普通怪獣の大咆哮により、3年生たちを部室に呼び出すことに成功した。
後は聞き出すだけだ。
放課後の部室に果南ちゃんたち3年生は言われた通り来てくれた。
果南ちゃんとダイヤちゃんは椅子に座り、鞠莉ちゃんは何故か千歌の後ろに隠れている。
「果南ちゃん、教えて?どうしてスクールアイドル辞めたの?」
「だから!東京のイベントで歌えなくって!」
千歌の質問に果南ちゃんはテンプレとなりつつある言葉を言う。
「その話はダイヤさんから聞いた。けど、それで諦める果南ちゃんじゃないでしょ?」
果南ちゃんはダイヤちゃんを1度睨む。
すると、ダイヤちゃんはふいっ、と目を逸らした。
「そうそう!チカっちの言う通りよ!だから何度も言ってるのに!」
千歌の背中から顔を出し、鞠莉ちゃんも果南ちゃんに理由を問い詰める。
それでも果南ちゃんは話す気がないらしく、腕を組み、黙秘を貫く。
「何か事情があるんだよね!」
千歌は果南ちゃんの目を真っ直ぐ見て訳を聞き出そうとする。
「ね?」
「そんなものないよ。さっき言った通り、私が歌えなかっただけ」
やっぱりそうとしか言わない果南ちゃん。
「うぅ〜!イライラする〜!」
千歌は頭を掻きむしり、イライラを発散させる。
かく言う俺も割とイライラしてきた。
いつまで黙ってるつもりなんだろ・・・。
「その気持ち、よ〜く分かるよ!ホント腹立つよね、コイツ!」
あの自由奔放、周りはガン無視マイペースの鞠莉ちゃんですら素が出てきた。
指をさされた果南ちゃんはむっ、としたように鞠莉ちゃんを見る。
「勝手に鞠莉がイライラしているだけでしょ」
「でも、この間。弁天島で踊っていたような・・・。ピギッ!」
ルビィがそう呟くと果南ちゃんは顔を真っ赤にして、ルビィを見る。
恥ずかしいのと、今言うこと?と言いたげな怒りかけた表情が複雑すぎて面白い。
「おぉ?赤くなってる〜」
鞠莉ちゃんがそれを見逃すわけもなく、すぐに果南ちゃんへ詰め寄る。
「うるさい!」
果南ちゃんは手で両頬を隠し、赤くなった顔を必死に隠そうとする。
「やっぱり、未練あるんでしょ〜?」
そして、果南ちゃんは大きな音を立て、椅子から立ち上がる。
「うるさい。未練なんてない。とにかく私は嫌になったの!スクールアイドルは・・・。絶対にやらない」
部室に居る全員を睨むと果南ちゃんはそのまま部室を後にした。
「結局、何も聞けず仕舞いか・・・」
俺がため息をつくと、梨子が動いた。
「全く・・・。ダイヤさん」
急に名前を呼ばれたダイヤちゃんはビクッ、と跳ねる。
「何か知ってますよね?」
・・・ああ、なるほどね。ダイヤちゃんに聞けばよかったのか・・・。
押されれば弱いダイヤちゃんなら話してくれるだろう。
「いいえ。わたくしは何も・・・」
「いやいや。知ってるでしょ、その反応」
「なんのことだか・・・」
惚けた振りをするダイヤちゃんは外の方を向く。
「じゃあ、なんで果南さんの肩を持ったんですか?」
梨子の追撃。
これによりダイヤちゃんはゆっくり立ち上がる。
「そ、それはー・・・。うぅっ!」
あ、逃げた。
「善子ちゃん!」
「ギラン!」
千歌が善子の名前を呼ぶと、中二ポーズをしていた善子がダイヤちゃんを追いかける。
「ピギャァアアアアアアアアアアアア!!」
「だから、ヨハネだってばー!」
響き渡る悲鳴。
外を覗いてみると善子がルビィにもかけた必殺技、堕天龍鳳凰縛を見事にダイヤちゃんにキメていた。
悲鳴といい、逃げようとする姿といい、完全にルビィと一緒だ。
こういうところで似るんだ・・・。
「お姉ちゃん・・・」
ルビィが可哀想なモノを見る目でダイヤちゃんを見つめていた。
「さて、教えてくれる?あの日、何があったのかを」
俺はダイヤちゃんの前に周り、話しかける。
「分かりました!分かりましたわ!話すから離して下さいまし!」
完璧に決まっているからだろう、学校だというのに素が出ている。
「よーし、善子。やめてあげて」
「ふん!」
善子はダイヤちゃんを解放する。
解放されたダイヤちゃんは肩で息をしながらその場に座り込んだ。
「大丈夫?」
「大丈夫な、ように、見える?」
「全然!」
「その笑顔、後で覚えておきなさいよ・・・。ここで話すのもあれだから、うちに来なさい。そこで全て話すわ」
その言葉を信じ、黒澤家に向かうことになった。
黒澤家の居間に通された俺たちは早速あの日のことを教えてもらうことにした。
「あの日。東京のイベントで歌えなかったのは、わざとよ」
「「わざと!?」」
衝撃の事実に驚かずにはいられなかった。
どうしてそんなことをする必要があったんだ・・・。
あんなにも楽しそうにスクールアイドルをやっていたのに・・・。
「そう。東京のイベントで果南さんは歌えなかったのではなく、歌わなかった。わざと歌わなかったのよ」
「・・・どうして?」
鞠莉ちゃんは雨が降り出した外を見つめながら、吐き出すように訊ねる。
「まさか、闇の魔術がっ!?」
雰囲気を台無しにしてしまう善子のセリフを花丸ちゃんがファインセーブしてくれた。
「貴女のためよ」
「私の?」
鞠莉ちゃんの、ため・・・?
