夜遅く、千歌と梨子はお互い胸に秘めた悩みを口にした。
そして、いよいよライブが始まる。
「・・・いったぁ・・・」
朝起きて体を起こすと、頭を何かに強くぶつけた。
1度体を寝かせ、仰向けになり、ゆっくり目を開けると低い天井があった。
そうだった。押し入れの中で寝てたんだった。
ぶつけた頭を撫でていると、襖が開いた。
差し込む光が眩しく、目を閉じる。
「大丈夫ー?なんか、すごい音したけど」
襖を開けて、声をかけてきたのは曜だった。
なぜかいつもの練習着に着替えている。
「いやね、起きた弾みで頭打った」
「あちゃー。それは災難だね」
いつもの軽いテンションで曜は笑う。
「それより、起きて支度して」
「うん。でも、なんで練習着?」
「千歌ちゃんがランニングに行ってて。私たちもそれを追いかけるよ」
ああ、納得。
それで練習着なのか。
のそのそ、と押し入れから出ると他のみんなも既に練習着に着替えていて、俺だけが寝巻きのままだ。
みんなにおはよう、と挨拶をし、部屋の外にある洗面所に向かう。
「わっ」
廊下の突き当たりで練習着の梨子と軽くぶつかってしまう。
昨日もこんな感じだったような・・・。
俺はなんともないのだが、梨子は仰け反り、尻もちをつきそうになる。
「おっと」
とっさに梨子の肩を掴み、支える。
「大丈夫?」
「え、ええ。ありがとう」
梨子と目が合うと、昨日の夜のことを思い出す。
その瞬間、俺の顔は燃えているかのように熱くなり、思わず目をそらす。
梨子も似たような反応をしていた。
「お、おはよう、和哉くん」
「あっ!あ、うん。おはよう」
「何?私を見て挙動不審になって」
「うっ・・・。その、昨日のことを思い出して・・・」
「あぁ・・・」
梨子は納得したように声を出す。
「梨子のこと見たら昨日のこと思い出して。なんか、恥ずい・・・」
「や、やめてよ!私まで恥ずかしくなるじゃない!」
「わ、悪い!」
俺は一体何に謝っているのだろう・・・。
「先輩、何してるの?」
「うわぁっ!?」
後ろから声をかけられ、振り向くと善子が探るような顔で俺を見ている。
「よ、善子・・・」
「ヨハネ!で、先輩はリリーの肩を掴んで何してるかしら?」
「え?」
今の俺は梨子の肩を掴んで、顔の距離もそれなりに近い。
何も知らない人からすると、俺が梨子を襲うように見えるかもしれない。
少なくとも善子にはそう見えている。
「いや、これは仕方ないんだよ!」
「へぇ?」
「本当よ、よっちゃん!私がぶつかって倒れそうになったのを支えて貰ったの!」
梨子も一緒に誤解を解こうとしてくれている。
「ふーん。そうだったとして、先輩はいつまでそうしてるの?」
善子に言われ、さっ!と梨子の肩を離し、彼女の横に並ぶ。
俺たち2人はカチコチの愛想笑いを浮かべ、その場を乗り切ろうとした。
「ふぅん・・・」
善子は俺たちを交互に見て、真偽を見定めている。
「ま、いいわ。それより、早くしなさいよ。置いていくわよ。行きましょう、リリー」
「あ、うん。じゃあ、また後でね」
「うん」
俺に手を振って善子のあとを追う梨子。
危なかった、と胸を撫で下ろし、朝の支度を再開した。
支度が終わり、旅館の前で走る前の軽いストレッチを始めた俺たち。
「千歌の行った場所は?」
「UTXだよ。千歌ちゃんなら絶対そこに行く」
曜があまりにも自信満々に答えるものだから、ついそれが本当のように思ってしまう。
「本当なの?」
「本当だよ!じゃあ、全速前進、ヨーソロー!」
梨子の問いかけにも迷いなく言い切り、いつもの掛け声と共に、曜は走り出した。
その後を追うように、俺たちも続いて走り出す。
「あ、梨子ちゃん」
「何?曜ちゃん」
「道案内よろしく!」
・・・それは元気よく言うセリフではない・・・。
「千歌ちゃーん!」
「凄い!本当にいました!」
梨子の案内でランニングも兼ねて千歌を探していると、UTX外のディスプレイの前に千歌はいた。
「やっぱりここにいた!」
やっぱり曜は千歌のことをよく分かっている。流石だ。
「みんな・・・」
千歌はどうしてここが分かったのか、なんで練習着に着替えているのか、何から聞こうか迷っているようだ。
「練習行くなら声かけて」
「1人で抜けがけなんてしないでよね」
「帰ったら神社でお祈りするずらー!」
「うん、だね」
梨子、善子、花丸ちゃん、ルビィがそれぞれ千歌に声をかける。
