お礼を言いにわざわざ和哉の家に訪れた善子。
そこで考えた梨子のあだ名。
果たして善子はあだ名で呼べるのか。
Aqoursに善子が入って初めての月曜日。
月曜日から早速朝練で基礎体力を鍛える。
ここは弁天島。この階段を登るのが足腰を鍛えるのに丁度いいだろう、というか、かなり効果がある。あの果南ちゃんのお墨付きだ。
「じゃあ、2人組でストレッチ始めて。相手は適当に」
こう言うと自然と千歌と曜、ルビィと花丸ちゃんがよくペアになる。
言い方はかわいそうだが余っていた梨子は俺とストレッチをやっていた。
だが、今日からは善子がいる。
俺は善子の方をチラッ、と見る。善子は自分から梨子にいこうか、いかないか挙動不審になっている。
その間にペアが決まっていき、梨子と善子だけが残る。
善子は頬を叩き、気合を入れている。
「ねえ、よっ」
「り、リリー!」
「リリー!?」
突然のあだ名呼びで梨子が驚く。
「リリーって私のこと?」
梨子が確認すると善子は顔を赤らめながら頷く。
「そうよ、リリーよ!このヨハネが名付けてあげたの!感謝しなさい!」
余程恥ずかしかったのだろう。ヨハネになって必死に取り繕う。
梨子はクスッ、と笑う。
「リリーか。うん、ありがとう。よっちゃん」
梨子もそのあだ名でいいみたいだ。
とにかく、善子、よかったじゃないか。
「それじゃあ、よっちゃん。ストレッチ一緒にやらない?」
「う、うん!」
ようやく全員がストレッチを始めたところで俺も1人でストレッチを始める。
朝練のスタートだ。
「も、もう無理・・・。毎朝こんなにやるの・・・?」
弁天島の階段ダッシュを終えた善子は頂上で息を荒らげてその場に倒れ込んでいる。
「よ、善子ちゃん・・・。そんな所で寝たら汚いよ・・・」
そういう花丸ちゃんも息を切らしながら座り込んでいる。
何とかみんな頂上まで登りきったものの、座り込んでいる。
「うーん。後一往復はしておきたいけど、無理っぽいなぁ」
「無理よ!ヨハネを堕天させる気!?」
「堕天使は最初から堕天してるんだからもう堕天しないよ・・・」
善子の意味不明な文句を適当にあしらう。
「で、でも、もっとやらないとダンスも踊れない・・・。μ'sみたいに輝けないよ・・・」
千歌もしんどそうだが、ゆっくり立ち上がる。
「無理はしなくていいよ。まだ時間はあるし、歩いてでも充分体力はつく。とりあえずみんな一度下って、行ける人だけ歩いてでもいいからもう一往復しよう」
みんなゆっくり立ち上がり、階段を下っていく。
ふもとにつき、もう1度みんなに聞く。
「さて、もう一往復行ける人は手を挙げて」
俺が聞くと意外なことにみんな手を挙げた。
「私はやるよ!そうしないとμ'sに追いつけないもん!」
「ヨーソロー!私も!千歌ちゃんと一緒にやりたい!」
「私はみんなと違って体力もダンスも上手いわけじゃないから少しでも努力しないと・・・!」
「ま、マルも!鈍臭いし、体力ないし・・・。頑張るずら!」
「ルビィだってみんなと一緒に頑張りたい!」
「リトルデーモンたちがこう言ってるものね。ヨハネがやらない訳にはいかないわ!」
「みんな・・・」
なんというか、みんなの情熱で俺の目頭が熱くなるのを感じる。
「よしっ!じゃあ、行くぞ!」
「「おーっ!」」
俺が手を突き上げると、同じようにみんなも手を突き上げる。
俺が先頭になって、あまり早すぎないペースで階段を登りだす。
時折後ろを振り返ると、苦しそうに息を吐くメンバー6人。しかし、誰も止まろうとはしておらず、必死に着いてきてくれている。
「いい調子だ!もう少し!頑張れ!諦めるな!」
励ます俺の声もどんどん熱くなっていく。
「「ハイッ!」」
それに呼応するかのように6人が返事をする。
そして、頂上が見えてきた。
「もう少し!頑張れ!今の全力を出し切るんだ!」
全員ペースを上げ、頂上まで駆け上がる。どんどんペースが上がり、みんなの表情も真剣だ。そして、登りきった。
登りきった6人はその場で倒れ込み、荒々しく呼吸を続ける。
俺もその場で膝に手をつき、空気を求めて息を荒くする。
「お、お疲れ様・・・。もう少し休憩したら、ゆっくり降ろう・・・」
「「は、はーい・・・」」
全てを出し切ったみんなの声は弱々しかったが、それぞれが満足そうな顔をしていた。
10分ほど休憩した後、ゆっくり階段を降りていく。
道中は誰も話す余力もなく、1歩1歩踏み外さないように階段を踏みしめていく。
なんとか降りきった俺たちは直ぐに自分たちのドリンクを飲み始め、タオルで汗を拭き取る。
くはーっ!スポドリがうまいっ!
