そんな訳であらすじは今回なしです。
それではお楽しみください。
side 梨子
「引越しの準備、終わった?」
私の部屋の扉の向こうからお母さんの声が聞こえる。
「うん!終わったよ!」
私、桜内梨子は積まれたダンボール箱の前に座ったまま振り返って返事をする。
「だったら夕飯、食べちゃいなさい。できてるから」
「はーい」
高校1年生の春休み。
つまり、この春休みがあけると私は2年生に進級する。
しかも、今通っている音ノ木坂学院ではなく、静岡の田舎にある浦の星女学院で。
分かりやすく言うと転校だ。
お父さんの仕事の都合で家族揃って静岡に引っ越すことが決まった。
普通なら1度しかない高校生活に転校するのは喜ばしくないと思う。しかし、私には都合が良かった。
元々人見知りで臆病な性格。
それじゃダメだ、と思って変わって今の性格。
少しは自分に自信を持ったり、自分を悪く言わないようにしてきたが、人見知りなのは変わらなく、どちらも人と仲良くなれるものでは無くて。友達なんて呼べる人は随分前に引越してしまった幼馴染みだけ。
だから、私にはピアノしかなかった。
けど。
あの日・・・。
高校に入って初めてのピアノコンクール。
周囲に期待されて臨んだそのコンクールで私はピアノを弾けなかった。
何故弾けなかったのか、今でも分からない。
期待がプレッシャーになっていたから?
・・・違う。
作った曲が満足いくものではなかったから?
・・・違う。
理由はきっと他にある。
もしかしたら既に分かってることかもしれない。でも、分かりたくない。
それを自覚してしまうと私は昔のように、誰かに流されて、付いて行くだけの人間になってしまう。
それだけはいやだ。
彼と、幼馴染みと再会した時、昔の私だと合わせる顔がない。
引越し先は海に囲まれてて綺麗な町らしい。そこならこの曲も完成できると思う。
・・・とにかく私はスランプになっていた。
この引っ越しを理由に音ノ木坂から、今の環境から逃げ出しただけだ。
私は立ち上がり、机に置いた未完成の楽譜を見る。
そして、その隣の写真立てを持ち、ベランダに出る。
「また逢えるよね、和哉くん・・・」
大好きな幼馴染みの名前を薄暗くなった空に呟く。
しかし、その音は風と共に闇に消えていった。
数日後。
私たち一家は静岡県沼津市の内浦という海辺の田舎の町に引越した。
東京とは全く違う町並み。
ビルや巨大モニターなんか1つも無く、代わりにあるのは初めて見る雄大な自然。
海も山も風も。
私はその全てに圧倒された。
「すごい・・・」
今のこの感動を言葉にできない。
「梨子ー。荷物整理しなくていいの?」
言葉を失って、新しい家の前に立ち尽くしていると、お母さんが声をかけてきた。
「あ、うん。なんか、すごいなー、って」
「そうね。お母さんもこんな自然初めて見たわ」
「そうなんだ。少し、海岸沿いを歩いてきていい?」
「ええ。行ってらっしゃい。あまり遠くに行って迷子にならないでよ」
お母さんは私がおっちょこちょいなのを気にしてるのを分かって意地悪を言う。
「分かってるよ!もう、行ってきます」
「気をつけるのよー」
道を真っ直ぐ進み、小さな浜に着く。
「綺麗・・・」
私はポツリ、と呟き、靴を脱ぐ。
裸足になって海に足をつけると、海水の冷たさに驚く。
だけど、それもなんだか楽しくなり、1人で水を跳ねさせて遊ぶ。
すると。
「またね!カズくん!」
女の子の大きな声が聞こえ、後ろを振り向く。
そこには走り去っていくバスを手を振りながら見送るオレンジの髪をした女の子がいた。
容姿を見た感じ、中学生くらいだろう。
「カズくん・・・か・・・」
私の幼馴染みとよく似た名前。
そういえば彼も静岡にいる。
もしかしたら逢えるという淡い期待を持ったが、もう何年も連絡はしていないから逢える訳もない。
「・・・帰ろう」
さっきまでの気分が嘘のように落ち込み、家に帰ることにした。
また数日後。
今日は転校先の浦の星女学院の入学式らしい。
転校生の私は音ノ木坂の制服を着て登校。
だけど式には参加せず、終わったあとに明日からの説明を受けただけだ。
その説明も終わり、制服のまま家の前の浜辺にある停船所に立ち、夕焼けに染まったこの綺麗な海を見つめていた。
「ピアノ、できるかな・・・」
