本音をぶつけ合い、和解した果南と鞠莉。
そこにダイヤも加わり、Aqoursは9人になった。
「さて、今日の朝練を始める前に言わないといけないことがあります」
朝練の開始直前。
弁天島の麓で1年生と2年生のみんなを並ばせ、俺と3年生はその前に立っている。
「まあ、見れば分かる通り3年生の小原鞠莉ちゃん、黒澤ダイヤちゃん、松浦果南ちゃんが今日からAqoursに加わり、9人になりました」
俺の言葉が終わると1、2年生は拍手をする。
隣に立っている鞠莉ちゃんに目線を動かし、挨拶を促すと、鞠莉ちゃんはウィンクをして応える。
「えー、コホン!今言われた通り、今日からこのschool idol部に入部する。小原鞠莉よ。みんなで歌って、踊って。学校を守ってラブライブに出るわよ!」
「「はいっ!」」
鞠莉ちゃんらしい挨拶。
その挨拶に対してみんなも更にやる気が上がっている気がする。
「3年生の黒澤ダイヤですわ。この度、皆様には多くの迷惑をかけ、申し訳ありませんでした」
ダイヤちゃんは頭を下げる。
その行動に俺たちは戸惑ってしまう。
「ですが」
すぐに顔を上げ、ダイヤちゃんは微笑む。
「わたくしもスクールアイドルとして。皆さんの仲間として共に励みます。どうかよろしくお願い致しますわ」
「「よろしくお願いします!」」
ダイヤちゃんの口調は以前のように戻り、ダイヤちゃんなりに過去との踏ん切りを付けたようだ。
そして、残るは果南ちゃんのみだ。
その果南ちゃんは1歩前に踏み出す。
「松浦果南。私たちの勘違いと意地の張り合いでみんなに迷惑をかけてごめん。これからは残された時間で後悔しないように全力で頑張るから」
そう言って果南ちゃんは頭を下げる。
「果南ちゃん」
千歌が頭を下げたままの果南ちゃんに声かける。
「それに鞠莉さん、ダイヤさん。ようこそ!Aqoursへ!」
笑顔で千歌は3人に告げる。
「って、元々ここの部室使ってたのも3年生だし、ようこそって言うのはおかしかったかも・・・」
千歌はえへへ、と笑う。
「ふふっ。いいんだよ。今のこのグループは千歌が作ったんだから」
「そうよ。変に畏まる必要なんてないんだから!」
「そうですわ」
話もまとまったようだ。
そこで俺は切り出す。
「いい感じのところ悪いけど、とりあえず目先の花火大会に向けてフォーメーションとかの確認もしないと。人数増えたから揃えるの大変だよ」
「大丈夫!私たちならできるよ!」
自信満々に言い放つ千歌。
他のメンバーもやる気に満ちた表情をしていた。
「そうだね。その通りさ」
「それで、曲は何をするの?」
鞠莉ちゃんが首をかしげながら呟く。
「それは決めてる。でも、この曲は3人の力がないと絶対に完成しない曲なんだ」
俺がそう言うと3人は顔を見合わせたあとに頭を捻る。
「ま、よろしく頼むよ」
沼津の狩野川で開かれる花火大会は毎年多くの観光客で賑わう。
祭り自体も2日間行われ、Aqoursのステージは明日の2日目の最後。打ち上げ花火をバックに披露することになった。
今日はその1日目。
Aqoursのみんなはそれぞれ友達や家族と祭りを楽しんでいた。
「日が暮れてきたとはいえ、まだ暑いな・・・」
セミの鳴き声をバックに俺は待ち人が来るのを沼津駅で立って待っていた。
祭りは2日間と言ったが、花火も両日行われる。俺はその花火をある人と見る約束をしていた。
「・・・あれかな」
内浦方面から1台バスがやって来て、バス停に止まる。
浴衣に着替えた女の人。それに付き添うように並ぶ男の人。御年寄の夫婦など。普段見ないような人たちがバスから次々に降りてくる。
そして最後に降りてきたのは。
「あ、え、お、はよ・・・」
待ち人の浴衣姿の梨子だ。
白を基調に、あちこちに花の模様がある。
髪型もいつもと違って頭の後ろでお団子を作り簪でまとめ、前髪には薔薇のような髪飾りを付けていた。
とにかく挨拶が分からなくなるくらい似合っていて、綺麗だ。
「もうこんばんはだと思うけど?」
梨子は笑いながら指摘をする。
自分でも何言っているのか正直分からなかったため、突っ込まれると羞恥で顔が熱くなる。
「あ、ああ。うん。こんばんは」
「こんばんは」
挨拶をしたのはいいが、何を言えばいいか全く分からない。
先に言うべきなのは浴衣姿を褒めること?
