東京で開催されるイベントに参加することになったAqours。
7人は不安と期待を持ちつつ、東京へ向かった。
「次の電車どっち?」
「えーっと、こっち?」
沼津を出た俺たちは駅の看板を目印に、乗り換えの電車を探している。
電車賃などの遠征費は鞠莉ちゃんのおかげで学校からの支給だ。
「曜の言った方向であってるよ。遅れないように行こう」
「待って、その前にあれをどうにかして」
梨子に止められ、指を指している方向を見る。
「感じる。魔都の波動を」
「おいしいずらー」
「雰囲気壊れる!」
中二病全開の善子とのっぽパンをもぐもぐ食べる花丸ちゃん。
どうにかしてと言われても、正直無理だ。
「俺たちが電車に乗れば着いて来るでしょ」
「だと、いいけど・・・」
俺たちが電車に乗ると案の定2人も着いて来た。
在来線に揺らされること数時間。
ようやく会場のある秋葉原に到着した。
アキバに着くやら、善子は辺りを見回し、賑やかな街に満足気だ。
「ここが遍く魔の者が闊歩すると言い伝えられる、かの約束の地、東京」
そんなものはない。
「わぁー!見て見て、あれスクールアイドルの広告だよね!」
「マジで!?」
千歌の指さした方を見る。
本当だ!今、最もラブライブ優勝に近いと言われているグループの広告じゃないか!
「はしゃいでると地方から来たって思われちゃうよ」
「そ、そうですよね・・・」
曜の言葉にルビィが頷く。
「慣れてますー、って感じにしないと」
「そっか。ふんっ!」
ルビィの言葉を聞いた千歌は、何やら気合を入れている。
「ぷふっ。原宿っていつもこれだからマジやばくなーい?ほーっほっほっほっ!」
このバカチカは何を考えているんだ?
どこが慣れてる、なんだろう。
むしろ慣れてなさすぎて怖いくらいだ。
ほら、通行人の方々がクスクス笑っている。
「千歌ちゃん、ここ・・・」
「アキバ・・・」
「テヘペロ☆」
千歌が思っている、東京に慣れてる人ってこんな感じなのだろうか・・・。
「そういうのが地方感丸出しなんだよ」
「カズくんだってチカたちと一緒じゃん!」
「俺はそもそもここ出身なんだけど・・・」
「そうだった!!」
思い出したように叫ぶ千歌。
この野郎・・・。
後で見てろよ・・・。
「あれ?」
ルビィが何かをキョロキョロ探している。
「どうかした?」
「マルちゃんが居なくて・・・」
「ああ、花丸ちゃんね。あれ」
俺が指さした方をルビィは見つめる。
「うわぁぁぁぁぁ!!未来ずら!未来ず」
ルビィが駆け寄って花丸ちゃんの肩を叩くと、花丸ちゃんは自分の口を急いで手で塞ぐ。
「あー!あそこ行こうよ!」
「ちょっ、千歌ちゃん!?待ちなさい!」
何かを見つけた千歌が、梨子の静止を無視して猛ダッシュで走っていく。
その後ろを梨子と曜と善子も追いかける。
「あ!どこ行くの!あー、もう!ルビィ、花丸ちゃん!ここに居てね!」
2人に聞こえていることを信じ、俺も走っていった4人の後を追う。
「輝くぅー!」
千歌が入っていったのはスクールアイドルショップ。
歴代スクールアイドルのグッズが宝の山のように陳列されている。
曜は入り口のコスプレ用の制服の選別にお熱だ。
・・・待てよ、探しに来ましたー、ってノリで俺も物色出来るんじゃね?
