2人の夢の軌道   作:梨善

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〜前回のあらすじ〜
撮影は終わった。
後は編集し、投稿するのみ!
なのだが・・・。


#27 過去

一応撮影は終了し、俺たちは打ち合わせと反省会で松月に来ていた。

 

「お待ちどうさま。こんなに大人数だなんて、珍しいわね」

 

松月の顔なじみの店員さんが注文したお菓子をテーブルに持ってきたついでに話しかけてきた。

 

「まあ、こんな感じで部活仲間が増えましたから」

 

店員さんの質問に俺が答えると、店員さんは笑顔で答えてくれた。

 

「そうなんだ。ごゆっくり」

 

奥の席に善子と千歌。その正面に俺と梨子が。すぐ後ろのテーブルにルビィ、花丸ちゃん、曜が座っている。

 

「なんで喫茶店なの」

 

善子が目の前のショートケーキとみかんジュースをじっ、と見た後に不満そうに言う。

 

「この間騒いだから、家族の人に怒られたり?」

 

ルビィが不安そうに言うが、千歌がすぐに否定した。

 

「ううん、違うの。梨子ちゃんがしいたけいるから来ないって」

「行かないとは言ってないわ!ちゃんと繋いでおいてって言ってるだけ!」

 

梨子は声を大きくして否定する。

千歌はケーキにフォークをブスリ、と刺し、豪快にかじる。

 

もっと綺麗に食べような・・・。

 

正面に座る善子は澄ました顔でジュースを飲んでいた。

 

「この辺りだと家の中で放し飼いの人が多いかも」

「そんなぁ・・・」

 

ずっとカメラを回している曜の説明で梨子はため息をつく。

 

確かに内浦でペットを買っている人は大抵放し飼いだ。

そういえば、ここ松月で飼っているわたあめを今日は見ていないな、と思いながら俺はコーヒーを口に運んだ。

カップに口をつけた瞬間、キャン!と高い鳴き声が聞こえた。

 

「またまた」

 

梨子がその手には乗らない、と言ったような口調で呟く。

 

「キャウン!」

「えっ?」

 

わたあめがカフェスペースまでやって来たようだ。

子犬のわたあめを見てルビィが喜ぶ。

花丸ちゃんもみかんどら焼きを頬張りながら喜んでいた。

 

「ヒィッ!?」

 

わたあめを見た梨子は驚き、飛び退くように、隣にいた俺の腕にしがみつく。机で足を強く打ったようだが、それどころじゃないようだ。

 

「こんなに小さいのに!?」

 

千歌は驚きを隠せないようだ。

俺の腕にしがみついた梨子なのだが、段々力が強くなってきて結構痛い。

 

というか近いんですってば・・・。本当にドキドキしちゃうから・・・。てか、すっげえいい匂い。髪サラサラしてそうだ。触りたいなぁ。

 

「かーずくんっ♪」

「何でしょう千歌さん」

 

千歌は何も言わずにニコニコ笑っている。

 

「えっと・・・?」

「ハウス」

「俺も犬扱い!?」

「ひっ!?」

 

その言葉に驚いた梨子は俺の腕から離れたのはいいが、わたあめもいるので動けない。

前門の虎、後門の狼状態の梨子。

 

俺にまで怖がる必要、なくない?

 

「・・・そんなに苦手だったっけ、犬」

「大きさは関係ないわ!その牙!そんなので噛まれたら死!!」

 

俺の質問の答えは死ぬほど無理、だそうだ。

 

「噛まないよー。ねぇ、わーたちゃん」

 

千歌はわたあめを持ち上げると、顔を近づけ、目を合わせてにっこり笑う。

 

「あ、あああ危ないわよ!そんなに顔を近づけたら!」

 

本気で怯えている梨子。今度は俺の手を握ってきた。

 

「そうだ!わたちゃんで少し、慣れるといいよ」

 

千歌は持ち上げているわたあめを梨子の顔の前まで近づける。梨子の握り締める力が距離に比例し強くなる。

 

「あっ、あ・・・ぅあ・・・ああっ・・・ああっ!!??」

 

梨子の声になっていない悲鳴を上げる。

 

「痛い痛い!まじで痛い!力強いな!マジで!」

 

俺はというと本気で痛がっていた。

 

ペロッ、とわたあめは梨子の鼻を舐める。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!??!?!!??」

「いっだっ!?」

 

声にも音にもならない悲鳴をあげ、勢いよく頭を引いた梨子に頭突きを貰った。

すぐに梨子は鼻を抑え、ものすごい勢いでトイレに駆け込んだ。

 

「梨子ちゃん!?」

 

曜が心配して名前を呼ぶ。

 

「話は聞いてるから続けて!!」

 

・・・そこまでいやなんだ、犬が。というか、顔面も手も痛いんだけど。

あ、でも最後のあれ。髪の・・・。

 

千歌がアイドルがしちゃいけない顔をして睨んでいる。

俺は誤魔化すように口笛を吹く。

 

「しょうがないなぁ・・・」

 

千歌が呆れる。

 

「できた?」

 

千歌が善子に対して頼んだものができたかを確認する。

今、善子にはノートパソコンで今日撮影した動画の編集をやってもらっている。

普段生放送とかやってるし、善子の得意分野だ。

 

「簡単に編集しただけだけど。・・・お世辞にも魅力的とは言えないわね」

 

善子は手を上げ、首を振る。

 

「やっぱり、ここだけじゃ難しいんですかね」

 

ルビィが弱気に呟く。

 

「うーん・・・。じゃあ、沼津の賑やかな映像を混ぜて・・・」

「そんなの詐欺でしょ!」

「なんで分かったの!?」

 

トイレから梨子が千歌の意見にツッコミをいれた。

 

「だんだん行動パターンが分かってきているのかも」

 

曜が笑う。

 

「確かに。いつも一緒だからね、千歌と梨子は」

「そっかぁ・・・」

 

すると、曜が窓の向こうに何かを見つけたようだ。

 

「うわぁ!終バス来たよ!」

 

曜に言われ、窓の向こうを見ると、バスが来ていた。

 

もうそんな時間だったのか!