「よしっ!じゃあ、学校に行こうか。シャワーは水泳部のを借りて汗を流そう」
「はーい」
俺の指示でみんなゆっくり立ち上がり、浦女に向かって歩き出す。
え?シャワーを浴びる時?みんな水着を持ってるから大丈夫。それよりも浦女に着くためのあの坂を登るのが大変なんだよなぁ。
まあ、仕方ないか、と気持ちを切り替え、学校に向かっていった。
襲い来る睡魔と格闘すること7時間。なんとかその日の授業を乗り越えた。
千歌は何度も居眠りをしていて、先生に注意されっぱなしだった。
梨子も曜も時々船を漕いでいた。
「さあ!部活だよっ!」
放課後になって元気全開の千歌が俺たちを呼ぶ。
「千歌ちゃんは元気ね・・・」
梨子が欠伸をしながら千歌に言う。
「だって、部活だよ!早く踊りたいよ!」
元気な千歌を羨ましく思っているとスマホがメールを受信した。差出人は鞠莉ちゃんだ。
どうやら、話があるらしく、理事長室に来て欲しいようだ。その事を3人に伝え、俺は理事長室に向かう。
理事長室に着いた俺はノックをし、扉を開ける。
「鞠莉ちゃん。話って?」
「和哉、驚かないでね」
いつになく、真剣な表情の鞠莉ちゃん。
「この浦の星女学院は今年度を持って生徒募集を止め、廃校となるわ」
「え?」
ようやくAqoursがグループとして固まってきた、そんな時なのに。
現実は残酷だ。
「廃校って・・・。本当なの?」
俺は鞠莉ちゃんの言葉が信じられず、今の言葉が嘘であることを信じ、聞き返す。
「本当よ。でも、ここで終わる気はないわ」
その時、理事長室の扉が勢いよく開く。
「鞠莉さん!さっきのメールはどういうこと!?」
ダイヤちゃんが物凄い勢いでやって来た。
「ダイヤ、もう少し静かに」
「そんなことより!説明をしなさい!」
「説明も何もメールに書いてあった通りよ」
「そ、そんな・・・」
鞠莉ちゃんの言葉を聞き、ダイヤちゃんは力なく呟く。
「沼津の高校と合併して浦の星女学院は廃校になる。分かってはいたことでしょう?」
「それは、そうだけど・・・」
「ただ、まだ決定ではないの」
「そうなの?」
俺が思わず口を出す。
すると、鞠莉ちゃんは寂しそうに笑う。
「まだ待って欲しい、と私が強く言ってるからね」
「鞠莉さんが?」
「私が何のために理事長になったと思ってるの?」
恐らくこの理由を知っているのは俺だけだ。事実、ダイヤちゃんも分からない、という表情をしている。
「この学校は無くさない。私にとってどこよりも大事な場所なの」
「方法はあるの?この2年間、入学者はどんどん減っているのよ」
ダイヤちゃんの言うことが1番ネックなのだ。
それは並大抵の事じゃ止めれない。
「だからスクールアイドルが必要なの」
「鞠莉さん・・・」
ダイヤちゃんは呆れたように名前を呼ぶ。
スクールアイドルがあっても結果は変わらない、そんな考えのダイヤちゃん。
スクールアイドルの奇跡を信じてる鞠莉ちゃん。
この2人の意見は平行線のままだ。
「あの時も言ったでしょう?私は諦めないと。今でも決して終わったとは思っていない」
鞠莉ちゃんはダイヤちゃんに手を差し出す。
もう1度この手をとって欲しい、と。しかし。
「わたくしはわたくしのやり方で廃校を阻止するわ」
鞠莉ちゃんの手を無視し、理事長室から立ち去ろうとした。
「ダイヤちゃん」
「何?」
そんなダイヤちゃんを俺は呼び止める。
「俺も終わったなんて思ってないから。また、ダイヤちゃんと鞠莉ちゃんと、そして果南ちゃんと」
「終わったのよ。わたくしと果南さんの考えは変わらないわ」
ダイヤちゃんは理事長室から出ていった。
残されたのは俺と鞠莉ちゃんだけだ。
「ダイヤは本当に好きなのね。果南のことが・・・」
ポツリ、と呟く鞠莉ちゃん。
彼女の姿を見て俺は何も言えなかった。
やるせない気持ちのまま、俺は部室に向かう。
「あー!和哉くん!」
「ん?」
後ろから名前を呼ばれ、振り返るとそこにはルビィがパタパタと走って、こちらに向かっていた。
「どうしたの?」
「大変なことになったの!」
「え?何が?」
「とにかく、部室に!後は和哉くんだけだから!」
ルビィは俺の手を掴み、グイグイ引っぱって走り出す。
「お、おぉ!?危ないって!」
「急がないとー!」
「「統廃合!?」」