今作曲している未完成の曲のことを思い、溜息をつく。
今年のコンクールに向け作り始めた新曲。
しかし、スランプのせいで上手く進める事ができていない。
「きっと、分かる」
私は制服と靴を脱ぎ、以前使っていたスクール水着姿になる。
海に飛び込むのは前から決めていた。
何故今日なのはきっかけが欲しかったから。
明日から知らない人たちと過ごす前に曲の『なにか』を掴みたかったから。
だから今日だ。
・・・少し、寒そうだけど・・・。
「たああああああああああああ!!」
海に向かって飛び込もうとした瞬間、誰かが私にしがみつき、引き止めた。
「待って!死ぬから!死んじゃうから!」
「離して!行かなくちゃいけないの!」
体を暴れさせ抵抗するが、引き剥がせない。
そして、しがみついた人の足が私の足を上手い具合に払う形になり、私たちはバランスを崩す。
「へ?」
「はぁあ!?」
体には浮遊感。
見えるのは近づく水面。
「「うわぁああああああああああああああああああああ!!??!?!?」」
まだまだ冷たい4月の海に私たちは落ちていった。
「ぷはっ!大丈夫?」
目的を果たせなかったのと突然の出来事で少しパニックになっていた私は酷く疲れ、しがみついてきたアホ毛が生えた女の子の肩を借り、浜辺に上がる。
「ええ。なんとか・・・」
私は倒れるように浜辺に座る。
「うぅ・・・。まだ寒いから危ないんだよ。少し待ってて!家が近いからタオルとか持ってくる!」
女の子は濡れたまま道路を走って渡って行った。
よく見ると女の子は昨日のバス停で見た子だ。
どうでもいいか、と思った私はそのまま体育座りで蹲る。
「聞こえなかった・・・」
形はどうあれ、海に入った。
しかし、そこから音は何も聞こえなかった。
上手くいかなくて、悔しくて、涙が出そうになる。
「くしゅん!」
思ったよりも体は冷えていたらしく、くしゃみが出る。
「お待たせ!ちょっと待ってね」
女の子は捨てられたドラム缶に木や紙を入れて、燃やし、焚き火を作り、落ちていた私の制服を拾って渡してくれた。
「ありがとう・・・。くしゅっ」
「大丈夫?沖縄じゃないんだから」
女の子は私にそっ、とバスタオルを肩にかけ、心配そうに言う。
「海に入りたければダイビングショップもあるのに」
女の子が言うことは最もだ。
なんで今までその考えが浮かばなかったんだろう。
「海の音が聞きたいの」
「海の音?」
「うん・・・」
女の子はなんだそれ?と言いたげな声で驚く。
「どうして?」
「・・・・・・・・・・・・」
言いたくない。
言ったら弱い私が出てしまう。
1人で解決すると決めたから。
「分かったもう聞かないー。海中の音ってこと!?」
女の子は聞かないと言った矢先、すぐに聞いてくる。
それが私は面白く、小さく笑う。
「・・・私、ピアノで曲を作ってるの。でも、どうしても海の曲のイメージが浮かばなくて」
なんだか自然と話してしまった。
この子には何か不思議な魅力を感じた。きっと、そのせいなのかもしれない。
「へぇ。曲を!作曲なんてすごいね!ここら辺の高校?」
「・・・東京」
嘘ではない。
けど本当は明日からこの近辺の学校に通うとはなんだか言いにくい。
「東京!?わざわざ?」
「わざわざっていうか・・・」
女の子は私の隣に座る。
そのまま座ったら制服が砂だらけになっちゃうのに。
「じゃあ、誰かスクールアイドル知ってる?」
「スクールアイドル?」
「うん!ほら、東京の方だと有名なグループ沢山あるでしょ!」
「・・・なんの、話?」
スクールアイドル。
知ってる。
彼も好きだし、音ノ木坂にもいる。
だけど、今はどうでもいい。
この子に変に打ち解けて、ボロを出すわけにはいかない。
だから私は嘘をつく。
「え?」
予想通りの反応をする女の子。
これでいいんだ。
「まさか知らないの!?スクールアイドルだよ!学校でアイドル活動して、大会が開かれたりする!」
彼女は余程好きなのだろう。立ち上がり、身振り手振りで話をする。
「有名なの?」
「有名なんてもんじゃないよ。ドーム大会も開かれたことがあるくらい、ちょー!有名なんだよ!・・・って、私も詳しくなったのは最近だけど」
「そうなんだ」
知ってる。
彼女の今言ったことは全部知ってる。
