ライブの得票数は0。
Saint Snowの言動に対して、激怒し、取り乱した和哉。
Aqours全員が重い空気のまま、沼津へ帰っていくのだった。
沼津に帰る電車の中。
空気は変わらず重く、みんな何も話そうとしない。
いつも通りの花丸ちゃんなら笑顔でお菓子を食べているのだが、今は買ってあげたぴよこまんじゅうを暗い顔でもそもそ食べている。
「泣いてたね、あの子。きっと悔しかったんだね。入賞できなくて」
ルビィはあの場で涙を流していた鹿角理亞のことを口にする。
「ずら・・・」
花丸ちゃんもルビィの言葉に相槌をうつ。
「だからって!ラブライブを馬鹿にしないでって・・・」
後ろの席から善子が顔を出し、反論を言うが、本人の言っていることも分かっているのか、表情を暗くする。
「でも、そう見えたのかも」
曜が言うとみんな顔を暗くしてしまった。
俺もそうだ。
しかし、千歌だけが違う。
「私は良かったと思うけどな」
外の海を見ながら明るく言う。
「千歌ちゃん?」
「精一杯やったんだもん。努力して頑張って、東京に呼ばれたんだよ!それだけですごいことだと思う。でしょ?」
「それは・・・」
「だから、胸を張っていいと思う!今の私たちの精一杯ができたんだから」
そう言った千歌はみんなを励ますようにニコリ、と笑う。
だが、俺にはその千歌の笑顔が無理をしているようにしか感じない。
「千歌ちゃん」
「ん?」
曜が険しい表情で千歌に話しかける。
「千歌ちゃんは悔しくないの?」
「え?」
曜・・・。
それはダメだ。今、言うべきじゃない・・・。
その思いを俺は言葉にしなかった。いや、できなかった。
頭では言わせてはいけないと分かっていても、どうしても今の千歌の気持ちがしりたかったからだ。
みんなその言葉に反応し、曜を見る。
多分みんなも思ってはいたはずだ。しかし、それを口にしなかった。
千歌が悔しくないわけがない。
学校のことを、Aqoursのことを1番に考えている千歌だから。
「悔しくないの?」
曜が繰り返すと、千歌は歯切れを悪くしながら言う。
「そ、そりゃぁちょっとは・・・。でも満足だよ!みんなであそこに立てて私は嬉しかった」
「そっか・・・」
納得はしていないようだが、曜はこれ以上聞いても意味がないと思ったのだろう。そのまま黙ってしまう。
「ねえ、千歌」
「何?」
「ごめん、何でもない・・・」
「う、うん。変なカズくん」
千歌、嬉しかったなら笑うんだよ、人は。
今の千歌は笑ってない。笑えていない。
でも、千歌の気持ちも分かる。
俺はただ待つことにした。
「ふーっ。戻ってきた」
沼津に着くともう日は沈んでいた。
電車の長旅が終わり、ルビィが息を吐く。
「やっと『ずら』って言えるずらー」
「ずっと言ってたじゃない!」
「ずらー!?」
善子、よく言った。
俺もツッコみたかったんだ。
「おーい!」
バス停のほうから何やら大人数が呼んでいる。
振り向くとクラスメイトのみんなが出迎えに来てくれていた。
「みんな・・・」
「おかえりー!」
みんな笑いながらこちらに来て、結果を楽しみにしている。
今はその笑顔が辛い。
「どうだった?東京は?」
「あぁ・・・うん。凄かったよ。なんかステージもキラキラしてて」
千歌が少し控えめに感想を言う。
「ちゃんと歌えた?」
「緊張して間違えたりしなかった?」
「うん。それはなんとか。ね?」
曜もあまり自信満々には答えれなかった。
「うん。ダンスのミスもあまり無かったし・・・」
梨子の反応もあまりいい反応ではない。
「そうそう!今までで1番のパフォーマンスだったね、ってみんなで話していたところだったんだ」
「なーんだ。心配して損した」
「じゃあじゃあ!本気でラブライブ決勝狙えちゃうってこと!?」
「え?」
これは仕方ないことだ。
何も知らないみんなは、今千歌たちの言った言葉を信じる。
この反応も当然なんだ。
「そうだよね!東京のイベントに呼ばれるくらいだもん!」
「あー、そうだねー。だと、いいけど」
千歌は結果が悪かったことを隠し、曖昧な返答しかしなかった。
「おかえりなさい」
「え?」
思わず俺は声を出してしまった。
なんで、来たんだ?