そうだよ。仕方ない、だって見つからないんだもんね。
いざ、店に1歩踏み入れた瞬間、誰かに肩を掴まれる。
「どこ行くの?」
ゆっくり振り向くと、激おこの梨子がいた。
「あ、梨子ー!ここにいたんだ!千歌と曜が見当たらないなぁ。ちょっと探しに・・・」
「行かなくていいわ。ここにいなさい」
「・・・はい・・・」
なんで・・・。千歌と曜は物色してるのに・・・。なんで俺だけ・・・。
「時間なくなるわよ」
「あれ?花丸とルビィは」
善子が思い出したかのように、2人を探す。
「ああ、あの2人はあそこに」
2人の居場所を指差し、善子を見ると、善子の姿が消えていた。
「あれ!?善子!?」
「よっちゃんならあそこ」
梨子が指差した先には堕天使ショップと書かれた看板。
マジかよ。みんな自由かよ・・・。
「さぁ!みんなで、明日のライブの成功を祈って、神社の方に!・・・・・・・・・え?」
紙袋を両手に下げ、御機嫌の千歌だが、外に出て俺と梨子の姿しか見当たらず、きょとん、としていた。
「なんでみんないないの!?」
「自由過ぎるんだよ・・・」
俺はため息ををつきながら、項垂れる。
だって、千歌があんなに買ってるのに、俺は買えないって・・・。理不尽だよ・・・。
項垂れている俺の代わりに梨子が説明してくれた。
「曜ちゃんは制服ショップ。よっちゃんは堕天使ショップに行ったわ」
「ルビィちゃんと花丸ちゃんは?」
すると、千歌のスマホに電話がかかってくる。
「あ、ルビィちゃん。どこいるの?」
ルビィから電話がかかってきた。
やっぱりあの時、俺の声は届いていなかったようだ。
「うん。うん。大きなビルの下。見えない?」
「あ、見えました!」
遠くからルビィの声が聞こえる。
声のした方を見ると、2人が走ってきていた。
なんとか、2人とは合流できた。
「後はよーちゃんと善子ちゃんだね」
「2人共、場所は分かってるからもう少ししたら行くって」
「もう少しって?」
「さあ?」
「まあ、2人は千歌より断然しっかりしてるから心配いらないでしょ」
「ねえ、梨子ちゃん。さっきからカズくん、私にだけ当たり強いんだけど」
梨子はあはは・・・、と引きつった笑いを浮かべていた。
「もう、みんな勝手なんだから」
「お前が言うな」
「何をー!?」
「もう!和哉くんは黙ってなさい!」
梨子にまで怒られた。
もう、俺も勝手に行って来てやろうかな。
「しょうがないわね・・・。ん?」
梨子は何か見つけたようで、看板を見て、挙動不審気味にキョロキョロしている。
「梨子ちゃん?」
千歌が名前を呼ぶと梨子は慌てふためく。
「な、何でもない!」
「何が?」
「いいえ!」
梨子が見た看板をチラッ、と覗く。
『壁クイ』
恐らく梨子はこれに反応したのだろう。
部屋の同人誌のこともあるし、間違いない。
「わ、私!ちょっとお手洗い行ってくるね!」
梨子は走って行ってしまった。
嘘が下手すぎるよ・・・。
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
千歌の叫びも虚しく、梨子は同人誌専門店の前で足を止め、すっ、と中に消えていった。
結局俺もあの後、ショップに行き、お目当ての品を買い集めて満足した。
なんとかみんな合流し、夕暮れ時の道を歩いていく。
「もー!時間なくなっちゃったよ!せっかくじっくり見ようと思ったのに」
今日の目的は神田明神で明日のライブの成功の願掛けをする予定だった。
しかし、みんな思い思いの買い物ですっかり時間が経ってしまった。
千歌の言葉で梨子は慌てて、手に持っているレジ袋を背に隠す。
バレてないと思っているみたいなので、敢えて何も言わないでおこう。
「な、何よ!だから何度も言ってるでしょ!これはライブのための道具なの!」
善子も両手に持った堕天使グッズを必死に誤魔化している。
珍しく千歌もため息をついた。
そして、隣の曜なのだが。
「もう、そんな格好して・・・」
「だって!神社に行くって言ってたから。似合いますでしょうか!?」
巫女姿をした曜がドヤ顔の敬礼をしていた。
というか、そんな格好で街中歩くって凄いよ、マジで。
そもそも、素材がいいからめちゃくちゃ似合っててむしろこっちが困ってしまう。
かわいいかよ、畜生。
「敬礼は違うと思う・・・」
そして、俺たちの目の前に現れたのは長い石段。
ここは男坂と呼ばれている。
「ここだ」
「これが、μ'sがいつも練習していたっていう階段!」
千歌とルビィが興奮を隠せないでいた。
俺も今すぐにでもこのμ'sの軌跡を登りたい。
「登ってみない?」
「そうね」
千歌の提案に梨子が快く賛成する。
「よぅし!みんな行くよ!それ!」
真っ先に走り出した千歌にみんなで着いていく。
ここでμ'sが・・・。
俺は階段を1段1段、噛み締めながら登っていく。
登り切ると千歌は賽銭箱の前に立っている2人組の女の子を見つめていた。
1人はサイドテール。もう1人はツインテールで、何やら歌っているようだ。
待てよ、あの2人どこかで見たような?
2人がこちらを振り返る。
サイドテールは俺たちを見て、不敵に笑う。
あ、こいつら、俺のダメな人種だ。
何かを見透かし、相手を見下す態度。
ダメだ、イラつきと敵対心がまるで薄れない。
ああ、分かった。こいつらは
敵だ。
出会った2人組。
なにやら不穏な空気が流れ始める。