とうとう善子が学校に行くことを決意した。
一方でAqoursはランキングの伸び方に悩むのだった。
「うーん、今日も上がってない」
部室に千歌の唸り声が響く。
今練習前にAqoursのランキングがどのくらいなのかみんなで見ているところだ。
Aqoursのランキングは現在4768位。
まだまだ底辺。だが、上出来だろう。
「昨日が4856位で今日が4768位」
「まあ、落ちてはないけど」
梨子と曜も今の順位に不満のようだ。
「ライブの歌は評判いいんですけど・・・」
ルビィも険しい声で呟く。
「いやいや、むしろ1日で100位くらい上がってるから充分だと思うけど?」
「ダメだよ。もっと注目されないとラブライブにはでれないんだから!」
千歌は俺の言葉を否定する。
「それに、新加入の2人もかわいいって」
「そうなんですか!?」
ルビィが嬉しそうに聞き返す。
「特に花丸ちゃんの人気が凄いんだよね」
曜の言葉通り、コメント欄は花丸ちゃんがいい、やかわいいなどの書き込みが多くある。
「花丸ちゃん、応援してます」
「花丸ちゃんが歌ってるところ早く見たいです」
流れてくるコメントを梨子と曜が読んでいく。
「ね、ね!?大人気でしょ!」
千歌も自分のことのように喜ぶ。
すると、花丸ちゃんは不思議そうな顔をしながら、フラフラとパソコンの画面によっていく。
「これがぱそこん?」
「「そこぉ!?」」
俺と曜のツッコミがハモる。
「これが知識の海に繋がっていると言われているいんたーねっと!」
自分を褒めるコメントよりパソコンに反応するのか、この子は。
うん、かわいい。
花丸ちゃんの目はキラキラ輝き、画面を一心に見つめる。
「そ、そうね。知識の海かどうかはともかくとして」
「おぉ~!」
パソコンに興味津々な花丸ちゃんの後ろで千歌はルビィにこそこそ話しかける。俺もそれを近くで聞く。
「もしかして、花丸ちゃんパソコン使ったことないの?」
「まさか。流石に授業でやるでしょ?」
「それが家が古いお寺で。電化製品とかもほとんど無くて。学校にあるのはデスクトップだからノートを見るのは初めてかも」
ルビィの説明に俺は驚く。
「マジ!?今の時代でそんな家庭あるの!?」
「うん。おじいちゃんが古風な人らしくて。この前沼津に言った時も・・・」
ルビィは苦笑いしながら話し出す。
ルビィの話によると、自動で水の出る蛇口に驚いたり、ジェット乾燥機の下にしゃがみ、その風を頭から浴びていたらしい。
「そういう機械を見るといつも『未来ずら!』って。正直、少し恥ずかしかったです」
「未来と言うか、完全にタイムスリップしてきた人じゃないの?」
俺の言葉にみんな苦笑いする。
「これ、触ってもいいですか!?」
パソコンを見て喜んでいた花丸ちゃん。
見ているだけでは物足りないのだろう。
「もちろん」
千歌が許可を出す。
「うわぁ~!」
感動の声を上げながら花丸ちゃんはゆっくり手をパソコンに近づける。
「ん?」
その手がピタリ、と止まり、視線がある1点を見つめる。
あ、なんだか嫌な予感がする。
「ずらっ!」
花丸ちゃんがボタンを押すとパソコンの画面がブラックアウトする。
「うわっ!?」
「い、いきなり何を押したの?いきなり」
梨子が慌てて花丸ちゃんに尋ねる。
花丸ちゃんは引きつった笑みを浮かべる。
「え?1つだけ、光るボタンがあるなって」
ビュン!と梨子と曜が物凄い速さでパソコンに向かう。
そう、花丸ちゃんの言った光るボタンはパソコンの電源ボタン。
花丸ちゃんはそれを知らずに、パソコンを強制シャットダウンさせたのだ。
「大丈夫!?」
「衣装のデータ、保存してたかなー」
慌てて2人はパソコンを再起動させ、データのチェックを始める。
花丸ちゃんは壊れかけのロボットのように、ゆっくり振り向く。
「ま、マル。何かいけない事しました?」
「あはは、大丈夫、大丈夫」
「え、えっと、ことによってはかなり不味い、かもね?」
「んー!」
みんな着替えると屋上に移動する。
「おおっ!こんなに引法太子空海の情報が!?」
屋上にパソコンを持っていき、曜が花丸ちゃんに操作の説明をしている。
しかし、普通女子高生が空海で喜ぶ?
