2人の夢の軌道   作:梨善

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〜前回のあらすじ〜
鞠莉は走る。
あの日のことに決着をつけるために。


#46 前へ

side 鞠莉

 

バカ・・・。バカ果南・・・。

 

大雨の中、私はひたすら走った。

果南と話をつけるため。

果南の本当の気持ちを知るため。

そして、私自身の本音をぶつけるため。

 

息が苦しい。

雨で体が冷えて寒い。

でも、そんなこと気にしてる場合じゃない!

 

「あっ!?」

 

無我夢中で走っているうち、私は何かに躓き、バランスを大きく崩す。

バランスを保てなくなった私は濡れたアスファルトの上に盛大に倒れる。

 

「・・・うっ・・・、うぅっ・・・」

 

体中のあちこちを擦り、少し血も出ていた。

 

痛い・・・。

もう走れない・・・。

 

 

挫けそうになる私の心。

また涙が流れそうになる。

 

その時、私はあの日のことを思い出した。

あれはまだスクールアイドルをしていた時、果南とダイヤの3人で毎日頑張ってた時の記憶。

それは淡島に帰る定期船で果南と話した時のこと。

 

『離れ離れになっても私は鞠莉のこと、忘れないから』

 

あの時は急に何を言い出すのかと思った。

 

そんなの当たり前だ。私も果南を忘れない、って返したっけ・・・。

 

その言葉の通り、果南は私を忘れていなかった。

私のために何かをしようとしてくれていた。

 

「・・・か、なん・・・」

 

私はゆっくり立ち上がり、また走り出す。

いろんな所が痛くても立ち止まれない。立ち止まるわけにはいかない。

 

果南とちゃんと話すまで。

和哉との約束を守るため。

 

私を動かしたのはたったそれだけ。

親友と話すために私は走った。

 

side out...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 果南

 

こんな酷い雨の中、私は鞠莉にスクールアイドル部の部室へ来るように言われた。

帰宅して今は家だりこんな雨じゃ淡島から船を出すことはできない。

 

1度断りもしたが、いつまでも待つと言われたからには行くしかない。

 

雨が弱まり、淡島を出て学校へ。

学校につく頃には日はすっかり落ち、雨もあがっていた。

 

あんなに言ったのに今更何をいう気なのだろう。

それを確かめるためにも私は部室へ向かった。

 

部室に着き、部屋を見るとびしょびしょに濡れ、泥だらけの鞠莉がこちらに背を向け、立って俯いていた。

 

「・・・何?」

「いい加減、話をつけようと思って」

 

話?

今更話すことなんて何もない。

 

そう言おうと思って部室に入ろうとすると、入口に小さな水溜りができていた。

 

どうやら鞠莉はあの雨の中、傘もささずにここまで来ていたようだ。

 

「どうして言ってくれなかったの?思ってること、ちゃんと話して。果南が私のことを思うように、私も果南のこと考えているんだから」

 

鞠莉の声は震えていた。

今にも消えてしまいそうな鞠莉の背中。

今の私にはどうしてやることもできない。

 

「将来のことなんかどうでもいい!留学?全く興味なかった。当たり前じゃない。だって果南が歌えなかったんだよ。放っておけるはずない!」

 

振り向いた鞠莉は泣いていた。

 

あの日、良かれと思ってやった行動は鞠莉を縛り付けていただけだったと今気がついた。

 

そして、私の頬に鋭い痛みが走った。

 

鞠莉が私の頬を叩いていた。

あまりのことに頭が追いつかず、後になって肌を叩いた乾いた音が聞こえてくる。

 

「私が・・・。私が果南を思う気持ちを甘く見ないで!」

 

この・・・。言わせておけば・・・。

私だって言いたいことが山ほどあるのに。

 

「だったら・・・。だったら素直にそう言ってよ!リベンジだとか、負けられないとかじゃなく、ちゃんと行ってよ!」

 

なんで私まで泣いてるの?

あの日、全部終わりにしたのになんで私は泣いてるの?

 

鞠莉が私のことを考えていてくれたから?

鞠莉の気持ちが聞けたから?

私にまだ未練が残っていたから?

