2人の夢の軌道   作:梨善

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〜前回のあらすじ〜
夜遅く、千歌と梨子はお互い胸に秘めた悩みを口にした。
そして、いよいよライブが始まる。


#38 スクールアイドルの祭典

「・・・いったぁ・・・」

 

朝起きて体を起こすと、頭を何かに強くぶつけた。

1度体を寝かせ、仰向けになり、ゆっくり目を開けると低い天井があった。

 

そうだった。押し入れの中で寝てたんだった。

 

ぶつけた頭を撫でていると、襖が開いた。

差し込む光が眩しく、目を閉じる。

 

「大丈夫ー?なんか、すごい音したけど」

 

襖を開けて、声をかけてきたのは曜だった。

なぜかいつもの練習着に着替えている。

 

「いやね、起きた弾みで頭打った」

「あちゃー。それは災難だね」

 

いつもの軽いテンションで曜は笑う。

 

「それより、起きて支度して」

「うん。でも、なんで練習着?」

「千歌ちゃんがランニングに行ってて。私たちもそれを追いかけるよ」

 

ああ、納得。

それで練習着なのか。

 

のそのそ、と押し入れから出ると他のみんなも既に練習着に着替えていて、俺だけが寝巻きのままだ。

みんなにおはよう、と挨拶をし、部屋の外にある洗面所に向かう。

 

「わっ」

 

廊下の突き当たりで練習着の梨子と軽くぶつかってしまう。

 

昨日もこんな感じだったような・・・。

 

俺はなんともないのだが、梨子は仰け反り、尻もちをつきそうになる。

 

「おっと」

 

とっさに梨子の肩を掴み、支える。

 

「大丈夫?」

「え、ええ。ありがとう」

 

梨子と目が合うと、昨日の夜のことを思い出す。

その瞬間、俺の顔は燃えているかのように熱くなり、思わず目をそらす。

梨子も似たような反応をしていた。

 

「お、おはよう、和哉くん」

「あっ!あ、うん。おはよう」

「何?私を見て挙動不審になって」

「うっ・・・。その、昨日のことを思い出して・・・」

「あぁ・・・」

 

梨子は納得したように声を出す。

 

「梨子のこと見たら昨日のこと思い出して。なんか、恥ずい・・・」

「や、やめてよ!私まで恥ずかしくなるじゃない!」

「わ、悪い!」

 

俺は一体何に謝っているのだろう・・・。

 

「先輩、何してるの?」

「うわぁっ!?」

 

後ろから声をかけられ、振り向くと善子が探るような顔で俺を見ている。

 

「よ、善子・・・」

「ヨハネ!で、先輩はリリーの肩を掴んで何してるかしら?」

「え?」

 

今の俺は梨子の肩を掴んで、顔の距離もそれなりに近い。

何も知らない人からすると、俺が梨子を襲うように見えるかもしれない。

少なくとも善子にはそう見えている。

 

「いや、これは仕方ないんだよ!」

「へぇ?」

「本当よ、よっちゃん!私がぶつかって倒れそうになったのを支えて貰ったの!」

 

梨子も一緒に誤解を解こうとしてくれている。

 

「ふーん。そうだったとして、先輩はいつまでそうしてるの?」

 

善子に言われ、さっ!と梨子の肩を離し、彼女の横に並ぶ。

俺たち2人はカチコチの愛想笑いを浮かべ、その場を乗り切ろうとした。

 

「ふぅん・・・」

 

善子は俺たちを交互に見て、真偽を見定めている。

 

「ま、いいわ。それより、早くしなさいよ。置いていくわよ。行きましょう、リリー」

「あ、うん。じゃあ、また後でね」

「うん」

 

俺に手を振って善子のあとを追う梨子。

危なかった、と胸を撫で下ろし、朝の支度を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

支度が終わり、旅館の前で走る前の軽いストレッチを始めた俺たち。

 

「千歌の行った場所は?」

「UTXだよ。千歌ちゃんなら絶対そこに行く」

 

曜があまりにも自信満々に答えるものだから、ついそれが本当のように思ってしまう。

 

「本当なの?」

「本当だよ!じゃあ、全速前進、ヨーソロー!」

 

梨子の問いかけにも迷いなく言い切り、いつもの掛け声と共に、曜は走り出した。

その後を追うように、俺たちも続いて走り出す。

 

「あ、梨子ちゃん」

「何?曜ちゃん」

「道案内よろしく!」

 

・・・それは元気よく言うセリフではない・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千歌ちゃーん!」

「凄い!本当にいました!」

 

梨子の案内でランニングも兼ねて千歌を探していると、UTX外のディスプレイの前に千歌はいた。

 

「やっぱりここにいた!」

 

やっぱり曜は千歌のことをよく分かっている。流石だ。

 

「みんな・・・」

 

千歌はどうしてここが分かったのか、なんで練習着に着替えているのか、何から聞こうか迷っているようだ。

 

「練習行くなら声かけて」

「1人で抜けがけなんてしないでよね」

「帰ったら神社でお祈りするずらー!」

「うん、だね」

 

