「マルたち、体験入部をしようかなって思って」
「ホント!?」
千歌も俺と同じリアクションをとる。
分かる分かる。こんな美少女2人がスクールアイドルやるって言うんだもん。
「やった・・・。やったよ・・・」
千歌は涙を滲ませた、震える声で呟く。
流石にオーバー過ぎるよ・・・。
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
反対側の庭に出る扉を勢いよく開け、千歌は大ジャンプをする。戻って曜と梨子に飛びつき、2人の肩に手を回す。
「これでラブライブ優勝だよ!レジェンドだよ!」
いやいやいや。流石に気が早すぎる。飛躍しすぎだって。
「千歌ちゃん待って。体験入部だよ」
「ほぇ?」
曜の言葉に千歌は呆けた声を上げる。
「ようするに、仮入部というか、お試しってこと。それでいけそうだったら入るし、合わないっていうなら辞めるし」
梨子が優しく千歌に説明する。
「そうなの!?」
やっぱり千歌は話を聞いていなかったようだ。
花丸ちゃんは申し訳なさそうに口を開く。
「まあ、色々あって・・・」
「あ、もしかして生徒会長?」
「あ、はい。だから、ルビィちゃんとここに来たのは内密に・・・」
曜が察して口にしたことは本当のようだ。
全く、ここでもダイヤちゃんか。鞠莉ちゃん言ってくれないかな?硬度10とか、炭になれとか。・・・おっと、寒気がした。
曜の隣にいた千歌が何かを思いついたようで机に向かう。何をしているんだろう、と思い、覗いてみる。
「よっ!できたぁ!」
この間配ったAqoursのチラシに早速2人の名前を書いていた。
「千歌ちゃん、人の話は聞こうね」
「ほぇ?」
曜は千歌の方に手を置き、呆れながら言う。
俺もなんだか頭が痛い。というか、さっきの寒気といい、頭痛といい、風邪かな?・・・ごめんなさい。寒気は殺気で頭痛はバカチカが原因です。
「じゃあ、早速練習やってもらうのが一番ね」
梨子がその場を仕切り、ホワイトボードに俺と梨子が考えて作った練習スケジュールのグラフを貼る。
「ネットでスクールアイドルのブログとか見ながら、和哉くんと一緒に考えたの」
1年生2人はおーっ、と感心した表情をしている。というか、千歌も同じように感心して、拍手をしている。
「歌の練習は?」
「それは別に時間を見つけてやるしかないかな。今みたいに千歌が作詞、梨子が作曲している間は基礎体力のトレーニング。出来上がったら少し基礎トレを減らして歌の練習って感じ」
「これがスクールアイドルの練習!」
ルビィは目をキラキラ輝かせながら、スケジュール表を見ている。ルビィにとっての憧れはスクールアイドル。それが今、目の前にいて、自分もやるんだから仕方ない。
「でも、練習どこでやるの?」
曜の質問に千歌はハッ、とする。
「ふふん。それもか」
「探しに行こう!」
千歌は俺の言葉を遮り花丸ちゃんとルビィの手を握り、外へ走っていく。曜もそれについて行く。
「せめて、最後まで言わせてよ・・・」
「あはは・・・。千歌ちゃんらしいけどね」
肩を落とした俺を梨子は慰めてくれた。梨子の優しさがひたすら胸に響く。
「俺たちも追いかけようか」
「うん」
Aqoursの練習場所の捜索作戦が始まった。
練習着に着替えた俺たちは校内で練習できる場所がないか探していた。
校庭ではソフトボール部が練習に励んでいる。その光景をバックフェンス越しに眺めていた。
「中庭もグランドもいっぱいだねー。部室もそこまで広くないし」
千歌が悲しそうに呟く。
「砂浜じゃダメなの?」
曜が聞くと、梨子が答える。