・・・分からない。

でも、もしかしたら全部そうなのかもしれない。

 

「だよね・・・」

「え?」

「だから・・・」

 

鞠莉は自分の頬をさしだす。

1発殴ったからお前も1発だ、と言いたげに、笑いながら。

 

私はゆっくり手を上げる。

鞠莉はいつ叩かれてもいいように、ぐっ、とこらえている。

 

・・・違う。そうじゃない。

私のやり方はそんなんじゃない。

1発には1発なんてそんなことやらなくてもいい。

初めて鞠莉と話した時だってそうだった。

難しいことなんて考えても意味無い。

だから、私のやり方でやる。

それは。

 

「・・・ハグ、しよ・・・?」

 

両手を広げ、鞠莉を呼ぶ。

鞠莉は目を見開き、信じられないといった表情をする。

戸惑いながらも鞠莉は泣きながら私に飛びつき、強くハグをする。

そんな鞠莉を私は受け止め、抱きしめ返す。

 

それでいい。私たちはそれでいい、そう思った。

 

お互い気が済むまで泣いて、ハグをして。

それで仲直りすればいいんだ。

そして、やり直そう。

残された時間は少ないけど。みんなが受け入れてくれるかも分からないけど、私はまた鞠莉とダイヤと。そして千歌たちと輝きたい!

 

side out...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は校門の塀に持たれかかれ、ある人がここを出てくるのを千歌と待っていた。

 

「来たみたいだよ」

 

校門の柵を閉める音がすると、千歌は1歩前に出た。

 

「うふふっ!ダイヤさんって、本当に2人のことが好きなんですね!」

 

待っていたのは不器用なお節介さん、ダイヤちゃん。

ダイヤちゃんはこそこそ隠れ、鞠莉ちゃんも果南ちゃんの行く末を見ていた。

 

俺たちは2人がどうなったのか知らないが、ダイヤちゃんの表情を見るにちゃんと仲直りできたようだ。

2人はきっとAqoursにやってくる。

 

「それより、これから2人を頼むわ。ああ見えて2人とも繊細だから」

 

でも、ダイヤちゃんはその気は今のところないようだ。

だが、ここで引き下がるような千歌じゃない。

 

「じゃあ、ダイヤさんもいてくれないと!」

 

千歌の言葉に驚いたダイヤちゃん。

自分まで誘われるなんて思ってなかったようだ。

 

「わたくしは生徒会長よ?とてもそんな時間は・・・」

「それなら大丈夫です。鞠莉さんと果南ちゃんと、あと7人もいるので!」

 

反対側の塀に隠れていた梨子たちが顔を出す。

その先頭にはルビィがいて、新しい衣装を抱きしめていた。

 

「ルビィ?」

「親愛なるお姉ちゃん。ようこそ!『Aqours』へ!」

 

飛びっきりの笑顔で衣装を差し出したルビィ。

その衣装を見つめ、ダイヤちゃんは優しく微笑む。

 

「ダイヤちゃん」

「和哉さん・・・」

「やっぱりさ、鞠莉ちゃんがいて、果南ちゃんがいて。その中にダイヤちゃんがいないのは嫌なんだ。この、衣装受け取ってくれる?」

「・・・勿論ですわ!」

 

ダイヤちゃんはルビィから衣装を受け取ると大事そうに抱きしめる。

 

「うん・・・!おかえり、ダイヤちゃん!」

「えっ!?」

「ちょっ!?」

「ピキャッ!?」

 

俺はダイヤちゃんを思いっきり抱きしめた。

 

「良かった・・・。本当に良かった・・・」

「・・・全く、なんで貴方が泣いていますの」

「だって・・・。だってさ・・・。ずっとダイヤちゃん、我慢してたでしょ・・・。やっとダイヤちゃんが好きなことができるって思ったら」

「全く・・・。貴方がそんなことでどうするのですか?」

「ごめん・・・」

 

俺は涙を拭い、ダイヤちゃんから離れる。

 

「ほら、千歌さんと梨子さんは怖い顔しませんの」

「「し、してません!」」

 

全く同じ反応をした梨子と千歌に笑うダイヤちゃん。

 

「さ、わたくしたちも帰りましょうか。今は2人きりにしてさしあげましょう」

 

衣装を抱きしめたまま笑顔で歩いていくダイヤちゃんの後ろを全員でついて行く。

 

「和哉くん」

 

後ろにいた梨子が俺の襟を掴み、俺を引き止める。

 

「ぐえっ。何すんのさ!」

「ふん・・・」

 

振り返ると梨子は不機嫌だ。

もしかすると、いや、絶対さっきダイヤちゃんをハグしたせいだ。

 

「あー・・・、その、ごめん。つい・・・」

 