「・・・私、ずっとピアノやってたから。そういうの疎くて」
「じゃあ、見てみる?なんじゃこりゃー!ってなるから」
「なんじゃこりゃ?」
「なんじゃこりゃ」
顔を上げると、女の子は自分のスマホを私の目の前に突き出す。
「これが・・・」
画面に映し出されているのは彼女の好きなスクールアイドル。
そして、彼も好きなスクールアイドル。
『μ's』
「どう?」
初見の振りをしないと。
だったら初めて見た時とは反対の。
「どうって。・・・なんというか、普通?」
女の子は目を瞑り、息を吐く。
どうやら失敗だったようだ。
「ごめんなさい!悪い意味で言ったつもりは・・・。アイドルというくらいだから、もっと芸能人みたいな感じと思ったっていうか・・・」
なんとか謝ろうと言葉を探す。
女の子は私に背を向け、海の向こうにある夕日を見つめる。
「だよね」
「え?」
「だから、衝撃だったんだよ」
予想外の言葉に私は戸惑い、言葉を失くす。
彼女は砂浜をゆっくり歩く。
「あなたみたいにピアノをずっと頑張ってきたとか、大好きなことに夢中でのめり込んできたとか、将来こんなふうになりたいって夢があるとか」
彼女は落ちている石を拾い上げ、握る。
少し微笑むとその石を海に投げつけた。
石は少し海面を跳ね、そのまま沈んでいった。
「そんなの1つもなくて・・・。私ね、普通なの。私は普通星に生まれた普通星人なんだ。どんなに変身しても普通なんだって。そんなふうに思ってて。でも、それでも何かあるんじゃないかって。思ってたんだけど。気がついたら高2になってた」
しみじみと語る彼女。
「まっず!このままだと本当にこのままだぞ!普通星人を通り越して、普通怪獣ちかちーになっちゃうー!って!」
一瞬でシリアスな空気は吹き飛び、彼女の謎の寸劇が始まった。
私はただ黙って聞いているしかない。
というかこの子、同い年だったのね。
「がおー!」
「え!?」
女の子は私に顔を近づける。
いきなりで驚き、間の抜けた顔をしているに違いない。
「ふふっ。ぴー!どかーん!ずどどどどーん!あははっ!」
きっと彼女なりに私を励ましているんだろう。
その姿が微笑ましくて笑えてしまう。
「そんな時、出会ったの。あの人たちに。みんな私と同じような、どこにでもいる普通の高校生なのにキラキラしてた」
私もあの時思った。
高校生は少し大人だけど、ここまでキラキラしているのは見たことは無かった。
だからこの子の気持ちはよく分かる。
「それで思ったの。一生懸命練習してみんなで心を1つにしてステージに立つと、こんなにもカッコよくて、感動できて、素敵になれるんだ、って!スクールアイドルってこんなにも、こんなにも!こんなにもキラキラ輝けるんだ!って!気づいたら全部の曲を聞いてた。毎日動画を見て、歌を覚えて、そして思ったの。私も仲間と一緒に頑張ってみたい。この人たちが目指したところを私も目指したい。私も、輝きたい!って!」
これが彼女がスクールアイドルを好きな理由。
憧れる理由。
本当にキラキラしてて眩しくて。
そして、ほんの少しだけ羨ましい。
「・・・ありがとう。なんか、頑張れって言われた気がする。今の話」
「ホントに?」
「ええ。スクールアイドル、なれるといいわね」
「うん!私、高海千歌。あそこの丘にある、浦の星女学院って高校の2年生」
高海さんが指さした方向には学校がある。
そこは今日私が説明を受けた学校。
同じ学校の同級生だったようだ。
「同い年ね。私は桜内梨子。高校は」
少し彼女を驚かせてやろう、と思った私は前の学校の名前を口にする。
「音ノ木坂学院高校」
「え?えぇーーーーーー!!??」
新しい生活。
新しい私。
ここから始めよう。
私の夢を奏でるために。
今回でプロローグは終了です。
次回からは和哉を中心としたアニメ本編へ進んでいきます。
おかしいわよ!なんで私、スクールアイドル知らないことになってるのよ!
和哉くんと出会わなくても普通に知ってるはずよ!
街中なんてスクールアイドルばかりなのよ!
あんなの世間知らずの無知な女じゃない!
り、梨子さん・・・。
落ち着いて・・・。
と、とにかく次回をお楽しみください!
しろあん01様、☆9評価ありがとうございます!
大体アニメの私のキャラおかs
またお会いしましょー!!