PVを完成させ、大成功に終わった地元PR。
和哉は千歌に呼ばれ、浜辺に来ていた。
「千歌、どうしたの?」
撮影が終わり、解散になった後、俺は千歌に呼び出され、三津浜に来ていた。
日は暮れ始め、夕日は海を紅く照らしていた。
そんな中、千歌は制服のまま、裸足で海に足をつけ、水平線を見つめていた。
「って・・・。また海に入って・・・」
ポツリ、と小声で呟く。
「私ね、今すっごく楽しいんだ。あの日、μ'sを知って、スクールアイドルをに憧れて、みんなでできて」
「・・・うん」
千歌は水平線を見つめたまま呟く。
「最初はよーちゃんと2人だけなんだ、って思ってたけど、梨子ちゃんとルビィちゃんと花丸ちゃん、それに善子ちゃんまで仲間になって。カズくんもお手伝いしてくれて。みんなでスクールアイドルをやってる今がとても好きなの」
千歌は落ち着いた声でゆっくり話す。
「そうだね。俺もこうやってみんなと一緒にトレーニングして、ダンスレッスンして、おしゃべりして。そんな時間が好きだよ」
すると千歌はくるっ、と回り、俺の方を向く。
一緒に水もはね、千歌のスカートが少しだけ濡れる。
「よかった。いきなり巻き込んじゃったから、イヤイヤやらせてるんじゃないかって思ってた」
にしっ、と笑う千歌。でも、その表情は少しだけ弱気だった。
「そんなわけないよ。千歌たちは俺のこっちに来て始めてできた友達だから。俺ができることはやりたいんだよ」
「・・・そっか。えへへ、ありがとっ」
照れくさそうに千歌は笑う。その表情に面食らい、俺は顔を背け、頬をかく。
「カズくん、こっち来て。座ろ?」
彼女はいつの間にか用意したシートを砂浜にひき、その上に座っていて、ニコニコしながら手招きして俺を呼ぶ。
俺は千歌の隣に座り、薄暗くなってきた海を見つめる。
「チカね、思ったんだ。このままでいいのかなって」
「なにが?」
「一応チカがリーダーだから。しっかりしなきゃ、て頑張ってるんだよ?こう見えて」
「うん。それはよく分かってるよ」
千歌は俺の言葉を聞いて嬉しそうに笑う。
「でもね、チカはよーちゃんみたいにかっこよくて何でもできない。梨子ちゃんみたいに綺麗でピアノも弾けない。ルビィちゃんや花丸ちゃんみたいにかわいいわけでもない。善子ちゃんみたいに自分の好きなものもない。こんな普通で、どこにでもいるような普通のチカがリーダーでいいのかな?」
千歌は膝を抱え、小さく蹲る。
日頃から千歌がよく口にする『普通』という言葉。その言葉が千歌自身を強く縛り付けている。
「何をやるにも中途半端で・・・。カズくん?」
自分の悩みを口にして、弱気になっている千歌。
俺はそんな彼女の頭をそっ、と撫でる。
「いいんだよ。千歌は千歌のままで」
「だめだよ。リーダーなんだもん」
「リーダーとかしっかりしなきゃとか、それはとても大切なことだよ。千歌が気になるのも分かってる」
「だったら・・・」
「でも、俺はそんなこと気にしなくてもいいって思ってる。聞くけど、千歌はみんなの先頭に立って、引っ張るタイプ?」
俺の質問に千歌は首を振る。
「でも!チカがリーダーなんだからタイプじゃなくてもやらないと!」
少し強めな口調で千歌が言う。
俺は千歌の頭から手を離し、少し藍色になって光る海を見る。
「千歌はそういうリーダーにならなくてもいいと思うよ」
「・・・それって、チカがリーダーに向いてないってこと?」
顔を伏せ、泣きそうな声で呟く千歌。
「違うよ。そうは言ってない。ただ、リーダーには色んな形があるんだよ。どれがいいとか俺には分からないけど、千歌らしいリーダーの形は絶対にある。それを見つけて欲しいんだ」
「本当?」
「うん。本当。きっと見つかる」
千歌は目を手で擦り、勢いよく立ち上がる。
「うん!見つけるよ!カズくんが言うんだもん。間違いないよ」
「それは飛躍しすぎだって」
「そんなことないよ。カズくんだって、もっと自分に自信持たないと!」
千歌は俺の肩をポンポン、と叩く。
そして少し海に近づき、うーん、と伸びをする。
「まだまだだなぁ。さっき見つけたって思ってたのに、次は別のこと探さなくちゃいけないんだよ?チカは大変なのだ」
俺は座ったまま、細く笑う。