「覚えてないの?あの日、鞠莉さんは怪我をしていたでしょう。足首を痛めていた」
「そうね・・・」
「俺は聞いてない・・・。なんで黙ってたの!?」
「鞠莉さんの性格を考えなさい。言うわけないじゃない」
ダイヤちゃんの言う通りだ。
鞠莉ちゃんは自分の問題を誰かに言うようなタイプじゃない。
あの日沼津に残った俺を気遣っての事だったのか?
「そして果南さんは鞠莉さんを踊らせないために歌わなかった。全ては鞠莉さん、貴女のためよ」
「そんな・・・。私はそんなことして欲しいだなんて、一言も・・・」
「あのまま進めていたらどうなっていたと思うの?ケガだけでなく、事故になっていてもおかしくなかった」
「でも・・・」
やっと分かった事実に俺は何も言えなかった。
果南ちゃんの行動は全部鞠莉ちゃんのため、友達のための行動だった。
「だから逃げた訳じゃないって・・・」
「でも、その後は?」
ルビィと曜も驚きを隠せていなかった。
「そうだよ。ケガが治ったら続けても良かったのに」
「そうよ。花火大会に向けて新しい衣装を作って。歌もダンスも完璧にして。なのに・・・」
千歌と鞠莉ちゃんの言葉を否定する材料はある。
それは。
「ずっと心配していたのよ。貴女、留学や転校の話があるたびに全部断っていたでしょう」
留学や転校。
小原グループの娘である鞠莉ちゃんには自然と次のステップに向かうための、世界に向かうためのレールが用意されていたからだ。
きっと、果南ちゃんたちは・・・。
「そんなの当たり前でしょ!」
声を荒らげる鞠莉ちゃんに驚く俺たち。
「果南さんは思っていたの。このままでは自分たちのせいで。鞠莉さんのいろんな可能性や未来を奪われてしまうのではないか、と。そう思っていた時に果南さんは貴女がその話を断るところを見た」
「まさか・・・。それで・・・?くっ・・・!」
「どこへ行くつもり?」
鞠莉ちゃんはどこかへ向かおうとしたが、ダイヤちゃんが呼び止める。
「ぶん殴る。そんなこと、一言も相談せずに!」
「やめなさい。果南さんはずっと貴女のことを見てきたのよ。貴女の立場も。貴女の気持ちも。そして、貴女の将来も。誰よりも考えている」
鞠莉ちゃんはその言葉で肩を落とし、歯を食いしばる。
自分のやりたいことを辞めた果南ちゃんの思いを身勝手な行動で無駄にしてしまうと鞠莉ちゃんは思ったのだろう。
「その通りかもしれない・・・。果南の言う通り、私は帰ってくるべきじゃなかったのよ・・・」
確かにそれが正解だったのかもしれない。
でもそんな正解なんて俺は嫌だ。
「俺は嫌だ」
「・・・和哉?」
「鞠莉ちゃんは果南ちゃんに怒ったんだよね?頼んでもないことを勝手にやって、1人で決めた果南ちゃんに」
「・・・うん」
小さな声で頷く鞠莉ちゃん。
「だったら・・・。だったら余計ぶん殴らないと。勝手に決めんな、って。これは自分の道だ、って。自分の決めた道に文句をつけるな、って」
「和哉さん!?貴方ね!」
叫ぶダイヤちゃんに手を突き出し、留める。
「俺も納得言ってないんだ。勝手に決めて、勝手に辞めて、勝手に自己完結して。俺だって果南ちゃんがスクールアイドルをやる姿を応援していたかった。見ていたかった。いきなり辞めて、暗い顔ばっかして。いい加減にしろ、ってずっと思ってた。だから俺の分も合わせて鞠莉ちゃんには果南ちゃんをぶん殴って来てもらいたい。お願いしていい?」
俺は拳を握り、笑顔で鞠莉ちゃんに突き出す。
鞠莉ちゃんは瞳に涙を貯めたまま、俺を見る。
「まだ泣くのは早いって。ちゃんと果南ちゃんとケリつけてから」
鞠莉ちゃんは涙を拭い、いつものような元気で、自信に満ちた表情になる。
「このマリーに任せなさい!今までのツケ、払わせてくるんだから!」
「鞠莉さん!?」
そう言うと鞠莉ちゃんは勢いよく走り出した。
「ふぅ。文句ある?」
俺はイタズラな笑みを浮かべ、ダイヤちゃんを見る。
「はぁ・・・。貴方がいる時点でこうなる気はしてたわ」
「そりゃどうも」
「・・・わたくしは少し席を外すわ。雨だからみなさんも早く帰るように」
そう言うとダイヤちゃんも外へ言ってしまった。
残されたのは俺たちだけ。
すると、梨子と千歌が俺に話しかけてきた。
「私たちはどうすればいいの?」
「それにダイヤさんはどこに・・・」
「決まってるさ」
「「え?」」
みんなが声を揃える。
「不器用な頑固者2人は大丈夫だから、後は不器用なお節介さんを誘うだけさ。・・・ま、雨が止むまでのんびりしようよ。ルビィ、お茶ちょうだい」
「う、うん!」
「マルも手伝うよ!」
台所にパタパタと走っていく2人。
俺は暗い空を見つめ、1人呟く。
「・・・頑張れ、『Aqours』・・・。今は旧『Aqours』、か・・・」
空を見つめ、和哉は3人の行く末を、明るい未来を待つのだった。