ついに始まった東京でのライブ。
和哉の激励を受け、ステージに立つ6人だが・・・。
俺は指定された席に座り、ライブが始まるのを変に緊張しながら待っていた。
この感じ、Aqoursが3人だった頃のステージを見守る時の感覚と似ている。
会場の照明が落ち、さっきのレポーターさんの司会が始まる。
そして、ステージに出てきたのは・・・。
「・・・Saint Snow」
会場には歓声が上がる。
確かにこいつらも注目グループだ。
曲はロック調。
曲のインパクトに負けない歌唱力とダンス。
素直に思った。こいつらは凄い。
曲が終わり、再び会場が歓声に呑まれる。
『続いて、人気急上昇中!フレッシュなスクールアイドル、Aqoursの皆さんです!』
次はいよいよ、みんなの番だ。
披露する曲は『夢で夜空を照らしたい』
みんなだって負けてないってところを見せてやるんだ。
しかし、ステージに出てきた6人の表情は固く、Saint Snowのパフォーマンスを見て萎縮している。
ここで見ている以上、声をかけてやれない。
誰かが気づくと信じて、俺は自分の胸を叩き、自信を持て、とアピールするが、誰も気づいてないようだ。
だが、フォーメーションをとり、曲が始まると、嘘のように柔らかい表情になり、今できる最高のパフォーマンスをやってくれた。
どうやら、俺の心配しすぎだったようだ。
全30組のスクールアイドルのパフォーマンスが終わり、俺は会場の外でみんなを待つ。
「あ、和哉くーん!」
曜が俺に気づくと手を振り、全員でこちらにやって来る。
「お疲れ様。かなり良かった。入賞じゃなかったのは残念だけど、1番の出来だったんじゃない?」
「やっぱり?私もそう思ってたんだ!」
千歌は笑顔で言っているが、他のメンバーの表情はどこか暗い。
「そうだ!まだ時間あるし、スカイツリー行こうよ!行ってみたかったんだぁ!」
やけに明るく振る舞う千歌。
周りとの温度差のせいか、変にそう感じ、違和感を覚える。
「千歌ちゃん・・・」
「どうかした?」
「ううん、なんでも」
曜が千歌に何かを聞こうとしていたが、本人がやめてしまった。
裏で何かあったのだろうか。
「よーし。じゃあ、しゅっぱーつ!」
進んでいく千歌の後ろをみんなでついて行く。
「和哉くん」
隣にやってきた梨子が話しかけてきた。
「梨子。お疲れ様。うまくできたんじゃない?」
「うん。でも、他のスクールアイドルを見て、せっかく貰った勇気が無くなりそうになっちゃった・・・」
「そっか。また欲しくなったらやってあげるよ」
「うん、ありがとう。・・・正直に言って。私たち、どうだった?」
それを聞いてくるのか・・・。
正直、言葉に困る。
「遠慮しないで」
「・・・分かった。確かに良かった。けど、周りに比べるとまだまだだ。何もかもが。申し訳ないけど、俺は梨子たちに票を入れてない」
「だよね。うん、分かってる。ありがとう、言ってくれて」
少し悲しそうに笑う梨子の顔で俺の胸はキュッ、と締め付けられた。
「それと、千歌ちゃんなんだけど、何か様子がおかしいというか・・・」
どうやら、梨子も千歌に違和感を抱いていたようだ。
「梨子もそう思う?確かに何か変だよ」
「曜ちゃんも感じてるみたい」
「だね。千歌が話してくれるのを待つしかないかも。ああ見えてあいつ、頑固だから」
「ふふっ、知ってる」
とにかく今は様子を見るしかないか・・・。
スカイツリーの展望台。
俺は梨子と曜の3人で、この大都会を見下ろしている。
「この街、1300万人も人が住んでいるんだよ」
「そうなんだ・・・」
「言われても全然想像つかないけどね」
「確かに。沼津の何倍なんだろうね」
「やっぱり、違うのかな・・・。そういうところで暮らしていると」
曜が意味深に呟く。
それは今日見たスクールアイドルたちと自分たちを照らし合わせて見た結果なのだろうか。
