せっかくのチャンスを棒に振るった和哉。
そして、夏が始まる。
「この前のPVが5万再生!?」
季節はすっかり夏。
制服も夏服に変わり、夏らしさが溢れ出す。
しかし、1年生の夏服。
袖が無い。
これは、うん。良い。
「和哉くん?」
「いえ、何でもないです。はい」
隣の梨子に睨まれる。
夏服の話とかそんなことはどうでもいい。
この間のPVの再生数がとんでもなく伸びていたのだ。
窓際でうちわを扇いでいた千歌も驚いている。
「ほんとに?」
曜も信じられないようだ。
「ランタンが綺麗だって、話題になってるみたい」
善子が書き込まれたコメント欄を見て推測する。
「ランキングも」
「99位!?」
「ずらっ!?」
梨子と花丸ちゃんも驚いている。
「きた・・・。キタキタ!それって全国で、ってことでしょ?全国に5000組もいるスクールアイドルの中で100位以内ってことでしょ!?」
テンションが上がった千歌は当たり前のことを聞き返す。
「一時的な盛り上がりってこともあるかもしれないけど、それでも凄いわね!」
「ランキング上昇率では1位!」
「わぁっ!すごいずら!」
この結果にみんな大満足だ。
かく言う俺も今にも飛び跳ねてしまいそうなくらい嬉しい。
「なんかさ、このまま行ったらラブライブ優勝できちゃうかも」
「優勝?」
「そんな簡単な訳ないでしょう?」
梨子が呆れ気味に言ったことに同意見し、俺は頷く。
「そうだよ。そもそも本戦を通るかも分からないんだ。それは夢見すぎだよ」
「分かってるよ。カズくんの言うことも。梨子ちゃんの言うことも。でも、可能性は0じゃないって事だよ」
すると、パソコンがメールを受信した。
ルビィが早速メールを開封する。
「Aqoursの皆さん、TOKYO SCHOOL IDOL WORLD運営委員会です・・・」
ルビィがメールの1行目を読み上げる。
「東京・・・?」
「って書いてあります」
「東京ってあの東にある京の」
「なんの説明にもなってないけど」
梨子が変なボケ方をする千歌をジト目でツッコミを入れる。
「「東京!!」」
そうだ。
またあのイベントが始まる。
俺だけが浮かない顔でパソコンの画面を見つめていた。
あの時の、ファーストライブの時のダイヤちゃんの言葉が胸に引っかかっる。
あの時成功したのは町のみんなのお陰だ。
確かにパフォーマンスも上出来だったが、次はそうはいかないだろう。
「行きます!」
千歌が大声で宣言する。
その声ではっ、と意識を戻す。
「交通費とか大丈夫なの?」
「それはお小遣い前借りで!」
「いやいや。計画性無さすぎだから」
俺はため息をつき、1つ提案をする。
「とりあえず、このことを鞠莉ちゃんに報告。話をすること」
「分かった!」
千歌は猛ダッシュで理事長室へと行ってしまった。
まあ、鞠莉ちゃんのことだから許可は楽々出すと思うけど。
それより、俺は聞かないと。
鞠莉ちゃんの狙いを。
雨が降る夜。
俺は鞠莉ちゃんの家に来ていた。
「珍しいわね。和哉が私の家に来たいなんて」
「まあ、それはいいでしょ」
「マリーはいつでも歓迎デース!」
「あはは、そりゃどうも・・・」
相変わらずのテンションの鞠莉ちゃんに少しだけ呆れつつも、安心感を覚える。
「鞠莉ちゃん。話なんだけど」
「stop。もう少し待ちなさい。もう1人来るから」
もう1人?
