2人の夢の軌道   作:梨善

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〜前回のあらすじ〜
PVを完成させ、大成功に終わった地元PR。
和哉は千歌に呼ばれ、浜辺に来ていた。


#31 胸の中の気持ち

「千歌、どうしたの?」

 

撮影が終わり、解散になった後、俺は千歌に呼び出され、三津浜に来ていた。

日は暮れ始め、夕日は海を紅く照らしていた。

 

そんな中、千歌は制服のまま、裸足で海に足をつけ、水平線を見つめていた。

 

「って・・・。また海に入って・・・」

 

ポツリ、と小声で呟く。

 

「私ね、今すっごく楽しいんだ。あの日、μ'sを知って、スクールアイドルをに憧れて、みんなでできて」

「・・・うん」

 

千歌は水平線を見つめたまま呟く。

 

「最初はよーちゃんと2人だけなんだ、って思ってたけど、梨子ちゃんとルビィちゃんと花丸ちゃん、それに善子ちゃんまで仲間になって。カズくんもお手伝いしてくれて。みんなでスクールアイドルをやってる今がとても好きなの」

 

千歌は落ち着いた声でゆっくり話す。

 

「そうだね。俺もこうやってみんなと一緒にトレーニングして、ダンスレッスンして、おしゃべりして。そんな時間が好きだよ」

 

すると千歌はくるっ、と回り、俺の方を向く。

一緒に水もはね、千歌のスカートが少しだけ濡れる。

 

「よかった。いきなり巻き込んじゃったから、イヤイヤやらせてるんじゃないかって思ってた」

 

にしっ、と笑う千歌。でも、その表情は少しだけ弱気だった。

 

「そんなわけないよ。千歌たちは俺のこっちに来て始めてできた友達だから。俺ができることはやりたいんだよ」

「・・・そっか。えへへ、ありがとっ」

 

照れくさそうに千歌は笑う。その表情に面食らい、俺は顔を背け、頬をかく。

 

「カズくん、こっち来て。座ろ?」

 

彼女はいつの間にか用意したシートを砂浜にひき、その上に座っていて、ニコニコしながら手招きして俺を呼ぶ。

俺は千歌の隣に座り、薄暗くなってきた海を見つめる。

 

「チカね、思ったんだ。このままでいいのかなって」

「なにが?」

「一応チカがリーダーだから。しっかりしなきゃ、て頑張ってるんだよ?こう見えて」

「うん。それはよく分かってるよ」

 

千歌は俺の言葉を聞いて嬉しそうに笑う。

 

「でもね、チカはよーちゃんみたいにかっこよくて何でもできない。梨子ちゃんみたいに綺麗でピアノも弾けない。ルビィちゃんや花丸ちゃんみたいにかわいいわけでもない。善子ちゃんみたいに自分の好きなものもない。こんな普通で、どこにでもいるような普通のチカがリーダーでいいのかな?」

 

千歌は膝を抱え、小さく蹲る。

日頃から千歌がよく口にする『普通』という言葉。その言葉が千歌自身を強く縛り付けている。

 

「何をやるにも中途半端で・・・。カズくん?」

 

自分の悩みを口にして、弱気になっている千歌。

俺はそんな彼女の頭をそっ、と撫でる。

 

「いいんだよ。千歌は千歌のままで」

「だめだよ。リーダーなんだもん」

「リーダーとかしっかりしなきゃとか、それはとても大切なことだよ。千歌が気になるのも分かってる」

「だったら・・・」

「でも、俺はそんなこと気にしなくてもいいって思ってる。聞くけど、千歌はみんなの先頭に立って、引っ張るタイプ?」

 

俺の質問に千歌は首を振る。

 

「でも!チカがリーダーなんだからタイプじゃなくてもやらないと!」

 

少し強めな口調で千歌が言う。

俺は千歌の頭から手を離し、少し藍色になって光る海を見る。

 

「千歌はそういうリーダーにならなくてもいいと思うよ」

「・・・それって、チカがリーダーに向いてないってこと?」

 

顔を伏せ、泣きそうな声で呟く千歌。

 

「違うよ。そうは言ってない。ただ、リーダーには色んな形があるんだよ。どれがいいとか俺には分からないけど、千歌らしいリーダーの形は絶対にある。それを見つけて欲しいんだ」

「本当?」

「うん。本当。きっと見つかる」

 

千歌は目を手で擦り、勢いよく立ち上がる。

 

「うん!見つけるよ!カズくんが言うんだもん。間違いないよ」

「それは飛躍しすぎだって」

「そんなことないよ。カズくんだって、もっと自分に自信持たないと!」

 

千歌は俺の肩をポンポン、と叩く。

そして少し海に近づき、うーん、と伸びをする。

 

「まだまだだなぁ。さっき見つけたって思ってたのに、次は別のこと探さなくちゃいけないんだよ?チカは大変なのだ」

 