すぐ隣でルビィと花丸ちゃんが首から下げた双眼鏡を持って、景色を見ていた。
「どこまで行ってもビルずら」
「あれが富士山かな?」
「ずら」
2人は2人なりに、この東京という大きな街を実感しているようだ。
「ふっふっふっ・・・」
「ん?」
「最終呪詛プロジェクト、ルシファーを解放!魔力2000万!リトルデーモンを召喚!」
善子がいつもの黒のマントを着て、痛いセリフを大声で叫ぶ。
決めポーズと共に投げた黒い羽をパシッ!と掴み、少し声を震わせながらカッコイイ!と呟く。
やめてください。こっちが恥ずかしいです・・・。
ほら、小さい子の悪影響になるから。お母さんが連れて行っちゃったじゃないか。
だけど、言いたいから言ってるわけじゃないだよな。この善い子は。
「善子ちゃんは元気だねー」
ルビィと花丸ちゃんが双眼鏡で善子をガン見する。
「だから!善子じゃなくて、ヨ!ハ!ネ!」
「ライブ終わったのにヨハネのままずら」
1年生たちは何だかんだいつも通りのようだ。
「あまり大きな声ださない。迷惑だよ」
俺は善子の肩を掴み、3人に言う。
「お待たせー!」
先程、人数分のアイスを買いに行った千歌が戻ってきた。
「うわっ、何これ凄い!キラキラしてるー!」
確かに千歌なら言いそうだが、今はそれが不自然だ。
「千歌、ちゃん・・・」
「それにこれ、すっごく美味しいよ!食べる?」
曜の話を聞こうとせず、千歌は全員にアイスを配り、自分の分を食べ始める。
「全力で頑張ったんだよ!私ね、今日のライブ、今までで歌ってきた中で出来は1番良かったんじゃないかって思った。カズくんも言ってたしね!声も出てたし、ミスも1番少なかったし」
「でも・・・」
梨子が何かを言おうとしたが、千歌は言わせまいと続ける。
「それに、周りはみんなラブライブ本戦に出てるような人たちでしょ?入賞できなくて当たり前だよ」
「だけど、ラブライブの決勝に出ようと思ったら今日出ていた人たちと同じくらい上手くないといけない、ってことでしょ・・・」
梨子が弱気に言う。
その言葉で千歌は苦笑いを浮かべる。
「それはそうだけど・・・」
「私ね、Saint Snowを見た時に思ったの。これがトップレベルのスクールアイドルなんだ、って。このくらいできなきゃ、ダメなんだ、って。なのに、入賞すらしていなかった。あの人たちのレベルでも無理なんだって・・・」
「曜・・・」
曜は余程悔しかったのだろう。
自分が凄いと思った相手の結果と自分たちのレベルの低さに。
話している時の曜の声は、今まで聞いたことのないものだった。
「ルビィもちょっと思った・・・」
「マルも・・・」
そうか。だから、あんなにみんな暗かったのか。
俺は単に入賞できなかった悔しさだけかと思っていたが、実際に目の前にして、比較して、自分たちの非力さからきていたようだ。
こんなことも分からないなんて。
俺は一体、彼女たちの何を見ていたんだ・・・。
「な、何言ってるのよ!あれは、たまたまでしょ!天界の放った魔力によって・・・」
「何がたまたまなの?」
「何が魔力ずら?」
その場の空気を変えようと言葉を紡ぐ善子だが、そんなのは1発でお見通しで。
ルビィと花丸ちゃんにいじられてしまう。
「ふぇっ!?えっと、それは・・・」
「慰めるの下手すぎずら」
「な、何よ!人が気きかせてあげたのに!」
「そうだよ」
千歌が善子の言葉に乗っかる。
「今はそんなこと気にしても仕方ないよ。それよりさ、折角の東京なのにみんなで楽しもうよ!」
「待て待て。俺も聞きたいことが」
すると、千歌のスマホに電話がかかってきた。
「ごめん、出るね。高海です。え?はい。まだ近くにいます。はい。はい。分かりました、行きます」
「誰からだった?」
「レポーターさん。渡し忘れたものがあるって」
そういう訳で、俺たちは再び会場に向かう。
なんだか、胸がザワつく。
千歌に聞きたいことを聞けなかったから?
また、会場に戻るから?