「うん!」
千歌はそれに対し、笑顔で返事をした。
「ねえ、あれを・・・」
すると、後ろのディスプレイが豪華な音と共に、映像を映し出す。
俺はそれを指差し、みんなに見るように促す。
「え?」
間違いないこれは・・・。
「ラブ・・・ライブ・・・」
千歌が呟くと、ルビィがあとを追うように解説をする。
「ラブライブ!今年の『ラブライブ!』が発表されました!」
今年のラブライブのエントリーが始まる。
開催場所はアキバドーム。
「ついに来たね」
曜がディスプレイを見ながら1人、呟く。
「どうするの?」
梨子は千歌に質問すると千歌は即答した。
「もちろん出るよ!μ'sがそうだったように!学校を救ったように!さあ、行こう!今、全力で輝こう!」
俺たちはその場で円陣を組み、全員の掌を重ねる。
「Aqours!」
「「サーンシャイーン!」」
ラブライブ!に向けて俺たちは気合を入れ直す。
ラブライブ!も大事だが、今1番大事なのは今日のライブ。
前哨戦にはもってこいの舞台だ。
俺はメンバーにそのことを伝え、目先のライブに集中させる。
さあ、会場に向かおう。
会場は広く、既に沢山の人が集まっていた。
「やあやあ!君たちがAqoursだね?」
陽気な声と共に近寄ってきたのは、ココ最近スクールアイドル特集のレポーターをやってる女の人だ。
「は、はい!」
千歌が緊張しながら、返事をする。
「じゃあ、早速だけど今回のライブの説明をするね!今日来てくれたスクールアイドルのランキングについてだよ!」
「ランキング?」
「ええ!会場のお客さんの投票で出場するスクールアイドルのランキングを決めることになったの!」
なるほど。
それならば今のみんなの実力がはっきり分かる。
見に来てくれている人たちはきっと、ラブライブ常連グループのファンが多いだろうから、そこからいかに票を取れるかが肝だ。
「上位に入れば一気に有名になるチャンス、てことですか?」
「まあ、そうだね」
レポーターさんは大体そんな感じ、といった雰囲気で曜の質問に答えた。
「Aqoursの出番は2番目。元気にはっちゃけちゃってね!」
レポーターさんは関係者室に入っていった。
「2番・・・」
「前座って事ね」
曜と梨子が呟く。
「仕方ないですよ。周りは全部、ラブライブの決勝に出たことあるグループばかりですから」
その辺のことはルビィがよく分かっているようだ。
「そうずらか・・・」
「でも、チャンスなんだ!頑張らなきゃ!」
「そうだよ。千歌の言う通り、チャンスなんだ。ここで目立てばラブライブ出場にも有利になる。俺はここから先は行けないから観客席で応援になるけど、みんな頑張れ」
「「はいっ!」」
よし、みんなの顔付きもいい感じになってきた。
後は無事にパフォーマンスが上手くいくことを願うだけだ。
「もちろん、先輩は私たちに入れてくれるのよね?」
「は?何言ってんの。贔屓はしないよ。俺の票が欲しかったら全力で俺の心を動かして見せろよ、堕天使」
「なっ・・・!?・・・ククッ。いいでしょう。愚かな人間にこのヨハネのこの舞踏をもって、虜にさせてあげる」
「よし!じゃあ、行ってこい!」
俺の声と共にみんな、走っていった。
「和哉くん」
そんな中、梨子だけが引き返してきた。
「どうかした?」
「少し。少しだけ私に勇気を頂戴・・・」
手を胸に当て、梨子は弱々しく言う。
そうだ。昨日、梨子は言っていた。
俺が居たら頑張れた、と。
梨子が頑張れるように俺はちゃんといるって教えてあげないと。
「梨子、大丈夫。俺はここにいるから」
梨子の手を両手で包み、優しく握る。
「怖がらなくていいよ。梨子ならできるさ」
「うん」
梨子は少し顔を赤らめて、握った手を見ている。
片方の手は梨子の手を握ったまま、離した手で彼女の頭をそっ、と撫でる。
「頑張れ。俺はちゃんと、梨子を見てるから」
「うん!行ってくるね!」
自信がついたように笑う梨子は、千歌たちの行った道を走って追いかけていく。
俺にできるのはここまで。
後は梨子、いや、Aqoursのみんな次第だ。
梨子の姿が見えなくなるまで、その後ろ姿を見送り、会場に入る前に警備員さんにチケットを見せる。
不備は無かったようで、すんなり客席に入れた。
スクールアイドルの祭典が始まる。
自分たちと送り出してくれた人たちの思いを胸に乗せ、Aqoursはステージに立つ。