梨子を探し、旅館を歩き回る和哉。
彼女の胸に秘めたものを聞いて彼はどうするのか。
梨子を探しに部屋を出た俺は頭の中で何ができるだろう、と考える。
そもそもなんで俺は梨子を追いかけてるんだ?
音ノ木坂に行きたくない、という本心を分かっているのに聞き出すため?
あの寂しそうな表情が放っておけないから?
・・・分からない。
「あ」
廊下の曲がり角でばったり梨子と鉢会う。
「和哉くん?どうしたの?」
「えっと・・・」
自分の考えが上手くまとまっていない。
そのせいか、返事に戸惑う。
「和哉くんが口篭るって珍しいね」
梨子はクスクス笑っている。
そうかも、と相槌を打つと梨子は続けて話す。
「多分、私の事だよね。ごめんね、空気悪くしちゃって」
「いや、梨子のせいじゃないよ。俺たちの配慮とか気遣いが足りてなかったんだよ」
「そんなことないのに。話があるのよね。自販機のとこまで行きましょう」
梨子に言われるまま、後を着いて行く。
着いたのは自販機が1つと、ベンチが置いてあるちょっとした休憩所。
梨子はベンチに腰掛け、俺も後に続くように隣に座る。
「それで、話って?」
梨子はまるで覚悟してたかのようにその言葉を口にする。
俺は考えがまとまっていないが、聞きたいことを聞くことにした。
「・・・音ノ木坂に行かないって言ったのは何で?」
「転校した後だから気まずくて。あまり行きたくないの」
少し考えれば分かることだ。
でも、本当の理由はそうじゃないはずだ。
多分、あの事だ。
「ピアノ・・・、なんでしょ?」
俺は絞り出すように、口に出す。
梨子は少しだけ肩を動かし、反応する。
「おばさん・・・。梨子のお母さんから聞いた。それが気になって俺も少し調べたんだ。ピアノを弾けなかったんでしょ」
「そう・・・。調べたのね・・・」
知られたくなかったのだろう、梨子は暗い顔をして俯く。
「去年、ピアノのコンクールに出たわ。そのコンクールで私はピアノを弾けなかった。ピアノが怖くなって、観客の人が怖くて、手が動かなくなった」
「・・・」
言葉が出ない。
息が詰まりそうだ。
「それなりに期待されて音ノ木坂に入ったからプレッシャーもあったのかも。それ以来ピアノが怖くなって・・・。お父さんの転勤に合わせて、逃げるように内浦に来たの」
梨子は俯きながらポツリ、と言葉を紡いでいく。
「沢山の人を失望させて、お母さんの期待も裏切って・・・。何とかしなきゃ何とかしなきゃって、気持ちばかり焦って!曲作りもできない!ピアノも弾けない!」
梨子の声はどんどん荒々しくなり、その瞳からは涙も溢れていた。
「私はただ、ピアノが好きなだけなのに!ピアノを弾くことが大好きなだけなのに!私の好きな音を奏でるだけでよかったのに!なんでみんな私をそんな目で見るのよ!やめてよ!」
「・・・・・・梨子」
「こんな・・・。こんな気持ちになるならピアノなんて弾かなければよかった・・・」
梨子は涙を流しながら、叫ぶ。
こんなになるまで抱えていたんだ・・・。
俺に何かできることなんてあるのか?