俺は座ったまま、細く笑う。

千歌はすっかり暗くなっり、星が光る夜空に手を伸ばす。

 

「ねえ、カズくん」

「ん?」

「届くかな?私たち。夢に。憧れに。μ'sに。・・・輝きに」

「・・・どうだろう」

「だよね」

「でも、だからってやめる?」

 

曜がいつもやっている千歌に言う言葉を俺も真似してみる。

 

「やめないっ!」

 

振り返って笑いながら、力強く言い放つ千歌。

 

「だよね。それにさ、俺たちは。Aqoursは7人いるんだ。みんなでゆっくり進んでいけば届くよ。きっと」

「うん!」

「さてと、だいぶ暗くなってきたし、帰ろうよ」

 

俺は立ち上がり、シートを畳む。

 

「そうだね。今日は付き合ってくれてありがとう。あっ!」

「次は何?」

 

千歌は何かを思い出したようだ。

 

「前々から気になってたんだけど、カズくんなんでダンスとか分かるの?」

「え?」

「だってさ、今までカズくんがダンスやってたとか、そういう話を全く聞いたことなくてさ。なんで?」

 

そこに気づいてしまったか・・・。

 

俺はどう答えようか悩む。

本当のことを話してもいいのだが、俺が怒られそうだから言わないでおこう。

 

「ネットとかで調べたんだよ。こう、何ていうの?ダンスの基本みたいなののコツとかを調べた。うん」

「えー。なんか嘘っぽいよ。だってアレ、完全に教え慣れてたし」

 

なかなか食いついてくるなぁ。

 

「そんなことないって。まあ、その辺は企業秘密で」

「なにそれー!おーしーえーてー!カズくんはいつもチカの中にズカズカ入ってくる癖に、こっちからは入れさせないし!1歩引いたような感じで接してくるくせに!」

 

後ろから俺の服をグイグイ引っ張る千歌。

そして割と気にしていることを指摘してくる。

 

あー、誰か助けてくれないかなぁ・・・。

 

「あれ?千歌にカズじゃん。何してんの?」

 

背後から声がし、千歌と一緒に振り向く。

そこにはダイビングスーツ姿の果南ちゃんがいた。

 

「「果南ちゃん!?」」

「やっ」

「いや、やっ、じゃないって!まさか泳いできたの!?」

 

珍しく千歌がツッコミを入れている。

 

「そうだけど?」

 

平然な顔をして答える果南ちゃん。

 

ここから淡島って近いようで割と距離あるし、流れも速いよ?

そもそもこんな暗いのに泳いでるって、何考えてんの!?

 

「とにかく、もう暗いんだから早く帰りなよ?」

「う、うん・・・」

「じゃ、私は帰るね」

 

そう言うと果南ちゃんは海の中に消えていった。

その場に残された千歌と俺はただ、果南ちゃんが行ってしまった海の方を見つめるだけだった。

 

というか、泳いで帰るって、どんだけ体力あんの?

 

「帰ろうか」

「うん」

 

千歌もこくり、と頷いたので、解散することにした。

 

「今度はカズくんのことちゃんと聞いてやるんだからなー!」

「はいはい。お手柔らかに」

 

千歌を十千万の玄関まで見送る。

外で俺を見ているしいたけに手を振り、バス停へ向かう。

 

「・・・待って。終バス終わってんじゃん・・・」

 

スマホの時計を確認してその事を今更思い出した。

確か、母さんも父さんも仕事で遅くなる。・・・歩くしかないようだ。

 

とにかく、歩きながらでも食べるものを買おう、と思い、近くのコンビニに向かう。

 

「にしても、面倒だなぁ。俺だって分かってる・・・。どうすればいいのか分からないんだよ・・・」

 

歩きながら自分に言い聞かせるように呟く。

 

「怖がってるのかな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンビニに着いて、店内に入ろうとした瞬間、丁度店から出ようとしたした人と目が合う。

 

「「あ」」

 

それはレジ袋を片手に持った梨子だった

 

「まだ帰ってなかったの?」

「まあ、色々あって・・・。終バス乗り過ごしちゃって」

「大丈夫?」

「歩いて帰らなきゃいけないくらいには大丈夫じゃないかな」

 

そっか・・・、と梨子は何かを考える。

 

「じゃあ、うちに泊まる?」

「はい?」

 

今、なんて?

 

梨子は少し顔を赤らめながら提案した。

 

「明日は学校だし、疲れ残しちゃうと授業中寝ちゃうでしょう?それに作曲の相談もしたかったし。だったらうちに」

「いやいやいやいや。それはまずいって」

「大丈夫よ。お母さんには説明するから。ほら」

 

梨子は俺の裾を引っ張り、桜内家に連れていこうとする。

 

・・・これは拒否権がないやつですね。

 

こうして、俺のお泊まりが決定した。




なにやら熱い展開の予感が・・・。
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