なんとかPVを作り上げ、最終確認を鞠莉に頼むことにしたAqours。
鞠莉の回答は一体・・・。
『以上!頑張ルビィ!こと、黒澤ルビィがお伝えしました!』
なんとか完成したPV。
俺たちはそのPVを理事長である鞠莉ちゃんに視聴してもらっているところだ。鞠莉ちゃんは組んだ手の上に顎を置いて、柔らかい表情で画面を見つめていた。
「どうでしょうか?」
PVが終わり、千歌が不安そうに尋ねた。
「・・・・・・・・・・・・」
鞠莉ちゃんは目を瞑ったまま無反応だ。
「鞠莉ちゃん?」
俺は心配になって名前を呼ぶ。
「・・・・・・はっ!?」
「「あぁ・・・」」
・・・鞠莉ちゃんは寝ていたようだ。その反応に善子以外が崩れ落ちる。
「もう!本気なのに!ちゃんと見てください!」
鞠莉ちゃんの反応に腹が立った千歌が声を上げる。しかし、鞠莉ちゃんは煽るような笑みを浮かべ、千歌を見据える。
「本気で?」
「はい!」
パタン!とノートパソコンを閉じた鞠莉ちゃん。
「それでこのテイタラァクデスか?」
「ていたらぁ?」
千歌は今の言葉が聞き取れなかったようだ。
鞠莉ちゃんは体たらくと言っているんだろう。
中途半端にふざけて・・・。
「流石にそれは酷いんじゃないんですか?」
流石の曜もむっ、としたのだろう。珍しく食い下がる。
「そうです!これだけ作るのにどれだけ時間がかかっとおも」
梨子も2人に続いて意見を言おうとしたところに、バン!と机を叩く音がする。もちろん、机を叩いたのは鞠莉ちゃんだ。
「努力と結果はヒレイしません!大切なのはこのTownやSchoolの魅力をチャント理解してるかデース!」
なぜかカタコト口調のまま説教を続ける鞠莉ちゃん。
俺はなんだかその姿が面白くなってきて、笑いだしそうになる。
「それってつまり・・・」
「私たちが理解していない、ということですか?」
「じゃあ、理事長は魅力が分かってるってこと?」
ルビィ、花丸ちゃん、善子が順に言っていく。
善子の言葉を聞いても鞠莉ちゃんは余裕を一切崩さず、真剣な目で俺たちを見渡す。
やべっ、真面目な顔しておかないと。
「少なくとも、貴女たちよりは。キキタイ?」
理事長室を出て、玄関。
「どうして聞かなかったの?」
梨子が千歌に尋ねる。
そう。千歌は結局、鞠莉ちゃんの言う魅力を聞かなかった。千歌が聞かない、と言った時、鞠莉ちゃんは少し寂しそうな顔をしたのを俺は見逃さなかった。
話したいなら聞いて、といえば良かったものを。
「なんか聞いちゃダメな気がしたから」
「何意地張ってんのよ」
善子が呆れ気味に千歌に言う。
「意地じゃないよ」
千歌が言うと、善子は首を傾げる。
「それって大事なことだもん。自分で気づかなきゃ、PV作る資格ないよ」
千歌は言いながら俯く。
結局、作ったPVは酷評だった。頑張って作ったもの否定されたのだから、ショックも大きい。
「そうかもね」
梨子が呟くと、千歌は顔を上げる。
「ヨーソロー!じゃあ、今日は千歌ちゃんちで作戦会議だ!」
曜の千歌の家という言葉に梨子が肩を跳ねさせた。
それを見逃さなかった曜がイタズラな笑みをした。
「喫茶店だってタダじゃないんだから、梨子ちゃんも頑張ルビィして!」
「はぁ・・・」
梨子が重いため息を吐く。
そんな梨子に俺も少し、声をかけることにした。
「よく見ればしいたけもかわいいから何とかなるって」
「無理よ!あんなに大きいのに追いかけ回してくるのよ!?」
「だから、それを克服するために頑張ルビィなんでしょ?」
「先輩がそれ言うと気持ち悪いわね」
「なんだと善子!?」
いきなり善子に喧嘩を売られた。
この自称堕天使。最近生意気だと思いませんか?
