教室で盛大にやってしまった善子。
花丸に連れられ、スクールアイドル部室で落ち込むのだった。
「どうして止めてくれなかったのぉー!」
花丸に連れていかれた先は体育館の部室。そこは花丸が所属しているスクールアイドル部の部室だ。朝だというのに、2年生の先輩たちもいる。
私は長机の下に隠れ、情けない声をあげる。
「せっかくうまくいってたのにぃ・・・」
「まさか、あんなものを持ってきているとは思わなかったずら・・・」
「どういうこと?」
先輩の1人がこの事態の説明を聞く。
「ルビィもさっき聞いたんですけど、津島さん、中学時代は自分のことを堕天使だと思い込んでたらしくて、その頃の癖が抜けきってないって」
「俺はそれを真横で見せつけられてたんだけどね。天界より舞い降りた堕天使ヨハネと堕天しましょう、ってよく言ってた」
「そっか、和哉くんは中学校一緒なんだったね」
ルビィさんと先輩が説明をしてくれた。
私はのそり、と机の下から出る。
「分かってる。自分が堕天使のはずないって・・・。そもそもそんなものいないんだし」
そう、そんなものはこの現実に、リアルに存在しない。
「だったら、なんであんなもの学校に持ってきたの?」
隣にいる赤髪の先輩が不思議そうに尋ねる。
「それは、まあ。ヨハネのアイデンティティみたいなもので。あれが無かったら私は私でいられないって言うか!」
ビシッ、とポーズを決める。
決まった、カッコイイ!・・・って。
「ハッ!!」
「なんだか、心が複雑な状態にあるということは、よく分かった気がするわ」
その先輩は困った顔をしている。
またまたやってしまった・・・。
「まあ、梨子。善子も悪気がある訳じゃないんだ。辞める気があるのかどうかは置いといて・・・」
先輩も私を見てため息をつく。
「ですね。今でもネットで占いとかやってますし」
ルビィさんはノーパソを操作する。
『またヨハネと堕天しましょう』
ってそれ!この前放送して評判よかった奴じゃない!
みんなジト目だし、ひかれたー!
「あー、それ。その日は珍しく面白かったんだよ」
「和哉くん見てるの?」
「まあね、中学の時に善子が見ろ見ろってうるさいから」
「やめて!」
とにかくこのままではまずい。
私はノーパソを閉じ、今の思いを必死に伝える。
「とにかく私は普通の高校生になりたいの!何とかして!」
ぐっ、と花丸に近ずき、何とかしてもらうようにお願いする。
「ずら・・・」
「何とかしてって言われても・・・」
頼りの先輩と花丸もお手上げのようだ。
「かわいい」
「え?」
アホ毛が特徴の先輩がボソリ、と呟く。
「これだ!これだよ!」
ノーパソを私たちに見せながら、何か閃いたようだ。その画面には私のキメ顔。
うぅ・・・、恥ずかしい。
「津島善子ちゃん!」
「は、はい?」
もしかしたら、この先輩が普通の高校生に私を変えてくれるかもと、微かな期待を持つことにした。
「いや、堕天使ヨハネちゃん!」
え、えぇ・・・?
「スクールアイドル、始めませんか!?」
・・・これは期待外れかも・・・。
それから次の日。スクールアイドルをやらないか、と言った千歌さんの家で早速作戦会議。残り2人の2年生は曜さんと梨子さん。
曜さんは同じ沼津に住んでいて、昨日の帰りは最後まで一緒だった。梨子さんはこの春に東京から転校してきたらしい。
というか、千歌さんの家は旅館なのね・・・。
「善子ちゃん、持ってきた?」
千歌さんが私を見て言う。
「ええ。持ってきたけど、本気?」
「本気だよー。絶対上手くいく!じゃあ、私達は着替えるから、カズくんは出ていって」
先輩ははいはい、と言って千歌さんの部屋から出ていく。
私が持ってきたのはゴシック風の服。幸いみんな私と体格が変わらないか、少し小さいくらいで、中学のときに来ていた服も問題なさそうだ。
「うわーっ、梨子さんスタイルいいなぁー」
ルビィさんが下着姿の梨子さんを見て呟く。
確かにスラッ、としていて1つ上とは思えないくらい綺麗。
「そんな。中途半端なだけだよ」
「確かに!やっぱり、東京育ちは違うなー」
千歌さんも便乗して梨子さんを褒める。
東京は関係あるのかしら。
「だねー。背も高いし、衣装の作りがいがあるよ。特にこのウエスト、細くて羨ましいなー」
そう言った曜さんは梨子さんの腰をつつく。
「ひゃっ!?」
梨子さんは短い悲鳴をあげる。
「お、いい反応ですな」
曜さんはニヤリ、と笑い、続けて腰を触り始める。
「ちょっと、曜ちゃん!」
「あ!よーちゃんずるい!私も!」
千歌さんも悪ノリに乗っかり、2人で梨子さんの肌をつつく。
・・・これがリア充・・・!