それとも花火までの時間をどう潰すか聞く?
分かんねぇ・・・。
「え、えっとね!」
梨子が顔を赤くし、恥ずかしそうに俺に話しかける。
「う、うん」
「は、初めて浴衣を着たんだけど、変じゃない?」
梨子は袖をつまんで腕を広げたり、後ろを見せたり、と初めての浴衣に格好を気にしていたようだ。
「すっげぇ綺麗で可愛い。最高に似合ってる」
「あ、あぅ・・・」
俺の言葉にまた恥ずかしがってしまう梨子。
俺の彼女、可愛すぎか?
実と言うと、吹っ切れ始めたように見える俺だが、テンパリ過ぎてヤケクソになっているだけだ。
とにかく、こんな駅の近くでお互いに恥ずかしがっている場合じゃない。
「えっと・・・。花火までまだ時間あるし、屋台を見て回ろうよ。多分、こういう祭りは初めてでしょ?」
「ええ。あまりそういうのに興味なかったから」
そっか、と相槌をうつと、俺は右手を差しだす。
「行こっか」
「・・・!うん!」
梨子は俺の手を笑顔で取ってくれた。
俺たちの初デートの始まりだ。
この狩野川の花火大会は屋台も多く出ており、沼津駅南口からの大通りを封鎖し、それに沿うように屋台が並んでいる。
普段の沼津からは考えられないほどの人の波に揉まれながらなんとか屋台に辿り着く。
「すっげぇ人の量・・・。梨子、大丈夫?」
「え、ええ・・・。なんとか・・・」
目の前の屋台はたこ焼きを売っており、その隣にフライドポテトや唐揚げ、わたあめなんかの屋台がずらずらと並んでいる。
「へー。沢山あるのね」
屋台を見ながら梨子は感心したように呟く。
「でしょ。片っ端から買って、食べていく?」
「そんなに食べれないわ!」
俺はケタケタと笑う。
「冗談だよ。今すぐ買わなくてもいいし、色々見ながら決めよう」
「そうしましょう」
屋台の目の前を横切りながら何がいいか品定めをしていく。
「焼きそば、たこ焼き、たい焼き、フランクフルト。りんご飴とかもいいな」
「あ。私、これ食べたことないかも。なんて言うんだろう」
梨子が指さしたのはさくら棒。
1mくらいある大きなふ菓子で、桜色をした砂糖でコーティングしてある。
なんでも静岡県くらいにしかないらしい。
かくいう俺もこっちに引越してから知ったことを千歌たちに言うと驚かれたこともある。
「さくら棒だね。食べる?」
「うん。それにしても大きい・・・」
「インパクトは凄いよね。おじさん、1つください」
屋台を開いているおじさんに声をかけ、さくら棒を受け取り、金を払う。
「あ、払うよ!私が食べるんだから」
「いいって。こういう時くらいカッコつけさせてよ」
それ以上は喋らせないように梨子の口にさくら棒を突っ込む。
「もがっ・・・!」
「美味い?」
「うん・・・」
さくら棒を梨子に渡すと両手で持ち、黙々と食べ始める。
気に入ってくれたようだ。
すると、俺たちのやり取りを見ていたおじさんは豪快な笑い声をあげる。
「若いね、若いねー!おい、兄ちゃん手ぇ出しな」
「は、はぁ・・・?」
よく分からないが、とりあえず手を出してみる。
「ほらよ!」
荒く手に置かれたのは今払った代金だった。
「え?・・・え?」
「最近の若いのはそういったことをしねぇからな。今の兄ちゃん見てるとわけぇ頃の俺を思い出したのさ!あれは初めて嫁と・・・」
いきなり語り出したおじさんの話を長々と聞かされる羽目になった。
だが、隣の梨子はさくら棒に夢中だ。
「ってなわけだ!その金で他のもん買ってやんな!他の店はうちみてぇじゃねぇからよ!」
「はい・・・。ありがとうございます」
少しげんなりしながら頭を下げ、屋台から離れると、梨子もお辞儀をして俺の後ろをついてくる。
「面白い人だったね」
さくら棒をかじりながら梨子は呟く。