 

「うそーん!」

「げっ!急ごう!」

 

沼津組の俺と曜と善子はこの終バスを逃すと徒歩で数時間もかかる道を歩いて行かなければならない。

 

それだけは勘弁だ!

 

慌ただしく3人で帰り支度をする。

 

「フフフッ・・・。ではまた!」

「よーしこー!」

「ほら行くよ!みんな、またね!」

 

2人の手を掴んで急いでバス停に走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・。間に合った・・・」

 

なんとかバスに乗れた俺たちは後ろの座席で息をつく。

 

「いやぁ・・・。あっという間だったね」

 

曜が呟く。

 

「今日は1日が濃かったからね。明日はみんなで善子が作ってくれた動画を見て、良くしてかないと」

「そうね。でも、編集する立場も考えて欲しいわ」

「はいはい。分かったよ」

 

文句を言っているようだが、善子は善子で今を楽しんでるみたいだ。

 

「あっ、先輩。1つ聞きたいんだけど」

「何?」

「リリーってなんであんなに犬が嫌いなの?」

「あ、私も気になる」

 

善子の質問に曜も興味を持ったようだ。

 

「あー、それね。実は俺も知らないんだ」

 

俺の答えに2人は不満のようだ。

 

「何よそれ。貴方たち、幼馴染みなのよね?」

 

そうだ、そうだ、と曜が不機嫌そうな顔をしながら、善子に乗っかる。

 

「幼馴染みって言っても俺が知ってる梨子は小学1年生から5年生まだなんだよ。その時は犬を見てもあんなに怯えてはいなかったけど」

 

そうなのね、と善子は興味を失くしたようだ。

 

「ねえ、和哉くん。昔の梨子ちゃんてどんな感じの子だったの?」

「昔の梨子、か。今とは結構違うんだよ」

「そうなの?」

 

昔の梨子、という言葉に善子の肩がピクリ、と反応した。

 

なんだ、気になってるじゃん。

 

少し、笑いそうになるのをこらえる。

 

「昔の梨子は自分のことを地味だ、とか大人しいから無理だ、って言って自分から引くような子だったんだよ」

「へー。なんだか意外だなぁ。千歌ちゃんにはよく詩はまだ?って怒ってるのに」

「あ、その辺は変わってないよ。よく宿題してないことで怒られてたから」

「そっか!梨子ちゃんぽい」

 

曜はケラケラと笑う。

 

「よく色んなところに連れ回してたなぁ。今考えると悪いことしたなぁ、って」

 

俺は多分、ガラにもなく寂しそうな顔をしてるだろうなぁ。

 

「そんなこと、ないと思うわよ」

 

今まで黙っていた善子が口を開く。

 

「え?」

「い、いや!違うわ!なんとなくリリーを見てそう思っただけよ!」

 

慌てて訂正する善子。

善子を見て、俺はプッ、と吹き出す。

 

「ありがとう、善子」

「ふ、ふん!リトルデーモンのケアもヨハネの務めよ」

 

そう言うと、善子は腕を組んで、顔を背けてしまった。

 

「とにかく、俺が引っ越してから犬が嫌いになったのかもね」

「そっか・・・。人は変わるもんね」

 

曜がそう呟いた後、俺たちはなんとなく話す空気にならず、沼津までの流れていく景色を無言で眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

other side

 

淡島に構える高級リゾートホテル、淡島ホテル。

小原グループが経営するこのホテルの1室に金髪の髪を暗闇に輝かせながら、見える景色を眺めている少女がいた。

 

小原鞠莉。

小原グループの令嬢で、浦の星女学院の生徒兼理事長。自称カレーギュードンの様なポジションである。

 

彼女の自室の扉がゆっくりと開く。

 

「来るなら来ると先に言ってよ。勝手に入ると家のものが激おこプンプン丸よ」

 

少し前に流行った言葉を鞠莉は使いながら、扉の方を見る。

そこに立っていたのは松浦果南。同じ淡島で経営している松浦ダイビングショップの一人娘だ。

果南は今まで潜っていたのだろう。ダイビングスーツ姿で、海水に濡れたままの姿で鞠莉の部屋に侵入していた。

 

「廃校になるの?」

 

果南は現在、父親の怪我が原因で家業のダイビングショップの経営を手伝っているため、休学中だ。浦の星女学院が廃校になる、その事実を確かめるために果南は理事長で幼馴染みである鞠莉の元を訪れていたのだ。

 

「ならないわ。でも、それには力が必要なの。だからもう1度、果南の力が欲しい」

 

鞠莉はテーブルの上に置かれた1枚の書類に触れる。それには復学届と書かれていた。

果南は鞠莉の瞳を見る。

 

「・・・本気?」

「私は果南のストーカーだから」

 

細く微笑む鞠莉。

お互いに目を見て、そらそうとしない。

それはお互いに譲れない想いがあるからだろう。

 

「家の手伝いが落ち着いてきたら復学はする。でも私はやらない」

 

果南は振り返り、そのまま出ていった。

 

「・・・・・・・・・・・・果南・・・・・・・・・・・・」

 

1人だけになった部屋に響いたのは大好きな幼馴染みで親友の名前だけだった。

 

side out...




知らない過去。
迂闊に触れると2度と戻れない関係が生まれる。
しかし、それは絆を強めるものになるかもしれない・・・。
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