「ダイヤちゃん・・・」
「お姉ちゃん・・・」
ルビィも驚いたようだ。
いつも否定していたダイヤちゃんが優しい表情で出迎えてくれるなんて、思ってもいなかった。
「うっ・・・、うっ・・・。うぅ・・・。うぅっ・・・」
ルビィは必死に堪えていたんだろう。
初めてのステージ。
知らない人たち。
そして、結果。
その悔しさと悲しさを小さな体で必死に隠していたんだろう。
実の姉を見て、安心して、抑えていたダムが決壊し、涙と一緒に溢れだした。
ルビィはダイヤちゃんに抱きつき、その胸で泣いてしまった。
「よく頑張ったわね」
ルビィを見て、出迎えに来てくれたみんなは結果を察し、騒いだことを謝り出した。
「いいんだよ。仕方ないさ。けど、みんなの応援に応えられなくてごめん」
謝り続けるみんなに俺は頭を下げる。
「俺がもっとしっかりして、ちゃんとサポートできてれば・・・」
「違うわ」
「ダイヤちゃん?」
頭を下げている俺の前に出てきたのはダイヤちゃん。
「貴方が悪いわけではないの。スクールアイドル部のみなさんはわたくしについてきなさい。他のみなさんは自宅に帰るように」
ダイヤちゃんの言葉にみんなバス停に向かって行く。
「行くわよ。予め、家に連絡しておきなさい」
俺たちはダイヤちゃんの後ろを追いながら、夜の町を歩いていく。
「得票、0だったのね」
連れてこられたのは夏祭りの準備で提灯が多く釣られた狩野川。
その階段にみんな腰掛け、ダイヤちゃんに結果を報告した。
ルビィは泣き疲れ、ダイヤちゃんの膝の上で寝ている。
千歌だけは川を見ながら、策に手をかけて立っている。
「はい・・・」
梨子が申し訳なさそうに返事をする。
「やはり、そうなったのね。今のスクールアイドルの中では。先に言っておくけど、貴方たちは決してダメだったという訳では無いの。スクールアイドルとして充分練習を積み、見てくれている人たちを充分に楽しませるパフォーマンスもしている。でもそれだけではダメなの。もう、それだけでは・・・」
「やっぱり、俺が・・・」
「違うわ。貴方だけの力でグループが変わるなんて思い上がりもいいところよ」
正論過ぎて、口答えもできない。
「どういうことです?」
曜がダイヤちゃんの言葉に反応して、理由を尋ねる。
「7236。なんの数字か分かるかしら?」
「ヨハネのリトル」
「違うずら」
「ツッコミはやっ!?」
善子と花丸ちゃんのやり取りを見て微笑むダイヤちゃん。
俺はダイヤちゃんの言った数字の意味を答える。
「・・・スクールアイドルの数でしょ」
「流石ね。その通りよ。去年最終的にラブライブにエントリーしたスクールアイドルの数よ。第1回大会の10倍以上よ」
「そんなに・・・」
「スクールアイドルは以前から確かに人気はあったわ。しかし、ラブライブの大会の開催によってそれは爆発的なものになった。A-RISEとμ'sによってその人気は揺るぎないものになり、アキバドームで決勝が行われるまでになった。そして、レベルの向上が生まれたわ」
「じゃあ・・・」
「そう、貴方たちが誰にも支持されなかったのも、わたくしたちが歌えなかったのも、仕方ないことなの」
「歌えなかった?」
千歌がダイヤちゃんの言葉に反応する。
「ダイヤちゃん!」