「よく分かんない話聞かされて俺は疲れた・・・」
「そっか。それにしても大きい・・・。食べきれないかも」
「ん?じゃあ少し食べるよ」
梨子が持ったままのさくら棒を顔だけ動かしかじる。
「わっ!ちょっと!?」
「何?」
程よい甘みが美味い。
だが、梨子は顔を真っ赤にしていた。
「だって、今・・・。食べかけの・・・」
「そうだけど?」
何をそんなに慌ててるんだろう。
「私が口つけたところ・・・」
「!?」
そこまで言ってようやく分かった。
俺は梨子が口つけていた所を思いっきりかじっていたのだ。
「関節、キス・・・」
「いちいち言わなくていいよ!・・・てか、この前普通にしたでしょ・・・」
くぅっ・・・。自分で言ってて恥ずかしくなった・・・。
「そ、そうだけど・・・」
とりあえず今気にしないようにしてこの祭りを楽しまないと。
「今は祭りを楽しもう。さ、次に行こうか」
「・・・うん!」
いろいろ買い、手には屋台の食べ物を下げている。
今は狩野川にかかる橋の上。
特にこれからどこに行くと決めておらず、とりあえず河川敷に降りていく。
「あ・・・」
梨子は河川敷に出ていたある屋台を見つけ、立ち止まる。
「金魚すくい?」
「うん。昔、和哉くんとやってたなって」
「あー」
小学生の頃、神田明神の祭りで一緒に何度もやっていた。
「懐かしいね。やってみようか」
2人で順番が来るまで何気ない雑談。
5分くらいで番が回ってくる。
それにしても金魚すくいなんて何年ぶりだろう。こっちに来てからは1度もやったことなかった。
「2人分で」
俺は屋台のおばさんにぽいとお椀を2つ貰い、1セットを梨子に渡し、すぐに水槽に向かいしゃがむ。
「じゃあ、多くすくった方が勝ちね。負けたら罰ゲーム!スタート!」
「えっ!?待って!」
フライング気味に俺から一番近くでゆっくり泳いでいる金魚に狙いを定め、一気にすくう。
「とった!!」
金魚を正確に捉え、ぽいの上に乗せる。
だが、無情にも濡れた和紙の中心は破け、金魚を逃がしてしまう。
「あっ」
「・・・ぷっ」
梨子は口を押さえて小さく吹き出した。
「ぷっ・・・、くくっ・・・。うん、惜しかっ、ぷくっ・・・。惜しかったよ・・・」
「う、うるさいな!これで梨子も1匹もすくえなかったらイーブンだから!」
「はいはい。ぷふっ・・・」
ノリノリでやって0匹という結果。
ぶっちゃけ悔しいが、どんな形であれ梨子が笑ってくれたんならそれはそれでOKだ。
「少し緊張しちゃうな・・・」
梨子は俺の隣にしゃがみ、袖を少しまくる。
「結構速いね・・・。どの子にしようかな」
金魚を見下ろしながら梨子は髪を耳にかける。
・・・いちいち仕草がずるい。
「和哉くん、どの子がいいと思う?」
「んー。この辺りの小さいやつは?」
水槽の角で壁を見つめている1匹の金魚を指さす。
「その子にしようかな。い、行きます!」
梨子は俺が指さした金魚の後ろにぽいを忍ばせ、少しずつ近づけていく。
「・・・えいっ!」
ぽいを先端だけが濡れ、乾いている和紙の部分に金魚が綺麗乗り、そのままお椀に入れる。
「おおっ。上手いね」
「ふふっ。次、行くわよ!」
意気込みは良かったが結局すくえたのは2匹だけ。
その結果に梨子は少し不満そうだ。
金魚たちを袋に移してもらい、梨子はその袋の金魚をのぞき込む。
「ふふっ。可愛いなー」
「良かったじゃん。2匹だと金魚も寂しくないんじゃない?」
「そうだね。後、私の勝ちね」
「・・・覚えてたか」
忘れていてくれることを期待していたが、そうはいかないようだ。
「今は何も浮かばないから後にとっておくわ」
「お手柔らかに・・・」
何をやられるのか、と少し怯えながら河川敷を2人で歩いていくのだった。
夏の思い出はまだまだ続く。