梨子、善子、花丸ちゃん、ルビィがそれぞれ千歌に声をかける。

 

「うん!」

 

千歌はそれに対し、笑顔で返事をした。

 

「ねえ、あれを・・・」

 

すると、後ろのディスプレイが豪華な音と共に、映像を映し出す。

俺はそれを指差し、みんなに見るように促す。

 

「え?」

 

間違いないこれは・・・。

 

「ラブ・・・ライブ・・・」

 

千歌が呟くと、ルビィがあとを追うように解説をする。

 

「ラブライブ!今年の『ラブライブ!』が発表されました!」

 

今年のラブライブのエントリーが始まる。

開催場所はアキバドーム。

 

「ついに来たね」

 

曜がディスプレイを見ながら1人、呟く。

 

「どうするの?」

 

梨子は千歌に質問すると千歌は即答した。

 

「もちろん出るよ!μ'sがそうだったように!学校を救ったように!さあ、行こう!今、全力で輝こう!」

 

俺たちはその場で円陣を組み、全員の掌を重ねる。

 

「Aqours!」

「「サーンシャイーン!」」

 

ラブライブ!に向けて俺たちは気合を入れ直す。

ラブライブ!も大事だが、今1番大事なのは今日のライブ。

前哨戦にはもってこいの舞台だ。

俺はメンバーにそのことを伝え、目先のライブに集中させる。

 

さあ、会場に向かおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場は広く、既に沢山の人が集まっていた。

 

「やあやあ!君たちがAqoursだね?」

 

陽気な声と共に近寄ってきたのは、ココ最近スクールアイドル特集のレポーターをやってる女の人だ。

 

「は、はい!」

 

千歌が緊張しながら、返事をする。

 

「じゃあ、早速だけど今回のライブの説明をするね!今日来てくれたスクールアイドルのランキングについてだよ!」

「ランキング?」

「ええ!会場のお客さんの投票で出場するスクールアイドルのランキングを決めることになったの!」

 

なるほど。

それならば今のみんなの実力がはっきり分かる。

見に来てくれている人たちはきっと、ラブライブ常連グループのファンが多いだろうから、そこからいかに票を取れるかが肝だ。

 

「上位に入れば一気に有名になるチャンス、てことですか?」

「まあ、そうだね」

 

レポーターさんは大体そんな感じ、といった雰囲気で曜の質問に答えた。

 

「Aqoursの出番は2番目。元気にはっちゃけちゃってね!」

 

レポーターさんは関係者室に入っていった。

 

「2番・・・」

「前座って事ね」

 

曜と梨子が呟く。

 

「仕方ないですよ。周りは全部、ラブライブの決勝に出たことあるグループばかりですから」

 

その辺のことはルビィがよく分かっているようだ。

 

「そうずらか・・・」

「でも、チャンスなんだ!頑張らなきゃ!」

「そうだよ。千歌の言う通り、チャンスなんだ。ここで目立てばラブライブ出場にも有利になる。俺はここから先は行けないから観客席で応援になるけど、みんな頑張れ」

「「はいっ!」」

 

よし、みんなの顔付きもいい感じになってきた。

後は無事にパフォーマンスが上手くいくことを願うだけだ。

 

「もちろん、先輩は私たちに入れてくれるのよね?」

「は?何言ってんの。贔屓はしないよ。俺の票が欲しかったら全力で俺の心を動かして見せろよ、堕天使」

「なっ・・・!?・・・ククッ。いいでしょう。愚かな人間にこのヨハネのこの舞踏をもって、虜にさせてあげる」

「よし!じゃあ、行ってこい!」

 

俺の声と共にみんな、走っていった。

 

「和哉くん」

 

そんな中、梨子だけが引き返してきた。

 

「どうかした?」

「少し。少しだけ私に勇気を頂戴・・・」

 

手を胸に当て、梨子は弱々しく言う。

 

そうだ。昨日、梨子は言っていた。

俺が居たら頑張れた、と。

梨子が頑張れるように俺はちゃんといるって教えてあげないと。

 

「梨子、大丈夫。俺はここにいるから」

 

梨子の手を両手で包み、優しく握る。

 

「怖がらなくていいよ。梨子ならできるさ」

「うん」

 

梨子は少し顔を赤らめて、握った手を見ている。

片方の手は梨子の手を握ったまま、離した手で彼女の頭をそっ、と撫でる。

 

「頑張れ。俺はちゃんと、梨子を見てるから」

「うん!行ってくるね!」

 

自信がついたように笑う梨子は、千歌たちの行った道を走って追いかけていく。

 

俺にできるのはここまで。

後は梨子、いや、Aqoursのみんな次第だ。

 

梨子の姿が見えなくなるまで、その後ろ姿を見送り、会場に入る前に警備員さんにチケットを見せる。

不備は無かったようで、すんなり客席に入れた。

スクールアイドルの祭典が始まる。




自分たちと送り出してくれた人たちの思いを胸に乗せ、Aqoursはステージに立つ。
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