「お・・・。おぉ!すべすべだ!」
「きゃっ!や、やめてー!」
梨子さんが悲鳴をあげる。
すると、扉が勢いよく開かれる。
「梨子!?みんなも大丈夫!!」
和哉先輩が乱入してきた。
今服を着てないのは梨子さんだけ。2人の視線がぶつかる。数秒後、梨子さんの顔は真っ赤に染まっていく。先輩も先輩で気まずく梨子さんの顔を見つめる。
「か、和哉くんのえっち!スケベ!」
「ちょっ!誤解!悪気はないよ!」
梨子さんは手当たり次第に掴めるものを先輩に投げつける。投げられたものには私たちのカバンも混ざっていた。
「ご、ごめん!梨子、投げるのやぶはっ!」
「早く出ていってー!」
なんとか先輩は部屋から脱出した。
「梨子ちゃんは運がないね」
呑気に千歌さんが呟く。
「誰のせいだと思ってるの!?」
梨子さんはご立腹のようだ。
「まあ、とにかく着替えよ」
曜さんが言うと渋々と梨子さんは私の持ってきた服に着替え始めた。
みんな着替え終わり、千歌さんが先輩を呼ぶ。
「カズくん、入っていーよー」
恐る恐る襖から顔を覗かせる先輩。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ、ほら!」
みんなで並んで服をお披露目する。
私は生放送で使う堕天使衣装だ。
「おおー。似合ってるね。善子はいつも通りだ」
先輩からの評価はオーケーのようだ。ただ、梨子さんは自分の格好を見て顔を赤くする。
「こ、これで歌うの?この前より短い!これでダンスしたら、流石に見えるわ・・・」
スカートとが短いのではなく、梨子さんの背が高いし、足が長いからだと思うが、何も言わないでおこう。
「ダイジョブー!」
千歌さんはスカートを捲り上げる。中に短パンを履いているので、下着は見えない。
「そういう事しないの!和哉くんもいるんだから!」
千歌さんのスカートを梨子さんが元に戻す。
先輩も気まづそうに顔を背けていて、少し顔が赤いのは気のせいだろうか。
「いいのかなー、本当に・・・」
「うん、よく似合ってる、よ・・・」
先輩が梨子さんを褒めると、梨子さんは顔を赤くして俯く。
「あ、ありがとう・・・」
2人して俯くその姿はまさに初々しいカップルそのもの。
この2人、付き合ってるのかしら?
「調べて見たんだけど、堕天使アイドルっていなくて。結構インパクトあると思うんだよね」
「まあ、アイドルがそういうのは見た事無いね。男性ロックバンドとかなら昔いたけど」
千歌さんがそういうと、先輩も続けて話す。
確かに、堕天使アイドルなんているわけない。
「昨日までこうだったのが、こう変わる」
曜さんは初めてのライブの時に使った衣装を見たあと、みんなを見回す。
「ううー、なんだか恥ずかしい・・・」
「落ち着かないずらー・・・」
ルビィさんと花丸も落ち着かないようだ。
「ねえ、本当に大丈夫なの?こんな格好で歌って」
梨子さんの疑問も最もだ。
こんなの、ただの変な集団よ。
「かわいいねー!」
千歌さんは目をキラキラさせながら言う。
「いや、そういう問題じゃない」
梨子さんの言葉に私も同意する。
流石に私もこれはまずいと思う。
「そうよ。本当にこれでいいの?」
「これでいいんだよ。ステージ上で堕天使の魅力をみんなで思いっきり振りまくの!」
「堕天使の魅力・・・。はっ!ダメダメ!そんなのドンびかれるに決まってるでしょ!」
一瞬いいなー、と思ってしまった・・・。
「大丈夫だよ、きっと!」
千歌さんに言われ、少し想像してみる。
ステージには満員の観客。
鳴り止まない歓声。
そして・・・。
『天界よりドロップアウト!堕天使ヨハネ、堕天降臨!』
いい・・・。最高にかっこいい!
「・・・協力、してくれるみたいです」
「仕方ないわね。少しお手洗いを借りるわ」
梨子さんはそう言うと部屋から出る。
しかし、部屋から出てすぐの所で立ち止まる。
何かあるのかしら?
「ひぃいいいいいいいいいやぁああああああああああ!!」
梨子さんの悲鳴が聞こえた。
「梨子ちゃん?」
千歌さんも何が起きているのか分かってないようだ。他のみんなも不思議な顔をしている。
「やめて!こないで!」
ドタドタと激しい足音と共に、犬の鳴き声が聞こえる。
もしかして、玄関にいたあの大きな犬から逃げてる?
「大丈夫?しいたけ、大人しいかわぶっ!」
千歌さんが落ち着くように言うが、前の襖を倒し、梨子さんと犬が部屋に乱入する。
そのまま走る梨子さん。
逃げ道が無くなった梨子さんはベランダを飛び越えた。
「と、飛んだー」
みんなして呟く。
「わん!」
いや、わん、じゃないわよ。
梨子さんはくるり、と空中で一回転した後に向かいの建物のベランダに隠れるように落ちる。
「おー」
みんなで拍手をすると梨子さんは立ち上がり、顔を覗かせる。
「おかえりー」
向かいの家の部屋の掃除をしていた女の人がそう言うと、梨子さんは再び隠れる。
「ただいまー・・・」
そこは梨子さんの家のようだ。
ハチャメチャな人たちなのね、この集まりは。
千歌の提案で堕天したAqours。
果たしてその結果は・・・。
「俺はアリだとは思うけど、嫌な予感がするよ」
ではなぜ止めなかったのですか?
「試しもしないでやめるのは良くないから」
なるほど。
では、次回を楽しみにしていますね。