その瞬間、梨子は俺の胸に飛び込む。
服を強く掴み、怯えるように体を震わせながら。
真っ白になってしまった頭はさらに混乱する。
「どうして?どうして和哉くんはあの時、居てくれなかったの?どうしてあの時、何も言わずに行ってしまったの?ねえ、どうして!?」
「ごめん・・・」
再会した後、梨子は気にしてないとは口では言ってたものの、内心はそうじゃなかったようだ。
あの時のことを未だに心に抱えているのは俺だけじゃない。
友達と離れ離れになる辛さは同じだった。
梨子も寂しかった。悲しかった。
俺はそんなことすら分かっていなかった。
「和哉くんが居たら・・・。居てくれたら、もっと頑張れたのに・・・。和哉くんがいないと、私・・・」
「ごめん。ごめんね、梨子」
俺はそっ、と梨子を抱きしめる。
「まだ、怖いの・・・。ピアノに触れるとあの時のことが頭をよぎる。でも、私が曲を作ればAqoursのみんなは、和哉くんは笑ってくれる。褒めてくれる。その気持ちだけで頑張ってきたの」
「うん。梨子は頑張ってる」
「音ノ木坂に行けばあの時の恐怖と周りの目を思い出してしまう。そんな気がして・・・。しかもみんなの空気も悪くして・・・。私、どうしたらいいの・・・」
堪えても漏れてくる鳴き声と涙。
今、吐き出している全てが梨子の抱えてきたもの。
梨子の負担の1つになっている俺にできることは、彼女の重りを少しでも支えることくらい。
だったら、俺は梨子の望むことなら何だってやる。
「梨子、そのままでいいから聞いてくれる?」
「・・・何?」
「あの時は本当にごめん。変な意地もだし、俺が子供過ぎた。ごめん」
「それは分かってる・・・」
「うん。都合がいいと思われるかもしれない。それでも俺はいい。だからここからやり直そう。今日が俺たちの本当の再会。それと、俺は梨子が弾くピアノが好きなんだ。だから、ピアノなんてやらなきゃよかった、なんて言わないでよ」
梨子はコクリ、と頷く。
「あんな事があったんだから、ピアノが怖いのは分かるよ。だったら俺やみんなを頼って少しずつでいいからピアノを怖がらずに、また少しずつ好きになろう」
また梨子はコクリ、と頷く。
どうやら、泣き止んだみたいだ。
「俺なんかじゃ頼りないけど、他に5人もいるんだ。みんなに甘えるといいよ」
「そんなことないもん。和哉くんが1番頼りになるから」
ド直球でそんなこと言われるとは・・・。
むず痒い・・・。
「と、とにかく!梨子がまたピアノが好きになれるなら、俺は何でもやるから!また、俺にピアノを弾いてよ」
梨子は俺から離れると、笑顔で俺を見る。
「ありがとう。大好きだよ」
「なっ!?」
「あんなに泣いて、みっともないところを見せちゃったけど、今なら言えると思ったの。そしたら言えた。私は和哉くんが好き」
ま、待って。
これ、現実?
いつの間にか夢の世界とか無いよね!?
「小さい頃からずっと好きでした。私を恋人にしてくれますか?」
なっ、えっ?
梨子が俺に告白?
嘘じゃないの?
突然過ぎて頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「返事、欲しい・・・な・・・」
ああっ!待たせてる!
落ち着くんだ、俺!
俺は梨子のことをどう思ってる?
俺は必死に今までのことを思い出す。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・思い出すまでもなかった。
なんで俺が梨子にこんなに必死になれたか。
そんなの決まっている。
多分ずっと前から。
気づかないようにしていただけだ。
だったら答えは決まっている。
「・・・こんな俺でよければ。俺も君の恋人になりたい」
その時の梨子の顔は一生、忘れられないほどに綺麗だった。
涙を流しているが、その笑顔はこの世で1番輝いていた。
「嬉しい・・・。こんなに嬉しいことってあるんだね・・・」
梨子は溢れる涙を手で拭う。
「俺も同じだよ。梨子、これからよろしくね」
「はいっ」
お互いの顔を見ては笑い合う、というむず痒いことをしばらくやった後、これからの事について話し始める。
「まずは、明日のライブを頑張ること。あと、この関係は絶対秘密。ファンにはもちろん、メンバーにもダメだ」
「みんなにはいいんじゃないのかしら?」
「ダメ。千歌に何やられるか分からない」
「あ、あはは・・・。ということは気づいていないフリをしてたの?」
「ま、まあ・・・」
思わず、梨子も苦笑いだ。
「ねえ、約束しよう」
「何を?」
梨子の突拍子もない言葉に疑問を持つ。
梨子は自分の小指を俺の小指に絡めさせる。
指切りのカタチだ。
「もう隠しごとは無し。意地も張らない。1人で無理しない、とか」
「そうだね。俺たちには大事だね」
俺と梨子は強く指切りをして、これからの約束をする。
俺ももう少しだけ人に心を開けるようになろう。
目の前の問題は多くあるが、梨子のために尽力すると、俺は心に誓った。
2人は手を取り合い、過去と別れるために歩き出した。
「こんなことになるなんて、ね・・・」
おめでとうございます、とだけ私は言います。
「どうも。俺は梨子のためにやれることをやるだけさ。・・・付き合えたのは本当に嬉しいけど・・・」
これがリア充の余裕・・・。
別れしてしまえ。
次回もよろしくお願いします!
「サラッと毒吐いたな!?」