和哉は梨子の本音を聞き、お互いのこれからを決めた。
そして、彼女の告白を了承し、2人は共に歩き始めた。
ようやく和解し、付き合い始めた俺と梨子は部屋までの短い距離を手を繋いで歩いていた。
その間、俺たちは無言。
でも、繋いだ梨子の細くてしなやかな手は温かくて、それだけでこれ以上にないほどの幸せを感じる。
「部屋の前、着いたよ」
俺は梨子にそう言い、名残惜しいが、その手を離す。
「あっ・・・。・・・・・・ごめんね」
梨子は寂しそうな声をだすが、さっきの約束もあるし、納得したように謝る。
「ううん。じゃあ、入ろうか」
そっ、と襖を開けると、部屋には人数分の布団が敷かれていた。
「あ、2人とも。遅いよー」
千歌が頬を膨らませながら俺たちに文句を言う。
「ごめん。つい、話し込んじゃって」
「もう。梨子ちゃん、変なことされなかった?」
「おい」
千歌は俺のことをなんだと思っているのだろう。
「うん。少し話が盛り上がっちゃっただけだから」
よかったー、と千歌は胸を撫で下ろす。
「寝る準備はできてるから、2人も明日に備えて早く休も?」
「そうだね。ところで、俺の布団は?」
千歌の言葉に頷き、部屋を見渡すと、曜と1年生は起きてはいるが既に布団に入っている。
2つ空いている布団があるが、それは千歌と梨子のだろう。
じゃあ、俺のは?
「カズくんのはあそこだよ」
千歌が指さしたところは押し入れ。
嘘だろ?と思いながら押し入れを開けてみると丁寧に敷かれた布団が1つ。
どうやらマジのようだ。
「流石に寝てる間に何かされると問題になっちゃうから、こういう措置であります!」
曜が自信満々に宣言する。
「ちなみに、発案者は善子ちゃんね」
「ヨハネ!当たり前でしょ?先輩と隔てるもの無しとか襲ってください、と言ってるようなものじゃない」
「善子が言い出しっぺかよ・・・」
お前実は俺のことを嫌いだろ・・・。
そんな風に思ってるとか。
俺は思いっきり不機嫌な顔を善子に見せつける。すると、善子はふんっ、と顔を背けた。
「あ、あの・・・。実はおらもまだ少し・・・。ほんの少しだけど不安だなって・・・」
「そういうことなら仕方ないね。俺は大人しく寝るよ。おやすみー」
「ちょっと!?ヨハネと反応違いすぎない!?」
「気のせい、気のせい」
だって、花丸ちゃんが言うならその通りにしないとね。
「ご、ごめんなさい!マルのせいで・・・」
「花丸ちゃんのせいじゃないよ。少しでも明日に備えて休める環境になるんなら俺はそうするよ」
謝る花丸ちゃんの頭を撫で、俺はそそくさと押し入れの布団に潜り、戸を閉める。
花丸ちゃん、頭を撫でた時、笑ってくれて可愛かった・・・。うん。
すると、持っていたスマホがメッセージを受信した。
梨子からだ。なんだろう。
『もう浮気?』
やっべ・・・。
確かにそう受け取れる。
俺は慌てて梨子に謝罪を入れる。
『そんなじゃないんです。その場のノリといいますか、つい、やってしまったといいますか。本当にごめんなさい』
『Aqoursの仲間だから大目に見るけど、次、知らない人にやったら怒るから』
『肝に命じます・・・』
夜は更けていく。
俺のやらかしと、梨子の嫉妬で。
side out...
side 梨子
みんなが眠っている中、私は真夜中に目が覚めた。
どうやら、まだ気持ちが高ぶっているみたいだ。
私は布団から抜け出し、押し入れの戸をそっ、と開く。
そこには長年片思いを続け、つい数時間前に恋人になった和哉くんがスヤスヤ、と眠っている。
私はしゃがんで、その顔をのぞき込む。
「まったく・・・。私はこんなになって、夜も眠れないのに。もう少し意識してくれてもいいじゃない」
私は腹いせに彼の頬を数回つつき、鼻をきゅっ、とつまんだ。
「・・・ふごっ・・・!」
「ぷっ・・・」
息が詰まり、豚のような声を上げたのが思ったよりも面白くて吹き出してしまったが、和哉くんは起きてないようだ。
あまりちょっかいを出しすぎて起こしちゃうのも悪いと思い、私は窓淵に腰掛け、外の月を眺める。
「んん・・・。スティグマ、天使・・・」
気持ちよさそうに眠っているよっちゃんが不思議な寝言を言っている。
普段は中二病で、少し大人っぽく振舞っているよっちゃんだけど、寝言を言っているのが子供っぽくて微笑ましい。
・・・寝言の内容はよっちゃんらしいけど・・・。
「眠らないの?」
不意に声をかけられ、驚く。
声をかけてきたのは千歌ちゃんだった。
「千歌ちゃんも?」
「うん、なんとなく」
どうやら、千歌ちゃんも起きてたみたいだ。
もしかしたらさっきのことは見られてたのかも。
「ごめんね、なんか、空気悪くしちゃって」
私は寝る前の音ノ木坂に行かない、と言ったことを謝る。
これも眠れなかった理由の1つだから。
「ううん。こっちこそ。・・・ごめん」
もう、千歌ちゃんが謝る必要なんてないのに。
私は少し、音ノ木坂にいた頃のことについて話すことにした。
「音ノ木坂って、伝統的に音楽で有名な高校なの。私、中学の頃ピアノの大会行ったせいか、高校では結構期待されてて」
「そうだったんだ」
「音ノ木坂が嫌いなわけじゃないの。ただ、期待に応えなきゃって。いつも練習ばかりしてて。でも、大会じゃ結局上手くいかなくて」
さっき、和哉くんにも同じことを言って泣いちゃったけど、今はそんな感じは全くない。
これも和哉くんが受け止めてくれたからかな。
「期待されるってどういう気持ちなんだろうね」
「え?」
千歌ちゃんの意外な質問につい、驚いてしまう。
「沼津出る時、みんな見送りに来てくれたでしょ。みんなが来てくれて凄い嬉しかったけど、実はちょっぴり怖かった。期待に答えなくちゃって。失敗できないぞ、って」
「千歌ちゃん・・・」
今の千歌ちゃんは音ノ木坂にいた頃の私と同じだ。
周りの期待に応えようと必死になって。そして、怯えている。
「ごめんね!」
「え?」
「全然関係ない話して」
「ううん。ありがとう」
「へ?」
千歌ちゃんは凄いよ。
今の気持ちを素直に言えるんだから。
その気持ちを私に話してくれてありがとう。
「寝よ。明日のために」
「うん!」
私は立ち、自分の布団に潜ろうとした時、また千歌ちゃんに話しかけられた。
「さっき、カズくんに何かしてたけど、やっぱり、さっき何かあったんじゃないの?」
「え!?」
「ほらほらー。言っちゃいなよ〜」
「え?えぇー!?」
千歌ちゃんを誤魔化すのは大変そうで、寝る時間が短くなってしまいそう・・・。
和哉くん、助けてぇー!!
side out...
月の光は人を少しだけ素直にさせる。
「そうだね。私もつい語っちゃったし」
梨子さんもどんどん話して抱えているのものを吐き出して行ってくださいね。
「そうね。考えておくわ」
次回もお楽しみに!