千歌はすっかり暗くなっり、星が光る夜空に手を伸ばす。
「ねえ、カズくん」
「ん?」
「届くかな?私たち。夢に。憧れに。μ'sに。・・・輝きに」
「・・・どうだろう」
「だよね」
「でも、だからってやめる?」
曜がいつもやっている千歌に言う言葉を俺も真似してみる。
「やめないっ!」
振り返って笑いながら、力強く言い放つ千歌。
「だよね。それにさ、俺たちは。Aqoursは7人いるんだ。みんなでゆっくり進んでいけば届くよ。きっと」
「うん!」
「さてと、だいぶ暗くなってきたし、帰ろうよ」
俺は立ち上がり、シートを畳む。
「そうだね。今日は付き合ってくれてありがとう。あっ!」
「次は何?」
千歌は何かを思い出したようだ。
「前々から気になってたんだけど、カズくんなんでダンスとか分かるの?」
「え?」
「だってさ、今までカズくんがダンスやってたとか、そういう話を全く聞いたことなくてさ。なんで?」
そこに気づいてしまったか・・・。
俺はどう答えようか悩む。
本当のことを話してもいいのだが、俺が怒られそうだから言わないでおこう。
「ネットとかで調べたんだよ。こう、何ていうの?ダンスの基本みたいなののコツとかを調べた。うん」
「えー。なんか嘘っぽいよ。だってアレ、完全に教え慣れてたし」
なかなか食いついてくるなぁ。
「そんなことないって。まあ、その辺は企業秘密で」
「なにそれー!おーしーえーてー!カズくんはいつもチカの中にズカズカ入ってくる癖に、こっちからは入れさせないし!1歩引いたような感じで接してくるくせに!」
後ろから俺の服をグイグイ引っ張る千歌。
そして割と気にしていることを指摘してくる。
あー、誰か助けてくれないかなぁ・・・。
「あれ?千歌にカズじゃん。何してんの?」
背後から声がし、千歌と一緒に振り向く。
そこにはダイビングスーツ姿の果南ちゃんがいた。
「「果南ちゃん!?」」
「やっ」
「いや、やっ、じゃないって!まさか泳いできたの!?」
珍しく千歌がツッコミを入れている。
「そうだけど?」
平然な顔をして答える果南ちゃん。
ここから淡島って近いようで割と距離あるし、流れも速いよ?
そもそもこんな暗いのに泳いでるって、何考えてんの!?
「とにかく、もう暗いんだから早く帰りなよ?」
「う、うん・・・」
「じゃ、私は帰るね」
そう言うと果南ちゃんは海の中に消えていった。
その場に残された千歌と俺はただ、果南ちゃんが行ってしまった海の方を見つめるだけだった。
というか、泳いで帰るって、どんだけ体力あんの?
「帰ろうか」
「うん」
千歌もこくり、と頷いたので、解散することにした。
「今度はカズくんのことちゃんと聞いてやるんだからなー!」
「はいはい。お手柔らかに」
千歌を十千万の玄関まで見送る。
外で俺を見ているしいたけに手を振り、バス停へ向かう。
「・・・待って。終バス終わってんじゃん・・・」
スマホの時計を確認してその事を今更思い出した。
確か、母さんも父さんも仕事で遅くなる。・・・歩くしかないようだ。
とにかく、歩きながらでも食べるものを買おう、と思い、近くのコンビニに向かう。
「にしても、面倒だなぁ。俺だって分かってる・・・。どうすればいいのか分からないんだよ・・・」
歩きながら自分に言い聞かせるように呟く。
「怖がってるのかな・・・」
コンビニに着いて、店内に入ろうとした瞬間、丁度店から出ようとしたした人と目が合う。
「「あ」」
それはレジ袋を片手に持った梨子だった
「まだ帰ってなかったの?」
「まあ、色々あって・・・。終バス乗り過ごしちゃって」
「大丈夫?」
「歩いて帰らなきゃいけないくらいには大丈夫じゃないかな」
そっか・・・、と梨子は何かを考える。
「じゃあ、うちに泊まる?」
「はい?」
今、なんて?
梨子は少し顔を赤らめながら提案した。
「明日は学校だし、疲れ残しちゃうと授業中寝ちゃうでしょう?それに作曲の相談もしたかったし。だったらうちに」
「いやいやいやいや。それはまずいって」
「大丈夫よ。お母さんには説明するから。ほら」
梨子は俺の裾を引っ張り、桜内家に連れていこうとする。
・・・これは拒否権がないやつですね。
こうして、俺のお泊まりが決定した。
なにやら熱い展開の予感が・・・。