「ぷっ。ふふふっ。あはは。あはははは!」
いきなり笑い出す千歌。
良かった、少しは元気が出たみたいだ。
「よーし!あ、忘れ物した」
えー。締まらないなぁ。
「ちょっと部室見てくる」
千歌はそう言うと、脱兎のごとく部室へ走っていった。
「もう!」
梨子が落ち着きのない千歌に少し怒るが、すぐに笑い出す。
「千歌らしいでしょ?」
「うん。本当にね」
「せっかくだし、迎えに行かない?」
曜の提案にみんな頷き、部室へと歩き始めた。
部室のある体育館に着くと、千歌は何かを夢中で見ていた。
出入口から覗くと、そこにはダイヤちゃんが書類を持ってステージで日野舞を踊っていた。
久しぶりに見た、ダイヤちゃんの舞。
どこからともなく、鈴の音が聞こえてくるようで、綺麗だ。
舞が終わると千歌が大きく拍手をした。そこでダイヤちゃんは千歌が見ていたことに気づいたようで、顔を赤らめる。
「凄いです!私、感動しました!」
「な、なんなの?」
「ダイヤさんがスクールアイドル嫌いなの、分かってます。でも、私たちも学校続いて欲しいって。無くなって欲しくないって思ってるんです」
千歌は自分の今の気持ちをダイヤちゃんに話す。
そこまで話すと少しだけ俯き、何かを考える。
「一緒にスクールアイドルやりませんか!?」
顔を上げ、ダイヤちゃんの顔をしっかり見て、誘いをかける。すると、俺の後ろで見ていたルビィが前に出て、2人を見つめる。
「お姉ちゃん・・・」
これはダイヤちゃんを心配しているのか。
それとも、ルビィの願いなのか。
それは分からない。
今はただ、千歌に任せるしかない。
ダイヤちゃんはステージから飛び降りる。
手に持っていた書類が1枚、落ちてしまったが、それに気づいていないようだ。
・・・なんでこんなに格好つかないんだろう、この人。とにかく、拾ってあげようかな。
みんなを連れて、千歌の元に向かう。
「残念だけど。ただ、貴女たちの気持ちは嬉しく思ってるの。お互い頑張りましょう」
ダイヤちゃんは後ろを振り返ることなく、体育館を後にする。
ここで呼び止めるのは流石にかわいそう、と思った俺はその書類を拾い上げるだけにした。
「ルビィちゃん、生徒会長って前はスクールアイドルが」
曜が何か重そうな雰囲気でルビィに話しかける。
ルビィは曜が聞こうとしていることを察したようだ。
「はい。ルビィよりも大好きでした」
まあ、そんなのはダイヤちゃんの行動を見てれば一瞬で分かるような事なのだが、千歌は気づいていなかったようだ。えっ?と驚いている。
・・・嘘でしょ?
千歌は去っていくダイヤちゃんの背中を見て、再び誘おうとするが、千歌の前にルビィが出て、彼女を止める。
「今は言わないで!」
「ルビィちゃん・・・」
「ごめんなさい・・・」
あの、何なんですかね?この空気。
俺だけなんか空気読めてないことばかり考えてるような・・・。
で、でも、ここは気を取り直して。
「ダイヤちゃん、署名を集めようとしてたらしいよ。ほら」
みんなにダイヤちゃんの落とした書類を見せる。
その書類は署名集めの紙だった。
「どう?ダイヤちゃんを助ける。ううん、学校を助けるために書かない?」
「「書く!」」
みんな自分の筆記用具を取り出し、名前を書いていく。
全員が書き終わり、その書類が俺に戻ってくる。
「じゃあ、俺はこれ渡してくるよ」
そう言って体育館を後にした。
校舎に続く渡り廊下に出るとダイヤちゃんと鞠莉ちゃんが何か話していた。
だがお互いに別の方を向いて、目を合わせる気はないようだ。
「逃げてるわけじゃないわ。あの時だって」
「あの時って?」
「・・・和哉さん」
ダイヤちゃんは振り向き、俺を見る。
「あの時って東京のイベント、だよね?どういうこと?」
「言葉通りよ。逃げてないわ。わたくしも。果南さんも」
ダイヤちゃんは俺の方に歩み寄ってくる。
「書類、落としてたのね。持ってきてくれてありがとう」
俺の持っていた書類を取ると、確認もせずに束の中に纏め、ダイヤちゃんはそのまま何も言わずに行ってしまった。
残されたのは俺と鞠莉ちゃんだけだ。
「鞠莉ちゃん、どういうこと?」
「私にも分からないわよ。ダイヤが何かを知っているとしか・・・」
どういうこと?
だってあの時は・・・。
結局、俺は何も知らない。
あの日、『1つのスクールアイドル』に起きた真実さえ。
和哉1人の力では何もできない。
何も知らない。
彼は己の非力さに拳を握るだけだった。