俺は過去の、あの話をしようとしているダイヤちゃんを呼ぶ。
「何?」
「・・・言うの?」
「いいじゃない。果南さんにも言ってるわ」
「だったらいいけど・・・」
「さっきから、先輩も生徒会長も何の話をしているの?どういうこと?」
善子が俺たちに問いただし始めた。
「2年前、既に浦の星には統合になるかも、と言う噂があったの。それを阻止しようとわたくし、果南さん、鞠莉さん、そして、サポートとして和哉さんの4人で活動していたわ。もっとも、和哉さんは中学生だったから休日だけ参加していたけれど」
「知らなかった」
千歌がポツリ、と呟く。
「言わなかったから。果南ちゃんに口止めされててさ」
「だからあんなに練習の仕方、分かってたのね」
梨子が納得したように言う。
俺はそれを笑って誤魔化す。
「そして、貴女たちと同じようにわたくしたちも東京のイベントに呼ばれたわ。そして、歌えなかった。他のグループの凄さと巨大な会場の空気に圧倒され、何も歌えなかった・・・。貴女たちは歌えただけ立派よ」
「じゃあ、反対してたのは・・・」
曜が今までのダイヤちゃんの行動を理解し、悲しそうに言う。
「いつか、こうなると分かっていたからよ」
「じゃあ、なんで先輩は私たちを止めなかったの?」
善子の言葉に俺は少しだけ動揺する。
「なんでだろう・・・。あれで終わりにしたくなかったから・・・かな。またみんなで活動したかったから・・・かな?それかみんなに期待していたのかも・・・。でも俺は何もできなかったよ」
俺は引きつった笑みを浮かべる。
「和哉さんにも感謝してるのよ」
「なんで?」
ダイヤちゃんの言葉に驚く。
「ルビィをスクールアイドルにしてくれて。ルビィたちが歌いきれたのは貴方のお陰だからよ」
「俺はそんなんじゃないよ・・・。みんなが頑張ったから歌えたんだよ」
真っ直ぐにそう言われると、照れくさくなるな・・・。
「そういうことにしておくわ。ほら、迎えが来たわよ」
ダイヤちゃんはクスッ、と笑い、近くに止まった数台の車を指差す。
「今日は本当にお疲れ様。家でゆっくり休みなさい」
そう言ってダイヤちゃんはルビィと花丸ちゃんをつれて、自分のうちの車に乗り込んでいった。
「和哉くん」
「梨子・・・」
「家に来ない?」
突然の誘いに俺は戸惑う。
「どうして?」
「嫌な予感がするの・・・」
不安そうにしている梨子を見て、俺は傍に居たいと思った。
「うん。分かった。行くよ」
「ありがとう」
俺と梨子と千歌は迎えに来てくれた美渡さんの車に乗り込む。
俺まで乗ることを美渡さんに話し、OKして貰えたのは助かった。
「ねえ、千歌ちゃん」
車に乗り込む千歌を曜が止める。
「やめる?」
「曜!」
流石に良くないと思った俺は曜を止めようとするが、曜は俺を無視する。
「やめる?スクールアイドル・・・」
しかし、千歌は曜の言葉に何も答えず、黙って車に乗り込んだ。
「和哉くん・・・」
「うん。分かってる」
不安そうな梨子を落ち着かせようと、肩にそっ、と手を置く。
「こんな形で終わらせないから」
梨子は肩に置かれた俺の手を握って、コクリ、と頷いた。
こんな形で『Aqours』を終わらせたりしない。
3年生の過去を知ったAqours6人。
そして、千歌の様子がおかしいことを和哉と梨子は心配するのだった。