「練習の時間考えると練習場所は校内で確保したいわ」
確かにそうだ。ただでさえ、バスの本数が少ないし、時間は少しでも多く使いたい。
「そこでだ、俺に」
「屋上はだめですか!?」
俺の言葉を遮ってルビィが意見を出す。
俺が言おうと思ってたのに・・・。
「屋上?」
千歌が聞き返すと、ルビィは続ける。
「μ'sはいつも、屋上で練習してたって」
「そうか!」
「屋上かー」
「行ってみよー!」
千歌が手を上げると、丁度バットがボールを打つ気持ちいのいい音が響き、そのボールが俺の頭に直撃する。
「いでっ」
・・・フェンスを超えての大ファール、お見事です。
「だ、大丈夫!?」
慌てて梨子と花丸ちゃんが駆け寄る。
「大丈夫だよ。カズくん丈夫だし」
なんで千歌が答えるのかは謎だが、少し痛いだけだ。
ボールを拾ってソフトボール部員に投げ返す。
「俺は大丈夫だから、屋上にいこうか」
頭をさすりながらみんなで屋上へ向かう。
あ、少しコブになってる。
「うわー!すごーい!」
屋上についた途端、千歌は走り出し、ジャンプする。
「おーい。転ぶよー」
「子供扱いしないで!」
「見てて危なっかしいの、千歌は」
「んー!」
むくれる千歌は放っておいて、今日は晴天で太陽が気持ちいい。
「富士山くっきり見えてるー!」
曜が屋上から見える富士山を見て感動を口にする。
「でも、この日差しは強いかも」
花丸ちゃんがどことなく楽しそうに呟く。
「そこがいいんだよ。太陽の光をいっぱい浴びて、海の空気をいっぱいに吸い込んで!」
千歌は喜びながら、みんなに言う。
そしてしゃがみ込み、屋上の床に触れる。
「あったかい・・・」
俺たちは千歌の近くに行き、円になって千歌の真似をして、床に触れる。
「本当だ」
曜もポツリ、と呟く。
「んー!気持ちいいずらー」
花丸ちゃんはこの日差しが気持ちいいのだろう、その場で横になる。
「花丸ちゃん?」
ルビィはそんな花丸ちゃんの頬をつつく。
それにしても、でかい。この体型でこれとは。寺育ちとはけしか・・・
「和哉くん?」
「ごめんなさい・・・」
隣にいる梨子が俺をキッ、と睨む。
エスパーか何かなの?
「さ、始めようか」
千歌の言葉に花丸ちゃんも起き上がり、みんな頷く。
そして、円陣を5人で組み、手を重ねる。
俺はその光景を後ろで見ていた。
「いくよー、Aqoursー」
『サーンシャイーン!』
さあ、練習の始まりだ。
「ワンツースリーフォー、ワンツースリーフォー」
俺が手拍子を叩きながら、千歌とルビィが新曲の振り付けを踊っている。
2人ともなかなかいい感じだ。
ワンコーラス分で一度止める。
「できた・・・」
ルビィは肩で息をしながら、呟く。
「流石ルビィちゃん!」
隣で見ている花丸ちゃんがルビィを褒める。実際、ルビィの飲み込みの良さはすごい。少し教えただけでほぼ完璧だ。後は表情と小さくならない事だ。
「できました!千歌先輩!」
ルビィが嬉しそうに千歌に声をかける。その千歌はというと、決めポーズが謎すぎて、センスすらない。
「千歌、間違えてるよ」
「あ、あれ?」
「千歌ちゃんはやり直し」
梨子が厳しく告げた。ルビィと花丸ちゃんも苦笑いだ。
全員ダンスの練習を終え、部室に戻る。
「千歌ちゃん、歌詞は?」
梨子が千歌に聞くと、千歌は苦虫を潰した顔で梨子にノートを渡す。
受け取ったノートを梨子は読み進めていく。
「ちょっと!全然書いてないじゃない!今日までって約束だったはずよ」
「えへへ・・・。思いつか無かったんだもん」
「思いつかなかったんだもんじゃないの!」
「まあまあ」
こんなやり取りも最近は見慣れたものだ。