すると、梨子はため息をつく。

 

「はぁ。気持ちはわからなく無いからしつこくは言わないわ。・・・でも」

 

梨子は少しおどおどしながら俺に近づくと控えめに抱きついてきた。

 

「わ、私だってこういうこと、したいんだから・・・」

「梨子・・・」

 

そう言えば付き合い始めてからこういうことは全然してこなかった。

 

「梨子、こっち」

 

抱きしめられた梨子の手を1度解き、手を引いてみんなとは逆の方向に走る。

 

「わっ!ど、どこに行くの・・・?」

「・・・人がいなさそうなところ」

 

梨子の手を引いてやってきたのは校舎裏。

ここなら人も来ないだろう。

 

梨子もここに連れてこられて戸惑っているようだ。

その証拠に顔を赤らめてキョロキョロしている。

俺はそんな彼女をそっ、と抱きしめた。

 

「はわっ!?」

「・・・ごめん、気づけなくて」

「い、いいの・・・。私もあまり自分から言わなかったし・・・」

 

最初はオドオドしていた梨子だが、状況を受け入れ、抱きしめ返してくれた。

 

「・・・梨子は温かいね」

「和哉くんも温かいよ」

「そういうの、やめて・・・。恥ずかしい・・・」

「わ、私も恥ずかしいのよ!」

 

1度離れ、お互いの顔を見つめる。

 

次第に暗くなってきた空。

梨子の顔も暗さで不鮮明に見えてきた。

 

彼女の顔をもっと見たい。もっと触れたい。もっと感じたい。

そんな思いばかりこみ上げてくる。

なんでそんな気持ちがこみ上げてきたのか分からない

 

じっ、と見つめすぎたのかもしれない。

恥ずかしがり屋の梨子は顔を真っ赤にして俺から目を逸らしてしまう。

 

「見すぎ・・・」

「ごめん。でもさ、梨子をずっと見ていたい。俺は梨子のこと、好きなんだ」

「・・・ば、バカ・・・」

 

梨子は背中を向けてしまった。

 

「こっち、見てよ」

 

梨子を俺の方へ向き直らせ、肩に手を乗せる。

瞳は潤み、どこか呼吸も荒い。

・・・これはそういうこと、なのだろうか。

 

「梨子、いい?」

 

少し顔を近づけ、梨子に訊ねる。

 

「な、何が・・・?」

「分かってるでしょ」

「う、うぅ・・・」

 

梨子は唸りながらもじもじした後に、覚悟をしたように目を瞑る。

 

「・・・行くよ」

 

俺は少しだけ屈み、梨子と目線を合わせる。

少しずつ顔を近づけていく。

 

梨子の匂いが鼻をくすぐる。

梨子の吐息が肌をくすぐる。

 

もう少し。

もう少しで触れ合う。

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の唇と梨子の唇が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は僅か1秒ほどで離れてしまったが、その短い時間でもこれ以上にない幸福感を感じた。

 

「し、しちゃったね・・・」

 

梨子は口を両手で隠しながら呟いた。

 

「うん・・・。その、めっちゃ良かった・・・」

 

俺も梨子の顔を見ることができず、顔を背けながら頭を搔く。

 

「私も、良かった・・・。うぅ・・・」

 

梨子はその場にしゃがみ、膝で顔を隠す。

 

「り、梨子?」

「やっぱり恥ずかしいぃ!」

 

少し顔を上げ、俺を見るとまたすぐに顔を隠した。

俺はそんな梨子を笑い、頭を撫でる。

 

「少しずつ、慣れていこうよ」

「・・・うん」

 

梨子は顔を上げ、恥ずかしがりながら優しく微笑み返してくれた。

 

「・・・あら?」

 

ふと梨子が建物の角を見つめ、首を傾げる。

 

「どうかした?」

「いや、誰かいたような気がして・・・。気のせいかな・・・」

 

俺は全く人の気配を感じなかった。

多分梨子の気のせいだと思う。

 

「そうだも思うよ。ほら、帰ろっか」

 

梨子の手を取り、立ち上がらせる。

 

「うん!」

 

俺たちも少しは前に進めたかもしれない。




それぞれが前へ進み始めた。
和哉と梨子も少し前に進めたのかもしれない。

「人影があったような気がしたのだけど、気のせいかしら」

そういうのは気にしない方がいいですよ。

「うーん、そうね。蒸し返して恥ずかしい思いもしたくないし」

次回をお楽しみに!
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