分からないが、あの時のようにだけはならないようにしないと。
そう、自分に言い聞かせていた。
再び会場に戻ってきた俺たちを待っていたのは司会をしていたレポーターさん。
「ごめんなさいね、呼び戻しちゃって。これ、渡し忘れていたからって思って」
レポーターさんが差し出したのは青い便箋。
「なんだろう」
「もしかして、ギャラ!」
「卑しいずら」
1年生たちが楽しそうに中身を想像しているが、そんなものでは無い。
俺はあれがどういうものか知っている。
「今回、お客さんの投票で優勝グループ決めたでしょ?その集計結果」
「わざわざすいません」
千歌はそれを両手で受け取る。
「正直、どうしようかなーって迷ったんだけど、出場してもらったグループには渡すように決めてるから」
「はぁ・・・」
「じゃあ!」
レポーターさんは行ってしまった。
歯切れを悪くしながら言っていたということは、つまりそういう事なんだろう。
レポーターさんが見えなくなると、みんな千歌に集まる。
「見る?」
「うん」
曜の問いかけで、千歌は便箋の封を開け、中身の2枚の紙を取り出す。
「上位入賞したグループだけじゃなくて、出場グループ全部の順位と投票数が書いてある・・・」
千歌は驚きながら、結果に目を通していく。
千歌の肩越しだが、みんな同じように見ている。
「Aqoursはどこずら?」
花丸ちゃんの言葉で千歌は『Aqours』の名前を探す。
「えっと・・・。あ、Saint Snowだ」
「9位か。もう少しで入賞だったのね」
千歌があいつらの名前を見つけ、梨子がその順位を読み上げる。
あいつらが9位。
確か去年のラブライブにあのサイドテールは出ていたはずだ。
そんな奴でさえ9位にしかなれない。
「Aqoursは?」
花丸ちゃんはとにかく自分たちの順位が気になるようだ。
「うん!」
1枚目には無い。
2枚目。
上から名前を見ていくが、『Aqours』の名前は一向に出てこない。
「あっ・・・。30位・・・」
千歌が小さく、Aqoursの順位を告げる。
「30組中、30位?」
「ビリってこと!?」
「わざわざ言わなくていいずら!」
曜と善子が結果を口にすると、花丸ちゃんがそれを注意する。
「得票数はどのくらい?」
梨子が尋ねる。
問題はそこだ。
順位は仕方ないとしても、Aqoursがどのくらいの人に支持されたかが大事なのだ。
結果によってはこれからの活動に影響するほどに。
「えっと・・・、0・・・」
0。
千歌がハッキリと口にした言葉は0だった。
嘘だろ・・・。
「そんな・・・」
「私たちに入れた人、1人もいなかったってこと?」
その結果を見て、千歌はふらり、と1歩よろける。
「千歌ちゃん」
曜が心配して声をかけるが、千歌は返事をしない。
「お疲れ様でした」
落ち込んでいる俺たちに話しかけてきたのはSaint Snow、鹿角姉妹だ。
「Saint Snowさん・・・」
「素敵な歌で、とてもいいパフォーマンスだったと思います」
サイドテールの鹿角聖良は昨日会った時のような、余裕の表情を見せながら、千歌たちに賞賛を送る。
「ただ、もしμ'sのようにラブライブを目指しているとしたら、諦めた方がいいかもしれません」
当たり前のように放たれた言葉。
確かに、客観的に見ると鹿角聖良の言葉は最もだ。
しかし、それを今、現実を受け入れきれていないみんなに言う言葉なのか?