「何かあったんですか?」
花丸ちゃんが隣にいる曜に尋ねる。
「新しい曲、今作ってて」
「花丸ちゃんも思いついたら何か言ってね」
梨子のお説教を無視して千歌が花丸ちゃんに言う。
「はあ・・・?」
花丸ちゃんは後ろを振り返り、ルビィを見る。ルビィは1人でさっきやった振り付けの復習をしていて、小さく踊っている。そんなルビィを見て、花丸ちゃんは優しく微笑んでいた。
夕暮れ時、俺たちは淡島神社のふもとの階段にいる。
「これ、一気に登ってるんですか!?」
ルビィは驚いていた。
「もちろん!」
「いつも途中で休憩しちゃうけどね」
自信満々に言った千歌の言葉を曜はすぐに否定した。
「えへへ・・・」
「でも、ライブで何曲も踊るには頂上まで駆け上がるスタミナが必要だし」
梨子が階段ダッシュをやる意味を説明する。
「俺はこの階段の中腹くらいにいるから、しんどくなったら俺に言ってね。しんどくなったら休んだり、歩いてもいいから」
そう言って俺は一足先に走って登っていく。
千歌のスタートの合図が思ったよりも早く、俺はスピードを上げて、一気に中腹まで登る。
中腹に到着して5分ほど。
先頭は梨子。そのすぐ後ろに曜と千歌が通り過ぎていく。少し時間を開けてルビィがやって来る。
「花丸ちゃん、もう少ししたらくるから!」
「分かった!頑張れ!」
「うん!」
ルビィも大丈夫そうだ。しかし、どれだけ待っても花丸ちゃんはやって来ない。
おかしいと思った俺は階段を下っていく。
途中のロックテラスに着くとそこにはダイヤちゃんがいた。
「ダイヤちゃん?」
ダイヤちゃんはそこから海を見つめていたが、俺に気づくとゆっくり振り返る。
「なんでここに?いや、それよりも花丸ちゃんを見なかった?」
「花丸さんでしたら、先程帰ったわよ?何やら思いつめた顔をしていたけれど」
なんだって?
それに思いつめた顔?
「お姉ちゃん?」
後ろから声が聞こえ、振り返るとそこには山頂まで登りきったメンバーがいた。
「ルビィ!?」
あ、ダイヤちゃんはルビィが体験入部しているのを知らなかったんだ。まずいな・・・。
ここでダイヤちゃんに止められたらルビィは・・・。
「ダイヤさん、なんでここに?」
ダイヤちゃんは千歌たちを睨む。
「これはどういう事かしら?」
「これは、あの、その・・・」
ルビィは怯えながら言葉を探す。
「これは違うんです!」
「千歌さん」
それを見かねた千歌が代わりに説明しようとしたが、ルビィは止める。
ルビィはゆっくりダイヤちゃんの元へ行く。
「お姉ちゃん・・・」
そして、ルビィはしっかりと自分の意思を込め、ダイヤちゃんに告げた。
「ルビィ・・・、ルビィね!スクールアイドルやりたい!お姉ちゃんがスクールアイドルを嫌ってるのも知ってる。だけど、ルビィはスクールアイドルが大好き!だから!」
ハッキリと自分の気持ちを言ったルビィに驚くダイヤちゃん。
「好きになさい。ただし、ハメは外しすぎないように」
クルッ、と踵を返したダイヤちゃんは一言ルビィに告げ、去っていった。
「やったー!」
ダイヤちゃんが見えなくなった途端、千歌は大声を出し、ルビィに抱きつく。
「ルビィちゃん、スクールアイドル部へようこそ!」
それに続いて曜と梨子もルビィに抱きつく。
Aqours、4人目のメンバーの誕生だ。
だけど・・・。
俺は夕日で光るオレンジの海を見てポツリ、と呟く。
「花丸ちゃん、君はどうしたいんだ?」
Aqoursに加入したルビィ。
しかし、花丸は?
「マルちゃんはきっとルビィのために・・・」
その真意を確かめないと行けませんね。
「うん!がんばルビィ!」