花丸ちゃんもどこか変わってる。
「うん。ここで画面、切り替わるからね」
「凄いずらー」
「もう、これから練習なのに!」
練習そっちのけでパソコンに興味津々の花丸ちゃんと操作を教える曜に痺れを切らした梨子が注意する。
「少しくらい、いいんじゃない?」
「それより、ランキングどうにかしないと」
「それは仕方ないって。ただでさえスクールアイドルの数は多い。結成したばかりの千歌たちが注目されるのもまだまだ時間がかかるよ」
「でもさー」
ランキングが上手く上がらないためか、千歌は苛立ちを覚えているのかもしれない。
「毎年、スクールアイドルは増えてますから」
ルビィも俺と同じ意見のようだ。
「しかもこんな何も無い場所の地味!アンド地味!アンド地味ー!なスクールアイドルだし・・・」
自分で言ってて落ち込む千歌。
忙しいやつだ。
「そんなに目立たなきゃダメなの?」
千歌の言葉に疑問を持った梨子が質問する。
「人気は大切だよ」
曜が答える。
その曜の隣にいる花丸ちゃんはやっぱりパソコンに夢中だ。
「なにか目立つことかー」
「そうねー。例えば名前をもっともーっと奇抜なのにつけ直してみるとか?」
確かに梨子の案は悪くは無い。
けど、俺個人、この『Aqours』という名前が消えるのは嫌だ。
「奇抜って、スリーマーメイド?」
千歌は久しぶりに聞くその名前を口にする。
「あ、今はファイブだ!」
「ファイブマーメイド・・・」
ルビィは割と気に入ってるようだ。
「なんで蒸し返すの!?」
名付け親の梨子は千歌に対して蒸し返したことを怒る。
「って、その足じゃ踊れなーい」
千歌は聞く耳持たずと言った表情で梨子を煽る。
「じゃあ、みんなの応援があれば、足になっちゃう、とか!」
ルビィはぴょんぴょん跳ねながらファイブマーメイドの設定を口にする。
「あっ!なんかいい!その設定!」
「でも、その代わりに声がなくなるという・・・」
曜がイタズラな顔をしながらさらに設定を加える。
「って、ダメじゃん!」
頭を抱える千歌。
「だから、その名前は忘れてって言ってるでしょ!」
その千歌を梨子はガッ、と掴み揺らして忘れるように促す。
「悲しい話だよねぇ、人魚姫・・・」
「曜、お前完全に遊んでるでしょ?」
「あ、バレた?」
はあ、と俺はため息をつく。
「名前はそのままでいいでしょ?Aqoursって名前俺は気に入ってるし。千歌も運命だって言ってたじゃないか」
「まあね、そうだね。でも、カズくんさ。何か思い入れでもあるの?」
千歌が変な質問をしてくる。
「なんで?」
「初めて名前見た時もすんなり読んでたし、やけに拘ってる風な言い方してるから」
普段はおバカなのにこういう時は本当に鋭い。
「俺も千歌と一緒で運命感じたんだよ。それになんか好きなんだよ」
「ふーん」
適当にはぐらかすと千歌はやや不満足だったようだが、納得する。
ふと、パソコンに夢中な花丸ちゃんを見ると何やらどこかを見つめている。
「善子ちゃん?」
え、善子?
花丸ちゃんの見つめる先を見てみるが、そこには人はいない。
というか、なぜ善子の名前が?
「あの、マル。御手洗に・・・」
「あ、うん!行っておいで!」
梨子に掴まれたままの千歌が返事をする。
何か怪しい。
花丸ちゃんが出ていって数分後に俺もトイレに行くと言って屋上を離れた。
千歌に花丸ちゃんの尾行をするの?と聞かれた時は張り倒してやろうか、とも思ったが、ここは落ち着いて連れションする?とからかってやると、顔を真っ赤にして、早く行って!と言われた。
千歌の相手なんて慣れたものだ。
さて、お兄さんに何をコソコソやっているのか教えて貰おうじゃないか。
ランキングは一朝一夕では上がらないもの。
地道な努力がものを言うものだ。
「そんなことは言ってられない!速く注目してラブライブにでないと!」
そうは言っても・・・。
何事も積み重ねですよ。
「うぅ・・・。そうだけど・・・。何か新しいものがあれば」
千歌さんは悩んでるようですね。
さて、どうなることやら。