部室に着くなり、ルビィの突然の言葉に俺以外の5人が驚く。
「そうみたいです・・・。沼津の学校と合併して浦の星女学院はなくなるかもって!」
「そんなー!?」
「いつ!?」
曜と梨子がさらに驚く。
「それはまだ分からなくて・・・。一応来年の入学希望者の数を見て決めるらしいんですけど・・・」
部室の空気が重くなる。
自分たちの学校が無くなるという話を聞けばそうなるのも仕方ない。
「先輩はあまり驚いてなかったようだけど?」
善子が俺を見て、怪訝そうな顔をする。
「あー、うん。俺、さっき聞いたんだよね、鞠莉ちゃんから。直接」
「なんで先輩だけに?」
「えーっと、鞠莉ちゃんはかなり気まぐれと言うか、気分屋だからさ」
「ふーん」
善子の質問に誤魔化しながら答える。
とりあえずは納得したようだ。
「・・・廃校・・・?」
今まで俯いて黙っていた千歌が小さく呟いた。
千歌は特にこの学校が好きだから落ち込むのも仕方ない。と思っていたが。
「キタ!ついにキタ!統廃合ってことはつまり廃校って事だよね!学校のピンチって事だよね!」
悲しんでいるどころか、喜んでいた。
「千歌ちゃん?」
「まあそうだけど」
「心無しか嬉しそうに見えるけど」
隣にいる曜と梨子が千歌を揺さぶったり、目の前で手を振ってみたりして、千歌が正気なのか確かめる。
「だって!!」
「うわっ!」
千歌は部室を飛び出し、中庭沿いの渡り廊下を走り抜けていく。
「廃校だよーっ!」
体育館で練習しているバレー部の前を通り過ぎる。
「音ノ木坂と一緒だよ!」
やっぱりバレー部の練習場所に乱入する。
邪魔だからやめなさい。それと不謹慎だから廃校廃校連呼しない!
バン!と体育館側の入口の戸を開けて千歌が帰ってきた。
「これで舞台が整ったよ!私たちで学校を救うんだよ!」
千歌は一番近くにいた善子の手をとる。
「そして輝くの!あのμ'sのように!!」
何故か善子も一緒になって謎の決めポーズをとる。
「そんな簡単にできると思ってるの?」
梨子の最もな意見を千歌は全く聞いていない。
「マルちゃんはどう思う?」
ルビィがさっきから何も話さない花丸ちゃんに尋ねる。
「統廃合〜!」
「こっちも!?」
花丸ちゃんも千歌と一緒で統廃合という言葉に目を輝かせていた。
「合併ということは沼津の高校になるずらね。あの町に通えるずらね」
「ま、まあ・・・」
「うわぁ〜!」
そんな花丸ちゃんを梨子と曜が悩ましい表情で見ていた。
この2人の苦労はよく分かる。
「相変わらずね、ずら丸。昔っからこんな感じだったし」
「そうなの?」
千歌の元から逃げてきた善子。
千歌は以前ポーズをとっている。
曜が尋ねると善子は1つ、話しを聞かせてくれた。
幼稚園の砂場にあった自動照明。
あれを光らせる度に『未来ずら〜!』と叫んでいたらしい。
・・・未来か?
「花丸ちゃんは全く変わってないんだ・・・」
俺は正直呆れを通り越して、素晴らしさすら感じる。
「善子ちゃんはどう思う?」
ルビィは善子にも尋ねる。
「それは統合した方がいいに決まってるわ。私みたいな流行に敏感な生徒も集まってるはずだし!」
善子が流行に敏感とかは置いておいて、こいつ、そもそも自分が浦女に来た理由を忘れてるんじゃないのか?
「よかったずらね!中学の頃の友達に会えるずら!」
「統廃合絶対反対ー!」
花丸ちゃんの言葉で思い出したようだ。
「学校の危機が迫っていると分かった以上、Aqoursは学校を救うため、行動します!」
今まで1人でポーズを決めていた千歌がやっとまともな発言をした。
「ヨーソロー!スクールアイドルだもんね!」
曜がいつものように賛成。
「まあ、そうだよね。目標はあのμ'sなんだ。廃校くらい無しにしないと」
俺の言葉にみんな頷いてくれた。
「でも、行動って具体的に何するの?」
梨子が千歌に尋ねる。
「え?」
「「え?」」
このバカチカはノープランのようだ。
こんなので廃校を救えるのだろうか?
廃校が目の前まで迫り、それを回避するために動き出したAqours。
まずは何をする?
「千歌は何も考えてなさすぎなんだよ・・・」
気苦労が耐えませんね。
「でも、最後には何とかなる。不思議とそんな気がするんだ」
その結果を期待していますよ。
次回もお楽しみに!