彼女はそれだけを言い、その場から去ろうとする。
もう1人、鹿角理亞は俺たちをじっ、と見る。
「バカにしないで・・・。ラブライブは遊びじゃない!」
瞳に涙を浮かばせながら、鹿角理亞は叫ぶ。
「おい」
俺は低く、だが、しっかり聞こえるように言う。
その言葉に鹿角聖良も立ち止まる。
「何でしょう?」
鹿角聖良は相変わらず、あの不快な笑顔を浮かべたままだ。
・・・限界だ。
「黙って聞いてれば、調子に乗ったことばかり言いやがって」
「カズくん?」
千歌が不安そうな声で俺の名前を呼ぶ。
「自分たちの方が上だったからわざわざその事を言いに来たのか?顔見知りの敗者の顔を見て、笑いに来たのか?」
「いいえ、ただ忠告を・・・」
「何が忠告だ。お前はただ敗者を嘲笑いに来ただけじゃねぇかよ!諦めた方がいい?誰がそんなことを決めた!遊びじゃない?そんなのは苦しいほど分かってんだよ!」
「和哉くん!やめて!」
「そうだよ!らしくないよ!」
梨子と曜が今にも向かっていきそうな俺の体を引っ張り、必死で引き止める。
「こいつらはラブライブを諦めるわけにはいかないんだよ!この結果だからスクールアイドルを辞める?ラブライブを諦める?そんなもんでスクールアイドルを辞めるほど、こいつらの想いはちっぽけじゃねぇんだよ!遊びでやってたら、ここまで落ち込まねぇよ!スクールアイドルが好きだから必死にやって、毎日努力して!遊びだなんて思うわけないだろ!お前らだってそうだろうが!それをスクールアイドルをやっているお前らが1番言ってはいけないだよ!分かってなきゃいけないだろ!そんなことを言うお前らに、スクールアイドルをやる資格なんてある訳ねぇんだよ!」
「カズくん!」
「和哉くん!」
千歌と梨子の声でようやく俺は止まる。
「もう、やめて。カズくんが怒ることないよ・・・」
千歌は今にも泣き出しそうな声で呟く。
Saint Snowの2人も表情を暗くし、俯いている。
「悪い・・・。頭冷やしてくる・・・」
俺は会場のトイレに向かい、個室に入る。
「クソっ!」
ドン、と壁を殴り、床に座り込む。
またこのイベントのせいで『Aqours』を失うのか・・・?
イヤだ。それだけは絶対にさせない!
またみんなが歌って踊れるように俺がしっかりしないと・・・。
その場でなんども深呼吸をし、気持ちを落ち着かせ、千歌たちの元に戻る。
気づけば30分近く離れていたようだ。
Saint Snowの2人も行ったようで、俺たちは沼津に帰るだけとなった。
side out
side 千歌
あの優しくて、なんでも笑って済ませるようなカズくんが怒った。
今まで1度も見たことのない姿と話し方。
私はそのことに驚いて思考が止まってしまう。
Saint Snowのツインテールの子はカズくんに怯え、少しでも気が緩むと泣き出してしまいそうになっていた。
「そんなことを言うお前らにスクールアイドルをやる資格なんてある訳ねぇんだよ!」
私はその言葉でやっとカズくんを止めないと、と自覚する。
「カズくん!」
「和哉くん!」
私と梨子ちゃんが大きな声で名前を呼ぶとカズくんはピタッ、と止まる。
「もう、やめて。カズくんが怒ることないよ・・・」
そう、カズくんが怒ることなんてない。
これも全部私のせいだ。私がもっとしっかりして、みんなを引っ張れたらこんな結果にはならなかったんだから。
「悪い・・・。頭冷やしてくる・・・」
カズくんはふらふらと会場の中に入っていく。
みんなが名前を呼んでも反応をしない。
余程、我を忘れていたようだ。
「すみません。先程の発言は取り消します」
Saint Snowのサイドテールの人、聖良さんが謝る。
「いいえ。それより、カズくんを悪く思わないであげてください」
「はい。私も彼に言われ、自分の行いを反省しています。私たちはこれで失礼します。行くわよ、理亜」
理亜さんは目を擦りながら、聖良さんについて行った。
2人が見えなくなってしばらくしてもみんな何も話さない。
「いやー、カズくん凄かったね。怒るとあんなになるんだ!怒らせないようにしないと」
こういう時こそ明るくなってみんなの気持ちを上げないと!
だけど、みんな全く反応しない。
「それにしてもカズくん遅いねー。帰るの遅くなっちゃうよ!」
「千歌ちゃん」
「何?梨子ちゃん」
「千歌ちゃんはどう思ったの?」
「どうって?」
「Saint Snowに言われたこと・・・」
「うーん。仕方ないのかも。でもね、私たちはまだまだだぞ、って言うのがよく分かった!だから、もっと練習して頑張ろうね!」
「そう・・・」
梨子ちゃんもまた黙ってしまった。
しばらくしてカズくんが戻ってきたけど、相変わらずみんな暗いまま。
このままじゃダメだ、と私はなんとかみんなを笑わせようとするけど、全部無反応だ。
結局一言も話さないまま、帰りの電車に乗ることになった。
side out
Aqoursに突きつけられた厳しい現実。
彼女たちはそれを受け止め、進むことができるのか。