誰だろう。
「うふふ。来ると思った、ダイヤ」
やって来たのはダイヤちゃんだ。
「ダイヤちゃん?」
「貴方もいたんですのね。恐らく、話は同じのようですわね」
学校の時とは違い、ダイヤちゃんはいつものですわ口調だ。
ダイヤちゃんは鞠莉ちゃんを睨む。
「どういうつもりですか?あの子たちを東京に行かせることが、どういう事か分かっていて?和哉さん、貴方も分かっている筈です」
「それは・・・」
確かに。確かに分かっている。
今のあいつらは井の中の蛙だ。
画面越しに映る数字を信じ、自分たちの力を過信している。
あの時もそうだった。
でも現実は違う。
それでも、俺は・・・。
「ならば止めればいいのに。ダイヤが本気で止めれば諦めるかも知れないよ」
挑発するように鞠莉ちゃんはダイヤちゃんを見る。
「期待してるんじゃない?私たちが乗り越えれなかった壁を乗り越えてくれることを」
鞠莉ちゃんは棚の上に腰掛け、壁にもたれる。
「もし越えられなかったらどうなるか、充分知っているでしょう!取り返しのつかないことになるかも知れないのですよ!」
「だからと言って避ける訳には行かないの。本気でスクールアイドルとして学校を救おうと考えているのなら」
ドン!とダイヤちゃんは鞠莉ちゃんの後ろの壁を叩く。
・・・梨子の同人誌を思い出してしまった・・・。
鞠莉ちゃんは余裕の笑みを浮かべる。
「変わっていませんわね、あの頃と」
「変わる必要がないからね。私の目的はそういう事だもの」
舌打ちをしたダイヤちゃんはこの部屋を出ていった。
「もう、ダイヤったら。怖いわね」
「全くそんな風には見えないけど・・・」
「それで、和哉の聞きたいことは?」
「なんとなく分かったよ。鞠莉ちゃんが今のAqoursを東京に行かせる理由は。俺は少し反対なんだけどね」
「あの子たちの顔を見たら言えなくなった?」
俺は黙って頷く。
「あの時みたいにならないようにはする。いや、させない」
「うん。和哉ならできるわ。それと、遅いし帰りなさい。使いを出すわよ」
「あ、ありがとう。ダイヤちゃんは?」
「あの硬度10が乗る訳ないじゃない」
「あはは・・・。確かに・・・」
俺は部屋を出て、玄関に向かう。
「和哉」
「何?」
振り返って鞠莉ちゃんを見る。
「任せたわよ」
「うん。任された」
あの時の鞠莉ちゃんたちのようにはさせない。
東京出発の日。
沼津駅で内浦の千歌、梨子、ルビィ、花丸ちゃんを待っている。
スマホの時計を見ながら曜が遅い、と呟く。
「早く来て欲しいよね・・・」
「和哉くん、そんな死んだ目で言わないで」
何故俺がこんなになっているかと言うと、石碑の上に乗ってキメている自称堕天使のせいだ。
「フフフフフッ。天津曇の彼方から堕天使たるこの私が魔都にて、数多のリトルデーモンを召喚しましょう」
いつもの堕天使ファッションの比では無いくらい痛々しい格好。
なんで長い爪着けて、顔も白いの?
小さい子があれ何?と聞いてはその親が見ちゃいけません、なんてやってるし。
近くにいた人が珍しいものがあると聞きつけてゾロゾロ集まり、写真を撮っていく。
その中には前の学校の友達も混ざっていて・・・。
俺のメンタルはすり減っていくばかりだ。
「「ぷっぷっぷっ」」
人だかりの先頭、千歌と花丸ちゃんとルビィがしゃがんで、今の善子を見て笑っている。
「善子ちゃんも」
「やってしまいましたね」
「善子ちゃんもすっかり堕天使ずらー」
「みんな遅いよー」
曜が待ちくたびれた、と3人に近寄る。
「本当に、やっと来た・・・。後、10分・・・、いや5分早ければ・・・」
「カズくん、どうしたの?」
「あれはそっとしてあげて」
「ほぇ?」
曜がフォローを入れてくれた。
千歌、今の俺には気になっても何も聞かないでくれ。
「善子じゃなくてぇ・・・」
善子が不敵に笑う。
もう次は何するつもりだよ・・・。
「ヨハネ!せっかくのステージ!溜まりに溜まった堕天使キャラを解放しまくるの!」
もう自分でキャラとか言ってるし。
でも、その意味不明な言動とポーズのおかげでギャラリーの方々は逃げていった。
「千歌ー!」
「あっ、むっちゃん!」
千歌の友達、よしみちゃん、いつきちゃん、むつちゃんの3人が見送りに来てくれた。
その手には大量ののっぽパンが袋詰めされている。
「イベント、頑張ってね!」
「これ、クラスみんなから」
そう言ってのっぽパンを渡してくれた。
花丸ちゃんが目を輝かせながらソワソワしている。
かわいいかよ。
「ありがとう、3人とも。みんなにもお礼を言っててくれる?」
俺が言うと、むつちゃんは親指を立てて、強く頷いてくれた。
「それ食べて、浦女の凄いところ、見せてやって!」
「うん!頑張る!」
千歌は張り切って返事をして、みんなで改札へ走り出す。
「「いってらっしゃーい!」」
「「いってきまーす!」」
行こう、東京へ!
不安と期待と夢を持ってAqoursは東京へ向かう。
「俺がしっかりしないと」
気を張り詰めるのはよくないですよ。
「だけど・・・。鞠莉ちゃんと約束したから」
そうですね。
和哉さんの活躍に期待しましょう。
次回もお楽しみに!